【ライトニング・サムライ】~転生者はダンジョンで英雄になりたい~   作:独身冒険者

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盾狼人、甲冑ドワーフ

 小遠征……と言えるかどうか分からないが、泊りがけのダンジョン攻略は全くの見所も、特別に語ることも起こることもなく終わった。

 

 うん。本当に何のイレギュラーもトラブルもなく、無事に帰還した。

 良い事なんだけどさ。それはそれで拍子抜けと言うか……経験値になった気がしない。

 

「贅沢言うんじゃねぇよ。片腕がねぇとは言え、儂はLv.3。Lv.2に成り立てと言え、坊主とハルハ嬢ちゃんの2人。んで、ランクアップ圏内のLv.1が3人だぞ? 15層で一泊するくらいなら余裕に決まってんだろ」

 

「そして余裕じゃからこそ、決行したのであろうが。余裕がないかもしれんのであれば、ドットムがおろうが行かせるわけがなかろう。実際、ミノタウロスに少し手こずったそうではないか」

 

「ですよね~」

 

 ぐうの音も出ません。

 とりあえず、今後は到達階層を増やしながら、泊まってみるを繰り返すしていくしかないか。

 

 そして、スセリ様の言う通り、途中でミノタウロスに遭遇したので戦ってみた。

 うん、甘く見てた。全然倒れねぇの。俺とハルハの2人がかりでも、1体倒すのに数分要した。

 まぁ、魔法を使わなかったから、使ったらもう少し楽に倒せるとは思うけど、毎回使ってたら速攻でダウンしてしまう。

 

 ミノタウロスはLv.2相当の大型級モンスターで、正面からの戦闘では第三級冒険者でも手を焼くと云われるだけはある。

 『力』はもちろん、『耐久』も凄まじかった。

 っていうか、多分『力』と『耐久』だけなら、ハルハはもちろん俺よりも上だと思う。

 

 だから、アワラン達には『絶対に戦うなら俺、ハルハ、ドットムさんの誰かが必ずいる時にしてくれ』と厳命した。

 アワランは少し不満そうだったけど、他のメンバーは当然とばかりに頷いたので文句は言えなかったようだ。まぁ、俺達の戦いを見て、自分じゃまだ厳しいと理解してるんだろう。

 脳筋だけど馬鹿じゃないからな。アワランは。

 

「後1人か2人…ランクアップ圏内のLv.1がいりゃあ、Lv.1だけでパーティーを組ませて挑んでもいいかもしれねぇがな。もっとも、このファミリアじゃあステイタスより技術面が求められるから、そこら辺の奴らじゃ足手纏いになりかねねぇ。少なくとも【ガネーシャ・ファミリア】じゃ紹介出来る奴はいねぇぞ?」

 

「そう言ってもですねぇ……」

 

「ディムルはそもそもステイタスがランクアップ圏内におらんしの。正重はまだまだ力任せで技があるとは言えんし、リリッシュは前衛型ではない。正直、ドットムが言う程ミノタウロスに挑めるほど余裕があると思えんの」

 

 そう。正重、リリッシュ、ディムルはスキルや魔法、技は確かに破格で、そこら辺のLv.1に比べれば『凄い』の一言なのだが、ミノタウロス相手となるとまだまだ足りないところが多い。

 アワランには申し訳ないが、今のままではパーティーを組んだとしてもミノタウロスに挑戦はさせられない。

 アワランが納得するかは知らんが。

 

「やれやれ……まぁ、そう簡単に行かぬのが『偉業』と言う物よ。中には何年もランクアップ出来ぬ者もおる。というか、オラリオの外ではLv.2に上がるだけでも一生を費やす者の方が多い。それを考えれば、まだ機会があるだけ恵まれておるじゃろうて」

 

「だな。そもそも新興ファミリアが2年もせずに中層に行ってる時点でスゲェことなんだぞ? まぁ、ここは改宗した連中が多いとはいえ、そもそも坊主だけの段階で12階層まで行ってるだけでヤベェ事なんだってこと忘れんなよ? 【ガネーシャ・ファミリア】や【ロキ・ファミリア】でも新人だけで12階層なんて滅多に行かせねぇんだ」

