【ライトニング・サムライ】~転生者はダンジョンで英雄になりたい~ 作:独身冒険者
派閥会合から2週間が経った。
結局は俺の案がほぼそのまま通った形。ギルドの大きな掲示板には巡回参加の
ちなみに巡回は6時間4交代制。基本報酬は一日10000ヴァリス。同じ冒険者の連続受注は禁止だが、1回分時間を開ければ再度受注できるので、最大一日20000ヴァリス稼げるってことだ。
高くはないけど、新人や上層で活動している派閥からすれば十分過ぎる金額だ。それにこれはあくまで基本報酬で、活動内容で報酬が追加される。……問題起こしたら減額もあるけどね。
でも、それじゃあ上級冒険者にはあまりにも安い。特に隊長を務めてくれる冒険者には。なので、特別手当で+60000ヴァリス。まぁ、それでも安いかもしれないけど、それは商業系ファミリアの割引で賄うって感じになった。
もちろん、俺達も例の闇派閥の動きがあるので巡回に参加している。流石に毎回毎日ではないけどな。
東地区は【ガネーシャ・ファミリア】がメインで隊長を引き受けてくれている。更に俺達は他の派閥からの嫉妬ややっかみの多いので、ガネーシャと俺達の身内で固めている感じ。アーディや【アストレア・ファミリア】の面々も時々ご一緒になるけどね。
しかし……全く闇派閥の姿も隠し通路が見つからない。ありがたい事に住民達も協力してくれているが、それでも影も形もない。
本当にここも狙ってるのか疑いたくなるほどに、何の痕跡も見つからない。
でも……それはそれで気味が悪い。
少なからずフィンさんが警戒すべきと挙げた場所だ。実は勘違いでしたなんて、あまり考えられない。
「まぁ、こっちが急に巡回の人数増やしたかんな。向こうも警戒してんだろうさ」
ドットムさんが汗を拭いながら、俺の疑問に答えてくれる。
……だといいけど。
ちなみにこの今はLv.1組が巡回に出てるから、残りの面々は本拠で不測の事態に備えて待機という名の組手。
待機の意味がない気がするけど、もうこれが俺達の当たり前なのでツッコむ気にもなりません。
そう言えば、どうでもいいことだけど。
少し前にリディスさんが1人で本拠にやって来て、中庭でスセリ様に見事な土下座を披露した。
「ゴメンナサイもうしません調子乗ってました大人しくしますだからまだヘルメス様すり潰さないでください申し訳ありませんでした!!」
息継ぎなく長文言い切ってたよ。
それを、眉間に皺を寄せ、眉を吊り上げて目を閉じ、腕を組んで仁王立ちしていたスセリ様は、盛大にため息を吐いて、
「はぁ〜〜……まぁ、我が愛し子から聞いた限りでは、ヘルメスの意向と言うよりも、お主の好奇心故といった感じであったらしいしの。今の言葉にも嘘はない。して……此度は本当にヘルメスの指示ではないんじゃな?」
「違います! あの人はここ最近はスセリヒメ様の名前が出るだけで顔真っ青で震えるくらい怖がってました! だからあの人が心底震える女神の眷属ってどんな子かなって興味を持っただけです!」
いや、どっちにしろ碌な理由じゃねぇな。この人も神ヘルメスと大差ないんじゃないか?
「………嘘ではないようじゃが……
スセリ様の言葉にビグッと肩が跳ねるリディスさん。
あぁ……うん。やっぱり興味以上の狙いはあったのね。
「ふん……あ奴の眷属だけはある。妾達神への本音の隠し方は熟知しておるか」
「あ、あははは……」
「まぁ、良いじゃろう。先日の件に関しては、お前は見逃してやる」
「……私は、ですか?」
「当然であろう。眷属の失態は主神に責任を取って貰うのが一番手っ取り早い」
「い、いえ! で、ですからですね!?」
慌てて立ち上がってスセリ様に弁解を続けようとするリディスさん。
その瞬間、スセリ様の目が細まり、
「――ところで」
そう呟いたスセリ様は意識の隙を突いて、素早く滑らかにリディスさんに詰め寄って胸元を両手で掴む。
「――へ?」
「ふん」
そして、背負い投げた。
「のわああああああ!? くげぇ!?」
リディスさんは受け身も取れずに――いや、取らさせてもらえずに後頭部から地面に叩きつけられる。
うわぁ……あれは痛い。
「伺いも無しに此処に来た事は――許しておらんぞ」
スセリ様は冷たく言い放ち、胸元を掴んだままリディスさんを更に放り投げた。
「ぶべっ!?」
「巴。そ奴を放り出せ」
「御意」
スセリ様の命に巴はまさに忠臣が如くすぐさま動き、リディスさんの襟元を掴んで引き摺って門へと向かう。――うつ伏せで。
