【ライトニング・サムライ】~転生者はダンジョンで英雄になりたい~   作:独身冒険者

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連投その8
さぁ!抗争だ!


派閥抗争

 ハルハがギルドから【ネイコス・ファミリア】の本拠を聞き出していた。

 

 ハルハ、アワラン、ディムルは本拠を飛び出して、敵陣へと攻め込みに行った。

 

 俺と正重は屋敷の屋根に立って、周囲を警戒する。

 

「この屋敷に側道はない。連中が単純なら屋敷の背後から来る。そこそこ頭が回るなら、正面からと挟み込んでくると思う」

 

「うむ」

 

 屋敷の両サイドは他の極東出身の人達の家が並んでいる。

 そこを突っ切ってくる可能性もあるが、そうすればギルドから確実に罰が下される。これまでの話から、【ネイコス・ファミリア】にそこまでの度胸はないだろうと俺達は判断した。

 

 問題は、どこまで戦力をこっちに割くか。

 

 【ネイコス・ファミリア】の団員数は24人。

 向こうが攻め込まれることを予想していたら、こっちは少ないかもしれない。

 

 一番単純なら10と14に分け、14をこっちに向かわせるはず。

 けど、こっちもLv.2が2人いることを知っているなら、14を残すかもしれない。

 

 そうなると、ディムルとアワランがキツくなる。ハルハも負けはしないけど、勝つのは手間取ると思う。

 

 やっぱり俺がどれだけ早くこっちを終わらせるか次第ってわけか。

 

 ちなみに今の俺はいつもの刀二振りと槍を装備している。

 

 正重は《砕牙》を握り、薙刀と大斧を背負っていた。

 ……なんか弁慶みたいだな。

 

 空はすでに夕焼けを終えて、夜の闇が周囲を覆っている。

 

 視界は悪くなってきているが、火矢や魔法を使おうとすれば凄く目立つ。

 

 一番警戒するのはその2つなので、俺は少しでも怪しい光があればそこに突っ込むつもりである。

 

 ……来たかな?

 

「正重」

 

「うむ」

 

 正重も気づいたようで、《砕牙》を握る手に力が入る。

 

 どうやら最低限の智謀はあったようだ。

 

 敵意が屋敷の表と裏手に集まっている。

 だが、魔導士や斥候はいないのか。こっちの様子を碌に窺うこともなく、両側から一気にこっちに走ってきた。

 

「正重」

 

「うむ」

 

「猛れ」

 

「うむ!!」

 

 ドン!!と瓦を砕かんばかりの力強さで屋根を飛び出し、表に向かって一気に塀を跳び越える正重。

  

ズシン!! 

 

 地面を揺らして着地した正重に、【ネイコス・ファミリア】の団員達は驚きと共に慌てて足を止める。

 

「なぁ!?」

 

「獅子人ってことは、こいつ!? 【スセリ・ファミリア】の!?」

 

「読まれてたのか!?」

 

 

ウゥオオオオオオオオオ!!!

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 正重の威圧の咆哮が、襲撃者達に襲い掛かって足を地面に縫い付けられたような感覚に襲われる。

 

 縦に鋭くなった瞳を限界まで見開いて、《砕牙》を振り上げながら攻めかかる。

 

「オオオオオオオオ!!!」

 

「「「いやああああああ!?」」」

 

 

ズドォン!!

 

 

 地面が揺れて、砂塵が舞い上がる。

 

 ……あっちは問題なさそうだな。

 

 じゃあ、裏手の方はさっさと終わらせよう。

 

「【鳴神を此処に】」

 

 超短文詠唱を唱え、雷を纏う。

 

 そして、雷の尾を引いて一瞬で連中の前に移動する。

 

「げぇ!? 【迅雷童子】!?」

 

「嘘だろ!? 本拠に行ったんじゃなかったのかよ!?」

 

「行くさ。――お前らを倒した後にな」

 

 

バヂィン!!

