【ライトニング・サムライ】~転生者はダンジョンで英雄になりたい~ 作:独身冒険者
俺達はリヴィラの街に寄ることもなく、18階層中心にある巨大樹の元へとやってきた。
真上を見上げてると、緑がとてつもなく遠く見える。
ダンジョンの中だってのに、よくここまで育ったもんだなぁ。
「この樹って何か素材になるのか?」
「なるっちゃなるが、別に魔導士の杖とか特別なもんには使えねぇぞ。デカいから丈夫ってくらいしか特徴がねぇからな」
そうなのか。
しかも、これから下は『大樹の迷宮』だしな。木材系の素材はたくさんのあるのかもしれない。まぁ、薬草系は確実に採れるらしいけど。
あんまり素材は原作では話題にならなかったからなぁ。
「この下からは『大樹の迷宮』って名前の通り、森のような場所だ。明かりは少ねぇし、霧も出ることもある。視界が悪ぃから気を付けろよ」
ドットムさんの忠告に、俺達は顔を引き締めて頷く。
「じゃあ、行こう」
巨大樹の根元にある洞へと入り、下を目指す。
中は洞窟というよりは木の根で作られた通路だった。
これまでのように所々に埋め込まれた水晶や苔などの光源が通路を照らし、一気にここがダンジョンだと思い出させてくれる。
そして、下りると目の前に広がるのは鬱蒼とした樹海。
「おぉ……結構樹が一本一本太ぇな」
「こりゃ確かにどこからモンスターが来るか分かり辛いね」
「罠があるのも納得ですな」
「陣形が難しい」
ツァオの言う通り、前後左右だけでなく、上も気を付けないといけないな。
しかも、リリッシュの魔法も隠れてやり過ごされる可能性もある。
ここからの階層は昆虫系が多く、空中を移動するモンスターへの対策が求められる。
でも地上系もバグベアーにリザードマン、ホブゴブリンと無視出来ないモンスターもいる。
そして、毒だ。
「いいか? もし茸を見かけたら、迂闊に近寄るんじゃねぇぞ。『ダーク・ファンガス』の可能性があるからな」
ダーク・ファンガス。
19階層から現れる茸型モンスターで、一番定番の『罠』だ。茸と言われるように、見た目は茸だ。そして、この階層では薬剤系の素材として茸が採れる。
その茸に擬態して、群生の中に紛れているらしい。
で、近づいてきた冒険者に対して、毒ガスを噴射する。
この毒ガスは少量であれば解毒薬で回復できるが、吸い過ぎると『耐異常』アビリティであってもすり抜ける。
俺達はドットムさん以外は持ってないからな。やられたら確実に毒に侵されると考えておくべきだろう。
「あと、基本的にこの階層にはまだ出ねぇが、『デッドリー・ホーネット』が出たら即座に逃げるぞ。奴らの毒はお前らなら即死だからな」
デッドリー・ホーネットは蜂型モンスターで本来は22階層より下に出る。別名『上級殺し』と呼ばれ、奴らの毒は解毒薬でも間に合わず、第二級冒険者の『耐異常』をも貫通する。
しかも蜂だから動きは素早いし、身体に纏う殻はかなり固く、魔法も上空に逃げられて躱される。まさに少し慣れてきた冒険者を殺す殺し屋だ。
他にはこの階層であれば『ファイアーバード』という希少モンスターもいる。名前の通り、炎を纏う鳥だ。火の粉を常に振り撒き、炎攻撃を仕掛けてくるため、大量派生などが起きた日には辺り一面火の海に変わるそうだ。
だから、リヴィラの街では確認され次第。階層主討伐レベルの討伐隊が組まれる。
どちらも滅多にお目にかかれるモンスターでないが……今は闇派閥による怪物進呈が考えられるので警戒に警戒して損はない。
周囲を警戒し、リリッシュを中央に置き、ハルハを最後尾にする布陣に変えて移動を始める。
……人の気配を本当に感じないな。
10分ほど素材にある花や草を採集しながら歩くと、前方からブブブブブ!と明らかに虫が飛ぶ音が聞こえてきた。
え、まさか……。
「ホーネットじゃねぇ!
ドットムさんの怒声とほぼ同時に現れたのは蜻蛉の群れ。
そして、尾の先には鋭い棘が生えている。
「油断すんなよ、アレも硬ぇぞ!!」
『ガン・リベルラ』。
蜻蛉型モンスターで、尾先の棘は金属質でまさしく狙撃が如く発射し、それは鎧をも貫く威力があるらしい。
そしてガン・リベルラは……群れで出現する。
「ツァオと巴はリリッシュを守れ! 他は動き回って少しでも狙いを拡散させろ!」
刀を抜きながら駆け出し、ジグザグに動いて照準を定めさせないようにして詰め寄る。
蜻蛉達の真下まで迫ったところで跳び上がって刀を振り上げ、1匹を倒す――が。
俺が跳び上がったのと同時に近くにいた蜻蛉数匹が俺に狙いを定めて、尾の棘を発射した。
げっ!!
