小心者、コードギアスの世界を生き残る。   作:haru970

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第106話 ジュリアスとスザクとアシュラ隊とその他の一時

「シャイング卿、スロニムでの一件は読ませてもらいましたよ。」

 

 コツン。

 

「貴公自慢のアシュラ隊は手酷くやられましたね?」

 

 ニタニタしながら、ジュリアスがスロニムのことを細かく書かれている報告書から視線をシンに向け、そう告げる。

 

「彼らは相手を少々侮りすぎただけです。」

 

 シンは涼しい顔のままジュリアスの皮肉めいた言葉を受け流し、その端で立っていたスザクは片耳だけを話に向けては先日のことを考えていた。

 

 初めて護衛対象であるジュリアスと対面してから、それまで彼を護衛していた者たちから正式な紹介をされた。

 

『ジュリアス・キングスレイ』。

 神聖ブリタニア帝国の皇帝シャルルより委任権の象徴であるインペリアル・セプターを授けられたことで、ユーロ・ブリタニアのヴェランス大公以上の発言力を持ち、皇帝が本国から派遣した軍師。

 

 年が若い故か自分に絶対的な自信を持ちながら、歴戦の指揮官のような冷徹な判断を下し、その判断力に見合う頭脳を持つ将来有望なブリタニアの少年。

 

 それがシャルルの()()した『ジュリアス・キングスレイ』という者である。

 

「“少々”? 卿は見かけによらず、ユーモアも持ち合わせているのだな?」

 

「……」

 

 ジュリアスの浮かべる歪んだ笑みを見て、スザクは再び何とも言えない心境になっていた。

 ブリタニアに『ジュリアス・キングスレイ』の戸籍は最近出来たもので、よほどのことがない限り疑う余地もない完成度を誇る、偽造されたものである。

 

 スザクの隣にいるのは、ルルーシュ・ランペルージ。 本名をルルーシュ・ヴィ・ブリタニアという、実の父親の持つギアス────『記憶改竄』によって身分を忘れさせられ、『ジュリアス・キングスレイ』という架空の人物の言動をなぞっているに過ぎない。

 

「ああ、これは失敬……聖ラファエル騎士団の戦力を壊滅寸前まで追い込んだ『ハンニバルの亡霊』相手に、“10機未満の戦力でよくやった”というべきか。」

 

「恐れ入ります。」

 

「だが……やはりというか、想像以上にユーロ・ブリタニアもEUも惰弱で脆弱なのだな?

 ヴェランス大公は市民を巻き込まんと考えるあまりに攻めあぐね、先の聖ラファエル騎士団を率いるファルネーゼ卿は騎士道精神を重んじるばかりに多くの騎士を失った。

 そしてEUは酷いありさまだ。 ユーロ・ブリタニアの地域を奪還したものの、勢いだけで前に出すぎた結果、戦線維持をできなくなる部隊が個別に動くという烏合の衆と化し、せっかく奪い返した土地を再び占領されるこの体たらく……ここまでくれば、おのずとこの場で何が必要なのか、シャイング卿ほどの者なら理解できるだろう?」

 

「……戦況を劇的に変える要因(ファクター)ですね。」

 

「いかにも。 それこそ、スロニムで己の安全を案ずるどころか、躊躇なく卿を幾度となく攻撃してきた者のようにな。」

 

 スザクはテーブルの上に散らばった資料の中に、ナイトメアの記録画像から描写された絵を見る。

 一機の明らかに機体が限界を超え、機体のフレームにひびが入り、排熱の為か顔の部分が割れてオイルなどが表面に染み出ては蒸発した、痛々しい状態のアレクサンダを。

 

 直接対峙したシンの側近であるジャンによると、その者は明らかに指揮官がいるであろう場所へ一直線に来ては、躊躇なく攻撃のモーションに入っていた。

 

 まるで短期決戦を仕掛けるかのように。

 

 当初はハンニバルの亡霊の中でも好戦的ではなく、傍観しようとしていた様子から『情報収集』か、スロニムを奪還した際に回収されたナイトメア型のドローンを制御する『ドローン司令』の機体と思われていた。

 

 だがとある時期に、ハンニバルの亡霊たちの戦闘能力が今までの比と比べられないほど上昇したところから、()()()()()()()()()()()()かのように動きが急変した。

