【ライトニング・サムライ】~転生者はダンジョンで英雄になりたい~   作:独身冒険者

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胸糞展開です、ご注意ください


転生した男は頭角を現し……闇が動く

 スセリ様に説教されてから数カ月。

 

 冒険者登録してから、後一月で1年になる。

 つまり、スセリ様の眷属になってもうすぐ2年ってことだ。

 

 俺は7歳になり、身長も伸びた。大体130Cくらい。

 

 あの説教の後、テルリアさんにも頭を下げて謝った。

 

「置いて行かれたのはちょっと寂しかったですけど。でも、お気持ちも分かりますので……。今度は2人で行きましょうね!!」

 

 と、笑顔で言われてしまい、罪悪感全開でした。

 本当に申し訳なかった。

 

 それからは決して1人でダンジョンに潜ることはせず、がむしゃらに戦うのも止めた。

 

 運がいい事に、あれからダンジョンで闇派閥に会うことも、ごろつき冒険者に会うこともなかった。

 もちろん、都市部の方では相変わらず暴れており、少しずつだがオラリオ内の雰囲気が重苦しくなってきている。

 

 だが、俺はそれよりも、いや、だからこそまずは強くなることを優先した。

 

 その結果。

 

 

 

フロル・ベルム

Lv.1

 

力 :A 891

耐久:B 785

器用:A 858

敏捷:S 942

魔力:I 0

 

《魔法》 

【】

【】

 

《スキル》

【輪廻巡礼】

・アビリティ上限を一段階上げる。

(・経験値高補正)

 

 

 

 『敏捷』がSランクに届き、『力』と『器用』もこのまま行ければSランクに届きそうなまでになった。

 

 武器も脇差から刀に変えた。もちろん二刀流。

 ちょっと大きいけど、そこまで邪魔にはならない。

 

 現在のダンジョン到達階層は11階。

 正直、冒険者とサポーター2人でのパーティーではまずありえない構成だ。

 

 もちろん、無理はしていない。

 スセリ様の許可をもらってダンジョンを進んでいるしな。

 

 11階層で出るのは『インプ』『オーク』『ハード・アーマード』『シルバーバック』、そして『インファント・ドラゴン』だ。

 

 俺はシルバーバックまでは倒すことに成功した。

 もちろん1対1で、テルリアさんの魔法を使ってだが。

 

 魔法無しでも勝てなくはないが、まだ少しキツイんだよな。

 

 それでも、やっぱり子供の俺が倒したのは、それなりに衝撃をもたらしたのだろう。

 いつの間にか噂が広まっており、今まで以上に視線を感じるようになった。

 

 ちなみにその噂を知ったのは、アドバイザーのスーナさんが何やら慌てて駆け寄ってきたからだ。

 

「ソロで11階層に行ったというのは本当ですか!?」

 

 と、大声で言い放ちやがりました。

 

 ちなみに何でソロって話になってるのかと言うと、サポーターの多くは戦闘要員とは見なされないからだ。

 

 『戦えない雑用係』。

 それが一般的なサポーターの印象だ。

 

 もちろんファミリア内での役割として、サポーターを担う場合があるので必ずしも戦えないわけではないのだが。

 

 まぁ、とりあえず、偏見もあって俺はソロで11階層で戦ったことになっている。

 

 スーナさんにはちゃんと説明したが、それでも凄く顔を顰められた。

 まぁ、テルリアさん含めても2人だもんな。十分非常識ではあるんだろう。

 

 だが、11階層にソロで行ったという事実は、別の意味を持つ。

 

 それは『ランクアップ間近』ということ。

 

 少なくともステイタス的にはランクアップ可能なアビリティに到達しているのは、すでに証明されたようなものだ。

 まぁ、もっともここからが大変なわけなんだが……。

 

 ランクアップするには『偉業』を為す必要がある。

 正確に言えば『より上質な経験値を会得すること』。

 

