【ライトニング・サムライ】~転生者はダンジョンで英雄になりたい~   作:独身冒険者

49 / 68
お待たせしました

さぁ、今章クライマックスに入り――胸糞展開です


踏み躙られる尊厳と闇の罠

 時刻は昼過ぎ。

 

 俺達はシャクティさん達と合流し、ジャマンナ商会の倉庫兼住居近くの空き家に路地裏の裏口から入る。

 

「あ、フロル~」

 

 装備を整えたアーディがヒラヒラと笑顔で手を振って挨拶してくれる。

 

 緊張感ぶっ壊したなキミ。

 

 新人も連れて来るって言ってたから、来るかもなって思ってたけど。

 隣でシャクティさんが青筋浮かべてるぞ?

 

「突入組なんでしょ? 無理しちゃ駄目だよ?」

 

「アーディ達もな」

 

 正重やアーディ達は地下に敵を入らせないようにしないといけないから、その場から離れられない。

 しかも、最悪地下から逃げて出して来た敵に背後から襲われる可能性もある。十分危険な任務だ。

 

 窓から見えるジャマンナ商会の倉庫は正直思ったより大きかった。

 冒険者通りにある【ヘファイストス・ファミリア】の支店より一回り小さいくらい。まぁ、普通の商品も保管してあるし、輸入系の商会だから住んでいる人も多いんだろうな。国所属だし、そこそこ国から支援を受けてる大きな商会なんだろうな。

 

「用意はいいか?」

 

 シャクティさんの確認に、俺を始めとする全員が頷く。 

 

 ちなみに俺は腰に脇差二振り、背中に刀を差している。

 

「突入したら、地下突入組は一気に地下への出入り口を確保する。周囲の敵は待機組に任せる。無理に捕らえる必要はない。最悪商会の長だけ捕らえられれば構わん。それも無理ならば奴隷だけでも保護出来れば十分だ。絶対に単独行動は控え、逃げた者は放置しろ」

 

 改めて告げられた注意点に、これまた全員が頷く。

 

 こういう確認はくどい位が丁度いい。

 

「では――行くぞ!」

 

 号令と同時にシャクティさんが最初に飛び出して、その後に地下突入組の俺達が続く。

 

 流石は【ガネーシャ・ファミリア】の精鋭組。俺やハルハ達はあっという間に距離を開けられた。

 多分、最低限の露払いをしてくれるつもりなんだろうけどさ。

 

 5秒とかからず、建物の両開きになっている正面入り口の前に移動したシャクティさんは、

 

「ふっ!!」

 

 左掌底を叩き込んで扉を粉砕した。

 

「【鳴神を此処に】」

 

 俺は魔法を発動して、超スピードでシャクティさん達の真上を跳び越えて倉庫内に突入し、驚きに目を見開いて固まっている店員達の間を縫い、地下への出入り口があるとされる床へと一気に迫る。

 

「はああ!!」 

 

 脇差を抜き放ちながら雷を放ち、床へと叩き込む。

 隠し扉が跳ね上がって吹き飛び、地下への階段が出現する。幅は俺が2人ギリギリ並んで通れるかどうかって感じ。成人は並べないだろうし、正重はギリギリかもしれない。

 

 隠し通路は石垣で造られていた。

 扉が吹き飛んで風が一気に中に流れ込み、その直後――何かが腐ったような臭いと……糞尿と血の臭いが鼻に届いた。

 

「っ……!!」

 

 間違いなく……誰かが閉じ込められている。

 

「【ガネーシャ・ファミリア】だ!! これよりギルドの指令の元、強制捜査を行う!! 全員その場から動くな!! 動けば最悪命の保証は出来ん!!」

 

 シャクティさんの怒号に店員達は顔を真っ青にして動きを止める。

 

 その隙に【ガネーシャ・ファミリア】の上級冒険者2人が入り口を固め、残りの面々は俺の傍に駆け寄ってくる。ガネーシャの新人達が一階倉庫にいた店員達を一か所に集める。

 

「情報通りのようだな」

 

「……酷い臭い」

 

「ちっ……くそったれ」

 

 誰もが隠し通路から漂ってくる悪臭に顔を歪め、その奥にあるであろう光景を想像して顔を顰める。

 

 でも、気になる事もある。

 

「入り口を隠してなかったのが気になるな……」

 

「確かにな」

 

「オイ、そこの連中。今、地下には誰がいんだ?」

 

