【ライトニング・サムライ】~転生者はダンジョンで英雄になりたい~ 作:独身冒険者
ダンジョンを出た俺はバベルにある換金所に向かった。
ギルド本部や支部にも換金所はあるけど、早く帰りたいのでここですることにした。
まぁ、ギルドに寄りづらいってのもあるんだけどね。スセリ様が喧嘩売ったし。
窓口が2つしかなくて少し行列が出来てたけど、思ってたより早く順番が回ってきた。
窓口の引き出しに魔石やドロップアイテムを置くと、引き出しが引き込む。
そして、1分もせずに引き出しが飛び出してきて、お金が並べられていた。
「はいよ、13000ヴァリスね」
い、13000ヴァリス……!
マ、マジで……?
俺は思ってた金額の3倍以上の結果に戸惑いながらも素早く巾着袋にお金を仕舞い、駆け足でホームへと戻る。
ここまで頑張って奪われたらたまらん!!
俺は一応追跡されていることを考えて、狭い路地や穴を通って移動する。子供の俺だからこそ通れる道だ。小人族でもなければ追って来れないだろう。
ホームに到着した俺は勢いよく扉を開ける。
「スセリ様! ただいま戻りました!!」
「おぉ、ヒロ。無事そうで何より……でもなさそうじゃのぅ」
「え? ……あ」
スセリ様の目は俺の肩へと向けられていた。
それはあの男達に傷つけられ、リヴェリアさんに治してもらった傷だった。だが、血の跡は消えておらず、スセリ様からすれば俺が怪我しているように見えたんだろう。
「だ、大丈夫です! これは親切な方が治療してくれたので!! もう治ってます!!」
「馬鹿もん。結局怪我をするような相手と戦ったということじゃろうが。しかも、その傷はモンスターではなく、冒険者の武器によるものじゃろう」
おう……完璧にバレている。
「全く……やはりお前を快く思わん輩が出よったか。ほれ、武具を外して身体を見せてみよ。まだ治療していない怪我もあるであろう」
「はい……」
大人しく装備を外し、下に着ていた和服も脱ぐ。
「ほれ見よ。腹が腫れておるではないか。飯の前に治療じゃの。いや、先に風呂か」
あ~、蹴られたところか。
あまり痛みを感じなかったんだけどな……。
俺はスセリ様に命じられるがままに風呂に入って汗と汚れを落とす。
そして風呂から出ると、スセリ様が手早く治療を済ませていく。これはもう昔からの事なので恥ずかしいも何もない。
あっという間に治療が終わり、俺は今日起こったことと成果を話す。
「ほぅ……ロキのところの小人族にか……。運がいいのやら悪いのやらじゃの」
まぁ、確かにこの段階でフィンさん達に目を付けられたのは、余計な騒動を呼ぶ可能性がある。
仕方がないことではあるが。
「じゃが、初めてのダンジョンで、しかもソロで13000ヴァリスの稼ぎは中々聞かんの。聞いた限りでは無理もしておらんようじゃし……うむ、よぅやった!」
「ありがとうございます」
「とりあえず、明日は一度休みとするがいい。身体の調子もみたいしの」
「はい」
「それにやはり修行も必要なようじゃから、ダンジョンは様子を見ながら行くとしようかのぅ」
「そうですね。今回みたいに他の冒険者達に襲われても生き残れるようにはなりたいです」
「そうじゃな。モンスターは問題なさそうじゃし、対人戦の修行に重きを置くか」
「はい」
「しかし、まずは飯にしよう。そして、今日はゆっくり休むとよい」
その後、本当に前世でもあまり見たことがないほどのご馳走をたっぷり食べた。
少しゆっくりして、ステイタス更新は明日にしようということで今日はさっさと布団に潜った。
ダンジョンに挑み、腹いっぱい食べたからだろう。
俺はすぐに強烈な眠気に襲われて、あっという間に意識がなくなったのだった。
翌朝。
6時頃に目が覚めた俺は体を起こして、調子を確認する。
「……うん。問題ないな」
蹴られた腹はまだ腫れていて時折痛みが走るが、自制内だ。
スセリ様もすでに起きていて、朝食の準備をしてくれていた。
「おはようございます」
「うむ、おはよう。調子は問題なさそうじゃな」
「はい」
「まぁ、それでも今日はゆっくりするのじゃな。鍛錬も軽めにの」
「分かりました」
「では、朝食としよう」
美味しい朝食を頂いた後、俺はステイタスの更新を行うことにした。
スセリ様に背中を晒し、スセリ様が俺の背中に血を垂らす。
背中を指でくすぐる様に動かすと、背中に『神聖文字』で記された俺のステイタスが浮かび上がる。
その内容は俺には全く分からない。
俺に『神聖文字』を読む学はないからな。
数十秒ほどで浮かび上がったステイタスは俺の背中に押し戻され、用紙を背中に乗せられる。
スセリ様が指でくるっと丸を描くと、その用紙に俺のステイタスが共通語で刻まれる。
いつ見ても不思議な光景だな。
「よし。終わったぞい」
「はい」
俺が服を着ている間に、スセリ様が用紙に刻まれたステイタスを見つめる。
上がったのかな?