「【鳴神を此処に】!」
慌てて魔法を発動し、素早さを上げて棘を全て叩き落す。
「無闇やたらに跳び上がんな! 狙われんぞ!!」
早く言ってぇ……じゃないな。考えれば当然だよな。
飛んでる相手にジャンプしたら、そら狙われるよ。隙だらけだもん。
ってことは……撃った後に一気に攻めるか、魔法でってことだな。
いや、ここは……!
「正重! 弓矢!!」
「うむ!」
俺はリリッシュ達の近くで薙刀で戦ってる正重に高速で近づき、正重は足元に置いた籠から弓矢を片手で取り出して俺に向かって放り投げる。
空中でキャッチして矢筒を背負い、矢を弓に番える。
射撃には射撃だ!
魔法の力を利用しての高速連射。
まだ下手くそだから1本ずつしか撃てないけど……! それでも命中率が低いわけじゃないぞ!
ヒュッバァン! ヒュッバァン!と撃つ度に蜻蛉がその身を破裂させる。
でも、このままじゃ矢がすぐに尽きる……!
「【スリエル・ファルチェ】!!」
ハルハが鎖大鎌を振り上げて、紅き刃の嵐を放って蜻蛉達を飲み込む。
それでもやはり数匹が上空に逃げて躱されてしまう。
くそっ!
「面倒だねぇ!」
「あそこまで上がられたら俺らじゃ届かねぇぞ!」
かといって、リリッシュの魔法を使うには逆に数が少ない……!
「団長」
リリッシュが眠たげな眼付きのまま、俺に声をかけてくる。
「雷、
「は? ……! わかった!!」
一瞬何言ってんだ?って思ってしまったが、そうだ。
リリッシュが持つ魔法は1つじゃない!
弓を足元に放り投げて、刀を抜く。
そして、刀に雷を集め、
「行くぞ!」
「――【対処せよ】」
俺の問いかけにリリッシュは詠唱で応える。
チビッ子コンビネーション!!
「【パナギア・ケルブノス】!」
「【それはすでに見知っている知識なり】」
俺がリリッシュに向かって雷を放つと同時にリリッシュの魔法も完成する。
「【グノスィ・アイアス】」
リリッシュの目の前、蜻蛉の群れが集まっている方向に魔法陣が出現し、俺の雷を斜めから受け止める。
その直後、一条の雷が、数十本にも及ぶ天に落ちる雷となって迸り、蜻蛉の群れを焼き払って一蹴した。
「おお……すげぇ威力だな……」
「お見事です、リリッシュ殿」
「ん」
リリッシュはディムルの賞賛にいつも通り眠たげな顔で淡々と頷く。
リリッシュの反射魔法は、詠唱や効果などを知っていればいるほど反射時の威力が跳ね上がる。
俺の魔法なんて何度も見てきたし、細かく教えているのでこの程度の威力は当然だろう。
もちろん、ハルハや正重の魔法もリリッシュは細かく検証している。
「ほれ、早く魔石や矢を回収すんぞ」
「あ、はい」
そうだな。急いで回収して、次に備えないと。
まだまだ先は長いんだから。
「それにしても、やっぱり飛んでる奴らは相性悪いねぇ……」
「すばっしこいから俺や正重は特に相性悪いな」
「うむ」
「某もですなぁ」
「ガン・リベルラの時は、ツァオと正重が盾役を交代した方がよさそうだな。ツァオの盾を巴と正重が使って、巴の大刀でツァオが前衛。アワランとディムルは引き続き、無理せず攪乱役で」
「「承知」」
「うむ」
「お任せを」
「それしかねぇか」
「頼んだぞ」
もう少し色々とフォーメーションを考えた方がいいのか……。
「リリッシュ嬢ちゃんももう少し指揮やれよ。坊主に甘えてんじゃねぇ」
「ん」
と言う事で探索再開。
その後はバグベアー、リザードマンとも戦い、ダーク・ファンガスとも遭遇したが何とか毒を喰らう前に倒せた。
正確にはハルハの魔法をリリッシュの反射魔法で威力倍増させて毒煙ごと吹き飛ばしたんだけど。何とかなりました。
ガン・リベルラもツァオを前衛に出したフォーメーションで上手く戦えてる。
でも、これじゃあすぐにへばっちゃうな。
そして、一番負担が大きいのがツァオだ。
ポジションの入れ替わりが思ったより消耗させている。バグベアーやリザードマンとの戦いでは盾役としてリリッシュやディムルのカバーに入り、ガン・リベルラとの戦いでは常に動き回って攻撃している。
背も高く、正重のスキルで『力』も『敏捷』も上がるからガン・リベルラ達との戦いでは俺とハルハに並ぶ主戦力だ。
そして、俺とハルハは完全に前衛と魔法で大忙しだ。ステイタス的に仕方がない事なんだけど、正重のスキルもまだランクアップしたてだから威圧もそこまで効果がない。
これは……まだこれ以上下に進むのはキツイな。当分19階層付近で慣らしていこう。
「って、思うんだけど」
「そうだねぇ。流石にちと負担が偏りすぎだね。これじゃあ逆にディムルや巴が育たないよ」
「そうですな。良くも悪くも、ちと届いておりませぬ」
ガン・リベルラは物理的に届かず、バグベアーとかはステイタス的にしんどい。
盾役のツァオだってLv.1だ。防ぐにも限界はある。正重が時折盾を握ってるけど、それだけじゃ負担はあまり軽くならない。
う〜ん、やっぱりまだ早かったか?