 俺とシャクティさんの言葉に、ドットムさんが集められた店員達を鋭く睨みながら訊ねる。

 

「ち、ちちち、地下には、今会長と護衛の人達が……」

 

「だとよ」

 

「……運がいいのか、罠なのか」

 

「ここまで来たら行くしかねぇだろ。早く行こうぜ! ここでグズグズしてる間に下に閉じ込められてる奴らが殺されちまう!!」

 

 拳を掌に叩きつけて急かすアワラン。

 確かにそうなんだが、ここは敵地。衝動的な動きは皆を危険に晒す。

 

 俺はシャクティさんに視線を向け、シャクティさんも俺と視線を合わせて頷く。

 

「では突入する。もう一度言っておくが、ここから先は奴らの要だ。決して無闇に飛び出すな! 行くぞ!!」

 

 シャクティさんを先頭に俺達がその後ろに続き、殿にガネーシャ派閥の精鋭。

 ドットムさんやアーディ達は一階で待機。

 

 階段を下りれば下りるほどに空気が澱み、臭いもあり息がし辛くなってくる。

 

 そして、俺達は気付いてしまった。

 

「これは……!」

 

「血の臭いが強すぎんだろ……! 今出血してる奴がいるぞ!!」

 

「胸糞悪いねぇ……!」

 

 このタイミングで、出血するとか奴隷しかいないじゃないか! くそっ!!

 

 スピードを少しだけ速め、奇襲や罠に警戒しながら駆け下りる。

 

 そして、数分とかからずに階段が終わり、薄暗い通路へと入る。

 もはや鼻は完全に麻痺してる。いや、()()()()()()()()耐えられないんだ。――怒りが抑えられなくなりそうで。

 

 薄暗い通路なのに、どこに目を向けても固まった血液と思われる黒いシミがあり……骨が転がっている。

 

 一体何年……どれだけの人が……!

 

 噴き出しそうになる感情を押さえながら奥に視線を向ける。

  

「……思ったより、広そうですね」

 

「ああ。どうやら周囲の建物の下にも及んでいるようだな」

 

「隠し通路とかありそうだねぇ」

 

「秘密裏に奴隷を運び出す事も考えてるでしょうから、可能性は高いでしょう」

 

「未だに目立った反応がない事から、すでに逃げ出している可能性は高い。……色々と処分されている可能性もな」

 

 奴隷達の口封じ、か……。

 それが終わり次第、すぐに逃げ出せるようにしてる……。確かに合理的ではある。滅茶苦茶胸糞悪いけどな!

 

 奥に鉄製の大扉があり、それをまたシャクティさん達が殴って破壊する。

 

 中に入ると広い部屋の左右に檻があり、左手に女性、右手が男性と言った感じに分けられていた。

 

 だが、俺達の目に映ったのは――檻の前で血溜まりの上に倒れているボロ布を着たエルフの男性と、

 

「兄上! 兄上ぇ!! 嫌です!! 兄上ええ!!!」

 

 檻の中からエルフ男性に向かって腕を突き出して泣き叫んでいるエルフの少女の姿だった。

 

 ……間に合わなかった。あの人は……もう息をしていない。

 

 エルフ男性のすぐ傍には、ヒョロガリでチョビ髭の男と護衛と思われる屈強そうなヒューマン2人と犬人2人。

 

「なっ!? だ、誰だ!?」

 

「ガ、【ガネーシャ・ファミリア】……!? 何でここに!?」

 

「逃げ出していなかったとは、随分と腐った根性をしている。まぁ……お楽しみに熱中していたからのようだが」

 

 驚く連中に、シャクティさんが顔を顰めて不快感を隠さずに言い放つ。

 

「ジャマンナ商会会長、ガーガス・ジャマンナ。誘拐及び違法な人身売買、そして無申請無許可での人員搬入の容疑で身柄を拘束させてもらう。無駄な抵抗はやめておけ」

 

「ぐっ……! このような事で……!」

 

 シャクティさんの宣告に、チョビ髭の男が悔し気に歯噛みする。

 

 檻に入れられた人達はどう見てもまともな扱いをされておらず、首輪や手錠を嵌められている時点で無理矢理連れてこられたのは疑うまでもない。

 

 そして、今目の前にある光景や先程までの通路などの状態を考えれば――もう、我慢する必要はないな。

 

「【鳴神を此処に】」

 

 魔法を発動し、同時に飛び出して一瞬でガーガスの眼前に迫り、そのムカつく鼻っ面に拳を叩き込んだ。

 

