【ライトニング・サムライ】~転生者はダンジョンで英雄になりたい~ 作:独身冒険者
俺が目を覚ました時、そこは知らない天井だった。
「…………ここ、は?」
知らない天井ではあるが、
木の天井は間違いなく日本の古風建築だった。
更に鼻に届くイ草の香り。
間違いなく畳の臭いだ。
そして、久しぶりの温かい布団。
「……けど、なんで……?」
そういえば、気を失う直前に誰かに声をかけられたような気が……。
その人に助けられたのか?
「おお、起きたかや。小童」
すると、横からヒョコッと美女が覗き込んできた。
「!?」
勝気な釣り目に、ところどころ跳ねた赤黒い髪。
顔つきは線が細いが、目つきのせいか力強さに満ち満ちていた。
「うむうむ、意識ははっきりとしておるようじゃの。どれどれ……」
俺がその美貌に見惚れていると、美女は1人で納得したように頷く。
そして、突然顔を俺の顔に近づけてくる。
ちょっ……!?
俺は慌てるが、まだ上手く身体に力が入らなかった。
美女はそんな俺の慌てっぷりなど気付いていないのか、そのまま額と額を合わせる。
「……うむ、熱は下がっておるの。後は腹いっぱい食えれば、もう大丈夫じゃな」
「……あの……あなたは……?」
「む? おぅおぅ、あの時は死にかけておったからの。改めて名乗るとしよう」
美女は腕を組んで胸を張る。
「妾の名は
スセリヒメノミコト様はポニーテールに髪を纏めており、耳には金環のイヤリングをしている。
服は古墳時代を思わせるもので、首には勾玉の首飾りが吊られている。
「……スセリヒメノミコト……? どこかで……」
「ほぅ……
「!?」
俺は息を呑んで固まった。
お、俺が転生者だって知ってるのか……!?
「む? おぉ、うむ。妾はお前のことを知っておるぞ。お前が生を受けた時、妾はまだ天界におってなぁ。たまたま下界を覗いて、お前を見つけたんじゃ」
「そ、それは他の神々は……?」
「少なくとも下界におる神は知らんし、妾が知る限り天界にもおらん。まぁ、冥府や輪廻に関わる神は知っておるかもしれんが、そ奴らが下界に下りた話は聴かんから、このオラリオでは妾とお前しか知らんはずじゃ」
その話に俺はホッとする。
「それで? お前の前世に妾や他の神はおるのか?」
「へ? ……あ、はい。そうですね。お名前は同じですが、下界に降臨されたりはしておりません。モンスターなどもおりませんので、神々は遥か昔の神話の存在と扱われています。一応、神宮、神社や寺で祀らせて頂いてはおりましたが……」
「なるほどなるほど。神の存在は知れども、我らは人の世に関わらずか」
「はい。なので、人々の暮らしに神の存在は希薄になりつつあり……スセリヒメノミコト様もお名前は聞き覚えがあるのですが……」
「どんな神かは知らぬと。なるほどのぅ」
「申し訳ありません」
「よいよい。別にこの世界の妾のことではないしの。それでは、簡単に自己紹介しようではないか」
スセリヒメノミコト様は再び胸を張る。
ちなみに胸はそこそこある。
「妾を語る上でまず話すべきは、父上と夫じゃな」
「父上と夫……?」
「うむ。妾の父は極東三貴神の一柱、荒神にして英雄神、スサノオ!! そして、夫はオオクニヌシじゃ!!」
俺は目を限界まで丸くした。
スサノオに大国主って、前世でも知らない人の方が少ないほど高名な神じゃないか!
その娘で妻って、もう重鎮中の重鎮って言えるじゃん……。って、この世界って神に親子関係あったのか? 夫婦はいてもおかしくはないが。いや、夫婦がいれば子供もいるか……。
立場的には下手したら、ヘラやフレイヤにも匹敵する女神じゃね?