 

 

「「「「「「「ぎゃあああああああ!?」」」」」」」 

 

 一瞬で連中の真ん中に潜り込んで、槍の石突側を振り回して全員の側頭部に叩きつける。

 衝撃と電撃に連中は一撃で意識を飛ばして、地面に倒れる。

 

 魔法を解除した俺は槍で肩を叩きながら、起き上がる者がいないかどうか警戒する。

 

 そこに駆け寄ってくる気配を感じ取り、槍を構えるが、

 

「待て!! 俺達は【ガネーシャ・ファミリア】だ!」

 

「……【ガネーシャ・ファミリア】?」

 

 現れたのは見覚えのある仮面を被った男達。

 

「何故【ガネーシャ・ファミリア】がここに?」

 

「ギルドからの依頼だ。【スセリ・ファミリア】と【ネイコス・ファミリア】の抗争の監視、両ファミリア本拠周囲の避難誘導、そして負けた者を速やかに拘束しろってな」

 

「……監視と避難誘導は分かりますが……拘束は何故?」

 

「罰則を恐れてオラリオから逃げ出さないようにするためだ。後、あくまで拘束指示は【ネイコス・ファミリア】に対してで、【スセリ・ファミリア】は事情を説明して本拠で治療を含めて謹慎を要請することになってる」

 

「……なるほど。では、こいつらはお願いします」

 

「ああ。……負けんなよ、アーディが泣きかねん」

 

「――もちろん」

 

 俺は魔法を再び発動して、正重の元へと向かう。

 

 正重の方もすでに全滅させており、傷1つ負っていなかった。

 

「大丈夫か?」

 

「うむ、俺、無傷」

 

「よし。こいつらは【ガネーシャ・ファミリア】が拘束してくれるそうだ。俺は先に行くから、正重はスセリ様に一声かけてきてくれ。スセリ様が残れと言えば残って、俺達のところに行けって言われたら来てくれればいい」

 

「承知」

 

 正重が頷いたのを見ながら、地面を蹴って高速で飛び出す。

 

 無事でいてくれよ……!

 

…………

………

……

 

 ハルハ、アワラン、ディムルは【ネイコス・ファミリア】本拠の前へとやってきていた。

 

 【ネイコス・ファミリア】の本拠は裏路地にあるボロイ酒場だった。

 

「見張りも、門番もなし。どうぞお入りくださいってか?」

 

「みたいだねぇ。……じゃあ、派手に挨拶してやろうかぁ!!」

 

 ハルハは大鎌を振り下ろして、扉を吹き飛ばす。

 

「邪魔するよ」

 

 中に入ると、案の定【ネイコス・ファミリア】の団員達が武器を構えて、睨みつけていた。

 

 酒場の中はテーブルや椅子が全て片付けられており、暴れやすいように整えられていた。

 

 そして店奥のカウンターには、茶色の長髪を無造作に後ろで束ねている軽鎧を身に着けた細身のヒューマンの男が丸椅子に座っている。

 

 彼が【ネイコス・ファミリア】団長、【賊剣】のディーチ・ヤラレルンである。

 

「おいおい……いきなり派手に壊しやがって……。後で弁償してもらうぜ?」

 

「どうせ今日で店仕舞いさ。気にすることないよ」

 

 呆れ顔を浮かべたディーチの苦情をハルハは肩を竦めて躱す。

 その言葉に【影爪】―クロック・シャクチーは怒りに顔を歪めるが、ディーチはハルハ、アワラン、ディムルを素早く見て、目を細める。

 

「……【闘豹】はともかく、他は新入りの2人だけか? 【迅雷童子】はどうした?」

 

「はっ!! お子ちゃまは怖くなって逃げ出したかぁ!?」

 

 クロックが分かりやすい挑発をするが、ハルハとアワランは鼻で笑い返した。

 

「はっ! 安心しなよ。うちの団長は今、本拠の周りをウロチョロしてるドブネズミ共を始末してるところさ」

 

「お前らと同じドブの臭いがしてたぜ? 今頃黒焦げになってるか、獅子に食われちまってるんじゃねぇか?」

 

「っ……!! テメェらぁ……!!」

 

「あんた達が考えそうなことなんてお見通しだよ。雑魚がどれだけ群れようが、雷を抑え込めるわけないさね」

 

「ちっ……」

 