「ぷげら゛!?」

 

 ガーガスは鼻血を噴き出しながら吹っ飛んで、背中から壁に叩きつけられて崩れ落ちる。

 

 ……なんだ? なんか違和感が……いや、今はいい。

 俺は亡くなってしまった男性エルフを超スピードで抱き抱えて、泣き崩れているエルフ少女の前に寝かせる。

 

「あ……」

 

 泣き腫らした目で唖然と俺を見るエルフ少女。両手は檻をずっと全力で握っていたようで、掌が真っ赤で出血もしてる。それに兄を呼び続けたりして何度も何度も叩いたんだろう、小指側からも血が出て痣が出来ている。手錠をされている手首も同様に血が出て、赤く腫れている。

 彼女の背後にいる女性達も憔悴しきっており……中には顔中痣だらけで横たわっており、呼吸が浅く意識が朦朧としてる人がいる。

 

 男性側の牢屋なんてもっと悲惨だ。怪我をしていない人を見つける事の方が難しいし……牢屋の端で明らかに息をしていない人が2人、横たわられている。本当に商品として売る気があったのか疑いたくなるほどに。

 

 どうして人間は……他人にここまで残酷で外道になれるんだろう。ただ殺すだけのモンスターの方が、よっぽど優しい生き物に思えてきてしまう。

 

 テルリアさん。俺は……本当に誰かを救う事が、出来るんだろうか。

 

「……間に合わなくて、すまない」

 

 謝罪した俺は立ち上がって、護衛の男達に向く。

 

「か、会長……!」

 

「……【迅雷童子】」

 

 シャクティさんが呆れの視線を向けて来るが無視だ、無視。

 

「ったく……こういう時はホントに手が早いねぇ。まぁ、スカッとしたけどさ」

 

「はははっ! いいじゃねぇか! クソ野郎を逃がすよりよっぽどマシだぜ!!」

 

「これで頭は押さえました。後は、彼の仇を取るだけでしょう」

 

 ハルハ達の言葉に小さく頷いて、俺は脇差を抜く。

 

「そいつを助けようとしてみろ。触れる前に腕を斬り落とす。檻の中の人達を人質にしようとも思うな。その時は――首を刎ねる」

 

 欲望と快楽の為に人を殺したお前らに、容赦する必要はない。

 

 俺の脅しに護衛達は顔を青くして、視線を彷徨わせる。

 

 俺の速さは今見たばかりだからな。対処が出来そうにないんだろう。

 感じる気配的にコイツらはLv.2だ。しかも、多分戦闘経験も技術もディムルより下だ。

 

 俺達だけでも問題なく倒せるだ――

 

「……ぐっ……!」

 

 ガーガスが顔を押さえながら起き上がった。

 

「なっ……!?」

 

「「会長!?」」

 

 俺は驚きに目を丸くし、護衛達も、そしてシャクティさん達も瞠目する。

 

「なんだと?」

 

「あんなヒョロヒョロ野郎がフロルの攻撃を喰らって起き上がっただぁ?」

 

「そんな馬鹿な……! 団長は魔法まで使っていたのですよ!?」

 

 そうだ。俺の【パナギア・ケルヴノス】は攻撃した相手に微弱ではあるが電流を流す。

 冒険者相手であれば少し痺れる程度だが、恩恵を持っていない一般人であればスタンガンレベルと変わらないはずだ。しかも、さっきは意識して電流を流した。

 一般人なら、まず間違いなく気絶してしばらくは起きないはずなのに……。

 

「……【象神の杖(アンクーシャ)】。アイツが恩恵持ちである可能性は?」

 

「ありえん。そこは我々とギルドがオラリオに入る度に確認している」

 

「ステイタスがロックされてたんじゃないのかい?」

 

「他国所属の商人は抜き打ちで押収した『開錠薬(ステイタス・シーフ)』を使って確認している。奴は2週間前に確認し、その時は白だ。その後に恩恵を得たとしても、たった2週間で【迅雷童子】の雷撃に耐えられるわけがない」

 

 護衛の男共も驚いてる。流石に護衛にまで恩恵を隠す理由はないだろう。だから、シャクティさんの言葉は嘘ではないはず。

 ……これがさっきの違和感の正体か?

 

 ……いや、待て。

 

 

 何でコイツ、服が全く汚れていない?

