【ライトニング・サムライ】~転生者はダンジョンで英雄になりたい~   作:独身冒険者

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お待たせしましたぁ!
本当に今回は長くなりましたが――決着です


勝利の空虚、敗北の慟哭

 

『オオオオオオ――!!!』

 

 

 アワラン達の怒りの咆哮は、戦場の空気を震わせた。

 

「なぁ――!?」

 

 アワラン達の憤怒の圧に、ディーチや陰から飛び出して来た闇派閥の者達は気圧される。

 

 

 そしてアワラン達は――一斉に飛び出してディーチへと駆け迫る。

 

 

「おい待て! お前ら! ああ、くそっ!」

 

 ドットムが制止するが、完全に頭に血が上っているアワラン達には届かなかった。

 

 ドットムもすぐに後を追いかけるが、

 

(まぁ、こればっかりは仕方ねぇとは思うが……まさかハルハ嬢ちゃんまでブチ切れるとは)

 

 だが、ドットムも怒りを抑えるのは限界だった。

 

(儂もこの店には、あの嬢ちゃん達には世話になった。顔見知りをくだらねぇ理由で殺されて、殺されてまで足蹴にされて我慢出来るほど――儂も達観してねぇんだよ!!)

 

 フロルに心の中で謝りつつ、ドットムも武器を担いで雄叫びを上げる。

 

「貴様らああああ!! 生きて帰れるとお!! 思うんじゃねぇぞおお!!」

 

「くっ……! はっ、ブチ切れだなぁ! いいぞいいぞぉ!! さあ、ぶっ殺してやるよおおお!!」

 

 ディーチはすぐに気を持ち直して、細剣を抜いて猛る。

 

 それに周囲にいた闇派閥の者達も武器を抜いて構えるが、その動きは少し精細さに欠けていた。

 だが、ディーチはそれに気付くこともなく、アワラン達に攻めかかろうとする。

 

「お前らも暴れろお!! 奴らをぶっ殺せぇ!!」

  

 仲間を扇動するディーチ。

 

 だがここで予想外の事が起こる。

 

「ぐっ……!?」

 

「な、なんだぁ……!?」

 

「――あ?」

 

 周囲の者達の動きが鈍くなっていた。

 

「あ? 何してんだ? お前ら」

 

「か、身体が……重ぇ……!」

 

「はぁ?」

 

 そう、ディーチは知らなかった。

 

 

 正重のスキル【獅子吼豪(キングハウル)】の存在を。

 

 

 ディーチは腐り狂っていても正重より先にLv.2になっていた事、そして負けたことで少なからずダンジョンで特訓もしてステイタスも上げていたので、正重のスキルから逃れた。

 更にこれまでの情報収集では、観察者は正重のスキル範囲外にいたため、その存在に気付くことが出来ず、スキルを浴びた者は全て倒されるか、捕縛されているため、スキルの事を伝える術がなかった。

 

 前回の戦いでは正重は本拠の防衛に残っており、本拠を襲おうとした手下達は弱すぎてスキルの事に気付くこともなくやられた。

 

 そして、フロル達も正重のスキルは強力過ぎる為、当然ながらその内容を外部に漏れないように注意していた。ドットムにすら、詳しい内容は伝えられていない。ドットムは長年の経験で何となく内容を理解しているが、彼も当然ながらその内容を漏らす事はない。

 

 故にバグルズやディーチ達に、正重のスキルを知る術はなかったのである。

 

 今いる仲間達の中にはLv.2もいたが、その者達も正重のスキルの影響を受けていた。

 

 その者達は事業の方ばかりにかまけて、鍛錬をサボっていたためステイタスが低かったのだ。

 

 それが齎した結果は、語るまでもなく。

  

 

 

 一方的な蹂躙であった。

 

 

 

「「「「オオオオオ!!」」」」

 

 ハルハが大鎌を薙ぎ、正重が『砕牙』を叩きつけ、アワランが拳を振り抜き、ディムルが長槍を鋭く突き出し、巴が大刀を振り下ろし、ツァオが大盾で突撃し、ドットムが『蛮月』を振り回す。

 

「「「「ぎゃああああ!?」」」」

 

 一撃で吹き飛び、無惨な姿で地面に転がっていく闇派閥。

 

 憤怒の獣達の勢いは止まらない。止まってやらない。

 

 

 

 大鎌が敵を両断する。

 

「どうしたんだい!? アタシらをぶっ殺すんだろお!? そんなんじゃ満足出来ないねぇ!! アタシの苛立ちは収まらないねえええ!! アタシの腹は満たされないねえええ!!!」

 

 ハルハは目を見張ってまさに獣が如き獰猛な笑みを顔に張り付け、まさに豹が如き素早くしなやかで身軽な動きで敵を翻弄しながら大鎌(豹爪)を振るい、獲物を切り裂いていく。

 

 ハルハの怒りは収まらない。

 

 それどころか血が舞えば舞う程怒りが募っていく。

 

(ざけんじゃないよ。なんであんな良い娘がこんな屑に殺されて、アタシみたいなガサツで血生臭い女が生き延びてるんだ! なんで冒険者のアタシが、あの娘を見送ってるんだ!! あの子は……あの子はねぇ……!!)

 

『あんた、ホントにあんな男でいいのかい? アイツ、脳筋で馬鹿で女神一筋だよ?』

 

『だから良いんですよ。格好良くて、可愛いじゃないですか』  

 

『あれが可愛いって……』

 

『分かってます。あの人は冒険者で、私はただの商店の娘。私は彼の事を応援することしか出来ません。支えることなんて出来ません。だから――少しだけ夢を見させてもらうだけで、十分なんです』

 

 その時の明里の嬉しそうで、でもどこか寂しそうな儚い笑顔を、ハルハは一生忘れないだろう。

 

 人を愛する女性の笑顔を、初めて羨ましいと思わせてくれた女性を。

 

(あの子は、明里は――!!)

 

 

「あんなしみったれた顔で!! 死んでいい女じゃないんだよ!!」

 

 

 だから――奪ったお前達を許さない。

 

 その為なら――喜んで死神になってやる。

 

 

「――【今宵も鎌が死を喰らう。舞え、血潮の紅華(はな)。散れ、闘争の火花(はな)】」

 

 ハルハは大鎌を振り回しながら、死を呼ぶ言霊を詠う。

 

「【高潔なる魂を汚し、悪辣たる罪を洗い流せ】」

 

 お前らの罪は、全てこの鎌で食い散らしてやる。

 

「【堕落せし(ともがら)を想い、赫き月を血涙(なみだ)で満たせ】!!」

 

 

 だから――死んでくれ。

 

 

「【スリエル・ファルチェ】!!!」

 

 

 死神の鎌鼬が、生贄を求めて獲物に襲い掛かる。

 

 

 

 

 

 巨獅子は雄叫びをあげながら敵を薙ぎ払う。

 

「ウウウウ……!」

 

 正重は怒りに顔を歪めて唸り、瞳を縦に細めて標的を睨みつけていた。

 

「うっ……!」

 

「こ、こいつ……!?」

 

 今の正重の威圧感は尋常ではなかった。

 

 ただでさえ巨躯で威圧感もあり、更に【獅子吼豪】で実際に威圧されている。

 

