【ライトニング・サムライ】~転生者はダンジョンで英雄になりたい~   作:独身冒険者

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転生した男は二つ名を得る

 【ランクアップ】を報告して一週間。

 

 いつの間にやら、世界最速【ランクアップ】最年少記録保持者となっていた。

 

 いや、だから俺は恩恵を頂いて2年なんですって。

 

「まぁ、2年にしても早い方じゃし、2年で見ても最年少なのは間違いないと思うぞ?」

 

 と、スセリ様に言われて撃沈したけどさ。

 

 まぁ、数年もすれば塗り替えられるんだ。気にするだけ無駄か。

 

 さて、【ランクアップ】した俺だが、あれからダンジョンには行っていない。

 あの事件からまだそんなに時間が経っていないというのもあるが、パーティーメンバーがいないというのが問題だった。

 

 だが、【ランクアップ】したばかりの俺がパーティーメンバーを募集すれば、確実に騒動になる。

 かといって懇意のファミリアなんて【ミアハ・ファミリア】くらいだ。

 

 だがテルリアさんのことを考えると、もう声をかけるわけにはいかない。

 せめて、自衛の術をしっかりと身に着けている冒険者でなければ、俺が落ち着かないだろう。

 

 なので、当分はスセリ様とまた鍛錬をして向上したステイタスのズレに慣れることと、魔法の練習をすることになった。

 

 魔法に関しては精神疲弊(マインドダウン)や反動がどれほどなのかしっかりと把握しておく必要がある。

 

 下準備はしっかりとしなければならない。

 その大切さを俺は嫌というほど理解させられた。

 

 だが、その前にある試練が待ち構えていた。

 

 

 『神会(デナトゥス)

 

 

 三カ月に一度開催される神の会合である。

 

 そこで【ランクアップ】した者の二つ名が決められる。

 

 今まで参加資格がなかったスセリ様も今回から参加することが出来る。

 神会では他にも闇派閥への対応なども話すことになるため、最近では特に重要な情報交換の場となっている。

 

 だが、俺は知っている。

 

 二つ名が神々の娯楽で決められるということに。

 

 未だ団員1人の超弱小ファミリアである俺達なんていいカモだろう。

 碌でもない二つ名が付けられそうな気がしてならない。

 

 アニメでは皆堂々と名乗っているが、正直俺はご遠慮願いたいものが多かった。

 スセリ様とミアハ様の話では、どうやら神にとってはイタイ二つ名だが、俺達眷属は逆に喜ぶらしい。

 

「どっちがズレとるのか分からんが、そのせいで神共は楽しんでおるの」

 

「俺は神様寄りの感覚です!」

 

「おそらくそっちの方が辛いぞ?」

 

「うああああぁぁ……!」

 

 新興ファミリアの眷属の二つ名なんてカモじゃないか……!

 神会ではファミリアの規模がそのまま格付けになっているのだから。

 

「安心せい。変な二つ名を付けようものなら、大暴れしてきてやるわい」

 

「それもそれで吐血しそうです」

 

「かっかっかっ! それもまた成長の糧よ。妾の眷属となった以上、諦めるんじゃな」

 

 高らかに笑って、スセリ様は神会へと向かった。

 

 俺はそれを正座して見送り、しばらくは掃除をしたり、武器の手入れを行っていたのだが……全く落ち着かないので、鍛錬を始めることにしたのだった。

 

 

…………

………

……

 

 『神会(デナトゥス)』が開催されるのはバベルの三十階。

 

 一フロア丸々を使った大広間。

 都市が見下ろせるようにガラス張りになった壁に、ポツンと広間の中央に置かれた円卓。

 

 神しか足を踏み入れられない神秘的なその広間に集まるのは、

 

 

 娯楽を求める神と、【ランクアップ】した子供に良い二つ名を付けさせたいと気合を入れている神である。

 

 

 スセリはそんな聖魔の巣窟へ、堂々と足を進めていた。

 

 胸を張り、好戦的な笑みを浮かべ、自信に満ち溢れさせる女神に歩み寄る神影があった。

 

「スセリヒメ」

 

「ん? おお、ヘファイストス。それにミアハ」

 

 煌びやかな紅髪を後ろで束ね、右目に眼帯を付けた美女。

 服装は白のシャツに黒のアームカバー、そして黒のスラックスと男装の麗人を思わせる。

 

 鍛冶神ヘファイストス。

 

 オラリオ最大の鍛冶系ファミリアにして、天界随一の鍛冶師。

 神の力を封じられて尚、その腕は子供の追随を許さない。

 

 そして、ミアハである。

 

「気合入ってるみたいだけど、あんまり派手に暴れないでちょうだいよ? ここは天界とは違うんですからね」

 