 

 

 顔も鼻が赤く、鼻血が出ているが……床の落ちる血の広がり方が少しおかしい気がするし、服にこんな汚い床に倒れたら付くはずの汚れも、電撃による焦げもないのは流石におかしいだろ。

 そこは恩恵がどうとか関係ない。

 

 コイツ、変だ。

 

「【鳴神を此処に】!」

 

 再び魔法を発動して、一瞬で奴の背後に回り込みながら背中に雷撃を一瞬だけ放つ。

 

 バヂンッ!と雷が弾ける音が響く。

 背中に雷撃を浴びせられたガーガスは……全く堪える気配はなかった。

 

 やっぱり!

 

「コイツ! 人間じゃない!」

 

「はぁ!?」

 

「どういう事だ?」

 

「雷撃を放ったのに効いてないし、服や体が焦げる様子もない! 何かがおかしい!」

 

 なんだ? 何が起きている?

 

「おのれぇ……! 小僧! このガーガスに手を出してただで済むと思ぶげぱっごぼ!?」

 

 ガーガスはそんな俺達の会話なんて聞いていないかのように、怒りに叫びながら立ちあがろうとする。

 だが俺はガーガスの顔に蹴りを叩き込み、奴はその勢いのまま顔面を壁にぶつけてまた崩れ落ちた。

 ……やっぱり。なんだ? なんか感触に違和感がある。

 

 俺は魔法を発動したまま、完全に混乱して固まっている護衛のヒューマンに雷撃を放つ。

 

「なっ、ぎゃがばばば!?」

 

 雷撃は男の身体を痺れさせて焼く。

 男は身体や口から煙を噴き出しながら白目を剥いて仰向けに倒れる。

 

 そうだよな。普通はこうなる。

 

「……なるほど。確かに様子が違うようだ」

 

「ええ。雷撃だけでなく、打撃の感触も何か違和感があります」

 

「気にはなるが、まずは全員制圧する! かかれ!」

 

 シャクティさんの号令にハルハ達も飛び出して、護衛達はあっという間に拘束される。

 ガーガスも一緒に拘束するが……。

 

「普通に拘束出来ましたね……」

 

「ああ。だが確かに何か違和感を覚える」

 

 ディムルやガネーシャ派閥の人達が捕まっている人達を解放し、身体の状態を確認している間に、俺やシャクティさん、ハルハにアワランはガーガスを改めて観察していた。

 

 普通に縄で縛れた。でもやっぱり何か触れた感触がちょっと違う気がするんだよ。

 でも、その違和感の正体が分からない。

 

 そして――またすぐに意識を取り戻した。

 

「解け! 私に手を出せば、タダでは済まんぞ!!」

 

「……なんでこの状況で強がれるんだよ」

 

 アワランが呆れ、ハルハや俺も同意するが……これも違和感を感じる。

 

「この件はすでにギルドも承知し、貴様の捕縛も認められている。もはやオラリオに貴様の居場所はない。それとも闇派閥の所にでも逃げ込むか?」

 

「黙れ! 私は罪に問われるような事などしておらぬわ! 私は居場所を失くして野垂れ死ぬだけだった連中を拾ってやっただけだ! 感謝される事はあっても、責められる謂れはないわ!」

 

「……殺され、殺されかけたのに感謝だって?」

 

「何がおかしい!? そ奴らは私が買った! 私の所有物だ! 私の物をどうしようが関係あるまい!」

 

「あぁん!? 人の命が物だと!? 舐めてんのかテメェ!!」

 

「そんな家畜同然の連中が人だと!? 笑わせるな!」

 

「……もういい。それ以上口を開くな。今更何を言おうと、貴様の辿る未来は変わらん」

 

 コイツはやっぱり普通じゃない。話すだけ無駄だろう。

 

 全員がそう思った、直後――異変が起こった。

 

………

……

 

 時は少し遡り……。

 

 フロル達が地下に突入してから数分。

 

 正重やツァオ達は地下への入り口周囲で警戒を続けていた。

 

「ドットムさん! この建物にいた連中は全員拘束しました! 商会長やその護衛はやはり地下に。それ以外の幹部達は1人を除いて確保出来ました!」

 

「おう、ご苦労さん。その1人ってのは?」

 

「副会長です。どうやら一般の商品の商談に向かったようで」

 

「そうか。なら、そっちは後回しでもいいか。どうせここで証拠を握れば終わりだ」

 

「そうですね」

 

 そのすぐ傍では、

 

「へー! 巴さんも英雄譚良く読むんだ!」

 

「そうですな。やはり一武人として、かの英雄達の活躍は手に汗握りますな」

 

