【ライトニング・サムライ】~転生者はダンジョンで英雄になりたい~   作:独身冒険者

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連投その4


一つの出会いと都市の波乱

 中層に進出して、早2週間。

 

 13階層から進んでいないけど、中層の雰囲気に慣れるには良かったと思う。

 

 ハルハは退屈そうだったけどね。

  

 

 

フロル・ベルム

Lv.2

 

力 :H 111 → H 136

耐久:I 72  → H 101

器用:I 88  → H 109

敏捷:H 134 → H 163

魔力:I 95  → H 118

狩人:I

 

《魔法》 

【パナギア・ケルヴノス】

・付与魔法

・雷属性

・詠唱式【鳴神を此処に】

 

《スキル》

(【輪廻巡礼】)

(・アビリティ上限を一段階上げる。)

(・経験値高補正)

 

疾風迅雷(ミョルニル・ゴスペル)

・『麻痺』に対する高耐性。

・雷属性に対する耐久力強化。

・被雷時に『力』と『敏捷』のアビリティ高補正。

 

 

クスノ・正重・村正

Lv.1

 

力 :C 637 → C 651

耐久:C 625 → C 631

器用:C 681 → C 699

敏捷:E 489 → D 505

魔力:I 0

 

《魔法》

【】

 

《スキル》

獅子吼豪(キングハウル)

・周囲アビリティ値一定以下の対象を威圧。

・『力』と『耐久』の高補正。

・一定範囲内の対象の獣人族の全アビリティ高補正。

・威圧・補正効果はLv.に依存。

 

ハルハ・ザール

Lv.1

 

力 :A 826 → A 832

耐久:A 811 → A 819

器用:B 782 → B 795

敏捷:B 777 → B 783

魔力:E 433 → E 441

 

《魔法》

【スリエル・ファルチェ】

・攻撃魔法 

・風属性

・詠唱式【今宵も鎌が死を喰らう。舞え、血潮の紅華(はな)。散れ、闘争の火花(はな)。高潔なる魂を汚し、悪辣たる罪を洗い流せ。堕落せし(ともがら)を想い、赫き月を血涙(なみだ)で満たせ】

 

《スキル》

【】

 

 

 

「なぁ、フロル。アンタの成長おかしくないかい?」

 

「うむ、凄い」

 

「……俺も分かんないんだよねぇ。成長期って関係あります?」

 

「あるわけなかろう」

 

 白々しい誤魔化しをする俺とスセリ様。

 

 スセリ様は【輪廻巡礼】に関してはまだ隠しておくことにしたようで、俺もまだ言っていいのか分からないから大人しく従うことにした。

 ありがたいことに紙には隠して写すことが出来るから助かった……。

 

 いやね、スキルの効果だけじゃなくて、そのスキルの名前と得た理由も話さないといけないじゃん?

 流石にそうなると、スキルどころじゃなくなると思うんだよね。

 

 だから、誤魔化しきれない時まで話さないことにした。近い内にバレる気がするけど。

 

 今日は休暇ということで、自由行動となった。

 

 俺はのんびりと街を探索することにした。

 

 もちろん武器を携えたまま。

 闇派閥の脅威は街中の方が激しい。だから、今のオラリオは護身用の武器を手放せない。

 

 そのせいか、街は賑わってはいても、どこか暗い空気が流れている。

 

 闇派閥の実態は未だに不明のままだ。

 未だにどこに潜んでいて、どこから現れるのか全て判明していない。厄介なのが商人にも闇派閥と協力している者がいること。

 

 だが明確な証拠もないため、商会を強制捜査するわけにもいかないようだ。

 そのせいで闇派閥を援助していると思われる商会だと目星をつけても、手が出せないらしい。

 

 ……多分、ダイダロス通りに隠れ家があると思うんだよな。

 でも、商会と同じく強制捜査は出来ないだろう。ダイダロス通りとてオラリオを支える人達が暮らしている。全員を疑うことは出来ない。けど、全員信じることも出来ない。恐らく隠れ家近くに住んでいる人達は脅されているから密告なんてしないだろう。

 闇派閥は神の恩恵を持つ者達だ。一般人じゃ手も足も出ない。その恐怖はそう簡単に振り払えないだろう。

 

 果物を買って食べ歩きしながら、のんびりと散歩をする。

 

 ……どこか高い所でも行こうかな。

 

 俺は一部が壊れた無人の建物の屋上に上がった。多分闇派閥にやられたんだろうな。

 

 屋上の端っこに座って、買った果物を齧る。

 そういえば、上からオラリオを眺めるって初めてだな……。

 

 まぁ、あまり高い建物じゃないけど。

 そう考えると、バベルってホントに高いなぁ。神様も良く造ったもんだ。

 

 その天辺に住んでる女神フレイヤは一体いくらで買ったんだろう?

