【ライトニング・サムライ】~転生者はダンジョンで英雄になりたい~   作:独身冒険者

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連投ラスト


新たな派閥

 いよいよ泊まり込んでのダンジョン探索だ。

 と言っても一泊だけだけど。

 

「気を付けるのだぞ」

 

「はい」

 

 スセリ様に挨拶して、俺達は早々にバベルへと向かう。

 バベル前の広場でドットムさんと合流して、とっとと中層へと下りようということになった。

 

「ギルドに確認してきたが、階層主は3日前に討伐されたらしいぜ。だから、まぁ、イレギュラーが起きたら18階層に逃げ込んでもいいだろうよ」

 

「分かりました」

 

「ただ、【フレイヤ・ファミリア】の幹部連中が下層に潜ってるらしい。遠征じゃないみてぇだから、鉢合う可能性がある。流石に【フレイヤ・ファミリア】と喧嘩されたら庇えねぇし、関われねぇぞ」

 

「流石にハルハやアワランだって喧嘩する相手ぐらい選んでくれます」

 

「「おい」」

 

「坊主も神スセリヒメを馬鹿にされたからって殴り掛かんなよ? あそこの眷属共は主神が主神だし、心底惚れ込んでっから他の女神を貶すことに遠慮がねぇ。あそこは異常な奴らの集まりだって、頭ん中叩き込んどけ」

 

「はい」

 

 もちろんです。

 そこらへんは理解してる……つもりだ。

 

 ……あまりにムカつくこと言われたら自信は無いけどさ。

 

 とりあえず会うかどうかも分からん人達のことは横に置いて、今は遠征に集中しよう。

 

「じゃあ行こう。はしゃぎ過ぎないようにな」

 

「だから分かってるって言ってんだろ? アタシらだってそこまで単細胞じゃないよ」

 

「それに少しくれぇはしゃいだ方が、どれくらい影響出んのか分かっていいんじゃねぇの?」

 

「それはそうだけど、初回でやる必要はないよ。ただでさえ俺達は15層までしか行ったことないんだからな」

 

「そういうこったな。ミノタウロスも出るんだ。油断は出来ねぇぞ」

 

 俺とドットムさんの言葉にアワランは不服気に腕を組む。

 まぁ、いずれは暴れまくって一泊する必要は出てくるだろうけどな。初回からやるのはハードすぎる。

 俺だってまだミノタウロスとは戦ったことはないし、ハルハももちろんない。

 

 ミノタウロスはLv1では倒せないと云われている。

 いくらアワランや正重でも無理だろう。アビリティーオールSだったベル・クラネルですらギリギリだったんだから。

 なので、現状ミノタウロスを単独で倒せるのは、ドットムさん、俺、ハルハだけとなる。

 

 パーティーだったら勝てるだろうけどさ。

 でも、それじゃあランクアップは難しそうなんだよな。

 

 難しい所だ。

 まぁ、それ故にランクアップを果たすには『偉業が必要』とされてるんだよな。神の恩恵がそう簡単に昇華するわけがない。

 俺だってスキルがあったとは言え、ランクアップするのにかなりの地獄を見た。

 

 ぶっちゃけ、まだまだ正重達のランクアップは難しいだろうな。

 

 そんなことを考えていると、

 

「おーい、団長ー。置いてくぞー」

 

「ああ、今行く」

 

 少し置いて行かれていたようだ。

 すると、

 

「きゃーー!!」

 

「ん?」

 

 悲鳴が聴こえ、俺達は視線を向ける。

 

 見ると、2人の男が女性から鞄を奪って、こっちに向かって走って来ていた。

 男の1人はナイフを持っており、振り回しながら周囲を威嚇していた。

 

 闇派閥…じゃなさそうだな。ただのゴロツキか。

 

「どけやガキーー!!」

 

 どかん。

 俺は迫ってくる男達をまっすぐ見据えて、取り押さえようとしたが……。

 

 横から猛スピードで迫る人影を視界の端に捉えた。

 

 

「てりゃあああ!!」

 

 

 気迫と共にその人は、真横からナイフを持つ男に飛び蹴りを浴びせた。

 

「ぐへぇ!?」

 

 男は横から車に激突されたかのように、10M近く吹っ飛んでいった。

 そして蹴飛ばした人は、驚きながら足を止めた鞄を抱えている男に向きながら細剣を抜いた。

 

