血の医療は救いとなるのか   作:4R1ES

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死滅回遊からのキャラが出ます。ご注意ください。
アニメには登場済みです。


#21 恩寵(交流会2)

 

 

 

 学長と教員たちが待機するモニタールームで、パンダと(むた)の映る画面を見ながら話していた五条が、歌姫に振り向いた。

 

「え? 日本全土の術式範囲を捨てたの?」

 

 珍しく驚いた様子を見せる五条が真剣に聞き返すが、楽巌寺と歌姫は眉間のシワを揉んで黙る。

 

 有用な天与呪縛を捨てるという、術師としては最悪の選択。だが……。

 

「でも、まあ……僕もそうするかな」

 

 狩人でよかったねと告げる五条に、歌姫がうなずく。

 

 “傀儡操術(かいらいそうじゅつ)”を好みそうな上層部の一人である楽巌寺は何も言わないが、何も言わないということは、彼としても同意見なのだろう。

 

 

 

 そうこうしているうちに、(むた)の金槌がパンダの腕を吹き飛ばし、夜蛾の表情が引き攣った。

 五条はそれに気付かないふりをしながら、歌姫に問いかける。

 

「ところで……彼は力加減とか知ってるタイプだよね?」

 

 憂太と里香、恵を見ていると思う。肉体が傷つくことへの抵抗感が薄いと。

 これは狩人たちに与えられた恩寵、輸血による肉体の回復が原因だろうが、怪我を恐れないというのは危険行動にも繋がる。

 

「……着火してないから大丈夫でしょ」

 

「うわぁ……」

 

 夜蛾から小言を言われる未来を想像していまい、深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。すでに歌姫はあきらめの境地にいた。

 

 

 

 

 

 冥冥が真希の体術を気に入った様子を見せ、()()()禪院家が邪魔をするせいで階級が上がらないと五条が説明する中、真希との戦闘で呪具の刀を失った三輪の姿がモニターに映った。

 素手喧嘩(ステゴロ)でも呪霊を祓えるように同級生から鍛えられている彼女の手には、呪力を込めたベルトが手甲のように巻かれている。

 その意気やよしと見守る教師たちの視界の端で、呪霊が払われた証である呪符の消失が一度に起こった。

 

 恐らく外部の人間による、不測の事態。

 すぐに立ち上がった夜蛾が、室内の各員に役割を割り振って行動を開始する。それから構内にいる術師にも応援を頼むように、伊地知へ声をかけた。

 

 

 

 

 

 “帳”の下りた森の中を、金髪をサイドテールにした細身の男が駆ける。

 目元には刺青のような模様が三つずつ刻まれており、手には自身の手を握り返すように設計された、柄が人間の手の形をした刀が握られていた。

 

 彼の名前は重面(しげも)春太(はるた)。「自分には弱い者イジメがあっている」と豪語する、正真正銘の呪詛師である。

 

 今日の重面の仕事は、今、下りている嘱託式の“帳”の状態を確認すること。

 呪術師たちと戦う必要はないが、未熟な学生たちを相手にするのも面白そうだ。

 

 そんなことを考えていた重面の体が、側面から飛んできた何かとぶつかり、茂みの方へと弾き飛ばされた。

 

 

 

「殺した手ごたえやってんけど……死んでないね」

 

 そう言って先ほどまで重面のいた場所に立ったのは、スタンドカラーのシャツに着物と袴をあわせた書生服姿の若い男。

 髪を暗めのトーンの金色に染め、ピアスをした出で立ちは良家の者には見えないが、正真正銘の禪院家「炳」の筆頭、禪院直哉である。

 

 直哉の視線の先で、呪詛師がのそりと起き上がった。

 土埃にまみれ、髪も乱れているが外傷は見当たらない。反転術式が使えるような術師には見えないとくれば……。

 

「狩人か? 血の恩寵、受けとらんやん。なんやそのカスみたいな武器」

 

 驚いた様子もなく毒を吐く直哉に、狩人として優位な立場にあると思い込んでいた重面が怯む。

 その“弱者”の行動を見て、直哉はため息をついた。

 

呪詛師(カス)も呪術師も、“狩人”とは何かを分っとらん」

 

 医療教会と聞くと、反転術式に迫る回復力を誇る「輸血による治癒」が注目されるが、狩人の受ける恩寵の本質はそこではない。

 「怪我が治る」それだけで特級を殺せる狩人が生まれるはずはないのだから。

 

 幼い少女たちでも、その体格に見合わぬ重さの狩武器を持ち上げ、身体の一部であるように軽やかに振るうことができる。

 しかしそれは、彼女たち自身の力が強くなった訳ではない。

 

「狩武器使用時の身体能力の向上。それが“血の恩寵”や」

 

 狩人であることを隠すために狩武器を使わない奴らは一定数いるが、血の恩寵を受けていない者は狩人とは呼べない。呼ばせない。

 奴らは……“獣”。獣相手に術式など必要ない。

 

 

 直哉が何かを担ぐ姿勢をとると、その手に馬車用であろう金属製の車輪を2つ重ねた、武器と呼べるのかも怪しい“ローゲリウスの車輪”が握られる。

 その車輪から悍ましい怨念を放ち、人間と思えぬ姿を晒す狩人が反対の手にも何かを握った。

 

――力は、重さと速さ。

 

 踏み込みと同時に直哉の姿が消え、消えたことを重面が認識した時には車輪が叩きつけられる。

 術式は使っていない。直哉が使用したのは狩人の“秘儀”。「加速」の業を引き出す“古い狩人の遺骨”。

 

 冒涜的な見た目と驚異的な威力を誇るそれは――。

 

「“遺骨車輪”。知らんとかモグリやろ」

 

 

 

 倒れ伏す重面を見下ろした直哉が、怪訝な表情を浮かべる。

 今度こそ殺したと、手に伝わる感触で確信した。それなのに、敵を殺した証である“血の意志”を得ていない。

 

――天元様のような不死の術式か?

 

 重面の術式は、貯えた奇跡を自身の命に関わる場面で放出し危機を回避、または致命傷や即死級のダメージを耐えるものであって不死ではない。

 

 だが、仮に相手が不死であったとしても、自動で肉体が修復されないのであれば問題はない。

 不死は、直哉たち狩人が相手を殺せない理由にはならない。

 

「“不死”を殺すのって、意外と簡単やで」

 

 かつて、不死である“血の女王”を葬ったのは、直哉が手にするのと同じローゲリウスの車輪を振るう、医療教会の“処刑隊”だ。

 

「すべて内側、粘膜をさらけ出すまで潰して潰して潰して……ピンク色の肉塊に変えてやればええ」

 

 

 

 無心で車輪を振り下ろしていた直哉が、血の意志を得た――()()()と確信したところで、ふと誰かを思い出したように呟いた。

 

()()()がいつも言うやつ、なんやったかな……」

 

 何度も重打を受けた割には損傷の少ない呪詛師を、興味を失ったように直哉が見やる。

 

「ああ、そうや……『この街を清潔にいたしましょう』」

 

 

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