いや、上がってはいるはずなんだろうけど、これまでの修行と比べてどれだけ上がったのかは気になるな。
そんなことを考えていると、
「ほれ」
スセリ様が用紙を俺に差し出してきた。
え?
「よろしいのですか?」
「流石にそろそろ己の力を知らぬというのも問題であろう。ギルドの連中に訊かれて知らんとなったら、それこそ面倒じゃて」
「はぁ……」
何となく違和感を感じながらも、俺は用紙を受け取って己のステイタスを初めて目にする。
フロル・ベルム
Lv.1
力 :I 91 → H 128
耐久:H 119 → H 159
器用:H 122 → H 137
敏捷:H 158 → G 208
魔力:I 0
《魔法》
【】
【】
《スキル》
【輪廻巡礼】
・アビリティ上限を一段階上げる。
(・経験値高補正)
……うん……うん?
あれ? おかしいな……。
熟練度上昇トータル140オーバー?
力が37UP、耐久が40UPで、敏捷に関しては50!?
なんで急にここまで上がってんの?
これまでのスセリ様との修行は何だったのさ。いや、スセリ様も技術面に集中してるからステイタスに大きく影響しないかもしれないとは言ってたけどさ。
だからって、ダンジョンに一回潜っただけでこれっておかしくないか?
しかも、さり気なくスキルあるし。
うん、待ってくれ。理解が追いつかない。
俺は眉間に皺を寄せて、食い入る様に用紙を睨みつけていた。
その様子にスセリ様が苦笑する。
「まぁ、命の危機という奴が大きく係わっておるのじゃろうな。まさしく鍛錬と実戦の違いという奴じゃ。得られる経験値は質と量で決まる。初めてのダンジョン、初めてのモンスター討伐、初めての命を懸けた対人戦。妾との鍛錬とは比べものにならんほど、様々な経験をしたのは間違いない。故にそこまで驚くことではない。恐らく次回からはここまで伸びんじゃろうな」
「……このスキルは……」
「うむ。間違いなく前世の記憶を持っておるが故に発現したスキルじゃな。まぁ、そこまで気にすることもなかろうて。正直、そのスキルの真価を知るのはまだまだ先の事じゃろう」
確かに……。
『アビリティの上限を上げる』というのは、別に成長を早めるというわけじゃない。
そもそもSランクまでステイタスが上がらなければ宝の持ち腐れだ。
そして、Sランクまで上がることがまず難しい。
あの天才と呼ばれたアイズでもSランクはなかったっけ……。
ってことは、そこまで驚くことでもないのか。
ステイタスが大きく上がったことは喜ぶべきだろうけど、スキルを活かす事を考えると微妙な気持ちになる。
「それでよい。浮かれたところで所詮はLv.1ぞ。今はステイタスなぞ気にせず鍛えることに集中せぃ」
「はい」
「明日は上がったステイタスの感覚を掴むことに専念し、1週間ほどは妾と鍛錬じゃ」
「はい!!」
「うむ」