「さぁ、さっさと始めようか。早くしないと、フロルに全部盗られちまうからね」

 

 ハルハが大鎌をディーチに突きつけた瞬間、クロックが短剣を抜いて、ハルハへと飛び掛かってきた。

 クロックの両手には鉤爪が着いていた。

 

「お前の相手は俺だあああ!!」

 

「はぁ? 一度倒した奴に興味はないよ」

 

「そっちはなくても、こっちにゃあんだよぉ!! 殺してやっからよぉ!! 死ねぇ!!」

 

 ハルハはめんどくさげに払い飛ばそうと大鎌を振るが、クロックはしゃがんでそれを躱し、ハルハに詰め寄る。

 

「お?」

 

「あの時と同じだと思ってんじゃねええ!!」

 

 素早く繰り出される短剣と鉤爪を、ハルハは大鎌で弾く。

 ハルハとクロックが激しく動き回り、その戦いに巻き込まれまいと団員達が慌てて距離を取る。

 

「ちっ……馬鹿猫が。勝手に動きやがって」

 

「じゃあ、テメェの相手は俺だな」

 

 ボキボキと拳を鳴らし、アワランが不敵に笑う。

 

「テメェがぁ……? 俺と? Lv.1の癖に俺に勝とうってのか?」

 

「ったりめぇだ。俺らは勝つために来てんだからよ。姑息なやり方しかしてこなかったテメェらとはちげぇんだ」

 

「……現実を知らねぇガキが。いい気になってんじゃねぇよ。オイ、オメェら。とっとと遊んでやれ」

 

「あいさぁ!!」

 

「舐めんじゃねぇっての!!」

 

「ぶっ殺してやるぜぇ!!」

 

 ディーチは団員にアワランの相手を命じる。

 

 それに雑魚扱いされた団員達が武器を構えて、飛び掛かろうとするが、

 

「あなた達の相手は私です」

 

 ディムルが二槍を構えて、前に出る。

 

「はぁ~? 本気で言ってんのか? この人数を? お前1人で相手すんのか?」

 

「ははは! 現実は見なきゃ駄目だよ、エルフちゅあ~ん」

 

「俺らが勝ったら、夜の相手してもらおうぜ!」

 

「おっ! いいねぇ!」

 

 団員達は下劣な笑みを浮かべて嘲笑う。

 

 ディムルは短槍を突き出し、詩を紡ぐ。

 

「【――其の傷は汝の常。我が忠義は永遠の矛】」 

 

 短槍を中心に魔法陣が出現し、魔法陣は短槍へと吸い込まれたかと思うと短槍が淡く輝く。

 

 それに男達の顔が強張る。

 

「我が一族の槍、出し惜しみは致しません。この人数差では手加減も出来ないでしょう。お覚悟を」

 

「っ――!! 舐めんじゃねぇって言ってんだろうがぁ!! キザエルフがああ!!」

 

「後悔すんなやぁ!!」

 

 男達は顔を真っ赤にして、一斉にディムルに襲い掛かる。

 

 それをディーチは盛大に顔を顰める。

 

「……どいつもこいつも……」

 

「ってことでぇ、俺の相手はお前だぁ!!」

 

「!!」

 

 アワランが勢いよく飛び出して、ディーチに右拳を振り抜く。

 

 ディーチは軽やかに横に跳び、アワランの拳はディーチがもたれていたカウンターを砕く。

 

 ディーチは腰から細剣を抜いて、舌打ちする。

 

「ちっ……また店が壊れちまった」

 

 

「さぁ、燃えてきたぜえええ!!」

 

 

「!?」

 

 アワランは猛りながら素早くステップを踏み、腕を素早く連続で突き出し、脚を振り上げ、激しくシャドーを行い始める。

 

 すると、アワランの皮膚が火照ったように赤くなり、噴き出していた汗が水蒸気に変わる。

 

「こいつ……!?」

 

「先に言っとくぜ!! 俺の拳はぁ! ちょっと硬ぇぞおお!!」

 

 木板の床を踏み砕いて、アワランが殴りかかる。

 

 ディーチは目を鋭くし、油断なくアワランを見据えた。

 