 

「してシャイング卿……『亡霊』どもと相対して、貴公はどのような印象を受けた?」

 

「……何とも奇妙な感じでしたよ。 まるで怨念を身に宿した戦い方で、特に私と戦った『アレ』は、まるで私の意思(敵意)を感知しているかのような動きをし、先回りをされている印象でした。」

 

「ん?」

 

「つまりは『攻撃を当てる』と思った頃には、敵はすでにそれを避けるために動いていた……ということですよ、キングスレイ卿。」

 

「ふん……私は霊などといった『目で観えないもの』などは信じぬ。 だがこいつらを『ハンニバルの亡霊』と呼び続けるのなら、卿に幾度となく挑戦したこいつは、さぞや『幽鬼(レヴナント)』とでも呼称するか。*1

 

「ええ。 “霊にとり憑かれている”といっても、何ら違和感はないですね。」

 

『とり憑かれている』。

 この言葉はスザクの興味を引くには十分だった。

 なにせ隣にいるルルーシュも、『ジュリアス』という架空の人物像にとり憑かれているからだ。

 

 あとは、式根島で彼自身も記憶にない────

 

「────ああ、それとスロニムで思い出しましたが……キングスレイ卿の護衛たち以外に、騎士などをユーロ・ブリタニアに連れて入られましたか?」

 

「うん? それはどういうことだ?」

 

「いえ、大したことではないかと……ただ、スロニムから部下とともに撤退していた途中の森で、()()サザーランド達に襲われただけのことです。」

 

「下手なカマかけはよせ、シャイング卿。 それは私の知らないことだ。 が、卿のことだ。 誰かの恨みでも買っているのではないのか?」

 

 ジュリアスの問いにシンは何も言わず、先ほどからの薄笑いを変えないまま視線を返していた。

 

「……とはいえ、卿のことならば、捕縛して既にその者たちの素性を割らしても驚かぬが?」

 

「捕縛した機体は例外なく、おそらくは機密保持の為か全て自爆しました。 DNA鑑定を行っていますが、かなり込み入った自爆の仕方で、サンプルはほとんど残っておりませんでした。」

 

「フム……こちらでも調べてみよう。 私は()()()()()()()()()()だからな。」

 

「奇遇ですね、キングスレイ卿。 私もです。」

 

 ここで初めて意見が合ったことに、ジュリアスとシンはニッコリと涼しげな笑みをお互いへ向ける。

 

 どこからどう見ても、部屋の気温と背筋が凍りつくような『腹黒な者同士が探る時にする愛想笑い』だったが。

 

『スザク、信じてくれ!』

 

 士官としても、文官としても名高いマンフレディ卿が認めていたシンと対峙する様子のジュリアス────いや、ルルーシュを見たスザクの脳内に、上記の言葉を必死に自分へ訴えたルルーシュの声が流れて、その時スザクは迷う心境のまま、新たな決心をした。

 

『害をなそうとするのなら相手が誰であろうと、何があってもルルーシュだけは、力の及ぶ限り守ろう』、と。

 

 たとえユーフェミアが亡くなって以来ほどに、迷う自分の心が痛むとしても。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

「スザク!」

 

 ほぼ時を同じくしてディーナ・シー内で、ユーフェミアは思わずスザクの名前を口にしながら飛び起きていた。

 

ユーフェミア、どうした?

 

 彼女が時折、『幼いスザクのような子供が迷子のように、一人寂しく泣きじゃくる』夢を見ていること知っているのは、恐らく彼女自身と、先日の誕生日プレゼントでもらった喋る球体の『ピンクちゃん(ユーフェミア命名)』だけだろう。

 

「あ……ううん……なんでも、ないの。」

 

 ユーフェミアは静かに頬に残る涙を洗い流すために、ゴソゴソとベッドから出る。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 以前の薄暗い地下都市らしい場所にある室内らしきところで、人影らしきものが部屋の中に入ると、デジタル化されたたどたどしい口調がスピーカー越しに聞こえてくる。

 

56目からの景色が途絶えたか。 老害の犬どもに気が付かれたか……

 

 バシュ!