 

 ……それもそうか。

 俺やベル・クラネルと同じように考えちゃ駄目だよな。

 

 というわけで、しばらくはディムルのステイタス向上と、正重の戦闘技術向上をメインに動くことにした。

 もちろん、アワランのランクアップやリリッシュの魔法以外での戦闘手段を講じることも優先事項ではあるが。

 

 まぁ、結局中層には行くんだけどね。

 ディムルは上層よりも中層の方が上達しやすいと思うしな。

 

 アワランは逸るかもしれないけど、気長に構えていくとするか。

 

…………

………

……

 

 そんなこんなで更に一週間が経ったある日。

 

 今日もダンジョンに行こうとしていた時だ。

 

たーのーもー!!

 

 と、門の方から張りのある声が聴こえてきた。

 

「あん? 客か?」

 

「……この感じ。まさか……」

 

「入団者っぽいねぇ。じゃ、団長。後は頼んだよ」

 

 ハルハがニヤニヤしながら俺の肩に手を置く。

 や、やっぱり……!

 

「まぁ、これも立派な仕事ってこったな」

 

「……新参者で未熟者の私には手伝えることは……」

 

「私は別に誰が入っても問題ない」

 

「……すまぬ」

 

 ぐ……! 確かにその通りではあるんだが……!

 なんか納得いかん!

 

「とりあえず誰が来たか見に行くぞ、フロルや」

 

 スセリ様に苦笑しながら促されて、俺は肩を落としながら共に門へと向かった。

 

 そこにいたのは凸凹な2人組の女性だった。

 

 1人は高身長の狼人女性。正重ほどではないが、ハルハやスセリ様よりは高い。

 艶のある黒髪を後ろで束ね、鋭い顔つきと目つき。

 服装はノースリーブのチャイナ服。両腕には二の腕まで覆う手甲に、巨大なカイトシールドが2()()

 そして、左右のスリットから覗く両脚は太腿半ばまで覆うグリーブを履いている。

 

 カイトシールドの先とグリーブの爪先は妙に鋭い。

 ……刃代わりにでもしてそうだな。

 

 もう1人は極東の甲冑を着た褐色肌に白銀のショートヘアの小柄な女性。

 小柄な見た目に反してかなり重厚な鎧を着てるから、多分ドワーフだな。俺でもあそこまでの鎧は着れそうにない。

 背中には彼女や俺の身の丈を超える大刀が()()()。形はパン切り包丁のように切っ先が平らになっている。重さと力で断つ武器だな。それだけ腕力に自信があるんだろう。

 

「何用かの?」

 

「其方様が神スセリヒメノミコト様であらせられるか?」

 

「いかにも。こっちは妾の寵愛を受けし者、フロルじゃ」

 

「団長のフロル・ベルムです」

 

「おお! 其方が噂の【迅雷童子】殿か!」

 

 ドワーフさんが笑みを浮かべて俺を見る。

 狼人さんも視線を俺に向けて見下ろす。

 

 そして、2人揃って頭を下げた。

 

「某はヒジカタ・巴。極東より参ったドワーフにて候」

 

「我はツァオ・インレアン。同じく極東より参じた狼人(ウェアウルフ)なり」

 

「ここに来たということは入団希望かの?」

 

 スセリ様の問いに2人は力強く頷いた。

 まぁ、そうだよね。

 

 ということで、俺は今日もダンジョンに行くハルハ達を見送って、スセリ様と面談することになった。

 正重は残ってくれようとしたが、正重こそダンジョンに行って技を磨いて欲しいので、俺は笑顔で送り出した。……もっとも、正重はどちらかというと2人の武具に興味がありそうだったけどね。

 

 極東出身ということで、2人は座敷の応接間に案内する。

 

 4人揃って正座して向かい合う。

 

「さて……我がファミリアを選んだ理由から窺おうかの」

 

「では、某から」

 

 巴さんが小さく頭を下げて、話を始める。

 

「某は【アマテラス・ファミリア】…【朝廷】に仕えし派閥が一、【アメノタヂカラオ・ファミリア】に属する一家の出身で御座りますれば」

 

