【ライトニング・サムライ】~転生者はダンジョンで英雄になりたい~   作:独身冒険者

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さて、二章はファミリア拡大編です
一気に仲間が集まります!(なんで?)
連投その1


集まれ愉快な仲間達
極東から来た鍛冶師


 俺の二つ名が【迅雷童子】に決まった。

 

 変なルビが付かずにホッとしているが、それでもやはり二つ名が付くのは背中が痒くなる。

 

 流石にそれは口にしないけど。

 

「妾に感謝するんじゃぞ? お前のために暴れてきてやったんじゃからな」

 

「……え゛。ほ、本当に……?」

 

「嘘などついてもしょうがなかろう。思い切り脅してやったわい」

 

「……」

 

 自慢気に話すスセリ様を前に俺は崩れ落ちてしまった。

 

 な、何してん……!?

 

 しかし、スセリ様と共に帰ってきたミアハ様が言うには、おかげで今後イタイ二つ名を付けられる被害者が減るやもしれないらしい。

 

「本来はその『偉業』を讃え、労うための称号であったのだが、ここ最近は妙に新参のファミリアを揶揄う場になっておってな。それがスセリヒメのおかげであるべき形に僅かだが戻ったのだ」

 

「……はぁ」

 

「故に感謝している神も多い。特に神会新参の神やこれから参加するであろう神からはな。それと……私を含め、あの事件で子供達を失った神もな」

 

 なので、俺達に害が及ぶ可能性は少ないらしい。

 

 更にスセリ様の嫉妬は神々の間では有名な話らしく、俺を引き抜こうとする神もいないだろうとのこと。

 

 スセリ様の武力は冒険者にとってはともかく、神々にとってはかなり絶望的らしい。

 まぁ、基本的に下界の人間達は、敵対する神であろうと危害を加えるのは禁忌とされているからなぁ。

 

 けど、神様同士はそんなルールはない。

 

 一応ギルドから罰則などが決められているが、その気になれば知ったことではないと言い切れるし、ギルドが干渉できるのはあくまで『ファミリア』だ。

 神個人で動かれると、止めようがない。

 

 なので、体術においてはLv.2の冒険者ですら相手取れるスセリ様は、神すらも素手で殺せる恐怖の象徴でもあるらしい。

 

 ……うん。いいことなのかどうか判断出来ん。

 それって下手したら、スセリ様を追放、送還するって動きに出るファミリアが現れるんじゃないか?

 

「それはどこのファミリアでも同じことよ。悩んだところで、どうせいつかは他のファミリアとはいがみ合うようになるわい」

 

「……まぁ、それは……」

 

 レベルがもっと上がって、団員も増えていけば、俺達の勢力拡大を阻止しようとするファミリアが必ず現れるだろう。 

 それは当然の流れだ。

 

 いずれは【フレイヤ・ファミリア】や【ロキ・ファミリア】とだってそうなるかもしれない。

 

 結局強くなる必要があるのは変わらないってことか。

 

「頑張るんじゃぞ」

 

「はい!!」

 

 つまり、俺がやることは何も変わらないってことだ。

 

…………

………

……

 

 

 それから数日。

 

 俺は相変わらずスセリ様に投げられて、地面を転がっていた。

 

「ふははは! 二つ名を得ようがお前がヒヨッコなのは変わらんのぉ、ヒロ」

 

「……ぐっ」

 

 やっぱり技や力の使い方は全然スセリ様に及ばない。

 それに動きも完璧に見破られてる。

 

 ここらへんはステイタスとは一切関係ない戦闘技術だ。

 二年足らずでそこそこ修羅場は潜ったつもりだけど、やはりスセリ様からすればまさしく『ヒヨッコ』レベルなんだろうな。

 

「体も成長期であることとステイタスが昇華したこともあり、まだまだ感覚と動きにズレておるようじゃのぅ」

 

 スセリ様の言う通り、微妙に感覚に身体が着いて行っていない。

 

 ちなみに先行しているのは感覚の方だ。

 まだまだ速く動けると思うのに、足が、腕が、着いてこない。

 

 それがどうにも動きを鈍らせてしまっているような気がする。

 

「こればかりは日々鍛錬あるのみじゃの」  

 

「はい……」

 

 俺はその後、久しぶりにダンジョンへと赴いた。

 

 もちろん11階層には行かず、8階層辺りで様子見だ。

 少しくらいトラウマになるかと思ったが、そんなことはなく普通に中に入り、普通にモンスターと戦えた。

 

