【ライトニング・サムライ】~転生者はダンジョンで英雄になりたい~ 作:独身冒険者
アワラン達の二つ名が決まった。
なんかリリッシュはまんまだけど、本人は気にしてないようだから俺も特に言及はしない。というか、基本的に下界の人間達は神の付ける二つ名に称賛はすれど文句はあまりないんだけどさ。
でも正直なところ、今回皆に付けられた二つ名は良い方だと思う。
「妾に喧嘩を売る度胸もなかったようじゃからの。まぁ、決めるまでは悪ふざけしておるが、最終的にちゃんとした二つ名であれば、文句を言う気はないわい」
なんかスセリ様の発言力が毎回毎回上がっている件について。
今後の俺達、大丈夫? 変なやっかみ来ない?
「少なくとも神からは来んじゃろうて。その眷属に関してはどうにも出来んが、度が過ぎるのであれば、主神を捻り潰せば良いだけじゃろ。喧嘩を売ってきたのは向こうじゃからの」
それで解決出来たらいいんですけどね。
「ところで……本題はそれではなかろう?」
スセリ様は意地悪い笑みを消して、真剣な表情になる。
今は俺達の自室で、俺とスセリ様の2人きりだ。
他の皆は外で鍛錬してる。
俺はあの事件後からまた基礎から鍛え直す事にした。
拳法の型、木刀や木槍などの武器の素振りを一通りしてから組手や探索を行うようにしている。
そして、その皆……正確にはアワランがかなりヤバイ状態にある。
「アワランなのですが……」
「あ奴か……ドットムの奴からも報告は受けておるが……」
「やっぱりですか……」
スセリ様は腕を組んで鼻で大きくため息を吐き、
「まぁ、明里を喪ったばかりじゃからのぅ。憎しみに囚われるのも仕方がない事ではあるが……」
アワランは今、かなり無茶を繰り返している。
ランクアップした日に「強くなりたい」と言った想いに嘘はない。だから、アワランも俺達もがむしゃらに鍛錬をしていたんだが……そのがむしゃらはダンジョンでも変わらなかった。
モンスター相手に陣形も戦術もなく、突っ込んでいく。
Lv.2になったのとスキルのおかげでそう簡単に追い込まれる事はないが、それでも危険なのは変わらない。
そんな無茶苦茶なアワランを見て、ディムルや巴達も流石にその後に続くような真似はしなかった。
でも、問題はそれだけじゃないんだ。
………
……
…
数日前。
俺達がダンジョンに潜ろうとバベルを目指していると、再び闇派閥が街を襲撃してきた。
悲鳴が上がった瞬間、アワランが飛び出し、俺達は慌ててその後を追いかけることになった。
そして襲撃現場に突撃したアワランは、
「ズゥラアアアアア!!」
怒りと憎しみを顔に張り付け、雄叫びを上げながら闇派閥の男の顔面に拳を叩き込んだ。
殴られた男は鼻血を噴き出しながら仰向けに倒れる。
そして――
「オラアアアア!!」
アワランは、倒れた男の上に乗り上がり、連続で拳を叩き込み始めた。
「オラ! オラ! オラ! オラオラオラオラアア!!!」
すでに男は死んでいる。それでもアワランは男の顔を殴り続けた。
俺はアワランの拳を掴んで止める。
「何してるんだ!? ソイツはもう死んでる! まだ敵は周りにいるんだぞ!?」
「っ!! ウォラアアア!!」
「ぐっ、アワラン!!」
アワランは俺の手を振り払って、次の闇派閥へと殴りかかっていった。
その後もアワランは闇派閥を執拗に殴り殺しては、また次へと攻めかかる。
その姿は激情に支配されたモンスターと、何も変わらなかった。
俺は、俺達はアワランを止めることは出来ても、説得することは出来なかった。
だってアワランの怒りは当然だからだ。
そう簡単に受け入れられるわけがなく、認められるわけがなく、怒りや憎しみが消えるわけがない。
俺は……テルリアさんから受け継いだ魔法とスキルのおかげで、まだ囚われずに前に進めた。
今のアワランは、俺が陥ってたかもしれない姿だ。
その気持ちが嫌でも理解出来る俺は……だからこそ、どう声をかけたらいいか分からなかった。
