マルメロ家だいすき日記2022〜2023   作:大野 紫咲

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※今話の最終ページですが、ここからは「オレンジの片割れ」関連の話が多め。あまりモンハンの話題はないです。
※改訂版の「オレンジの片割れ」本文では、ヨアと暁人の関係性については一話からお互いに知ってるような状態ですが、この短編はその設定が出来る前に書いた話なので、いわゆるちょっとメタい反応をヨアさんがしている事になります←

夢から覚めて、自分の住む現代世界へ帰ったムラサキ。
ヨアに尋ねられ、夢で出逢った「彼女」との意外な繋がりを、ムラサキは話し始めた。


其は、いにしへの君【MH×マルメロ家】(4)

*****

 

「さあ……て。どこから話したもんか」

 

 棗と小姜を入れた中国茶にお湯を注いでくれた紫咲は、干し杏のお菓子である陳皮梅をボクの前に一つ置いて、炬燵に入り小首を傾げた。どれも頂き物らしいが、どこか漢方薬めいた味がするこの干し杏は、体にもいいらしい。

 

 最近のムラサキは、いつもと変わらないながら、ボクにはわからない難しそうな本やら、変な文字の書かれたWebサイトやらを眺めて、よく唸っていた。それが常識の範囲内ならまだしも、たまに夜中の1時とか2時とか睡眠時間を削ってまでタブレットに向かい、風呂に入っていても夕飯の支度をしていても、ずーっとどこかの世界に向かって喋り掛けているもんだから、さすがのボクも業を煮やしたくもなる。

 しかも、夢の中であいつに会ったって言うんだから、尚更。

 まあ、小説家としてのサキにはよくあることなんだけどね。

 

「私が考える世界の成り立ちっていうのは、そう簡単に一から順に話して全部をスッキリ解説できる感じじゃないんだよね。後から付け足したり、変わったりするし…… 。創作って、生物なんだよね。

だから確定段階になるまで、あまりTwitterとかで話さないようにしてるんだけど」

「それでもいいから、聞かせてみてよ。あんたが一人で抱えてるのも大変そうだし」

「そうなのよ〜。出来上がるまで待ってたら、頭がパンクしそう。

そうね……夢は夢。けれどそれは、誰かが語らなければ形にはならないから」

 

 そう言って、ムラサキは杏を一口齧った。

 ここへ越してくる前の喫茶店で売っていた、緋色の小さなティーカップからお茶を啜って唇を湿してから、ムラサキは言う。

 

「ヨアさんがモンスターハンターの世界に行き始めてから、あの世界での君が、どうやら君本人ではなく別個の人生を持っているらしいという話は、したよね?」

「ああ……そういえばそういう話だったね。ボクも、薄々そんな気はしてた。体の造りも、全然違うしね。いくら似てても、〝異世界のボク〟と思うには少し違う気がする。

……もしかしてムラサキは、あれが誰かを調べてたの?」

 

 それとなく温湿度計に目をやってからストーブの温度を上げ、肩にカーディガンを羽織らせたボクにお礼を言ってから、ムラサキは言った。

 外は相変わらずの冬空だ。去年いた場所と違って、天気はいいけどね。

 

「そう。それでね、安直な発想だけど、多少の違いがあるとはいえ外見的特徴が似るってところから考えて、真っ先に思いつくのは血縁者関係でしょう」

「まあ、血が全てではないけど、遺伝的特徴は無視できないし、納得はするかな」

「それでまあ……さすがに両親とも調べるのはエグい事になりそうだったから、君のお父さんの家族関係図を一部遡ってみたのね。

ざっと六……七代前くらいかな。時代で言うと江戸末期ぐらいなんだけど」

「なんて??????????」

 

 途中まではわかったはずなのに、途中で一気にわからなくなった。

 公式でさえ父親の苗字くらいしか出てないのに、この人、江戸時代までボクのルーツを遡ったって言った???