 ファミリアの本拠は別にあるんだよな、確か。しかも、めっちゃ広いって噂で聞いた。まぁ、それは【ロキ・ファミリア】とかもそうだけど。

 

 【イシュタル・ファミリア】の本拠も目立つ。あそこは歓楽街の中心にあるから、昼はあまり目立たないけどね。

 女神フレイヤに対抗して建てたんだろうけど……まぁ、歓楽街の女王としては十分だけどさ。

 

 ……本拠以外にも安らぐ場所を見つけるべきか……。

 

 スセリ様は怒るかもしれないし、本拠は全然嫌じゃないけど。

 

 ファミリアに関係なく過ごせる場所。

 

 1つくらいあってもいいかもしれない。

 

 出来れば、こんな感じの場所がいいけどなぁ。

 

 その時、

 

「こんなところで何してるの?」

 

「ん?」

 

 振り返ると、そこにいたのは青藤色のショートカットに水色の瞳を持つ少女だった。

 

 快活で人懐っこそうな雰囲気を纏った少女は、腰に短剣を携えていた。

 どうやら冒険者のようだ。歳は俺より少し上かな?

 

「特に何も? 強いて言うならば……高みの見物、ですかね?」

 

「……何を?」

 

「街を」

 

「………ぷふっ」

 

 少女は一瞬ポカンとして、すぐに口元に手を当てて顔を背けて噴き出す。

 

 おぉ、受けた受けた。

 

「くふふふふははははは!! 面白いね、君!」

 

 ……ちょっと笑い過ぎじゃね? まぁ、いいけど。

 

「あ~笑っちゃった。けど、ここは立ち入り禁止だよ? 崩落の危険があるからね。落ちたら大怪我じゃ済まないよ」

 

「この程度の高さなら大丈夫です」

 

「へ? 大丈夫、って武器持ってるってことは冒険者なの? 君が?」

 

 そこまで変わらんと思うのだが……。まぁ、年下なのは事実だから何も言うまい。

 

「はい」

 

「ほぇ~」

 

「そういう貴女も危ないのでは?」

 

「私だって冒険者だもん! ま、最近恩恵貰ったばかりの新人だけどね」

 

 少女は腰に手を当てて拗ねたように言い、直後にペロッと舌を出してお道化る。

 

「私、アーディ・ヴァルマ。【ガネーシャ・ファミリア】だよ」

 

「【スセリ・ファミリア】のフロルです」

 

「ええ!? もしかして【迅雷童子】!?」

 

「はい」

 

「うわぁ! 君がお姉ちゃんが言ってた子かぁ!!」

 

「お姉ちゃん?」

 

 首を傾げる俺。

 

 アーディさんは俺の横に座って、人懐っこい笑みを浮かべる。

 

「私のお姉ちゃん、【ガネーシャ・ファミリア】の団長なの! シャクティ・ヴァルマって名前。会ったことあるって言ってたけど?」

 

「あぁ……あの人か……」

 

 シャクティさんとはあの11階層の事件の事でギルド職員と一緒に来ていた。

 まぁ、緊張させるからって、ほとんどしゃべらなかったけど。

 

 あの人の妹なのか。

 ……結構歳離れてないか?

