冰龍を取り逃がした! その事実はセイハクを苛み、修練場へと誘う! そこで待ち受けていたのは、からくり蛙ではなく、最強のゆうただった! この強敵を前に、セイハクよ、己を見詰め直すのだ!
《英雄王セイハク》
「晴レルヤ!」
FINAL STAGE 承認!
『「ユウタ」:これが勝利の鍵だ!』
『キチキチキチッ!』『ピキャァアアッ!』『キュキュキュ!』
寒冷群島にて舞い踊る、赤い蝶。
否、蝶ではない。フルフルベビーの身体に金魚の尾鰭を翅のよう生やした、奇怪な生物だ。イッタンモンシロやホムラチョウと見比べてみれば、両者が似ても似つかない事が分かるだろう。
彼らは溶岩洞の奥深くに存在する“大穴”よりやって来た。地界に潜む、深淵の悪魔に遣わされて。
そんな地界より現れし化け物たちが、別の怪物に群がっている。
寒海より浮上した、山のような巨大生物……河童と蛙を組み合わせた、両生種――――――つまり、河童蛙「ヨツミワドウ」である。
彼女は最初に寒冷群島へ足を踏み入れた個体であり、過去に熔山龍とハンターたちの戦いを目撃し、
その彼女が、奇怪な生物に群がられ、食い付かれている。チュウチュウと精気を吸い取られているのだ。己が宿主の供物として、都合の良い
吸い取られる勢いと手数の多さから鑑みるに、彼女が精魂尽き果てるのも時間の問題だろう。
『――――――ゲコァアアアアアッ!』
だが、ここで思いも寄らない出来事が起きた。何とヨツミワドウが傀異と化す事無く、それ処か克服し、逆に取り込んでしまったのである。
『キキャキャキャ!』『ピキィーッ!』
奇怪な生物たちの幾らかは逃れられたが、大半は克服されるなどとは思いも寄らなかった為、抵抗する間も無く食われてしまった。
「………………!」
そんなこの世の終わりのような光景を、物陰から見ている少年が1人。
彼はハンター見習い。ドンドン先を行く友達に追い付き、肩を並べ、何なら見返す為に、こっそりと寒冷群島に来ていた。憧れのリーダーと違い、彼はウツシ教官から単独狩猟を認められていないからだ。
しかし、今日程こっそり出掛けた事を後悔した事は無いだろう。本当の意味で見習いハンターである彼には刺激が強過ぎる。放尿しなかっただけ褒めてあげたい。
「何なんだ……これ……わぁあああっ!?」
ただ、恐れ戦き足元がお留守のまま後退ったせいか、小さな穴に落ちてしまった。蜘蛛の糸で出口が塞がれていた上に雪が覆い隠していたので、注意していても踏み抜いたであろうが。
「いててて……えっ!?」
転がった先は、広大な空間だった。
「何あれ? 何だ、この卵みたいな物……?」
さらに、甲虫種を思わせる巨大な何かが封印された氷塊が天井から下がり、地面には無数の卵らしき物が犇めいている。これは一体、何だ!?