 眠そうに目を擦って、ムラサキは炬燵の横にあったリングファイルを引き寄せる。文字がいっぱいに印刷されたルーズリーフを捲って、一枚の手書きのページを出す。

 そして、顔を上げてボクを見た。

 

「昨日会った女の子、(かんば)望寧(もね)って名前だったんだ。聞き覚えある?」

「!!! ……樺って、もしかして」

「そう。君のお父さん……(かんば)幹人(みきと)さんは樺家の人だよね。それで」

 

 心臓が、急に早鐘のように鳴り出す。

 彼女は、その中にある家系図の名前を下から指差して順に辿った。

 

「望寧さんは、ここ。生まれは大正4年。

君から遡って四世代目だから、君の高祖母……ひいひいおばあちゃんに当たる人だよ」

「おばあちゃん……あの、人が?」

 

 にっこり笑ったサキに、痺れたようにおうむ返しすることしかできない。

 けれど、あそこはこの世界とも、ましてやボクの生まれた世界とも違ってて。

 そう口にしようとする前に、ムラサキが片手を出した。

 

「おっと分かってる。君やお父さんは絶対あそこの生まれじゃないって言うんでしょ。

それについては、昨日望寧ちゃんに聞いた。ひいおじいさんの代から、ひょんなきっかけであの世界に移住してきたって。

だから、私はこう考えてる。〝境目〟を越えてモンスターハンターの世界へ行ったのが私の会った望寧ちゃん一族で、そこが異なる世界軸の分岐点だったんだ。君に連なる望寧さんは多分、現代日本で生き抜いた樺家の人なんだと思うよ」

 

 手渡された家系図は、その前も後ろも名前が埋めてある。

 ぼきぼきと肩を回して鳴らしながら、ムラサキは目の間を揉んだ。

 

「まったく、大変だったんだよ。君のご先祖様については、一ヶ月以上前から話には聞いてたんだ。頭の中で話し掛けてくるだけで、今んところ外に出す気はなかった。

でも、モンハン世界の君を知ろうと思った時に、なんとなくそこ繋がりの人なんじゃないかと思ってね。世界観的に。江戸とか明治の生まれの人なら、あの世界にも違和感なく溶け込めそうでしょう。それで纏めようと思ったんだ」

「それで……この紙……」

「うん。けど、その人たちの事を深く知ろうにも、親やきょうだい、娘やそのまた下の代……次々に見ていかないと整合性が取れなくてね。程度の差はあるけど、結局七代全員、一人ずつ顔と名前見て話する羽目になっちゃったよ。生きてる時代も江戸・明治・大正・昭和・平成・令和に跨ってるしさ。もうほんと大変だった」

「そりゃそうだろうね!?!?!? そのためだけに毎日色々調べて本読んでたの!?」

 

 相変わらず手抜きが下手すぎやしないだろうか。

 それでも自信なさげに、ムラサキは首を振ってみせる。

 

「いや〜、そんな大したことは。時代背景を知るのに殆どウィキペディアかネットの記事漁って格闘してただけだから、信憑性はあんまないよ。

あとはこの本買って、国立国会図書館とか国文学研究資料館のページもちょいちょい覗き見したけど……このレベルまで時代考証するのは、一週間じゃどうにもなるはずないからねぇ、どうしよっかなって感じ。

まさか、大学時代にやったような事を今やるとは思わなかった」

 

 あくびをしながら手渡された分厚い本に、「華族家の女性たち」と書いてある。

 なんでこんな本読んでるのかと思ってたけど……まさかボク絡みだったなんて。

 文字に目を落としながら、ボクはぽつりと呟いた。

 

「それで……あんな……」

「どうかした?」

「あの世界にいるもう一人のボクが……モネが、夢に出てきた事があったんだ」

 

 この話は、ムラサキにはまだしてなかったと思う。

 目を丸くしてぱちぱちさせるサキの顔を、ボクはじっと見つめた。

 ふと、手元に抱いたあったかいティーカップに、ボクは視線を落とす。

 

