さて……鉄血に抑えられた工場は制圧、コントロールを奪還した。
そんでもって……今私の尻の下に敷いているコイツをどうしようかねぇ……
鉄血のミドルクラス、スケアクロウだっけか。
管制室制圧すんのにヴェスピド蹴飛ばして盾にしながら突撃してぶん殴ったんだけど……
まぁ物の見事に頭がもげて身体だけになってんだよね、グロ画像だよ。
やっちまったなぁ……と思う半面コイツカタログスペックでは自爆オプション持ちなんだよね。
下級人形の指揮、データ処理演算及び解析なんかの人形。
その重要性は結構高く秘匿情報を護るために自爆することもある。
その爆発の火力もなかなかでそれこそE.L.I.D侵攻が進んでデカいバケモノになったのだって殺しきれる。
TNT換算で200kgレベル行くんじゃなかったっけ?当然んなの食らったら大概のは爆散するよ。
鋼鉄の塊である戦車とかでもタダじゃ済まないね。
私もんなの食らったら流石にキツいかもね、出力をMAXまであげたフィールドで耐えれるかどうか。
躯体そのものはそこまで耐弾性・防爆性に優れてる訳じゃないし。
ある意味最適解だったわけだけど……同時に解析も不能になった。
コイツのAIとか詰まった頭部が粉々になったんだからそりゃそう、物理的にバラバラになったんだから無理な話。
さて……躯体はまぁ再利用とか出来そうだし武装のビットとかも再利用できそうだな。
まぁまだ残党が残っていてそのお掃除はしなきゃならない。
むしろ今からが本番だな、掌握したから排除しようとこっちに全力ダッシュしてきてるだろ。
となりゃここで立て籠もってやって来たのを各個撃破したら良いと思う。
オーガプロトコルのネットワークはまだ生きているが簡素なやり取りだけだな。
現在位置なども暗号化されていてすぐには分からないな。
部外者に場所を割らせないためっていうフェールセーフもあるんだろうな。
考えたAIはかなり考えてるな、用心深いとも言う。
だがまぁ、近くに来ているのはもう分かる。耳が足音を捉えた。
「楽しいドンパチが始まるな」
M37のコッキング音と排莢された空薬莢の転がる音。
そして重く幾つも聞こえてくる足音……
酷く淀んだ緑の瞳が細まり口元は不気味なほどに横に裂け半月のように弧を描く。
堂々と部屋の中で立つ姿は自殺志願者か……それとも……
工場の制御、ヴェスピド達の管制を行っていた部屋に工場内で生産されたばかりのモノから警備を行っていた……
平たく言えば417の襲撃を免れていたヴェスピド達が一斉に向かっていた。
その数は実に500体、熟練の人形小隊にダミー人形がそれぞれフルで居たら返り討ちに出来るだろう物量だ。
それぞれ本来は戦術データリンクし各方面への侵略に駆り出されるハズだった。
しかし今はそれも適わず個々が持つ鉄血製のFCSやCPU性能で何とかする他無い。
それぞれが持つレーザーパルスマシンガンは人間は勿論のこと戦術人形も数秒炙られれば蜂の巣に出来る代物。
出力100%であれば他にも正規軍がなんとかしなければならないような化け物……E.L.I.Dすらも溶かしきれる。
出力アクティベートコードを鉄血内部で保有してなかったのが救いと言うべきか……
そんな武器を担いだ大隊が迫り、今管制室は焼け野原にされそうになっていた。
蹴破られた扉に左右から合計4体が一気に押し入る。
そのまま雪崩れるように他のヴェスピド達も押し入っていく。
「……?」
しかし、その管制室は蛻の殻。
上官であったスケアクロウの亡骸が転がっている他に自分達と同じヴェスピドの無惨な残骸が転がっている。
侵入者はもう脱出したのか?しかしこの大群の中掻い潜って脱出出来るのだろうか?
真っ先にたどり着いた4体はそれぞれ脱出ルートを塞ぐように立ち回っていた。
あり得ないはずだ……近場のその4体だけでデータをリンクさせ演算する。
その結果は脱出不可能、ならば何処に?
