【ライトニング・サムライ】~転生者はダンジョンで英雄になりたい~ 作:独身冒険者
本拠への帰り道。
俺はとある疑問をスセリ様に訊くことにした。
「スセリ様」
「ん?」
「神アストレアもそうなのですが……顔広いですよね。最近下界に降りてきたというのに」
天界は地上と同じで、それぞれに国というか領地が別れているらしい。感じ的に前世の神話ごとに郷があるっぽいけど……ある程度は行き来出来る感じな話だったな。ヘスティアとタケミカヅチは天界にいる時から顔見知りだったらしいし。
「妾は天界でもあちこち顔を出しておったからの。他の郷の神は暇だったのかは知らんが引っ掻き回すのが多くての~。まぁ、その筆頭がロキなのじゃが。で、妾は女神方面で暴れておっての。アストレアはその時に出会ったんじゃよ。妾にちょっかい出してきた女神を殴って投げて踏んづけたところでな」
凄く色々ツッコみたいですが、続きをどうぞ。
「まぁ、妾も殺す気まではなかったし、仲裁に来たアストレアと世間話して顔見知りになったという感じじゃの。他の連中も似たり寄ったりじゃな」
「……スセリ様も神ロキとあまり変わらないんじゃ……」
「妾はあくまでちょっかいを出されたからやり返しただけじゃ。ロキやフレイヤもの」
……俺の想像以上にスセリ様は天界でも名の知れた暴れん坊だったようだ。
そりゃあ、他の神が全然ちょっかい出してこないはずだよ……。ファミリアは分からないけど。
本拠に戻ってきた俺達の目に映ったのは、思い思いの姿で倒れ込んでいるハルハ達だった。
……本当にずっとやってたみたいだな。
それにドットムさんも参加してたみたいだ。少し汚れてる。
「お主ら……余計な怪我など負っておらんじゃろうな?」
「はぁ……はぁ……大丈夫だよ。そこまで馬鹿はしてないさ」
「ドットムにずっと遊ばれてただけだしな……」
「手も足も出ませんでした……」
なるほど。ドットムさん対ハルハ達でやってたのか。で、完全に遊ばれて転がされまくったと。
ちょっと俺も興味はあるが、今日は止めておこう。
「ディムル、身支度を整えたら声をかけてくれ」
「? 分かりました」
ディムルは首を傾げながらも頷く。
俺はその間にスセリ様との鍛錬の準備を整える。その傍でスセリ様が準備運動を始める。
数分ほどすると、ディムルが歩み寄ってきた。
「お待たせ致しました、フロル殿。何か御用でしょうか?」
「明日の昼、【ロキ・ファミリア】の【九魔姫】、リヴェリア殿に会うから」
「……はい?」
「リヴェリア殿と会って、ディムルの事を話しておく。今日、たまたま会ってな」
ディムルは考え込むように顔を俯かせる。
「どうせいつかはバレる。というか、俺達の今後次第でギルドが広めかねない」
ギルド長のロイマンとやらは、俺達に厄介事を押し付けたって話だからな。
なんでも欲深いらしいから不都合なことをすれば、容赦なく売るかもってのがスセリ様の話だ。
「だからリヴェリア殿と先に話を済ませておこうと思ってな。悪いとは思うけど」
「いえ、大丈夫です。私もいつかは姫とお話をしておく必要があるとは思っていましたので」
「そうか。まぁ、お前がオディナの者だろうと、今は【スセリ・ファミリア】の団員だ。他が何と言おうが追い出したりはしないし、手も出させない」
「ありがとうございます」
まぁ、この程度で安心は出来ないだろうな。
やれやれ……団長ってのは本当に難しい。そもそも前世持ちとは言え、7歳が担うってのが無茶なんだよなぁ。でも、スセリ様が今更団長を変えるわけがないだろうし。
……俺、過労死しないかな。
…………
………
……
あっという間に翌日の昼。
俺、スセリ様、ディムルの3人で、指定された喫茶店に到着した。
スセリ様が店員に声をかけると、個室へと案内されて俺達は入り口側、つまりは下座側に座る。
そして5分程したら、神ロキ、フィンさん、リヴェリアさんもやって来た。
「おはようさん。早いなぁ」
「今回はこちらから頼んだからの。座って好きなものを頼めば良い。ここは妾が持つのでな」
「おお! おおきに! ほな、まずは注文させてもらおかー」
スセリ様と神ロキが会話する横で、俺もフィンさん達に声をかける。
「【勇者】【九魔姫】。この度は時間を頂き感謝します」
「そう硬くならないでいいさ、【迅雷童子】。今回、僕はあくまで付き添いだからね」
「私も話に興味がある。気に病む必要はない」
フィンさん達が席について、注文した品が届いて軽く世間話をしながら一口つけると、リヴェリアさんが早速本題に入った。
ちなみにこの間ディムルはずっと緊張していた。兜被ったままだけど。
「それで、私に話しておきたいこととはなんだろうか?」
まっすぐディムルを見据えながら訊ねるリヴェリアさんに、ディムルは一度深呼吸をしてから兜を手に取って外し、俺達の前でも滅多に見せない素顔を晒す。
露になったディムルの顔に、リヴェリアさん達は僅かに目を見張る。
