パスッパスッ……カラン。
森林地帯の奥から物静かに発せられる音。
落ち葉等に紛れたこんもり盛り上がった山から真っ直ぐに伸びる真っ黒なボディ。
カモフラージュの被せ物がしてあるソレは銃火器だった。
長く伸びた銃身と先に取り付けられた消音器、立ち昇る硝煙。
その先、300mでは一体の双頭のシカが倒れ伏していた。
「ん、始末完了……ふぅ」
こんもり盛り上がった落ち葉の山は落ち葉に似せたマントだった。
バサリと音を立てて取り払われたマントはギリーマントと言うカムフラージュだった。
その中から現れたのは蒼銀の毛髪をした少女だった。
緑色の瞳をした幼気な顔とソレに反して凶悪としか言いようのない乳房を持つ少女。
「さーってと、クライアントにアレを渡してお金貰ってと……」
雇われで獣撃ちから人殺し、化け物刈りまで請け負う狙撃手人形。
コードネーム417、異名はブラッドスノー。
戦術人形製造大手のI.O.Pが製造し比較的自由な所属として動き回らせている餌。
様々なPMCや自警団、テロ組織に対し人形の性能をアピールするための広告塔。
個体名称はシーナ、出自が少々特殊な人形である。
私はシーナ。しがない雇われの戦術人形。
元々はウルリッヒ・ガンツという普通の男として生きていた。
世界的な電脳不足から寝ている人間から電脳を盗むって言うことが多発。
私もそんな盗難被害に遭って紆余曲折を経て今に至る。
生産時から色々とバタバタしていた。
えー、まず私は最高級のセックスドールとして生産されてます。
99%オーガニック素材を使った生同然の抱き心地が売りの人形です。
はい、そうです私は生産時から色々とツッコミ所がある人形として生産されていた。
パーソナルデータは男なのにそんなエッチ目的の人形にしてるんじゃねぇ。
それはもうお冠で起動テスト担当員に詰め寄って胸ぐら掴んだよ。
当然なにかおかしいとして私は強制終了処分。
精査して違法に盗られた電脳が使われていたと発覚したっていうね。
元の肉体は当然死亡処理されていて人形として生きていかなきゃいけなくなった。
セックスドールとしては当然内面が落第点なので新しい就職先を探した。
無事見つかったは良いけれどもまぁわりと……酷い詐欺だったね。
銃をちょっと持ってパトロールするだけって文言だったのに実際は傭兵まがいだよ。
「クソッタレ、なんでこんなお仕事……」
いわば私はPR担当、いろんな企業から飛んでくる始末の仕事。
民間から飛んでくる害獣駆除、果ては化け物退治までなーんでもござれ。
その為のバックアップもあるけれどもクソみたいな仕事だよ。
まぁ悪いことばかりじゃない、私は言っちゃえば余命が少ない人間だったしね。
クリティカルな所はイジらないで貰えたし女性として生きていく上での必要知識も植え付けてもらえた。
ほぼ人造人間みたいな所あるから生活していて違和感全然ないし!
