【ライトニング・サムライ】~転生者はダンジョンで英雄になりたい~   作:独身冒険者

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転生した男はダンジョンで初めてモンスターと戦う

 俺は階段を下りて、遂に1階層へと踏み入れる。

 

 周囲にはたくさんの冒険者が先へと進んでいく。

 

 そして、俺を見て全員が眉を顰める。

 

 まぁ、俺みたいな子供がいっちょ前に武器を背負って、自分達の戦場にいるんだ。

 馬鹿にされたように感じるだろうし、子供が1階層とは言えダンジョンに来ること自体褒められたものじゃないだろう。

 

 中には鼻で笑っていく連中もいる。

 命知らずの馬鹿なガキとでも思っているのだろう。

 

 否定できないし、今の俺じゃあんな連中にも敵わないだろうから無視するしかないけどな。

 ちょっとイラッとするけどさ。

 

 でも、俺から喧嘩を売るのはない。それはスセリ様との約束を破る。

 

 無駄な冒険はしない。

 他の冒険者に喧嘩を売るのは、冒険ですらない。

 

 ……俺はあんな連中より、スセリ様の方が怖いんだ!

 

 スセリ様が俺を殺すなんてことはしないのは分かってるけど、他の冒険者に殺されることよりもスセリ様のお怒りの方が俺は怖い。 

 

 俺は下層へと向かうであろう冒険者の列から逸れて、別の通路へと進む。

 それと同時に左手で腰の脇差を掴み、いつでも鯉口を切れるようにする。

 

 背後にも注意してゆっくりと足を進める。

 

 薄青色で埋め尽くされた壁と天井。迷路のように四方八方に伸びる通路。

 まさしくアニメで見たダンジョンだ。

 

 1階層は通路が広く、整えられているので戦いやすい足場と言える。

 だが、それはモンスター達にも当てはまることだ。

 

 一度捕捉されれば逃げるのは簡単なことではない。

 

 他の冒険者もまた油断できない。むしろモンスターより知恵が回る分、一番危険な存在と言えるだろう。

 だから、常に周囲を警戒しなければならない。

 

 ……空はもちろん、窓もない。

 それなりに広いとはいえ、やはり常に気を張らないといけないからか、息苦しく感じるな。

 

 初めてのダンジョンで緊張してるのもあるだろう。

 こりゃ本当に無理は出来ないな。

 

 多分スセリ様との修行の半分程度しか力は出せない。

 体が強張っているのが分かるのに、身体から力を抜けない。

 

 命がかかってるんだ。当然だよな。

 

 時折意識して深呼吸する。

 もちろん、その程度で緊張は解れないけど、今以上に強張ることも無い。

 今はこの状態を維持するしかないな。

 

 30分ほど歩いて、ダンジョンの空気や雰囲気に慣れようとしていると、

 

『グルゥオ!!』

 

『グルァ!!』

 

 現れたのは犬頭で二足歩行のモンスター。

 鋭い爪と牙を持つ〝コボルト〟だ。

 

 二体のコボルトは口から涎を垂らしながら、俺を睨んでいた。

 

 さぁ、初戦闘だ!

 

 俺は脇差を抜き放って構える。

 

 今は二体だけど、モンスターは壁から生まれる。油断しちゃダメだ。

 

『『グラァ!!』』

 

 コボルト達は同時に俺に向かって駆け出してきた。

 

「フゥー……」

 

 俺は息を大きく吐いて、二体の動きをギリギリまで観察する。

 

 そして、後1mほどまで迫った時、地面を蹴って俺から見て右側のコボルトの真横に一気に回り込む。

 

 思ってたより動きが遅い!!

 

「シィッ!!」

 

 鋭く右腕を突き出して、コボルトの脇腹に刃を突き刺す。

 

『グオオ!?』

 

 コボルトは悲鳴を上げると同時に身体が灰のように崩れる。

 

 後1体!

 

 俺は一気に詰め寄って、下段に構えた脇差を振り上げる。

 

 コボルトの腹部が斜めに引き裂かれて血が噴き出す。けど、少し浅い!