この日は大人しく軽く身体の調子を確認して、素振り程度で留めた。
走り込みにも行きたいけど、スセリ様に、
「昨日の連中やその仲間が待ち構えておるかもしれん。大人しくしとけ」
と言われてしまった。
まぁ、俺もそれに納得してしまったので、大人しくしているが。
今は再び力を蓄える時だ。
だから……俺は強くなりたい。
…………
………
……
初めてのダンジョン挑戦から一か月が経過した。
あの日から一度もダンジョンには挑戦していない。
理由はスセリ様との鍛錬が盛り上がり過ぎたからだ。
いやぁ~……高笑いしながら襲い掛かってくるスセリ様マジ怖い。
『ふはははははは!! ほれほれ!! どうした、ヒロォ!!』
『ぐっ!? ぎっ!? がっ!? ちょ、ちょっとスセリ様っ……!!』
『遅いっ!!』
『かべちっ!!』
というやり取りが毎日。
そう、盛り上がっていたのはスセリ様なんだよ。
俺は地獄でした。
まぁ、おかげで強くなったとは思うけどさ。
フロル・ベルム
Lv.1
力 :H 128 → H 152
耐久:H 159 → H 177
器用:H 137 → H 161
敏捷:G 208 → G 243
魔力:I 0
《魔法》
【】
【】
《スキル》
【輪廻巡礼】
・アビリティ上限を一段階上げる。
(・経験値高補正)
なんか雰囲気的にはベルやアイズに近いような成長の仕方だな。
まぁ、子供だから『力』は伸びにくいのかもしれないけど。
とりあえず、一か月前より数値的にはそれなりに成長したので、再びダンジョンへと赴くことになった。
スセリ様はアルバイトへと出かけ、俺もダンジョンへと向かう。
今回は3階層までの進出を許可された。
2階層からは出現するモンスターが増えるので、危険度も上がる。
スセリ様が言うには、恐らく問題なく勝てるだろうが、今の自分の力量を確かめるには丁度いいらしい。
確かにこの一か月スセリ様としか戦ってこなかったからな。
ステイタスの数字も上がっているとはいえ、客観的過ぎて分からん。
そんなことを考えながら、ダンジョンを目指していると、
「すいません。フロル・ベルム氏でしょうか?」
「ん?」
後ろから声をかけられて、足を止めて振り返る。
そこに立っていたのは、猫人族の女性だった。
銀色の髪を後ろで一本の三つ編みに纏め、ピンと立った猫耳。
服装はウェイターを思わせる制服。
つまり、ギルドの職員。それも恐らく受付嬢だろう。
「そうですが……どなたですか?」
「ご挨拶が遅れました。わたしはスーナ・クィーリと申します。ギルド窓口受付嬢およびアドバイザーをしております」
「アドバイザー……」
確か、駆け出し冒険者にダンジョン攻略を指導し、監督するギルド職員だったっけ。
つまり、この人は……
「はい。わたしがフロル・ベルム氏の担当アドバイザーとなりました。今後ともよろしくお願いします」
「はぁ……」
頼んでないんですけど?