『キキキキ……!』
「………………!」
と、卵の1つが孵り、螳螂のようなモンスターが現れ、ギロリと少年を睨み付ける。完全に獲物を狙う目だ。まだ幼体とは言え、見習いハンターが勝てるような相手ではない。少年はまだ子供なのだから。
「た、助て……リーダーぁ……っ!」
すっかり腰が抜けてしまった少年は、今ここに居ないリーダーに泣いて縋るしかなかった。
『オギャヴヴヴゥッ!』
「うぁあああっ! ……あ、ぐぅ……いだい、いだいぃっ! や、やめ……ぐぎぃゃああああああああっ!」
むろん、その願いが聞き届けられる筈もなく、モンスターは少年を生殺しにした。皮を剥がれ、内臓を食われた末に死んだ少年の叫びは、まさに断末魔と呼ぶに相応しい物であった……。
◆◆◆◆◆◆
「あらまびっくりー」
先日の1件を報告したら、物凄い勢いで棒読みされた。おい、舐めてんのか、ミノトさん。
「……冰龍:イヴェルカーナ、ですか。クスネさんも一緒だったというのに、仕留め損なったばかりか見失うとは。実に情けない男ですね」
「ヒノエさんのブロマイド写真」
「まぁ、場所が場所ですし、雌伏せられると、どうしても分かりませんよねぇ」
「アンタ、マジで自分本位だな」
「褒めても何も出ませんよ?」
「せめて謝罪しろよ」
「それは嫌です」
「それは嫌なんだ……」
何なんだ、この
しかし、彼女の言葉は事実でもある。あの後、現地のオトモン(はぐれバギィ3姉弟)の協力も得て探し回ったのだが、何故か影も形も見当たらなかった。弱っていたせいで冷気も沈静化し、背景と同化してしまったのだろう。雪と氷が支配する寒冷群島で雌伏せられると、マジでどうしようもない。砂原の沙中金を探すような物だ。
まぁ、クスネさん曰く、“活性化すれば周囲が不自然に凍り付く”らしいから、見付けるのは簡単だろう。決着はその時に付ければいい。
「それで、今日は如何なされますか?」
「そうですねぇ……いや、訓練所を使わせて貰えますか? もちろん、皆には内緒で」
「分かりました。手配しておきます」
今日は狩りに行くような気分でもないし、久々に訓練所で己を見詰め直そう。結果次第では武器だけでも更新しないと、次は真面目に死ぬかもしれない。それ程までに、あの冰龍はやり手だったし、クスネさんも強かった。
「それじゃあ、行ってきます」
「はい、行ってらっしゃいませ」
さーて、一汗搔きに行きますか!
◆◆◆◆◆◆
――――――で、久方振りにからくり蛙くんの世話になろうかと思ったのだが、
『うぃー』
「何でやねーん」
まさかの相手が居て、それもユウタだった。俺と同じ軽装で、武器だけがやたらと強い、似た者同士。
だが、背負っているのは、「アイシクルファング」と「ゴシャズバァ」。つまり、大剣を双剣スタイルとして扱う剣士なのである。相手を斬ってしまわないよう鞘を付けたままだが、そういう問題じゃない。当たったら骨が砕けるって。
えっ、ちょっと待って、これミノトさんが手配した訓練なんだよね?
俺としてはからくり蛙くんの胸を借りるつもりだったのに、何でこんな出る作品を間違えたような奴を相手にせにゃならんの?
「ハッハッハッハッハッ! 私が来た!」
おい、ウゼェぞウツシ教官。
そして、アンタがここに居るという事は、そういう事なんだな、ウツシ教官?
「いやぁ、今もリハビリ中のアヤメじゃあ、彼の訓練相手は流石に荷が重いと思ってね」
「じゃあアンタがやれよ!」
「怪我したくないから嫌だ」
「俺はしても良いってか!?」
「まぁまぁまぁ、良いじゃないか。実を言うとからくり蛙は今メンテナンス中だし、君も彼も暇を持て余しているから、丁度良いだろう?」
「くそっ、他人事だと思いやがって……!」
雄豚の分際で上手く丸め込みおってからにぃ~!
『あぃあぃあ~』
「……はぁ、仕方ないな」
ユウタも待ち草臥れているようだし、相手してあげましょうか。何たって俺、地元のガキ大将だからね!
……何か嫌だな、この言い方。そう、リーダー。俺は子供たちのリーダーなのだ。決して歌が下手な訳でも、ムカつくからぶん殴るような真似もしないぜ。
「バトル開始ィイイッ!」
「『うるせー』」
「有難う御座いますッ!」
という事で、俺とユウタの
「ハァッ!」
先ずは俺の攻撃。滅鬼刃は人間相手に使うような技では殆どないので、袈裟斬り、胴薙ぎ、斬り上げと、分かり易い、基礎的な動きで攻めてみる。
しかし、ユウタは大剣に有るまじき機敏な動作で全て捌いてしまった。
『フゥゥゥ……!』
さらに、1打、2打、3打、と打ち込む内に、ユウタの雰囲気がガラリと変わる。顔立ちは相変わらず可愛らしいが、纏うオーラはそう……鬼だ。白い雪鬼である。
『ヴォオオオオオオゥ!』
しかも、吠えるんかい。声がもうモンスターなのよ。
『ゴヴァアアアッ!』
「うぉおおおおっ!?」
そして、それが彼なりのルーティングなのか、鬼人化襲い掛かってきた。大剣を振り翳しながら猛然と迫る様は、顔が良いとか悪いとか関係なく、普通に威圧感がある。
だが、負けないぜ。突っ込んでくる相手には見切りで抜けて、反撃してやるのさ。
『グルヴォッ!』
「何ッ、朧翔けで相殺しただと!?」
本当に大剣を双剣みたいに使うな、君は!?
