なんとか死ぬ気で森を駆けずり回ってお仕事を終えた私。
セーフハウスに戻ってみるとまぁうん……お仕事の依頼が飛んできていた。
クソがっ……と罵りながらも依頼メールを開けてみる。
おぉ?こりゃまた普通な依頼です事……G&Kの実働部隊の狙撃支援。
ふむふむ、夜間にテロ組織の基地を襲撃し殲滅するみたいだ。
ただ基地というだけあって相当な防備が予想される。
当該地区の指揮官は配属されて日が浅いし配属されている人形も近接戦闘向けのチューニングされている。
具体的に言えばSMGの人形が多くてARは少数、長距離を担当できるRF人形は入っていない。
そこで性能的にも優れた私に動いてもらおうってワケね。
対外的な性能アピールはだいぶ浸透しているから内部で振るう余裕が出来たのかな?
「作戦決行日は3日後、当該地域の指揮官と顔合わせする必要は無し……ふぅん」
今まではクライアントに顔を合わせるのも含めてのお仕事だったけど……
この任務ではその必要は無いと、ふむふむ。
まぁ余計な気を遣わなくて良いから私としては楽だ。
変に営業スマイル浮かべながら売り込みをしたり胸を差し出して契約もぎ取ったりとかしなくて良い。
行って殺して帰るだけ、私の居た痕跡もなくしてしまえば狙撃をしたのは誰かなんてわかりゃしない。
……まるでゴーストだな。まぁそれが本来の狙撃手のあるべき姿。
姿を視認させる間もなく殺して痕跡は残さず去る。
次に撃たれる時、ドコから撃たれるか分からないって恐怖が抑止力にもなる。
「……うわ、体臭終わってる……水浴びして綺麗さっぱりしないと」
まぁお仕事に取り掛かる前に一日駆けずり回った上に爆風と血煙に塗れたボディを洗浄しないと。
髪の毛にも粉微塵にしたクマと鹿の血肉が付着していてすっごく不快だ。
臭いも酷いことこの上なくて人相も相当悪くなってる。
美少女にあるまじき姿だよ、まったく……
「あ、そだそだ……水浴びする前にドローンの発注をかけておこう……」
忘れちゃいけない、今後後悔する事無いようにドローンの注文を入れておく。
追加アタッチメントを装着したら無線操作もリアルタイムに出来る。
戦場での視野拡大にもなるし狩猟でもメチャクチャ役に立つ。
採用しないって手が無い、フロートディスプレイ式にしたら片目を潰す必要もない。
あくまで私は見た目は完璧でありながら性能も最高級である事が条件になるんだ。
……注文処理完了、あとは納入されるのを待つだけ。
納期は……おや、4日後か。となるとフィッティング後は動けないな。
だって5日後はI.O.P本社での精密検査だからね。
任務当日、当該基地は……私のセーフハウスと同じようなモノだ。
ゴーストタウンの一角を占拠して廃墟の中身をかなり改造しているみたいだ。
確りと補充を受けて、今回使用する無線レシーバーのチャンネルも合わせる。
誰かの指揮管轄下に入るのは始めてのこと。
まぁ指揮管轄下って言っても私の処理った敵勢力の情報、視認した敵の情報を共有するだけ。
今まではRF人形なんて要らないんじゃないのって言っているらしいけど……その認識を変えてやろう。
「半分詐欺まがいではあるけどね……」
私はハナから最高品質で最高出力を出せるようになっている。
通常生産された戦術人形は戦場で経験を積んでそのデータから最適化をしていく。
そして最適化された頭脳に合わせて躯体の方をチューニングしていく。
そうするのは指揮官によって戦術のクセっていうものがある。
そして当該地域の敵対勢力、任務の偏りも存在する。
ハナから最適化させて配属させては活かしきれない場合がある。
……まぁそれは100%プログラムで産まれたAIの場合。
人間の頭脳から取られているパーソナルだとそういうわけでも無い。
ライフルが居るとこんなにも楽と思って雇入れしても期待値の半分以下の性能だってパターンが多いだろうさ。
ヘリコプターでランディングする部隊とは別に私は動く。
行進する先が見えやすい小高いビルの廃墟に陣取る。
当然移動に使ったのはバイク、アホみたいに騒音をならすヘリに紛れて隠密行動できるモノだよ。
「さてと、まずは偵察」
持ち込んだ双眼鏡で覗きながら偵察。
奴さんの基地は地上2階建て、地下3階建てのショッピングモール跡。
それ相応の人数が居るし防衛火器も中々に見える。
M2ブローニングが要所要所に設置されているし防弾シールドも付けられている。
下から打とうにも土嚢で威力は潰されるだろうなー
『うぉっ!?あ、なにこれ……敵勢力情報?あぁ件の狙撃手さんか、ありがとう!』
(うっわガキんちょ?G&Kも人材不足だって言ってたけどこんな変声期前のガキを雇う!?)