…………

………

……

 

 戦闘が始まった【ネイコス・ファミリア】本拠を見下ろせる建物の屋上に、複数の人影があった。

 

「ねぇ、お姉ちゃん。ホントに見てるだけでいいの?」

 

「お姉ちゃんと呼ぶな。今は任務中だ」

 

「は~い、お姉ちゃん」

 

 ヴァルマ姉妹である。

 

「……はぁ。……いいも悪いも無い。本来ファミリア同士の抗争に関わることは新たな火種を生むだけで、褒められたことじゃない。ギルドからの依頼だからこそ、まだ大義名分があるだけだ」

 

「でもさぁ、闇派閥が暴れ出すかもしれないのにファミリア同士で抗争してる場合?」

 

「それは正論だが、【ネイコス・ファミリア】はどちらかと言えば準闇派閥と言える行動が噂されている。それに闇派閥との戦闘の際、参加を断るというのも聞いたことがある」

 

「……ってことは?」

 

「ギルドはこの抗争を利用して、【ネイコス・ファミリア】を排除、または弱体化したいのだろうな。闇派閥との繋がりでも出れば御の字、というところか」

 

「……そのために【スセリ・ファミリア】……フロルを戦わせたの?」

 

「間違えるな、アーディ。元々【スセリ・ファミリア】と【ネイコス・ファミリア】は抗争状態だったんだ。【闘豹】がギルドに報告してきたから、迅速に動けたに過ぎない」

 

「……」

 

 アーディはそれ以上何も言わなかったが、明らかに『納得していません!』オーラ全開だった。だが、論破するだけの言葉が思い浮かばなかっただけなのだろうとシャクティは鼻で小さく息を吐く。

 

 すると、背後に気配を感じ取って、振り返る。

 

「……【勇者】」

 

「ロ、【ロキ・ファミリア】……!」

 

「やぁ、【象神の杖(アンクーシャ)】。それと妹君。お邪魔するよ」

 

 現れたのはフィン、リヴェリア、ガレスの3人。

 

 フィン達はシャクティの隣に立って、戦場を見下ろす。

 

「何しに来た?」

 

「安心してくれ。下の戦いにも、君達のクエストにも、横槍を入れる気はない」

 

「【ロキ・ファミリア】の団員達も、其方達の依頼を手助けするように指示を出している。警邏に、この付近に一般人が近づかないよう誘導に回っている」

 

「僕達は単純に見物さ。【迅雷童子】、そして【スセリ・ファミリア】の戦いぶりをね」

 

「今一番勢いがあるヒヨッコ共じゃからの!」

 

「……はぁ。闇派閥が出ないことを祈るとしよう」

 

 

ドオォン!!

 

 

 シャクティが溜息を吐いて、天を仰いだ直後、【ネイコス・ファミリア】本拠の壁が吹き飛んだ。

 

 飛び出してきたのは、ディーチとアワランだった。

 アワランが拳を振り抜いた体勢で飛び出してきたことから、アワランが壁を殴り壊したのだとフィン達は理解した。

 

「……ちっ。遂に壁までやりやがった」

 

「オォラァ!!」

 

 舌打ちするディーチに、アワランが殴りかかる。

 

「うっとぉしぃんだよ!!」

 

 ディーチは苛立ちに吠えながら細剣を鋭く突き出す。

 アワランは身体を傾け、頬を僅かに掠るも恐れずに前に出る。

 

「っ! うらぁ!」

 

 細剣での対処は間に合わないと悟ったディーチは、左脚を振り上げてアワランの脇腹に蹴りを浴びせる。

 

「痒いってんだよぉ!!」

 

 だが、アワランは止まらない。

 

 ディーチの一撃を物ともせず、アワランは握り締めた右拳を振り抜いた。

 ディーチはギリギリで左腕でガードするが、勢いまでは止めきれずに後ろに吹き飛ばされる。

 

「ぐぅ!?」

 

 後転して素早く起き上がって、ディーチは距離を取る。

 

(こいつ……! 武器の攻撃は通るくせに、拳や蹴りが全く響かねぇ……!)

