【ライトニング・サムライ】~転生者はダンジョンで英雄になりたい~ 作:独身冒険者
これで二章終わりです
正重は現状にとても困惑していた。
「ふははははは!! ほれぇどしたどしたぁ!」
椿が高笑いを上げながら大剣を振り下ろして
更に横薙ぎで周囲にいたヘルハウンド数体を寸断する。
モンスターが全滅したのを確認した椿は、一息ついて大剣を地面に突き刺して柄頭に手を置く。
「はぁ~やれやれ……やはりこの程度の輩ではつまらんの~」
椿は大量の武器が入った籠を背負っていた。
ちなみに正重も何故か籠を背負わされており、先程から椿が試し切りを終えた武器を渡されていた。
「仕方ない。こうなっては
「……あの、そろそ――」
「さぁて行くぞ~」
椿は正重の言葉を無視して歩き出す。
正重は大きくため息を吐いて、重く感じる足を前に進めるのであった。
さて、こうなったのは数時間前。
正重は今日もバベルにある【ヘファイストス・ファミリア】の店舗にやってきていた。
以前フロルも顔を出していた、まだ【鍛冶】アビリティを手にしていない下級鍛冶師の店が並んでいる階だ。
最大鍛冶派閥で日夜腕を磨いている鍛冶師達の作品を見て、インスピレーションや技術を学んでいた。
正重が身に着けた鍛冶技術は基本的に極東の技だ。素材とてオラリオに比べればずっと限られる。
故に冒険者が集うオラリオだからこそ培われてきた技術や素材を知らなければ、今後フロル達が求める武具を造れないと危機感を抱いていた。
巨躯の獅子人が唸りながら並べられた武具を射殺すつもりかと思われるほど見つめていた。
それがここ最近でよく見られる光景だった。
数店舗回り、次は下の階の高級武具を見に行こうとした時、
「おお? そこにおるのはフロ坊とこの獅子男ではないか」
店の見回りをしていた椿が、面白いものを見つけたとばかりに歩み寄ってきた。
「っとぉ、いかんいかん。お主とは初対面であったな。【ヘファイストス・ファミリア】の椿という」
「む……【スセリ・ファミリア】、クスノ・正重・村正、です」
「お主の事は主神様から聞いておるぞ~。まさかこのオラリオであの村正一派の鍛冶師に会えるとは手前は運が良い」
腰に手を当てながら意気揚々と話す椿に、困惑する正重。
「それにしても鍛冶師のお主がこんなところにおると言うことは、どうやら己が鍛冶に行き詰っておるようだの」
「!!」
サラリと図星を突かれたことに、正重は顔が強張ってしまう。
その反応に椿は口角を吊り上げ、さらしに巻かれた豊満な胸の下で腕を組む。
「なぁに、大して驚くことでもなかろう? 鍛冶師が鉄を打たずに、他の鍛冶師の作品を見に来るなど、それ以外にあるまいよ」
同じ鍛冶師だからこそ、同じ鍛冶師の行動の理由など手に取るように分かる。
椿とて同じように壁にぶち当たった時期は少なからずあったのだから。
言葉に詰まり、顔を顰める正重は顔を俯かせる。
すると、下を向いた視界に、褐色の肉付きも良く柔らかそうな腕が伸びてきて、己の服をガッ!!と掴んだのが見えた。
「丁度良い。暇ならばちと付き合ってくれ」
「ぬ?」
「これから武器の試し切りをするつもりでな。ここで会ったのも何かの縁。お主も見に来るついでに手伝え。手前で言うのもなんだが、【ヘファイストス・ファミリア】の上級鍛冶師の新作が目の前で見れるのだ。損はなかろう」
と、言い終わると同時に正重の巨躯など知ったことかとばかりに引きずり始めた。
正重は瞠目して咄嗟に腕を引こうとしたが……ビクともしなかった。
「はっはっはっはっ! 残念だがお主の力では手前には敵わんぞ~。諦めて付いてくるのだなー」
「ちょちょちょっ!? ま、待ってください副団長!!」
