【ライトニング・サムライ】~転生者はダンジョンで英雄になりたい~ 作:独身冒険者
ゲーゼスに襲われた日から3日が経過した。
フロル・ベルム
Lv.1
力 :F 352 → F 389
耐久:F 311 → F 363
器用:F 324 → F 359
敏捷:E 461 → E 485
魔力:I 0
《魔法》
【】
【】
《スキル》
【輪廻巡礼】
・アビリティ上限を一段階上げる。
(・経験値高補正)
うん……まぁ、ゲーゼスとの戦いがあったからいつもよりは上がるんじゃないかと思ってたけど。
またガッツリ上がったなぁ。
……やっぱり、【輪廻巡礼】には他にも何か効果があるんだろうなぁ。
俺はスセリ様をチラリと横目に見るが、スセリ様は俺の視線に気づいてないのか、気づいていても無視してるのか、のんびりとお茶を飲んでいる。
……言う気はないってことか。
じゃあ、やっぱりこのスキルには『経験値増加』的な何かがあるんだな。
けど断言してしまうと、誰かに漏れたら面倒事になるって感じかな……。
確かにこのスキルは絶対にバラしちゃダメだと俺も思う。
だから、気づかないフリを俺もするべきなんだろうな。
なので、俺は話題を露骨に変えることにした。
「これからのダンジョン探索ですが……どうしましょうか?」
「まぁ、数日は様子見で妾と鍛錬するとしよう。その間にダンジョンで闇派閥に襲われた者が出なければ、再開しても良かろうて」
「はい」
「では、今回はみっちりと鍛えてやるとしよう。格上相手でももう少しやり合えるようにならねばな」
「はい!」
…………
………
……
「つあああああ!!」
俺は雄叫びを上げながら、スセリ様に攻めかかる。
だが、スセリ様はサラリと俺の攻撃を全て受け流し、大振りになった瞬間俺の腕を掴んで放り投げた。
「ぐぅ……! くっ、おおおおおお!!」
俺は受け身を取って地面を転がり、近くに転がっていた木刀を掴んで再びスセリ様に攻めかかる。
斬りかかるフリをして、スセリ様の足元にスライディングする。
「ぬ」
スセリ様は僅かに目を細めて、後ろに跳び下がる。
くっ! そっちに逃げるのかよ……!
俺は歯を食いしばって立ち上がり、スセリ様の胴を狙って薙ぐ。
だが、なんと当たる直前にスセリ様が白刃取りで木刀を受け止めた。
げっ!?
「ふっ!」
スセリ様は鋭く息を吹いて、俺ごと木刀を引きながら半身になり、前に出た左足を振り上げる。
俺は慌てて柄から手を離して、体を捻ってスセリ様の蹴りを躱すも、バランスを崩して地面を転がる。
急いで起き上がるも、その時にはすでにスセリ様は木刀を振り上げて、俺の目の前にいた。
「っ!!」
「まだまだじゃのぅ。はっ!!」
「ぎゃっ!!」
頭頂部に衝撃が走り、俺は悲鳴を上げて蹲る。
スセリ様は木刀を肩に担いで、不敵な笑みを浮かべる。
「分かりやすいのぅ。もっと視線や構えは誤魔化さぬか」
「っぅ~……! は、はい……」
それにしたって簡単にやられすぎだろ、俺……。
全然攻撃が当たる気しねぇ。
構えた瞬間にスセリ様が動いて、描いてたイメージがいきなり崩される。
そのイメージに固執しすぎなんだろうけど、複数のイメージ全部潰されるんだから動きだって鈍るよ。
俺に武術を教えてくれてるのはスセリ様なんだから、スセリ様からすれば俺が思い描いてるイメージなんて全部お見通しなんだろうな。
つまり、俺はどうにかしてスセリ様に教わってない動きを編み出さないといけないわけだが……。
それが難しい。やはり拙速を考えると、染みついた動きに頼ってしまう。
モンスターの場合はスセリ様ほど複雑な動きをしないから、そこまでイメージを崩されない。
けど、最近人と戦った場合は全員格上ばっかりで、イメージ以前にステイタスの差で捻じ伏せられてる。
う~ん……なんか手詰まりな感じだな。
「迷っておるのぅ」
「……はい」
「まぁ、相手が妾ばかりじゃしの。しかし、他に適任の者など思いつかんからのぉ。他のファミリアの者を関わらせるのは、まだ避けたいでな」