 

 部屋の端にあるカプセルの中と外の気圧の違いから鋭い音ともにカプセルが開くと、中から体がなまっているのか、肩や首を回し人物が出てくる。

 

「フム……今作の調子はいい。 だがやはり、何度しても慣れんな……老害に対して丁度良い目くらましにはなったが。」

 

 喋っていた人物は、近くの人影が持ってきたローブのような物を羽織ってから、裸足のまま歩き出す。

 

「(やはり、EUにも『鍵』を保有するモノがいたか────)────ぬ。」

 

 足先を躓かせて倒れそうになり、その人物は崩れたバランスを正して何とか持ちこたえる。

 

「(やはり、間に合わせの体では限界があるか。 早急に、ことが行われる前に『神』へと至らなければ……それには、『アレ』が必要だ。 『死んでいる』、ということは絶対にありえんが……万が一、間に合わない可能性もある。)」

 

 ローブを羽織った人物は格納庫のような場所については、巨大な機械を見上げる。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「派遣された部隊は全滅したの?」

 

 先ほどとデザインが微妙に違う地下都市では、VVがローブを着た者からの報告を聞き、つまらなさそうな表情を浮かべていた。

 

「その……“指揮官は生きている”と聞いています。」

 

「……ふぅーん?」

 

「いかがなさいますか? 近くの彼に────」

「────多分いろいろと無理だね。 これ以上するとシャルルにも気付かれるよ。 そうなると、僕やCC以外のコード保持者を探すところじゃなくなっちゃう。」

 

 VVが思い浮かべるのはルルーシュのことだった。

 

 せっかくギアス嚮団でも貴重な()()を急遽仕上げ、CCをおびき出す囮に使う予定だったルルーシュをスザクに捕獲させたものの、シャルルがルルーシュを『ギアスによる洗脳の研究対象』として、手が届きにくいユーロ・ブリタニアへとスザクとともに送られた。

 

 そこでVVはどうにかユーロ・ブリタニアに部隊を送る口実はないものかと思い、過去にCCが訪れた場所の中でEUが出てきたことを思い出した。

 それは覚えていた理由としては、わずか10年前とかなり最近だったことと、ちょうどその同じ時期頃にとある一族が集団自殺を行ったからだ。

 

 当時、EUのメディアはその事件を『オカルト集団による心中』などと言いたい放題だったが、大事なところはそれではなかった。

 

 大事なのは、事件現場を無断で侵入したアングラジャーナリストたちなどが撮って、裏サイトなどにアップした一枚の写真だった。

 

 天使のように純白の翼を生やした女性が、別の女性にドクロを渡している場面が描かれた絵。

 これだけならば『ただ悪趣味な芸術品』という認識で済まされていただろう。

 

 ギアス関連の────コードの紋章らしき模様が刻まれているドクロでなければ。

 

 そこから糸を手繰るような調査の結果、一見何の関係もない不審な点と点が出てき始める。

 

 上記の一族の関係者らしき男が殺されたと騒がられ、その少し後に、同じ凶器と思わせる痕跡で当主は集団自殺前に首を切り取られていた。

 

 そしてその同じ日に、一族の集団自殺が行われた。

 

『もしや』と思い、さらに調査を重ねると、集団自殺を免れた者たちが数人いることが判明した。

 

 丁度その日を休んでいた、あるいは遠出をしていた数人の使用人たちと、当主の息子兄弟の二人。

 

 調べていくうちに事件の後、生き残った使用人たちは何者かによって殺害されていき、弟の日向アキトと執事の行方は『とある時期』を境にプツリと消えた。

 

 だが兄の日向シンは割と簡単だった。

 

 日系人────それもイレヴンでありながら、聖ミカエル騎士団の総帥、ミケーレ・マンフレディの目に留まり騎士団へと入団させられ、その数年後にはシャイング家の養子としてユーロ・ブリタニアの貴族階級に受け入れられていた。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 世間は『自殺』と断定していたが、『恐らくはギアスが絡んでいるだろう』と思ったVVは、監視のためプルートーンを送った。

 

 だが部隊は見事発見され、返り討ちにあってしまった。

 

 何故シンを監視しようとVVが思った流れをざっくり説明すると、彼が『コード保持者』とは考えにくいが、状況による結果などを見れば彼が『ギアス能力者』という線があり、ここで一つの疑問が自然と浮かび上がる。