ズドンッ……ドンッ!ゴッ……
「……上から参りまーす♪」
軍用規格の馬鹿力で天井に張り付いていた。
そして中に入ってきた獲物をずっと見下ろしスキが出来た所を自重で降りて強襲。
足踏み場にした2体はそのまま潰され戦闘不能、残る2体も片方はキレイに頭をショットガンで吹き飛ばされ……
応戦しようとした残る1体のヴェスピドは構えた瞬間に手首を取られ馬鹿力で壁に叩きつけられた。
これまた首がクリティカルヒットするように……
一瞬吹いた嵐のような連撃の後薄ら笑いを浮かべながらM37のコッキングをする417。
急激な挙動で勿論の事胸元は非常に危うい事になっているが知ったことじゃない。
ガッショ……カラカラ……
その緑の瞳は次のオモチャに向かっていた。
どれだけ群れようともそれに限界はある。
銃砲の数は違うだろうが同士討ちが発生するわ射線を塞がれるわ……結局はそこまでならない。
ましてや工場内という限られたスペースでは数の有利を発揮し辛い部分がある。
「あはっ♥」
嗤う狐は地を駆け、獲物に喰らいついていく。
喰らいついた獲物を盾に、武器にしながら……蜂の大群を蹴散らしていく。
ま、一方的な殺戮で終わった。
ぶっちゃけて言えば私と鉄血人形は相性最悪って言っても良い。
鉄血人形の主戦力はレーザー兵器を多用している。
熱エネルギーに指向性を持たせてブチかますモノ、その指向性を散らせる物があったら途端に無力になる。
フォースフィールド、偏向障壁とも呼ばれるソレは運動エネルギー熱エネルギーを別方向へ逸らせる特性を持つ。
ただし内側からのものは透過させる……戦後になって登場した技術だ。
そうモロに銃器やレーザー兵器に対してのメタと言える。
ぶち壊すには逸しようの無い大エネルギーか……飽和的エネルギーの塊である爆発物で剥がす。
偏向させる方向が無くなってフィールド自体が崩壊するんだと思う。
ま、そんなの無いからこっちが一方的に殴れて相手は為す術もなくボコボコにされるだけ。
『制圧完了か、ご苦労……補給は必要か?』
「12ゲージショットシェルを幾つか……あとはまぁ水とかかなー、次の仕事まで偽装職やってるよー?」
『了解した、また何か任務があればメッセージを飛ばす』
「あいあーい」
いやーしかしぶち壊しまくった結果衣服はオイル塗れシャワーを浴びたいけど私の移動拠点、コンカラーにそんなのは無い。
スペース的に難しかったんだよね……キッチンスペースも苦肉の策で前後キャビンの合間にねじ込んで……外でやんないとだもの。
水タンクだって調理に使う数リットルが精々……シャワーなんて使おうものなら髪洗ってる最中で水切れ起こしちゃう。
……S09郊外に戻る前に近場の水辺でも探して水浴びしよっかな。
こーいう仕事してるってバレないように表向きのお仕事もして偽装しなきゃだし……
はー……大変大変……あと、定期的にスラムに戻って保守整備とかもしないとだしー
「……ふふ、ちょっと充実してるかも」
忙しいけど……前ほどグチグチとはしないな、充実してる感じがする。
オイル塗れな上着を脱いで畳んで……除菌ラックにおいてっと。
「偽装職はー……とりあえずこの接客業でいっかな」
パソコンで適当にピックして就業時間に間に合う様にS09に戻れば良い。
……んー、これは移動後給油が必要だな。
ガソリンのサプライポイントは……ありゃ遠い、ちょっと一般の所で買う必要あるか……
面倒な事ありそうだなぁ……見た目がガキンチョだしー
セルモーターが唸るエンジン始動音がした後一度大きく吠えるV8エンジン。
スパッと始動した後は低くドロドロと特徴的な排気音を奏でて工場から遠くはなれていく。