【ライトニング・サムライ】~転生者はダンジョンで英雄になりたい~ 作:独身冒険者
あれから2週間。
俺は毎日ダンジョンに挑んでいた。
到達階層は6階層まで許可されている。
ちなみに今のステイタスはこんな感じだ。
フロル・ベルム
Lv.1
力 :G 201 → G 278
耐久:G 208 → G 252
器用:H 199 → G 269
敏捷:G 295 → F 371
魔力:I 0
《魔法》
【】
【】
《スキル》
【輪廻巡礼】
・アビリティ上限を一段階上げる。
(・経験値高補正)
なんか凄いことになってるよな。
一週間でここまで上がるとか絶対おかしいよ。
ベル・クラネルほどではないけど、十分それに匹敵する上昇値じゃないか?
全然ペース落ちないし。
【輪廻巡礼】の隠れ効果じゃないのかと、スセリ様は言ってたけど……。
本当にその可能性はあるかもしれないな……。
アビリティ上限を上げる。
それは『SSランクまで上げられる』というだけでなく、『俺の成長限界のアビリティ上限をも上げるのではないか?』というものだ。
それに合わせて熟練度の上昇値も増えているのでは? というのがスセリ様の考察だ。
まぁ、ありがたいことではあるし、俺はステイタスを得て1年経ってるから今のステイタスはそこまでおかしいわけじゃない。
これでもまだスセリ様には勝てないんだから情けない気持ちがまだ強い。
マジ技ってスゲェ。
ということで、今日も頑張ろう!
6階層はこれまでと違って、壁の色が淡い緑だ。
出てくるモンスターも厄介になってきた。
特に6階層で現れるようになる『ウォーシャドウ』が難敵だ。
ヒューマンのような影の身体に非常に鋭い爪を持つモンスターで、身長は160Cほど。
俺からすれば大人と戦うのと何ら変わらない。
強化種コボルトよりも動きは遅いけど、数が多いから厄介なんだよな。
『……!』
『!!』
2体のウォーシャドウが俺に向かって爪を振り下ろす。
俺は跳び下がって躱すも、背後で風を切り裂く音が聞こえて、反射的に横に転がる。
そこに黒い爪が突き刺さる。
完璧に囲まれたか……!
俺は眉間に皺を寄せて、二振りの脇差を構える。
俺の周囲には5体のウォーシャドウがいた。
これまた運が悪いことに2体のウォーシャドウと戦おうとした時に、壁から生まれたのだ。
面倒だけど、やるしかない!!
『!!』
「っ!! はぁ!!」
俺は左から迫るウォーシャドウの攻撃を躱し、振り向きざまに右手の脇差を顔面の鏡面目掛けて投げる。
バキィン! と鏡面のド真ん中に突き刺さって頭を仰け反らせる。
俺は仰け反った胸に飛び乗って、脇差を引き抜きながら跳び上がり、隣のウォーシャドウに斬りかかる。
「はあああああ!!」
全力で振り下ろして、ウォーシャドウを縦に両断する。
後ろに数歩下がり、一度呼吸を整える。
直後、右からウォーシャドウが爪を振り下ろしてきた。
俺は右手の脇差を振り上げて、爪を弾く。
しかし、ウォーシャドウはもう一方の爪で斬りかかってきて、俺も左の脇差で対応する。
ウォーシャドウは連続で両腕を振り回し、俺も必死に二振りの脇差で切り払う。
これはよろしくない……!
ウォーシャドウが右腕を振り上げた瞬間、身を屈めて一気に足元に飛び込む。
そして股の間をすり抜けながら、ウォーシャドウの右脚を斬り飛ばして背後に回る。
身を屈めたまま反転し、両脚に力を込めて全力で飛び上がりながら脇差を振り上げて、今度は下から縦に両断する。
後2体!!
だが、そこに1体のウォーシャドウが右腕を突き出してきた。
「っ!?」
俺は胸の前で脇差を交差させるが、空中にいたため堪え切れずに後ろに吹き飛ばされて壁に叩きつけられる。
「がっ!? !!」
『!!』
ウォーシャドウが素早く俺に詰め寄って、左の爪を鋭く突き出してきた。
俺は顔を傾けながら右手の脇差を立てて、ウォーシャドウの爪を逸らす。
ピキッ!