 それにやはり【ランクアップ】したおかげか、モンスター達がかなり弱く感じる。

 最初の頃に感じた威圧感を全然感じない。

 

 これが【ランクアップ】の恩恵ってことか。

 

 【ランクアップ】は神に近づくとも言われている。

 【ランクアップ】すればするほど、老化が遅くなるらしい。

 

 まぁ、だからこそ第一級冒険者は世界に名を馳せるんだよな。

 そして、Lv.2以降の冒険者を上級冒険者と呼ぶ。

 

 それだけ【ランクアップ】というのは大きいのだ。

 この都市にいる冒険者の大半がLv.1で、残り半分がLv.2。

 

 Lv.3以降は一握りと言われている。

 

 そりゃあ俺の【ランクアップ】が騒がれるわけだよな。

 全然嬉しくないけどさ。

 

 元々この階層のモンスターは魔法無しでも倒せていた。

 だから、苦戦することはない。

 

 問題は魔石の回収だな、やっぱり……。

 また1人になってしまったから魔石を持って帰れる量にも限界がある。

 

 まぁ、今日は稼ぎ関係ないけど、今後はそうも言ってられない。

 けど、前にも考えた通り、そう簡単にパーティー募集なんて出来ないしなぁ。

 

 新しく眷属にする人を探すのが一番いいんだろうけど。

 その人を鍛えないとダンジョンに連れていくのは難しい。そもそもLv.2とはいえ、子供の俺しかいないファミリアに入ろうとしてくれる人がどれだけいるかって話だ。

 それに本拠も狭いし……金があるわけでもない。

 

 困ったもんだ。

 ギルドに頼むわけにもいかないし。

 

 全てを解決するには俺が強くなって金を稼ぐしかない。

 

 結局、そこに行きつくんだよなぁ……。

 

「……はぁ……」

 

 俺はため息を吐いて、地上へと戻ることにした。

 

 他のファミリアってどうやって稼いでるんだ?

 【ロキ・ファミリア】とかの探索系トップは遠征だろうけど……。中堅から弱小ファミリアってどうしてるんだろう?

 

 クエストだけじゃ限界があるはずだし……。

 けど人数が集まれば稼ぎも増えるから、また違うのか?

 

 くそ~……どうすればいいんだろうなぁ。

 

 スセリ様に言わせれば「そんなこと考える暇があれば修行せい」とでも言うんだろうけど。

 

 サポーター問題は大きいよなぁ。

 

 あっという間に地上へと戻ってきた俺はバベルで魔石を換金をする。

 稼ぎは20000ヴァリス。

 

 まぁ、こんなもんかと俺はお金を受け取って、バベルを後にする。

 

 思ったより早く帰ってきてしまった。

 けど、流石に10階層、11階層に行ったらスセリ様怒るだろうしなぁ。

 

 【ミアハ・ファミリア】からクエスト貰うか?

 いや、ミアハ様が俺にお金が稼げるクエストなんてくれるわけないか。

 

 それだけ危険ってことだもんな。

 

 上層で採れる素材なんてたかが知れてる。

 だって、Lv.1の冒険者でもパーティーを組めば行けるからだ。

 

 だから、ダンジョンの素材で価値が出るのは中層以下。

 俺は行く資格を得たけど、ソロで行くのは流石に無理だろう。

 

 アニメでも恐ろしい数のモンスターに絶えず襲われてたし。

 Lv.2がいるパーティーでもかなりギリギリそうだった。

 

 成り立ての俺じゃあ死ぬだろうな。

 

 そんな事を考えながら、メインストリートを歩いていると、

 

 

 突如、俺の身体を影が覆った。

 

 

「ん?」

 

 後ろを振り返ると、

 

 

 巨人が俺を覆い被さろうと迫って来ていた。

 

 

「いぃ!?」

 

 俺は反射的に全力で後ろに跳び下がって影から抜け出す。

 

 巨人はそのままドズゥン!と土煙を巻き上げて、倒れ伏す。

 

 周囲の通行人達も足を止めて、何だ何だと俺達を見る。

 

 な、なんだ一体……?