「分かっておるわい。我が愛し子で遊ばねば、暴れる理由はない」

 

「……だから言ってるんじゃない……」

 

「スセリヒメが身内の者を揶揄われて、我慢出来るわけなかろう。フレイヤにすら喧嘩を売ったのだからな」

 

「神々が下界に下りる前の話じゃろう、それは」

 

「まぁ、私としてもフロルには良き二つ名が付いてほしいと思っておるよ。……あの子の魔法を引き継いだフロルにはな」

 

「うちの椿も気にかけてたわね。まぁ、あんな小さい子ならしょうがないのかもしれないけど」

 

「お? お~! ファイたんに、ミアハ! それにスセリヒメやないか!」

 

「あら、ロキ」

 

 朱色の髪に細目がちの朱い瞳、そして平原のような胸板の女神。

 

 【勇者】フィンが率いる現オラリオ最強派閥の一角【ロキ・ファミリア】主神、ロキである。

 

「聞いたでぇ、スセリヒメ。お前んとこの子ぉ、冒険者になった1年で【ランクアップ】したらしいな~」

 

「眷属にしてからは2年じゃがの」

 

「それでも十分早いやろ。うちんとこのフィン達も盛り上がっとったで?」

 

「お前のとこの子供には世話になっとるからのぅ」

 

「どっかで返してや~。あ、うちのファミリアに――」

 

「あ?」

 

「うん、ウソウソ。冗談や冗談、アハハ~」

 

 くだらない会話をしながら、大広間に入るスセリ達。

 

 すでに大勢の神が円卓に座っていたり、ガラス張りの壁から下を見下ろして「ふははは!! 見ろ! 人が蟻のようだ!!」と何やら叫んでいたり、「俺がガネーシャだ!!」「うん、知ってる」と盛り上がる者がいたり、何故かストレッチをしている神、そして両目を瞑り、微笑を浮かべて静かに座っている銀髪の女神、そしてその様子を忌々し気に睨みつける露出が激しい衣装を身に纏った褐色肌の女神など様々に神会に備えていた。

  

 スセリ達はさっさと並んで椅子に座る。

 

 初参加のスセリに視線が集中するが、スセリは腕を組んで目を瞑り、一切気にする様子はない。

 

「落ち着いとるなぁ」

 

「スセリヒメがこの程度で緊張するわけないでしょ?」

 

「それもそやな」

 

 ロキが肩を竦めて、頭の後ろで腕を組む。

 すると、1人の男神が椅子から立ち上がる。

 

「さて、そろそろ始めようじゃないか」

 

 羽根つきの鍔広帽子を被り、旅人の服装をしている優男。

 

 奔放の神、ヘルメスだ。

 

 ヘルメスの声掛けに大広間にいる神達は速やかに席につく。

 

「それでは、神会を始めようか! 今回の司会進行は俺、ヘルメスが務めさせてもらうぜ」

 

 ヘルメスは両手を広げて、愛嬌ある笑みを浮かべる。

 

「まずは情報交換から始めよう。と言っても……今回の主な主題は、やはり闇派閥かな? オラリオ内での騒動はもちろん、ここ最近ダンジョンでの怪物進呈による死者が続出していたのも、彼らの手引きによる可能性が出てきた。そうだね? ガネーシャ」

 

「俺がガネーシャだ!!」

 

「知ってるよ」

 

「早よ話せ」

 

「うむ! この前の11階層での騒動で、目撃証言が取れたゾウ!! だが、残念ながら証拠はない!」

 

「というと?」

 

「彼奴らは自身を犠牲にして怪物進呈を引き起こしていたのだ!! 死後に願いを叶える、という約束の元にな!!」

 

「うへぇ……えげつね」

 

「子供を死なせてまで、私達の子を殺したい神がいるってこと?」

 

「まぁ、邪神連中やったら企んどってもおかしくないわな~」

 

「天に還った子供の願いなど叶えられるわけがないというのに……」

 

「それもまた娯楽なのじゃろうて。神ですら叶えられぬ願いを信じて命を捨てる子供に、その子供の自殺に我らが愛し子らが巻き込まれて死に、苦しむ姿を見るのがの」

 

「相変わらず捻くれた連中だね」

 

 その後も真面目不真面目が入り混じりながら意見を出し合う。

 

 だがしかし、有効的な具体策までは出ず、『警戒と情報交換に務める』というありきたりな内容に纏まった。

 

 神会に出席するファミリアは探索系、鍛冶系、薬師系、商業系など様々である。

 

 故に闇派閥への脅威の感じ方に温度差があるのだ。

 

 更にファミリア同士の関係性もある。

 