 と、アーディと巴が和気藹々としていた。

 

「おい、そこの小娘共。作戦中に余計な私語すんじゃねぇ」

 

「は~い」

 

「すみませぬ」

 

「ったく……一応こいつらは闇派閥と繋がってんだ。気を抜くなよ」

 

「分かって――」

 

「誰か上がってくる」

 

 地下への入り口を鋭く見据えるツァオの言葉に、場の空気が一瞬で引き締まる。

 

「数は分かるか?」

 

「匂いは1つ。追ってるような匂いはない」

 

「じゃあ逃げ出した奴とかじゃねぇか……。一応距離を取れ! 油断すんなよ!」

 

 ドットムの号令に、全員が迅速に動いて地下の出入り口から距離を取り、武具を構えるか柄を握る。

 

 そして、出てきたのは――シャクティ達と共に地下に下りた【ガネーシャ・ファミリア】のヒューマンの男だった。

 

「オグール? どうした! 何かあったのか!?」

 

「奴隷達を発見したが、商会長は地下通路から逃走した! 団長達は護衛とまだ戦ってる! 俺は団長の命令で【ディアンケヒト・ファミリア】に応援を呼びに行――」

 

 

 その時、ツァオが突然、右腕を大盾を構えて地下出入口の左側に向かって突撃した。

 

 

 突然のツァオの奇行に全員が目を丸くする。

 

 ツァオは足を止めると鋭い目つきで周囲を見渡し始める。

 

「ツァオ殿? どうされた」

 

 

「その者は偽物。他にもう1人、見えない者がいる」

 

 

『!!?』

 

 ツァオの言葉に再び全員が驚きを露わにする。

 

「ホントか!?」

 

「馬鹿な! コイツは確かにオグールだぞ!?」

 

「臭いが動いている。()()()血と腐った肉の臭い。しかし、その者からは()()()()()()()()

 

「臭い?」

 

「獣人でもない者でも地下から漂う臭いが分かった。普通であれば、その地下に入った者なら嫌でもその臭いが付くはず。それに汗や服に身に付いた臭いも普通はする。でも、その者からはその臭いすらしない。突入前はあった臭いすら消える等あり得ない」

 

「……なるほど」

 

「しかし、その者と一緒に別の臭いが出てきた。その臭いはまるで生き物みたいに動いているのに、姿が視えない」

 

「その臭いがオグールのものではないと断言できるのか!?」

 

「その者が陰で人殺しを嗜んでなければ」

 

「「「!?」」」

 

「現れた臭いは()()()()。直接血を浴び、少なくとも数時間以上死体の傍にいなければ、こんな強烈な臭いはしない」

 

 ツァオは話しながらも、鼻をピクピクとひくつかせる。

 そして、臭いを追うように顔を動かし、見えない何かを見据えるように視線を動かす。

 

 ツァオの言葉に【ガネーシャ・ファミリア】の者達は戸惑い、動くに動けなかったが、

 

「ハアアア!!」

 

 巴がツァオの視線を先回りするように大刀を薙ぐ。

 

 それを理解していたようにツァオが飛び出して、突撃盾(シールドバッシュ)を放ち、更に正重がツァオの右側に続いて拳を振るった。

 

 巴の大刀が床を砕き、正重の拳は空を切り、ツァオの突撃(チャージ)も空振ったかのように思えたが――。

 

 

ガワアァン!!

 

 

ガァン!

 

 

 何かがツァオの盾にぶつかったような金属音が響き、直後にツァオの正面にあった木箱が独りでに砕けて、中身が零れる。

 

「あっ!!」

 

「流石ツァオ殿。お見事でござりますな」

 

「うむ」

 

 アーディが驚きに声を上げ、巴と正重は当然とばかりにツァオを褒め称えながら油断なく構える。

 しかし、ツァオは右腕の盾を怪訝な顔で見つめていた。

 

「……おかしい」

 

「どうしたの?」

 

「音はした。しかし、()()()()()()()()()()()

 

「なんだと? 確かに音がしたのにか?」 

 

 ドットムが片眉を吊り上げ、ツァオは眉を顰めたまま頷く。

 

 そこにずっと黙っていたリリッシュが口を開いた。

 

「音はしたけど、それも違和感があった。何か耳に蓋をされているかのように籠った感じ」

 

「ドットムさん! オグールが煙みたいに消えたぞ!」

 

「ってこたぁ……魔法か!」

 