 

「あ。今、歳離れてるって思ったでしょ?」

 

「え゛」

 

 何故バレたし。

 

「あはははは!! よく訊かれるし、実際10歳以上離れてるからね。けど、そっか~。君の方が強いんだねぇ」

 

 ということはLv.1なのか。

 【ガネーシャ・ファミリア】って警邏も受け持ってるし、ダンジョンに籠るのも難しいんだろうな。……恨みも買うことも多いだろうし。

 

「今は警邏中ですか? お1人で?」

 

「敬語じゃなくていいよ? 年上ってだけで、冒険者の実力も経験年数も君の方が上だからね。で! 私は年上だから、君に敬語を使う必要はないよね!」

 

「……うん。まぁ、いいけど……」

 

 本当に人懐っこいな、この子。

 

「私は今日はお休みだよ。君と同じく散歩。で、ここにいる君が見えたから、声をかけに来たの。どこかの子供が登ったんだな~って思ってさ」

 

「あ~……まぁ、俺が冒険者なんて思えないだろうからなぁ」

 

「小人族かもしれないって思ったけど、それならそれでね」

 

 謝って帰ればいいだけだな。

 

 その後、少しの間、どちらも話すことなく景色を眺めていた。

 

 それにしても、ここも立ち入り禁止かぁ。

 

「こんな風に景色を見渡せて、人があまり来なくて、のんびり出来る場所ってないかねぇ……」

 

 ポツリと呟くと、アーディがこっちに顔を向けて、いきなり俺が持っていた果物を奪い取ってシャクリと齧った。

 

 ……なんだ? このラブコメ感。

 

「いいとこあるよ? 教えてあげよっか?」

 

「どこ?」

 

「ん~……着いてからのお楽しみ!」

 

 輝かんばかりの笑顔で言うアーディ。

 

 ……可愛いな。

 

 考えると歳が近い冒険者の子と話すのって初めてじゃね? 

 

 とりあえず、アーディの後に着いて行こうと立ち上がろうとした、その時。

 

 

ドオオォォン!!

 

 

「「!!」」

 

 突如、爆音が轟き、都市の一角から黒煙が立ち上がる。

 

「なに!?」

 

「闇派閥だああ!」

 

「っ!!」

 

 俺は屋上から飛び降りて、勢いよく地面に着地する。

 

「フ、フロル!?」

 

「アーディは住民の避難誘導と【ガネーシャ・ファミリア】に合流しろ!! 俺は現場近くの人達を逃がす!!」

 

「で、でも!?」

 

「頼んだよ!! 【鳴神を此処に】!!」

 

 魔法を発動させてバヂン!!と雷を身体に纏って、高速で駆け出す。

 

「うぇっ!? 速っ!? あ、あれが【迅雷童子】……!」

 

 アーディの驚く声が聞こえるが、俺はその声を置いて現場へと急ぐ。

 

 相変わらず時間と場所選ばずかよ!!

 

 俺は建物の壁を走って、逃げ惑う人の波と逆方向へと向かう。

 その間にも爆発が連続で起こる。

 

「いやあああああ!?」

 

「助けてくれえええ!!」

 

「うわああああ!?」

 

 逃げ惑う一般人達に襲い掛かっているのは、ダンジョンでも会ったローブと覆面で目元以外隠れている連中。

 

 武器を握って、目に着く者達へ襲い掛かっている。

 爆発はどうやら魔法のようだ。エルフと思われる者がちらほらと混じってる。

 

 まずは魔導士を倒す!

 

 俺は魔法を纏ったまま、一気にスピードを上げて混乱の中に飛び込む。

 

 建物に右手を向けているエルフと思われる男に一瞬で詰め寄って、鳩尾に右掌底を叩き込む。

 

「ごはっ!?」

 

 くの字に身体を曲げた男の顎に左掌底を叩き込んで、顔を跳ね上げさせる。

 

「っっ!!?」

 

 俺は次の魔導士の背後へと回り込んで、両手を組んで後頭部に叩き込む。

 

「がっ!?」

 

「はっ!!」

 

 そして、気迫と共に右手を突き出して、エルフの女に向かって雷を放出する。

 

「なっ!? きゃああああああ!?」

 

 女エルフは痺れて、身体から煙を上げながら倒れ伏す。

 

 とりあえず、目に着いた魔導士はこれで全員だ。

 

 他にもいるかもしれないが、今は一般人の避難を優先する!

 

 俺は刀を抜いて、一般人に襲い掛かっている者達に迫る。

 

 両刃剣を振り上げている男の背後から高速で迫り、肘から斬り落とす。

 

「がっ!? ぎゃあああああ!?」

 

 悲鳴を上げる男の前に回って、鳩尾に蹴りを突き刺して後ろに吹き飛ばす。

 

 そのまま次の相手へと向かう。

 二振りの短剣を振るっている男に横から迫り、ローブに隠れている左脚を太もも半ばから斬り飛ばした。

 

「ぎぃああああああ!? がぅ!?」

 

 仰向けに倒れた男の側頭部を蹴って気絶させる。

 

 今は迅速に最低限の手間で無効化する!