パワーはそこそこあって今みたいな銃も軽々と扱える。
色々とパッケージオプションを追加されてるから……だけどね。
「よっこいせ、これで5日の食料ってところかなぁ?」
今撃ったのは核兵器の汚染が原因で変異したデカい鹿。
バラして食肉にしたら一家でしゃぶり尽くして5日。
倹約したらその倍はイケルと思う。
当然ながら私の足で運ぶわけじゃない。それ用の足も貰ってる。
「たのむよー」
ペシペシと叩くのは私用に拵えてもらったオフロードバイク。
IMX330Low、IOPの息がかかった発動機メーカーが作っているバイク。
330ccの水冷シングル、豊富なカスタムパーツで使用用途に合わせて改造ができる。
私のはハンターパックと呼ばれる狩猟者向けのものを取り付けている。
タンデムシートには獲った獲物を載せるアタッチがついている。
他には武器装備を格納するコンテナ、航続距離を伸ばすためのガソリン缶が括られている。
跨ってエンジンスタート、ちょっと吹かしながら道なき森の道をトコトコ下っていく。
銃の他に色々とお世話になる相棒だね。
「いきなり押し付けられたセカンドライフだけど……まぁ、悪くはないな」
女の体に押し込められたのを除けばまぁ便利な身体になったものだしな。
実質的な永遠の命、永遠の若さ、簡単に手に入るムキムキに近いパワー。
何時間も復習しなくても学べる優秀な記憶領域等など……理想的な人間のスペックだ。
元々私はドロップアウトした人間で農家の手伝いをして生計を立てていた。
そんな人間だから今の様な狩猟生活は合っているようなものだ。
クライアントとのやり取りは必要最低限、仕事の斡旋もI.O.PやG&Kがしてくれる。
私は呑気にセーフハウスで待っていれば仕事のオファーが来る。
さて、セーフハウスまで頑張って降ろう。
セーフハウスは何ら変哲のない家屋。
ライフラインは断裂していて水、食事は自分で調達しなければならないっていう前提付きだけどね。
繋がっているのはネットワーク回線と電気だ。
ここで狩猟してきた獲物の解体、食肉化などもやっている。
食肉にした後は運搬用ドローンに納品してしまえばOK。
日持ちがしない部位は私が食べてしまう。
人形は食事でエネルギーを蓄えられる……まぁオーガニック素材だからかもしれないが。
詳しい仕様は私にも分からん、知らん。
「んー?はいはい……依頼ですかー?」
チョット耳障りなビープ音と共に立ち上がるフロートディスプレイ。
クソ面倒な狙撃依頼とかが飛んできたんだろうなー……と面倒くさそうなの隠しもしないで出る。
うん、予想通りでG&Kのお偉いさんが顔を見せる。
人形は使い潰してなんぼな思考のクソ野郎。
『新しい狙撃依頼だ、確認して直ちに向かえ』
「ちょっと待てや、この鹿捌いてからだ。つーか依頼詰まってるの分かってるでしょ?」
『良いからやれ』
「クソ野郎、絶対にいつかお前のどたまに風穴開けてやるからな」
セーフハウスに居る時間はそう長くない。
次から次に仕事が舞い込んできてアレ持ってこれ持って飛び出さなきゃならない。
ぶっちゃけセーフハウスの中は一部与えられた時からそのままな所もある。
それだけ私が居る時間が少ない。
「どれどれ、次の依頼は……うげぇ、あのセクハラジジイの依頼かぁ」
クライアントとは基本的にはやり取りしないけど任務達成報告はあげなきゃいけない。
当然実績広告として振り撒かなきゃならないからそういう時は直接会う。
私の事を懇意にしてくれているクライアントは幸いなことに増えつつあるが……
まぁ男が殆ど、当然身体の方も狙われるわけで……
超現実離れしたダイナマイトスタイルしているからか本当に参っちゃうくらいに迫られる。
中身はまだ男のつもりなので丁重にお断りしているのだけど……
「断れないのが辛いねぇ」
PR活動の一つでよっぽどの事が無い限りは断ることが出来ない。
というかG&KやI.O.Pといった大企業を通しているからか私に断る権限が無い。
いやまぁそれはイイよ?良いけどさ……せめてスケジュール管理くらいしてくれや。
マジであのいけ好かねーヒゲモジャ頭に鉛玉ぶち込みてー。
メチャクチャ文句言いながら肉を解体して丁寧に梱包してから出荷。
急いで水シャワーを浴びてクリーンアップしてからバイクに跨って飛び出していく。
狙撃任務でも後々に人と会うんだから清潔感は大事だ。
さて、今回の狙撃任務、どうなるかなぁ。
カルト集団のボスを狙撃しろ……言うは易く行うは難しなんだよね。
バロロロロ……一応コンテナの中身は色々詰めていこう。
其のためのバイクと糞デカコンテナなんだしね。
Q:つまりどういうこった?
A:新約417だよ。雇われでソロでかるーく狙撃手として出てくるよ。
Q:D08のアイツはどうなんの?
A:便利な言葉で言おうか、パラレルだよ。……めいびー(予定は未定)