 だが、それだけではない。

 

 怒りで発動した【灼血獅子(レオルスハートビート)】で身体は限界まで高熱化しており、【妖炎村正(センゴムラマサ)】で更にステイタスも最大限まで向上させていた。

 

 僅かに逆立つ髪先が赤く染まり、余りの高熱に正重の周囲が揺らめいている。

 

「許さない。俺は、お前達を、許さない……!!」

 

『正重さん、ありがとう! 造ってもらった包丁、凄く良くてお母さんとっても喜んでた!』

 

『う、む……。初めて造った、けど、良かった』

 

『ええ!? 初めてであんな凄いの造れるの?! やっぱり凄くいい腕してるね!』

 

『ありが、とう……』

 

 冒険者でもない、戦う人でもない、平穏に暮らしている人から自分が造った物を初めて喜んで貰えて嬉しかった。

 自分の手は、腕は、戦う武器だけでなく、人の生活に役立つ物を生み出せるのだと、教えてもらった。

 そして、三枝子にはその包丁で作った料理を差し入れしてもらった。その味は今でも忘れられない。

 

 なのに――その記念すべき包丁は、瓦礫の下に埋もれている。

 

 もう二度と、あの料理は食べられない。

 

 もう二度と、あの包丁は使われない。

 

 身体の大きい正重を怖がることもなく、優しく話しかけてくれた女性。

 

 どう考えても、こんなふざけた連中に殺されていい人ではない。

 

 

「お前達、武器、二度と、持たせない……!!」 

 

 

 その全てを、砕いてやる。

 

 

「【打鉄の響音、被鉄(ひてつ)の共震、波鉄(はてつ)狂燐(きょうりん)。冷めぬ鉄よ、其は醒めぬ夢。盛る火よ、其は逆る意地。(ふく)れる熱よ、其は膨れる(想念)】」

 

 『砕牙』を振り上げながら詠唱を紡ぐ。

 

 闇派閥達は止めようと攻めかかるが、そこにドットムが滑り込んで攻撃を弾く。

 

「【打ちて揺るがすは鋼、打ちて散らすは敵。されど我が芯は揺るがず、我が腕は散らず。成すは妖刀、生るは妖怪(あやかし)】」

 

 両手で柄を握り締め、敵を見据える。

 

 ドットムは巻き込まれないように大きく後ろに跳んだ。

 

「【この身朽ち果て、一目一足(ひとめひとあし)になろうとも、我は鎚を振るいて鉄を打つ】」

 

 

 この剣、この一撃は――我が渾身の火鎚也。

 

 

「【イッポンダタラ】!!」

 

 

 火怪の鍛冶師の大槌は、地面へと振り下ろされ、眼前の敵ごと地面を吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 端麗の騎士は舞うように双槍を振るう。

 

「しぃ!! はあ!!」

 

「ぎゃ!?」

 

「げっ?!」

 

 正確無比な刺突が敵の急所を穿つ。

 

「……ただただ感情が赴くままに命を奪う。結局のところ、私も()()()と同類なのでしょう」

 

 槍を構えて、敵を見据えるディムル。

 

 すでに短槍には【ガ・ボウ】を発動させていた。

 

「私は今、憤怒せぬことの方が恥であると思っている。今この場に――理性も誇りも要りはしない。貴様らに懸ける誇りなどなく、礼節は逆に無礼だろう。何より――私は私を許せない」

 

 自分は成長していると思っていた。

 最強派閥の団員に勝った。ランクアップの資格も得た。未熟でも仲間達の冒険に着いて行けている。

 

 まだまだ未熟ではあるが着実に前に進んでいると、そう思っていた。

 

 

 何も守れていないのに。

 

 守れなかったのに。

 

 

 今この身は冒険者なれど、己の技は騎士の技。

 永き時をかけて、先人達が鍛え抜いた守護の技。

 

 弱き者を、守りたい者を守り、支える為のもの。

 

 なのに――肝心な時に、何も出来ていない。

 

 誰も――救えなかった。

 

(分かっている。私一人で救える命など、数人にも満たないだろう。それでも……それでも……!)

 

『ディムルさんって仕草とか綺麗だよね~。どこかのお姫様みたい』

 

『そ、そんな……私なんかが……』

 

『槍振ってる姿もとっても綺麗だった! ディムルさんなら絶対オラリオで有名になれるよ! ディムルさんに守ってもらった人達は、絶対将来自慢するよ!』

 

『そうなれば……嬉しいですね。私程度がそうなるのはいつになるのか分かりませんが』

 

『団長くんやアワランさんと一緒にいるんだから、すぐに決まってるよ! 絶対ディムルさんはオラリオで一番凄い騎士になる!』

 

 何の確証も根拠もない。絵本で盛り上がる少女のような言葉だ。

 

 だが、それでも嬉しかった。

 

 冒険者としても、騎士としても、同族からは嫌悪されてる自分がオラリオに来た事を認めて貰えたように感じたから。

 

(守るなら……明里さんのような御方が良い。血筋とかそのようなものは関係なく、人に優しく幸せに出来る御方を守れる、そんな冒険者に)

 

 明里は恩人だ。

 自分にオラリオで戦い抜く目標をくれた。

 

 なのに――守れなかった。

 

 間に合わなかった。

 

 危険が迫っている事、その可能性すら、全く思い至らなかった。

 

「何が騎士。何が誇り。元よりこの身は落伍の血筋――『裏切りの騎士』。そう、この身を動かすは――騎士への嫉妬と激情だった」

 

 故に――我が槍に誇りも気品も要りはしない。

 

 

 恩人(明里)を裏切った事への、無様な己への憤怒のみが宿る、愚かな槍だ。

 

 

「どうか――許さないでほしい」

 

 

 その言葉は誰に向けられたものなのか。

 

 それはディムルすらも分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 小さな武者が、大刀を振り回す。

 

「おおおおおおおお!!!」

 

 小さな身体、短い腕で振るわれる二振りの大刀が、土石流の如く猛烈な勢いと速さで敵を押し払い、薙ぎ払う。

 

「さぁ掛かって来られよ! 相手は大刀握り甲冑纏う小娘一人! 数知れず命を奪った汝らであれば、大した者でもあるまい! それとも! 汝らは武器を握らぬ者しか殺せぬか?! 無抵抗の人間しか襲えぬ腰抜けか?!」

 

 気炎纒いて猛る巴に、闇派閥は怒りに顔を歪める。

 

「怒るか!? ならば来られよ! 某は――其れ以上の憤怒にて叩き潰して進ぜよう!!」

 

 言い放つと同時に駆け出し、土石を巻き上げて突進する。

 その突進は止まる事を知らず。時折土砂や瓦礫、血と肉を天に噴き上げながら猪武者となって、眼前全てを圧し潰す。

 

「ぎゃあああ!?」

 

「と、止められねぇ!? チビの癖に、止められねぇ……!」

 

「こ、コイツLv.1だろ!? 何だよ、この力はギャアアアア!?」

 

 大刀、甲冑を血と土で汚し、それでも武者は止まらない。

 

(認めよう、某は弱い。受け入れよう、某は未熟。晒そう、某の無様さを。この世はやはり弱肉強食。負ければ死に、生きたければ勝ち続けるしかない)