思い出したらベル達が19階層に進出したのはLv.3になってからだし、ヴェルフとかは春姫の魔法とか使ってたもんな。他にも魔剣とか使ってたし。
人数は俺達の方が多いけど、戦力としてはまだベル達より低いかもしれない。
ということで、一度18階層に戻る。
一休みしたら17階層に戻って、ミノタウロスやライガーファングと戦うことにしたのだが……。
「なぁ……リヴィラ、泊まる?」
なんか、この状況で金を使いたくないな。
「今回は赤字覚悟で来てんだろうが。泊まっとけ」
ですよね。ちくせう。
俺は少しテンションを下げながら、まだ砂があるかもしれない17階層に戻るのであった。
………
……
…
時は少し戻って。
ミア、アレン、アーニャはダンジョン上層を移動していた。
アレンは気絶から目覚めてからずっと殺気を抑えることなく振り撒き、苛立ちに顔を歪めていた。
その苛立ちと殺気に、アーニャはもちろん、上層部で探索していた下級冒険者達をも威圧していた。
「いい加減八つ当たりは止めな、みっともない」
「うるせぇ、俺に指図すんじゃねぇ」
「そんなんだから、あの坊やに負けたんだよ」
「……殺すぞ」
「やれるもんならやってみな、青二才」
「……ちっ」
目の前にいるのはファミリア、オラリオ最強の女。
Lv.2の三級冒険者が勝つなど天地がひっくり返ってもあり得ない。
「なんで負けたと思う?」
「……あぁん?」
「なんであの坊やに手も足も出ずに負けたと思う?」
「知るかんなこと。奴の方がステイタスが上だった、それだけのことだろうが」
「違うね。ステイタスはまだアンタの方がちょっと上さ」
ミアは顔だけ振り返って言い放つ。
頂点に立つ女傑の言葉に、流石のアレンも瞠目して足を止める。
「……なんだと?」
「坊やの動きを見た限りじゃあ、素の
「……じゃあ何で俺は負けた?」
「下手糞だったからさ。戦い方が」
ミアは前を向いて、また歩き出す。
「アンタは才能がある。向上心も人一倍さ。だが、直線的すぎる」
「……どういう意味だ?」
「技や駆け引きが未熟だって言ってんのさ。アンタはただ速さに頼って突っ込んで槍を突き出すだけ。それが分かってりゃあ、後はタイミングを合わせるだけ。あの坊やも速さにも慣れてるみたいだったから、アンタの動きは読みやすかったんだろうさ」
事実、フロルは全てカウンターで対応していた。
それはアレンの方が速いと、フロルが捉えていたことを示している。
「まっすぐ槍を突き出して突っ込んでくるって分かってて、動きが追えるなら後出しでも対応出来る。それが技って奴さ」
「……」
「あの坊やのところも、本拠で毎日組手やらをやってるって噂を聞いたことがある。うちと違うのは馬鹿みたいに戦ってるだけじゃなくて、純粋に技を磨いてるんだろうね。でも、それ以上に――
「……考えてる?」
「どうすれば強くなれるのか、どうすれば勝てるのか、どうすれば生き残れるのかを、さ」
「んなことは俺だって――」
「まだまだ足りないねぇ。だって、アンタは自分とアーニャの事で頭一杯だろ?」
「っ……! それがなんだってんだ!」
「あの坊やは派閥の頭で、派閥内で一番強いと来てる。団員達も生かす為に、強くする為に、常に考えてるのさ。それに対して、アタシら【フレイヤ・ファミリア】はオラリオ最強と言われる派閥で、団員の層も経験も厚い。アンタは才能はあっても、結局のところただの新入りの団員でしかなく、探索だってオッタルや他の上級の連中とほとんど一緒だからねぇ。思ってるよりアンタは恵まれてんのさ」
「っ! 俺が、俺達が! 恵まれてるだと!?」
ミアの言葉に、アレンは感情が爆発する。
「あの坊やに比べたらって話さ。悔しかったら、アンタももっと考えな。今のままじゃ、結果は何度やっても変わらないし、あっという間に追い抜かれるよ」
「くっ……!」
ミアは背中でアレンの気配が揺れるのを感じながら、僅かに眉間に皺を寄せる。
(ゼウス追放の一端となったあの子の子供が、このクソッタレな街にとって新たな風となるか……。因果って奴なのか。それとも……冒険者の子は、結局冒険者なのかねぇ)
ミアは再び時代の変動の訪れを、予感していた。
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簡単キャラプロフィール!