………
……
…
その後も闇派閥の襲撃が起こる度に、アワランは飛び出していった。更にダンジョンでも無謀にも等しい戦い方を続けた。
時には俺やドットムさん、ハルハが殴って気絶させないといけない程に暴走している。
このままでは――近い内に絶対死ぬ。
明里さんのためにも、それだけは阻止しないといけない。
「そうは言うが……それにはヒロ、お前自身がまず答えを見つけ出さねばならぬぞ? それも一時的でなく、心の底から奴を前を向けさせる事が出来る、答えをの」
「……はい」
そうだよな。
それに関しては、俺も考えないといけないと思っていた。
正直、俺も今のままでは駄目だと思っている。
俺もまだ明里さん達の事が胸の奥でつっかえている。もちろん、そんなすぐに解決出来ることではないだろうが、それでも毎日死と隣り合わせの人生でいつまでも放っておくわけにもいかない。
積み上がりつつあるこの『憎しみ』を……俺は、
――いや、もう分かってる。
答えは、もう、出てるんだ。
「……ふむ。やはりか、ヒロや……。ならば、妾はもう何も言うまいよ。お前のやりたいようにやってみるがよい」
「――はい」
すまない、明里さん。
少し――荒っぽくやらせてもらう。
翌日。
あの後もダンジョンに行ったが、アワランは相変わらずだった。
でも、誰が見ても明らかに疲労が蓄積しており、いつ倒れてもおかしくない雰囲気だった。
だから、今日は休みにしようとしたのだが……。
「俺は行くぜ。休みたいなら、お前らだけで休めよ」
アワランはそう言って一人だけでダンジョンに赴こうとする。
ドットムやハルハが顔を顰めて、その背中に声をかけようとした、その時。
「そんなに死んで明里さんのところに行きたいのか?」
そう、俺は言い放った。
ハルハ達は瞠目して弾かれたように俺を見て、アワランは――足を止めて。
「………あ?」
怒りが籠められた目で、俺を振り返る。
「……今、なんつった?」
「だから、もう強くなることを諦めて、明里さんの元に行こうとしてるのかって言った」
「……何、ふざけたこと言ってやがる」
「何もふざけてない。今のお前を見て、純粋にそう思っただけだ」
「それがふざけてるっつってんだ! 俺は本気で強くなろうとしてるだけだろうが!」
「本気で? ただ無謀無茶を続けているだけだろ? 自分の状態が分かっている癖に無視して、中層に一人で行って――モンスター相手に
「八つ当たり、だぁ……?」
拳を握り締めて、血走った目で俺を睨みつけるアワラン。
「モンスターだけじゃない。最近の闇派閥への攻撃……どう見ても八つ当たり以外の何物でもないだろ? ――明里さん達の仇は、討ったんだから」
そう、明里さん達の仇であるバグルズやディーチ達は、俺達の手で討った。
だから……今、俺達が抱えている明里さん達を喪ったことへの怒りや哀しみ、憎しみは……もう、他にぶつけることは出来ないんだ。
「っ……! だがまだ闇派閥はのさばってるだろうが!! 奴らを倒さねぇとまた明里みてぇな被害者が出るかもしれねぇ!! だから奴らを倒す!! それの何が八つ当たりだってんだよ!?」
「それと今の無茶無謀は関係ないだろ」
筋は通っているように聞こえるけど、だからって己を顧みずに無茶苦茶暴れて強くなればいいわけじゃない。
「明里さんを、言い訳に使うなよ」
「っ――!?!?」
でも、一番の問題はそこじゃない。
問題は、何の為に強くなろうとしているかなんだよ、アワラン。
「なぁ……今お前は、何の為に強くなろうとしてるんだ?」
「……あぁ?」
「今お前は、何を目指して、そんな無理して強くなろうとしてるんだって訊いてるんだ」
オラリオに来た頃、そしてあの事件が起こる前のお前が目指していたモノとは……変わってないか?
「今のお前を見て貰ってさ、スセリ様を惚れさせられるとか……まさか、思ってないよな?」
もし思ってるとか言ったら――流石に俺もキレるぞ?