 つまり、普通ではない経験を体験しなければならない。

 それで最も有名なのが、格上のモンスターを倒すこと。

 

 人数がいるファミリアならば、大規模パーティーで下の階層―『中層』に下りて戦うことらしい。

 

 けど、俺にはテルリアさん以外のパーティーメンバーなんていない。

 流石に中層に下りる許可なんてスセリ様とミアハ様からは出ないだろう。

 

 つまり現状八方塞がりである。

 

 可能性があるのはインファント・ドラゴンのソロ討伐だが……。

 それならもっとLv.2の冒険者が増えてもいい気がするんだよな。

 

 まぁ、まだ俺じゃあ勝てる気がしないけど。

 

 つまり、俺もパーティーを増やすべきなんだろうが……。

 7歳児なのは変わらないんだし無理だよねって話に戻る。

 

 困ったもんだ……。

 

 とりあえず、今はコツコツとステイタスを上げるしかない。

 もう無茶はしないってスセリ様に約束したからな。

 

「じゃあ、行きましょうか。テルリアさん」

 

「はい!」

 

 年下だからタメ口でいいって言ってるんだけど、テルリアさんはずっと俺に敬語だ。

 まぁ、ほとんどの人に対して敬語なんだけどさ。

 命の恩人である俺にタメ口は難しいそうだ。

 

 もちろん、俺達の間に甘~い空気はない。

 だって、俺7歳児だから。

 

 まぁ、テルリアさんはエルフで長命ではあるから成長すれば分からんけど、今はないだろう。

 テルリアさんにショタコンの気はない。

 

 さて、今日もお世話になるとしよう。

 

…………

………

……

 

 そして、一気に11階層までやってきた。

 

『ウオオオオオオオッ!!』

 

「はあああああああっ!!」

 

 シルバーバックの雄叫びに応えるかのように、俺も叫んで刀を構えて斬りかかる。

 

 俺の4倍は楽にある大きさの野猿型モンスターは、太い腕を力強く振り下ろす。

 

 俺は紙一重でそれを躱し、一気に加速してシルバーバックの左足を斬りつける。

 

『ガアアアア!?』

 

 俺は足を止めずにシルバーバックの背後に回り込み、勢いよくジャンプしてシルバーバックの背中に刀を深く突き刺した。

 

『ギャガッ?!』

 

 シルバーバックは膝から崩れ落ちて、倒れ伏す前に身体を灰へと変える。

 俺は着地するもすぐにまた駆け出す。

 

 俺達の周囲にはまだオークやインプがいるからだ。

 

 テルリアさんは動き回りながら弓矢で牽制していたが、倒すまでは出来ていない。

 

 俺は全力で地面を蹴り、一気にモンスター達の群れの中に突っ込んだ。

 

「はあああああ!!」

 

 オークやインプの動きは熟知している。

 

 俺が彼らを殲滅するまで、5分と掛からなかった。

 

 

 

 周囲の全てのモンスターを倒し終えた俺は、岩に腰を掛けて体を休めていた。

 

 俺の近くではテルリアさんが魔石をせっせと集めている。

 申し訳ない気持ちで一杯だが、これが役割分担という奴らしい。

 

 組んだばかりの頃、手伝おうとしたらテルリアさんに見事に断られた。

 

「身体を休めつつ周囲の警戒をお願いします。私では突然生まれたモンスターの相手は出来ないので」

 

 こう言われたら、俺は大人しく従うしかなかった。

 

 特に11階層は広く、霧が濃い。

 全方位からの奇襲が十分にありえるのだ。

 

 シルバーバックやハード・アーマードなど油断できないモンスターもいるため、テルリアさんの言う通り戦える者は警戒に徹するべきだった。

 

「……人が増えてきたな……」

 

 今いる場所は比較的霧が薄い。

 故に他の冒険者が集まるのも仕方がない。

 

 基本的に他のパーティーがいるところは避け、不干渉が暗黙の了解なんだが……。

 