無線レシーバーから聞こえてきたのは舌っ足らずな上にソプラノボイスな声。
指揮官の大雑把なパーソナル情報では男ってあった気がするけど?
そこから考えるにこの指揮官、ガキだ。まだまだ肉体的にも成長過程のガキ。
まぁメリットは有ると思うけれども切羽詰まってるなとしか思えない。
こっちからの情報はあくまで情報としてしか送れない。簡単なテキストメッセージは送れたりするけど……
接触は極力避けられてる感じだ。
『そうなると……ここで挟撃して一気に叩いたほうが良いな、狙撃手さんは――――』
(へぇ、経験が浅い割にはちゃんと戦術立てるじゃないか)
しっかりと戦術的に効果的な打撃方法を講じている。
手持ちがSMGが多数であり殺傷能力に富んでいるARが少ないのはわかっている。
だからこそダミーをちょいちょい無駄にはするけれども……遮蔽物を多く利用しつつ接近していく。
そして一箇所を電撃作戦で突破すると浸透して潰していくって戦法だ。
室内にさえ入ってしまえばSMGの天下、テロリストに未来は無いと思う。
私に下ったお願いは撃てる範囲でのM2ブローニングの銃手を潰せって事だ。
「舐めてんのかガキンチョ……全部潰してやっても良いんだぞ♪」
そんな低めに見積もられるとお姉さん本気出しちゃうぞー
ニッコニコとしながらチャージハンドルを引いて初弾装填する。
レーザーサイトの使用も許可が降りているし……ふふふ、潰してやるぜ。
距離にして大凡400、外さない縛りだったらWA2000を選択している距離だけど……
今回は外してもいいし排除してしまえばいいって仕事だからね。
遠慮なく私の餌食になってもらおうか、テロリスト諸君。
楽しい楽しいテロリスト狩りの始まりだ。
それからは一方的とも言える戦闘のような何かが繰り広げられるばかりだった。
テロリスト側も襲撃を検知し防衛に出た。
その総数たるや300人、それに対し人形の部隊は3部隊。
揃いも揃ってSMGを主体にした構成であり報告を受けたテロリストはせせら嘲笑っていた。
テロリスト側の装備は防弾ベストに前時代の名銃、AK47にM2ブローニング機関銃。
各種手榴弾もあって近接戦闘がメインとなる人形からアウトレンジで一方的に撃てる装備だ。
"こりゃ楽に撃退できる、ついでに良い肉オナホも手に入るな"
そんな風に取らぬ狸の皮算用をしていた所だった。
M2についていた銃手が突然倒れたのだ。
何事かと見てみれば眉間に穴が空いていて即死していた。
狙撃手がいる、誰かがそう叫んだがその叫んだ人間が撃たれて絶命。
現場は一気に恐怖に叩き込まれ遮蔽物に隠れる他なくなった。
少しでも顔を出そうものなら即座に死体に変えられる。
通信からは人形の部隊が迫ってきていてどっちにしろ殺される。
自暴自棄になった数人が手榴弾で自爆特攻しようとするも……今度は足を撃たれ、手を撃たれ……
その場で無惨に爆散する事になったりもした。
僅かな手がかりは着弾する寸前に見えるレーザーサイトの点だ。
どこから飛来するかわからない7.62ミリの恐怖に怯えたテロリストは置物と化した。
かくしてダミーリンクに一切のダメージを入れること無く建物に侵入した人形部隊はその後屋内を弾痕と血糊でデコレートして凱旋した。
富裕層が甘い蜜をすする現状に不満を持ち決起したテロリスト達、その心意気は良いだろう。
しかし多くの犠牲者を出し弱者を虐げるだけの存在に堕ちた者たちに過ぎず……無惨に骸を晒すだけだった。
その精密で苛烈な狙撃支援を要請した指揮官のRF人形への認識は大いに変わった。
「あー疲れた、帰って鹿肉ステーキでも食うかなぁ」
撃った本人はもう既に居なく呑気に荒れ地を行きながら……飯のことを考えていた。