「狩りが全然上手くいかなくて。武器も振ってるのに全然当たらないし、直生たちに助けられてばっかりで。このままじゃ、いつまでもハンターとしてはやっていけないんじゃないかって……里の人にも見放されるんじゃないかって、本当はボクを邪魔だと思ってるんじゃないかって思ったら、怖くて動けなくて。

家の中で蹲ってるうちに、寝ちゃったみたいで……そしたら、変な夢を見た。

夢の中に、ボクが乗り移ってるはずのもう一人のボクが現れて、言うんだ。

『君に、その武器は向いてない』って」

 

 カムラの装束を身に纏ったボクは……モネは、ボクに笑って言った。

 『太刀はひいお祖父様の得意武器だったから、僕もそれを習った。

  けれど君の振り方は、曽祖父よりは恐らく父に似ているよ』と。

 そして、ボクに狩猟笛を手渡したのだ。

 

「『父上は、踊り子を演るのが好きな人でね。先ずはそれに慣れると良い。

  君も、舞の方が得意だろう。だったらその武器は多分合っている。

  自分の持ち味を活かして闘えば良いんだ。刀に慣れるのは、それからでも遅くない』

 って……そう言ってくれたかな。だからボクは、あの日狩猟笛を選んで……」

「そうか。オサイズチ討伐の裏には、そんなエピソードがあったのね」

 

 ムラサキの瞳が楽しそうに、幸せそうに緩んでいる。

 きっと彼女も、何かしらモネに助けられたんだろう。それが、遠縁とはいえボクの血筋らしいとは、なんとも不思議な気持ちだけど。

 

「ああ、そう、それとね。もう一つ、こっちはモンハンに関係ないけど、調べていたら副次的に面白いことがわかっちゃったんだよね」

「面白いこと?」

 

 ボクが胸のあたたかさに浸っていると、サキが何とはなしにそんな事を言い出した。

 家系図の中で、ボクがさっき見ていなかった傍系の方へ注意を促す。

 

「君のおじいちゃん……つまり望寧さんにとっては孫に当たるわけだけど、その人から生まれたのが、幹人(みきと)さんと人愛(とあ)さん。二人兄妹だったのね」

「ああ……そういえば叔母さんがいるって聞いたような。小学生の時に親は離婚してたから、あんまり覚えてないけど」

「んで、人愛さんも後にIT系の起業者と結婚されてます。旦那さんの苗字は羽多野さん」

「……ちょっと待って」

 

 嫌でも知っている名前が出てきて、体が硬化した。

 青ざめているボクに向かって、サキはにやりと口角を上げた。

 

「それで、人愛さんと羽多野さんの間には、子供が生まれた。

長男の英人(えいと)くん、次男の暁人(あきと)くん、長女の人羽(ひとは)ちゃんの三人きょうだい。

よかったね。つまり君と暁人くんは従兄弟同士だ」

「ばっ……!?!?!?」

 

 あまりの事で、口をパクパクさせるしかできない。息を吸うのを忘れそうだ。

 

(は、羽多野が、ボクの従弟だってぇ……!?)

 

 正直、ひいひいおばあちゃんの話題を聞かされるより衝撃だったかもしれない。

 完全にボクを置いてけぼりにしたままで、ムラサキは首を捻っていた。

 

「でも、いとこを全く知らないって最近の家ではあんまりない気がするんだけど。こう言っちゃ何だけど、よっぽど親族関係希薄だったんだねぇ」

「父も母も、そういうの鬱陶しがる人だったから……っでも、それにしてもこんな……ッ、暁人はっ、なんでっ、」

「多分だけど、知ってて黙ってたんじゃない? あの人。

だって、会社経営の人なら、当然部下の経歴とか調べるでしょ? 身辺調査とかも入れるかもしれないでしょ?

その時に君との繋がりに気付いてても、私はおかしくないと思うんだけど……」

「だあああああッ、もうッ……!!!!!」

 

 なんか!!! ものすごく複雑な気分なんだけど!!!!!