 

 俺はその後も次々と闇派閥の連中を無力化していった。

 他の冒険者もやってきて、闇派閥を撃退していき、避難誘導を行う。

 

 周囲に逃げ惑う一般人の姿は見えなくなった。

 だが、闇派閥の連中に傷つけられたり、爆発に巻き込まれた人達があちこちに倒れている。

 

 早く助けたいけど、まだまだ闇派閥の仲間と思われる武器を携えた集団が姿を現す。

 

 今度は真っ黒な装備を纏い、これまた目元だけ露出させた集団。だが、さっきのローブ集団とは違い、種族や性別がはっきりと分かる装いだ。

 そして、明らかに戦い慣れている動きをしている。

 

 冒険者、というよりは傭兵って感じがしっくりくる。

 どこかのファミリアなのは間違いない。もちろん、どの神なんて全然分からないけど。

 

 マズイな……。流石にそろそろ魔法を維持するのも限界だ。

 

 俺は魔法を解除して、他の冒険者達に目を向ける。

 

 ……俺と同じくらい消耗してるか。

 どうやら主戦力は他の場所で戦っているようだ。

 

 ここに第一級、第二級冒険者が来るのは時間がかかりそうだな……。

 敵にLv.4以上がいないことを祈りたいところだが……。

 

「なんだよ。ガキがいるじゃねぇか」

 

「「「「!!」」」」

 

 上から聞こえてきた声に弾かれたように顔を上げる俺達。

 

 建物の屋上に、大斧を担いだ狼人(ウェアウルフ)がいた。

 黒い髪に耳と尻尾、紅の短丈のジャケットに黒の革ズボンを履いた190Cほどの大男だ。

 

 凶悪な顔つきはまさに血に飢えた狼そのもの。

 

 マズイ……! あれは確実にゲーゼスと同格だ……! 

 

「あぁ!! テメェがゲーゼスが言ってた運のいいクソガキか!? 確か……【迅雷童子】だったっけか」

 

 獲物を見つけたとばかりに俺を見て、舌なめずりする狼人。

 

 確定。今の俺じゃ勝てない相手だ。

 

 でも、逃げたら追ってくる。被害が広がるだけだ。

 どうする? ここで戦うにも勝ち目がない。他の冒険者も明らかに気圧されている。

 

「よっ、とぉ!」

 

 狼人は俺達と黒装束の間に下り立つ。

 

 大斧を担いでデカい体をしているのに、トンと静かな音しか立てない時点でヤバさが分かる。

 

「さぁて、楽しませてもらおうか」

 

 ニヤリと好戦的な笑みを浮かべて俺を見る狼人。 

 俺は顔を顰めて、両手で刀を握り締める。

 

 

「楽しそうなことしてるじゃないかぁ!! フロルゥ!!」

 

 

 上から聞き覚えある声が聞こえてきた。

 

 全員が上を見上げると、そこには大鎌を振り上げて凶悪な笑みを浮かべているハルハがいた。

 

 ハルハは迷うことなく、狼人へと斬りかかった。

 

 ちょっ!?

 

 狼人は大斧でハルハの斬撃を弾く。

 

「はっはぁ!!」

 

 ハルハは弾かれた反動を利用して、空中で身体を捻って大鎌を投擲した。

 

「うぉ!?」

 

 狼人は驚きを露にして後ろに跳んで躱すも、ハルハが鎖を引いて飛び蹴りを繰り出す。

 

 それは大斧の柄で受け止められる。

 ハルハは柄を蹴って後ろに跳び、俺のすぐ横に下り立った。

 

「っとぉ、やるじゃないか!」

 

「こっちのセリフだっての」

 

「何言ってんだい! まだまだこれからだよ!!」

 

「ちょっ!? ハルハ!」

 

 ハルハは地を蹴って、猛然と狼人に向かって駆け出す。

 

 俺は呼び止めるも、ハルハはもう止まらない。

 

 鎌鼬のように大鎌を高速で振るい、狼人も大斧でほぼ完璧に捌いていく。

 

「しっ!!」

 

 ハルハは蹴りも組み合わせ始めるが、それも狼人は躱し、防いでいく。

 