「……思ってねぇさ。思うわけねぇだろうが!!!」
アワランは堪え切れずに叫んだ。
……だろうな。
お前は、馬鹿じゃないんだから。
「じゃあどうすりゃいいんだよ!? これまで通りのやり方で、強くなれんのかよ!? それで明里を死なせちまったんだぞ!? 同じで良いわけねぇだろうが!!」
「だとしても、今の強くなり方で、お前は明里さんに誇れるのか? 本当に死んだ時に後悔しないか?」
お前に恋してくれた明里さんは、そんな姿が見たかったわけじゃないはずだ。
「明里は死んだ! もう死んぢまっただろうが!! どう誇れって――」
「確かにもう見てもらえないし、直接褒めてくれるわけでもない。でもな……だからって生きてる時にした約束や誓いを無視して良いのかよ!? 直接見て貰って、褒めて貰わなきゃ、意味はないと言う気か!?」
俺はテルリアさんとの約束を、破る気はない。
間違う事はあるだろうさ。間違う事を責める気はないし、責めることも出来ない。
でも、それでも俺は、テルリアさんとの約束を果たす。
「うるせぇ……うるせぇうるせぇ! うるせえええ!!」
アワランは拳を振り上げて、殴りかかってきた。
おい、なんだよ。その拳は?
遅いし、今まで見た中で――一番雑じゃないか。
ただ力任せに俺の顔面目掛けて振り抜かれた拳を。
俺は首を傾けるだけで躱し、がら空きのアワランの鳩尾にカウンターを叩き込んだ。
「ゴッ――」
「――ふざけるな」
俺は左脚を振り上げて、アワランの顔面に叩き込む。
アワランは防御する事も、受け流す事もなく、横に吹き飛んで顔面から地面に倒れて、数M転がった。
そして、うつ伏せの状態で止まったが……。
「ぐっ……が……!」
アワランは、起き上がる事が出来ない。
ダメージで、身体に力が入らなくなっている。
「ほら見ろ。魔法も使ってない、本気でもない俺の攻撃で……たった二撃でもう立ち上がれないじゃないか。『耐久』が売りのお前が、その体たらくでダンジョンに行って、どう強くなるつもりでいたんだ? 少し前のお前なら、余裕で対処出来た、出来ていた攻撃だぞ?」
それを無防備で受けたお前は――強くなってるのか?
「むしろ弱くなってるじゃないか。打たれ弱くなってるじゃないか。それで強くなるだと? 戯言ほざくのも大概にしておけ」
「っ……!」
「いい加減認めろよ。お前が一番許せないのは――」
「一番憎いのは――自分自身だろ」
誰も守れなかった、救えなかった、自分の弱さが。
「っっ――!!!」
拳を握り締め、歯軋りが響く。
俺の言葉にアワランだけでなく、ハルハ達も同じく拳を握り締めていた。
そう、これは、アワランだけじゃないんだ。
俺も、ハルハ達も――自分の弱さが許せないんだ。
仇討ちしたが為に、出来てしまったが為に、俺達は明里さん達を救えなかった自分達の弱さに対する怒りの矛先を喪ったんだ。
他の闇派閥に向ける事は簡単だが……多分、今のままじゃ強くなったところで繰り返すだけだ。
新たな仇が生まれ、倒し、また新たな仇が現れる。その繰り返しだ。きっと、永遠に終わらない。
そんな不毛な事、地獄以外の何者でもなく、ただの復讐者だ。
冒険者でも英雄でもない。
だから俺達は、自分に向ける以外の、選択肢がない。
でも、それはどっちにしてもそう簡単に受け入れられるわけがないし、受け入れても楽になるわけがない。
けどな、
「だからって闇派閥やモンスターに八つ当たりした所で……強くなれるわけも、自分の弱さが克服できるわけがない。強くなったとしても、結局それは……付け焼き刃の脆い強さだ。俺はそう、スセリ様に叱られた。お前も聞いてただろ?」
「……」
「だから、俺は――他人を憎まない」
それが、俺の答えだ。
「他人を嫌う事はあるだろう、他人を妬む事はあるだろう、他人に怒る事はあるだろう。でも、憎まない。恨まない」
憎み、恨むは奪われ、守れなかった己自身――自分の弱さ。
復讐すべきは弱かった過去の自分。
乗り越えるべきは、弱く脆かった愚かな自分。
「今回だって、俺が1人で先行して戦い抜けるだけの力があれば、明里さん達を救えたかもしれない。奴らが俺達を狙う事を厭う程の実力があれば明里さん達は死ななかったかもしれない。……結局、今回は……これまでの闇派閥との因縁は、俺の弱さが原因だ。それを他人に……ディーチ達程度の奴等に押し付ける事こそ、俺は認められない」
弱さの理由を、他人に押し付けるな。
