小心者、コードギアスの世界を生き残る。   作:haru970

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第103話 逆たまやでおいでませ、スロニムへ♪

 原作とはちょっと違うレイラ機の複座式アレクサンダに(スバル)が何故か乗っている。

 

 大事なことだからもう一度言ったぞイエイ☆

 

 ………………深呼吸だ、俺。

 大きく息をゆっっっっっっくりと(口で)吸って~。

 スゥゥゥゥー。

 

 ゆっっっっっっくりと(鼻から)吐くのだ~。

 ハァァァァー。

 

 よし、幾分かマシな気分になった。

 

 ロケット打ち上げに同行するのはまだいい。

 

 γ(ガンマ)作戦への参加も、『傭兵』としてここ(wZERO部隊)にいるから納得はしているしある程度は覚悟していた。

 

 だが寄りにもよってレイラの乗る複座機アレクサンダに同席するのはワケガワカラナイヨ。

 

 ングッ?!

 さっきもこのやりとりしてなくね、俺?!

 

 何だか混乱のスパイラルにハマっている感じがしてきたぞ~。

 

 落ち着け俺。

 落ち着くんだ。

 まだだ。

 まだ慌てる時間じゃ────

 

「スゥー……ハァ~。」

 

 ────って後ろにいるレイラが深呼吸した際に出た吐息がガガガガガガがががが。

 

 慌てる時間じゃあああぁぁぁぁぁぁぁ

 

 目を開けるな俺!

 

 目を開けたら電源を落としたスクリーン(ガラス)に背後のパイロットスーツ姿のツインテレイラガガガががががガガガ

 

 こんなことなら(多分)前世で『亡国のアキト』初回入場者特典の生コマフィルムのオークションになんて関わりたくなかったぜ!

 買っちまった(と思う)よコンチクショウめ!

 

 でないとなぜ目をつぶっていても明確な妄想が出来るのか説明がつかぬぜよ。

 

「シュバールさん、起きていますか?」

 

「なんだ?」

 

 ってナチュラルに返答した俺のバカぁぁぁぁぁ!

 

 狸寝入りしていればよかったが……返答した今ではもう遅い。

 

「随分と余裕があるのですね。」

 

 余裕なんてないねんデイ()()()~ンニング~♪

 

「そうでもない。」

 

「ですが『アポロンの馬車(ナイトメア搭載型多段式ロケット)』の事を聞いてから、今までも平然としている様子ですよね?」

 

 ああ、それね。

 まぁロケットの事は『亡国のアキト(原作)』を見て前もって知っていたからな。

 

 差し入れ用のジンジャー入りハチミツレモンティーで何とか落ち着かせたが、流石にリョウと乗り物酔いしやすいアヤノはビビっていたな。

 

 二人ともロケットを見上げながら足をガクガク震わせていたし。

 

 年相応の少年少女がやる『フー、フー』には何か胸の中にグッと来たなぁ~。

 

「そうだな……『アポロンの馬車』にはどちらかというと“感動”を感じたな。」

 

 あと『生で宇宙飛行士っぽい経験ができるなんてなんかカッケェし楽しそうじゃん♪』と思ったのも秘密だ。

 

「“感動”……ですか。」

 

 え? 何その受け答え方は?

 もしかしてレイラの質問で何か外したか、俺?

 ……むぅ~。

 

「それに……今は『どう次に動くか』、または『どうすればいいかの方針』を事前に得た情報と照らし合わせて考えている。」

 

 真っ赤な嘘だがそれっぽい事を言っておけばいいだろう。

 

「例えば、どんなことですか?」

 

 ウゲッ?!

 まさかの追求……だと?

 墓穴を掘ったぁぁぁぁぁ?!

 

 ヤバいヤバいヤバい、どないしよ?

 

 ええい、ままよ!