 今俺の周囲にいるパーティーは4つ。

 その内2つは俺達から離れようとしているが、残りの2つが妙に俺達や離れようとしているパーティーをチラチラと見て、微妙な距離を保っている。

 

 ……なんか、嫌な予感がするな。

 うなじ辺りがザワザワする。

 

 あいつらの視線……どこかで見たことがある。

 

 モンスターより連中の方を警戒した方がいいな。

 

 ……テルリアさんが魔石の回収を終えたら、今日は引き上げよう。

 

 そう決めた俺だったが、この判断をすぐに後悔することになった。

 

「うわああああああ!?」

 

「「!?」」

 

 悲鳴が広間に響き渡り、俺とテルリアさんは目を丸くしてそっちを見る。

 

 それと同時に俺は腰の刀を抜いて、岩から飛び降りる。

 

 あっちは……さっきの不気味な連中がいた……!

 

 その時、俺の耳にドドドド!と地響きのような音が聞こえ、地面が揺れる。

 

 おい……まさか……!?

 

「テルリアさん!! 逃げて!!」

 

「え!?」

 

怪物進呈(パス・パレード)だ!!」

 

「!!」

 

 テルリアさんは目を限界まで見開いて、顔を強張らせる。

 

 怪物進呈(パス・パレード)

 

 地球で言えば、『モンスタープレイヤーキル』に相当する行為だ。

 

 他のパーティーにモンスターを押し付ける、または巻き込む。

 それで自分達が逃げる隙を作るか、倒せない敵を倒す戦力にする。

 

 だが、怪物進呈の大半の理由は『逃げ』だ。

 

 そして、最も厄介な点は、逃げ続けることで周囲のモンスターを集め続けること。

 

 つまり、尋常ではない数のモンスター集団が襲い掛かってくるのだ。

 

「急いで近くの通路に!! 出来れば上への階段に走れ!!」

 

「は、はい!!」

 

 テルリアさんが駆け出し、俺もその後ろに続く。

 

 だが、そこに横から高速で矢が飛んできて、俺の足元に突き刺さった。

 

「!?」

 

 俺は横に跳んで躱し、目を向ける。

 

 そこにいたのは……。

 

「っ!! ゲーゼス……!」

 

 

「よぉ~久しぶりだなぁ。大きくなったじゃねぇかぁ」

 

 

 以前同様ニヤニヤと笑みを浮かべるゲーゼスと、奴と同じ格好をした男達。

 

 さっきの矢は奴らの1人が放ったものか。

 

 テルリアさんも連中に気づいて足を止めようとしたが、

 

「止まるな!! 早く上に!!」

 

「っ!!」

 

 俺が一喝して、テルリアさんはすぐにまた駆け出す。

 

 それにゲーゼスは更に口端を吊り上げる。

 

「相変わらずカッコいいねぇ。けど……いいのかぁ? そっちに逃がしてぇ」

 

「なに……?」

 

 

『『『『グゥオオオオオオオオ!!!』』』』

 

 

「!!」

 

 轟いた咆哮に、俺は弾かれたように聞こえた方角――テルリアさんが逃げた方角に顔を向ける。

 

 

「うわああああ!? なんでこっちからもモンスター達が来るんだよおおおお?!」

 

「ダメっ!! 階段まで間に合わない!! 追いつかれるわ!!」

 

「嘘だろ!? 嘘だアアアアア――!!」

 

 

 絶望の叫びが俺の所まで届いてきた。

 

 っ!! 怪物進呈の挟撃!?

 

 

「きはははははは!! 良ぃ~悲鳴だぜぇ! これだよぉ、これが聴きたかったんだよぉ!!」

 

 ゲーゼスが高笑いを上げる。

 

 けど、どうやって……!?

 調教師でもいるのか? でも……この数を操れるか!? 追い立てるにしても、囮になるにしても、かなりの犠牲を覚悟しないと……!