ズルズルと正重を引きずっていく椿に、たまたますぐ近くでやり取りを眺めていた【ヘファイストス・ファミリア】の団員が慌てて止めに入ってきた。
「さ、流石に他派閥の団員を主神や団長に許可なく連れて行くのはまずいですって! 副団長の試し切りってダンジョンでやる奴でしょう!?」
「!?」
「バラすでないわ、つまらん奴じゃの~。小さいことを気にするでない。この者はあの【迅雷童子】の仲間だ。ダンジョンに潜るくらい何でもない。なぁ?」
同意を求められるも、流石に頷くに頷けずに眉尻を下げる事しか応えられない。
しかし、椿はそれを同意と都合よく勝手に解釈して、更に力を込めて歩速を上げる。
それに団員はもはや体裁も周囲の目も忘れて椿の右足に飛びつくも、残念ながら椿には軽かった。
「お前は主神様かフロ坊達に伝えて来い。『ちと借りる』とな」
そう命令しながら右足を軽く振って、団員を振り払う。
「のわぁ!? ぐぇ!?」
団員は壁にぶつかって痛みに呻き、その隙に椿は正重と共に昇降機に乗り込んで下に下りていった。
「副団長おおおおお!!!」
「はっはっはっはっはっはっ!」
団員の悲しい雄叫びと、暴君の高笑いがバベルに響き渡った。
という事で、正重は椿にダンジョンに連れ込まれたのだった。
正重も流石に試し切りであれば上層で終わると思っていたのだが……迷うことなく中層に下りてきてしまった。
「階層主は先週リヴィラの連中が倒してしもうたのでなぁ。ミノタウロスでも探すとしよう」
サラッと恐ろしいことを告げる上級鍛冶師に、正重はもはや遠い目をするしか術はなかった。
すると、椿は顔だけで正重の方に振り返り、
「なぁに呆けておるか馬鹿者。どうだ? 手前の武器は」
正重はすでに試し切りが終わった武器の中で、何故か無意識に選んだ先程椿が使っていた大剣を見下ろす。
別に深い理由があったわけではない。ただ『自衛のために使ってよいぞ』と言われたので選んだのがこれだったと言うだけの話だ。
そして出来など、正直訊かれるまでもない。
素晴らしい。
それ以上の言葉は出てこない。
自分に合わせた武器ではないのに、バランスもいいし、握り心地も申し分ない。
振らずとも分かる。
この武器ならば中層のモンスターなど相手にもならないことなど。
「なぁ、
「……」
「そのせいかのぅ……。どうにも手前にはお主の芯が
「っ――!!」
いきなり核心を突いてきたその言葉に、正重は瞠目し、呼吸が止まる。
「お主にも鍛冶師の誇りは間違いなくある。そこに疑いはない。だが……頂きを、己が登るべき神峰が定まっておらん」
オラリオ最高峰に立つ鍛冶師の言葉に、獅子は拳を握り締める。
「恐らくお主を引き取り育てた神を除いて、お主の事を、お主の腕を、認める者はおらなんだのだろう。それがお主自身の芯を揺らし、芯が刺さる『自信』という地に亀裂が入っておる」
「……」
「そして何より、お主は鍛冶師と言う存在を真に理解しておらん」
足を止め、振り返る上級鍛冶師。
自分よりも背が低く、身体も細いというのに、何もかもが己より大きく感じさせる『圧』と『熱』。
まるで鍛冶場に、高熱噴き荒れる炉の前に、立っているかのように錯覚するほどに『鍛冶』という事柄をその身に同化させている。
そう感じさせるほど、椿は遥か高みにいると、正重は思わされた。
「お前は武器を造る際に『使い手の事を知りたい』。そう
「……」
「お門違いにも程がある」
椿は先ほどのまでの人懐っこい瞳ではなく、まさしく高みにいる者としての瞳で正重を見据えて告げる。
「確かに、己が拵えた武器の使い手の事を知りたいと言うのは間違っておらん。使い手の事を知らねば、相応しい武器を打つことなど出来ぬからの。だが、
「っ……!?」
