小心者、コードギアスの世界を生き残る。   作:haru970

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次話です!

上手く表現できているか不安ですがお読み頂きありがとうございます! 楽しんでいただければ幸いです!


第105話 『亡霊』、ユーロにて参上

 スロニムのとある集合住宅団地の屋上で、ユーロ・ブリタニアが独自で開発した騎手風のナイトメア────グラックスの外で、ジャンがスロニムを双眼鏡で見下ろしていた。

 

 グラックスの隣には、まさに半獣人のケンタウルスを模した、亡くなったマンフレディがまだラウンズだった頃に開発されたナイトメアの『サグラモール』────否、マンフレディがユーロ・ブリタニアにはせ参じた際に『ヴェルキンゲトリクス』と名前を変えた機体へと、ジャンは声をかける。

 

「ヒュウガ様、アシュラ隊が敵と交戦を始め────」

「────この感じ、まさか生きていたのか……ッ。」

 

「ヒュウガ様?」

 

 シンが急に黙り込んだことで、ジャンはヴェルキンゲトリクスの外に立っている彼を見ると、シンは自分の左目を手で覆い、痛みを感じているのか眉間にシワを寄せていた。

 

 「なんなんだ……この不愉快さは────」

「────ヒュウガ様? どうかなされましたか?」

 

「ジャン、私は先に行く。」

 

「え?」

 

 キョトンとするジャンを無視して、シンはヴェルキンゲトリクスに乗り込んで、集合住宅団地の屋上から飛び降りてスロニムを駆ける。

 

「ヒュ、ヒュウガ様!」

 

 ジャンは慌てて双眼鏡を投げ捨てながらグラックスに乗り込んで、シンの後を追おうとして機体を起動させる。

 

 ドスドスドスドスドスドスドスドス。

 

 機体が完全に作動する間に何かリズミカルな音と振動が、建物から機体の装甲を伝って中にいるジャンの耳に届いてくる。

 

「なんだ、この音は────なッ?!」

 

 グラックスのモニター画面に電源が入った次の瞬間、ジャンが思わず驚きから息を素早く吸い込んでしまう光景を目にする。

 

「敵のナイトメアだと?! 何故ここに?!」

 

 彼女は困惑しながらも、現れたアレクサンダ・スカイアイに応戦するため身構える。

 

 ここまで事が進展するまでの一連を見せるため、少しだけ時間を戻したいと思う。

 

 ………

 ……

 …

 

 

「こいつ、なんだ? 雰囲気が────?」

 「────俺を殺せないのなら! 死ねぇぇぇ!

 

 半分『本能』で動いているアシュレイの背中に寒気が走ると同時に、アキトは愉快そうに笑みを浮かべながら叫ぶ。

 

 ここで、何故アキトのことをスバルが高く評価していたかの理由を簡単に記したい。

 

 原作のコードギアスと今作でも、自殺願望者かつ公式の身体能力チート人間スザクは、皮肉にも危機状態に陥って焦ったルルーシュに『生きろ』という呪い(ギアス)をかけられた。

 

「さぁ! 早く俺を殺せよ! さもなければ死ぬぞ!」

 

「なんなんだ、こいつはぁぁぁぁ?!」

 

 逆にアキトは『死ね』というギアスを子供のころにかけられている。

 だが、当時のアキトは幼すぎて精神が『死ね』という概念を上手く理解できず、ギアスは不発に終わった。

 

 だが完璧にギアスが無効化されたわけでなく、アキトの精神が成長するにつれ、徐々に『死ね』というギアスは催眠のように彼の思考をゆっくりと変えていった。

 

 これにより、名誉ブリタニア人の兵士となって『生きるために全力を出す』スザクとは違い、イレヴンでありながらもほぼ主席でEUの軍属となったアキトは、『死ぬ為に自ら死地へと全力で突っ込む』という活躍をしてきた。

 

 そして数多くの極限状態を生き残ったおかげで、アキトは常人では考えられない戦闘能力を身に付けた。

 

 スザクが『潜在的な能力のチート人間』ならば、アキトは『努力の末に限界を突破した人間』となるだろう。

 

「本当に『亡霊』か?! いや、『悪霊』かよ?!」

 

『アシュレイさま!』

 

