【ライトニング・サムライ】~転生者はダンジョンで英雄になりたい~ 作:独身冒険者
さて、【ダンまち】の世界に転生した俺だが、どうやらハードモード人生確定のようだ。
先日、ゼウスとフレイヤ両柱による会談が終わった。
結果は最悪一歩手前って感じだった。
父はファミリアを追放されることはなかったが、出世コースからは脱落だ。更に父から母を
故に父はファミリア内で雑用から戦闘まで、全てにおいて扱き使われるようになり、周囲の視線も最悪らしい。
まぁ、最低限の生活費は保証してくれているから、貧乏ではあるが生きていけるので、周囲の視線や陰口さえ耐えきれば生きていけるだろう。
恐らく俺が独り立ちできる歳まで成長し、借金を返し終えれば引退ってことになると思われる。……返し切れる額かは知らんがな。
母はファミリアを追放され、【ゼウス・ファミリア】に入ったがもちろん温かく迎えられるわけもない。
父同様借金を返すために、父と共に扱き使われている。
俺がいるので父ほどダンジョンへと連れていかれることはないが、それでも毎日雑用をやらされてヘトヘトだ。
俺もあまり歓迎されていないが、流石に赤ん坊ということで両親と特に仲が良かった人達が時折面倒を見てくれている。
だが、恐らく俺は成長しても【ゼウス・ファミリア】に入ることは認められないだろう。
俺が【ゼウス・ファミリア】に入れば、両親の借金を俺も支払うことになるからだ。
生まれながらの借金奴隷というのは流石に憚られたようで、ゼウス様が俺を同情の目で見下ろしながら両親に告げていた。
「この子に罪はない。だが、我がファミリアにいれば、嫌でもお前達の罪を突きつけられてしまうだろう。故にこの子が少しでも平穏に暮らすためだからこそ、我がファミリアに迎えることは出来ん。もちろん共に暮らし、会うことは止めぬがな。これもまた、お前達の罰だと理解しろ」
両親は涙ぐんで頭を下げて、礼を言っていた。
まぁ、ファミリアからもオラリオからも追放されるよりはマシではある、と思うけど……。
これはこれでどうなんだろうな?
借金がどれくらいか分からんから、何とも言えん。
母がファミリア内でどのくらいの立ち位置だったかも分からないし。
流石にレベル4,5ってことはないだろうけど、それでも冒険者が一人減るだけでもファミリアにはかなり痛手のはずだ。
決して安くはないだろう。
……これで赤ん坊が俺じゃなかったら良かったんだろうが、俺はバッチリ全部聞いちゃったよ。
流石に俺を生んでくれた両親を見捨てられるわけがない。
両親だって、もっと最悪な状況になることを覚悟していたはずなんだから。
早く大きくなって、手伝わないとな。
俺はそう心に誓うが、それは数年後……裏切られることになる。
…………
………
……
あっという間に5歳になった俺。
身長は5歳児の平均くらい、髪は母親の色を継いで濃い茶髪。
俺達一家はファミリアの本拠から出て、別に家を借りた。
これは将来俺が独り立ちしやすいようにという配慮である。
だが、借金のために場所は貧民層が住まう地上の大迷宮とされる【ダイダロス通り】にある。
流石に大迷宮というだけあって俺も何度も迷子になり、今では決めた道しか歩かなくなった。
うん。一度迷えば出られないとまで言われるだけのことはある。
方向感覚が狂わされるほどの複雑な建物と細道が入り混じる広域住宅街。
一か月もすれば新しい家が建ち、道が塞がれて階段が出来ているなどよくあることだ。
3歳くらいになってからは【ゼウス・ファミリア】の冒険者達もあまり顔を出さなくなった。
どうやら俺から距離を取って【ゼウス・ファミリア】との関係を薄めるためだそうな。
【フレイヤ・ファミリア】の人達は元々表立って会いに来なかったが、何やら見たことがある豪快でガタイのいい女性が何度か顔を出したことがあった。
この数年間で両親の情報も集めた。
子供の無邪気さに勝てる奴らは少なく、色々と聞くことが出来た。
父はLv.5、母はLv.4の冒険者だった。
めちゃめちゃ主戦力じゃん。
本当によくこの程度のお叱りで済んだな。
そして、近々【ゼウス・ファミリア】は【ヘラ・ファミリア】と合同遠征に向かう予定らしい。
俺の両親ももちろん参加することになっている。
話では【ゼウス・ファミリア】は総戦力、【ヘラ・ファミリア】は主戦力全員だそうだ。
……うん。これって原作でもあった『全滅事件』だよね?