 【ロキ・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】は都市最強を取り合っており、【ディアンケヒト・ファミリア】と【ミアハ・ファミリア】も仲が悪い。

 更に【フレイヤ・ファミリア】は【イシュタル・ファミリア】ともいがみ合っている。

 

 やはり派閥が大きくなればなるほど、派閥同士の関係もそう簡単に無視できるものではない。

 

 その結果、ありきたりな纏めになるのは仕方がない。

 

 その他の弱小ファミリアは、下手に口出しして戦争にでもなったら敵わないのでトップ派閥の言い分に従うしかない。

 場合によっては手助けを請う可能性があるのだから。

 

 ヘルメスはパン!!と手を叩いて、場の空気を切り変えさせる。

 

「それじゃあ、お次は……見事『偉業』を為し、我らが恩恵を昇華させた子供達の任命式だ!!」

 

「「「「「イヤッフウウウウウゥゥゥゥ!!!」」」」」

 

 待ってましたとばかりに声を上げる神々。

 

 暗い話題ばかりだからこそ、ここぞとばかりに盛り上がる。

 

 一方、顔を強張らせる神々もいる。

 今回二つ名を決めてもらう側の神々だ。

 

 ちなみにスセリは余裕の表情で座っている。

 

「さっそく行こう! 最初は……【ハルモニア・ファミリア】のサイーダ・ベットちゃんだ!」

 

「お、お願いよ? 女の子なんだから笑われる名前は――」

 

「「「「断る!!」」」」

 

「イヤァァァァァァァ!!」

 

 顔を両手で覆って崩れ落ちる女神を、他の神々はニヤニヤと厭らしい笑みで見つめる。

 

 この後、同じ目に遭うであろう神々は崩れ落ちた女神を憐れみの目で見つめるが、救いの手は伸ばさない。

 

 そして、遂に二つ名が決定した。

 

「決定! 冒険者サイーダ・ベット、称号は【可憐魔女(プリティア・ウィッチ)】」

 

「ごめんなさいサイーダァァァァァァァ!!!」

 

 遂に泣き出した女神。

 

 だが、彼女は知らない。

 与えられたサイーダ本人は、女神が泣き崩れた二つ名を嬉々と名乗ることを。

 

 これが神会の悲劇である。

 

 神々からすればどう聞いても痛々しい二つ名を、カッコいいと喜んで誇らしげに名乗る子供達。

 

 その両者を指差して床を転げ回るのが、名付けた神々の特権なのだ。

 

 その後も悲劇が量産されていき、遂にフロルの番が来た。

 

「さぁ、次は期待の新星だ。スセリヒメ唯一の眷属、フロル・ベルム君だ!」

 

「眷属になって2年、冒険者になって1年でランクアップかぁ。しかも7歳。どっちにしろ最年少記録だな」

 

「しかも、例の11階層事件の唯一の生き残り。モンスター100体以上討伐して、その内3体はインファイト・ドラゴン、ね。確かにランクアップしてもおかしくはないわね」

 

「下界に来てから全然眷属を作らなかったのに、いきなりこんな子引き当てるってスセリヒメも運がいいな」

 

「いや、こいつってスセリヒメが鍛えたんだろ?」

 

「雷の付与魔法まで発現してるのか。ヒューマンの子供なのに本当に凄いな」

 

「しかも、複数の武器まで扱えんのか?」

 

「スセリヒメ様マジどんなスパルタ?」

 

「体験してみるか?」

 

「「「「「結構デス!!」」」」」

 

「で? どんな称号にする?」

 

「男ではあるけど、子供だしなぁ。それに……」

 

 

((((((スセリヒメの子だからなぁ))))))

 

 

 ほぼ全員が同じことを考えていた。

 

 そして、その考えをスセリヒメはもちろん見抜いており、フッと柔らかな笑みを神々に向ける。

 

 それに「あれ? もしかして遊んでいい?」と神々が思った瞬間、

 

 

ヒュンッ!

 

 

カァン!!

 

 

「「「「「「 え? 」」」」」」

 

 一瞬スセリヒメの右腕がブレ、何かが空気を切り裂く音と何かが突き刺さった音が大広間に響く。

 

 何が起こったのか理解できない神々が唖然としていると、ヘルメスが口を開いた。

 

「あ、あはははは……。あ、あの……スセリヒメ、様?」

 

 ヘルメスは顔を青くして頬を引きつかせながら、視線を右へと向けていた。

 

 

 長さ20cmほどの針が、ヘルメスの右耳ギリギリのところを掠め、椅子の背もたれに突き刺さっていた。

 

 

 その光景に神々はスセリヒメへと視線を向ける。

 

 スセリヒメは変わらず柔らかな笑みを浮かべたまま、右手に数本の針を指の間に挟んで胸の前に掲げていた。

 