「来るなテメェら! この死神野郎はヤバイ!」

 

 アシュレイと彼の援護に来たアシュラ隊を、アキトがアレクサンダの機体性能を100%出して、圧倒的な機動性を用いた格闘戦で押し始めたその時から、スロニムの戦いは一気に激化した。

 

「「「死ねぇぇぇぇぇ!」」」

 

 そしてリョウ、ユキヤ、アヤノのアレクサンダに搭載されたBRSがアキトの強い()いで強制的に作動し、彼と同調したことによって、自分たちを襲っていたアシュラ隊に対し、自らの命を捨てるような無茶ぶり&乱暴な動きで、さっきまでとは比べ物にならないほど上昇した技量で反撃をし始める。

 

 この急変ぶりに、BRSの適性が低い(あるいはニューロデバイスがない)レイラやイサムたちは戸惑った。

 

『これは、一体────?』

 

 「────オレは! 死ぬわけにはいかないんだ!」

 

 そしてスバルの乗っていた機体も、動きを変えた。

 

「え────ウッ?!」

 

 タカシの通信を無視するかのように、さっきまで仏頂面で黙り込んだまま、敵の攻撃をまるで息をするかのように平然と躱していた様子とは違うスバルが叫んだ言葉にレイラはびっくりし、自分を襲うGに、大気圏突破時の訓練通りに息を吸って身構える。

 

『す、スゲぇ?! 建物の横を弾いて?!』

『それに早い!』

 

 スバル(そしてレイラ)の乗っていたアレクサンダが二足形態から四足、また二足に四足と変形をしながら、ハエトリグモのように動いてはスロニムの洋風建築を利用し、素早く移動していた。

 

「グッ……くぅぅぅ?!」

 

 幸運にも森に着地した時からシートハーネスを外していなかったことで、何とかレイラは荒ぶるコックピット内と自分を襲うGから思わず吐き出したい衝動を無理やりおさえながら、浮遊感につむっていた眼を開ける。

 

「らぁぁぁぁぁぁ────!」

「────敵のナイトメアだと?! 何故ここに?!」

 

 この時ちょうど、シンのヴェルキンゲトリクスがスロニムを駆けていた頃で、冒頭のジャンとの遭遇へと繋がる。

 

「(未確認のナイトメアに、戦場を見渡せるこの位置……まさか、シュバールは敵の指揮官を?!)」

 

 レイラは息を荒くしながら機体を攻撃態勢に入らせるスバルの後ろ姿に視線を一瞬だけ移し、数少ないドローンの精密制御を試みる。

 

「(なら私にできることは、ほかの皆が生きて帰れるようにドローンを使うこと!)」

 

 ジャン機は背中のレイピア状の剣を二つとも抜いては機体を逆走させ、スバル機の振りかざしたトンファを避ける。

 

「EUの腰抜けが────!」

 

 ドッ!

 

 トンファは重い音を出しながらビルの屋上に叩きつけてはすぐに構えなおされ、ジャン機が突き出していたレイピアの()()を払い除けながら、アサルトライフルの引き金が引かれる。

 

「────ッ。 (こいつは、違う!)」

 

 ジャンのグラックスは、ブリタニアでも最先端技術で開発されたヴェルキンゲトリクスから取り入れた、蹄風のデザインをした足とランドスピナーから来る瞬発力を使い、屋上から飛び降りながらスラッシュハーケンを次の建物に打ち込んで器用に機体を襲う遠心力を使い、逆走しながら地面に降り立つと背中の折りたたまれていた大型キャノン砲を展開し、スバル機がまだいると思われる建物ごと躊躇なく撃ち抜く。

 

 グラックスの攻撃に民間の(それも団地)住居が耐えられるわけもなく、ガラガラと音をたてながら崩れていく。

 

「(“さっきの奴は違う”と本能が叫んでいる! それに私を発見した瞬間に迷いもなく攻撃するとは……)」

 

 そんなジャンは崩れる建物から飛び出すと思われるスバル機に対し、キャノン砲は既に威嚇用に構えているだけで、剣をいつでも引けるように身構えていた。

 

「…………………………ハッ?!」

 

 だがいくら(と言っても数秒足らずだが)待っても追撃が無いことに、ジャンは困惑から瞬時に頭を切り替えて移動をし始める。

 