「されど、敵の姿はいまだ見えず。まだ敵の術中であると考えるべきでありましょうな」

 

 ようやく答えに辿り着いたドットム達だが、巴が周囲を見渡しながら未だに姿が視えない敵に警戒を緩めない。

 

「オグールの幻を見せられたってこたぁ、幻覚魔法か?」

 

「多分違う。――臭いはする。でも姿は見えないし、音と触感も違和感を持たせ、幻覚を見せる。五感に影響を与えている事から――催眠系魔法。広範囲及び大人数に作用している事から呪詛(カース)の可能性が高い。範囲はここにいる全員、そして地下にいる者も恐らく含まれるから『この建物一帯』、正確には『特定の方法で指定した範囲内』と考える。効果時間は恐らく指定範囲内にいる間、及び術者が解除する、死亡する、意識を失う、そして建物から一定距離を取るまでと推察。更にはあくまで騙せるのは術者が指定及び想像したモノのみ。想像出来ないものや不意な攻撃や衝撃を受けた際の音や幻覚は作れないと考えられる」

 

 急に独り言のように考察を始めるリリッシュ。

 

「呑気に推察してる場合か! どうする!? ドットムさん!!」

 

「問題ない。ここまで情報が集まれば十分」

 

「あん?」

 

「【対処せよ。すでにそれは見知っている知識なり】」

 

 リリッシュは淡々と詠唱を唱え、魔法を発動する。

 

「【グノスィ・アイアス】」

 

 魔法が発動し、リリッシュの足元から魔法陣が広がった次の瞬間、

 

パアァン!!

 

 風船が弾けたような音と共に、リリッシュの目の前に、突如茶髪の女ヒューマンがナイフを構えて襲いかかろうとしている姿が浮かび上がった。

 

「このクソチビぃ!! 死ねぇ!!!」

 

 怒りに顔を歪めた女ヒューマン――ケテラがナイフを振り下ろす。

 

 しかし、凶刃がリリッシュに届く前に、女狼のしなやかな脚が刃を蹴り砕いた。

 

 ツァオは臭いで動きを追えたため、奇襲にも対応出来たのだ。そして、リリッシュもツァオが対処してくれると確信していたからこそ、攻撃を避けようともしなかった。

 

 そして、ツァオが動いたという事は、

 

「おお!!」

 

 巴も動かないわけがないのである。

 

 巴は突撃(タックル)を繰り出し、ケテラの側面に直撃する。

 

「がっ――!?」

 

 ケテラは横に吹き飛んで、再び積まれた木箱に突っ込んだ。

 

「今のが術者ってわけかよ。ふん……護衛ってぇ感じじゃねぇな。逃げようとしてたみてぇだし」

 

「中から出て来たのが気になりますな」

 

「お姉ちゃんやフロル達は無事かな……」

 

「安心しろ、アーディ。あの程度で吹っ飛ぶ奴にシャクティがやられる玉かってんだ」

 

「……うん! そうだよね!」

 

 ドットムの励ましにアーディは笑みを浮かべて不安を掻き消す。

 

 その直後、木箱の瓦礫が吹き飛ぶと同時に右脚が突き出し、その脚を振り下ろす勢いを利用してケテラが起き上がった。

 

 ケテラはユラリと右手で右目を覆いながら立ち上がり、ガクリと顔を俯かせた。

 

「イッッッタイなぁ~……イタイイタイイタイイタイ――痛いんだよクソがアアアア!!!」

 

 ヒステリックに叫びながら顔を上げ、血走った目でツァオ達を睨みつける。

 

 かと思ったら、すぐに感情が抜け落ちたように真顔になる。

 

「アァ~ア……ホンットにクソッタレだよ。アンタらはとことん邪魔をしてくれるねぇ……【スセリ・ファミリア】~」

 

「テメェ……闇派閥か」

 

「だったら何だってのさ。あ~~イラつくわ~~、犬女の鼻に見つかったのは仕方ないけどさ~――そこのチビ女は何しやがった?」

 

 ギョロリ!とリリッシュを視線で射殺さんとばかりに睨む。

 

「アタシの魔法を破りやがった? いや、撥ね返した? ざけんなよ、どんな魔法だよ。かかってから撥ね返すとかアリ?」

 

 ドットムの言葉を無視して自分勝手に話し続けるケテラに、誰もがケテラの異常性を理解する。

 話が通じる相手ではない。この手の相手は、総じて考えが理解できない事が多いことをドットムは思い知っていた。

 