あまりギルドに寄る気も無いし……。まぁ、一応オラリオにいる以上、ファミリアはギルドの指示に従う義務が発生する場合があるのは知ってるけど。
普段の活動をギルドが干渉することは逸脱行為のはずだ。遠征とかに出るなら別だろうけど。
「一度、今後のダンジョン攻略についてお話をさせて頂きたいのですが……。お時間はありますか?」
「すいません。これからダンジョンに潜るところですので……」
「では、その後でもよろしいですか?」
「女神様との鍛錬の予定があります。当分はこれを続ける予定ですので、ギルドによる時間は取れないかもしれません」
「……そうですか」
「では、失礼します」
俺は軽く頭を下げて、歩き出す。
別にギルドを毛嫌いしてるわけじゃないけど、なんかスセリ様がいないところで声をかけてきたのが裏がある様に感じてしまった。
とりあえず顔合わせしたし、当分は行かなくていいかな。
俺はスーナさんの事を頭の隅に追いやって、やや駆け足気味にダンジョンへと向かうのだった。
…………
………
……
あっという間に見えなくなったフロルを見送って。
スーナは小さくため息を吐く。
「はぁ……やっぱりこんなところで声をかけたのは失敗でしたか……」
たまたま見かけてしまったので、思わず声をかけてしまった。
スーナもフロルが冒険者登録を行った際にギルドにおり、フロルの事をよく覚えていたのだ。
6歳にして冒険者になった者など滅多にいないのだから。
スーナは少し落ち込みながら、ギルドへと戻る。
「おかえりなさい。スーナせんぱ――どうしたんですか?」
声をかけてきたのは赤い髪の狼人。
今年入職したローズが、妙に落ち込んでいる先輩の姿に首を傾げる。
「【スセリ・ファミリア】の冒険者を見かけたんですよ」
「【スセリ・ファミリア】? ………あぁ、あの子供の」
「えぇ。わたしが担当になったので、挨拶と話をさせてもらおうと思ったのですが……」
「フラれたんですか?」
「……はぁ」
ストレートな言い方をしてきたローズの言葉に、スーナはため息を吐いて頷いた。
それにローズは眉間に皺を寄せて、
「大丈夫なんですか? 登録してから一度も来てないんですよね? あそこの主神、登録時にかなり喧嘩腰でしたし」
「……スセリヒメノミコト様は少々気性の激しい女神ですが、聡明なお方です。彼が舐められないようにギルドを牽制したかったのでしょう。そして、彼のダンジョン探索に対して、我々に口を出されたくないのでしょうね」
「けど、あんな子供1人でダンジョンなんて危ないですよ。確か初日から他の冒険者に襲われたんですよね? 【ロキ・ファミリア】の方々が助けてくれたらしいですが……」
「そうですね……。ですが、調査ではあの日以降彼はダンジョンに挑んでいないことも分かっています。スセリヒメノミコト様は彼に無理をさせているわけではないようですから、もう少し様子を見てもいいかもしれません」
「……本当に大丈夫なんですかぁ?」
「ええ。一応スセリヒメノミコト様から、彼の簡単な情報は頂いてますので」
「へ? あの女神がですか?」
「ええ」
実は半月ほど前にスセリが1人でギルドを訪れ、フロルに関する情報を提供してきたのだ。
本当に最低限の情報だけだが。
「彼が眷属になったのは一年前。先月冒険者登録するまでは、スセリヒメノミコト様と鍛錬を行っていたそうです」
「……」
「まぁ、なのでスセリヒメノミコト様は彼が死なないようにしっかり目を光らせている、と考えてもいいでしょう。【ロキ・ファミリア】の方々の話では、彼自身も子供にしてはかなりしっかりしているようですし」
スーナはフィン達からも話を聞いていた。
そこで聞いたのは見た目とはかけ離れた評価だった。
『彼は本当にヒューマンの子供なのか疑ってしまうね。小人族と言われた方がまだ納得できるよ』
『そうじゃのぅ。戦い方はまだまだ拙いところはあったが、かなり洗練されておった。儂らにも臆さず、言い返してきよったしなぁ! がっはっはっはっ!!』
『精神面もあの年齢にしては、かなり成熟されているように思える。決して無鉄砲ではなく、己の身の丈を熟知している』
『絶対に退いちゃいけない時を理解している。彼は決してステイタスに振り回されることなく、堅実に成長していくだろうね。正直、うちに欲しいくらいだよ』
【ロキ・ファミリア】首脳陣のべた褒めに、スーナは驚きに目を丸くした。
【勇者】フィン・ディムナに欲しいと言わせる駆け出し冒険者の少年。
故にスーナは彼の成長をサポートするつもりだったのだが……見事に警戒されてしまった。
「……正直なところ、わたしも彼に会った時、本当に子どもなのか疑問を感じました。彼のアドバイザーをするには、もう少し情報が欲しいですね」
いきなりギルド職員に声をかけられても、動揺することなく冷静に……いや、冷徹と言えるほど揺らぎなく対応された。
正直、何をアドバイスすればいいのか分からなくなった。
「今は彼がダンジョンから無事に帰還することを祈りましょう」
フロルはこのオラリオに何か新しい風を呼び込むかもしれない。
スーナはそんな予感を抱いていた。
スーナさんはオリキャラ。ローズさんは原作キャラです