残った三大冒険者依頼、黒竜の討伐に挑戦するために。
しかし、両ファミリアは全滅し、ゼウスとヘラは追放。
過激派ファミリア、のちの闇派閥が暴れ回って、ギルドによる鎮圧が行われるまで治安が最悪になる時代がやってくる。
……行かせたくないが……止める術がない。
病気も怪我も大抵が魔法や薬で治る世界だ。仮病なんて意味がない。
2人が遠征に行く時、俺は1人で過ごすことになっている。
ご飯は近くの酒屋で、朝食のパンは晩飯の帰りに貰うことになっている。
5歳児を1人放置って問題じゃね?って思われるかもしれないが、そこは俺が大人びた言動をし過ぎたせいである。
まぁ、ぶっちゃけ1人の方がありがたいので文句はない。
後は、俺の知ってる小説とは違う結末になることを、2人が無事に帰ってくることを祈るだけだ。
けど、やはりこの世界はとてつもなく残酷だった。
…………
………
……
両親を送り出して、6日後。
妙に外が騒がしく、俺はそれで目を覚ました。
「……なんだぁ?」
目を擦ってベッドから起き上がり、少しフラつきながらも窓を開ける。
そして、直後に耳に入ってきた内容に頭が真っ白になった。
「全滅だあ!! 【ゼウス・ファミリア】と【ヘラ・ファミリア】が黒竜に負けて、壊滅したぞぉ!!」
「っ!!?」
俺は一気に目が覚めて、更に血の気が引く。
その間も外では騒ぎが大きくなっていった。
「嘘だろ!? あ、あの二大ファミリアが!? オラリオ2トップだぞ!?」
「Lv.8とLv.9でも黒竜に勝てなかったってのか……!?」
「おい……これ、やべぇんじゃねぇか? その2つって治安維持にもめちゃくちゃ貢献してたはずだ……。それにこれで一気にLv.6が最高レベルになっちまったぞ……」
「大人しくしてた過激派ファミリアが暴れ出すってこと!?」
「それくらいの覚悟はしとくべきでしょうね……」
「本拠に戻るぞ! 神も呼んで対応を考えておかねぇと!」
周囲の声がどこか遠く聞こえる程、俺は茫然としていた。
そして、腰が抜けたように脚から力が抜けて尻もちをつく。
想像以上に衝撃が大きかった。
こうなる可能性は高いと知っていても、それに備えていたつもりでも、覚悟していたつもりでも。
両親が死んだという事実は、俺に深く突き刺さった。
今思い出せば、前世でも俺は人の死に目に遭ったことがない。祖父母も元気で、葬式など出たことがなかった。
だから、身近な人の死というのは、これが初めてだった。
「……もう……誰も帰ってこない……」
その瞬間、この家が空っぽになったように感じた。
何一つ物は減っていない。ただ両親がいないだけ。もう戻ってこないだけ。
なのに、とてつもなく空虚に感じた。
ジワリと目尻に涙が溢れ出す。
「っ! ……ぐすっ! 駄目だ。泣いてる場合じゃない……! もう父さん達はいないんだ。お金だって一年ももたないし、この家だって借家なんだ……! どうにかして住み込みででも働ける場所を探さないと!」
俺は慌てて涙を拭って、これからのことを考える。
もちろん、それでも涙が止まるわけはない。だから、もう拭うことすら止めて、今後の事を考える。
ボロボロと涙を流して床に水跡をつけていくが、気にする余裕はない。
一番頼れる可能性があった【ゼウス・ファミリア】は壊滅。
【フレイヤ・ファミリア】は流石に無理だ。
ダイダロス通りの知り合いも俺なんて相手にしてる場合じゃないだろう。
さっき遠巻きに聞こえた話じゃ、これからオラリオの治安は荒れる。ダイダロス通りなんて、犯罪を隠す、身を隠すには最適な場所だ。
絶対に一番治安が悪くなる。最悪、一度更地にされてもおかしくない。
子供の一人暮らしなんて、最高過ぎるカモだろう。
だが、ここを出たら孤児なんてまともに相手をしてくれない。
オラリオの近くにある港町も同じ状況だろう。孤児、しかも5歳児に仕事なんてくれるわけがない。
孤児院がないわけじゃないが……あまりいい噂を聞かない。
神々の
それに、孤児院に入るにもそれなりに審査が行われる。
そして……5歳児がファミリアに入れるわけがない。サポーターにもなれはしないだろう。まともな所なら神だって渋る。
最悪の状況だ。
別の意味で涙が溢れそうになる。
けど、こんなところで、こんなことで死んでたまるか。
這い蹲っても生き延びてやるぞ!