 

「ふぅっ!」

 

 俺はすぐさま刃を返しながらもう一歩踏み出して、脇差を振り下ろす。

 

『ギャガァ!?』

 

 コボルトは仰向けに倒れて体が崩れ去る。

 残ったのは小さく輝く紫紺の結晶である『魔石』2つ。

 

 俺は素早く魔石を拾って、後続が現れないか警戒する。

 

「ふぅ……及第点、かな?」

 

 冷静に、危なげなく倒せたと思う。

 心臓はまだバクバクしてるけど。

 

 俺はすぐさま移動を再開して、1階層を進む。

 

 10分もすると次に現れたのは、小太りの小鬼〝ゴブリン〟だった。

 

 数は4。

 

 冒険の御定番であるゴブリンだが、ここのゴブリンは武器も持たないコボルトと同レベルの存在だ。

 

 俺は一番近いゴブリンに詰め寄って左掌底を鼻っ面に叩き込む。

 

『ゴビャッ!?』

 

「シッ!」

 

 怯んだ瞬間に脇差を振るい、首を斬りつけると同時に横に跳ぶ。

 

 ゴブリンは血を噴き出しながら倒れて灰となるが、その灰を突き破るかのように新たなゴブリンが飛び掛かってきた。

 俺はその場で身体を回転させて後ろ回し蹴りを繰り出し、ゴブリンの突き出た腹に叩き込む。

 

 ゴブリンはくの字に後ろに吹き飛んで、壁に叩きつけられる。

 俺は右手に握る脇差を投擲して、ゴブリンの額に突き刺す。

 

 そして左手を背中に伸ばして、背中に携えた脇差の柄を握り、一気に抜き放ちながら飛び掛かってきた3体目のゴブリンを右肩から斬りつける。

 

 灰になるゴブリンを見届けながら、俺は呼吸を整えるために一度後ろに下がる。

 

 残ったのはゴブリン1体。

 俺はすぐに駆け出すが、向かったのはゴブリンではなく壁に突き刺さった脇差だ。

 

 両手に脇差を握った俺はそのままゴブリンに攻めかかる。

 

 突っ込みながら右手の脇差で突きを繰り出すが、それはゴブリンに躱されてしまう。

 けど、それは俺の狙い通りでもあった。

 

 俺は左足を踏ん張ってブレーキをかけ、その勢いを利用して左手の脇差を逆手に握り直して一気に振り抜き、ゴブリンの首を斬り裂いた。

 

『ゴバァ!?』

 

 ゴブリンは首から血を噴き出して、身体を灰にして崩れ去る。

 魔石が地面を転がり、更にはドロップアイテムでもある『ゴブリンの牙』も出た。

 

 俺は脇差を納め、素早くドロップアイテムを回収する。

 

「ふぅ……初日としてはこんなものか? 魔石はまだ小さいからいいけど、ドロップアイテムは流石に少し嵩張るな……」

 

 小さな巾着しか容れ物はない。

 まだサポーターを雇う金はないし、体力回復薬も買う金がいるからなぁ。ドロップアイテムも出来る限り回収したいけど……鞄は邪魔になりそうだしなぁ。

 

 体がデカくなれば、まだ余裕が出来るだろうけど。

 それまでは数回に分けて潜るしかないのかもな。

 

 けど、それはスセリ様に怒られそうなんだよなぁ。

 

「……とりあえず、容れられるだけ容れていくか」

 

 そう呟いて、俺はダンジョン探索を再開するのだった。

 

 

 

 数時間後、俺は探索を終えて帰路に就いていた。

 

 まだダンジョンの中だけど。

 

 腰に吊り下げられた巾着袋は嬉しい事にパンパンになっている。

 あれからドロップアイテムは出なかったので、魔石だけでこれだけパンパンになった。

 

 これで少しはスセリ様の助けになるかな?

 

 そんなことを考えながら、もう少しで多くの冒険者が行き来する通路へと差し掛かろうという時、

 

「お? 来た来たぁ」

 

 人相の悪い男が3人、立ち塞がる様に立っていた。

 

 ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべており、何を考えているのか手に取る様に分かった。

 

 ……初日からって、初日だからか……。

 俺は表情筋が動かないように必死に堪える。気を抜いたら呆れた表情が出てきそうだ。

 そうなれば、絶対に面倒事になる。

 

 もう面倒事な気がするけど。

 

「おい小僧。テメェみたいなガキが冒険者になるなんざ百年早ぇんだよ」

 

「死ぬ前にさっさと辞めちまいな。おっとぉ、お前が貯めた魔石は俺らが貰ってやるよ」

 

「怪我する前にさっさと寄越しな」

 

「……」

 

 なんて1パターンなんだろう……。

 まぁ、ダンジョンなんて治外法権に近いからなぁ。他のファミリアの人達だって、わざわざ面倒事に首を突っ込まないだろうし。

 下手に突っ込んで、ファミリア同士の抗争になったら困るから。

 