「冒険者にとって、武器とは己の半身にも等しい。手前ら鍛冶師はその半身を埋める手助けをしておるに過ぎぬ。使い手の元に渡り、半身となった武器がどう使われるなど、考えて如何とする?」
「それ、は……」
「まぁ、手前とて? 最初から人殺しと分かっている者に武器を打つ気はない。だが、今は誇り高い者でも、たった一つの出来事で身を闇に堕とすかもしれない者かどうかを見通す目は持ち合わせておらん。手前ら鍛冶師は、あくまで『今』、『目の前にいる者』を見て、『その者に見合った』武具を授けることしか出来ぬのだ。それ以上を見極めようなど、それは些か傲慢というものよ」
「……」
「そして何より――」
椿は背負っていた籠から残りの武器を全て、巻いていた布を解いて正重の目の前に突き刺す。
目の前に並べられた様々な武器に、正重はそれまで告げられた言葉など、頭を埋め尽くしていた思考など、全て吹き飛ばしてただただ見惚れてしまう。
「見惚れるか? そう、今のお前の様に目にした者を魅了する武器を造る。これこそが、鍛冶師の本懐よ」
不敵な笑みを浮かべる椿に、正重はただただ『目の前の武器を握ってみたい』と衝動に駆られていた。
「鍛冶師とはただ求められる武具を拵えるだけに非ず。己が気まぐれに叩き鍛え上げた武具を、偶々通りかかった命知らずの馬鹿共に、欲しいと思わせる物を、造り上げる者のことを――神と人は『鍛冶師』と呼ぶのだ」
「っっ――!!!」
正重は、己の腹の底が熱くなるのを感じた。
それは一瞬で胸に、頭に、そして両手へと伝播する。
――鉄を打ちたい
正重の思考は、『熱』は、ただそれだけに埋め尽くされる。
それを目の前の、遥か高みにいる鍛冶師は当然のように感じ取り、唇を限界まで、心底愉快とばかりに吊り上げて、歯を見せる。
「良き熱だ。はっはっはっはっ!! それでこそ栄えある村正の血を引く一端の鍛冶師!! 我らが
その時、
『ヴボオオォォ……』
数頭のミノタウロスが、通路奥よりドス、ドスと足音を響かせて現れる。
「おぉ、ようやく現れよったかぁ。これでようやく満足のいく試し切りが出来るというものよ。なぁ、獅子丸」
「……」
正重は、生まれて初めて、目の前のモンスターを『邪魔だ』と、怒りを覚えた。
早く鍛冶場に行きたいと言うのに、早く鉄を打ちたいと言うのに。
――俺の熱を、冷まそうとするな。
湧き上がる憤怒に、正重の鬣が如き金の髪が、僅かに逆立ち毛先が赤く染まる。
椿は正重の変容に心底愉快と、笑いを嗤いに変える。
「良い!! 良い熱じゃぞ、獅子丸!! 好きな得物を使え!! 一匹はお主に譲ろう!! その熱を叩きつけてやるが良い!!」
「ゥゥウウオオオオオオオオオオ!!!!」
獅子は猛々しい雄叫びをダンジョンに轟かし、すぐ傍に在った、そこに在ると本能的に感じた大斧を目も向けずに掴み、地面を蹴り砕いて飛び出す。
そのすぐ後を狂気的な笑みを浮かべた鍛冶師が続く。その両手には直剣と槍が携えていた。
あっという間に猛る獅子を抜き去って、椿はミノタウロスの群れへと突っ込む。
そして、一番先頭にいた一体のみを残し、他のミノタウロスを一瞬で一掃してしまった。
残った一体は椿から逃げるかのように、前にいる獅子に向かって突撃していく。
『ヴォオオオオオ!!』
「ウゥオオオオオ!!」
ミノタウロスを石斧を振り被り、獅子もまた大斧を振り上げる。
同時に振り下ろされた斧は激突し、一瞬火花を散らすも、同時にミノタウロスの石斧が砕け散る。
正重の大斧はそのまま振り下ろされ、ミノタウロスの右頬を切りつけ、右腕を斬り落とす。
『ヴヴォオォオオ!?』
ミノタウロスは悲鳴を上げて、後ろに後退る。
本来であれば正重のステイタスでは、ミノタウロスの一撃を防ぐのはもちろん、勝るのも不可能なのだが、その不可能を可能にしたのが椿の武器であった。