『ヴォオオオッ!』
「くっ……あ、しまった!」
『ゴヴァアアアアアアッ!』
こ、こいつ、俺が受け流そうとした攻撃を起点に、鬼人空舞に繋げやがった!
流石に本当の双剣使いよりは動きが遅いけど、あんな鈍器がグルングルン迫って来られたらビビるってば、マジでさぁ!
つーか、勢いに負けて太刀が上に弾き飛ばされちまったしよぉ!
くそっ、仕方ない。あんまり見せびらかしたくないから隠してたが、こいつ相手に滅鬼刃を使わない訳にもいかないか。
『ガヴォオオッ!』
「甘い!」
ユウタの回転斬りを疾翔けで躱して距離を取り、もう一方の翔蟲で端に置いておいた弓を手繰り寄せ、拡散矢を浴びせ掛ける。
――――――ガキガキガキン!
ガード出来る武器は羨ましいな、クソッタレが!
しかし、それは囮なんだよ。本命はここからだ。
「食らえ、空中一刀! 拾参ノ型「宴――――――」
『バヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』
「ツキミバァガァアアアッ!?」
だが、ガードしている隙を突く形で、空から拾参ノ型「宴月」で奇襲を掛けようとしたら、咆哮で迎撃された。声にダメージ判定あるとか、ティガレックスかよ。
『グルヴォァアアッ!』
「野郎! 弐給ノ型「月隠り」……って、アレ?」
その上、ユウタが追撃しようとしてきたの為、俺は剣閃の壁を張って邀撃しようとしたのだが……突然、ユウタの霊圧が消えた。
――――――いや、違う!
『グルァアアアアッ!』
「おおおっ、拾禄ノ型「十六夜」!」
あ、あああ、危ねぇえええっ!?
ユウタの奴、俺を跳び越えて背後に着地し、その勢いのまま地面をぶっ叩いて、地を走る衝撃波として放ってきやがった。ゴシャハギかお前は。拾禄ノ型「十六夜」で見切らなければ、今頃は文字通り昇天していただろう。その後、更なる追撃を食らって乙ったかもしれない。
しかし、舐めるなよ。何時までも俺が防戦一方だとでも思っていたかぁ!
「拾給ノ型「寝待月」!」
『グヴォッ!?』
「拾肆ノ型「待宵ノ月」からの拾伍ノ型「満月」、そして弐ノ型「既朔」、参ノ型「生魄」! オラオラオラオラオラオラオッ!」
『グワバァアアアアッ!?』
攻勢を維持しようとするユウタを回転スライドしながら斬り抜け、次いで震打の要領で大剣を握る彼の腕を痺れさせ、大回転斬りを食らわせて、スルリと斬り抜けて背後を取り、怒涛のラッシュで止めを刺す。
『グルルルル……!』
ええっ、これでも倒れないの!?
「はい、そこまで!」
と、ウツシ教官から待ったの合図が。正直、有難かった。あのまま続けてたら、下手すりゃ押し切られてたかもしれないからな。
いやー、それにしてもユウタは強敵でしたね。普通に並みの大型モンスターよりも恐ろしい相手だったよ。
「うんうん、まさに青春だねッ! ともかく、これで彼の強さは分かって貰えただろう? 確実に君の為でもあるし、偶には組み手をしてくれないかな?」
「ああ、まぁ、良いけど……」
つーか、凄い疲れた。今日はもう何もしたくないや。帰って寝ようっと。
◆ユウタ
ある日、カムラの里にやって来た謎の少年。寒冷群島でアヤメが保護したという事以外は全くと言っていい程に分からず、謎が謎を呼んでいるのが現状。
ただし、ハンターとして規格外の才能を秘めており、大剣を双剣の如く振るう化け物のような剣士っぷりを見せている。
ウツシ教官曰く、「まるでゴシャハギのようだ」との事。
ちなみに、名前の由来は実在の人物で、“イキリ散らかしたクソガキ”を意味するスラング。
ただし、好きで付けた訳ではなく、言葉足らずで殆ど喋れない彼が唯一真面に発音出来た名前だったからであり、嫌がらせとかではない、念の為。