 

「知り合いによぉ、面白れぇ連中がいんだよぉ」

 

「知り合い……?」

 

「死兵ってぇのぉ? 死んだらぁ願いを叶えてやるぅって感じでなぁ」

 

「なっ……!?」

 

「それで本当に死ねるんだからスゲェよなぁ。俺にゃあ出来ねぇよぉ」

 

「じゃあ、あの怪物進呈は……」

 

「そぉそぉ、そいつらだぜぇ。今頃ぉ、あの中で自分からモンスターに突撃して殺されに行ってるんじゃねぇかぁ?」

 

 最悪の囮だ……!

 逃げるんじゃなくて、巻き込む。

 ターゲットと一緒に死ぬとか証拠もほとんど残らないし、そもそも悪意を証明できない……!

 

 これじゃあ……ギルドも闇派閥の仕業だとすることは不可能。

 でも、闇派閥からすれば十分な嫌がらせになる……!

 

「ここ最近ダンジョンで大人しくしてたのは……!」

 

「きひひひ……さぁなぁ? どうだろうなぁ?」

 

 こいつら……!!

 

 でも、今はそれどころじゃない!!

 

 俺はゲーゼス達を無視して、テルリアさんを救けに向かう。

 一気に全速力で駆け出して、大パニックに陥っている人とモンスターが入り混じる集団に飛び込んでいく。

 

「おぉおぉ。本当にカッコいいなぁ、坊主ぅ」

 

「ゲーゼスさん。そろそろ……」

 

「ちっ……しゃあねぇなぁ。あの坊主の苦しむ姿見届けたかったんだがなぁ。ったくよぉ……人使いが荒い主神様だぜぇ」

 

 ゲーゼス達が人知れず姿を消していることなど気付かなかった俺は、ただただ必死にテルリアさんを探していた。

 

 他の冒険者達も必死に武器を振って抵抗していたが、あまりにもモンスターの数が多く、どんどんその爪牙に倒れて行った。

 

 魔法を唱えようにも、ここまで乱戦になれば詠唱する余裕なんてない。

 武器を振ってモンスターを倒しても、残心を狙われてシルバーバックやハード・アーマードの強襲に倒される。

 

 しかも、モンスターのせいか分からないが、階段が砕かれていた。

 

 くそっ!! どこだ……! テルリアさん!!

 

 どこにも見当たらない。

 その事実が俺の不安をどんどん大きくする。

 

 そして、俺はようやくテルリアさんを見つけた。

 

 

 胸から血を流し、右腕と左脚が変な方向に折れ曲がって倒れている、テルリアさんを。

 

 

「テルリアさん!! テルリアァ!!!」

 

 名前を叫んで駆け寄り、刀を握ったまま抱き上げる。

 

「……ぁ……フ……ルさ……」

 

 テルリアさんは薄っすらと目を開ける。

 

「ポーションはどこだ!? バックパックはどうした!?」

 

 背負っていたはずのバックパックが見当たらない。

 

 ……いや、あった。

 

 少し離れた場所に、ボロボロに踏み潰されて原型を留めていないテルリアさんのバックパックが。

 

 弓矢も、俺が預けていた武器も、ポーションが入っていたであろうガラス瓶も、全て砕かれていた。

 

 そして、テルリアさんの血はまだ止まらない。恐らく内臓もやられている。

 

「っ……!!」 

 

 駄目だ……。俺のポーションじゃあ……止血も出来ない……!

 止血できても、もう血を流し過ぎている。地上まで……保たない……。 

 

 俺が歯を砕かんばかりに噛み締めていると、オークとインプが俺達に迫ってきた。

 

「っ!!」

 

 俺は素早く、かつ丁寧にテルリアさんを下ろし、

 

「邪魔、するなああああ!!」

 

 叫びながら刀を振り抜いて、オークの首を刎ねる。

 そして、隣にいたインプを頭から胸半ばまで両断する。

 

『ギィア!?』

 

 モンスターを倒し、テルリアさんの元に戻ろうとするが、続いてシルバーバックとオークが迫って来ていた。

 

「くそっ!!」

 

 どうやら、もうほとんどの冒険者が倒れたようだ。

 このままじゃ俺も共倒れになってしまう。

 

 けど……けど……テルリアさんを見捨てることなんて出来るかああ!!