 ただでさえ今のオラリアは不安定だ。

 どのファミリアも生き残るため、そしてオラリオ内での地位の確立に向けて必死なはず。

 

 俺みたいなガキを眷属にして、1人でダンジョンに行かせるファミリアなんて超弱小ファミリアと思われても仕方がない。そして、それは正しい。

 【スセリ・ファミリア】は俺1人しかいない超弱小ファミリアだ。

 

 吹けば吹き飛ぶほどショボい。

 唯一の眷属がガキなんだから。

 

 まだ将来現れる【ヘスティア・ファミリア】の方がマシだろう。

 

「おい、何してんだ? さっさと渡せ」

 

 おっと……忘れてた。

 

 さて……どうしたものか……。

 

 逃げるのが一番正解だろうけど……それじゃあ問題を後回しにするだけだ。

 次にダンジョンに来た時にまた待ち構えられるだけだろう。

 

 ならば、戦って勝つのが理想。

 

 だが、理想でしかない。普通に考えれば、それはスセリ様に注意された無用な冒険だ。

 

 現実的に考えれば、大人しく渡すのが一番丸く収まる。

 

「お断りします」

 

「……あ?」

 

「なんだと?」

 

 けど、ここで逃げれば、俺は本当にクソガキだ。

 スセリ様に拾われる前の野良生活時より落ちぶれる気がする。

 

 だから……これは俺にとって必要な冒険だ。

 

「お断りしますと言いました」

 

「テメェ……冒険者になったからっていい気になってんじゃねぇぞぉ!!」

 

「ガキはガキなんだよぉ!!」

 

「もう謝っても許さねぇかんな!!」

 

 男達は剣、短剣、斧を構えて、俺を睨みつける。

 

 俺も脇差を抜いて構える。

 

 Lv.2とは思えないけど、ステイタスは俺より上だろう。更には3対1と人数差でも超不利。

 真正面からでは勝てない。

 

 両手で柄を握り締める。

 俺の小ささは武器になるだろうが、モンスターには俺サイズの奴なんてたくさんいる。

 あまり武器にはならない気がする。

 

 ならば俺の武器はスセリ様から教わったことだけ。

 

 連中が人と戦い慣れていない、ステイタスに振り回されている冒険者であることを祈ろう。

 

「死んでも恨むんじゃねぇぞぉ!!」

 

 剣を持った男が叫びながら突っ込んでくる。

 

 そこまで速くない!

 

 俺は男が踏み込んで剣を振り下ろそうとした瞬間を狙って、身を低くして男の股の間に潜り込む様に飛び込む。

 

 そして、男の踏み出した右足のアキレス腱辺りを鋭く斬りつける。

 更にそのまま飛び上がって、男の下腹部にタックルする。

 

「ぎゃぅお!?」

 

 男は無様に後ろに倒れ込んでいき、短剣と斧を持つ男達の動きを阻害する。

 俺はすぐさま後ろに跳び下がって距離を取る。

 

「このガキっ……!」

 

「やりやがったな!」

 

「くっそ……! 腱をやりやがった……!」

 

 剣使いの男はこれでまともに動けないはず……!

 

 だが、短剣使いが詰め寄ってきて、すぐに余裕がなくなった。

 

「ぐっ……!」

 

「ガキがいい気になってんじゃねぇ!!」

 

 やっぱり短剣を使うだけあって、敏捷に自信があるみたいだ。

 なんとか躱して、攻撃を捌いていくが完璧じゃない。

 

 そして、そこに斧使いが斧を振り被って迫ってきた。

 

 俺は歯軋りをして、短剣に左肩を切られることに構わず横に跳んで、斧の一撃を躱す。

 

 本気でヤバいな……!

 短剣使いには速さで負けて、斧使いには力で負けてる。

 俺の脇差じゃ防げない。二刀を使っても、あまり意味はない。むしろ片手じゃ短剣使いにも押し負ける。

 

 短剣使いをどうにかしないと……!