俺はそう誓うのであった。
3日後。
【ゼウス・ファミリア】と【ヘラ・ファミリア】壊滅はオラリオを始め、周囲の街や国、世界へと広まった。
壊滅が事実であるとギルドが認定し、それを機に神々の会合が開かれ、女神ロキと女神フレイヤによりゼウスとヘラはオラリオ追放となった。
ゼウスは現役の眷属が1人もいなくなったことと今更ながらの俺の両親の結婚問題をフレイヤに突っつかれて、それにロキが乗ったことで流れが決まった。
ヘラも主戦力の眷属を失ったことを理由にゼウスと同罪とされて追放となり、残った眷属達も付いて行ったらしい。
これにより【フレイヤ・ファミリア】と【ロキ・ファミリア】が一気にオラリオ最強ファミリアの一角へと上り詰めた。
そして、恐れていた通り、過激派ファミリアが一気に動き出した。
ダイダロス通りは案の定過激派ファミリアに狙われて、大暴れされている。
そして……これまた案の定、俺の、俺達の家が狙われた。
しかも、周囲の住人達が自分達の家を見逃してもらうための生贄として。
俺は運よく……と言っていいのか分からないが、仕事を探すために外に出ていたので襲われることはなかった。
金は最悪を考えて持ち出していたので、何とかしばらく生きていけるだろう。野宿すれば金の節約も出来るはずだ。
貯蓄してた食料を失うのは痛いけどな……。
けど、これで本当に後がなくなった。
ダイダロス通りはもう駄目だ。貧民層の集まりで互いの繋がりも強かったが、一度裏切りが発生すれば一番脆い。すでに信頼も信用もなくなったはずだ。
父さん達が俺の食事を頼んでいた酒場も多分駄目だろうな……。
一番安全なのはどこだ?
……やっぱりどこかのファミリアに入ることだろうな。眷属になれなくても雑用係として使ってもらえれば十分だ。
大きいファミリアは無理だろうけど、中堅以下の探索系じゃないファミリアならいけるかもしれない。
やってやる。やってやるぞ!