「いダダダって!? ちょっ――」
「ヘルメスに伝えておけ、小娘。――顔を洗って待っておれとな」
「い、いや! ですからダダダッ!? 許してえええええ!!」
そのまま本当に、巴から全力で門から放り投げ出されたリディスさんを俺達は見送った。
「まぁ……やっぱり謝罪を言い分にこっちの本拠を探ろうとしたんですかね?」
「そんなところじゃろうな。全く、余計な時間を取らせよって」
「で、そのヘルメスとかいう神はどうすんだ?」
「流石に【ヘルメス・ファミリア】との抗争はギルドやガネーシャ達もいい顔しないと思うねぇ。そうだろ?」
「まぁな。確かにあそこは神も含めて胡散臭ぇし、派閥も力があるわけじゃねぇが、裏方として昔からゼウスやギルド、儂等ガネーシャに貢献してきてるからな」
「妾とて流石にこの状況でやり合う気はないわい。とりあえず、奴の苛つく顔面に12、3発拳を叩き込みたいだけじゃ」
いやいやいや、死んじゃう死んじゃう。
せめて5発くらいにしといてください。
「それでも十分送還される気がするのですが……」
「アンタもなんだかんだムカついてるんだねぇ……」
って感じで、お引き取り願ったわけだが。
その直後に――神ヘルメスはオラリオを離れたそうだ。
逃げやがったな?
馬鹿な神だな。――そんな逃げ方したらスセリ様の怒りを煽るだけだろうに。
「くくくっ! いい度胸じゃなぁ、ヘルメスぅ。帰って来たら――覚えておれよ?」
と、殺気全開のスセリ様を宥めるために俺は3日間も抱き枕にされたんだぞ。
俺も絶! 対! に神ヘルメスは許さんし逃がさん。覚えとけよ?
という事で、神ヘルメスに報復を誓った俺なのであったが、探しに行けるわけもないので探索、待機(組手)、巡回、スセリ様の相手となんだかんだで慌ただしいような普通のような日々を過ごしていた。
最近は闇派閥も大人しくしている。
住民達は巡回のおかげだと喜んでいるけど……そんなわけないよなぁ。
「まぁ、例の大侵攻に向けて戦力を温存しとるのであろうな」
「ですよね……う~ん……」
「どうしたんだい?」
「何か気になっている?」
組手の休憩中。
スセリ様の言葉に頷くも、なんか気持ち悪いというか、違和感のようなものを感じて首を捻ってしまう。
それに汗を拭いていたハルハとツァオが首を傾げる。
「なんか……違和感と言うか……気持ち悪いんだよなぁ……」
「闇派閥の動きが?」
「ああ……」
「でも、【勇者】は何も言ってなかったんだろ? それに、今の流れ作ったのってアンタだって話じゃないか」
「あれはあくまでフィンさんから聞いた話から推測しただけだし、あの時初めて詳しい情報を聞いたからな。でも……最近の奴らの動き方とか見てると……なんかちょっとスッキリしないんだよ。何か見落としてる気がしてならない」
大侵攻、大規模襲撃があるかもってのは間違いないと思う。そこは疑っていない。
狙いが戦力の分散と固定ってのも、そう的外れじゃないとも思う。流石に【ロキ・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】に匹敵する戦力がいないと言うのはどうか分からないけど。
じゃあ、一体俺は何が気持ち悪いんだ?
「……奴らの狙いがバベルってのが違う?」
これも俺が呟いたことだけど。でも、一番疑問を感じるのはここだ。
「ふむ……つまり、妾達の意識をバベルやダンジョンに向ける事もまた、闇派閥の仕掛けた罠ということかの?」
「……かも、しれません」
「だがよ、バベルを狙う可能性だって十分にあり得るだろ?」
「そうなんだけど……なんて言うのか……
「……あん?」
「確かに会合ではバベルやダンジョンの入り口を襲われたら、ダンジョン探索が出来なくなって魔石も手に入らなくなって色々問題が起こるって言ったけど……。でも、それって逆に言えば、
「……ふむ、確かにの。バベルを襲えば、フレイヤは間違いなく本格的に動くじゃろうし、これまではあまり乗り気でなかった他の神共も黙ってはおるまい。ダンジョンを押さえれば、フロルの言う通り邪魔者の殲滅に集中出来る時間を得る事にもなる……。確かにそこまでするのであれば、連中もまさに決戦覚悟でなければ割に合わんか」
「ですよね」
そうなんだよ。そこまでするってことは、やっぱり闇派閥には誰かしら切り札がいるって事じゃないのか?