 

 倒れ伏しているのは金髪の男。

 

 頭には猫耳があり、獣人であることが窺えるが、驚くべきなのはその巨体だ。

 

 身長は2Mは楽にある。

 服装は見た感じでは和服、つまり極東風。更に背中には俺がすっぽり収まりそうなほどの大きな葛籠を背負っており、刀が入っていると思われる袋が数本葛籠から覗いていた。

 

「……商人、か?」

 

 俺は首を傾げながら、ゆっくりと男に近づいて声をかける。

 

「お、お~い……大丈夫です――」

 

 

グゴギュルルルゥゥ

 

 

「「「「ズコォ!?」」」」

 

 

 「か?」と言おうとしたら、男から大きな腹の音が聞こえてきた。

 

 それに俺や周囲の人達は、ズッコケる。

 

 空腹で倒れただけかい!?

 

「……はぁ~……」

 

 俺は立ち上がって、ため息を吐く。

 そして、男の頭元に屈んで、

 

「腹が減ってるのか?」

 

「……」

 

 男は小さく頷いた。

 

 俺はもはや敬語で話す気力もなく、小さくため息を吐いて周囲の屋台を見渡して果物屋を見つける。

 

「すいません。2,3個ください」

 

「はいよ。一応、気を付けなよ」

 

「はい」

 

 おばちゃんは苦笑しながら言い、俺も苦笑しながら果物を買う。

 

 それを持って男の元に戻り、

 

「ほら。とりあえず、これ食ってここから移動しよう」

 

「……スマ、ヌ」

 

 男はなんとか体を起こして座り込み、1つ受け取って早速齧りつく。

 

 男の顔が露になって、俺はようやく彼が何の獣人か気づいた。

 

獅子人族(レオルス)……」

 

 髪が鬣のようになっている。

 

 獣人族では滅多に見ない種族だ。

 このオラリオですら俺は見た記憶がほとんどない。

 

 だからか、周囲の人達も珍しそうに顔を向けている。

 

 その後、俺と獅子人は近くの酒場に入った。

 

 ガツガツ!!と物凄い勢いで料理を平らげていく獅子男。

 もちろん、俺の奢りです。いや、ここまでするつもりはなかったんだけど、「……路銀、ない」と悲しそうに言って、馬鹿デカい腹の音聞かされたらさ。スセリ様に拾われる前の事を思い出してしまって、ちょっと可哀そうに思ってしまった。

 

 そして、料理を食べ始めてから「その葛籠の武器売ればよかったんじゃね?」ということに気づいてしまった。

 

 まぁ、スセリ様にはお小言貰いそうだけど、今日の稼ぎ内で収めればそこまで怒られないだろう。

 

 ただ……足りるかな? スッゲェ食ってるけど。

 いや、流石に足りるだろ。酒を飲んでるわけじゃないし。

 

 俺も軽く料理を摘まみながら、果実水を飲む。

 

 そこに、

 

「何とも豪快な喰いっぷりじゃのぅ」

 

「スセリ様?」

 

 スセリ様が呆れた表情で獅子人を見ながら歩み寄ってきて、俺の隣に座った。

 

「店の者がお前とデカイ獅子人が共に移動しておると言うて来てな。一応、様子を見に来たんじゃよ」

 

 店員にエールを頼みながら、スセリ様は此処に来た理由を教えてくれる。

 

「それにしても獅子人とは珍しいのぅ。それも極東の装いを纏うとは尚更珍しい」

 

 スセリ様の言葉に、獅子人も手を止めて口元を拭う。

 

「スセリ……。スセリヒメノミコト様?」

 

「いかにも。妾こそ、極東の女神の一柱、スセリヒメノミコトである」

 

「……お初、お目にかかる。俺、クスノ・正重(まさしげ)・村正。獅子人(レオルス)、鍛冶師」

 

 正重さんは頭を下げて、名乗る。

 ……鍛冶師で、村正?

 

 スセリ様も目を細めて、正重さんを見据える。

 

「……村正で鍛冶師じゃと? 極東でも名を馳せた刀工一派の?」

 

 この世界でも村正は有名なのか。

 

「じゃが、あの一派は確かヒューマンのみの血統であったはず。獅子人が混ざり込んだなど聞いたことも無い」

 

「……俺、二代前の村正、妾の子」

 

「なるほどの。じゃとしても、村正の号を名乗るのは少々綱渡りに過ぎるのではないか? 一派の連中は認めんじゃろう」

 

天津麻羅(アマツマラ)様、許し、頂いた」

 

「アマツマラにか……。なるほど、村正の血は確かに引いておるということか」

 

 神アマツマラ。

 前世での別名を天目一箇命(アメノマヒトツノミコト)

 

 製鉄・鍛冶を司る極東の神だ。

 

 村正一派は神アマツマラの眷属として槌を振るっているとのことだ(スセリ様談)。

 