 

「はああああああああ!!」

 

 俺は雄たけびを上げて、シルバーバックへと走る。

 

 シルバーバックは太い腕を振り上げて、俺を叩き潰そうとする。

 その腕が振り落とされる瞬間、俺は急転換してすぐ近くにいたオークの背後に回って全力で蹴り飛ばす。

 

『ブギィ!? ブギャ――』

 

 蹴り飛ばされたオークはシルバーバックの腕に叩き潰される。

 

『ガァ!?』

 

 驚いたシルバーバックの隙を突き、俺は一気に懐に入り込んで胸を一刺しする。

 

 シルバーバックの胸を蹴って、刀を抜きながら跳び下がり、テルリアさんの傍に戻る。

 

 だが、まだまだモンスター達がおり、俺達を囲もうとしていた。

 

 しかも、最悪なことに、最初に見つけた怪物進呈のモンスター達もすぐそこに迫っていた。

 

「くっ……!! どうすれば……!」

 

「……【――天の、怒りは……此処に、在る】」

 

「!! テルリアさん!?」

 

「【空を、裂け……大気、を焼け……地を貫、け……。憤怒を纏い、て……裁きの……雷……と化せ。トールの、鉄槌を……此処に……】」

 

「駄目だ!! テルリアさん!! そんな状態で魔法を使えば……!!」

 

 魔力暴走して、身体が粉々になってしまう!!

 

 けど、テルリアさんはしっかりと俺を見据えて、左手を震わせながら持ち上げて俺に向ける。

 

「……ごめんなさい。私、は……あなたの……足を引っ張って、ばかりだった……」

 

「そんなことはいい!! だから、魔法を――」

 

 

「生きて……ください。【ミョルニル・アルマトスィア】……!!」

 

 

 俺の頭上に魔法陣が展開され、俺に雷が注がれる。

 

 直後、テルリアさんの瞳から光が消え、左腕が地面に落ちる。

 

 テルリアさんの目は開かれたまま、無機質な瞳は紫電輝く俺を映していた。

 

 だが、その目にはもう……俺は、映っていない。

 

 

「っ――!! うぅアアアアアアアアアアアアアアアア!!!

 

 

 俺は込み上げてきた衝動に逆らわず、逆らえず、喉がはち切れんばかりに叫ぶ。

 

「アアアアアアアアア!!!」

 

 そして、叫びながら背中の刀を抜き、僅かに腰を落とした次の瞬間には地面を蹴り砕いて飛び出し、まさしく雷が如くモンスターの群れの中を高速で駆け抜ける。

 

 通り抜けざまに刀が届く範囲にいる全てのモンスターを焼き斬り、灰塵と化す。

 

 俺は足を止めずに、すぐさま方向転換して再びモンスターの群れの中に突っ込む。

 

 

 ふざけるな!! ふざけるな!!!

 

 また守れなかった!! しかも、もう取り返しもつかない!!

 

 アビリティSになっても、仲間1人救えない!!

 

 それどころか命を捨てさせて、支えてもらってるじゃないか!!

 

 

 刀二本をがむしゃらに振り回して、目に映るモンスター全てに斬りかかり、焼き斬る。

 

 

 これが冒険者の末路!?

 

 ああ、そうだろうさ!! 間違ってない!! これだって冒険者からすれば、どこにでも溢れている死に様だ!!

 

 今だって他の階層で同じことが起こっているかもしれない!! 明日にもまた起こるかもしれない!!

 

 だから、受け入れるしかない!?

 

 ふざけるな。ふざけるなふざけるなふざけるな!!!

