【ライトニング・サムライ】~転生者はダンジョンで英雄になりたい~ 作:独身冒険者
今回は三人称視点でお送りします
小説版アストレアレコードが発売されましたね! アーディが可愛いです
襲撃から一夜が明ける。
街は未だに瓦礫を撤去したり、生き埋めになった人を救出し、大切な人やモノを失ってしまった人達が泣き叫び……まだまだ喧騒が収まる気配はなかった。
稀に見る大侵攻であったが、街全体の被害としてはそこまで大きくはなかった。
北と南は流石に現二大派閥の本拠傍とあって、家屋に被害はあれど闇派閥以外の死者はなし。
南西と北東も、死者は出したものの家屋や施設の損害はすぐに修復できる程度であった。
西はアストレアとヘルメスの派閥が必死の避難誘導と闇派閥の妨害により、シャクティ達の到着まで持ちこたえたため、南西や北東とそう変わらない被害で何とか収まった。
一番酷かったのは――東地区だった。
家屋の損害が最も多く、死者も一般人、冒険者、闇派閥、全てにおいて他の地区の2倍以上にも及んだ。
だが、同時に朗報もあった。
闇派閥の一角、【ネイコス・ファミリア】が壊滅した。
捕らえた【ネイコス・ファミリア】の団員達は、情報を引き出された直後に――処刑されることが決定した。
再び脱獄される前に、今度こそ完全に憂いを断つ。
今回出し抜かれた形になる【勇者】【小巨人】【象神の杖】による裁定である。
「今回は本当に情けなく悔しい限りだな……。まさか、ヴァレッタ以外にここまで僕の……僕達の思考を読まれるとはね」
「やはり……今回の狙いは……」
「ああ……十中八九【スセリ・ファミリア】だ。彼らと、その周りの者を襲う為に仕組まれたと見て、まず間違いない」
小人の勇者の断言に、集まっていた誰もが一瞬無言になる。
「……フィンよ。闇派閥共はあの坊主共を狙うためだけに、ここまでの事を計画したと言うのか? 儂らやミアだけでなく、バベルやギルドすらも囮であったと?」
ガレスの問いにフィンは小さく頷く。
「全てがそうだとは言わないが、今回の最終にして最大の目標が彼らだったのは間違いない。事実、今回の向こうの動き、ヴァレッタの
「ってことはだ、今回の首謀者は【ネイコス・ファミリア】ってわけかい?」
「そう考えるのが自然だろう。シャクティの話からすれば、例の違法奴隷の件も奴らの罠だったようだしね」
「その件だが、明け方に我々が捕縛しようとしていたジャマンナ商会の副会長が死体で発見された。更にジャマンナ商会や摘発された違法商会と取引していた複数の商人が殺害されているのを発見した」
苦々しく顔を歪めながら報告するシャクティ。
今回彼女は全てにおいて【ネイコス・ファミリア】に遅れに取ってしまっているのだから当然だ。
「……口封じの暗殺、か」
「……恐らくな。恐らく噂の
「でもアンタらが捕まえた連中の資料や情報もあるんだろ? 何が問題なんだい?」
「
「……あぁん?」
「あの大襲撃の隙を突かれ、ジャマンナ商会を含める摘発した全ての商会で人身売買に関わっていた者達が殺され、それに関する資料が全て消えていた。恐らく、暗殺者連中が処分したのだろう」
「……ちっ。自分らが勝とうが負けようが後始末は考えてたってわけか。胸糞悪いねぇ……!」
「つまり、最後の敗北以外は【ネイコス・ファミリア】の思惑通りに運んだ、というわけか」
ミアは舌打ちし、リヴェリアは眉間に皺を寄せる。
結局今回は劣勢の痛み分け。
それがフィン達の結論であった。
確かに被害は少なくないが、多くは一般人と家屋。秩序側の主力が減ったわけではない。
残酷で冷酷かもしれないが、負けたわけではない。
闇派閥の戦力全容は未だ不明だが、それでもこれほどの作戦を決行できる派閥が1つ壊滅した。