「(まさか、奴の狙いは────!)」

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

「やべぇ……やべぇよ!」

 

 先ほどから通信越しに来る部下たちの困惑と怒りの声によって、どれだけ『ハンニバルの亡霊』たち相手に苦戦を強いられているかは容易に想像できていた。

 言葉とは裏腹に、アシュレイはゾクゾクと襲ってくる寒気に対して笑顔になっていた。

 

 彼はこのような極限状態を、ロシアンルーレット以外で『最高の運試し』として『恐怖』を『楽しみ』に塗り替えていた。

 

「やっぱりテメェは亡霊なんかじゃねえ! 悪魔か、死神だ!」

 

 アキト機は更にアシュレイをスロニムの広場へとほぼ一方的に追い詰め、その荒々しい動きによってアシュレイの剣を弾き飛ばした動きを利用し、回転する機体の左腕を突き出す。

 

『アシュレイ様!』

 

 丁度その場に居合わせたのかあるいはリョウたちに吹き飛ばされたのか、アシュラ隊のヨハネが横から飛び出てはアシュレイの機体にタックルを噛ます。

 

「ヨハネ?!」

 

 ドォン!

 

 アシュレイと場所を入れ替わったヨハネ機のコックピットブロックに、横からアキト機のパイルバンカーが爆音を立てながら炸裂し、いとも容易く装甲を貫く。

 

グァァァァァァ?!

 

「ヨハネ?! テメェ────!」

『────部下を連れて下がれ、アシュレイ。』

 

 ヨハネの明らかに痛みから来る叫びを聞いたアシュレイは、さっきまでの恐怖と快感が一気に怒りへと変わるが、そこにシンの涼しい声で我に返る。

 

「ッ。 この、感じ────」

 

 通信を傍受して聞いた訳でもないアキトは、ザワザワした()()()()感覚で一気に冷静になり、同時にBRSで彼と同調していたリョウたちも普段通り(冷静)に戻る。

 

 何とか残ったアシュラ隊が、この変化で生じる隙を好機と見て、一気にリョウたちの機体を大破させる。

 

 ガラッポ、ガラッポ、ガラッポ!

 

 馬が地面を蹴って踏み鳴らすような独自の音と共に、広場へとヴェルキンゲトリクスが現れて、立ち呆けになっていたアキト機に、歯車を幾つも取り付けたようなハルバードで襲い掛かる。

 

 冷静になったアキトも勿論これに応戦するが、さっきまで酷使した機体と自らの身体が思うように動かせないまま、彼のアレクサンダは両腕と両足を失う。

 

『シャイング卿────!』

『────退け、と私は言った筈だぞ。アシュレイ・アシュラ。』

 

ウ、ウゥゥゥゥ……』

 

『……イエス、マイロード。』

 

 アシュレイ機がヨハネ機を背負い、撤退を開始すると、シンがヴェルキンゲトリクスの中から出てくる。

 

 腰には剣はあるが、それを抜く動作も構える様子もない景色は、たとえ相手が四肢を失ったナイトメアと言えど異様である。

 

「これならば、お前にも私を殺せるだろう? アキト……」

 

 今度はシンと同じように、アキトが大破したアレクサンダ内から出てくる。

 

()()()……」

 

「兄さん?!」

「アキトの兄貴だと?!」

「へぇ?」

 

 この様子を丁度、機体を大破させられて、事前に打ち合わせをした合流ポイントに指定された広場に来たアヤノ、リョウ、ユキヤが、それぞれ別の場所から伺っていた。

 

 もう察しているかもしれないが、シン・日向・シャイングと日向アキトは血を分けた()()である。

 

「これを人は“僥倖”と……呼ぶべきなのだろうか?」

 

「兄さん……俺は────」

「────アキト、お前は私の為に死んで────」

 

 ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ

 

「────ん?」

 

 シンの言葉を遮るかのように、ワチャワチャとした()()が近づいてくる音にシンとアキトたちが振り返ると────

 

「何?!」

 

 ────スバル機が猪突猛進にヴェルキンゲトリクスを目掛け、広場に突入してくる。

 