「ほぉ~、これまた別嬪やん。リヴェリアにも負けとらんのちゃうか?」
「そうだね……」
ディムルは兜をテーブルに置き、頭を下げる。
「先日は礼を欠き、誠に申し訳ありませんでした。改めて、名乗らせて頂きます」
ディムルは顔を上げ、意を決したような顔で右手を胸元に当てる。
「私の名は、ディムル・オディナと申します」
「オディナだと? 其方、あのオディナ家の者か?」
「はい」
リヴェリアさんは今度こそはっきりと驚愕を顔に浮かべる。
フィンさんと神ロキがリヴェリアさんに顔を向ける。
「そのオディナ家は、エルフの間では有名なのかい?」
「……ああ。……なるほど。道理で、【迅雷童子】が妙に慎重で、このような場を設けたのかも理解出来た」
「その感じやとええ意味で有名やなさそうやけど。何したん?」
「それは私が」
ディムルはリヴェリアさんに小さく一礼してから、事情を説明する。
リヴェリアさんは腕を組んで両目を伏して話を聞き、神ロキとフィンさんは全てを聞き終えて納得したような顔を浮かべて頷いていた。
「なるほどね。まぁ、物語ではよくある話ではあるけど……」
「エルフでってなると中々に面倒そうやなぁ。先祖の話やし、オラリオで冒険者となれば関係ないっちゅうたらそれまでやけど……」
「私が言うのも何だが、エルフはこの手の話となると郷など関係なく根に持つ質だからな。しかも、今回は我々王族に関わる話だ。クロッゾの一族ほどの反応はせぬだろうが……」
「リヴェリア、オディナの家名と話は広く知られているのかい?」
「……そうだな。それなりに知られていると思っていいだろう。故に、ロイマンは新興派閥である【スセリ・ファミリア】に紹介したのだろうな」
「んで? リヴェリアはどう思っとるん?」
リヴェリアさんは片目だけを開き、
「はっきりと言わせてもらうなら、私個人としては特に思うことはない」
おお。はっきりと言ってくれた。
「そもそも私自身、王族と言う立場が窮屈に感じて里を飛び出した身だ。駆け落ちした者達をどうこう言える立場ではない。ディムルや他の者から聞いた話では駆け落ちした2人も愛し合っていたという事で、誘拐されたわけでもない。本人達が納得した結果なのであれば、周りがとやかく言うことではないだろう」
そう言ってくれるとありがたい。
「なので、私は其方がここで冒険者をすることを咎める気も問題視する気もない」
「……感謝いたします」
「だが、他のエルフにまで私の考えを押し付ける気も言い広める気もない。其方の祖先が不義を働いたのは事実なのだからな」
「承知しています」
まぁ、流石にそこまでは求められないか。
「正直、私からすれば駆け落ちした近衛騎士と王女の子孫を蔑む余裕があるのであれば、闇派閥に堕ちた同胞を嘆くべきだ。誇り高いと言うのであれば、な」
……王族が窮屈だと言っていたけど、それでもやはり王族として何か思うことがあるのだろうな。
ディムルも何も言わないけど、同意するように悲し気に目を伏していた。
「ふむ……そこに関しては我ら神々も大いに関係しとる故、何とも耳が痛いことではあるの」
「せやなぁ。司る事柄であったり、本質故とは言え、子供達を誑かしとるのは神やからな~」
「まぁ、僕ら下界の者達にも原因があるけどね」
「……そうですね。闇派閥の団員はともかく、団長や幹部格は邪神と進んで同調してるか、それ以上に馬鹿なこと考える奴もいますからね」
「そうだね……」
俺の言葉にフィンさんやリヴェリアさんは目を伏せる。
……多分、俺…というかテルリアさんの事件の事を思い出してくれているんだろうな。
すると、フィンさんがテーブルに両肘を着いて、俺を見据えた。
「実は今日は僕達からも話がしたいと思っていたんだ。……その闇派閥について」
フィンさんの言葉にスセリ様は片眉を上げ、ディムルは背筋を伸ばす。
「知っての通り、僕達【ロキ・ファミリア】は【フレイヤ・ファミリア】と並んで現オラリオの最強派閥と云われている。そして、僕達もそれを自覚している。……だが、それは【ゼウス・ファミリア】と【ヘラ・ファミリア】に追いついたわけじゃない。情けないが、僕達では闇派閥の抑止力足りえていないのが現状だ」
「……そう、ですね」
ここは残念ながらお世辞にも否定できるところじゃない。
俺達はもちろん、街の人々も実際に苦しんでいるのだから。
「【フレイヤ・ファミリア】もここぞという時は手を結んではいるが、それでもやはり完全に手を取り合える関係にはなれない。僕らは冒険者だからね。オラリオの治安維持は、ぶっちゃければダンジョン攻略の障害になるからと言うのが大きい」
「……だから、それ以外の派閥で協力体制を作りたいと? 【ガネーシャ・ファミリア】などと」
「流石だね。話が早くて助かる。すでに神ガネーシャや団長のシャクティとも話はつけてある。他だと【ヘファイストス・ファミリア】かな」