「そこまでよ! 大人しくしなさい!」

 

 俺に背中を見せたその人は、燃えるような赤い髪をポニーテールに纏めた少女だった。

 

「ぐっ……なんだよ、クソガキが……!」

 

「こんな美少女に向かってクソなんて失礼ね! ま、女性から荷物を奪って、子供を襲おうとする奴に『な、なんて美少女なんだ……』なんて褒められても嬉しくないけど」

 

 少女は細剣を突き付けたまま、空いた左腕で肩を竦めて余裕綽々な態度を見せる。

 

 ……なんか…天然っぽい人だな。

 あと俺、どうしたらいいんだろうか? 子ども扱いされたけど…って子供か俺。

 

 ちなみに吹き飛んだナイフ男はドットムさんが背中を踏みつけてる。

 

「さて、まだ逃げる? 冒険者から逃げられると思わない方がいいわよ」

 

「くそっ……!」

 

 そもそもこんなところでよく盗みを働こうとしたな。ここって冒険者がいて当然の場所だろうに。

 それとも冒険者関係の品だから狙ったのか? 闇派閥にでも売れれば金にはなるだろうしな。

 

「やれやれ……。団長様、いきなり1人で飛び出さないでくださいまし」

 

「ったく……もうちょっと落ち着きってもんを覚えてくれねぇかねぇ」

 

 歩み寄ってきたのは、ザ・大和撫子風の和服に太刀を携えた美少女と、ピンクショートヘアの小人族の少女。

 団長って呼んでるから、新しく出来たファミリアなんだろうな。

 

「ふっふーん! 悪があれば駆けつけるのが私なの! 一日一()()! 積み重ねれば大きくなって、世界を救うのよ!!」

 

 正義。

 

 赤髪の彼女は確かにそう言った。

  

「別に悪を誅するのを咎めてはおりません。お1人で暴れないでくださいと言ってるのです」

 

「いいじゃない。子供が襲われそうだったんだもの」

 

「……子供って、まさかソイツのことか?」

 

 小人族の少女が俺を見て、眉を顰める。

 

 あ、俺の事ご存じですか?

 

 小人族の少女は額に手を当てて、大きくため息を吐き、

 

「はぁ~……あのなぁ、団長サマよ。コイツ、今オラリオでご有名な【迅雷童子】様だぜ」

 

「へ? 【迅雷童子】?」

 

 赤髪の彼女はポカンとした顔で俺を見る。

 

 そうです。わたしが【迅雷童子】です……とでも名乗ればいいのか?

 名乗らんけど。

 

「あなたがあの世界最年少にして1年でランクアップしたっていう?」

 

「最年少はともかく、1年じゃないな。冒険者になってからは1年だが、恩恵を授かってからは2年だ」

 

「あ、そうなの。……え? 本当に【迅雷童子】?」

 

「そうだな。【スセリ・ファミリア】団長、フロル・ベルムだ。ところで、男は放っておいていいのか?」

 

「あ、忘れてた!」

 

 赤髪の少女はハッとして男を振り返る。

 忘れんなよ。

 案の定、男は荷物を投げ捨てて逃げようとしていた。仲間も見捨てて。

 

 だが、男の足元に大鎌が突き刺さる。

 もちろん、ハルハが投げたものだ。

 

「ひぃっ!?」

 

「ったく……カッコつけて現れた癖して、いきなり騒ぎ出して相手忘れるとか…呆れて物も言えないね」

 

 ハルハが呆れながら言い、アワランが隣で頷いていた。

 赤髪の少女は素早く男を蹴り倒し、切先を突き付けて押さえ込む。

 

「全く油断も隙も無いわね! しかも、お仲間まで見捨てようとするなんて」

 

「くそっ……!」

 

 男が悔し気に顔を歪める。

 その時、俺は視界の端に、周囲を囲み始めていた野次馬の中に怪しい動きをする男を見つけた。

 その男は何かを抱えていた。

 

 あれは……ボウガンか!

 

 狙いは赤髪の子!