「オオオオオオオオ!!」
正重はすぐさま大斧を切り返し、胴体に分厚い刃を叩き込んでミノタウロスを両断した。
その光景に椿は笑みを深め、丁度到着した3つの人影は瞠目する。
ミノタウロスは身体を灰にして、魔石だけが地面に転がる。
「ウオオオオオオオ!!」
そして、獅子は勝利の雄叫びを上げた。
………
……
…
ミノタウロスを倒して雄叫びを上げる正重に、俺やハルハ達は唖然とする。
急いで本拠を飛び出し、足を止めることなくツァオの嗅覚を頼りに猛スピードで下りてきた。
ぶっちゃけ、これまでのダンジョン探索中最速で17階層までやってきた。よく【怪物進呈】しなかったなと思うぐらい足を止めずに走ってきた。
正直、途中で正重の雄叫びが聞こえた時は肝が冷えた。
17階層だったのもあるけどさ。まさか他のファミリアの人にここまで連れてこられてるとは思わなかった。
そしてやっと見つけたら、まさかの正重がミノタウロスを両断してるじゃん。
そりゃ驚いて足も止まるよ。っていうか、え? どうなってんの?
なんで正重が勝ってんの?
「お~来おったか、フロ坊」
椿さんが武器を肩に担いで歩み寄ってきた。
……全く反省してる様子はないな。
「……凄く色々と言いたいことがあるんですが、とりあえずあの状況を教えてもらっていいですか?」
「ん? 教えるも何も見たままだぞ? 獅子丸が手前の武器で試し切りしただけのことよ」
獅子丸て。
まぁでも……なるほど。【単眼の巨師】が拵えた武器だったら、確かにLv.1でも勝てる可能性はあるか。
「普通はLv.1で出来立ての弱小ファミリアが【ヘファイストス・ファミリア】副団長の武器を使うなんてありえないからねぇ。
「無謀な賭けであったのは変わらぬのでは?」
「だよなぁ……」
「まぁ勝ったのだから良いではないか!」
良くないよ!?
俺はため息を吐いて、正重に視線を戻す。
正重は魔石を拾い上げて、こっちに戻ってくる。どうやら俺達の事も気付いてたみたいだ。
「大丈夫か? 正重」
「うむ。すまない、心配、かけた」
「まぁ、事情は聞いてる。無事で何よりって言うか、凄かったぞ」
「うむ。でも、凄かったのは、【単眼の巨師】の武器」
「だとしても、正重が強くなかったら意味がないんだからさ。正重だって十分凄いよ」
「……うむ」
照れくさそうに笑みを浮かべる正重。
なんかさっき髪が逆立って、色も変わってた気もするけど、今はいつも通りだな。
「さぁて! 迎えも来たことだし、今日のところは引き上げるとするかぁ、獅子丸よ」
椿さんは魔石とドロップアイテム、そして武器を回収して、そう言った。
なんか椿さんにそう言われると物凄く納得しがたい感じがあるが、引き上げること自体に文句はないので、さっさと地上に戻ることにした。
「それにしても、何でいきなり正重を連れて行ったんですか?」
「ん? いやなに、獅子丸がちょいと行き詰っておるようだったのでな。こういう時は、鬱憤を晴らすか、他の者の作品を見て刺激を貰うかのどちらかに限る! となれば! 上級鍛冶師の手前の武器で暴れるのが一番良いというわけじゃな!!」
「……いや、まぁ……はい」
間違ってはないんだけど、それまでの過程がおかしいんだよな、やっぱり。
別に連れて行くのは文句ないんだから、ちゃんと一言……じゃないな。説明してくれればダメとは言わないのでね。
「何を言う。鉄は熱い打つに限る。こういうのは思った時にすぐに動いた方が良いに決まっておる!」
駄目だこの人ぉ……反省する気ねぇ~。
「細かい奴じゃのぉ。正味な話、今回はこれで正解じゃったと思うぞ?」
「というと?」
「それは帰ってからのお楽しみじゃな」
ニヤリと笑う椿さんに俺は訝しむ。
……まさかランクアップしたとか言わないよな?