何やら嫌な音が響いて、俺の右頬を裂いてウォーシャドウの左手が壁に突き刺さる。
「っ! つぇあああ!!」
俺は叫んで、両手に握る脇差を逆手に持ち替えて地面に突き刺して、身体を持ち上げながら右足を鋭く顔面目掛けて振るう。
『!?!?』
俺の右足は寸分違わずウォーシャドウの鏡面を蹴り砕いた。
そして、俺は脇差を放置して、最後の一体に全速力で攻めかかる。
『……!!』
ウォーシャドウは鋭く右爪を突き出す。
俺はそれを再び右頬の薄皮一枚削られながら懐に潜り込み、突き出された右腕を両手で掴む。
そして、反転しながら左足払いを繰り出して、ウォーシャドウの右足を蹴り払う。
同時にウォーシャドウの右腕を抱えて、
「おおおおおおお!!」
ウォーシャドウを背負い投げた。
『!?』
頭が下になったウォーシャドウは壁に叩きつけられる。
俺は投げた勢いを利用して前に飛び出し、一気にウォーシャドウに詰め寄った。
「つぅりゃっ!!」
そして全力で右拳を振り抜いて、ウォーシャドウの鏡面を殴り砕いた。
『!!!』
ウォーシャドウは全身が灰に変わり、魔石が転がる。
「はぁ……はぁ……はぁ………ふぅ……流石に6体同時はまだキツイか……」
素早く魔石と武器を回収する。
しかし、
パキン!
と、脇差の一振りが刀身半ばで折れた。
「げ……」
さっきの音はヒビが入った音だったのか……。
手入れはしっかりしてたつもりだったけど……防ぎ過ぎたか。
「はぁ……」
ため息を吐いて、折れた脇差を背中の鞘に納める。
もう一振りの脇差の状態を確認し、こっちは問題なさそうだと判断する。
けど、今日はここまでだな。
もう一振りあるとはいえ、こっちもいつ折れてもおかしくない。
無理は禁物だ。
……金が飛ぶなぁ。
仕方ないとはいえ、やっぱり気が滅入る。
多分、最近の稼ぎ吹っ飛ぶんだろうなぁ……。
「はぁ~……」
俺は大きくため息を吐き、肩を落としてダンジョンを後にするのだった。
案の定というべきか。
今回の稼ぎは12000ヴァリス。
俺はそのままバベルの上層階に上がり、【ヘファイストス・ファミリア】のテナントで埋め尽くされているフロアにやってきた。
ここはまだ駆け出しの鍛冶師達が造った武具が並べられているため、【ヘファイストス・ファミリア】の武具としてはとっっっても安い。
もっとも【ヘファイストス・ファミリア】は主神が認めた武器でない限り、【ヘファイストス】の名を武器に刻むことはできない。
でも、ここに置かれているのは【ヘファイストス・ファミリア】が売ってもいいと認めた商品でもある。
駆け出し冒険者にとっては安くて、身の丈に合う質が保証されている武具が手に入り、駆け出し鍛冶師は自分の武具を実際に手に取ってもらうことで生の声を聴くことが出来、場合によっては専属契約が可能となるためモチベーションを上げられる環境でもある。
まさにWIN―WINの関係って奴だ。
俺はその中の一店。
極東系の武具が並べられている店に足を踏み入れる。
ここに来たのは3度目。
俺は武器のコーナーに歩み寄って、脇差を探す。
予算は手持ちの12000ヴァリス。そこそこのものは買えるはずだ。
「お、あった」
目の前に鎮座しているのは三振りの脇差。
俺はまず一番近いものを手に取り、早速鞘から抜いてみる。
シャランと音を響かせて、その身を晒す。
白銀に輝く刀身に、穏やかな刃紋が目に映る。
……重さは問題なし。握りもちょうどいい。
俺は周囲を見て人がいないことを確認し、上段に構えて素振りをする。
……うん。バランスも前のと変わらない。
値段は…………12000ヴァリス。手持ち全部、か……。
残りの脇差も見てからにしよう。
鞘に納めて元の位置に戻し、次は右隣りの一振りを手に取る。
……ちょっと重いな。いや、鞘が少し重いのか?