「ほう……アメノタヂカラオの奴の者か」

 

 アメノタヂカラオ―前世で言うと天手力男命だな。

 天照大御神を引き籠った岩から引っ張り出した力自慢の神だったはず。天照の腹心中の腹心で、三種の神器の守護に服されたとまで云われている。

 

 こちらの世界の【朝廷】とは、【アマテラス・ファミリア】を頂点とする国家ファミリアのことだ。

 しかし、スセリ様が言うには他のファミリアが好き勝手暴れて、戦国時代さながらの乱世らしい。

 

 確かサンジョウノ・春姫の実家が【朝廷】に仕える名家の一つだったはず。

 

「某の家は代々武家として【朝廷】が為にその力を振るって参りました。……されど我が一族では女子は戦場に立てぬのです。……某は兄弟や父よりも強いというのに……」

 

 悔し気に顔を俯かせる巴さん。

 まぁ、俺の前世でも戦国時代…いや、現代でも女性が武器を手にするのはあまり良い事とされてなかったからな。

 大抵女性で戦場に立った人は漏れなく言い伝えが残されているくらいだし。

 それこそ、巴さんの名を冠した人もな。

 

「それでも修練を続けていた某に、当主である祖父より武者修行の旅に出るように命じられました。国を出た某はこの下界で有名なオラリオを目指し、旅路の途中でツァオ殿と出会い、そして【スセリ・ファミリア】の噂を耳にし、参った次第」

 

「ふむ……同じ極東の誼である妾の元で力を振るいたいと」

 

「はい」

 

 スセリ様と俺は巴さんの話に頷き、次にツァオさんに顔を向ける。

 

「我は極東と中東の境の村の出身で、土地としては【朝廷】の支配下にあるものの、村を開拓した祖先が中東出身のため派閥としては中東に属している。我が村は代々【ナタク・ファミリア】の恩恵を受けていて、我もその恩恵を授けて頂いた」

 

「……ナタクの奴、そんなところにおったのか」

 

 ナタクって……哪吒太子のことか?

 詳しい話は知らないが、確か西遊記関連だったと思うけど……神だったのか。まぁ、この世界ではってことなんだろうけど。

 

「どのような神なのですか?」

 

「武勇を司る神なのじゃが、あ奴はあまり荒事が好きではなくてな。のんびりと寝ることが好きで、天界でも引き籠っておったのじゃが、前に突然下界に降りたんじゃよ。そこからは何をしておるのか知らんかったのじゃが……そんな辺鄙なところで派閥を作っておったのか」

 

「我も村ではまた警邏を務める家系の生まれ。されど小さな村だけでは満足出来ず、オラリオの噂を聞き、武者修行に出ることにした。その途中で巴殿と出会い、共にこの地へ来た」

 

「ふむ……アワランやディムルと同じ理由か」

 

「そのようじゃの。さて、どうするかや? フロル」

 

「まぁ、うちのファミリアはまだまだ新興ですし、人も少ないですからね。俺としては問題ないのですが……武勇を極めるならそれこそ【ロキ・ファミリア】や【フレイヤ・ファミリア】とか、すでにかなりダンジョンを攻略してるファミリアの方がいいのでは?」

 

「某は同じ極東の神の元で武を振るうことを望み申す」

 

「我も友人である巴殿と共の方が気が楽。我は己の武を極める場があれば、特にファミリアに拘りはない」

 

「他の種族や関わりたくない人とかはいるか?」

 

「特にない」

 

「同じく」

 

「じゃあ問題ないですね。2人の入団を歓迎します」

 

「感謝致す」

 

「感謝」

 

「では、スセリ様。改宗をお願いします」

 

「うむ」

 

 俺は応接間を後にして、2人の改宗が終わるまで素振りでもして時間を潰すことにした。

 

 まぁ、すぐに終わるだろうから、この後ギルドに入団の報告に行くくらいだな。

 

 そんな事を考えながら10分ほどすると、スセリ様達がやってきた。

 

「終わったぞ」

 