いや、でも……椿さんの武器を使ってたとは言え、1人でミノタウロスを倒したからな……。ありえるか?
そうでなくても、さっきの変化……何かしらのスキルが発現した可能性もある?
……いやいや、だとしても許しちゃ駄目だよ。そこは団長として駄目だよ。
個人的にはお礼言いたいけど、それは別問題です。
そんなことを考えながらも無事に地上に戻り、とりあえず椿さんとバベルで別れた。
すでに外は夕暮れだったので、今から今回の件の話し合うのは流石に遅くなるし、被害はないのでとりあえずヘファイストス様と椿さんで一度話して貰った方がいいかなと思ったので、今日は解散することにした。
で、本拠に戻るとスセリ様が入り口で立って待っていてくれた。
「おかえり。無事で何よりじゃの」
「ただいま戻りました」
「さて、正重」
「はい……」
スセリ様は正重へ顔を向け――目を細める。
「ふむ……」
「スセリ様?」
「話を聞こうと思ったが……正重、妾の部屋に来い」
「む?」
「ステイタスを更新してやろう。それを見てから話を聞く」
スセリ様は一方的にそう告げて、さっさと屋敷に戻っていった。
……え? 本当にランクアップしてる?
「とりあえず……俺らも一休みするか」
「だねぇ」
「承知」
一度それぞれの部屋に戻り、装備を外して私服に着替える。
その後、俺を始め、ハルハとツァオ、そしてハルハが声をかけたのかアワラン達も大広間の方に集まってきた。ドットムさんもいるが、気を使ってか端の方に座る。
全員が揃って数分経ったところで、正重が大広間に入ってきた。
「お、正重。どうだったんだい?」
「む……まだ、教えて頂いて、いない」
「あん?」
アワランを始め、俺達は首を傾げる。
そこにスセリ様も正重のステイタスが記された更新用紙を持って、大広間に入ってきた。
「おお、全員揃っておるようじゃな。丁度良い」
スセリ様が上座にいつも置かれている座布団に座り、正重を見ながら指で目の前を指して、正重は困惑を浮かべながらもスセリ様の前に移動して正座する。
俺はスセリ様の横に座り、ハルハ達は正重を囲むように座る。ドットムさんは動かず。
「さて、【単眼の巨師】とのいざこざについては、まぁ後日ヘファイストスと話すとしよう。
「……と言う事は」
「うむ」
スセリ様は目を閉じたまま大きく頷き、目を開けて正重を見つめる。
「正重」
「はい」
「高みを見たか?」
「……はい」
「頂は見えたか?」
「……いいえ」
「では――駆け上る道は決まったか?」
「――はい」
たった三度の問いかけと、たった三つの答え。
しかし、それだけで俺達は、正重が見てきたものと定まった覚悟の強さを、何となくだが分かった気がした。
だからこそ、正重の身に起きたことを、全員が理解した。
「うむ」
スセリ様は再び大きく頷き、そして鋭かった表情を優しく温かい微笑みに変える。
そして、更新用紙を差し出し、
「よぅやったの、正重。――【ランクアップ】じゃ」
正重は深く頭を下げながら両手で更新用紙を受け取った。
「やれやれ……やはり下界の子らの変化、成長は神の想像を簡単に超えてくるのぅ。男子三日会わざれば刮目してみよという言葉が極東にはあるが……まさかたった数時間で、とはな」