 妾の子として生まれた正重さんは、神アマツマラに拾われて鍛冶を教わっていたらしい。

 だが、やはり生まれのせいで一派の正当な一員としては迎えられず、流石に神アマツマラもそこまで干渉することは難しかったようだ。 

 

 父である先々代村正もすでに死に、母も病で早く亡くしたらしい。

 

 そのせいで極東では正重さんは刀工として名を馳せるのは非常に難しい環境にあった。

 

 神アマツマラはそれを憂い、『オラリオへ行け。世界の中心で、村正の名を広めてこい』と言い、正重さんを送り出したそうだ。

 

「つまり、お前はここで新たなファミリアに入って、鍛冶師として活動したいというわけじゃな」

 

「……はい。けど、フロル殿、恩、ある。恩返し、したい」

 

 独特な喋り方だが、しっかりと主張する正重さん。

 恩って言われても、一食奢っただけなんだがなぁ……。そこまで大袈裟に言われる程じゃないと思うんだが。

 

 それにスセリ様は笑みを浮かべて頷き、

 

「良き心掛けじゃ。ここで会ったが何かの縁。妾がお前に道を示してやろう」

 

「「?」」

 

 スセリ様の言葉に、俺と正重さんは首を傾げる。

 

 

 

 

 そして、スセリ様に連れられてやってきたのは、オラリオ北西メインストリートにある武具店だった。

 

 周囲より一際大きな炎のような塗装の店舗の看板には、『神聖文字』にも似た独特な文字が刻まれている。

 

 それはこのオラリオの冒険者であれば知らぬ者などいないと言えるロゴにして、ある鍛冶師の銘。

 

 鍛冶神ヘファイストス。

 

 そう、この店は【ヘファイストス・ファミリア】の北西支店にして、神ヘファイストスの執務室がある店らしい。

 

「……あの、スセリ様? アポとか取ってるんですか?」

 

「取ってるわけなかろう。まぁ、駄目なら駄目で出直せば良いだけじゃて」

 

 いいのかなぁ……。

 俺は不安に思うが、スセリ様は気後れすることなく店の中へと入っていった。

 

 正重さんに目を向けると、やはり鍛冶師の性なのか陳列窓に並べられている武具を食い入る様に見つめていた。

 

 その目つきは正に獅子が如し。

 睨みつけられれば身が竦みそうなほど鋭い。

 

「なにをしておるー? 会えるそうじゃから行くぞー」

 

「あ、はい! 正重さん」

 

「む、スマヌ」

 

 俺達も店の中に入り、店員に案内をしてもらって3階にある執務室へと向かう。

 

「邪魔するぞ~」

 

「失礼します……」

 

「失礼、致す……」

 

 ヘファイストス様の執務室は、キレイに整理整頓されていた。

 

 部屋の左右には大きな本棚が設置されており、大量の本が並べられている。

 更に明らかに使い込まれた槌が何本も壁に掛けられていた。

 

 ……この部屋だけでも俺達の本拠より広い……。

 

 ちょっとだけ悲しく感じていると、書類仕事をしていたヘファイストス様が羽ペンを仕舞って顔を上げる。

 

「また珍しい顔ぶれが来たわねぇ。スセリヒメに、噂の【迅雷童子】君、そして……獅子人、ねぇ?」

 

「突然スマンのぅ」

 

「良いわよ別に。一休みしたかったし、それに……あなたの愛し子君にも会ってみたかったしね」

 

 ヘファイストス様の左目が俺に向く。

 俺は背筋を伸ばして、軽く礼をする。

 

「は、初めまして、神ヘファイストス。フロル・ベルムです。椿さんには何度か助けて頂き、武具もお世話になっております」

 

「………君、ホントに7歳?」

 

「は、はい……」

 

「くっくっくっ! いい子じゃろう? まぁ、今回の本題はこ奴の方じゃ」

 

 スセリ様は親指で正重さんを指す。

 

 ヘファイストス様は再び左目を細める。

 

「……もしかして鍛冶師? その子」

 

「流石じゃのぅ。極東から来た、クスノ・正重・村正じゃ。アマツマラの眷属じゃったそうじゃ」

 

「村正? それにアマツマラですって? また珍しい名前を……。獅子人ってだけでも珍しいってのに」

 

「じゃろ?」

 

「で? その子をわざわざ連れてきて、私に何をさせたいの? うちに入団させたいってわけじゃないんでしょ?」

 

「それは正重次第じゃの」

 