正直、今のオラリオはよほどのことがない限り、交流なんて出来る状況じゃない。
理由はもちろん闇派閥。
どのファミリアが闇派閥に与しているか分からないというのが大きい。
大きな派閥のファミリアは基本的に互いに牽制し合う関係だから、滅多に交流をしない。
弱小ファミリアに関しては、下手に関わって奇襲される可能性があるから、やや疑心暗鬼に陥っている。
神同士では気軽に挨拶する仲でも、ファミリア同士はそうはいかないのが現実だ。
うちは俺1人しかいない超超弱小派閥。しかも、その唯一の団員が子供。
そりゃあ、気を付けないといけないよね。
その後も俺は、何度もスセリ様に投げられ、殴られ、叩かれ、地面に転がされるのだった。
それから2週間が経過した。
あれからダンジョン内での闇派閥による襲撃は報告されていないらしい。
だが、あの日を境に都市内での闇派閥による傷害事件や破壊行為が頻発するようになった。
多分……ダンジョンから目を離させたいんだろうな。
憲兵団を兼ねている【ガネーシャ・ファミリア】はそちらの制圧に動くことになり、ダンジョン内に手を割けなくなったのは間違いない。
現在【ロキ・ファミリア】【フレイヤ・ファミリア】が警邏を兼ねて交互にダンジョンへと赴いているが、どこまで効果があるかは微妙なところらしい。
「ロキのところはともかくのぅ。フレイヤの所の子は、女神第一主義じゃからな。どこまで真面目にやるか……。フレイヤもよほどのことがない限り、子供がサボったところで怒らんじゃろうて」
というのが、スセリ様の談。
そして、それには俺も同意する。
まぁ、今の【フレイヤ・ファミリア】の面々あんまり知らないんだけどさ。
オッタルはいるだろうけど、他の面々までもういるのかどうか知らないからな。
そして、他の探索系ファミリアとなると一気に戦力も規模も下がるらしい。
【疾風】のリュー・リオンが来るのは、もう少し先か?
いや、いたとしても、まだLv.1か2くらいかもしれん。
後は【ヘルメス・ファミリア】だけど……。
ゼウスが出て行ったばかりだし、あそこは戦力を隠してるだろうから微妙か。
アスフィもまだ俺と同じくらいの歳のはずだし……。
アニメ主要人物のほとんどがまだこの都市に来ていない。
けど、一番荒れるのはこれからなんだよなぁ。
早く強くならないと生き残れない……!
俺の心に、焦りが生まれ始めていた。
俺は1人でダンジョンにやってきていた。
魔石の回収は最低限に、俺はひたすらにモンスターを狩りまくっていた。
「つあああああ!!」
『!!』
「おおおおお!!」
『!?』
「はあああああ!!」
『……!!』
6階層にてウォーシャドウを狩りまくる。
20体ほど倒したが、どうにも物足りなく感じて7階層に下りて、今度はキラーアント、バープルモス、ニードルラビットの群れを相手にする。
「ふぅ!!」
『ギッ!?』
キラーアントの頭部を柄頭で叩き割り、隣のキラーアントを蹴り上げて浮かし、身動きが取れなくなった隙に首を斬り落とす。
『ガッ!』
『キュウ!!』
横から額の角を突き出してニードルラビットが突進してきたが、それを半身になって躱し、目の前を通り過ぎる瞬間を狙って、右膝を腹部に叩き込む。
『ギュッ!!』
濁った声を出して体を曲げたニードルラビットの背中に、次は右肘を叩き込んで地面に叩きつける。
『ギュア゛!!』
そして、脇差を逆手に持ち替えて、上から迫ってくるパープルモス2体を素早く駆け抜けざまに両断する。
まだだ! もっと速く! もっと強く!!
俺は身体に付着する血を払うことなく、次の標的を定めて駆け出すのだった。
フロル・ベルム
Lv.1
力 :F 389 → E 482
耐久:F 363 → E 435
器用:F 359 → E 423
敏捷:E 485 → D 576
魔力:I 0
《魔法》
【】
【】
《スキル》
【輪廻巡礼】
・アビリティ上限を一段階上げる。
(・経験値高補正)
「ぶわぁっかもんっ!!!」
ドゴン!!