「どういう意味?」
「人は三日会わぬだけで大きく変わるもの、故に会った時には注意して観察せよ、という人の成長は早いということを示す諺である」
「なるほど」
リリッシュの疑問に巴が答える。
「まぁ、この手のことはフロルで十分慣れたと思っておったのだがなぁ。やはり、こういうのは個々それぞれに感慨深さがあるもんじゃな」
「まぁ、正直今回はアタシらも驚きだけどな」
「いやぁ、恐らくお主らが思っておる以上の変化じゃぞ?」
「「「「え?」」」」
「
「「「「「はぁ!?」」」」」
俺達はず~っと更新用紙を睨んでいた正重の横や後ろ、果てには上から覗き込む。
クスノ・正重・村正
Lv.2
力 :B 753 → B 792 → I 0
耐久:B 712 → B 724 → I 0
器用:B 789 → B 798 → I 0
敏捷:D 591 → C 600 → I 0
魔力:I 0
鍛冶:I
《魔法》
【イッポンダタラ】
・震破魔法
・対象に触れる、または衝撃を与える事で発動可能
・Lv.および『力』アビリティの数値を魔法威力に換算。潜在値含む
・一定振動数超過時、任意起動により対象を発火可能
・詠唱式【打鉄の響音、
・起動式【其は鉄
《スキル》
【
・周囲のアビリティ値一定以下の対象を威圧
・『力』と『耐久』の高補正
・一定範囲内の対象の獣人族の全アビリティ高補正
・威圧・補正効果はLvに依存
【
・『刀』鍛造時における能力強化
・炎に対する高耐性
・高熱時、高熱状態における全アビリティ高補正
【
・感情の昂りに比例して体温高熱化
・『力』の高補正
・炎属性による攻撃時、威力増強
……わぁお。これスゲェ。
「追加効果の魔法に、鍛冶系スキル。こりゃ流石村正って感じだねぇ」
「使いどころは難しそうだが、当たりゃあデカいな」
「確かに対人戦では難しいかもしれませんが……これは大型モンスター等であればかなり有効なのでは?」
「いや、お待ちを……この魔法、下手したら……」
「ん、別に
リリッシュの言葉に俺は頬が引き攣る。
た、確かに『対象』に指定はないな……。マジか。
「確かに魔法も強力ではあるが、正重にとって大事なのはやはりスキルの方であろうよ」
スセリ様は腕を組み、笑みを浮かべたまま言う。
「そのスキルはまさに、正重が村正の血を継ぐ鍛冶師である事の証明に他ならぬのだからの」
そうだ。
スキル名に村正の名が出た以上、『神の血』が正重は村正の名に相応しい鍛冶師だと認めた証そのものじゃないか。
「恐らくじゃが、一つ目のスキルに関しては本来であればもっと前より発現しておったものなのじゃろう。しかし、正重はその環境故に、己にとって鍛治師とは如何なるものか定まっておらなんだ。故に、発現するには想いと覚悟が足らなんだ、ということなのじゃろうの」
なるほど……。
「って言うか、これ……。さりげなく戦闘でも発揮するようになってないか?」
「なっとるの」
「なってますな」
「……とんでもないな」
「まぁ、それだけ正重は鍛治も探索も共にしたいという事なんじゃろうよ。素直に喜ばんか」
「凄すぎてどう喜んでいいのか分かりません……」
「贅沢な奴じゃの」
いきなりここまで凄くなるなんて思わないでしょうよ!?