…………
………
……
二か月後。
「オメェみてぇなガキがなんの役に立つってんだ!!」
「ぐぶっ!?」
荒くれ者の男に蹴られて、俺は地面を転がる。
外は雨が降っていた。
「ぺっ! テメェみてぇなガキはオラリオにいる価値ねぇんだよ! とっとと出て行って、どっかで野垂れ死にな!」
男は唾を俺に吐いて、建物の中に戻っていく。
無慈悲に閉められた扉の中から下品としか表現できない笑い声が聞こえてきた。
「く…そっ……!」
これでもうほぼ全滅か……。
この二か月、思いつく限りのファミリアに売り込んだ。
だが結果は惨敗という言葉どころか、勝負にすらなってない。全て門前払いだ。
もちろん、一般の店にも頼み込んだが結果は同じだった。
やはり過激派ファミリアのせいで売り上げが落ち、入荷量も減っているため物価やら出費やらが上がっているらしい。
残っているファミリアは、探索系のトップファミリアか諸悪の根源の過激派ファミリア、そして大手の商業系ファミリアだ。
だが、大手ファミリアは新人に雑用させて修行させることが多いので、無所属の一般人なんてまず雇わない。
探索系ファミリアも同じだ。過激派ファミリアは奴隷として売られるか、モンスターの囮にされる気しかしないので絶対にない。
やはり無所属というのがネックとなる。
いつか出て行くかもしれないガキを懐に入れるファミリアなんてないよな……。
大手になるほど他のファミリアとの競争や確執が大きくなるんだし。
俺はなんとか起き上がって、ふらつきながら路地へと足を進める。
金はもうそろそろ底をつく。
悔しいことに入団を申し込んだときに金だけ盗られて追い出されたことが何度もあった。
もちろん全財産を持っていくことなんてしない。
下水や公園の地面に隠しながら最低限の金だけを持って訪れていたからな。
けど、少なくない金が奪われたのも事実。
一日一食パンのみにしても、もう一週間もたないな……。数日ずつ断食しても一カ月は無理だ。それに今は5歳児の身体だ。すでに限界に近いのに、ここで断食すればすぐに衰弱死してしまう。
いよいよ本格的に追い詰められたな……。
雨の中をずぶ濡れになりながら、路地を進む。
そして、ここ最近寝床にしている下水の入り口へと近づくと、
「おい、ホントにここか?」
「間違いねぇって。ここにあのガキが寝泊まりしてるって聞いたんだ」
「そんなガキがホントに金なんて持ってんのかぁ?」
「ああ。何人かが金を隠してるとこを見てたんだよ。それに他のファミリアにも顔を出してたみたいでよ。結構金を払ったりしてたらしいぜ」
「それじゃあ、もうあんま残ってねぇんじゃねぇの?」
「かもな。けど、あったら儲けもんだろ? 酒代くらいにはなるだろうぜ」
体が冷たく感じるのは、雨のせいだけじゃないだろう。
まさか……そこまでするのかよ……。
野宿してるガキから、わざわざ金を奪いに来るのが冒険者なのかよ……。
神から恩恵を受けた眷属なのかよ!!
俺は無意識に下唇を噛んで、力が入らなくなってきた身体に鞭を打って背を向けて駆け出す。
死んでたまるか! 奪われてたまるか!! 屈してたまるか!!!
こんなところで! 何もしてないのに!! 何も出来てないのに!!
この世界に神などいない。
いや、元々神は人を救わない。そして、この地にいる神は不老なだけの一般人に近い存在でしかない。
だから、ゼウスとヘラは追い出された。
原作ではヘスティアやタケミカヅチが貧乏でバイトに追われていた。
つまり、所詮神も人間と変わらない存在であるということだ。
結局、この世界も前世と変わらない。
神の奇跡なんて、存在しない。
「はっ……はっ……はっ……!」
もはや自分がどこを走っているのか分からない。
けど、足を止めればすぐに見つかってしまう。
俺はただただ必死に走る。
だが、突如足の力が抜けてもつれ、勢いよく転んで水溜りに顔を突っ込む。
「あっ! ぶぅ!?」
すぐに立ち上がろうとするが、もう腕にも力が入らない。
体の震えが止まらない。
これ……ヤバイかも……。
クソ……ホントに終わりかよ……。
なんで……俺がこんな目に……。
生温い世界で生きてきた奴には、冒険すらさせてくれないのか……。
もう指一本すら動かす気力がなくなり、身体を打つ雨粒の感覚も無くなってきた。
その時、
ペシャ、ペシャ、ペシャ
何かが水を跳ねるような音が薄っすらと聞こえてきた。
「やれやれ……よぅやっと見つけたと思うたら、死にかけておるではないか」
……誰、だ?
「ゼウスめが。己が子達が死んで大変であったとはいえ……己が子が生んだ子供を忘れていくなど、どれだけ耄碌しておるのか……」
視界がぼやけて、分からない。
けど、誰かに抱き抱えられたのは何となくわかった。
「もう大丈夫じゃ。これからは妾がいてやるぞ」
……あたたかい。
どんな人か知りたいのに、どんどん視界が暗くなる。
意識が遠のきながらも、必死に耳を傾ける。
「この
女神の漢字はあくまで一応です。実在する神様ですので、ちゃんと正式名称は書いておくべきかなと思っただけですので、本編ではカタカナ表記と思ってくださいませ