値段は10000ヴァリス。
抜いてみるとフッと軽くなる。
刀身は先ほどのと比べると輝きが鈍いな。軽く振ってみるも、重心が俺が使ってる脇差より切っ先側にあるので、大振りすると手首に負担がかかりそうだ。
申し訳ないが、これはなしだな。
最後のは11000ヴァリス。
刀身は他のと比べてやや薄目で、ちょっと長い。そのせいかバランスは悪くないけど、ちょっと違和感がある。
ん~……そうなるともう一本欲しいところだ。
ということで、俺は最初の一振りにすることにした。
それを持って会計のカウンターに向かい、カウンターに置いた時。
「おい、チビ」
「ん?」
横を向くと、頭にバンダナを巻いた目つきの悪い青年がいた。
眉間に皺を寄せて、俺を睨みつけている。
雰囲気的に鍛冶師なんだろうけど……。
「何か?」
「テメェ、なんで俺の脇差じゃなくて、そっちを選んだんだよ」
「え?」
「これだよ、これ! 俺の武器の方が安いし、いい出来だろうが!!」
彼が持っていたのは、俺が二回目に品定めした脇差だった。
そう言われてもなぁ……。
ちらっとカウンターの向こうにいる店主に目を向けると、『あぁ……またか』って顔をしていた。
いや、止めてよ。
「おい!! なんか言いやがれ!!」
「……そう言われても……これが一番手に馴染んで、使い慣れたバランスだったので……」
「テメェみたいなガキがいっちょ前なこと語るんじゃねぇよ!!」
「……そう言われても……命を預ける武器ですし……」
冒険者なんだから当然だろうに。
俺は内心で呆れていたが、まぁ、こんなガキに品定めされるのも嫌っていうのも分かるけどさ。
「なんだなんだ。随分と賑やかではないか」
そこに新しい声が響いてきた。
店主とバンダナ男は弾かれたように声がした方に顔を向けて、目を丸くした。
「ふ、副団長……!」
黒い髪に褐色肌の女性がいた。
豊満な胸にさらしを巻いて、極東の衣装を着ており、左目は眼帯に覆われていた。
確か……椿・コルブランド。
アニメでは【ヘファイストス・ファミリア】の団長にして、【
今はまだ副団長らしい。Lv.4辺りなのだろうな。
「店の外にまで声が響いておったぞ? っと、なんだ? 随分とめんこい客だのぉ」
椿さんは俺を見つけて、面白いモノを見つけたように口を吊り上げる。
……なんだろう。スセリ様を思い浮かべてしまった。
椿さんは俺に歩み寄ってきて、俺を上から下まで見下ろす。
そして、カウンターに置かれている脇差に視線が映る。
「ふむふむ、なるほど。その脇差を買おうとしたところに、こ奴が難癖付けてきたというところか?」
「お、俺は難癖なんて……!」
「あぁ、黙れ黙れ。言うたであろう。外まで声が聞こえておったとな」
椿はメンドくさそうに右手をヒラヒラと振って、バンダナ男の言い訳を封じた。
そして、興味を再び俺に戻す。
「今使っておる脇差では物足りなくなったのか?」
「いえ……使ってた脇差が折れてしまって……」
俺は背中の脇差に視線を移しながら理由を語る。
「ふむ」と呟いた椿さんは徐に俺の背中に手を伸ばして、折れた脇差を抜いた。
「ほぉう。これは見事な折れっぷりだ」
「……」
「だが、丁寧に手入れをしていた跡がある。それにこの折れ方は未熟であったのも確かだが……
流石は最上級鍛冶師。
見ただけで全部分かるんだなぁ。
「もう一振りの方も見せてみよ」
「え? はい……」
俺は言われるがままに逆手で腰の脇差を抜いて、そのまま柄を突き出して差し出す。
椿さんは折れた脇差を左手に持ったまま、右手でもう一振りの脇差を手に取る。
「……ふむ。どうやら、お前は二刀流のようだな。こちらも手入れはされているが、大分くたびれている」
「……そうですか」
まだ数える回数しかダンジョンに潜ってないんだけどなぁ。
スセリ様との修行で酷使しすぎたか?
「武器は確かに手入れすれば長生きはするし、重要なことであるが……結局は消耗品。砥げば薄くなるし、脆くなるのが定めよ」
そう言いながら椿さんは鋭い目つきで、脇差を隅々まで観察していた。
「ふむ……そうだのぉ……。坊主、名前は?」
「……【スセリ・ファミリア】フロル・ベルムです」
「スセリ? もしやスセリヒメノミコト様か?」
「はい」
「おお! なんと! 極東の女神がこの地に参られておったとは。その眷属とはこれまた面白い!」
「はぁ……」
「まぁ、それは次の機会にでも話すとするかぁ。さて、フロ坊。手前から1つ提案がある」
フロ坊て。
「提案、ですか?」
「うむ。この二振りの脇差を使い、新たな脇差を造らぬか?」
「!!」
俺は目を丸くする。
椿さんはニヤリと笑みを浮かべ、
「武器としては死にかけておっても、鉄としてはまだ生き生きとしておる。打ち直せば、新たな命として生まれ変わろう。脇差一振り分には十分だ」
「……けど、お金が……」
「何を言っておる。この素材はお前の持ち込みだ。金など要らん。それに手前が打つ訳ではないぞ? その脇差を造った鍛冶師に手前が伝えておこう。明日にでも取りに来るがいい」
「はぁ……」
「ではな、フロ坊。また会うのを楽しみにしておるぞぉ! はっはっはっはっはっはっ!!」
俺は椿さんに鞘を渡し、椿さんは高笑いしながら俺の脇差を持って去っていった。
完全にバンダナ男さんは放置されてるけど……。まぁ、もうこれ以上言いがかりなんて言えないだろうし、いいか。
俺は脇差を購入して、腰に納める。
また絡まれる前にさっさとバベルを後にして、本拠へと戻る。
そして、今日あったことをスセリ様に報告する。
「ほぅ……ヘファイストスのところの副団長に会うたのか」
「すいません。勝手に武器を……」
「構わん構わん。何度も言うた通り、あれは別に特別な物でも何でもないでの。格安で武器が新調出来たのじゃ。喜ぶべきであろうて。それに最上級鍛冶師がわざわざ手配してくれるんじゃ。幸運に思わねば罰が当たるぞ」
「はい」
「さて、ステイタスを更新しておこう」
「はい!」
そして、ステイタスを更新したのだが……。
フロル・ベルム
Lv.1
力 :G 258 → G 281
耐久:G 237 → G 262
器用:G 249 → G 275
敏捷:F 362 → F 388
魔力:I 0
《魔法》
【】
【】
《スキル》
【輪廻巡礼】
・アビリティ上限を一段階上げる。
(・経験値高補正)
……やっぱりおかしいって。この上昇値。
ありがたいんだけど、何か理由がはっきりしないから嫌だな。
スセリ様はもう気にすることを止めたようだけど。
それくらい図太くなれってことか……。
よし! 俺も無視しよう!!