 

「チョロチョロすんじゃ、ねぇ!!」

 

「ぐぅ!?」

 

 短剣使いに腹を蹴られて、俺は後ろに吹き飛ぶ。

 

 俺は後ろに倒れるも、すぐにその勢いで後転して立ち上がり、更に後ろに下がる。

 

 けど、すぐ後ろは壁だった。

 

「っ!? しまっ……!?」

 

「はっはぁ!! 馬鹿が!!」

 

 短剣使いが嘲笑いながらトドメとばかりに突っ込んできた。

 

 けど、これは俺の罠だった。

 

 俺は勢いよく真上にジャンプして、更に壁を全力で蹴り、前に……迫ってくる短剣使いに向かって右跳び膝蹴りを突き出す。

 

「なっ!? げぶっ!?」

 

 短剣使いは目を丸くして、俺の膝を防ぐことも出来ずに顔面で受け止める。

 短剣使いは鼻血を噴いて後ろに仰け反りながら倒れる。

 

 着地しようとした俺だが、斧使いが右ストレートを放ってきて、ギリギリで両腕で防ぐもまた後ろに吹き飛んで、壁に背中から叩きつけられる。

 

「がっ……!」

 

「調子に乗んじゃねぇよ! クソガキ、がっ!!」

 

 斧使いがすぐさま斧を振り被って迫ってきて、全力で振り下ろしてきた。

 

 俺は意識が朦朧としながらも、全力で脇差を振るい斧の側面に叩きつけて斧を逸らす。 

 分厚い刃が俺の真横に叩きつけられ、俺は全力で横に跳ぼうとするが、その前に斧使いの脚が飛んできて思い切り蹴り飛ばされる。

 

「ごっ!!」

 

 俺は地面を数M転がって、うつ伏せに倒れる。

 

 これは、マズ、い……!

 

「けっ! 手間かけさせやがって」

 

「っつぅ……! くそっ……! もう我慢ならねぇ、ぶっ殺してやる!!」

 

 短剣使いが鼻を押さえながら立ち上がり、血走った眼で俺を睨みつける。

 

 くそっ……! やっぱあの程度じゃ倒せないか……。

 

 俺はふらつきながらも立ち上がって、脇差を構える。

 まだ動ける。スセリ様との特訓に比べれば、まだまだいける!

 

 もはやお互いに一歩も引けなくなった、その時。

 

 

「そこまでだよ」

 

 

 静かだが、決して無視できない圧が込められた声が響いた。

 

「っ!? だ、誰だ!?」

 

 声がした方に顔を向けると、そこにいたのは槍を携えた金髪の少年だった。

 

 だが、その少年が纏う風格は明らかに見た目とは一致していない。

 間違いなく俺や男達よりも強大な存在だった。

 

 そして、俺は……彼に見覚えがあった。

 

「……【勇者】、フィン・ディムナ……」

 

「なっ!? ロ、【ロキ・ファミリア】の団長!?」

 

 俺の呟きに男達は目を丸くする。

 

 探索系ファミリア【ロキ・ファミリア】団長、小人族の英雄こと【勇者】フィン・ディムナ。

 オラリオ屈指の実力者の1人であり、オラリオ最強の一角を担うことになったファミリアを纏める者。

 

 フィンの背後には、翡翠色の髪に端麗な顔つきのエルフの女性と、巨大な斧を担いだドワーフの男がいた。

 

 【ロキ・ファミリア】副団長【九魔姫】リヴェリア・リヨス・アールヴ。そして【重傑】ガレス・ランドロック。

  

 【ロキ・ファミリア】のトップ3が何でこんなところに……?

 

「地上に戻ろうとしていたら、下品な声と子供の悲鳴が聞こえてね。ちょっと見に来たんだ」

 

「ぐっ……!」

 

「驚いたよ。冒険者とあろう者が、多勢無勢でどう見ても駆け出しの冒険者を、それも子供を襲っているだなんてね」

 

「がはははっ! それ以上にチビッ子の動きの方に興味を引かれたがの! 儂は」

 

「それも否定しないけどね。……さて、悪いけどまだ続けるなら、僕達も参加させてもらおう。流石に冒険者とは言え、子供を見捨てるのは心苦しいからね。冒険者は子供からも金を略奪する、なんて噂を立てられたら堪らない」

 

 すっごく俺のプライドが傷つけられていくが、助かったのは事実なので耐えるしかない。

 何度も言うが、見た目的にも実力的にも子供なのは事実なんだから。

 

 男達は歯が砕けそうな程噛み締めながらフィン達を睨みつけるも、流石に【ロキ・ファミリア】のトップ3に挑む勇気はなかったようで、盛大に舌打ちをして未だに立ち上がれない剣使いの男を担いで、奥へと去っていった。

 

「……はぁ~~」

 

 俺は大きく息を吐いて、座り込んでしまう。

 今更になって恐怖が勝ったのか、腰が抜けて、手が震えてきた。

 

 ……情けないなぁ。

 

「大丈夫かい?」

 

 そこに穏やかな笑みを浮かべたフィンが声をかけてきた。

 いや、助けてくれたんだ。心の中でもフィンさんと呼ばないとダメか。

 

「ありがとう、ございます。助かりました」

 