 

 災害、モンスター、人間、事故。

 

 この世は考えれば考える程、不安が募り、備えなければならない。油断すれば、どこから、誰から襲われるか分からないからだ。

 

 だから、明里達の死は『明里達が弱かったから』。

 

 どんな言い訳をしようとも、結局真理は此処に行き着く。

 今のオラリオで自衛の手段を整えられなかった者が死ぬのは当たり前の事。冒険者であれば、鼻で笑われる死因だろう。

 

 だが、明里達は『戦士』でも『冒険者』でもない。

 

(某は『戦士』、身に付けし武にて障害を薙ぎ払う者。某は『冒険者』、この身に受けし神の恩恵にて『偉業』を望み為し遂げる者。理不尽に死ぬ事を覚悟し、抗う為に武を極め、鍛える者。殺される事も、喰われる事も、某は覚悟している。――だが、明里殿達は違う。戦う者ではない、『支える者』だ)

 

 武勲を立てる必要はない。誰かを傷つける技術も必要ない。

 

 誰かを生かす為に物を造り、売り渡し、豊かさと活力を与える――()()()()()()人達だ。

 

「某はただ戦うだけしか出来ない。明里殿や三枝子殿のように誰かを支え、喜ばせる事など出来はしない。料理も武骨物の男ものしか作れぬ。服も縫えぬし、掃除も得意ではない。女子(おなご)などという言葉からは最も遠いと思っている」

 

 だからこそ、分かる。

 彼女達のような存在が、如何に重要なのかが。

 

 他人に恵みを施す事の難しさと有り難みを。

 

「更に某はドワーフの女。シャクティ殿達のように、誰かに手を差し伸ばすには、この腕は短過ぎる。団長殿のように、助けを求める者の元に駆け付けるには、この脚は短過ぎる。ツァオ殿達のように、誰かの盾になるには――この身体は小さ過ぎる」

 

 自分には無いものだらけだ。

 自分が持っているモノは、すでに他の者達がそれ以上の形で持っている。

 それでも、己には戦うことしか、前に進むことしかないのだと、小娘は理解している。

 

 だから巴は前を見続け、高みを見上げ続ける。

 

 俯いた所で――己より低い者は誰もいないのだから。

 

 だからこそ――許せない。

 

「戦場に立たぬ者を狙う、その所業、その性根、その生き様。某は――貴様らを戦士とは認めぬ。貴様らを、同じ人間とは認めぬ」

 

 此処に蔓延るは魑魅魍魎。悪鬼餓鬼の妖怪達。

 

「何故、嘲笑える。恵みを与えるだけの者を。何故、見下せる。誰かの為にと張り切る者を。何故、踏み躙れる。愛する人の為に役に立ちたいという想いを。何故、殺せる。ただ日々を全身全霊で生きている者を」

 

『明里殿はきっと良き奥方になられますな』

 

『うえ!? ちょ、ちょっと止めてよ巴さん! アワランさんの奥さんだなんて!』

 

『いや、そこまで具体的には言っておりませぬが』

 

『でも、私がやってる事なんて大した事じゃないよ』

 

『いえいえ、ご謙遜なされるな。某には明里殿達のような事は何も出来ませぬからな』

 

『巴さんだって、私達じゃ出来ない事してるじゃない』

 

『ぬ?』

 

『私は誰かの為に、誰かを傷つけるなんて怖くて出来ないよ。傷つくのも怖い。なのに巴さんや団長くん達は私達の為に怖い人達と戦ってくれてる。とっても凄いよ』

 

『……いいえ、明里殿。そのお気持ちはとても嬉しく、誇らしい。ですが、やはり貴方方の方が比べようもない程に凄いのですよ』

 

『え?』

 

『某にとって、そこの柱や壁を壊す事などいとも容易い。ただ殴れば良いだけですから。ですが、それを直すとなると、そう簡単には行きませぬ。合わせればくっつく物でもなし。修復するためには接着剤や釘、木材などの資材が必要で、直すにもそれなりの技術や知識が必要です。料理も同じですな。某はただ味わって食べるだけ。ですが、料理は食材の状態確認、下拵え、調味料の選択、調理中の食材の状態管理に見極め、盛り付け等、食べさせる相手の事を考えて多くの手間がかかります。そう、壊す無くすは一瞬ですが、作る直すはその数倍の手間と――信念が必要なのです』

 

『……巴さん』

 

『明里殿……貴女方の手は、世界と命を生み出した神々の恩恵にも等しい恵みを生み出す偉大なる手なのです。貴女方は日々、某達の言うところの『冒険』をし、『偉業』を成し遂げておられるのですよ。某達と比べる事など――出来るものではありませぬ』

 

 武家に生まれ、ずっと戦う為に鍛えてきた巴にとって、人の為に働き、人々を笑顔にする明里達は――あまりにも眩しい存在だった。

 

(明里殿はアワラン殿を支えることは出来ないとおっしゃっておられたが、とんでもない勘違いだ。明里殿達はアワラン殿だけでなく、我らファミリア全員を支えておられたと言うのに。結局某は奴らと同じ荒くれ者。暴れる以外に人の役に立つ方法などありはしない)

 

 だからこそ、両親も兄達も自分に嫁に行けと口酸っぱく言って来たのだろうと、今更ながらに理解した。いや、前から何となく理解していたが、受け入れていなかっただけだ。

 

 実家にいた頃はあまり商人などとは関わらなかった。

 家を飛び出して、旅を始めてから関わるようになり、自分の世界の狭さを知った。

 

「そう、例えこの世が弱肉強食であったとしても……某は認められない」

 

 戦って誰かを守ることはとても素晴らしいことだと思っていた。

 

 だが、たった一度、一瞬の事よりも、明里達のように日々誰かの為に働く人の方が素晴らしいに決まっている。

 

「明里殿達が、このような下らぬ事で殺されるなど……多くの人を支え続けた善良で優しい方々が、人の手で理不尽に命を奪われるなど……どうして認められようか!!」

 

 これは絶対に弱肉強食などではない。

 

 彼女達を殺して(喰らって)、何が()になる? 

 

 快楽? 経験値? 

 

 ――ふざけるな。

 

「我は――怒鬼。憤怒をもって、悪鬼共を喰らい尽くそう」

 

 一人でも多くの『支える者』を護る為ならば、喜んでこの身を血に染め、鬼となろう。

 

 

「その穢れた命――頂戴致す!!」

 

 

 怒り猛る怒鬼は、再び悪鬼の群れへと襲い掛かる。

 

 

 

 

 

 

 鉄の嵐が吹き荒れる。

 

ウ゛ゥオオオオオオオ!!!