翌日。
店を訪ねると、店主がすぐに俺の前に脇差を差し出した。
パッと見では何も変わっていないように見える脇差。
どうやら鞘、鍔、柄はそのまま使い回したようだ。まぁ、金が要らないってなるとそうなるよな。
だが、刀身は完璧に生まれ変わっていた。
前より輝きが増した気がするな。
俺はそれを背中に差して、ダンジョンへと向かうことにした。
のだが……。
「あ!! 見つけましたぁ!!」
エレベーターから降りて、地下に向かおうとしたところで快活な声が響き渡る。
無意識にその声の方へと目を向けると、薄緑ポニーテールのエルフの少女が輝かんばかりの笑みを浮かべて俺の方へと駆けて来ていた。
っていうか、あの子……。この前助けた子じゃないか。
ん? ってことは……。
予想通り、エルフの少女は俺の前で足を止めた。
「あの時は助けて頂いてありがとうございました!!」
ガバッ!と頭を下げる少女に、俺は困惑するしかなかった。
「……もう大丈夫なんですか?」
「はい! もうバッチリ治ってます! ああ!? ご挨拶が遅れてしまいました!! 私、【ミアハ・ファミリア】のテルリア・リリッシュと申します!」
【ミアハ・ファミリア】……。
これまた聞き覚えがあるファミリアだな。
確か薬剤系ファミリアの1つで、アニメでは借金漬けになって一気に零細ファミリアに転落していたが、この時期はそれなりの勢力を持つファミリアだったはずだ。
主神のミアハ様はかなりのお人好し、いやお神好し?で、ベル・クラネルにただでポーションをあげていた。
……実はスセリ様に拾ってもらう前に一度訪ねたんだが、団員に門前払いされたんだよなぁ。多分、ミアハ様には伝えてないんだろうけどさ。
「ってことは、この前亡くなった方々も?」
「あ……。いえ、あの方々は別のファミリアの方でした。私はサポーターとして活動してまして……サポーターとしてお手伝いする見返りに薬の材料の採取を手伝って頂いてたんです……」
なるほど……。まぁ、運が悪かったとしか言えないな。
「それであれからしばらくミアハ様に静養ってことでホームで大人しくしてなさいって言われちゃって……」
ミアハ様って過保護って言われるくらい、下界の子に優しいからなぁ。自分の眷属となれば尚更だろう。
借金漬けになったのだって、腕を失くした団員の治療の為だった筈だし。それで殆どの団員に出て行かれたらしいが。
「けど、昨日ようやく外出が認められまして! それであなたにお礼をと!!」
子供相手にさっきからスゲェ礼儀正しいな。
……もしかして小人族と思われてる?
「それでですね!! 恩返しとして、私をサポーターとして雇っていただけませんか!?」
「へ?」
「もちろん稼ぎの取り分は全部あなたで構いません!! ただ、これまで同様薬の材料の採取は許していただきたいです!!」
いやいやいや、取り分ゼロで良いって本気か?
薬の材料見つからなかったら行き損じゃん。
それに俺が行ってる階層に材料あるのか?
「俺ってまだ6階層までしか降りられないんですけど……」
「問題ありません!」
ホントか?
俺からすれば凄いありがたい提案ではあるが……。
……まぁ、いいか。
正直数回ついてきてくれれば、それでお礼としては十分だろう。
そこで改めて契約すればいい。それまでにスセリ様にミアハ様に声をかけてもらってみよう。
ということで、俺はテルリアさんの申し出を受けることにしたのだった。