 

「そうだな。 例えば……ロケットから大気圏突入の際、カプセルから射出された後とかだな。」

 

『アポロンの馬車』は地球を一周して大気圏突入用カプセルのまま、作戦エリアに着陸するわけではない。

 

 実は超高空で、カプセルは分解してワイバーン隊はアレクサンダに搭載されたグライダーウィングを展開して作戦エリアに忍び込む。

 

『噴射機を使用しない』や『戦闘機などよりは緩やかな速度』でレーダーに引っ掛からない、『常識からかけ離れた高度からの侵入』。

 

 そして文字通り『鬼気迫る勢いで戦う』。

 

 まぁ、そこは『命懸け』だからな。

 

 これらがあってワイバーン隊は『ワイバーン(飛龍)』とEUに例えられ、ユーロ・ブリタニアからは『ハンニバルの亡霊』と呼ばれている由来だ。

 

「“カプセルからの射出後”? どういうことですか?」

 

 ぐぬぅ……レイラにはまだ足りないのか?

 彼女ならそれ以来のことがわからないでもないはずなのに……

 

 これ以上の『話しかけるなオーラ』は目をつぶったまま出せないぞ?

 

「正確には“射出後の着陸”だな。 奇襲とはいえ、敵の勢力圏内に違いは無い。 それに通常のレーダー探知に引っ掛かりにくいとはいえ、感知される危険が0パーセントと言う訳ではない。 それに機体が消えるわけではないから肉眼や双眼鏡にカメラなどで発見される危険もある。」

 

 うん、今ので良いと思う。

 

「では感知されたらどうするべきだと思いますか?」

 

 まだ続けるんかい?!

 

 よろしい。 なら今まで相手を黙らせた『饒舌になったスバル』を披露しようではないか!

 

「もし俺が敵なら着地点らしき場所を爆撃、あるいは遠距離からの砲撃をくまなくするな。 それも視野に入れて着陸後はなるべくすぐに移動体制に移行し、目標に近い市街地か障害物の多い場所に身を隠せば、何とかやり過ごせるかと。 そこからは、臨機応変に対応するしかないな。」

 

「……かなりおおざっぱですね。 それに、臨機応変とは────」

「────『敵との接触後の想定』など、要因が多すぎる。 予想するのならば『方針』だけに絞り込めばいい。 “やりたいことよりまずやれること”だ。」

 

 「“やりたいことより“……”やれること”……」

 

『亡国のアキト』でも、リョウたちが気に入らないレイラを殺そうとして着陸直後に襲っていてその騒ぎでユーロ・ブリタニアが『なんかうるさいなぁ~。 せや、味方機な訳ないから砲撃しよキャッキャッ』って長距離砲撃して────って俺やべぇじゃん。

 

 もしかしてこのままリョウたちに俺(とレイラ)が乗っている機体が襲撃されるんじゃ……

 いや待て、ただ『その可能性がある』ということだ。

 何せそのために毒島をまえもって潜入させたのだからな。

 

 だけど『スマイラス将軍襲撃事件』は原作通りに起きたし……ないとは言い切れ────

 

 キリキリキリキリ。

 

 ────胃薬を飲んだのになぜか胃が痛いでゴザルヨ?

 

 ちくせうぅぅぅ。

 

 これが俺専用に仕上げていた機体ならまだしも、『ドローン制御』と『本体』の立ち回りに特化した『複座式アレクサンダ・スカイアイ』だと流石に分が悪いぞ。

 

 一応、アレクサンダだから悪くない性能だが、武装はごく平凡な対KMFトンファとリニアアサルトライフル。 

 

 ドローンも一応『兵装』にカウントされるか?

 制御しているのは俺じゃなくてレイラだけど。

 

 それでもタイプ02に乗っているリョウたち三人を相手に、分が悪いのは変わりない。

 

 そして何より、俺専用に仕上げていた機体をアキトが使っていることが何よりも解せぬ。

 

 解せぬが……もうどうしようもない。

 

 キリキリキリキリ。

 

 打ち上げまでに時間もあることだし、(手探りで)栄養剤で胃薬を今の内に飲み干しておくか。

 

 うーん……俺特製のラムネ胃薬(炭酸少なめ)、最高!