 

『シンにギアスを与えたのは誰だ?』、という疑問が。

 

 一応CCはその地域にいたが、ギアス嚮団の記録によると、その一族と接触していない。

 

 そしてその頃、VVは別の場所にいた。

 

 となると────

 

「────ねぇ? 送った部隊からの報告に出た、シンと戦っていた奴の監視はできないかな?」

 

「……どうでしょう? 奴一人では難しいかと思います。」

 

「だよね。 ロロをすでに向かわせているけれど、もともと別件だし……トトはオルドリンにつけちゃってクララはエリア11の掃除に送ったままだし……これ以上となると、あの二人かなぁ~?」

 

 VVが最後に言った言葉に、周りの者たちが明らかに動揺する。

 

「ま、まだ最終調整を済ませてない状態ですぞ?!」

「担当したバトレーたちは、いまだに宰相様が目を光らせているので引き抜きはまだです!」

 

「そっかぁ~……でも意思疎通ができるぐらいには整っているでしょ? それにいざとなれば意図的に暴れてもらってあぶり出すのも────」

 

 VVの周りの者たちの顔から血の気が引いていく。

 

「────あ。 でもやっぱりだめだ。 シャルルもだけど、()()()のこともあるし……もしもの時の為に取って置いとこう。」

 

 自由気ままなVVに振り回されていた者たちからは明らかに安心しきった息が吐き出され、秩序は()()()何とか保たれた。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

「……………………」

 

 アシュラ隊が現在待機している駐屯地近くに流れる川を見下ろせる木の上に、ここ数日間アシュレイは登ってはボ~っと風景を見ていた。

 

 そんなアシュレイを、スロニムの戦いを軽傷だけで済んだ彼の部下たちが見ていた。

 

 民族風の髪型をしたルネ・ロラン、半透明のサングラスをしたヤン・マーネス、そして巨躯で豪快な性格を感じさせるフランツ・ヴァッロ。

 

 7人の内、この三人だけはリョウたちの猛攻を最後まで耐えていた。

 

「アシュレイ様、かなりショックを受けた様子ですね。」

 

「まぁ……無理もないだろう。」

 

「毎日お一人であそこに上っては……」

 

「クザン、アラン、シモンの三人は重症。 怪我が完治すれば、再び騎士として活動ができる。」

 

「だが……」

 

「ああ、アシュレイ様を庇ったヨハネは……」

 

「「「………………………………」」」

 

「クゥ~ン?」

 

 三人は頭を傾げるヨハネの犬を見て、軍医たちの話を聞いて珍しく狼狽えるアシュレイの姿を思い出す。

 

 

『左腕の損傷が酷く、時間が経ちすぎています。 本国(ブリタニア)のサイバネティックス技術の義手で補えるでしょう。 ですが、目の方は何とも言えません。 上手く治療できたとしても、視力低下……“騎士”としての活動を続けるのは難しいかと……』

 

 

『亡国のアキト』で、ヨハネはアシュレイを狂戦士化したアキトから庇って命を落とし、アシュレイを文字通りに“阿修羅をも凌駕する復讐鬼”と変えさせていた。

 

 今作では幸運にも、アキトの使い慣れた仕込みナイフではなく、新兵器のパイルバンカーの使用と横から庇ったため打ちどころがズレ、ヨハネは一命を取り留めていた。

 

 だが上記で軍医言ったように、間違いなくアシュラ隊の中で一番の重傷者のヨハネは左腕を失くしただけでなく、パイルバンカーが撃ち込まれた拍子に目も浅くはない傷を負い、騎士としての活動も傷が癒えた後でも続けられるかどうか怪しい状態だった。

 

「だが、この戦で命を落とす者たちも多い。」

 

「死者が出なかっただけでも奇跡だろう。」

 

「仲間を失っていないと考えると、そうだな。」

 

「だが、それでも……」

 

「「「…………………………」」」

 

 三人の間に重苦しい空気が漂う時間が過ぎていき、フランツが口を開けてその静けさを払う。

 

「我々の中からも、いつか“ゆきてかえらず”の者も出るのだろうか?」

 