「さて、ステイタスを確認したところで……正重」
ずっと更新用紙を焼き付けるように睨みつけていた正重が顔を上げる。
「その魔法とスキルから、お主がこれから行こうとする道を見据えた事と、進む覚悟が固まった事に疑いようはない。故に、問おう。お主は――何の為に鎚を振るう?」
スセリ様の問いに、俺達は正重から離れて座り、正重は更新用紙を懐に仕舞って姿勢を正す。
「……俺は、アマツマラ様以外、認めてくれる人、いなかった。どんなに鉄を打っても、鎚を振っても、誰も、認めてくれなかった。……誰も、俺の武器、見てくれなかった」
正重はポツリポツリと、抱えていた苦しみを口にする。
「国を出たら、村正の名、驚かれ、武器、頼まれた。でも……それ、『村正』の武器、だから、『俺』の武器を、認めてくれた、違う」
名工の血筋だからこそ、ブランドに惹かれる俗物ばかりってわけか。多分、中には本当に正重の武器を認めてくれた人もいたとは思うが、それを伝えてくれる人がいなかったんだろう。
「だから、俺、『村正』に、誇りも、拘りも、なかった。でも、鍛冶は、好きだった、止められなかった……。誰でもいい、俺の、武器を、褒めて欲しかった」
ヴェルフもそうだったなぁ。
まぁ、ヴェルフは名付けで客が遠のいてた感じだけど。
「そんな時、スセリヒメ様、そして……フロルに会った」
正重は俺に顔を向ける。
「フロル、獅子人、村正、関係なく、俺、見てくれる。俺、造った武器、喜んでくれる。『俺』の武器、褒めてくれる。それが……嬉しかった」
正重……。
「でも、フロル、凄い。どんどん、強くなる。俺の武器、俺の腕、追いつけない。……フロル、相応しい武器、分からなくなった」
そんなに、追い詰めてしまったのか。
「でも、違った。間違ってた」
正重は両手を握り締め、視線を向ける。
「分からないなら、色んな武器、打てばいいだけ。その中から、フロル、使いたい、選んでもらえばよかった。フロル、使ってみたい、思わせる武器、一杯打つ、それだけだった」
それを椿さんに教えてもらったと。いや、気付かせてもらったのか。
椿さんの武器を見て、使う側の立場を理解したんだ。
「今も、村正の名、そこまで拘り、ない。別に、名を馳せる、思わない。……でも、目標、出来た」
正重は俺とスセリ様をまっすぐと見て、
「――【スセリ・ファミリア】に、村正在り」
はっきりと迷いなく告げた。
「そう、言ってもらいたい。そう、言われたい。そう、思った」
クスノ・正重・村正と言う鍛冶師、クスノ・正重・村正の武器として名を馳せたいのではなく、【スセリ・ファミリア】にはクスノ・正重・村正という優れた鍛冶師がいると、周りから言われたい。周りにそう、思われたい。
己ではなく、己がいる場所を、己を認めてくれた者達が一番凄いのだと。
そして――
「【迅雷童子】に、村正在り。そう、言われたい」
武器は使い手の半身。
故に、俺が正重の武器を使うということは、正重もまた、俺の半身という事になる。
武器だけではなく、自分だけでなく、使い手と共に名を馳せたい。
使い手に寄り添いたいと言う、優しくも誇り高い正重だからこそ、至った目標。
「だから、これからも、今まで以上に、武器、造る」
「……ああ。もちろん、期待しかしないぞ? 正重」
「うむ。必ず、応える」
「ああ、知ってるさ」
ホント、俺にはもったいない仲間だよなぁ。
俺ももっと頑張らないと。
この熱い想いに応えなきゃ、男じゃないよな。
ありがとう、俺だけの村正。
椿恐ろし(色々な意味で)
さて、ストック尽きたので、三章は少々お待ちくださいませ