「気にしないでくれ。たまたま通りがかっただけの気まぐれだ。ん? 怪我をしてるのか。リヴェリア、治してあげてくれ」

 

「ああ」

 

 リヴェリアさんは無表情のまま、俺の前に跪いて右手を俺に向ける。

 すると、掌から淡い翡翠色の光が放たれ、俺の身体に何か温かいものが流れ込んできた。

 

 リヴェリアさんは攻撃、防御、治癒の三種類の魔法をそれぞれ三段階ずつ使い分けることができるらしい。

 確かハイエルフ……王族なんだよな。

 

「それにしても、フィン。こ奴がお前の親指の疼きの正体か?」

 

「みたいだね。ところで、君。独りなのかい? 他のファミリアの仲間は?」

 

「……いません。ファミリアには俺1人しかいないので」

 

「子供1人のファミリアだと……?」

 

 リヴェリアさんが治療をしながら眉を顰める。

 

 それにフィンさんやガレスさんも呆れたように小さくため息を吐く。

 

「神々の選定基準は僕達には理解しがたいものがあるとはいえ……」

 

「無茶をさせるもんじゃ」

 

「君のファミリアの主神は?」

 

「……スセリヒメノミコト様です」

 

「ふむ……聞いたことがないな。その名前の響きからすると極東の神のようだね」

 

「どの地に住まう神であろうと、幼子を死地に追いやるのはいい気分ではないな」

 

 俺の治療を終えたリヴェリアさんは吐き捨てるように言う。

 

 

 ……それは違う。

 

 

「俺の神を悪く言わないでください」

 

 

 俺ははっきりとリヴェリアさんに告げる。

 

 リヴェリアさんは僅かに目を見開く。

 

「スセリ様は孤児となり、帰る場所も行く当てもなくなった俺を探し出してくれました」

 

 身体に活を入れて立ち上がる。

 

「どの店も、どのファミリアも、どの神も、居場所を求めた俺を追い返しました。ガキなんですから当然でしょう。けど、スセリ様はそんなガキを探してくれて、見つけてくれて、助けてくれて、力をくれて、鍛えてくれて、そして……帰る場所をくれました。ガキである俺のために、ファミリアを創ろうと言ってくれました」

 

 俺はまっすぐにリヴェリアさん達を見据え、脇差を握り締める。

 

「救けて頂いたことには本当に感謝してます。オラリオ最強のファミリアの一角と呼ばれるあなた達にとって、俺なんて本当に小さな存在だろう。けど……だからって、俺の神まで見下すことは許さない……!」

 

 スセリ様は本当は俺がダンジョンに行くことがまだ不安なことに、俺は気づいてた。

 

 本当はまだ行かせたくないことに、気づいてた。

 

 スセリ様は、本当に慈悲深い女神だ。

 

 それを神でもない()()()()()()に馬鹿にされる筋合いはない……!!

 

「……どうやら僕達も先ほどの者達と同じで、君を見誤っていたようだ……」

 

 フィンさんは目を伏せて、そう言った。

 

 そして、目を開いて真剣な目で俺を見据え、

 

「貴殿の主神を侮辱したことを謝罪する。そして、貴殿を子供としてしか見ていなかったことも。……間違いなく君は、僕達と同じ冒険者だ。その志と覚悟に種族も年齢も関係ないことを僕達は良く知っているはずだったのにね」

 

 その言葉にガレスさんは大きく頷き、リヴェリアさんもどこか恥じ入る様に目を伏せていた。

 

「君の名は?」

 

「……【スセリ・ファミリア】所属、フロル・ベルム」

 

「フロル・ベルム……。またどこかで会えることを楽しみにしているよ、フロル殿」

 

 フィンさんは笑みを浮かべてそう言って、背を向けて歩き去っていった。

 リヴェリアさん達もそれに続き、俺は3人の背が見えなくなるまでじっと見続け、完全に見えなくなったところで大きく息を吐く。

 

 ……死ぬかと思った……。

 

 本編より十年以上も前だから、もうLv.6かどうかは知らないけど……。

 それでも【ロキ・ファミリア】はオラリオでも名が知られているのだから、団長のフィンさんはLv.6なのかもしれない。

 

「……早く帰ろう」

 

 ……怒るだろうなぁ、スセリ様。

 怖いなぁ……。

 

「はぁ~……」

 

 俺は大きくため息を吐いて、項垂れながらダンジョンの外へと歩き出すのだった。 

 

 

 こうして俺の初めてのダンジョンアタックは終わりを迎えた。

 

 


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