 

 

 


 

 

『傭兵のスバル』は、ネットでの裏サイトやブリタニアのエリア11に潜入させていた諜報員からの報告では、黒の騎士団にとって表に出ることはないが、重鎮になりえるような人物像だった。

 

 ハメルが注意しつつ申し出たように、彼は『傭兵』の枠を優に超え、瞬く間にwZERO部隊に溶け込んだ。

 

 まるで砂漠になりかけていた地面を潤す雨のように。

 

 スバルは知らないが、実はwZERO部隊の皆が、EUにとって『腫物扱いの溜まり場』されていたのは相当心身ともに堪えていた。

 

 物資や装備に、『極秘部隊』ということで外部との接触は必要最低限のみで、しかもそれは『民間人の協力者』として派遣されているソフィやジョウのみ。

 人員の確保もEUの軍本部に許可を取らなければならず、料理や洗濯の家事も交代制で、手の空いていた者たちが片手間で不器用ながらもやっていた。

 

 まったくの余談だが、食べ物や飲み物も、大抵は(一部の例外を除いて)加工品や裏取引で得たモノである。

 

 そんなままならない状態だったのを、前司令であるアノウが()()()()交渉して()()()()()()都合のいい人員を確保できるように手配した。

 

 その人員とは旧日本の志願者たちであり、EUの上層部にとっては体のいい『ユーロ・ブリタニアに対しての捨て石』だった。

 

 それに日常的に強く振舞っていても、wZERO部隊の大半は10代の者たち。

 

 そんな環境で家族のだんらんの振る舞い(カラ元気)をし続けていなければ、心は折れてしまうだろう。

 

 そう思いながら、レイラは前の席に座りながら余裕からかゆっくりと深呼吸をするスバルを見ていた。

 

「(不思議な人。 私たちとそう歳は変わらないのに、私たち以上に『孤独』に慣れている様子。 それに、部隊全体の強化や気遣いは、彼のメリットどころかデメリットになりえるのに躊躇しないところなど……それに先ほどの受け答えなどを配慮すれば、どう考えても『傭兵』には似つかわしくない。)」

 

『駆動用電池、起動します。 メインエンジン、スタート!』

 

 オペレーターのサラの通信と同時に、さっきまで静寂なロケットは静けさが嘘だったように震えながら轟音を発し、上空へと動き出す。

 

 その振動と急加速で発生したGは、中に搭載されているナイトメア、果てはアキトたちにも伝わる。

 

「(このまま上がってくれよ!)」

 

 自分の体に押し寄せる重力に耐えながらスバルはそう強く思っていた。

 

 コードギアスの世界では化石燃料類の進歩は遅れている。

『ならロケットはどうやって打ち上げている?』という疑問を彼は持っていて、先日作戦の説明後に聞くと割と単純な答えが返ってきた。

 

 答えは『サクラダイトの意図的な引火』であったことに、スバルは密かに『爆発したらせめて“何事だぁぁぁ!”のセリフを回収しよう』と思ったそうな。

 

 すでに片瀬少将本人によって、セリフが回収されているとは知らずに。*1

 

 ジェットコースターのGをはるかに超える圧を初めて体験するレイラたちは、思わず息を吐き出しそうになるのをグッとこらえる。

 

 すでに経験したことのあるワイバーン隊のイサムたちや、神虎(シェンフー)の試作パーツなどを使ったトンデモ機体に乗っていたスバルは平然としていたが。

 

 ……

 …

 

「「「「「………………………………」」」」」

 

 上記と同じ時期のヴァイスボルフ城の司令室は、無言の緊張感に満ちていた。

 

 実はロケットの打ち上げで一番危険な時間は『大気圏突破時』ではなく、『大気圏突破まで』である。

 

 小さなミスや誤差、突き抜ける雲の密度でさえもが、噴射中のロケットを瞬く間に『巨大な爆弾』と変えてしまう要因になりえる。

 