「チビ女さ~、この魔法メチャクチャ発動すんの手間なの知ってる? クソ長い詠唱でさ~、発動中は離れられなくてさ~、精神力(マインド)はたっぷり喰われるしさ~、発動するの見られたらソイツには魔法が効かなくなるとかクソッタレ仕様なんだよ~?」

 

「……そうか。テメェが収監所で脱獄を手引きしやがったのか」

 

「あ〜あれね。そうそうアタシ。嵌れば最高っしょ? アタシの魔法【エピアルテス】は」

 

 今度は自慢するようにニヤリと嗤うケテラ。

 

「アタシの魔法は指定した範囲内全ての生物の五感を掌握するんだよね〜。でもさ、範囲が広くなればなる程、操れる感覚の数が減っちゃうのが困りもんでさ〜。この建物だと目、耳、触感が精一杯だったんだよね~。更に厄介なのが一度範囲指定しちゃうともう変えられなくてさ~。そうなると解除して張り直すしかないんだよ~。だから――地下で()()()()()()()()()鼻を麻痺させようと思ったんだけど、それが逆に仇になっちゃったな~」

 

「……結界型の希少魔法(レアマジック)か。ちっ! ここ数年時折起きてた不可解な事件、テメェが関わってやがったな?」

 

「ん~~? どの事件のことぉ?」 

 

 ケテラは更に口を吊り上げ、

 

 

「たくさん殺して来たし、いちいち殺した時の事なんて覚えてないんだよね」

 

 

 もはやケテラに対して不快感を隠せなくなってきた巴達。

 

 すぐにでも飛び掛かれるように武器を握る手に力を籠める。

 

「ところでお前、今『会長を殺した』って言ってやがったな」

 

「それが何さ? 地下に突入出来た時点であのおっさんの罪は確定でしょ? 死んだって問題なくない?」

 

「大アリだよ馬鹿野郎。って、そうじゃねぇよ。その会長はお前らの仲間じゃなかったのかよ?」

 

「ぷっ! きゃっはははは! ナカマ!? んなわけないじゃん! 金ヅルって奴だよ、金ヅル!! べっつに死のうが潰れようがどうでもいい連中なの!」

 

「……(だとしても、なんでこのタイミングで殺した? さっきの魔法も、奴の話が真実なら儂らが突入する前から使ってた事になる。アーディにはああ言ったが、この魔法なら地下で何人かは殺せるし、致命傷を与えられるはずだ。なんで最初から逃げに徹してやがる?)」

 

 ドットムはケテラから感じる違和感の正体をずっと探っていた。

 

(今も逃げる素振りも抗う素振りも見せねぇ。仲間がまだ潜んでやがるのか? それとも、魔法の効果が嘘なのか……。これ以上長引かせるのは面倒事になりそうだな)

 

「そうかい。まぁ、屑共の繫がりなんざそんなもんだわな。でだ、もう逃げ場はねぇ。大人しく捕まりな」

 

 

「やーだーねぇ!! アタシはまだまだもーっともーっともーーっと! 人殺してぇ! 嬲ってぇ! 刺してぇ! 腹掻っ捌いてぇ! 犯してぇ! 叫ばしてぇ! 遊びたいんだよおお!!」

 

 

「……そうかよ。ったく……だから、こいつ等を相手すんのは嫌なんだ」

 

 ドットムは顔を顰めて武器を担ぐ。

 

 そして、ツァオや巴達が飛び掛かろうとした、その時。

 

 

 

 建物の壁が――爆発した。 

  

 

 

『なっ!?』 

 

 突然の爆発と粉塵に防御姿勢を取ったドットム達の隙間を、ケテラが猫の様に素早くすり抜けて行った。

 

「きゃはははは!! ばぁーか!! 誘き出す罠なのに、アタシ1人で来るわけないだろ間抜け!! 埋もれて潰れて死んじまえ!!」

 

「っ! この野郎!!」

 

「アタシは女だバァーカ! きゃはははは!! アタシらの邪魔した報いを受け――」

 

 ケテラは巴達の悔し顔を見ようと走り嘲りながら振り返り、

 

 

 目の前に閃光があった。

 

 

「なぁ――?」

 

 胸に強烈な衝撃が走り、後方に勢いよく押し飛ばされる。

 同時に体内が燃えるように熱くなり――ケテラは意識を闇に堕とし、二度と這い上がってくる事はなかった。

 