「はぁ?」

 

 ヘファイストス様は訝し気に眉を顰める。

 

 うん。俺も同じ気持ちです。

 

「ぶっちゃけ、妾はこ奴をファミリアに迎え入れたい。じゃが、妾達は当然ながら鍛冶場なんぞ持っておらん」

 

「だから?」

 

「鍛冶場を貸してくれんか? 妾達が自前で鍛冶場を造るまでの間。もちろん使用料は払う」

 

「……本気?」

 

「もちろん。じゃが、こ奴が【ヘファイストス・ファミリア】に入りたいと言うのであれば、フロルと専属契約を結ばせてほしいんじゃよ。それと時折フロルとダンジョンに潜らせてほしい。もちろん、正重が恩を返したと思うまでの間で構わん」

 

 ……凄い無茶苦茶言ってない?

 

 ヘファイストス様も両手を組んで執務机に肘をつき、顎を乗せて顔を顰める。

 

「後者は別に構わないわよ? それこそ椿や他の団員も遠征に着いて行ったり、ダンジョンに潜ってるから」

 

 アニメでは【ロキ・ファミリア】の遠征に同行してたし、ヴェルフ・クロッゾがベルとパーティー組んでたしね。

 

「……けど、前者に関しては話が違うわ。確かに私達は個人での付き合いは長いけれど、ファミリアとしての関係は薄い。【スセリ・ファミリア】に、うちの鍛冶場を貸す義理がないわ。使用料を払ってもらうとしても、よ。うちだって鍛冶場に余裕があるわけじゃないの」

 

「ふむ……ならば、借金でもして鍛冶場を築くしかないか……。さて、正重。お前はどうしたい?」

 

 スセリ様は正重さんに振り返って訊ねる。

 

 正重さんは表情を変えることなく、スセリ様を見つめ返す。

 

「【ヘファイストス・ファミリア】はこのオラリオでは鍛冶系派閥においては、間違いない最大最高峰じゃ。冒険者からの信頼も厚く、希少な素材も手に入りやすく、他の鍛冶師が生み出した武具に触れることも出来る。名を売るならば間違いなく【ヘファイストス・ファミリア】に入るべきじゃ」

 

「……」

 

「じゃがなぁ、正重。妾にはお前はそこまで名を馳せることに興味がないように思える。それよりも……何か別の信念のようなものを感じておるんじゃが……どうかのぅ?」

 

「……」

 

「この際、フロルへの恩など横に置いて考えよ。お前にとって、己が生み出した武具はどうしたい?」

 

 スセリ様の質問に、ヘファイストス様も目を細める。

 

「……俺、造る時、その人、知りたい」

 

 正重さんはたどたどしくではあるが、語り始めた。

 

「その人、相性、良い、武具、造りたい。万人受け、使い手、分からない。……使われ方、怖い」

 

 どんな人が使い、どのように使われるか、想像出来るからこそ最高の武具を作れる。

 けど、誰にでも使える武器を造り、誰の手に渡ったか分からなくなると、それがどう使われるか想像出来なくて怖い、ということかな?

 

 自分が造った武器が、自分にとって大切な人が傷つけられるかもしれない。

 

 それは鍛冶師の最大の苦悩であり、矛盾と言えるだろうな。

 

「だから、俺……【スセリ・ファミリア】、入りたい。フロル殿、スセリヒメノミコト様、恩、返したい。俺、戦える。手伝い、出来る」

 

「え!? ちょ、ちょっと待ってくれ、正重さん! 恩って、俺はただ食事を奢っただけだぞ!?」

 

 スセリ様は無茶苦茶だけど、まだわかる!

 鍛冶師としての正重さんと、正重さん本人の意志を尊重しようとしてくれている。

 

 だけど、俺は一食奢っただけだ。

 そんな人生を決めるほどの恩じゃない。

 

 けど、正重さんは首を大きく横に振る。

 

「俺、獅子人、珍しい。オラリオ、来る途中、たくさん、騙されかけた。無理矢理、引き入れる、ファミリア、あった」

 

「まぁ、獅子人など戦力としては喉から手が出る程欲しいじゃろうな。それも村正一派じゃし」

 

「そうね。私もこの状況じゃなかったら、絶対勧誘してたでしょうね」

 

「飯、奢っただけ。言われた、初めて。皆、俺、恩、売る、仲間、引き入れる」

 

「……正重さん……」

 

 あなたも中々過酷な人生を……。

 