「それが、死地へ赴く騎士の宿命だ。」

 

「「「…………………………」」」

 

 さっきよりどんよりとした空気が流れ、またもフランツが喋る。

 

「俺は死など恐れん! 騎士になった時から、覚悟は出来ている!」

 

「 “眠りにつくときには死ねなかったことを悔い、起きれば死を再び覚悟する”! それが栄えあるユーロ・ブリタニアの騎士道だ!」

 

「そ、そうだ! 死を恐れてどうする! 友の亡骸を超え、我々は前に進む────!」

「────元気ねぇなテメェら!」

 

「「「え?」」」

 

 アシュレイが木の上から、三人の前に飛び降りる。

 

 腰に手を伸ばしながら。

 

「そんじゃま、いっちょ()()()でもやろうぜ!」

 

 ルネ、ヤン、フランツの三人からどっと汗が吹き出し、彼らは焦りだしてはお互いに小声で話す。

 

 「どどどどどうしよう!? きっとロシアンルーレットだよ────?!」

 「────ききき危険すぎる────!」

 「────“騎士たる者、常に死を覚悟せよ”とはいうが、あれで命を落とすのはいくらなんでも────!」

「────ア、ア、ア、ア、アシュレイ様! テニスなどはどうでしょうか?!」

 

「んじゃあ、テメェら三人対俺な。」

 

「「「ホッ。」」」

 

「で、負けた方がロシアンルーレット。」

 

 「「ええええええ?!」」

 

 ルネとヤンの顔から更に血の気が引いていき、二人は青ざめる。

 

 「やぶ蛇だ! 他のゲームにしろお前らッ!」

 

「クリケットは────?!」

「────だめだ。 やっぱロシアン────」

 「────チェスでも良いですよ────?!」

 「────チマチマしていてつまんねぇよ!」

 

 アシュレイが腰からリボルバーを抜く。

 

「やっぱ、ロシアンルーレット一択だよな?」

 

 「どうしよう?! このままじゃロシアンルーレットに────!」

 「────フランツ! お前も何か提案しろ────!」

 「────え、俺?! ええええっと────!」

「────あ? どうしたフランツ?」

 

 フランツは焦りながら目を泳がせ、近くの流れる川が目に入る。

 

 「い、い、い、い、息止め合戦などはいかがですか?! 誰が一番長く息を止められるか競うのです!」

 

「……………………………………………………」

 

 「あちゃ~……」

 「もうこれ絶対にロシアンルーレットだよ~。」

 

 グルグル目をしたフランツの前に、何とも言えない顔をしていたアシュレイを見てルネとヤンが諦める声を出す。

 

 「なんか面白そうだな、それ!」

 

 「「「ええええええええ?!」」」

 

 目をキラキラさせながら乗り気になったアシュレイを見たルネたちは驚愕の声を上げる。

 

 「そんなんで良いの?」

 「隊長の基準が全く分からない────」

「────なんだお前ら、不服そうだな? やっぱ行くか、ロシアンルーレ────?」

 「────息止め合戦やります!!」

 「────わぁぁぁ!! 楽しそうー!」

 「────騎士道に乗っ取っています!」

 

 フランツとルネが言ったことはともかく、最後のヤンは意味不明なことを焦りから口にしていたが、誰も彼を指摘する余裕はなかった。

 

 

「よーし! せーの────!」

「────ちょ、ちょっとタンマです隊長!」

 

「今度はなんだよ?!」

 

 アシュレイがイライラした口調でフランツに聞き返す。

 

「隊長は、一緒にやらないんですか? それに、何でここにヨハネたちを連れてきたんですか?」

 

 フランツが見るのは、川から離れた坂にアシュレイが(無理やり)引っ張り出したアシュラ隊の(目と腕の付け根に包帯を巻いたヨハネ含む)ケガ人たちと、明らかに息止め合戦に参加する気のないアシュレイだった。

 

「あ? 何で俺が参加しなきゃならないんだよ? 俺とこいつらは審判だ。」

 

 後半はともかく、アシュレイは一度も『自分が参加する』とは言っていないので前半はご尤もであるが……流石のルネたちも不服であった。

 

「そんな?! ずるいですよアシュレイ様────!」

 「────文句あんのかテメェら? だったらロシアン────」

 「「「────息止め合戦、やらせていただきまーす! せーの────!」」」

 

 ────ザブン!