 いつもは怠け具合のクラウスさえも、今回はレイラが出撃しているからか、フラスクに手を添えているだけで中身の酒を飲まず、汗を出しながら画面上に映し出されたロケットの映像をガン見していた。

 

「3分が経過しました。 センサーによるエンジンの燃焼、制御系 飛行経路も正常を示しています。」

 

「『アポロンの馬車』、順調に飛行を続けている模様です。」

 

 そんな静まり返った司令室の中で、数少ない生粋の軍人であるオリビアとサラが、私情を切り離した口調でただ延々と報告を口にする。

 

「第1エンジン燃焼終了。 これより分離します。」

 

「………………分離成功、第2エンジン燃焼を開始。」

 

 さらに数分すぎてからオリビアの報告に、緊張感がどっと和らぐ。

 

「慣性飛行は順調です。」

 

「「「「「ハァァァァ……」」」」」

 

 息を止めていた者たちが一気に息を吐き出し、クラウスはハンカチを出して額の大玉となった汗を拭き取っていく。

 

「これからが本番だが……第一段階はクリアしたな。」

 

 クラウスはキリキリと痛み出す胃を鎮めるため、フラスクではなく未開封だった市販の胃薬を取り出す。

 

 だがふと思ったことで、服用するために封を開けた胃薬をじっと見る。

 

「(そういやアイツ……なんで俺に胃薬なんかを? もしかしてあいつも胃が痛くなるのか? ……まぁいいや。)」

 

 クラウスは胃薬を口に含んでから、近くの水筒に入っていた水で胃へと流し込む。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 慣性飛行中のロケットはすでに地球の重力圏から離れ、初めて乗る者たちは全土でも経験した者は数えるほどしかない浮遊感に戸惑っていた。

 

「高度255キロメートル。 秒速5.6キロメートル……」

 

 レイラはナイトメアが示す情報で気を紛らわし────

 

『アヤノ、眠ってていいぜ。 どうせ今はすることなんて何もねぇからな。』

 

『そうだよ。 眠っていれば、死ぬ時も怖くないし♪』

 

 ────リョウとユキヤはアヤノを気遣った。

 

「…………そうだね。」

 

 暗いコックピットの中、アヤノは隊内通信に短く答えてから深呼吸をし、席の横に固定された小太刀に手を添えて落ち着く。

 

 今ではその小太刀とポケットに入る小さなぬいぐるみだけが、血縁者(家族)との繋がりの証拠だったこともあるが……

 スタイル抜群(レイラとどっこいどっこい)&アキトたちとほぼ変わらない身長(164cm)からはとても想像できないが、wZERO部隊ではもっとも年少者の15歳である。

 

 ナナリーやアリス達よりは一歳上で、サンチアと同年代である。

 

 15歳である。

 

 原作での彼女とリョウたちは、『スマイラス将軍を誘拐しようとした極悪人』として、危険物と判断されたものをすべて没収されていたが、今作では少し違う流れとスバルとレイラの口添えで、『アヤノの護身用』として携帯を(渋々)警備隊のハメルが許可した。

 

 アヤノにとってその小太刀は亡くなった祖父の形見の意味だけでなく、EU生まれでEU育ちの彼女にとっては、子供の頃に家族からの話で少し聞いた『日本』という遠い国を具現化したものだった。

 

 これの所為か日本にはかなり強い憧れがあり、スバルがエリア11になる前の日本で育った日本人と知っては、ほかの日本マニアとともに彼を尋問に数々の質問をした。

 

 ちなみに余談だが、アヤノがどれだけの憧れ(というか『日本人としての矜持と誇り』)を持っているかというと、自分用にチューンされた接近戦特化型アレクサンダタイプ02が装備した大型ブレードを、『ビーショップ・ロングレイ』と胸を張りながらドヤ顔で名付けるほど。*2

 

『お前たち、ナイトメアのモニターを作動して外を見ろ。』

 

 うたた寝しそうだったアヤノやリョウとユキヤは、スバルの通信を聞くと、特に何もすることがなかったからか、ナイトメアの画面を作動すると、ロケットの外部センサーから入ってくる映像に魅入られる。