 

 咆哮と共に二壁の大盾、二振りの脚甲が振り乱れる。

 

「ギャッ!?」

 

「ぐべ!?」

 

「な、なんだコイツべっ!?」

 

 女狼は牙を剥き、正重同様瞳を縦に細めた眼を見開き、殺気を放出して荒れ狂っていた。

 

「ルゥアアアアア!!」

 

 正しく猛獣が如く、雄叫びを上げる度に闇派閥が吹き飛び、両断され、圧殺され、貫かれ、引き裂かれ、噛み千切られる。

 

「ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛……!!」

 

 顔や全身を血に染め、それでも牙を剥き出しに唸り続けて獲物を睨みつける。

 

 

――もはや理性は要らず。言葉も要らず。

 

――激情に全てを委ねよ。

 

――荒ぶる獣と為りて、ただ眼前の敵を喰い破れ。

 

 

 ツァオは顎が地面に付くと思う程身を低くし、次の瞬間には地面を抉り飛ばしながら猛烈な勢いで飛び出す。

 

 

――加減は要らず。情けは要らず。 

 

――憤怒に全てを任せよ。

 

――猛る猛獣と為りて、我が仇敵全てを噛み千切れ。

 

 

 右腕を後ろに振り、右前腕に装着していた大盾を滑らせて縁を掴む。

 

 そして――ぶん投げた。

 

「グゥゥルア!!」

 

 大盾は高速で回転して、巨大な円刃となって進行方向の獲物を悉く切り裂き、最後は男の胴体に深く突き刺さって止まる。

 

「ぎゃッ!?」

 

「ぐああ!?」 

 

「た、盾を投げ―デガッ!?」

 

 更に左の大盾も一回転して投げ放ち、数人の獲物を仕留める。

 

「「ぎゃあああ!?」」

 

「ば、馬鹿な……!?」

 

「ひ、怯むなあ!! 奴は盾を捨てたぞ! 殺せ殺せえ!!」

 

「は、ははは! ば、馬鹿な奴だ――」

 

 頭に血が上って武器を手放したと思い、やや引き攣りながらも嘲笑う闇派閥達だが――

 

 

 爪を振り被っている猛狼が、すでに目の前にいた。

 

 

「ぜ――」

 

 男の喉が抉られて血が噴き出す。 

 

 男は歪な笑みを浮かべたまま目を見開き、声を出す事も出来ぬまま膝から崩れ落ちて、そのまま意識を闇に堕とす。

 

 その後も血が噴き出し、肉が舞い散り、悲鳴は途絶えない。

 

 原因となる憤獣は足を止めることなく――むしろ先程よりも速度を上げて、爪牙を振るう。

 

「ぎゃぼ――!」

 

「あがぶ!?」

 

「は、速いげごっ!」

 

「ば、ばけものごぶ!?」

 

  

(足りない、我が怨敵が。減らない、我が憤怒が。止まらない、我が衝動が。消えない――彼奴等を殺せと叫ぶ内なる声が)

 

 

 どれだけ血を流し、どれだけ血に染まり、どれだけ肉を抉り、どれだけ肉塊を増やし、どれだけ命を奪い、どれだけ罪を重ねても――湧き上がる激情は冷めない、消えない、鎮まらない。

 

 奪い、奪われるは生物の常。有限で矮小たる命の定め。

 

 だから、これもダンジョンで起きている事と、自分達がモンスターを殺している事と何が違うのだろう。

 

 そう、どこか冷めた思考が存在しているのも理解している。

 

 だが、それ以上に……許せない、認められないと言う感情が強い、強すぎる。

 

 

 何故なら――資格がないからだ。

 

 

 闇派閥如きに、明里達を殺す資格などない。

 

 そう、ツァオは思っている。

 

 命を奪うには、それに相応しい『資格(理由)』がいる。

 

 そう、ツァオは考えている。

 

 冒険者がモンスターを殺す。

 それは魔石やドロップアイテムを回収し、生活を豊かにし、古代からの約定を果たすために。

 

 モンスターが冒険者を殺す。

 自分達を殺しに来るのだから当然だ。自分達の縄張りを荒らしているのだら殺すのは当然だ。

 

 冒険者が冒険者を殺す。

 それは得られる栄光の席数が決まっているから。勝ち取るためには蹴落とさなければならない。

 

 冒険者が闇派閥を殺す。

 神の恩恵を持つ者同士だからだ。神の恩恵を持つのであれば、神の恩恵を持つ者しか対抗できないし、ダンジョン攻略の邪魔だからだ。

 

 闇派閥が冒険者を殺す。

 先程の逆だ。自分達の欲望を満たす為に、冒険者が一番邪魔だから。

 

 だが、明里達が何をした?

 誰の邪魔もしていない。誰も傷つけていない。誰も殺していない。

 

 殺される理由が、ないではないか。

 なのに何故、殺されなければならない。

 

 そんな不条理は許されない。認められない。

 

(――いや、これも所詮建前、言い訳だ。我は……ただ許せないから憤怒しているのだ。そこに理屈も理由もない。我は――お前達に明里達を殺されたから許せない)

 

 自分が認められる、受け入れられる死に方ではなかったから。

 

 結局、理由はそれだけだ。

 

 気に入らない。それだけなのだ。

 

(ああ……我は――(けだもの)だ)

 

『ツァオさんって背が高いし、身体つきも綺麗ですよね〜。いいな〜』

 

『……あまり良い事など無い。皆、我を見て、避ける』

 

『それは……背が高いから怖いとかじゃなくて……単純にツァオさんが綺麗だからじゃないかな? あと、目つきが鋭いから睨まれてるって思われてるんじゃない?』

 

『……そう、なのか?』

 

『多分。綺麗な人と目が合うと咄嗟に逸らしちゃうし、綺麗な人って睨むと迫力ありますからね。それに女性は嫉妬しちゃうってのもあると思う』

 

『……』

 

『ツァオさんはスセリヒメノミコト様やハルハさん、ディムルさんが身近にいるから分からないかもですね。でも間違いなくツァオさんも美人ですよ』

 

 なんて事ない会話だ。

 でも、ツァオは明里との会話が好きだった。

 

 お日様のような暖かさと匂いがする明里が、好きだった。

 

 それを奪った奴らを、どうして許せようか。

 

 ただそれだけの理由で、ツァオは何十人と命を奪う。

 

 対話することもなく、許す努力をすることもなく、明里の死に涙する事もなく――ただ殺す。

 

 これを獣と呼ばずに、何と呼べばいい?

 

(それでもいい。これで周囲から怖がられても、構わない。この選択に、後悔は――ない)

 

 故に殺そう。

 

「グウゥゥルラアアアアアアアア!!」

 

 本能(怒り)のままに。

 

 我、獣なり。

 

 

 

 

 

 

 その漢は、拳を振るう。

 

「オォオラアアアアアア!!」

 

 雄叫びを上げながら、目の前の敵の顔面を殴砕する。

 

 そして、ディーチを目指して再び駆け出す。

 

「オオオオオオオ!!」

 

「はっ! 来やがれハーフドワーフ! もう前みてぇに行かねぇぞ!」

 

 ディーチはそう挑発するが、依然として2人の間には闇派閥の団員達が待ち構えていた。

 アワランはそんな事など知った事かと突っ込んでいく。

 

 闇派閥の団員達もアワランに一斉に襲い掛かる。

 アワランは一歩も引くことなく、拳を振るうがやはり数の暴力に押されてしまう。

 

「ひゃははは! もう分かってんだぜぇ! テメェは『耐久』に特化してるだけで、他の能力値(アビリティ)は普通のLv.1だってなあ!! 他の連中と違って攻撃魔法もねぇ! 他の能力値を上げるスキルもねぇ! ただ硬くなるだけのテメェじゃあ、俺に辿り着けねぇし、来たところでもうネタが割れてるテメェじゃ俺には勝てねぇんだよぉ!!」