 

 ディーチはアワランの異常さに内心顔を顰める。

 

「まだまだ燃えるぜぇ!!」

 

 アワランは殴蹴の嵐を繰り出す。

 

 ディーチも負けじと細剣を連続で鋭く突き出し、懐に潜られては拳や蹴りで引き離そうとするが、アワランの猛攻に対応しきれずに後ろに弾かれる。

 

「へぇ……」

 

「ほぅ、中々面白い小僧じゃ。『耐久』がかなり高いようじゃの」

 

「それだけではない。戦いの技術が相手のヒューマンよりも圧倒的に上だ。ステイタスの差を埋めるほどに」

 

「だが、決定打に欠ける……。いつまであの勢いが保つか」

 

 すると、再び【ネイコス・ファミリア】本拠の壁が吹き飛んだ。

 

 穴から飛び出してきたのは、ディムルだ。

 肩で息をして、所々鎧が壊れている。

 

 それに続いて、武器を構えた【ネイコス・ファミリア】の団員達が5人ほど飛び出してくるが、男達もあちこちから血を流し、肩で息をしている。

 その最後尾には杖を持ったヒューマンの男がおり、壁が吹き飛んだのは男の魔法だった。

 

「はぁ! はぁ! こ、このアマァ……!」

 

「はぁ……はぁ……(流石に【ガ・ジャルグ】を使う余裕はありませんか。ならば、今を続けるのみ!)」

 

 ディムルは二本の槍を構え、男達の動きを見据える。

 

「いい加減くたばれやがれええ!!」

 

 剣を振り上げて、犬人の男がディムルに斬りかかる。

 

 ディムルは素早く二本の槍を交えて剣を受け止めた瞬間、二本の槍で挟む様にして横に受け流す。

 長槍を薙いで、犬人の男が慌てて後ろに下がった瞬間に、淡く輝く短槍を鋭く突き出して犬人の男の右肩を突き刺す。

 

「がっ!?」

 

「このヤロオオ!!」

 

「ふっ!」

 

 横から襲い掛かってきた男に、長槍を振り下ろして足を止めさせる。そして、その隙を突いて短槍を繰り出し、男の脇腹を掠る。

 最後に長槍を薙いで、男を薙ぎ払う。

 

「ぐあっ!?」

 

「ちぃ……! コイツ……!」

 

「くそっ! やっぱりポーションが効かねぇ……!」

 

「上級ポーションまで効かねぇだと……!? どうなってやがる!?」

 

「呪詛か? いや、だとしたらいつ掛けられたんだ? あいつは戦闘中に魔法なんて使ってねぇのに……」

 

「最初に使ってただろ……! あれが呪詛だったんだよ!」

 

「エルフの癖に呪詛を使うたぁやってくれんじゃねぇかよ……!」

 

「私はエルフである前に騎士、そして冒険者です。我が主神に勝利を誓った以上、たとえ卑劣と罵られることになろうと我が槍が鈍ることはありません」

 

 二槍を構えてはっきりと告げるディムル。

 

 その言葉は屋上にいたエルフの王女にも届き、リヴェリアは僅かに口を吊り上げる。

 

「彼女は恩恵を得たばかりだと聞いていたけど……」

 

「その前から武術を嗜んでいたようだな。あの槍捌き……感嘆の念しか湧かん」

 

「そうだね。本当に、末恐ろしい新人達が現れたものだ」

 

 ディムルと同じく、槍を得手とするフィンとシャクティはディムルの槍捌きに惜しみない賞賛を贈る。 

 

「まぁ、まだまだヒヨッコなんは変わらんがの」

 

「けど、ああいう子達が現れるというのは、今のオラリオにとっては一種の希望だよ、ガレス」

 

「ふっ。いずれ我々も足元を掬われるやもしれんな」

 

「流石にそう簡単に許す気もないけどね。でも、僕達【ロキ・ファミリア】も後進育成に力を入れないとね。【フレイヤ・ファミリア】も将来有望な新人が伸びてきてるようだし」

 

「おお、猫人の兄妹に、小人の四つ子も伸びて来ておるとか?」

 

「雑談はそこまでにしてくれ。……どうやら決着がつきそうだ」

 