 

 俺は腰の刀の鯉口を切りながら、ボウガンの男に向かって駆け出す。

 直後、男はボウガンから矢を放った。

 

 だが、俺はすでに射線上に割り込んでおり、飛んでくる矢を居合で斬り落とした。

 

「なっ!?」

 

「へ?」

 

 いきなり現れて邪魔した俺に、男は目を丸くして驚き、赤髪の少女は目をパチクリさせていた。

 

 俺は素早く男に詰め寄り、掌底を男の鳩尾に叩き込む。

 

「ごえっ――!」

 

 崩れ落ちた男の襟首を掴んで、赤髪の少女の傍に倒れている仲間の近くに放り投げる。

 

 やれやれ……思ったより厄介な連中だったみたいだな。

 

「ドットムさん、そいつもこっちに」

 

「おう」

 

 ドットムさんが踏みつけていた男をこっちに放り投げる。

 俺とアワランで正重から受け取ったロープで、手早く男達を縛り上げる。

 

「で、コイツらどうすんだよ?」

 

「【ガネーシャ・ファミリア】を呼びに行くしかないんじゃないかい?」

 

「それは私達が引き受けるわ」

 

 赤髪の少女が手を上げて、申し出てくれる。

 

「いいのか?」

 

「もちろん。最初に手を出したのは私だし、助けてもらったしね。引き渡しまで貴方達にやって貰ったら、申し訳なくてアストレア様に顔向けできないわ」

 

 ……アストレア様、か。やっぱり、彼女達が……。

 

「アストレアってのは、アンタらの主神かい?」

 

「そうよ!! 正義と秩序を司る女神様! そして、私達が!!」

 

 赤髪の少女が何やらポーズを決める。

 

「弱きを助け、強きを挫き、たまにどっちも懲らしめる予定! 差別も区別もしない自由平等、全ては正なる天秤が示すまま! 願うは秩序、想うは笑顔! その背に宿すは正義の剣と正義の翼!!」

 

 赤髪の少女の後ろに団員と思われる少女達が並ぶ。

 

 

「私達が――【アストレア・ファミリア】よ!!」

 

 

 若々しく、誇らしげに、彼女は堂々と名乗りを上げた。……俺が言うのも変な話だが。

 

「そして私が! 団長のアリーゼ・ローヴェル! いずれ、このオラリオにのさばる混沌と悪を駆逐する正義の美少女冒険者よ!!」

 

 ドドン!!と効果音でも出そうなほどの名乗りだな。

 ……これがリュー・リオンの仲間になる人達なのか。

 

「まだまだ力不足だけど、これからは私達もオラリオの治安のために戦う!! 正しい秩序とたくさんの人の笑顔のために!!」

 

 だけど、その自信に満ち溢れた声と言葉、そして何より彼女の纏う雰囲気に周囲の人達も惹き付けられる。

 ……なるほど。この快活さにリュー・リオンも惹かれたんだな。

 オラリオに語り継がれる『正義』の使徒にして、暗黒期を乗り越える希望となる象徴。

 

「と言うわけで、コイツらは私達で引き受けるわ。【ガネーシャ・ファミリア】にも挨拶したかったし」

 

「分かった。じゃあ、任せるよ。でも、気を付けてくれよ。まだ仲間がいるかもしれない」

 

 俺は素直にアリーゼ達に男達を任せることにし、警戒を促す。

 ボウガンを持ち出すことはともかく、わざわざ捕まるまで身を潜めていたやり方は少し気にかかる。もしかしたら、組織でも出来ているのかもしれない。闇派閥とか、それに協力している商人の部下とかな。

 

「分かった。気を付けるわ」

 

「じゃあ、後はよろしく。行こう、皆」

 

「おう」

 

「うむ」

 

「ようやくだねぇ」

 

「ですが、良い感じに緊張も解れたのでは?」

 

「アレらとモンスターを一緒にするのは違うと思う」

 

「ま、気を張り続けるよりはマシってこった」

 

 俺達はようやくダンジョンに向けて歩き出す。

 ま、ここで【アストレア・ファミリア】に会えたのはラッキーと言えばラッキーだな。いつリュー・リオンが入団するのかは知らないが、顔見知りになれる伝手が出来た。

 ……仲良くなれるかは分からないけどな。

 

 アニメに【スセリ・ファミリア】は出てこない。

 俺はもちろん、ハルハや正重達の名前や噂すらなかった。小説やアプリゲームではあったのかもしれないが、少なくとも俺が知る範囲の本編に俺達は存在していない。

 アリーゼ達の様に死んだのか、そもそも存在していなかったのかは分からないが。もしかしたら、他のライトノベルとかでも見られるように、転生した『俺』という存在のせいで、歴史も未来も大きく変わった可能性もある。

  