 

  

 インプを胴体で上下に断ち、オークの身体を斜めに斬り、ハード・アーマードの胸を穿ち、シルバーバックの首を刎ねる。

 

 身体に降り注ぐ血は雷で蒸発し、焦げた鉄の臭いが充満する。

 

 

 あぁ……妬ましい……!! 俺の知る英雄達全員が!!

 

 聡明な【勇者】が妬ましい、屈強な【猛者】が妬ましい、端麗な【九魔姫】が妬ましい、豪胆な【重傑】が妬ましい、才能豊かな【剣姫】が妬ましい、信念ある【不冷】が妬ましい、器量豊かな【万能者】が妬ましい、癒す力を持つ【戦場の聖女】が妬ましい、復讐に身を落としても求められる【疾風】が妬ましい!!

 

 そして、下らぬと笑われる理想を追い求め、突きつけられる容赦ない現実にも負けず、英雄へと駆け上がる【リトル・ルーキー】が。

 

 心の底から妬ましく、そして……羨ましい。

 

 

『『『――オオオオオオオオオオオ!!』』』

 

 

「!!」

 

 これまでとは比べ物にならないプレッシャーが込められた咆哮。

 

 俺だけでなく、他のモンスター達も動きを止めて、同じ方角を見る。

 

 

 そこにいたのは、3体のインファント・ドラゴン。

 

 

 11、12階層に数体としかいない希少モンスターにして、上層最強の竜種。

 

 個体によってはLv.2にも匹敵するかもしれない上層の階層主が――3体。

 

 1体であっても、基本的にその場にいる全てのパーティーでの討伐が暗黙の了解となっているインファント・ドラゴンが3体。

 

 対して冒険者は、俺1人。

 

 絶望でしかない。

 

 

 でも……俺は生き延びないといけない。

 

 

 だから。

 

 

「上等だ……!! 殺してやる! 生き残ってやる!! 勝ち残ってやる!!!」

 

 もう少しだけ、力を貸してくれ。

 

 テルリアさん!!

 

 

「ヅアアアアアアアアアアア!!!」

 

 

 俺が叫ぶと、纏う雷が大きくなった気がする。

 

 だが、今はそんなことはどうでもいい。

 

 今はただ……あのクソ竜を殺す事だけ考えろ。 

 

 

「オオオオオオオオオオオオ!!!」

 

『『『オオオオオオオオオオオオ!!!』』』

 

 

 俺とインファント・ドラゴン達は間にいるモンスター達を斬り捨て、踏み潰しながら互いに距離を詰める。

 

 そして、俺は竜の首へと飛び掛かるのだった。

 

 

…………

………

……

 

 

 ダンジョンの中を数人の冒険者が猛スピードで駆け抜けていた。

 

「シャクティ。情報は事実なのかい?」

 

「分からん。だが、ギルドが慌てて依頼してきたんだ。事実である可能性は高い」

 

 青のショートカットに槍を携える美女。

 【ガネーシャ・ファミリア】団長、【象神の杖(アンクーシャ)】シャクティ・ヴァルマ。

 

 その後ろには仮面を被った屈強な男達。

 【ガネーシャ・ファミリア】の団員達だ。

 

 それと並走しているのは、同じく槍を携える金髪の小人族、【勇者】フィン・ディムナだ。

 その後ろにはリヴェリアとガレスもいる。

 

「ただの怪物進呈ではないと?」

 

「ああ。ギルドの報告では闇派閥の手の者による怪物進呈らしい。ギリギリで免れた冒険者がギルドの受付で大声で叫んだようだ」

 

「なるほどね」

 

「ならば、問題は間に合うかどうかじゃな」

 

「ああ。……正直、絶望的だろうが……」

 

 ギルドへの報告からシャクティ達が出撃するまで1時間。

 

 つまり発生から2時間近く経過している可能性が高い。

 

「上級冒険者がいればいいけど……それでも限界はあるだろうね」

 

 一行に重苦しい空気が漂う。

 

 その時、

 

 

ドオオオオオォォン!!