「故に妾の神の力はほとんど父上由来の事柄じゃな。そこまで珍しく、これと言った事柄はない!!」
「えぇ!?」
「じゃから、そっちの世界での妾はそこまで有名ではないんじゃろ。強いて言うのであれば……嫉妬深い激情家?」
「なんでここに来たん」
はっ! いかん。ついツッコんでしまった。
「かっかっかっ! まぁ、もう夫に手を出す女神もおらぬし、夫を手助けすることもないからのぅ。暇なんじゃよ」
……他の神々と同じってことか。
「じゃが、下界に下りるつもりはなかったんじゃよ。お前を見つけるまではな」
「……」
「まぁ、お前からすれば妾達神々に振り回され続けた人生じゃ。色々と思うことはあるじゃろうが、妾は純粋にお前を応援するつもりじゃよ?」
「……応援?」
「妾の子となれ。その恩恵で冒険者となり、お前を追い返し、お前を忘れた者全てを見返してやるがよい」
「……あなたの……ファミリアに入れと?」
「妾とお前のファミリア、じゃ。妾の子となるのはお前が初めてじゃからのぅ」
「え?」
俺が初めての眷属?
「お前に会うために来たのじゃから、お前を最初に眷属にするのが筋じゃろうて。そして、妾は嫉妬深い。一度欲しいと思った男を逃がすと思うでないぞ?」
「……」
「妾はお前を傍で見守り、支えるために下界に来た。妾のファミリアの存在意義は唯一つ。『お前を支えるため』じゃ」
慈愛の笑みを浮かべ、俺の頭を撫でながら言うスセリヒメノミコト様。
俺は恥ずかしいのか、嬉しいのか、良く分からない感情に襲われる。
「よくぞ今日まで生き延びた。妾はお前を誇りに思い、その誇りは褪せることは永劫ありはせぬ。じゃからこそ、断言しようぞ。お前はまだまだ高みへと飛べる。その翼を生やす力を、妾が与えよう」
俺の目から涙が零れる。
「改めて言おう。妾の子となれ。妾に、お前を支えさせておくれ」
スセリヒメノミコト様が俺の涙を指で拭う。
「今は身体を回復させるがいい。恩恵はそれからとしよう。あぁ、それと妾のことはスセリと呼ぶことを許す」
「……スセリ様」
「うむ。おぉ、そういえば……お前はどちらの名を使う? 前世の名か? 今世の名か?」
「……今世の名前でいいです。前世の記憶は大して役に立たないと思うので」
「そうかそうか。まぁ、前世も合わせて今のお前じゃからのぅ」
スセリ様は納得したように頷いて、笑みを浮かべる。
「では、これからよろしく頼むぞ。我が愛し子――フロル・ベルム」
こうして、俺はスセリ様の
…………
………
……
スセリ様に拾われて一週間。
俺はどうやら4日も寝込んでたらしい。
あの後、スセリ様が作ってくれたお粥を掻き込んで、思わずまた泣いてしまった。
その様子をスセリ様が温かい目で見つめていたのが、また恥ずかしい。
だが、おかげで体調、体力は万全に回復した。
両親が残してくれた金のおかげで、最初の頃は食べ物にそこまで困らなかったから酷い栄養失調にもならなかったし、二か月程度の野宿生活だから痩せ細ったわけでもない。
だからこそか……。
俺は今。
「うあああああ!?」
盛大に宙を舞っていた。
「ぶへっ!?」
うつぶせに地面に落ちて、無様な声を出してしまう。
「かっかっかっ! ほれほれ、どうしたんじゃ、フロル。もう終わりか?」
腕を組んで高らかに笑うスセリ様。
そう、俺は今スセリ様に鍛えられている。
正確には投げられまくっている。
攻撃するどころじゃない……。
近づいたら、いつの間にか宙を舞ってるんだよ。
めっちゃ強ぇじゃん、スセリ様。
「妾の父は極東一の荒神じゃぞ? その父上が言うには、妾は子供の中で一番お転婆だったらしいからのぅ」
マジっすか……。
まぁ、それくらいじゃないと、大国主命と結婚なんて出来ないか。しかも、正妻の座を勝ち取ったらしいし。
「お前は妾の眷属となった。それによって、お前は神々の恩恵『ファルナ』を得た。これでお前は冒険者になる資格を持ったわけじゃが、所詮は5歳児。しかも、恩恵を得たばかりではそこらへんの子供と何ら変わらぬ」
「……はい」
「本来ならダンジョンの上層でゆっくり戦いを覚えていくのだが、お前はそれすらも厳しい。故に今日から一年、妾がみっちりがっつり鍛え抜いてやろう!! 身のこなしから武器の扱いまで、妾が知る全てをな!!」
「よろしくお願いします!!」
「うむ!! では、再開するぞ!!」
「はい!」
「とぅりゃっ!!」
「ってああああああ!?」
一瞬で目の前に現れて、気づいたら宙を舞っていた。
「お前は軽い!! まぁ、子供じゃから当然なんじゃがの。故にモンスターの攻撃で簡単に吹っ飛ぶ!! 故にお前がまず身に着けるべきは、受け身と動き回る体力ぞ!!」
い、言うは易し……。
間違ってはないけど……確かに絶対身に着けなきゃいけないことだけど……。
ちょいといきなり実戦的過ぎませんかね!?