 シャクティの言葉にフィン達も意識を戦場に戻す。

 

 

 アワランは荒く息を吐いて、膝に手を着いていた。

 致命傷はないものの浅い切り傷が全身にあり、少なくない量の血を流していた。

 

 ディーチも肩で息をしているが、傷らしい傷は見当たらず、細剣をしっかりと握って構えている。

 

「はぁっ! はぁっ! はぁっ!」

 

「……はっ。ここまでだな。テメェの空元気もよ」

 

「はぁっ! はぁっ! ……ははっ、やっぱ糞野郎でもLv.2ってわけだ。ちょっと届いてねぇな……」

 

「その『ちょっと』がデケェんだよ。今のテメェじゃ覆せねぇほどにな」

 

「……いやぁ……そいつはどうだろうなぁ?」

 

「あ?」

 

「【――闘志は折れず、拳は折れず、膝は折れず。我が体躯は傷を知らず、我が魂は痛みを知らず】」

 

「っ!! テメェ!!」

 

「【――故に我は不屈也】!! 【マース・カプダ】!!」

 

 アワランの身体が淡い橙色に輝く光に包まれる。

 

 ディーチはすでに飛び出して、細剣を突き出そうと腕を引いていた。

 

 しかし、アワランはそれに慌てることもなく、右手を握り締めて右腕を振り被りながら遅れて飛び出した。

 

「はっ!! 馬鹿がぁ!! 死にやがれえええ!!」

 

 ディーチはアワランが苦し紛れに飛び出してきたようにしか思えなかった。

 

 アワランの眉間を狙って渾身の突きを繰り出したディーチ。

 

 アワランはそれでも目を見開いて、前に突き進む。

 

 それにシャクティ達も無謀な突攻に眉を顰め、最悪の結末が頭を過ぎる。アーディも目を背けてしまう。

 

 ディーチは完璧に勝利を確信して、口端がつり上がる。

 

 そして、細剣の切っ先がアワランの眉間に突き刺さった、その時。

 

 

ガキッパッキイィイィン!!

 

 

 一瞬火花を散らして、()()()()()()

 

「――は?」

 

 ディーチは薄ら笑いを浮かべたまま、目を見開いて固まる。

 

 細剣を砕いたアワランは大きく左足を踏み出して、足指に力を込めて地面を砕き掴む。

 

 

「づぅうらあああああああああああ!!

 

 

 ギシギシと筋肉が悲鳴を上げる程力が込められていた右腕が解放され、渾身の右ストレートが振り抜かれた。

 

 淡く輝く右拳は、ディーチの胴体を保護していた軽鎧をガラス細工のように撃砕し、無防備になった鳩尾にめり込んだ。

 

「ごばっっっ!?」

 

 ディーチは轟音と共にくの字に吹き飛び、ディムルと男達の間を猛スピードで横切り、一度地面を跳ねて20Mほど転がっていく。

 

 路地裏を抜けたところでうつ伏せで止まったディーチは、そのまま起き上がることはなかった。

 

 目の前で起きた信じられない光景に、団員達は目を見開き、唖然と口を開けたまま倒れ伏したディーチを見て、そして右腕を振り抜いた姿勢で止まっているアワランへと顔を向ける。

 

「はぁ! はぁ! はぁ! っ!!――よっっっしゃあああああ!!」

 

 アワランは夜空を仰ぎ、両腕を突き上げて勝利の雄叫びを上げる。

 

 眉間からは少量ながら血を流しているが、正面から細剣の突きを受け止めた事を考えれば掠り傷に等しい。 

 

 それを上から見ていたフィン達は、アワランの下剋上を冷静に見つめていた。

 

「ふむ……防護魔法、かな? どう見る? リヴェリア」

 

「その類ではあるだろうが……。あの火花を見るに、皮膚を硬質化したのではないかと考えられる」

 

「なるほど……。彼はとことん『耐久』を高めて、身体を武器にするみたいだね」

 

「ふはははは! 殴り合い特化とは、面白い小僧じゃな!!」

 

 ガレスが腕を組んで楽しそうに笑っていると、下では大鎌を担いだハルハが姿を見せていた。

 