……それがこの気持ち悪さの理由か? ……これも違う気がする。
でも、それが何か分かれば苦労はしないよな。フィンさんだって、それが分かってればとっくの昔に言ってるはず。
う~ん……どうしたもんか。
「こりゃフロル。今出ぬ答えに捕らわれるでない。情報が足らぬ事をいくら考えても、答えに辿り着けるわけなかろう」
「そう、ですね」
「今はそれこそ情報収集と鍛錬に集中せんか。そろそろステイタスも頭打ちになってくるのじゃぞ」
「はい……」
と言っても、十分伸びてると言えば伸びてるんだけどね。
フロル・ベルム
Lv.2
力 :B 763 → A 802
耐久:B 711 → B 752
器用:A 802 → A 829
敏捷:A 888 → S 931
魔力:D 595 → C 699
狩人:I
ヒューマンとしてはかなりいい感じじゃない?
「やれやれ……ランクアップして1年足らずで、能力値頭打ちになりそうってどんだけなんだい……」
「こりゃあ、他の連中が嫉妬すんのも当然だな……(コイツ……本当にあの【静寂】に匹敵する才能を持ってやがんのか?)」
「うむ」
「だからこその団長」
やめて、ツァオ。
褒められても、私はこれ以上そう簡単に強くなれません。
でも実際のところ、どうしたもんかねぇ。
今ある手札で何か考えるとなると……やっぱり魔法と何かって感じになるか。
【パナギア・ケルヴノス】は付与魔法の中でもかなり操作性が幅広い方だと思う。雷を放出出来るし、身体に流している雷も全身ではなく、部位に集中することも出来る。そして、正重が打ってくれた刀を始めとする武具。雷耐性があり、雷を流しても耐えてくれるのは間違いなく手札になるはずだ。
ここら辺がヒントになるんだろうな。
……というか、まぁ……前世の記憶を参考にすれば思いつかなくはない。
雷って人気属性だったしな。
魔法を扱う以上考え続けるのは大事だよな。
幸いリリッシュにも色々と俺の魔法について考察を共有してるから、技を作れるとは思うけどさ。
……この世界ってあんまり必殺技の美学って広まってないんだよな~。
ベルとアイズくらいじゃなかったか? 魔法でもスキルでもない技名叫ぶ人。……あ、ヤマト・命達【タケミカヅチ・ファミリア】がいたか。……同じ極東系派閥だし、似た境遇だし、行ける? ……今その誰もいないから、俺が先駆者みたいになりそうだけど……。
まぁ、俺も憧れがないわけがないので、別に良いけどさ。
休憩も十分に取れたし、試してみますかね。
「ちょっと1人で色々考える」
「あいよ」
「おう」
「「うむ」」
さぁ――技名どんなのにしよ?
………
……
…
さて翌日。
今日は数日振りのダンジョン探索です。
「で、なんか面白ぇの思い付いたのか?」
16階層に下りたところでドットムさんが唐突に問いかけて来た。
ハルハ達も俺を見る。ハルハ達も俺がなんか技を練ろうとしてるのは知ってるからな。アワラン達もハルハ達から聞いたようだ。
「まぁ……いくつか。ありきたりだと思うけどね」
「ほぉう。一つどころか複数か。もう形にはしたのかよ?」
「完全には試してないな。構想と型みたいなのはスセリ様に伝えて見せてみたけど」
「反応は?」
「………呆れられた」
「「「はぁ?」」」
ハルハ、アワラン、ドットムさんが訝しみ、残りの面々は首を傾げる。
「呆れられたとは如何に?」
「『数時間足らずでそんな物を1人で考えてくるでない。――泣きついてくるかと待ち構えておった妾が哀れではないか』って」
「拗ねただけじゃないか」
「いや、しかしスセリヒメ様に『そんな物』と言わせる程の技という事では?」
「うむ」
そんな大層なもんじゃないと思うんだけどなぁ。
『『『『ヴモオオオオオ!!』』』』
そこにミノタウロスの群れが現れた。
「お。ちょうどいいところに来たな。おい坊主、あいつらで試してみろ」
簡単に言ってくれるぅ。
まぁでも、どこかで試さないといけないのは確かだしな。しょうがないか。
俺は小さくため息を吐いて、ゆっくりと前に出る。
ミノタウロス達も俺に気付いて、咆哮を上げて一斉に俺に襲い掛かろうと走り出す。
「――【鳴神を此処に】」
魔法を発動して雷を纏う。
その直後、ミノタウロスの群れの先頭に、居合の構えを取りながら一瞬で詰め寄る。
詰め寄ると同時に雷を纏う居合を抜き放って、ミノタウロスの胴体を一閃する。
「『
一条の紫雷閃が暗い迷宮の通路を奔り、ミノタウロスは血を噴き出す事無く灰に戻る。