 

 ディーチはフロル達の事を探る中で最も詳細に情報を集めたのがアワランだった。

 アワランに負けた事が周囲に馬鹿にされる理由なのだから、当然と言えば当然だ。そして、実際に戦ったことも非常に有益なデータであったのもある。

 

 なので、すぐにアワランの魔法やスキルに関する情報は集まった。

 『耐久』特化で『力』や『敏捷』が向上することはなく、『魔法』も追加効果などはない。

 戦闘技術は確かに高いが、では【スセリ・ファミリア】の他の団員や他の派閥の者達と比べて、抜き出ているかと言われれば絶対に否である。

 

 少し優秀なLv.1の好青年。

 

 残念な事に、アワランの評価はその程度なものだった。それは闇派閥であっても変わらなかった。

 

 故に――油断さえしなければアワランの脅威度は格段に下がる。一対一の近接戦に拘らなければ、普通に殺せる。

 

 バグルズやディーチ達の出した結論である。

 

 だかそれは――本人が一番分かっている。

 

(俺は不器用だ。ハルハやディムル、ツァオみてぇに武器と体術を組み合わせるのは得意じゃねぇ。巴みてぇにあんな甲冑着て戦うのも無理だ。正重やオヤジよりも非力だし、リリッシュみてぇな派手な魔法もねぇし――フロルには何もかもが負けてる)

 

 何もかもが足りない。武術に精通してるわけでもない、勉強が出来るわけでもない。

 

 ただ頑丈なだけ。

 

 だから、誰よりも一番に前に出て、誰よりもボロボロにならないと自分は置いて行かれてしまう。

 

 そう思っていた。

 

 だから――明里の想いを、押し返した。

 

 余所見が出来るほど、今の己は余裕がない。ダンジョンや闇派閥との戦いで……生き残れない。

 

 故郷では敵無しに近かった。昔からガキ大将で、恩恵を得てからはメキメキと頭角を表した。

 だから、オラリオに興味を持った。

 

 自分なら噂の第一級冒険者達にも負けない活躍が出来るのではないか、自分なら――英雄になれるのではないかと。

 

 そんな()()()()()()()、漢は迷宮都市の門をくぐった。

 

 そして――その日のうちに、その夢は()()()()()()

 

 他ならぬ女神によって。神力も使えぬ、只人と何も変わらないはずの女神に、漢はなす術なく踏み潰された。

 

 更に自分よりも小さく、細い、年下の子供にもボロ負けした。未だに勝てない――勝てる気がしない。

 武術も上、知識や頭の回転も上、指揮も上、器用さも上、努力量も上、女神の愛情も上、才能も上――そして、覚悟と()()()()()も上。

 

 ここまでボロボロにされたら――笑うしかないではないか。

 

 笑うだけ笑って――がむしゃらに追いかけるしか、ないではないか。

 

 だから――他人に目を向け、手を握り。背負う自信など……持てるわけがなかった。

 

 

 たとえ――恋心が芽生えていたとしても。

 

 

 今の己に、そんな余裕はなかった。

 

『だから……悪ぃ。俺は……お前の想いには、応えられねぇ』

 

 だから、明里にはっきりと伝えたのだ。

 いつまでも目を逸らし続けるのは、自分の流儀に合わない。そして何より、こんな良い女をいつまでも縛る事もまた、嫌だった。

 

『……うん、分かってます。アワランさんは……走り続けないといけないんだもんね』

 

『……ああ。スセリヒメ様がどうとかじゃねぇ。――男が一度走り始めた道を、『死ぬ』以外で止まるってのは……俺が一番嫌いな事だ』

 

『うん……大丈夫だよ。私は苦しくない。だって、そんな人だって分かったから――私は恋したのだから』

 

『……』

 

『だから謝らなくていいの。私は()()()()()()()。この想いは、()()()()()()()。だから貴方は――振り返らず、全力で前へ、上へと、駆け抜けてください。私はその姿を、その背中を少しでも近くで見られたら、それだけで十分報われますから』

 

『………すま――いや、感謝するぜ。そして、誓うよ。アンタを絶対に、報わせてみせる』

 

『はい……応援してます。見てます。ずっと……ずっと……』

 

 幸せだと思った。

 

 冒険者としての夢の一つ――『良い女に恵まれる』を叶えた。

 

 後は成り上がるだけ。

 

 その姿を見て貰うだけ――だったのに。

 

 

 

――なに……テメェ如きが邪魔すんだよ!!

 

 

――俺と明里の夢を、『上』にいないお前らが踏み躙んじゃねぇ!!

 

 

 

「オオオオオオオオ!!!」

 

 雄叫びをあげて、拳を振るう。

 

 敵が多い? ――だから何だ。

 

 敵が格上? ――だから何だ。

 

 何一つ、俺が屈する『錘』じゃねぇ!

 

「――【闘志は折れず、拳は折れず、膝は折れず】」

 

 俺は折れない。約束したから。

 

「【我が体躯(からだ)は傷を知らず】」

 

 受け入れよう。この悔しさと怒りを。

 

「【我が(こころ)は痛みを知らず】」

 

 抱えよう。想いと誓いを。

 

「【故に我は不屈也】!」

 

 背負い続けよう。誇りを。

 

 だから俺は――絶対に折れない。

 

「【マース・カブダ】!!」

 

 

 死ぬまで、走り続けてやる!!

 

 

「オオオオオオオ!!」

 

 雄叫びと共に放たれた鉄拳が、敵の顔面にめり込み陥没させる。

 

 怒りにより正重同様体温は上がり切っている。

 アワランの耐久値は現状の最高まで上がっているため、その威力はまさしく鉄拳だった。

 

 

ディイイイチィイイイイ!!

 

 

来いやああああああああ!!

 

 

 ディーチもアワランに負けじと猛りて細剣の切っ先を向ける。

 

 その細剣は真っ赤な禍々しい剣身を持っていた。

 

(思ったより粘りやがるが、流石にこの剣の呪詛はどうしようもねぇだろうよ! きひひひ!)

 

 兄が用意してくれた切り札。

 

 とある一族の呪詛師が拵えた『呪道具』。

 

(テメェは俺の打撃は防げても、剣は防げてなかったよなぁ? コイツはあの時よりも武器としても上物だ。結局ランクアップも出来なかったテメェ程度じゃ防げねぇ。これで終いだ!!)

 

 ディーチは勝利を確信して、笑みが隠し切れなくなる。

 

(でも俺は用心深くてなぁ! だからぁ……)

 

「かかれかかれえ!! 奴をぶっ殺せぇ!!」

 

 仲間と手下を使い潰す事を厭わない。

 自分で殺したいが、一番なのは『死体を見下ろし、踏み躙る事』。 

  

 だから、手段に固執はしない。

 

 同じ轍は踏まない。

 

 徹底的に敗因となりそうな要因を潰す。

 

(あのクソガキは兄貴が相手してる。だから前みてぇに助けにゃ来ねぇ! 他の仲間も流石に間に合わねぇだろうよ!! 終わりだ、終わりだぜハーフドワーフぅ!!)