「ありがとうございます」

 

「ほれ」

 

 スセリ様は2枚の羊皮紙を差し出した。

 十中八九、2人のステイタスだろう。

 

「2人に許可は貰うておる」

 

 あ、さよですか。

 

 俺は羊皮紙を受け取って、ステイタスを読ませてもらう。

 

 

ヒジカタ・巴

Lv.1

 

力 :B 768

耐久:B 702

器用:E 411

敏捷:F 356

魔力:I 0

 

《魔法》

【】

【】

 

《スキル》

重甲小鬼(イバラギドウジ)

・甲冑装備時、『力』と『耐久』のアビリティ高補正。

・風属性魔法に対する耐性強化。

 

 

 

ツァオ・インレアン

Lv.1

 

力 :B 729

耐久:C 631

器用:D 582

敏捷:B 788

魔力:I 0

 

《魔法》

【】

 

《スキル》

月下雅狼(ウリユイ・ユエリアン)

・月下条件達成時のみ発動。

・獣化。全アビリティ能力超高補正。

・異常無効。

 

 

 

 ……うん。正重達に比べれば普通だが、ステイタスはかなりなものだ。

 ツァオさんのスキルは種族特有のものだろう。月下ってことはダンジョンではあまり使えないんだな。

 そういえば、狼人はあまりダンジョンに向いていない種族って云われてるって聞いたことがある。これがその理由なんだろう。

 

 巴さんのスキルは強いけど、甲冑ありきだからこれも状況によっては使いにくそうだな。

 それでも十分過ぎるほどの戦力だが。

 

「巴さんの――」

 

「団長殿。某達のことは呼び捨てで構いませぬ。敬語も要りませぬぞ」

 

「分かった。じゃあ、巴の武器はその大刀でいいんだな?」

 

「いかにも。大太刀も使うが、某の腕力では折れやすい故。普段はこの武具を振るっている。だが、最も大事なのはこの甲冑である。理由は某のスキルを見ての通りであれば」

 

「そうだな。……ツァオの武器は……」

 

「我の獲物はこの大盾と脚甲。盾で防ぎ、受け流し、押し戻し、この脚で蹴り、刺し、斬る。大盾も刃を仕込んでいるが、あくまで愚鈍で大柄の者を倒す時にしか使わない」

 

「なるほど……」

 

 2人共完全に前衛型か。

 巴は完全に力押しの戦い方が得意で、ツァオはややトリッキーな戦い方のようだけど身長もあるから優秀な盾役として動けるんだろう。

 うちのファミリアでは居そうでいなかったタイプだな。アワランも耐久型だけど基本的に生身だし。

 

 それにツァオは正重と組めば、正重のスキルでかなり強化される。

 巴はハルハやアワラン、ディムルとも相性がいいだろう。もちろん、俺とも。

 

 ドットムさんからも色々と学べそうだし、期待出来そうだな。

 

「うちの武具は正重って言う鍛冶師の団員が仕切ってる。今は他の団員とダンジョンに行ってるから、帰ってきたら相談してみてくれ」

 

 村正一門出身と知ったら巴は驚きそうだな。 

 

「では、スセリ様。俺は2人を連れて、案内がてら一度ギルドに顔を出してきます」

 

「そうだの。気を付けて行ってくるのじゃぞ」

 

「はい。じゃあ、行こうか」

 

 ということで、俺はギルドに向かいながら2人にオラリオを案内、説明する。

 

 冒険者登録はあっという間に終わる。

 ギルドで2人の登録を依頼すると、スーナさんが凄く顔を引き攣らせていたけど。

 まぁ、ここ数カ月で一気に増えたもんな、うちのファミリア。

 

 そろそろここら辺が頭打ちかな。

 流石にこれ以上増えても連携に影響しそうだ。ダンジョンもそんなに広いわけじゃないし。

 

 しばらくは連携を含めて、15階層辺りで活動だな。

 

 俺もまだまだ強くならないといけないし、団長として負けないように頑張ろう。

 

 




とりあえず、これで仲間ラッシュは終わりです(後衛1人しかいなくね?)
二章はもう少し続きます

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