・ヒジカタ・巴
所属:【スセリ・ファミリア】(元【アメノタヂカラオ・ファミリア】)
種族:ドワーフ
職業:冒険者
到達階層:19階層
武器:大刀、大太刀、刀、槍
所持金:57900ヴァリス
好きなもの:強者、武術、豚の味噌焼き、米
苦手なもの:パスタ、高身長の者(見上げると首が痛くなるから)
嫌いなもの:軟派者、女だと侮る者、コーヒー
装備
《甲冑・
・甲冑(極東風)
・正重作 価格120000ヴァリス(ヘファイストス談)
・波紋鋼、超硬金属で鍛えた超重量甲冑
・巴の体格に合わせて造られた甲冑。スキル使用を想定した超重量甲冑の為、フロルが着たら一歩目で倒れて立ち上がれないほど重い。正重の肩から飛び降りるだけでコボルトなど上層のモンスターであれば潰し倒せる
《鬼包丁・重角》
・二振りの大刀
・正重作 価格298000ヴァリス(ヘファイストス談)
・波紋鋼、超硬金属で鍛造された第三級武器
・まさしくその重量で叩き切る事を目的にした、これまた重量武器。と言っても、あくまで下級、第三級冒険者にとっての重量武器なので、第一級冒険者達であれば普通に持てる
極東よりやって来た小柄な女武者。
【朝廷】に仕える【アメノタヂカラヲ・ファミリア】に属する武家の生まれ。一族皆ドワーフで男性は全員武者だが、一番才能を有するのは巴だった。
小さい体でありながら鎧を身に纏った成人ドワーフをぶん投げたこともあるが、基本男尊女卑である武家一族では戦場に立つことは出来ず、その才を子供に引き継ぐことばかりを求められてきた。それにうんざりしていた巴を見かねた父が『外の世界を見てこい』と武者修行に旅立たせたのだが、実はこれは『お前より強い者などいくらでもいる。だから、諦めて家に嫁げ』と気付かせるためだったのだが、まさかの国を飛び出してオラリオに行ったことに、頭を抱えている事を本人はまだ知らない。
身長125㎝、16歳。
基本性格は武人。鍛錬し強くなることが目標。
だが根は田舎っ子なので、世界やオラリオなど物珍しい物、世界中から集まる人々にはリリッシュ並みに好奇心が刺激されている。だからこそ、オラリオを壊そうとし、人々を苦しめる闇派閥が許せない。
英雄譚も好きで、アーディと会話すれば一番気が合う可能性があるのだが、フロルとの恋路を邪魔しないようにしているので、まだその事実に気付いていない。
ツァオとはオラリオに来る途中で出会ったこともあり、2人だけで酒を飲むほど仲はいい。
正重とは武具の事はもちろん、極東の料理についても結構盛り上がる。結構コミュニケーション能力は高い。
ドットムのこともドワーフの先人としても尊敬している。……好みではない。
やはり極東のことは好きなので【スセリ・ファミリア】、極東の神の元に所属出来たのは嬉しく思っている。
更にフロルの事は、極東の英雄譚【一千童子】や【小さ子雷記】(拙作オリジナル英雄譚。元ネタは日本霊異記【
また団長としても『将』の器を感じさせてくれることから、いずれは【朝廷】にすらも影響を与える傑物になるのではと思っている。
屋敷にいる時は浴衣を着ている事が多く、さりげなくフロルから『座敷童みたい……』と思われている。
そう、意外とベルのパーティーはチートだった。春姫のチート、命の索敵、リリの匂い袋や判断、そして素材に金はかかるが無料で手に入る椿よりも優れているヴェルフの魔剣。……うん、ずるいよ。