 

「ひゃっははははははは!!」

 

 

 

「【デゼルト・ビブリョテカ】」

 

 

 

「は――?」

 

 アワランとディーチの間に壁を生み出すように、砂流が押し通る。

 

「「「ぎゃああああああ!?」」」

 

 アワランを襲おうとしていた闇派閥の者達は逃げる間も抵抗する間もなく呑み込まれた。

 

 ディーチや運よく逃れた者達が、砂流が来た方角に顔を向ける。

 

 そこにいたのは――右手を突き出す小人の賢者。

 

 いつも通りの飄々とした顔ではあるが、肩で息をして顔には大量の汗が流れている。

 

 リリッシュはフロルのところから一度も足を止める事もなく全力で走ってきて、走りながら身を顰めて戦況を把握していたのだ。

 そして、一番敵の層が厚く、一番頭に血が上ってそうな仲間の元に駆け付けた。

 

 ただ一度。

 

 最高のタイミング、場所で魔法を放つために。

 

 己の魔法は長文詠唱の広域魔法。

 奇襲出来るのはただ一度。次を唱える時間は絶対に貰えない。

 

 まだ並行詠唱は会得していない。

 

 だから、ただ一度の魔法行使に全てを注いだ。

 

 自分は明里達と言葉を交わしたことなど無いに等しい。だから、アワラン達ほど怒りを覚えない。

 

 顔見知りが死ぬなど、この世界では、小人族では珍しくない。

 

 だが――冷酷ではない。

 

 

 仲間の大切な人を、仲間を愛してくれた人を殺されて――何も思わない程冷めてもいない。

 

 

 だから、命を懸けて手助け()()()は、当然だ。

 

 自分に出来るのは、ここまでだから。

 

「ちぃ! 魔術師か! お前ら、奴から殺せ!!」

 

 ディーチは邪魔者を真っ先に排除することに決めた。

 

 だが――。

 

「もう、十分」 

 

 彼女が今やるべき役目は、もう果たした。

 

 リリッシュに襲い掛かろうとした闇派閥の側面から、猛スピードで突撃する影。

 

「ルゥウアアアアア!!」

 

「「「ぎゃあああああ!?」」」

 

 ツァオが雑魚を一掃する。 

 

「なっ……!? なんで奴が……!」

 

 ディーチが驚いていると、耳に空気を切る音が聞こえてきて反射的に横に跳ぶ。

 

 その直後に大鎌が突き刺さる。

 

「こ、これは……!?」

 

「待たせたねえ!! さぁ、殺してやるよぉ!!」

 

 ハルハが凶悪な笑みを浮かべて、大鎌の傍に着地すると同時に大鎌を引き抜く。

 

「コイツまで……! バカな、まだまだ手下共が……!」

 

「さっきのうちの賢者の魔法だよ! あれはアタシらと戦ってた雑魚共も吹き飛ばしてくれたのさ!」  

 

「なぁ!?」

 

 リリッシュの魔法はアワランだけでなく、ハルハ達の露払いも狙いだったのだ。

 

 そして、残った敵はドットムが引き受け、更にはようやく付近から冒険者達が駆け付けてきたことでハルハ達はディーチに狙いを定める余裕が出来たのだ。

 

「ちぃ! ここまで来て……! ここまで手筈を整えたんだぞ! この程度で……この程度でぇ!!」

 

 ディーチは怒りに叫びながら細剣を構え――

 

 

「――【穿て、紅薔薇】」

 

 

 言霊が響く。

 

 

「【茨を以って敵の誇りを討て】!」

 

 

 ディーチの視線の先には、紅く輝く長槍を逆手に握って振り被る騎士がいた。

 

 

「【ガ・ジャルグ】!!!」

 

 

 気迫が如くその名を叫び、槍を投げ放つ。

 

 放たれた紅槍は一条の流星が如く高速で飛翔し、仇敵に真っ直ぐ迫る。

 

 ディーチはすでに目の前に迫る紅流星を反射的に躱そうとする。

 

 しかし、流星は直前で僅かに軌道を変え――

 

 

 仇敵の右腕と細剣を穿ち砕いた。

 

 

「ギャアアアアアア!?」

 

 ディーチは肘から血を噴き出して激痛に叫ぶ。

 

「ば、馬鹿なぁ……!? 俺の剣は……呪詛を宿した特注ひ――」

 

「我が紅き魔槍は『魔力』を穿つ。たとえ『呪詛』であっても、魔力が媒体であれば我が魔槍は必ず貫きます。……もっとも、穿つしか出来ないため対象を確実に破壊してしまうので、命を救う事は…出来ませんが……それでも――我が友の命を吸った魔剣を仕留められたのであれば、これ以上は望み過ぎでしょう。本当の仇も討てないという……情けない限りですが」

 

 全ての精神力を注いで放った一刺しに、ディムルは悔し気にそう呟いて片膝をつく。

 

「――後は、お任せします」

 

「「「「「応ぉう!!!」」」」」

 

 ツァオとハルハがディーチの左右から攻めかかる。

 

 ディーチは後ろに跳び下がって避けようとするが、

 

 

「――逃がさぬぞ、下郎!!!」

 

 

 巴が背後から全力で突撃して、肩甲撃(ショルダータックル)を叩き込む。

 

「がっ――!?」

 

「口惜しいが……某もここまでか」

 

 巴は二振りの大刀を砕いてしまっていたため、突撃する以上に攻撃手段がなかった。

 

「だが、明里殿の仇を討つは――元々某の役目に非ず」

 

 巴は呟きながら後ろに跳び下がる。

 

 前のめりになったディーチは足を前に出して、倒れないように踏ん張るが――それは悪手だった。

 

 バランスを保つ為に横に伸ばした左腕が――大鎌に刈り獲られた。

 

「ギッ――」

 

「「ハアアアアア(ルオオオオオ)!!」」

 

 激痛に悲鳴を上げようとしたディーチであったが、女豹と女狼のしなやかな脚が腹部に突き刺さった。

 

「――ボアッ!?」

 

 くの字に体を曲げて唾液と血を吐き出す外道。

 

 しかし、下を向いたその視界に――握り締められた拳が映った。

 

「オォオラアアアアアアアア!!!」

 

 熱血漢の渾身のアッパーがディーチの鼻と口元に叩き込まれる。

 

「ガペヘッ!?」

 

 拳はそのまま振り抜かれ、ディーチは勢いよく頭を後ろに仰け反らせ、更に鼻血と数本の歯を宙に舞わせる。

 

 だが、まだ終わらない。

 

「オオオオオオオオ!!」

 

 その背後から獅子が斧剣を振り被って迫ってきていた。

 

 しかしその一撃は、ディーチの足元に叩きつけられた。

 

「ヌゥウン!!」

 

 鍛治師の渾身の槌撃が地面を吹き飛ばし、ディーチの身体を宙に浮かばせる。

 

「――!?」

 

 その時、

 

 

まあぁさあぁしいぃげええ!!!

 

 

 アワランが名を呼びながら、全力で跳び上がる。

 

「オオオ!!」

 

 正重は迷う事も訝しむ事もなく、手に握る『砕牙』を上に投げ放つ。

 

 回転しなから舞い上がる斧剣の柄は、まるで吸い込まれるかのように漢の掲げた両手に収まった。

 

 それと同時に落下を始めた――真下にいる仇を目掛けて。

 

 

オオオオオオオオオオ!!!!