「そこに【スセリ・ファミリア】も加われと?」
「正確には加わって欲しいと思っている、だね。流石に上から言うつもりは無いよ」
「……理由を聞かせてください。うちは確かに特殊で、目立ってるとは思いますが、それでもまだLv.2に上がり立ての子供が率いる弱小派閥です。わざわざ要請される派閥ではないはずです」
「そう言うことを言える君を子供と言っていいのかは疑わしい所だけどね」
フィンさんは苦笑して、神ロキは腹を抱えて笑いを堪えており、リヴェリアさんとスセリ様は呆れたような視線を俺に向け、ディムルは……なんか誇らしげである。どうも。
「確かに君達はまだまだ弱小派閥だ。だが、その中で最も闇派閥と因縁が深い派閥でもあると思っている」
「……そう、ですね」
ゲーゼスやあの狼人、そして【ネイコス・ファミリア】。
確かに俺達は闇派閥と因縁があるのは間違いないし、このままにしておくつもりはない。
でも、それだけじゃ理由としては弱いと思う。
フィンさんは俺の表情から俺の考えを読み取ったのか、再び苦笑する。
「そうだね。はっきり言って、それだけでこんな話をする理由は僕らにはない。闇派閥に因縁があるファミリアなんていくらでもある」
「……でも、それでもこうして声をかけてきた。……他のファミリアから何か言われましたか?」
例えば【ガネーシャ・ファミリア】辺りから。
フィンさんは頷いて、
「ああ。【ガネーシャ・ファミリア】団長のシャクティから推薦があったんだ。聞けば、今そちらのファミリアには【ガネーシャ・ファミリア】から団員が派遣されているらしいじゃないか。それだけ良好な関係を築けていると思うのだけど……どうだい?」
「……まぁ、そうですね」
なんかアーディのことを言われているような気もするが、そこは無視しよう。
だからスセリ様、笑わんでください。
「しかし……だからと言って【ロキ・ファミリア】とまで同じようにと言うのは、少々強引では? 確かに俺はあなた方に恩義がありますが、そこに団員達を巻き込む気はないですよ」
「だろうね。だから、協力体制は協力体制でも、僕らと結んで欲しいのは『情報の共有』だ。もちろん、闇派閥に関する、または関することかもしれない情報を、だね」
「……なるほど」
確かにそれならば、妥当だし悪い話ではない。
「ちなみに君らが他のファミリアと共闘体制を敷いても、僕らは文句を言うつもりは無い。情報共有はお願いしたいけどね」
……つまり、【スセリ・ファミリア】と【ガネーシャ・ファミリア】が手を組んでも、【ロキ・ファミリア】はそこに無理矢理割り込んでくることはないってわけか。
と言っても、【ガネーシャ・ファミリア】とそこまで手を組むかどうかはまだ分からないけど。
まぁ、【ガネーシャ・ファミリア】は【ロキ・ファミリア】と協力することにしたんだから、【ガネーシャ・ファミリア】と手を組めば、自動的にフィンさん達とも協力することになるんだろうけど。
そして、フィンさんはそれを見越してるから、文句を言うつもりはないって言ったんだ。
俺はスセリ様に顔を向ける。
スセリ様は肩を竦めて、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
……俺の好きにしろってわけか。
「……情報共有については問題ありません。まぁ、あまりこちらから出せる情報はないですけどね。現在で知ってる情報はシャクティ殿に話しましたから」
「それでも構わないよ。僕らも少しでも闇派閥の情報を得られる伝手が欲しいところだ。僕らはどうしたって君達以上に目立つからね」
俺達も十分目立つと思うんだけどな……。
「まぁ、話は分かりました。手段はどうしますか?」
「【ガネーシャ・ファミリア】を介して行おうと思っている。その方が君達のところにいる団員も活かせるからね」
なるほど。ドットムさんを伝書鳩にするわけか。
確かにドットムさんが【ガネーシャ・ファミリア】の本拠に戻るのは何もおかしなことじゃないからな。
「分かりました。それなら問題はありません」
「感謝するよ。闇派閥に対抗するにはこちらも出来る限り協力する必要があるのだけど……」
「普段手を取り合うどころかいがみ合っておるからのぅ。闇派閥に最も抵抗できる派閥程、その傾向があると言うのは何とも皮肉じゃな」
「せやなぁ。まぁ、それが冒険者っちゅうたらそれまでやけど」
「狩場が無くなれば冒険どころの話ではないのだがな」
「【フレイヤ・ファミリア】に関しては、いつでも闇派閥を潰せる自信があるんだろうけどね。困ったものだ」
……そんな話を俺にされても困るんだけど。
俺は【フレイヤ・ファミリア】に色んな理由で関わりたくないからな。
その後、程々に打ち合わせをした俺達とフィンさん達は、早々に店を後にしたのだった。
ハルハ達に話をするだけして、俺達はこれまで通り自分達の精進に専念するとしよう。
目指せ、ランクアップ。