「なんだ、勝っちまったのかい?」

 

「おう、ハルハ。そっちも終わったのか?」

 

「まぁね。少し遊んだけど、結局変わり映えしなかったよ」

 

 団長と副団長が破れたという事実に、団員達は顔を真っ青にして後退る。

 

 その時、ハルハがアワランの背後に目を向けると、

 

 

 小型ボウガンを構えたディーチの姿があった。

 

 

「っ!! ディムル!! 後ろだよ!!」

 

「「!?」」

 

 ディムルとアワランが、目を見開いて後ろを振り返る。

 

 シャクティ達も目を丸くし、動こうとしたその時、視界の端で閃光が瞬くのを捉えた。

 

 その直後、

 

 

 ディーチに雷が落ちた。

 

 

「っっ―――!?!?!?」

 

 ディーチは声にならない悲鳴を上げ、全身を焼かれる。

 

 突然の落雷に全員が目を庇う。

 直後、雷がうねりを上げて、ハルハ達がいる裏路地へと飛び込んできた。

 

「「「「「ぎゃあああああああ!?」」」」」

 

 【ネイコス・ファミリア】の団員達が雷に焼かれ、同時に身体に叩き込まれた衝撃に吹き飛び、酒場の中へと突っ込んでいった。

 

 そして、男達と入れ替わったようにその場にいたのは、雷を纏うフロルであった。

 

「皆、無事か?」

 

「……やれやれ、最後に美味しいところ全部持ってったねぇ」

 

「へ?」

 

「何でもないよ」

 

「くそ~仕留めきれてなかったか……。助かったぜ、団長」

 

「救援感謝致します」

 

 ハルハは肩を竦め、アワランは油断したことに悔し気に頭を掻いて、フロルに礼を言う。

 ディムルも頭を下げ、短槍の魔法を解除する。

 

 フロルも魔法を解除して、崩壊した酒場に目を向ける。

 

「……派手にやったなぁ」

 

「敵の住処がどうなろうと知ったこっちゃないよ。向こうだって、アタシらの本拠を壊そうとしてたんだしね」

 

「まぁな。さて……後は【ガネーシャ・ファミリア】に任せるとしようか」

 

「【ガネーシャ・ファミリア】?」

 

「ギルドから俺達の抗争を監視するように言われてるらしい。俺達の本拠を襲おうとした連中もすでに捕縛されてる」

 

「じゃあ、こいつらも?」

 

「ああ。明日にでもギルドから何かしらのお達しが来るんじゃないか? 俺達はとりあえず、本拠に戻って治療して身体を休めよう」

 

「分かりました」

 

「くっそ~。これじゃあ【ランクアップ】は無理かもな~」

 

「最後失敗しちまったからねぇ」

 

「フロルー!」

 

「ん?」

 

 本拠に戻ろうとしたフロル達の上から声が聞こえてきた。

 

 フロル達が上を見上げると、アーディが屋上から身を乗り出して、手を振っていた。

 その横ではシャクティが顔を手で覆って呆れていた。

 

「アーディ?」

 

「お疲れ様ー! かっこ良かったよー!」

 

 フロルは少々気恥ずかしかったので、手を振るだけで応える。

 

「おやおや、あれが噂の逢引の相手かい?」

 

「……まぁな」

 

 ハルハがニヤニヤしながら訊ねてきて、フロルは顔を背けながら頷く。

 

「お~、結構可愛いじゃねぇか。団長も意外と隅に置けねぇなぁ」

 

「フロル殿もまだ7歳なのです。良いことではないですか」

 

 アワランとディムルも微笑ましい視線をフロルに向ける。

 

 それにフロルは背中がむず痒くなる。

 

「さ、さっさと帰ろう。スセリ様に怒られる」

 

「はいはい」

 

 明らかに誤魔化したフロルに、ハルハ達は笑いながら後に続く。

 

 抗争の直後とは思えない和やかな雰囲気の4人。

 

 

 だが、その足取りは堂々としており、勝者の風格を纏っていた。

 

 




ガレス、アワラン、ミアの殴り合いが見たい人!(はい!)
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