 

 

 アワランは目を見開き、雄叫びをあげて、斧剣を振り下ろす。

 

 巨大で分厚い刃はゴオオウ!!と空気を斬り破り、勢いを落とすことなく――

 

 

 ディーチの左肩から右腰までを両断した。

 

 

 斧剣はそのまま地面に激突して、地面を抉る。

 

 アワランも両足を地面にめり込ませながら着地する。

 

「ギ――が、ゴエ――」

 

 

 ディーチの最期の言葉は、まともな意味を為さず。

 

 

 口から血が溢れ、そのままグルンと白目を剥いて――地に落ちた。

 

 

………

……

 

 少し時は戻り。

 

 フロルとバグルズ達の戦いは、悉く一瞬だった。

 

「『疾雷一閃』」

 

 光が弾けたと思ったら、2つの首が飛んだ。

 

「『穿雷』」

 

 光が奔ったと思ったら、2人の脇腹が抉られた。

 

「『渦雷』」 

 

 光が(めぐ)ったと思ったら、また血と肉塊が舞う。

 

 気付けばやられている。

 

 目で追えない。

 

 だが、雷は――まだ止まらない。

 

 フロルは逆手に柄を握っていた左手を放し、右手で再び順手で握り直しながら、身を低くしながら闇派閥の足元に一瞬で潜り込む。

 

「『逆雷(さかいかづち)』」

 

 刀を振り上げると同時に天へと昇る雷が立ち上がる。

 

 斬られた男は胴体から血を噴き出しながら宙に打ち上がり、全身を雷に焼かれ悲鳴を上げる間もなく死んだ。

 

 上段に振り上げた刀の柄を両手で握り、大きく前に踏み込んで全力で駆け出し、ピンボールのように敵を一撃で屠ると同時に次の敵へと迫り、また一撃で屠る。

 

 感電の連鎖は更に続き、連なり、その軌道は網を為す。

 

「『網雷(もうらい)』」

 

 その脚は止まることなく、次はすぐ近くで閃光に顔を腕で覆って庇っていた、ネイコス派閥の大男の背後に回り込み、

 

「『翔雷(しょうらい)』」

 

 大男の背中を一閃しながら一瞬で空高く跳び上がり、バグルズの真上を取る。

 

 そして刀を振り被り、

 

「『裁雷断(さいらいだん)』」

 

 裁きの雷を振り下ろす。

 

 落雷は一直線にバグルズへと迫り、襲い掛かる。

 

 

「うおおおおおおおお!?」

 

 

 バグルズはギリギリで武器を滑り込ませるも、その勢いと雷は防ぎきれずに後ろに吹き飛ばされる。

 

「……今の、手応えは……」

 

 フロルは最後の手応えに僅かに顔を顰める。

 

 周囲にいたバグルズの手下達はすでに全滅している。

 離れた場所にまだ闇派閥と思われる服装を身に着けた集団がいたが、フロルを恐れて誰も近づかず、それどころかじりじりと後退していた。

 

 そして、吹き飛ばされたバグルズは――

 

「――っツゥ~~…今のは、ヤバかったぜぇ。お前、ホントにLv.2かよぉ?」

 

 ややふらつきながらも、まだ余力を感じさせる様子で立ち上がった。

 

「……魔法――いや、防具か?」

 

「へぇ……よく分かったなぁ」

 

 バグルズはニヤリと意地悪い笑みを浮かべる。

 

「言ったろぉ? お前らの事はじゅ~~ぶん観察させてもらったってなぁ。だからぁ~雷対策くらいするに決まってんだろぉ。俺の武器も防具もぜぇ~んぶ雷耐性のもので揃えてあるんだよ」

 

 バグルズは穂先が包丁のような槍を回し、長柄を両手で握って構える。

 

 フロルも刀を正眼に構え、油断なく構える。

 

(確かに厄介だし油断は出来ないが……俺のスピードに対応できてるわけじゃない)

 

 今のは上からの単調な攻撃だから防げただけだと、フロルは見抜いていた。

 バグルズが今も動けているのは雷耐性の防具とステイタスのおかげで、実力的に負けてるわけではないと確信していた。

 

 だが、それでも互角に近いことは変わらない。

 絶対に油断出来ない状況であるのは何も変わっていない。

 

「あ~あぁ……ちくしょう。もうちょっと余裕があると思ってたんだがなぁ~。流石にこれはよぉ~……ちぃ~っと厳しいなぁ~……。まぁ……――()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 狂気の色を濃くした笑みを顔に張り付けるバグルズは、唇をベロリと舐め、

 

 

「俺の人生ってのは踏み躙られるクソッタレじゃなきゃなあ!!」

 

 

 いきなり意味不明なことを叫びながら槍を突き出す。

 

 

「【夢は幻、(うつつ)は肥溜め。踏み躙れよ、この生き様を】!」

 

 

 それが詠唱だと気付いたフロルは、地を蹴り飛び出す。

 

 だが、間に合わなかった。

 

 

「【サピオス・アナズィトン】」

 

 

 槍が淡い黄土色の光に輝く。

 

「っ――! おおお!!」

 

 フロルはそれでも攻撃を中断せずに雷刀を振り下ろす。

 

 それにバグルズは無造作に槍を薙ぎ、再びギリギリのところでフロルの斬撃にぶつける。

 

 フロルの斬撃は逸れてバグルズの肩甲に直撃し――折れた。

 

 

 いや――()げた。

 

 

 砕けた音が驚くほどに小さく、目を見張ったフロルは何が起きたのか数秒ほど理解するまで時間を要した。

 

「――なっ……!?」

 

 フロルはすぐさまバグルズから距離を取る。

 

 バグルズは追いかけることはなく、目を見開き限界まで口を三日月形に吊り上げる。

 

 フロルは半ばから折れた正重が造ってくれた刀―『紫迅丸』を、己の半身を見下ろす。

 

 間違いなく刀身は失われている。だが、一番の問題は折れ方だった。

 

「これは………溶けている?」

 

 刃側がまるで氷のように溶けた跡がある。峰側は普通に砕けたように折れている。どう考えてもあり得ない状態だった。

 

 だが、その原因はすぐに思い至る事が出来た。

 

「さっきの魔法か……!」

 

「きひひひっ! どうだぁ!? 面白ぇだろぉ!? 俺様の付与魔法(エンチャント)はよお!!」

 

 バグルズの切り札、『腐蝕』の付与魔法【サピオス・アナズィトン】。

 

 魔法を付与した箇所で物に触れれば、そこから腐り溶ける凶悪魔法である。

 

不壊属性(デュランダル)は流石にそう簡単にはいかねぇがぁ、そうじゃなけりゃどんな武器や防具でも、人の肉でも、あっという間に腐敗させる!! 俺様自慢の『()()()()()』だぜえ!!」

 

 多額の金を払い、時には借金をしてでも拵える冒険者の武具、そして神の恩恵を鍛え上げた肉体。

 

 それを容赦なく腐らせ溶かすこの魔法は、間違いなく冒険者にとっては天敵にも等しい。

 