 えぇい……! 助太刀に入りたいけど、ハルハの動きが激し過ぎて逆に邪魔になりそうだ。

 

 けど、おかげであっちの黒装束の連中も手を出すタイミングを逃している。

 

 ある意味、膠着状態になったと言える。

 でも、それはハルハの足が止まれば一気に動き出すだろう。

 

 そのハルハは勢いを衰えさせることなく攻め続けているが、すでに汗だくだ。

 

 対して狼人は汗1つ掻いていないし、まだ余裕を持って対応している。

 

「Lv.1ってとこか? 動きは上級冒険者クラスだけどよ」

 

「そいつはどうも!!」

 

「けど、まだ遅ぇし、弱ぇなっ!!」

 

「ぐっ……!」

 

 狼人が大斧を薙ぎ、ハルハは大鎌の柄で防ぐが鎖も巻き込んでしまい砕け散る。

 

 そのおかげか大鎌は折れなかった。

 

「っつぅ~……! 響くねぇ。けど、流石正重が鍛えた武器さね!!」

 

「ちっ……Lv.1の癖に良い武器使ってやがる」

 

「そりゃどうも。帰ったら、うちの鍛冶師に伝えといてやるよ。糞犬が褒めてたってねぇ!!」

 

「ざけんな!! 糞アマゾネスがぁ!!」

 

 ハルハは再び猛攻を仕掛けるが、狼人も反撃を混ぜ込み始めた。

 

 ……そろそろ限界だな。

 

「【――今宵も鎌が死を喰らう】」

 

 ハルハが大鎌を振り回しながら、詩を紡ぎ始める。

 

「並行詠唱だぁ……!? Lv.1のアマゾネスが?」

 

 マジで……!?

 

「【舞え、血潮の紅華(はな)。散れ、闘争の火花(はな)。高潔なる魂を汚し、悪辣たる罪を洗い流せ】」

 

「させるかぁ!!」

 

 狼人が今までとは比較にならない速さで大斧を振るい、ハルハは大鎌で防ぐも吹き飛ばされて建物に突っ込む。

 大鎌は柄の半ばで折れて、地面を転がる。

 

「っ!! 【鳴神を此処に】!!」

 

 ハルハが吹き飛ばされた瞬間、俺は魔法を発動して背中の刀も抜き、電気の尻尾を引き連れながら狼人へと斬りかかる。

 

「うぉ!?」

 

 狼人はギリギリで俺の斬撃を防ぐ。

 

「いっ!? 雷の付与魔法だと!? 聞いてねぇぞ!?」

 

「シッ!!」

 

「ぐっ!?」

 

 俺はハルハ以上の斬撃の嵐を繰り出し、狼人は流石に捌き切れずにその身体に傷を作っていく。

 

「うっ、とおぉしいぃんだよぉ!!」

 

「!!」

 

 狼人は勢いよく大斧を地面に叩きつける。

 

 地面が爆発して礫が舞い上がり、俺は反射的に後ろに跳び下がる。

 

「舐めんじゃねぇぞ、クソ冒険者がぁ!!」

 

「くっ!」

 

 その時、俺の横を影が通り過ぎる。

 

 ハルハだった。

 

「「!!」」

 

 ハルハは頭から血を流し、左腕をぶら下げながら駆ける。

 

「【――堕落せし輩を想い、赫き月を血涙(なみだ)で満たせ】!!」

 

 そして詠唱を唱え切り、地面に転がっていた折れた大鎌の上側を拾い、短くなった柄を右手で握り締める。

 

「テメ――」

 

「【スリエル・ファルチェ】!!」

 

 右腕を全力で振り上げ、碧く染まった斬撃の嵐が狼人に襲いかかる。

 

 魔法を放つと同時に、パキンと大鎌の刃が折れた。

 

「舐めんじゃ――」

 

 

「【パナギア・――」

 

 

「!!」

 

 ハルハの魔法を大斧で吹き飛ばそうと構えた狼人の耳に、声が届く。

 

 もちろん、俺だ。

 

 二振りの刀を振り上げ、ハルハの魔法を見据える俺は、思い付いたままに魔法を使う。

 

「――ケルヴノス】!!」 

 

 刀を振り下ろすと同時に刀身から雷を放出し、ハルハの魔法にぶつける。

 

 俺の目論見通り、俺の雷はハルハの嵐と融合し、その勢いを増した。

 