 かなり無茶をしたのか、スバル機は排熱する為フェイスカバーなど装甲のあらゆる箇所が開かれているが、それでもなお発熱量が冷却を上回っているのか、全身から蜃気楼現象と湯気を発生させながらも、あらゆる各部から摩擦を緩和するためのオイルなどの液体が外部へと漏れていた。

 

 その痛々しい姿と鬼気迫る気迫をその場にいた全員に『悪寒』として伝わり、その感覚を感じたシンは素早くヴェルキンゲトリクスに乗り込む。

 

「弟との再会を邪魔するとは、無粋な仲間を持ったな、アキト!」

 

『ヒュウガ様! そいつは危険です!』

 

「ジャン────ッ?!」

 

 スバル機はインセクトモードから人型に変わりながら、トンファをヴェルキンゲトリクスへと()()()

 

「下郎が! 功を焦って武器を投げるとは愚策!」

 

 これをヴェルキンゲトリクスは馬のように駆けだしながら、スバル機へとハルバードを横なぎに振るう。

 

 

 


 

 いた。

『ヴェルキンゲトリクス』、ミケーレ・マンフレディの機体だった、黄金のケンタウロスみたいなナイトメア。

 

 感覚が更に研ぎ澄まされていく。

 さっきまで聞こえていたアラーム音もぼやけている。

 

 「ウッ!」

 

 確かヴェルキンゲトリクスはコードギアスのゲームで出てくる、双子皇子の機体をベースにしているんだっけ?

 

 「カハァ?!」

 

 どうでもいい

 

 アッチ(エクウス)とは違ってビーム兵器もなければ、持っている銃も猟銃ライフルのように、一発撃つごとに再装填しなければいけない。

 

 よって注意すべきところは機体性能と、ハルバード。

 ()()()()()

 

 だが、ハルバードのような長物は『突きさす』、『薙ぎ払う』、『叩き割る』の三つの役割を基本的に持つ()()()()()()()()

 

 「ハ、ハルバードを足場代わりに?!」

 

 つまり『横なぎ』か『唐竹割り』、あるいは『突き』の動作に攻撃手段が限られるという事だ。

 

 三つだけなのだから至極単純に()()()()()し、()()()()()()()()()

 

 ハルバードの兵装部分に当たらなければ

 

 おっとここで馬上槍の突進(突き刺す)か。

 

 確か()()に限れば、ヴェルキンゲトリクスは140キロぐらい動けるのだっけ?

 ならこの動きは俺への『反撃』より、『牽制して距離を取る』といったところか。

 

 「機体を飛び上がらせた?!」

 

 それを利用する。

 

 アレクサンダを飛び上がらせながら、残った右手でもう一つのトンファを大振りで下ろす動作に入る。

 

 シンに『下策』と思わせることが出来るのなら上々。

 さらに『攻撃の軌道は固定されている』という概念に囚われていれば、更にいい。

 

 ゴッ!

 

 そして()()のトンファが、ヴェルキンゲトリクスの胴体を死角の側面から襲い、その反動で空中にいたアレクサンダの位置が、ハルバードの矛先から(ギリギリだが)ズレさせる。

 

 「まさか……攻撃を当てて、軽量なアレクサンダの位置修正に利用した?!」

 

 これがグラスゴーやサザーランドなら無理だっただろうさ。

 変形機能を持ったアレクサンダだからこそ────いや、腕が異様に長いガニメデでもしようとすれば出来るだろうさ。

 

 下策を奇策に変えるのはマジックショーと同じで、意外とトリックは簡単だ。

 

『飛躍中に機体のバックで(相手の死角から)武器の持ち手を替えた』だけ。

 

 だが不自然な体勢からの打撃で威力はそれほどないが、さっきでも言ったようにヴェルキンゲトリクスはケンタウロス。

 つまり側面からの攻撃には()()────

 

 ゴォン

 

 ────いけね。

 

 ビィー、ビィー、ビィービィー!