刀を振り抜いた俺は、すぐさま刺突を構え、
「『
雷の槍が如く、豪速で前方に突きを放ちながら突進。
群れの合間を縫って、倒した個体から数体奥にいたミノタウロスの鳩尾を貫くと同時に雷を一瞬放って孔を広げる。
灰になる事を確認することなく、右手で掴んでいた柄から手を放し、高速で身を翻して左手で柄を逆手に掴む。
「『
背後から襲おうと囲むように襲ってきていたミノタウロスの群れを見据え、雷を刀身を伸ばすように放出して全力で回転しながら薙ぐ。
周囲のミノタウロスを一掃し、全てのミノタウロスが灰へと化す。
他にモンスターがいない事を確認して、魔法を解除し刀を納める。
「ふぅ……」
まぁ、なんてことはない。ただ剣術に魔法を組み込んで、超高速で動くだけだ。
ただ雷を無造作に身体や武器に流すのではなく、攻撃と移動を最高速度でスムーズに繋げられるように意識的に部位を選んで雷を流す。それによってスピードが上がることも確認してる。
求められる集中力と判断力は半端ないけどな……。疲労感半端ない。
他にも考えてる技があるけど、今は移動を優先だな。
「坊主……お前、そりゃあスセリヒメ様に呆れられるに決まってんだろうが」
歩み寄ってきたドットムさんがスセリ様のように呆れていた。
「凄かったとは思うけどよ。そこまで言う程だったか?」
「いつもの動きに魔法が加わっただけのように思える」
アワランとリリッシュが素直な感想を口にする。
ぶっちゃけ俺もそこまで凄いと思ってないので、怒る気はない。
「だから素晴らしいのです」
そこにディムルが少し興奮気味に口を開く。いや、ホントに珍しいくらいにちょっと興奮してるよ。
「名を付けるほどの技となると、多くの者がそれ特有の動きを作る事が多いのです。特別な技だからこそ、基本的には決め技として使われるため、前後の動きが途切れやすいのです」
「それ故に威力などはあれど、単発単純な動きとなり易く、タイミングや動きを見切られやすい。しかし、今の団長殿の技は、リリッシュ殿が言われた通りに普段の剣術が基礎となっておられるため、技と技を繋げることが出来、また相手の動きに合わせて変化させることが出来るのです」
「それはつまり普通の攻撃なのか、技なのか、見切りにくくさせる事が出来、更に普段の動きと変わらない為に余計な力みが入らない。これは武術では、長い時間をかけて己が型を技として昇華させる『奥義』と呼ばれるものと同じ」
「とまぁ、本来なら長い時間をかけて積み重ねた修練と経験で生まれるもんだが、坊主はそれを魔法を使って作り上げちまったってわけだ。まぁ、魔法を使ってっから区別はつくだろうが……それでもありゃ間違いなく、やられた方は防ぎ辛ぇだろうぜ」
ディムル、巴、ツァオ、ドットムさんの言葉に、リリッシュや正重は納得の表情ど頷いていた。
「なるほどねぇ……確かにあれは使われたらアタシは手も足も出なさそうだね。さっきの、普段の魔法を使ってる時より速くなってたようだしさ」
「げっ、マジ?」
「なってたな。纏ってた雷もいつもより放出量が少なかったから、坊主が意図的に流し方を操作したって事だろうな」
今のだけで完璧に分析しないで頂けませんかね!?
「しっかし、お前さんの魔法は自由度が高ぇなぁ。普通の付与魔法はそこまでの自在じゃねぇはずなんだが」
「
「まぁ、その類には入るだろうな」
確かに俺の雷はアイズの『風』程ではないだろうが、引けを取らないレベルの操作性がある。
でも、確かアイズの魔法は精霊の血を引いているからって話だったはず。俺にはそんな特別な血統はない……はずだ。いや、両親以外の親族を知らんから、先祖にいた可能性は否定せんけどもだ。それだったら、両親ももっと目立ってるはず。……いや、待てよ。確か魔剣鍛冶貴族のヴェルフ・クロッゾは確か数代ぶりに魔剣製造スキルが発現してたな。
でも、俺の魔法はテルリアさんの魔法に影響を受けているはずだ……多分。まぁ、俺の前世も関係してるのかもしれないな。
「とりあえず、坊主。あんまり頼り過ぎんなよ」
「分かってるさ。
「普通であれば舞い上がるところだろうに。本当に子供っぽくないねぇ、アンタ」
「うっさい」
命が懸かってる場所でヘマ出来るか。……ベルは魔法が発現してやらかしてたけどね。
まだまだ頑張らないとなぁ。
雷の居合はどうやっても『霹靂一閃』になってしまいますねぇ(-_-;)
あまりド派手ではないですが、フロルの必殺技の真価はまだ発揮されておりませんので、今後のお楽しみに