 それに遊ぼうと考えていた神々は顔を青くする。

 

「おぉ、すまんのぉ、ヘルメス。手が、ちと滑ってしもうた。()()()()()()1()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「は、ははは……。じょ、冗談――」

 

「に、なるかどうかは……これから次第じゃのぅ」

 

 

 我が愛し子で遊んだら殺す。

 

 

 大広間にいる神々は正しく意味を受け取った。

 

「確かに妾のファミリアは超弱小であるし? 子供達は基本的に神を手にかけることは出来ん。……が、神同士であれば、話は別よなぁ?」

 

「「「「「……!」」」」」

 

「うちのフロルはLv.2となったのは事実じゃし、魔法を使い本気を出されれば流石に勝てぬが……。未だに体術や武器の扱いでは、妾の方がまだ上なんじゃよ」

 

「「「「「……!!」」」」」

 

「じゃ~か~ら~」

 

 スセリは左手を円卓にゆっくりと乗せ、その手に力が込められた瞬間、

 

 

ビシリ!!

 

 

 と、ヒビが入った。

 

 その意味合いを神々は嫌でも理解させられた。

 

 

 『神力(アルカナム)』がなくとも、妾はお前らを捻り潰せる。

 

 

 スセリはニヤリ、と柔らかな笑みを好戦的な獣の嗤いへと変えた。

 

「はぁ……やっぱり」

 

「くくくっ! さっすがスセリヒメやなぁ。派閥の力なんぞ知ったこっちゃあらへんってかぁ」

 

「フロルがまた気苦労しそうだな」

 

「……ふふ」

 

 赤髪の女神はため息を吐いて額に手を当て、朱髪の女神が心底愉快と笑い、群青髪の男神は小さき戦士を憐れみ、銀髪の女神はその微笑を更に深める。

 

「神々の娯楽。大いに結構。妾もそれを否定する気も、拒絶する気も無い。じゃが……此度の妾の愛し子の『偉業』とやらは、多大なる犠牲と後悔の元で為されたもの。あの事件で天へと還った子達……ここにおる神々、ここにおらん神々の愛した眷属達を見殺しにしたと、泣いて懺悔した優しき子の想いを。それすらも笑いものにするのであれば、妾達は闇派閥にも劣る犬畜生じゃと妾は思うが? それでも良いというのであれば……妾は喜んで【暴虐】の汚名を被ろうではないか。それもまた、『娯楽』であろうよ。なぁ?」

 

 嫉妬と激情の女神の言葉が大広間に響く。

 

 有無を言わせぬ覇気を纏い、神々を鋭く見据えるスセリ。

 

 それに見据えられた神達は、背筋に怖気が走り、身体が震えた。

 

 そこにソロリと針を抜いたヘルメスが、頬を引き攣らせながら、

 

「そ、そうだね! スセリヒメの言う通りだ! 我々のファミリアを代表して、命を懸けてくれた勇士達にもっと敬意を持って考えようじゃないか! なぁ、そうだろう皆の衆! そうだろう? そうだよな? そうだな?!」

 

「「「「「その通りだ!!」」」」」

 

 スセリの脅迫に屈した神々は物凄い勢いでヘルメスに同意する。

 

「うおおおお!! 流石はスセリヒメだな!! ガネーシャ、超感激!!」

 

「まぁ、あのスサノオの娘やしなぁ。こういうことにはホンマ頼りになるやっちゃで」

 

「といっても、自分の眷属の時だけなんでしょうけどね」

 

「今まで黙っていたのだからそうなのであろうな」

 

「変わらないわね、スセリヒメ。……これなら、少しは退屈せずに済みそう」

 

 こうして、スセリに屈服した神々によって、フロルの二つ名が決まった。

 

 数時間後、神会で決められた二つ名がギルド本部の巨大掲示板に張り出された。

 

 冒険者はもちろん、一般人や商人達も新たな逸材達の称号を見に来ていた。

 

 今回はいつもより多くの人が掲示板を見に来ていた。

 

 その理由は唯一つ。

 

 世界最年少と呼ばれた少年冒険者の称号だ。 

 

「あ! あれだ!」

 

「どれどれ!?」

 

「おい、どけよ! 見えねぇ!」

 

「うわぁ、カッコいいなぁ!」

 

「俺らも負けてられねぇぞ!」

 

 

 誰もが小さな戦士の二つ名に盛り上がる。 

 

 

 【スセリ・ファミリア】所属、フロル・ベルム。

 

 

 与えられた称号は――【迅雷童子】

 

 

 




ルビはありませんよ笑

ここまでが一章となります。
連続投稿はここで一度ストップです。

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