 

 ヴェルキンゲトリクスシンの苦し紛れなカウンターを機体がモロに受けてしまい、次第にぼやけ(無視し)ていたアラーム音がはっきりと聞こえてくるのに対して、機体が限界を超えた人形のように地面へと転倒する景色を最後に電力がブツリと切れる。

 

 

 

 


 

 

 

『鬼』、あるいは『妖怪』。

 まるで変幻自在な動きをするスバル機はナイトメア(機械仕掛け)とはかけ離れていたが、とても『人間』をベースにした人型とも思えなかった。

 

 関節などの可動部が『変形』を前提にしたアレクサンダだからこそもあるが、『変形』は元々輸送(移動)用として備えられている。

 

 その機能を『敵との格闘戦』に使うなど正気の沙汰ではないというのに、スロニムでの広場ではそれを利用したアレクサンダがヴェルキンゲトリクスと戦闘を行っていた。

 

 だがやはり機体はそのような過激な動きを想定されていない為、所どころからオイルなどが激しい動きの際に飛び散り、機体のフレームはキィキィとまるで悲鳴のような耳に来る音を上げる。

 

 だがそれに構わず機体が動き続けるその姿を見た者は、こんな感想を抱くだろう。

 

『まるで未練がましい亡霊に取り憑かれているみたいだ』、と。

 

『ヒュウガ様────!』

『────ジャンか────』

『──── EUの連合軍の進軍開始と同時に、第2方面軍がこちらに増援を無断で向かわせたようです────!』

『────そうか。 このまま我々は撤退する、ついてこい。』

 

 それを最後に、シンは突進の勢いを使ってスバル機に受けた打撃でバランスを崩すことなく、そのままスロニムをジャンと共に撤退していく。

 

 スバルの機体が倒れたことを(スバルからすれば)幸運にも知らずに。

 

 彼を含むワイバーン隊はこの後、スロニムに到着したEUの連合軍によって生存確認された。

 

 彼ら彼女らが心身共に疲れたままワルシャワ駐屯地に着くと、『世間話(ゴシップ)』として基地中に広がっていた話題に呆気に取られて、更に精神的な過労が襲う。

 

『スロニムをユーロ・ブリタニアにわずか1時間で奪還された』、と。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

「初めまして、クルルギ卿。 ヴェランス大公の名代としてお出迎えに参りました、ミヒャエル・アウグストゥスです。」

 

 ほぼ同時刻、ペテルブルグで明らかに歓迎などしていない空気を出すミヒャエル・アウグストゥスと彼の護衛たちを前に、スザクは気にしていなかった。

 

「枢木です。」

 

 というか彼はもう爪弾き者扱いには慣れていて、ミヒャエルの形だけの握手も気に留めていなかった。

 

「お話には聞いていましたが、ナイトオブラウンズの騎士が護衛に来るとは、連れて来られた方はたいそう皇帝陛下の覚えめでたき人物のようですな? しかも装甲列車までつけているとは……」

 

 ミヒャエルが目線を送ったのは、スザクが乗っていた列車の後に付いて来ていた別の列車だった。

 

「(ここでやっと、誰なのか見られる。)」

 

『身辺警護の機密上』という名目で、普段は装飾品が派手な皇族専用列車だけでなく、軍用の装甲列車も付けられ、『緊急事態以外の接触は無用』という皇帝直々の命令から、ラウンズであるスザクでさえも、護衛対象が誰なのかをペテルブルグに着くまで知らなかった。

 

 コツ、コツ、コツ。

 

 モクモクと、火照った機関ブロックにそそがれる冷却水によって生じる煙から、わざとらしい、もったいぶった足音が響き、煙の中から()()()声が出る。

 

「何だ……迎えはたったこれだけか?」

 

「ッ。」

 

 スザクは喉が詰まりそうな感覚の中で、息をするのも忘れてしまうほどに固まった。

 

「しかし……私が帰還するまでにペテルブルグの街は勝利に歓喜し、我が名を連呼する住民たちが埋め尽くすことになるだろう!」

 

「(そ、んな。 この声は……まさか……)」

 

 何故ならその声は、子供のころとアッシュフォード学園でよく聞いていたから。

 

 そして次に出る言葉で、思わずよろけそうになる足に力を無理やり入れて、倒れることを何とか防ぐが、クラクラと貧血になりそうなほどに血の気が引いていった。

 

()()()()のご命令により、この時点よりユーロピア戦線の作戦はこの私! ()()()()()()()()()()()()、ジュリアス・キングスレイが執り行う!」

 

 煙から出てきたのは、左目を眼帯で覆いながら派手な装飾が付いた服装に身を包んで、インペリアルセプターを手にしたルルーシュだった。


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