 ……まぁ、だから何だって話だが。

 俺はこの世界で実際に生きてるんだ。原作と齟齬が出てきたって、それは結局架空と現実の違いってだけのことだ。

 俺は何が何でもこの世界で生き延びてやるって決めたんだ。

 

 だから……今は皆ともっと強くなることだけを考えよう。

 

 闇派閥やモンスターに負けないように。

 

 

…………

………

……

  

 ダンジョンへと赴く【スセリ・ファミリア】一行を見送るアリーゼ達。

 

「あれが噂の【スセリ・ファミリア】か~。ホントに団長が子供だったのね」

 

「ぶっちゃけ小人族って言われた方が納得出来るけどな」

 

「……そうだな。身のこなしも本物だった。他の団員達も一筋縄ではなさそうだ」

 

 アリーゼの独り言のような呟きに、ピンク髪の小人族―ライラと着物を着た少女―輝夜が鋭い表情で言葉を返す。

 他の面々は男達を抑えながら、輝夜達の言葉に頷いていた。

 

「あのドワーフと小人族の魔導師は知らねぇが、他の奴らはそこそこ有名になってるぜ」

 

「あのアマゾネスは【闘豹】って人でしょ?」

 

「ああ。今はLv.2で正式な二つ名になったが、その前はLv.1の癖にあちこちのファミリアのLv.2に喧嘩売りまくってたバトルジャンキーだ。そこそこの勝率を誇ってたらしい。それが【スセリ・ファミリア】に改宗したって大騒ぎになった。んで、あのデッケェ獅子人も目立つからな。オラリオでも唯一かもしれねぇってだけでも注目の的なのに、極東出身の鍛冶師らしいぜ。輝夜はなんか知ってんのか?」

 

「当然だ。村正と云えば、極東で知らぬ者はいないと言われるほどの鍛冶師一族だからな。……もっとも村正はヒューマンの血統だったはずだがな」

 

「へぇ……まぁ、そこらへんがオラリオにいる理由なのかもな。()()()()()()()()

 

「……かもな」

 

「で、あのハーフドワーフの男と鎧を着たエルフも、少し前に起きた【スセリ・ファミリア】と【ネイコス・ファミリア】の抗争で活躍したっつぅ話だ。ハーフドワーフはLv.2の団長を倒して、エルフは『神の恩恵』を受けたばっかだったってのに、【ネイコス・ファミリア】の団員数人を1人で押し留めたってよ」

 

「うわ……凄いね」

 

「恐らくステイタスの差を覆すほどの戦闘技術を身に着けているのだろうな……」

 

「ああ。で、そんな連中のトップにいるのが、あのガキンチョ団長サマってわけだ。さっきの動きだけでも、団長なのは伊達じゃなさそうだな」

 

「……あの居合は本物だ。正真正銘の技術による一閃だった」

 

 輝夜とライラの言葉に団員達はゴクリと唾を呑む。

 しかし、

 

「でも、悪い人達じゃなさそうよね! 仲良く出来そう!」

 

 アリーゼが笑みを浮かべながらあっけらかんと言い放つ。

 

「仲良くってな……。一応、あたしらも探索系ファミリアだぞ? これから競い合うってのに仲良くしてどうすんだよ」

 

「それはそれ! これはこれよ! 別にライバルだからって、街でもいがみ合う必要なんてないじゃない!」

 

「それはまぁ……そうだけどよ」

 

「噂じゃ闇派閥と敵対してるって話だし、正義と秩序のために協力出来るならするべきだわ! 私達だけでオラリオを守れるわけじゃないんだから! 1人の手より、たくさんの手の方が早く、大きく、色んなことが出来る。手を取り合えるなら、取り合わない理由なんてないじゃない!」

 

 底抜けの笑みを浮かべて宣うアリーゼに、ライラ達は苦笑する。

 これがアリーゼの平常運転だと嫌という程理解してるからだ。

 

「だったら、まずはさっさとコイツらを連行しようぜ」

 

「あ、そうだったわね。ほら! さっさと立ちなさい!」

 

 また男達の存在を忘れていたアリーゼは、本来の目的を思い出して男達をギルドまで連行するのだが……。

 

 進む度に犯罪を見つけては介入しまくり、連行する人数が膨れ上がり、突然大人数を連れて来られたギルドとシャクティに『限度を考えろ!』と怒られるのだった。

 

 




正義参上!

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