 

 真っ黒の宇宙をバックに青い海の地球が映し出され、夜だからか人工の光がわずかに大陸をライトアップする景色が広がっていた。

 

『ふわぁ……綺麗……』

「こりゃいいな。」

 

 アヤノは口をポカンと開き、リョウは内心ドキドキしながらもニヤニヤした笑みを浮かべ、この二人のリアクションにワイバーンタイの少年たちはウンウンと共感する。

 

『死ぬ前の景色と思うと、悪くないね♪』

 

 だがユキヤの言葉で一気に空気が変わ────

 

『勝手に決めつけるな、成瀬(ユキヤ)。』

 

 ────ろうとする前に、スバルのムッとしたような言葉が遮った。

 

『だってシミュレーション上では生存率が低かったんでしょ? だからイレヴンの僕たちを兵士として採用しているわけだし。』

 

『命のやり取りに“100パーセントの生存率”はない。それに、ある程度は仕方のない要因も絡むのは事実だ。 だが、生存率の上昇は可能だ。』

 

『ふぅ~ん……じゃあさ、シュバールは“運”でさえも操作できるっていうのかな? 準備も訓練も出来ているけれど、“運”次第でコロッと死んじゃう奴もいるしさ。』

 

『……前もっての準備と用意、周到な下調べ次第で“運”の要素を限りなく低くはできる。』

 

『じゃあさ、賭けをしないシュバール(スバル)?』

 

『賭けだと?』

 

『アヤノかリョウが死んだら自害してよ。』

 

『いいだろう。』

 

『『『『ッ。』』』』

 

 ユキヤがサラッと言った言葉と、それに即答するスバルのやり取りで、ワイバーン隊の皆が息を素早く飲み込む。

 

『ヒュ~♪ 即答とはよほど自信ありなんだね?』

 

『俺は誰も死なせるつもりはない。』

 

『だってさ♪ よかったねリョウ、アヤノ♪ リスク取りまくりだよ♪』

 

 「ぜんぜん嬉しくないよユキヤ! 縁起でもないこと言わないでよ!」

 

 アヤノの容赦ない叫びに通信を聞いていた(予想していたリョウを除く)ワイバーン隊たちの耳がキーンとした所為で、ユキヤのケラケラした笑いを聞き逃したそうな。

 

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「あー、つまんねぇ~。」

 

 ワイバーン隊たちが大気圏をすれすれに飛行している間、スロニム近くの駐屯基地で、シンの部下が心の奥底からくる気持ちのまま上記の言葉を発する。

 

 オレンジ色をした、見た目がワイルドそうな少年の名は『アシュレイ・アシュラ』。

 

 少々()()な過去を持ち────

 

「よし。 ロシアンルーレットでもするか!」

 

 ────特殊な持論も持つ。

 

「「「「「「えええええええええええ?!」」」」」」

 

 アシュレイがリボルバー式で鮮やかな模様をした拳銃を出すと、彼の部隊────『アシュラ隊の七剣士』たちが慌てだす。

 

「お、お待ちくださいアシュラさま────!」

「────あ? なんでだよ?」

 

 金髪の騎士らしい男性────ヨハネ・ファビウスが慌てるが、アシュレイは不機嫌そうな問いを返す。

 

「そ、そうです! いくら暇つぶしとはいえ────!」

「────暇だからやるんだよ!」

 

 今度は中性的な顔立ちをしているシモン・メリクールの正論が続く前に、アシュレイが逆切れ気味に叫ぶ。

 

「しゅ、狩猟などはいかがですか────?!」

「────シャイング卿の『駐屯地で待機』の命令に背くことになるだろうがぁぁぁ?!」

 

 禿頭に刺青をした、一見アシュレイのようなワイルドっぽいクザン・モントバンに、アシュレイのイラつきによる矛先が向けられた。

 

「で、ではダーツなどは────?」

「────よし、いいぞ。」

 