「故郷、妾の子、誰一人、近づかない。家族、アマツマラ様、1人だけ」

 

 故郷では生まれで敬遠され、故郷を出れば種族の珍しさと『村正』の号しか見られない。

 

 正重さん本人を見てくれた人はほとんどいなかったんだろう。

 

 正重さんは突然背中の葛籠を下ろし、赤の鞘袋と青の鞘袋に収まった武器を取り出す。

 

 そして、それを持ってヘファイストス様の執務机の前まで歩き、ヘファイストス様に差し出した。

 

「これは?」

 

「赤い方、旅、出る、アマツマラ様、頂いた。青い方、父、先々代村正、最後、作品」

 

「アマツマラと村正の作品……? どうするつもり?」

 

「売る、お金、鍛冶場、造る」

 

「正重さん!?」

 

「うむ、それは本当に待て、正重。餞別と形見を売る必要はなかろう」

 

「問題、ない。元々、売る、または、献上する、頂いた」

 

 いやいや!? 問題あるよ!!

 まだ入団もしてないのに!! 

 

 そんな俺達を尻目に、ヘファイストス様は武器を取り出す。

 

「…………これは……魔剣ね」

 

「うぇ!?」

 

「まぁ、アマツマラが造ったのであれば十分考えられるの」

 

「………こっちのは不壊属性の刀だわ。それもかなり上質ね。うちの上級鍛冶師でも、ここまでの品質は中々見られないわ」

 

 尚更売ったらダメやないか!!

 

 ヘファイストス様は額に手を当てて、ため息を吐く。

 

「はぁ~……突っぱねても、他のファミリアとかに売りそうね……」

 

「じゃろうなぁ」

 

 流石のスセリ様も苦笑するしかないようだった。

 

「……いいわ。なら、この二振りは私が預かってあげる」

 

「え?」

 

「む?」

 

「……?」

 

「この武器を担保にお金を出してあげるわ。それで鍛冶場がある建物に引っ越しするなり、今の本拠を増築するなりしたらいいんじゃない?」

 

「ふむ……それは妾達にとってありがたい申し出じゃが……良いのか? 担保とするとなると、宝の持ち腐れと変わらんぞ?」

 

「下手に売られるくらいなら、あなた達が相応しい使い手になるまで預かっておく方が安心なのよ。魔剣の方は使って壊した場合、そのまま買い取りしたってことにするわ。今のオラリオは物騒だしね。不壊属性の武器は使うことはないと思うから、返済してくれたらあなた達に返すわ」

 

「問題、ない、です。感謝、致す」

 

 正重さんは深く頭を下げる。

 

 ヘファイストス様は苦笑して、  

 

「ホント、スセリヒメは面白い子を見つけてくるわねぇ」

 

「くっくっくっ! まぁ、此度はフロルの縁じゃがな」

 

「さて、肝心の金額だけど……」

 

 ヘファイストス様が顎に手を当てて、考え込む。

 

 俺はとんでもない値段になるんじゃないかとゴクリと喉を鳴らす。

 

「魔剣が7000万ヴァリス、不壊属性の武器が4000万ヴァリスってところね」

 

「うえぇ!?」

 

 合わせて1億1000万ヴァリスぅ!?

 俺は変な声を出してしまった。

 

「そりゃあ神力を封じているといっても、神が打った魔剣だしね。不壊属性の方も品質とブランドを考えれば当然よ」

 

「そうじゃのぅ」

 

 お、恐ろしや神様ブランド……!

 

「お金を用意してくるから、少し待ってて頂戴」

 

「うむ」

 

 1億ヴァリスもの大金を用意できるなんて、恐るべし【ヘファイストス・ファミリア】。

 

 な、なんてこったい。

 悩んでた資金問題があっという間に片付いてしまった。

 

 これだけの大金があれば、本拠も大きくすることが出来るだろう。

 

 しかも、正重さんという頼りになりすぎる人が仲間になってくれた。

 

 ぶっちゃけ、俺の方が正重さんに大きな恩が出来てしまった。

 

 少しでも早く彼の武具に相応しい冒険者にならないといけないな。

 

 頑張るぞ!

 

「正重さん、これからよろしく」

 

「呼び捨て、構わない」

 

「俺も呼び捨てでいいよ」

 

「うむ、フロル、よろしく」

 

「ああ。よろしく、正重」

 

 

 俺と正重は、力強く握手をした。

 

 




レオルスという呼び名はオリジナルです

とりあえず切りがいいところまで、また連投します(ストックなくなりそう)

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