 

 

 目的地付近から轟音が響き渡った。

 

「これは……!」

 

「まだ誰か戦っているのか……!?」

 

「急ごう!!」

 

 フィンの号令に全員が速度を上げる。

 

 そして、11階層の広間に到着したフィン達が目にしたのは、

 

 

 夥しい量の魔石と、冒険者の死体が転がる地獄のような世界だった。

 

 

 本来灰色に彩られた草と枯れ木の広間は、血で真っ赤に染まっていた。

 

「これは……」

 

「本当に上層なのか疑いたくなるわい……」

 

「さっきの音の原因は……」

 

「!! あそこ!! 生きている者がいる!!」

 

 シャクティが指差した先。

 

 

 そこには、血の海の真ん中に立つ荒く息を吐いている血塗れの少年が立っていた。

 

 

「あの子は……」

 

「確か……」

 

「フロル・ベルム……」

 

 リヴェリア、ガレス、フィンはかつて助けた少年の姿に目を見開く。

 

「救護者を探せ!! 周囲の警戒も怠るな!!」

 

「「「「「はっ!!」」」」」

 

 シャクティが団員達に指示を出して、下に下りていく。

 フィン達もそれに続いて、フロルの元へと歩み寄る。

 

 

「はっ……はっ……はっ……はっ……はっ……はっ……はっ……はっ……」

 

 

 フロルはその場から動かず、俯いて浅く息を吐いて佇んでいた。

 

 左手に握る刀は半ばから折れ、右手の刀にもヒビが入っている。

 防具のほとんどが砕けており、腰の鞘はなく、背中の鞘は砕けていた。

 

 頭から血を被っているせいか、どれほど怪我をしているのか分からない。

 

「……フロルど――」

 

 フィンが声をかけながら一歩歩み寄ろうとした時、

 

「!!!」

 

 フロルが勢いよく顔を上げて、フィンに斬りかかる。

 

「「「!?」」」

 

 フィンは目を丸くして、フロルの荒々しくも未熟な斬撃を槍で受け止める。

 

 その瞬間にフロルの目が正気でないことを、フィンは見抜いた。

 

(極限状態で理性の箍が外れたのか)

 

「ガレス、僕が武器を弾く。その隙に押さえ込んでくれ」

 

「了解じゃ」

 

 だが、その時。

 

 フロルが突如顔を他の方向へ向けた。

 

 それにフィン達も視線を動かし、映ったのは1つの死体に近づく【ガネーシャ・ファミリア】の男性団員。

 

「があああああああ!!!」

 

 すると、フロルがフィン達を無視して、その男性団員へと駆け出した。

 

 すかさずフィンは警告を叫ぶ。

 

「離れろ!!」

 

「え? ひっ!?」

 

 男性団員は凄まじい速さで迫るフロルを目にして、情けない悲鳴を上げながら慌てて逃げ出す。

 

 フロルは死体の傍まで移動すると、それ以上男性団員を追わずに死体の傍で足を止める。

 

「はー! はー! はー! はー! はー! はー!」

 

 荒く肩で息をするフロル。

 

 その姿にフィン達を始め、シャクティ達もフロルに意識を向ける。

 

 フィン達はフロルの足元に倒れている死体へと目を向ける。

 

「……エルフ、か」

 

 ハイエルフであるリヴェリアが小さく呟き、その瞳に哀愁の色が宿る。

 

 フィンは周囲にも視線を向け、ある事実に気づく。

 

「……彼は凄いな」

 

「どうしたんじゃ? フィン」

 

「恐らく彼女は彼のパーティーメンバーだったんだろう。そして、彼は彼女を守るためにここで戦い続けたのさ」

 

「……だが、守り切れなかった、か」

 

「いや、そうじゃない」

 

「……なに?」

 