「だから俺は、例えどれだけ時間がかかっても、どれだけ傷つくことになっても、どれだけ周りに笑われても、何度打ちのめされて泥と血に塗れても……成りたい理想を目指して、強くなる」
「……そりゃあ、それで強くなれたら最高だろうよ。けどなぁ!! その間にどれだけの奴が死ぬ!? その間に犠牲になった連中の事は、仕方がねぇって諦めんのかよ!?」
「諦めない」
「っ……!?」
誰が妥協してやるものか。
「誰にも負けない。誰も死なせない。そこを諦める気も、捨てる気もない」
「んな理想論で――」
「理想の何が悪い。理想を捨てた強さなど、結局現実の前に負けるのが道理だ」
「それでも負けたら……! 誰かが死んだらどうすんだよ?!」
「だから――それでも歩みを止めない」
そう、諦めない事。
それだけしか、出来ないんだ。
「【
全ての敗北、全ての犠牲は、全部俺の弱さだ。
弱さを積み重ね、己への憎しみを積み重ね、俺は理想の高みに嫉妬し、強さを求めて激情する。
「この身に抱く憎悪を、激情を糧として――俺は強くなる」
まっすぐにアワランの眼を見据えて、迷うことなく宣う。
アワランは瞠目して無意識にか一歩後退り、視界の端に見えていたハルハ達は一瞬身震いした。
「俺は敗北も、犠牲も、清濁全部背負って前に進む。だから、俺のファミリアの団員であるお前達に、団長として命令する」
「俺と一緒に――強くなれ」
だから――もう八つ当たりを止めろ。
俺は拳を握り、構える。
「自分の事を棚に上げて、言わせてもらう」
アワランをまっすぐに見据えたまま、告げる。
「今回はこれで手打ち……話は終わりだ。だから、目を覚ましたら――」
――ごめんな。
「前を向けよ」
――偉そうに言ったけど。
「――【鳴神を此処に】」
――俺を憎んでくれて、構わない。
心の中で謝りながら、俺は一瞬でアワランの顔をぶん殴って――気絶させた。
………
……
…
翌日。
昨日の今日なので、本日も探索は無し。
アワランは気絶させた後、部屋に運ばれた。
数時間ほどで目を覚ましたが、その日はそのまま部屋から出てこなかった。
ハルハ達もそれぞれに思う事があったのだろう。昨日は夕食も個々に思い思いに済ませた。
フロルは陽が昇ってから、また型の練習から鍛錬を始めた。
ハルハ達もアワランを除いて全員が中庭に出てきていたが、まだ組手は始めていない。アワランを、仲間を待っているのだ。
「ふっ! はっ! ふっ! はっ!」
フロルは交互に拳を突き出す。
昨日の自分よりも少しでも鋭い拳を放てるように。
すると、フロルの視界の端に、アワランが歩いてくるのが映った。
まっすぐにフロルを見据えて、真剣な顔で歩いてくる。
フロルは拳を止めない。言うべき事は全部言ったから。
だから彼は、ただやるべき事をやるだけだ。
アワランはフロルのすぐ傍で足を止めた。
でも何も言う事なく、ただまっすぐに少年を見ていた。
そんなフロルとアワランに、ハルハやディムル達はいつでも止められるように身構える気配を感じた。
すると、アワランは徐に向きを変えてフロルと並び立ち、
「――はぁ!!」
正拳突きを放った。
「はぁ! うん! ぉらぁ!」
フロルと同じ型の練習。
丁寧に、それで苛烈に、アワランは空に――過去の己に拳を放つ。
フロルは口元に笑みを小さく浮かべながら、負けじと拳を突き出す。
「はっ! ふぅ! はっ! ふっ!」
「うぅ! ぁらぁ! ふっ! はぁ!」
互いの声と空を切る音だけが、フロル達の耳に届く。
すると、ハルハ達も2人の横にやってきて――
全員同時に拳を放った。
『 はぁ!! 』
全員の気合いと拳が重なり、空気が震える。
それをひたすらに続ける。
少年が、漢が、女豹が、獅子が、騎士が、魔導士が、武者が、女狼が、それぞれに想いを込め、不恰好な者もいるが、共に強くなろうと拳を放つ。
その声は、本拠の外にも届き……耳にした者は、強くなろうとする者の声に、活力を分け与えられたように感じた。
そんな眷属達の背中を、女神は目を細めて、微笑みながら見つめていた。
『 はぁ!! 』
【スセリ・ファミリア】は――また、強くなる。
普通であれば、この手の話はもう少し時間をかけるものなのでしょうが……なんかフロルやアワランらしくないとも思い、早々に前を向いて貰うことにしました
喪った人達の想いを抱き、今後どのように強くなっていくのか
見守ってあげて欲しいと、思っております