 でも……ボクは本当に朧げにしか覚えていないけれど、そういえば昔、まだ父も母も不仲ではなかった頃、家に遊びに来たきょうだい数人と一緒に遊んだ記憶が、あるようなないような……今となってはどうでもいいと思って気にした事もなかったけど、まさか、あの中に羽多野がいたなんて。

 正直、友達か同僚としか思ったことない。

 次に会った時にどんな顔して会えばいいんだ。

 うぐぐと肩に力を込めて唸るボクの肩を、ムラサキが優しく叩いた。

 

「まあまあ。そんな身構えなくても、分かったからって何かが変わるわけじゃなし。こんな事知らなくても、君たちは元々仲良しだったんだから要らない情報かもしれないけど、もっと仲良くなる切欠とか話の種にでもなれば嬉しいなって」

「いや、要らないからそんなん……だいたい仲良しじゃないしっ」

「わかったわかった」

 

 何故だかムラサキは、机に肘をついて嬉しそうにしている。

 まあ、ここまで調べ上げるのは大変だっただろうし、無理もないか……。

 改めてボクは、モンハンの世界で撮った直生とベルの写真を眺めた。ボクもサキも、移動しながらのカメラの扱いに全然慣れてないし、そもそもそれどころじゃなくて、自分の写真が全然ないんだけど。

 でもたまには、記念撮影ぐらいいいかもな。家に飾れるらしいし。そしたらモネも、ボクがどれだけ狩ったのかって分かるだろう。……倒して里に戻るまでの間に、ちゃんといいアングルを探して、みんなで撮影できるのか疑問だけど。時間が掛かり過ぎてモンスターの剥ぎ取りまで丸々忘れちゃったら、モネにまた大笑いされるかもしれない。

 『(しっか)りし給え。何の為に討伐まで赴いたんだい』って。あいつならそう言いそう。

 不意にそんな笑顔が浮かんで、ボクは隣に座っているムラサキをぎゅっと抱きしめていた。くっつけた頬が、ふにふにしてあったかい。

 

「……ありがと」

「おわわわぁ。え、どしたの、どしたの」

「……なんか、嬉しかった。そこまでボクのことを、大事にしてくれて。

あんたのおかげで、見えるものが沢山あると思ったら……世界は広いんだなって」

「ああ……ううん、私が好き勝手やりたいことやっただけだよ。

たとえ家族同士だって、嫌いな所もいっぱいあるし、むしろ好きって思える家族なんて、物語くらいにしか存在しないのかもしれないけど。

それでもせめて、君には幸せでいて欲しい。望寧ちゃんはいい人だよ。きっと先代も、そのまた先代も」

 

 そして、あらゆる縁が繋がるようにと心を砕いてくれるムラサキの、一生懸命な姿が、ボクは好きなんだろうと思う。

 こんな小さな背中が、消えてしまいそうなほど細い体が、いつも勇気を与えてくれる。

 空になったカップを置いて、ボクは大きく伸びをした。

 

「さて。今夜も一狩り頑張ろうかな」

「ほどほどに、無理せずにね」

「それはあんたもだからね? やる事多いのはわかるけど、たまにはちゃんと休まないと」

「そうね。望寧ちゃんを見習って、よく食って寝た方がいいかも」

 

 そう言って、サキは照れたように微笑んでみせる。

 そういえば、ムラサキはモテるから仕方ないけど、夢の話を聞く限り、もう一人ライバルが増えたような感じがしなくもない。だって最近のゲーム中、画面越しにボクの〝外側〟を見つめるサキが、やたらぼーっとなったり慌てて目を逸らしたりするようになったから。

 その理由がやっと今日の話でわかったけど、ボクは若干複雑な気分になる。いや、ゲームしてる間の中身はボクなんだけど、それにしても。

 

「……負けないからね」

「えっ?」

「たとえおばあちゃんが中身までイケメンでも、ボクは絶対に負けないからっっ」

 

 突然の宣言に目を白黒させるサキの隣に、ボクも無理やり体を割り込ませて炬燵の熱を拝借したのだった。

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