これは大きな戦果だ。だが、手放しで喜べる戦果ではない。
「全く……最大派閥の団長が、【勇者】が聞いて呆れる。一体僕は何度……十にも満たない少年に重荷を背負わせれば気が済む」
フィンは顔を俯かせながら右拳を額に当てて小さく呟き、リヴェリアやシャクティ達も沈痛な面持ちで顔を俯かせる。
今回も闇派閥を退けた。
近年稀に見る大襲撃を、
だが、この戦い一番の功労者達がオラリオの冒険者で一番傷ついている事実は――最上位に立つ冒険者として、あまりにも重かった。
【スセリ・ファミリア】による【ネイコス・ファミリア】壊滅はその日のうちにオラリオ中に広まった。
新興派閥でありながら僅か一年足らずで中堅に足を踏み入れたばかりの派閥の大活躍に、街の住民達は新たな希望を見出し、歓喜していたが、当の本人達は当然ながらそれを喜ぶ事は全くなかった。
喜べるわけもない。
勝った達成感などありはしない。
ただただ無力感に、彼らは苛まれていた。
ただただ、喪失感を味わっていた。
傷は癒え、身体は十分に休んだ。
だが、現在の本拠にいつもの活気はなかった。
ちなみに本拠はほぼ無傷だった。
これもまた彼らを苦しめる要因にもなっている。
自分達の家は無事で、自分達は生き延びたのに、明里達の家や店は跡形もなく、明里達は殺された。
突き付けられる現実が、どうしようもなく苦しい。
それでも――彼らは生きていかなければならない。
天に還った人との、約束を抱いて。
ゆっくりと身体を休めたフロル達は、ステイタスの更新を行う事にした。
ドットムは気を使ったのか、【ガネーシャ・ファミリア】の方に合流し、片付け作業に従事している。
普段は更新したら、その結果やこれからについて各々見せ合い話し合うのだが……今日は誰も口を開かなかった。
座敷の大広間に全員が集まるも、誰もが壁際や襖の前に座って目を瞑ったり、顔を俯かせており、空気は重い。
そしてアワランは……縁側で1人、大広間に背中を向けて座っていた。
ただただ自分の両手を見下ろし、寡黙に佇むように座っていた。
すでにアワラン達はステイタス更新を終え、今は最後のフロルが行っている。
スゥ……
襖が開き、フロルとスセリヒメが大広間に入ってきた。
ハルハ達が視線を向けるも、フロルはゆっくりとアワランがいる縁側に進み、スセリヒメは大広間の真ん中で胡坐を組んで座る。
そして、フロルはアワランの横に同じく胡坐で座り、まっすぐ庭に顔を向ける。
「……なぁ、アワラン」
「…………なんだよ」
呼びかけに、顔は向けずとも今にも消え失せそうな小さな声で応える。
そんなアワランに、フロルも特に顔を向ける事もなく、
「――強く、なりたいな」
ただ一言、そう言った。
「っ――!!」
たった一言。励ます言葉ではない。されど、その言葉に込められた想いを、漢は正確に受け取った。
だから――堪えていたモノが、溢れてしまった。
「……ああ――強くなりてぇ」
見下ろしていた両手を握り締める。
その拳に、いくつもの雫が落ちる。
「強くなりてぇ……!」
溢れる想いは、もう止められない。
涙に濡れる両拳を顔を押し付けて、
「強く、なりてぇ……!!」
哀しみ、怒り、苦しみ、後悔、憎しみ、あらゆる感情を籠めて、漢はただ同じ言葉を繰り返す。
だが、それを馬鹿にする者はこの場にはいない。
全員が同じ想いなのだから。
「ああ……強くなろう」
そんな彼らの長もまた、右手を顔の前で握り締める。
「全員で。もう――喪わない為に」
誰も置いて行かない。置いて行かせない。
この日の後悔を、誓いを、必ず報わせてみせる。
そう、己に誓う。
「進もう、上を目指して」
この日――彼らは、昇華した。
これにて三章終了です
ステイタスは次回に
第四章も、宜しくお願い致します