(だが、武器だけに付与してるところを見ると、付与対象や範囲はかなり限定されるみたいだな)

 

 もちろん油断は出来ないが、流石に魔法の輝きをブラフに使える事はないはずだ。

 

(つまり、()()()()()()()()()()()()()ってことだ)

 

 フロルはすぐに脇差を抜いて、バグルズの背後に回り込もうとする。

 

「はっはぁ!! そうだよなぁ! お前はそのクソッタレな速さで俺の槍を潜り抜けようとするよなあ!?」

 

 見せびらかすように槍を回すバグルズ。

 

 普通に考えれば、誰もがその槍を避けてバグルズ本人を狙う。

 

「んなもん、お前が初めてじゃねぇんだよなあ! しかもよぉ! すばしっこい奴は馬鹿みてぇに背中を狙うよなアアア!!」

 

 もちろんバグルズはそんなことは理解していて当たり前。

 だから、わざと隙を作り、そこを狙ってくる愚か者をカウンターで仕留める。

 

 同格か格下はそうしなければ、自分に届かないと知っている。

 

 それで何度も勝って来た。何人も殺して来た。

 

 結局どれだけ天才児と言われようが、所詮は子供で、Lv.2。

 

 追い詰められれば、楽な道を選びたくなるものだ。

 

 

 ――そう、バグルズは嘲笑い、()()()()()

 

 

 フロルは投げ付けられる言葉を無視して、バグルズに攻めかかる。

 

「きひゃはははははは!! 馬鹿が!! くたばりやが――」

 

 

 脇差に、雷が集中し――捩じれた。

 

 まだ距離があるにもかかわらず、フロルは脇差を大きく振り被り、 

 

 

「――『流星雷』」

 

 

 爆光と爆音が戦場を覆った。

 

 バグルズは目と耳が潰されながらも反射的に左に跳び――直後、右腕と右半身に、強烈な衝撃と熱波が通り過ぎ――()()()()()()()()()()()

 

「っっ――――!?!?」

 

 目を見開くも視界は依然と『白』に覆われていた。

 

(腕は!? 槍は!? 何をされた!? 脇差を投げやがったのか!? 雷で強化して超高速で撃ちやがった!? ガキはどこだ!? 奴も武器を失ったは――)

 

 その時――腹部に強烈な衝撃が突き刺さった。

 

「ぐぶぅ!?」

 

「オオオオオオオ!!!」 

 

 忌々しいクソガキの声が、くの字に曲がった身体の真下から聞こえる。

 

 

 殴られたのだ。

 

 

 目と耳を潰されて隙だらけになった腹を。

 

(ヤバ――!)

 

 

「オオオォラララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララ――!!!」

 

 

 顔と上半身に、礫の嵐が襲い掛かって来たかのように連続で、数えるのも馬鹿馬鹿しくなるほどの、衝撃が迸る。

 

 

 そう、フロルは――ただただ全力で両拳をバグルズに叩き込んでいるのだ。 

 

 

「ラララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララ――!!!」

 

 

 殴る。

 

 

「ララララララララララララララララララララララララララララララララララララ――!!!」

 

 殴る殴る殴る――殴る。

 

 【パナギア・ケルヴノス】三重付与によって限界まで引き上げられた『敏捷』を、限界まで振り絞って体力と精神の続く限り放つ、万雷の拳嵐。

 

 無防備な状態でそれを浴びたバグルズに、逃れる術などなかった。

 

 

「ララララララララララララララララアアァ!!!」

 

 

 胸中心部に最後の拳を叩き込んだフロルは、そこで止まる事なく高速でバグルズの背後に回り込み、

 

「『吼雷掌』!!」

 

 両掌に雷を集中させ、バグルズの後頚部に叩き込むのと同時に豪雷を放出した。

 

 バグルズの後頭部から雷が炸裂し、上半身を飲み込みながら勢いよく吹き飛ばす。

 

 バグルズはまともな受け身を取ることも出来ずに地面へと墜落し、数十M転がり滑る。

 

「はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、はっ――」

 

 フロルは着地するのと同時に魔法が解け、荒く速く息をし、大量の汗を噴き出し流して、片膝をつく。

 それでも視線はバグルズから話すことはなかった。

 

「はっ、はっ、はっ、はっ、はっ……いくら、雷耐性、の、防具を、してても、露出、してる、肌まで、は、耐性は、ないだろ……!」

 

 前世の漫画やゲームであれば、見えない障壁のようなもので全身を覆うなどの技があったし、作品によっては肌が露出していても何故か耐性が効いている場合があるが、この世界ではそんな都合の良いものはない。

 

 それを証明するように、うつ伏せに倒れるバグルズは、時折ビクッビクッと明らかに雷撃による麻痺を受けていることが窺えた。

 

「ふぅ〜〜……」

 

 フロルは大きく息を吹いて呼吸を整える。

 

「そして、いくらLv.3の恩恵持ちでも首の後ろ――延髄付近に雷を浴びせられたら、無事ではいられないだろ。――俺の、勝ちだ、破綻野郎。……まぁ……俺ももう……限界だけど、な……」

 

 フロルは勝利を宣言しながら横に倒れる。

 無茶な重ねがけにより、体力と精神力も使い果たしてしまったフロルは、意識を失うことはなくとも身体を動かす力が残っていなかった。

 

「くそっ……アワラン達の……ところに、行かないと……いけないのに……」

 

 麻痺したように身体が言うことを聞かない。

 

 フロルはアワラン達や明里達の無事を祈ることしか、出来ることは残っていなかった。

 

 後程死にたくなるほど、後悔することになると、まだ知る由もなく。

 

………

……

 

 ザアアアアアアア――

 

 雨が降る。

 

 全ての戦いが終わったオラリオに、雨が降っていた。

 

 それは燻る火を消す救いか。

 

 それは破壊された街の嘆きか。

 

 それは失われた人々の悲しみか。

 

 それは――哭く誰かの涙を隠す慈悲か。

 

 

 オラリオ東地区。

 

 倒壊した建物の瓦礫の頂上に、彼らはいた。

 

「オオオオオオオオ――!!」

 

 一人の漢が、一人の女性を抱きながら吠えていた。

 

 その少女の顔には命の色はなく、穏やかに、されど冷たく目を閉じていた。

 

 そんな二人の周りを、人が囲んでいた。

 

 まるで少女を見送るように。

 

 まるで漢を憐れむように。

 

 まるで二人の姿を周りから切り離すように。

 

 まるで二人を護るかのように。

 

 まるで――懺悔するかのように。

 

 女豹は、獅子は、騎士は、武士は、小賢者は、女狼は、老兵は、ただ静かに、立ち竦むかのように、二人の周りに立っていた。

 

 その顔を、雨が濡らす。

 

 漢の哭声も、雨の音が掻き消そうとしてくれている。

 

 そこに勝利の喜びはなく、ただただ敗北の無力感に苛まれる。

 

 

 この日、【スセリ・ファミリア】は、虚しい程に圧倒的に勝利し、嘆くほどに――完璧なまでに、敗北した。

 

 

 




ヤラレルン兄弟の境遇は、皆様の想像にお任せします

次回はエピローグとなります
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