「なぁにいいおおおおおお!?」

 

 狼人は目を丸くして大斧を盾にし、雷を纏う紅嵐に呑み込まれる。

 そのまま、ハルハが突っ込んだ反対側の建物に突っ込んでいった。

 

 俺は虚脱感を感じて魔法を解除し、ハルハは折れた鎌に舌打ちして放り投げていた。

 そして、冒険者達の方に跳び下がる。

 

「ふぅ……ハルハ、大丈夫か?」

 

「ああ、問題ないよ。左腕が折れたくらいさ」

 

「ポーションは?」

 

「持ってるわけないだろ? そういうフロルは?」

 

「休みだったからなぁ……」

 

 最下級ポーションしか持ってない。 

 流石に後ろの冒険者に貰うわけにいかないしな。

 

「誰か回復魔法持ってないかい?」

 

 ハルハは後ろの冒険者に声をかけるが、残念ながら誰も持っていなかった。

 

 もちろん、この間も狼人が吹き飛んだ先から目を離さない。

 

 黒装束の連中も完全に動きを止めており、むしろじりじりと後退を始めていた。

 

 その時、狼人が突っ込んだ建物の穴から瓦礫が吹き飛んだ。

 

「「「「!!」」」」

 

「あ~……! くっそがぁ……!」

 

 狼人は口と左肩、右脇腹、右脚から血を流して、服もボロボロになっていた。

 それでもしっかりとした足取りで歩いている。

 

 やっぱり仕留めきれてないか。

 

「やってくれたなぁ、クソガキ共!」

 

「なんだい? やられる覚悟もせずに、武器を振ってたのかい?」

 

「ぺっ! ……ふん、武器もねぇくせに挑発してんじゃねぇよ」

 

 ハルハの挑発に血混じりの唾を吐き、大斧を肩に担いで顔を顰めながら睨み返す。

 

 黒装束の連中も調子がいい事に武器を構えて、俺達を襲い掛かる態勢を整え始める。

 

 マズイな……。

 ハルハももう武器がないし、俺も精神疲弊(マインドダウン)寸前だ。もう魔法は使えない。

 

 流石に限界だ。

 

 その時、

 

「マズイ!! 【ガネーシャ・ファミリア】がこっちに来るぞ!!」

 

『!!』 

 

「ちっ……時間切れか」

 

 黒装束の連中の方から声が聞こえ、狼人が舌打ちする。

 

 それに俺の後ろにいた冒険者の男が剣を構えて駆け出した。

 

「逃がすか!」

 

「馬鹿野郎!! 1人で飛び出すな!!」

 

 仲間と思われるドワーフの男が叫ぶ。

 

 その時、黒装束の集団から煙幕が勢いよく噴き出し、あっという間に俺達ごと覆いつくす。

 

 しまった……!

 

「ぎゃああああ!?」

 

「っ!? くそっ!!」

 

 1人飛び出した男のものと思われる悲鳴が聞こえ、ドワーフの男の悔しがる声がする。

 

 やられたか……!?

 

 少しすると煙が晴れて、視界が完全にクリアになった頃には闇派閥の連中は誰も残っていなかった。

 

 俺達が倒したローブの連中も死体すら残っていなかった。

 あの短時間で……。俺達を殺すよりも隠蔽を優先するってのが闇派閥の厄介さを現している。

 

 そして、飛び出した男は胴体を真っ二つにされて死んでいた。

 

「ちっ……気に入らないね」

 

 ハルハは顔を顰めて舌打ちする。

 

 狼人には遊ばれたような感じだし、結局誰一人捕まえられなかった。

 してやられた感しかないな。

 

 俺は小さくため息を吐いて、刀を納める。

 

「ハルハ、とりあえず治療しよう。武器も無くしたし、スセリ様にも報告しないと」

 

「…………はぁ。そうだね、このまま帰ったらスセリヒメ様に殺されちまう」

 

「休みなのに、むしろ怪我したからなぁ」

 

「やれやれ……」

 

 自分から飛び込んで、やれやれはないと思うけどな……。

 

 とりあえず、俺達はミアハ様の店に寄ってから、帰宅するのだった。

 

 

 俺の頭からアーディのことが抜け落ちていたことに気づいたのは、翌朝のことだった。

 

 




あの子はヒロインになれるのか……?
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