いや、まぁ……前世みたいに転がって受け身の練習とかじゃ時間がかかりすぎるのかもしれないけどさ。
「ほれ、足が止まっておるぞー」
「っ!? ちょっ、うわあああああ!?」
俺、一年も生きていられるのだろうか……。
夕方。
俺は畳の上で横たわっていた。
もう……ピクリとも動く気にならん。
ちなみにこの家は7畳ほどの小さな長屋である。
隣の部屋は台所で、なんと風呂付きだ。
……そういえば、どうやってこの家を手に入れたんだ?
食費に関してもそうだ。
「あの……スセリ様?」
「ん? なんじゃ?」
「どうやって、この家を買うお金とか食費を稼いだんですか? ……まさか借金とか……」
「しとらんわ阿呆。まぁ、天界で世話してやった神達からの。貸しをチャラにする代わりに、この家を借り受け、当面の金を工面してもらい、働き場を紹介してもらっただけじゃい」
「十分ヤバイと思います」
「じゃが借金はないぞ。仕事も一月は休んでも問題ないわい。まぁ、そろそろ働きに戻るがの」
「……ちなみに何の仕事を?」
「酒場じゃ酒場。ウェイトレス兼用心棒ってところかの」
「……スセリ様がウェイトレス……」
……何故だろう。想像出来ん。
いや、何か本能的にイメージすることを拒否しているかのような……。
「お前のぉ……もう少し表情を隠さんか。服装は男もんじゃよ。女冒険者が多く来る酒場での。そこまで荒れることもないわい」
スセリ様が思いっきり呆れた顔で言う。
いかん……全く隠す気がなかった。
「あ、そうですか」
「棒読みか。夕飯抜きにするぞ?」
「真に申し訳ありませんでしたぁ!!」
「せめて身体を起こさんか。寝っ転がったまま全力で謝られても、ふざけとる様にしか見えんぞ」
「……身体中が痛くて動けないです……」
「……軟弱じゃのぉ」
そんな目に遭わせたのは貴女様ですがね。
いや、冗談じゃなく筋肉痛がヤベェ。
初日とは言え、これ明日起きれなくね?
そもそも、夕ご飯食べれるかな?
手を動かそうとすれば、ピクピク震えるだけで持ち上げるのもやっとなんですが……。
すると、スセリ様がニヤニヤしながら近づいてきて、
「妾が食べさせてやろうか? あ~ん、とな」
「うぐっ……!」
「ん? なんじゃ? 嫌なのか? 妾のような美女に食べさせてもらうなど、男の憧れではないのか? ん?」
ぐっ……!
転生者って知ってるから、時々成人の男として揶揄ってくる。
スッゲェやりづらい……!
「断ったところで妾以外に食べさせてくれる者などおらんぞ? 諦めるんじゃな、フ・ロ・ル♪」
「…………はい、女神様」
「くっくっくっ!」
スセリ様は心底楽しそうに笑って、台所へと消えていく。
くそぅ……完全に手玉にされている。
まぁ、何千年と生きてるであろう女神に勝てるわけないんだろうけど……。
しばらくはこんな感じで揶揄われ続けるんだろうな……。
でも、女神に料理を作って貰って、女神に食べさせてもらうとかとんでもない贅沢だよな。
前世で見たアニメでも神が料理をするなんて見たことなかったし。
まぁ、アニメで出てた神々はそんな性格な方達じゃなかったしな……。
けど、しばらくはスセリ様のヒモ生活か……。
はぁ……情けない。
仕方ないのは理解してる。
5歳児の俺じゃ金を稼ぐなんて厳しいどころじゃないのは、この前嫌でも理解させられた。それに、こんな体たらくでダンジョンで稼げるわけもない。
まず装備すらないし。
今の俺は無力だ。
主人公のベル・クラネルよりも。
でも、だからこそ理解している。
弱いのであれば、情けなくとも、みっともなくとも、足掻くしかないのだと。
俺は成長できる。
それは間違いないんだ。
だから、今はひたすら頑張るしかないんだ。
一歩ずつ、着実に。
だから今は……。
スセリ様に『あ~ん』される苦行に全力で耐えるとしよう。