 

「「「(うわぁ……)」」」

 

 ルネたちが必死になって頭だけを川にダイブさせる姿を、グッタリとしながらケガ人であるシモン、アラン、クザンは哀れみがこもった視線を送る。

 

「(うーん、見られないのが残念。)」

 

 ヨハネは少しだけ悔しがっていたが。

 

 ブクブクブクブクブク。

 

『本気でやらなければロシアンルーレットをさせられる!』、と思ったルネたちは必死に息を止めていた。

 

 三人の顔はいつもの様子からは想像もできないほど変顔に代わり、息を止めたからか頭を真っ赤にさせていた。

 

「ほ~れ、見てみろよワン公? お兄さんたちがみ~んな変な顔をしているぞぉ~?」

 

「ワン!♪」

 

「ブハァ!」

「ゲホッ!」

 

 ヤン、そしてルネが早くもギブアップしてしまう。

 

「よぉーしフランツ! 俺が“良い”って言うまで息を止められなかったら丁度ここにいるヨハネたち六人相手に一発ずつ、ロシアンルーレットな?」

 

 「「「「「え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛?!」」」」」

 

 余りにも理不尽な展開+けが人である自分たちまで強制参加させられた者たちがルネとヤンたちと共に声を上げる。

 

 ブクブクブクブクブク!

「頑張れフランツ!」

 

 ブクブクブクブクブク!

「まだいける! いけるぞ!」

「私たちの為に頑張るんだ!」

 

 ブクブクブクブクブク!

「いけるいけるいける!」

「僕たちのために頑張ってよフランツ?!」

 

 さっきまでぐったりとしていた(あるいは眠たそうにしていた)仲間たちの必死な応援(叫び)にフランツは頑張った。

 

 真っ赤だった顔は次第に青くなっていき、白へと変わった頃にその時は来た。

 

 ガボガボガボガボガボ……

 

 バタッ。

 

「「「「「フランツゥゥゥゥゥゥゥゥ?!」」」」」

 

 フランツは頭を川にダイブさせたまま力尽き、気を失ってしまう。

 

 ………

 ……

 …

 

「おいフランツ、大丈夫か?!」

 

「な、なんだか……お花畑と、川と、死んだお祖母ちゃんを見たような気がする。」

 

 窒息死寸前だったフランツは、無事に蘇生させられた後の開口一番が上記の言葉であり、アシュラ隊はとうとう不満をアシュレイにぶつけていた。

 

「酷いですよアシュレイ様!」

「そうですよ!」

「いくら何でも意識を失うまでなんて酷い────!」

「────で? お前らは『ロシアンルーレットをさせられる』と思って、自分以外の誰かを考えられたか?」

 

 だが彼らに対してアシュレイは平然と言い返し、彼の言葉でアシュラ隊がハッとする。

 

「所詮、悲しみや憂いなんてそんなモノなんだよ。 誰も彼もが死を前にすると、自分の事だけでいっぱいになる。 だから軽く『覚悟はした』とか他人の心配なんてするなよ、気分が無用にダウンするだけだ。

 良いか? 俺たちが目指すのは『騎士』なんかじゃねぇ、『狼』だ。

 そして『狼』は常に群れを意識して行動する。 狩りや寝るのもいつも一緒で、誰かが怪我をしたら互いに治し合いながら明日を共に目指すんだ。」

 

「「「「「「…………………………」」」」」」

 

「ま、例外はあるがな。」

 

「「「「「「????」」」」」」

 

 アシュレイの言ったことでアシュラ隊の皆がハテナマークを頭上に浮かべる。

 

「群れのトップが単身で行動する時だよ。 それは、トップ以外の群れに『子供』しかいない時だ。」

 

「「「「「「…………………………」」」」」」

 

 この少年は狼に育てられ、浮浪児として幼い頃を過ごしながらも、哲学者みたいなことを言うのが『アシュレイ・アシュラ』である。

*1
誠にありがとうございます剣BLADEさん! アイデアを採用させていただきました!




書いていたらなんだか長い開幕っぽい話ができてしまいました。 (汗

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