「周りをよく見るんだ、リヴェリア。彼女の死体だけ、モンスターに荒らされていない」

 

「「!!」」

 

 フィンの言葉にリヴェリアとガレスは目を丸くして、周囲に転がっている冒険者の死体を見渡す。

 

 フィンの言う通り、周囲の死体はほぼ例外なく踏み潰され、食い千切られ、原型を留めていなかった。

 

 そんな地獄絵図の中で、ただ1つだけ綺麗に残っている遺体。

 

 そして、それを守るフロル。

 

 それが意味することを、その場にいる全員が理解した。

 

「彼女のために……これ全てを、たった1人で?」

 

「恐らくね。本当に、なんて子だ……」

 

「じゃがどうする? それだけの強固な意志を鎮めるのは容易ではないぞ」

 

「彼の傷も気になる。さっき話した通り、僕とガレスで押さえよう」

 

「やるしかないか」

 

 ガレスが頷くのと同時にフィンが駆け出し、ガレスが続く。

 

 それにフロルが反応し、フィンに高速で斬りかかる。

 フィンはそれを槍で弾き、素早く回して石突を突き出す。

 

 すると、フロルが折れた刀で受け止めたかと思った瞬間、身体を横にして槍の上に身体を乗せた。

 

「!!」

 

 フィンは目を軽く見開き、フロルは鋭く右足を振り抜いた。

 

 フィンは身体を大きく仰け反らして躱し、槍を振り上げる。するとフロルは槍を足場にして跳び上がり、フィンの背後に回ろうとする。

 

「……ははっ。(本当になんて子だ。体術はすでに上級冒険者レベルと言っていい)」

 

 素直にフロルの動きを称賛する。

 

「けど……」

 

 フロルが地面に着地する瞬間、フィンが今まで以上の速さで動き、槍を振る。

 

「そう簡単にステイタスの差は埋まらない」

 

 

パキィン!

 

 

 フロルの刀が二振りとも根元から折れる。

 

 そして、フロルの鳩尾に石突が鋭く突き込まれ、フロルは後ろに吹き飛ぶ。

 

「おっとぉ」

 

 そこをガレスが体で受け止める。

 

 フロルが抜け出そうと暴れ出すが、

 

「これ、大人しく、せんか!」

 

ガァン!

 

 ガレスが兜を被った状態で頭突きを放ち、フロルの後頭部に叩き込まれる。

 

 フロルはそれで意識を失い、ガクリと首を折る。

 

「ガレス……」

 

「お前という奴は……。もう少し優しく出来んのか」

 

「がっはははは! 随分と暴れん坊じゃったからな!」

 

 フィンが苦笑し、リヴェリアがため息を吐いて小言を言うが、ガレスは笑って受け流す。

 

 その後、リヴェリアがフロルの治療を始め、一段落したところにシャクティが歩み寄ってきた。

 

「残念ながら闇派閥の仕業と断言できる証拠は出なかった。恐らくあの死体のいくつかがそうなのだろうが……判別は不可能だ」

 

「だろうね……」

 

「ふん。胸糞悪くなるやり方じゃな」

 

「この後はどう動く?」

 

「これ以上ここでの調査は難しいだろう。もうすぐ到着する後続部隊に魔石と遺品の回収をさせる。私は残り、引き続き指揮と警戒に務める」

 

「なら、僕達は彼と……彼女を連れて帰ろう」

 

「分かった」

 

「シャクティ、分かってると思うけど――」

 

「魔石は彼のものだ、だろう? 分かっている。我々の報酬はギルドから出る。猫糞するつもりも、させるつもりもない」

 

「助かるよ」

 

「あなたに礼を言われることじゃない。彼に敬意を払っているだけだ」

 

 シャクティはガレスに抱えられているフロルの頭を優しく撫でて、指揮に戻っていく。

 

 その後、フィン達はフロルとテルリアを連れて、地上へと戻るのだった。

 

 




ごめんなさい……テルリアさん

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