 大通りに胸に()()()刺さった状態で仰向けに倒れて死んでいるケテラを見て、ドットム達は背後を振り返り、魔法を解除して着地するフロルを見る。

 

「――で、あの人誰?」

 

 フロルは傍にいたリリッシュに訊ねた。

 

 まさかの発言に一気に空気が弛緩する。

 

「お前なぁ……。分かってねぇのに殺したのかよ?」

 

「いや、ツァオと巴が飛び掛かろうとしてたし――リリッシュが指差してたから……敵なんだろうなって」

 

 フロルが出入り口から飛び上がった時、リリッシュがフロルを見ながらケテラを指差していたのだ。

 

 だからフロルはただ仲間を信じて、全力で攻撃しただけであった。

 

「幻覚が解けて、その直後に爆撃音が聞こえたら、団長だったら魔法で全速力で駆け付けて、臨戦態勢で出て来るって思った。あの状況じゃ私達ではどうやっても追いつけないと思ったから、一番可能性がある手段を選んだだけ」

 

「で、この状況でリリッシュが指差して、見慣れない奴がいたから、建物を攻撃してる奴か、さっきまでの変な幻覚か何かを創り出した奴なんだろうなって思っただけ」

 

「……はぁ。まぁ、いいか。逃がしていい奴じゃなかったしな。地下の状況は?」

 

「護衛は全員押さえたけど、会長は捕まえたつもりだったけど急に消えて、気づいたら捕まってる人達が入れられてた牢屋の中で死んでた。……気紛れで殺された奴隷達と一緒に。少し腐ってたから、死後数日は経ってたと思う」

 

「そうかよ……生き残ってる奴等は?」

 

「何人かヤバい人がいる。ディアンケヒトかミアハに早く連れて行かないと手遅れになる。まだ無事な人達もいつ倒れるか分からない。多分、入れ替わってからは碌な世話をされてない」

 

「クソッタレが……」

 

 湧き上がって来た嫌悪感を隠さず吐き捨てたドットムは、話題を変えようと外に視線を向ける。

 

「攻撃が止んだな……。あの女が死んで逃げたか?」

 

「でも、建物が結構ボロボロだな。今のうちに捕まってる人達を――」

 

 

ドドドオオオォォン!!

 

 

「「「!?!?」」」

 

 外から爆発音が轟いた。

 

「なんだ!?」 

 

「一発じゃないぞ!?」

 

「っ!! しまった! あの女、誘き出す罠って言ってやがった! ってこたぁ!!」

 

 ドットムが外に飛び出す。

 

 フロル達も後に続き、目にしたのは――あちこちで立ち昇る爆煙。

 

「やられた……! 今回の密告は儂らを担当地区から離れさせる罠だったのか……!!」

 

「そんな……!」

 

「くそっ! シャクティさん達を呼んで来る!」

 

 フロルは魔法を再発動して、猛スピードで地下に戻る。

 

 

 本当の戦いは、これからだった。

 

 

______________________

ちょこっと情報

 

ケテラの魔法【エピアルテス】

・広域結界型感覚支配魔法

・超長文詠唱

・範囲指定可能(指定後の変更は不可)。対象選択不可。魔法発動を見た者は魔法効果無効。術者が結界内から出たら魔法解除

・結界内にいる者達の五感を支配下に置く。ただし、結界の範囲が大きくなる程効力低下。味覚、嗅覚、触覚、聴覚、視覚の順で、支配下から外れる

 

 ヴァレッタの【シャルドー】と同タイプの稀少魔法。

 嵌れば一方的に標的を嬲り殺し出来る強力な魔法で、【ネイコス・ファミリア】や闇派閥が中々足取りを掴ませなかった理由の一つ。

 ただし、相手に広域無差別攻撃を放たれると、気付かれぬ間にやられる可能性もあったため、臆病と呼ばれる程に慎重に使()()()()()()()

 

 【シャルドー】と異なるのは魔法陣が見えない事。なので、ケテラの術にかかったかどうかは、基本気付けない。幻影を生み出して操る事も出来るが、言動はケテラが操作するので、幻影を使う場合はある程度本人の性格や癖を知っておく必要がある。

 

 非常に強力凶悪な魔法だが、肝心のケテラが短絡的な快楽主義者であったため、一人では使いこなせない事が多い。

 しかし、それでも十分過ぎる結果を出してきたため、最近はバグルズも少し調子に乗ってしまっていた。

 




ちなみにケテラはLv.2でした

さぁ……次回も、胸糞です
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。