「づぐぅあご!?」
スセリ様の怒号と強烈な拳骨の衝撃が、正座していた俺の頭頂部から床まで突き抜ける。
俺は目の前に星が飛び散り、一瞬意識が遠のいて正座したまま崩れ落ちて、額を床に打ち付ける。
「っ! ……っ! ……っ! ……っ!」
俺は頭頂部を押さえることも出来ずに、痛みに痙攣することしか出来なかった。
その俺の後ろでスセリ様が腕を組んで、怒りに目を吊り上げていた。
「嫌な予感がしたから、テルリアにお前を見張らせておけば案の定か!! あれだけ無茶はするなと言うたであろうが!! モンスターなんぞに八つ当たりしよって!!」
そう。
俺がダンジョンで暴れていたのを、テルリアさんが見ていたのだ。
しかも、俺が放置した魔石を全部回収してくれていた。
そして、それをスセリ様にしっかりと報告していたのだ。
それにしても、いや、してもじゃないけど。
スセリ様……俺の本心バッチリ見抜かれている……。
スセリ様の言う通り、強くなりたいというのも決して嘘ではないが建前だ。
本音は負け続けな現状に苛立って、八つ当たりしたかっただけである。
勝ちたい相手に全然勝てない自分の未熟さに腹が立ったのだ。
「そんな八つ当たりで得た強さなど、付け焼刃にすぎんことはお前ならば理解しておるであろう!! 未熟者よりも劣る愚か者が勝とうなど百年早いわ!!」
「……!」
「お前が真に勝ちたい相手は、こんな愚行で得た力で勝てる者達ではなかろう!? それともお前はそこらへんの輩に勝てれば満足なのか!?」
「っ……!」
床に額を押し付けたまま、歯を食いしばり、両手を握り締める。
スセリ様の言う通り、俺が思い描く人達は全員この程度で得た力で勝てる相手じゃない。
信念を持ち、理想を抱き、覚悟を携え、誇りを持って、絶望と壁に立ち向かって足掻いていた。
Lv.6であってもその強さは絶対ではなく、それでもそれを絶対のものとして支えているのは、堅実に、そして時に泥臭く這い蹲ってきた『経験』だ。
けど、最近の俺の蛮行は、泥臭いと呼べるものでもない、ただの無茶だ。
それは、決して強さにはならないものだ。
分かっていた。分かっているつもりだった。
それでも……我慢出来なかった。
「……じゃが、妾は少しホッとしておるよ。お前が間違うたことに」
「……スセリ、様……」
スセリ様がそう言いながら、俺の前に移動して座る。
「お前は前世の記憶があるが故に大人びておる。いや、大人び過ぎておる。それがいずれ肉体年齢との齟齬で、追い込まれるのではないかと思っておったんじゃ。上手くいかぬ現実に、子供という事実がお前を苦しめるのではないかとな」
「っ……!!」
「そして、ここ最近の騒動じゃの。お前は間違いなく他のLv.1の冒険者に比べて成長が早い。じゃが、その成長速度でも敵わぬ敵に出会い過ぎた。しかも、その内の1人が闇派閥じゃ。命の危機に知らぬ間に心が追い込まれておったのじゃろう。お前の前世は平和な世界であったようじゃからのぉ……。残酷で無慈悲なこの世界は、受け入れられぬモノもあろうて」
本当に……この人は俺の全てを見抜いてくる。
スセリ様が俺の後頭部を優しく撫でる。
「妾は心底ホッとしておるよ。その愚行が、今であったことを。また命を懸け、逃げられぬ状況に追い込まれた時に、そのままじゃったら妾は身投げするほど後悔しておったじゃろう。止められる今であったことに、本当に安堵しておる」
「……申し訳、ありません」
「許さん……が、赦そう。子の過ちを叱り、正して赦すことが妾がおる理由なのじゃから。そして、これまで以上にお前を愛し、導こう」
……本当に、俺には過ぎた女神様だ。
スセリ様の恩恵を貰っておきながら、それを疑うような、足りないなんて傲慢な思いを抱いてしまった。
本当に……情けない。
「いずれ今日を笑い話に出来るようにしようではないか」
「……」
「間違えても良い、挫けても良い、泣いても良い、負けても良い。泥と土の味、そして痛みを知らぬ者から、英雄が生まれることはない。清濁極めた者だからこそ、多くの者が『己もまた英雄にならん』と憧憬に火を灯す」
……そうだ。
だからこそ、ベル・クラネルに誰もが目を惹かれた。
「願いがないなら探せば良い、想いを叫べぬならば秘めれば良い。じゃが決して捨てるな。どんなに笑われ、見下されようと、己を貫く者が一番格好いいのは、神が、世界が認めておるのじゃから」
その存在が、その言葉を証明する何よりの証。
だから……俺は強くなれる。
弱者であることを……否定するな。
『弱者』の否定は、決して『強者』ではないのだから。
だから俺は……強くなる。