 メカクレのアラン・ネッケルの提案に乗ったアシュレイに、アシュラ隊の七人はほっと胸をなでおろす。

 

「だからお前ら、()()()()()ここに戻って来い。」

 

「「「「「「「え?」」」」」」」

 

「“え?”、じゃねぇよ。 ダーツには『的』がいるだろうが。」

 

「「「「「「「ええぇぇぇぇぇぇぇ?!」」」」」」」

 

 前言撤回。

 

「よし、準備オッケーっと────」

「「「「「「「────アシュレイさま?!」」」」」」」

 

 アシュレイは一発だけ実弾が装てんされたリボルバーの銃口を自らのこめかみに当て、アシュラ隊の皆から血の気が引いていく。

 

「いいかお前ら? 戦で一番大事なのは“運”だ。」

 

 カチリッ。

 

 アシュレイが撃鉄を躊躇なく引くと、室内の緊張感が高まっていく。

 

「ほかの奴らは『実力』とか、『練度』がどうとか言っていやがる野郎もいるが……そいつらは『戦いの生き死に(勝ち負け)』の境目を根本から理解していねぇ奴らばかりだ。 どれだけ自分(ソイツ)が努力しようが、“運”次第で死ぬときは誰でも死ぬんだ────」

 

 ────カチン!

 

 アシュレイの持つリバルバーから撃鉄がからの薬室をたたくむなしい音が響くと、アシュラ隊全員が止めていた息を吐きだす。

 

「な! よし、次はだ・れ・に・し・よ・う・か・な────」

「────え?! ちょっと待ってくださいアシュレイさま! さっきので終わりじゃ────?」

 「────馬鹿野郎! 俺は暇なんだよ!」

 

 「「「「「「「ええぇぇぇぇぇぇぇ?!」」」」」」」

 

『アシュラ隊』。

 このようなアットホーム的な空気を出すほどに隊員たちの仲がいいのは、ひとえにアシュレイのさっぱりした裏表のない性格から来るのだが……

 

 アシュレイがたまに凶行に走ることで、彼の部下たちもかなり振り回されることに慣れていた。

 

「相変わらずバカだな、お前は。」

 

 そんな空気をぶち壊すかのように、アシュレイとは正反対で毅然とした立ち振る舞いをする真の参謀とも呼べる女性────『ジャン・ロウ』が、呆れた目でアシュレイを物理的に抑えようとする者たちとアシュレイを見る。

 

「お! ジャンじゃねぇか! お前も暇つぶしに付き合えよ!」

 

断る。 お前と違って私は忙しい身なんだ。 それに、シャイング卿からの命令を持ってきたぞ────」

 「────よっしゃあぁぁぁぁぁぁ! アシュラ隊の出撃だぜ!」

 

 アシュレイは今までで一番いい笑顔になり、思わずリボルバーを天井に向けて景気付けに引き金を嬉しさから引く。

 

 パァン!

 

「「「「「「「……え。」」」」」」」

 

 パラパラパラパラ……

 

 アシュラ隊たちが天井にできた穴からぱらぱらと落ちる砂をギョッとした目で見ていると────

 

「おおお?! ハハハハハ! わりぃ、わりぃ! 思わず引き金を引いちまったぜ!☆」

 

 ────アシュレイはカラカラとただ無邪気に笑った。

*1
61話より

*2
小太刀の銘、『蜂屋長光』を日本語から直訳したもので、スバルは吹き出しそうになりました。




飛竜を直訳した『ワイバーン』、あるいかつて巨大なローマ帝国を翻弄したものにちなんで『ハンニバルの亡霊』と呼ばれる部隊。

そこに一人の『傭兵』という名の激薬剤が投入されたことで何が変わるのか?

エリア11のフジサン、ナリタ、フクシマと数々の戦場を駆けた戦士が亡霊として出る。

その者、『貸し』というこの世で最も高価な爆弾を売りながら舞台へと上がる。


次回予告:
逆たまやでおいでませ、スロニムへ♪2

生き残りたいという願いから死地に身を投げるのは戦う者の性か本能か。

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