楽しんで頂ければ幸いです!
レイラたちのIDがアノウの管理者権限によって逆恨みからいじられて、数日間が過ぎた頃のヴァイスボルフ城では日課になりつつあったお茶会はいつもと少し違っていた。
紅茶は以前から口にしていた配給品に戻り、出された茶菓子のラインアップの大半が手作りから市販の物へと戻っていた。
この時点での
「────う?!」
「────甘い?!」
「味が濃いような気が────」
「────なーんか違う……」
「苦い? なんだろう?」
「「紅茶ってこんなものだったっけ?」」
上記のことをケイト、フェリッリ、オリビア、そしてクロエとヒルダたちが口にすると、ジョウはもぐもぐと口を動かしながらはてなマークを頭上に浮かべる。
「そぉ~? 僕にとって、
だが彼女たち+
「それにしても、こんな風に考えられるのって……なんか贅沢ね。」
「うん。」
「それにもし転送されたデータが本当のことだったら────」
「「「────説教モノ。」」」
「アレクサンダの変形機能は機体の小型化と軽量化の目的であって、土壇場の戦闘場面で使うものじゃない。」
「無茶にもほどがある。」
「それに自分一人だけならまだしも、マルカル司令を乗せた状態で行うなんて────あ。」
珍しくも、技術部と脳科学部の者たちの意見が合うその空気に和み過ぎたのか、クロエは口を滑らせた。
彼女はハッとして口をつぐむが『時すでに遅し』であった。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。
ニコニコとしながら、メタ的な憤怒の形相をした阿修羅のイメージを背後に浮かばせたアンナを、その場にいた者たちが恐る恐る見る。
「ウフフフフフフ。 それはどういう意味かしらね、クロエ♪」
「ヒッ?! ななななな何でもないです、ボス!」
アンナはニコニコしたままお皿に乗せていたケーキをフォークで刺す。
「ウフフフフフフ。 そうね────」
────ザクッ────
「────私もまさかシュバールさんが日向中尉より非常識で────」
────ザクッ────
「────自分の指揮官である筈のレイラを────」
────ザクッ────
「────危険に晒すだなんて────」
────ザクッ────
「────思いもしなかったわ♡」
“ウフフフ”と笑うアンナの皿に、『ケーキだったナニカ』の残骸を彼女がフォークで刺し続ける。
そしてその場にいた皆(『モグモグのほほ~ん』と菓子を食べるジョウ以外)は青ざめ、震えるのを必死に我慢したそうな。
尚クロエは『あばばばばばばばば?!』と意味不明な言葉を発したながらヒルダに抱き着いていたそうな。
何時も気弱で引っ込み思案なアンナがこのように感情的なるのはすこぶる珍しく、昆虫関連かレイラの事絡みのみである。
まぁ……レイラの事を考えて作戦の直前に、『ナルヴァの森でアキトが見せた滅茶苦茶な操縦に振り回されるよりは、スバルの消極的な行動と傭兵業で生還率が高そうだから』とアレクサンダ・スカイアイにアキトではなくスバルを乗せたことが裏目に出たわけだが。
さらに余談だが、久しぶりに酒を口にしようと思ったクラウスはいつも飲んでいた安酒を口に含んだ瞬間、あまりの不味さに吹き出してしまったそうな。
「……しゃあねぇ。 まだいるか知らねぇが、ワルシャワの飲み仲間に連絡ぐらいしておくか。」
クラウスがチラッと横目で見たのは、彼の妻と思われる女性の顔部分はマジックで塗り替えられ、机の上に置いてある彼の家族写真らしきもの。
そして机の下に隠している、EUの特殊部隊などが暗号通信などに使う個人用の通信機だった。
「(なーにやってんだか、俺は……)」
…………
………
……
…
「ほら もっと腰を入れて!」
「はい!」
ペシ。
次の日、レイラは洗濯物を手や小道具などを使って洗おうと、老婆の一人とスバルの下で学んでいた。
「もっと強くしな!」
「はい!」
ペシン。
「もっと力を込めて!」
「は、はい!」
ペシン!
「もっと強くしな────!」
「────レイラ中佐、必要なら嫌いな奴を思い出せ────」
「────えい!」
バシン!
「そうそう、その調子だ……よ!」
シュバ! スカッ。
「くッ!」
「(当たらんよ!)」
「お二人とも、ご指導ありがとうございます!」
「……ちょっと何あれ?」
これを見たアヤノは目を点にさせていた。
「見ての通り、洗濯だ。」
そして近くのアキトが答える。
「見ればわかるよ……けど何で急に?」
「さぁ? 司令も自分の出来る
「…………」
「……洗濯だけに。」
「……………………」
「…………洗濯、だけに────」
「────一回目で聞こえたわよ!」
「アヤノは朝からパワフルだねぇ。」
「「「フワァ~。」」」
「すごい欠伸だね、三人とも。」
「「「まぁな/ね。」」」
欠伸を出すリョウ、イサム、タカシはユキヤに生返事を送り返し、再び一日が始まる。
「…………」
その様子を(殴ろうとしたアヤノから無事に逃げて)薪集めをしに、森にこれから入ろうとしたアキトは静かに見ていた。
『これも悪くない』、という思いが彼の脳裏を過りそうになると、ふと声を掛けられる。
「おや、君も薪拾いかい?」
「そういうオウルこそ。」
アキトに声をかけたのは近くの民家に最近長旅から帰ってきた中年男性『オウル』……という設定をした男に変装した、オルフェウスだった。
『プルートーン』らしき動きを聞いてEUにいたオルフェウスは、『大規模な作戦がある』と噂されたスロニムの近くに移動していた。
そして幸運にも『プルートーン』を発見したはいいが、オルフェウスのせいでシンが『プルートーン』の存在に気付くきっかけとなってしまった。
そこから『プルートーン』の生き残りを探すためにワルシャワまで追って、機体の損傷や長旅からの整備不良悪化を防ぐために急遽EUに『オウル』の隠れ家に戻り、ガナバティに連絡を入れてから
そう思った彼が川の近くにまで来ると、
オルフェウスはギアスなしでも、『変装』に事関してはかなりの自信を持っている。
たかが髪の色や態度を変えただけで、ユーロ・ブリタニアで見たスバルを見違うわけがない。
『偶然にしては出来過ぎている』という疑惑から、彼は様子を見ることにしたが、あまりにも自然に周りに馴染みこんでいたことからその疑惑は薄れていったが、
『何でここにお前がいる?』、と
初対面ならば誰でも身構えるはずの場面を、スバルは平然と
「(やはり奴もギアス能力者、あるいは噂のギアスユーザーか? だとすれば納得がいくが、系統を絞るには情報が必要だ。)」
オルフェウスはその次の日から、『オウル』となったまま老婆たちやワイバーン隊の皆に『近所のおっさん風』に自己紹介をした。
「オウルさん?」
「(そのためにも、独りになりやすい
そんなことを露知らず、スバルは内心で目の前の場面でほっこりしていた。
人種、年齢、経歴、その他に関係なく、てんやわんやしながらも笑顔であふれた一時を。
シュバババ! スカッ!
「馬鹿な?! 今のは完全な不意打ちだったはず!」
「(小石のある場所でジャリジャリした足音を消すことは不可能なのだよ!)」
「頭の後ろに目をつけているとでもいうのかい?!」
「(俺はヤム〇ャではない。)」
「私の足を足場に!」
「(いやしていないから。 お前たちはどこぞの三連星か?)」
…………
………
……
…
その夜は前日よりさらに活気付いたものだった。
「「私たちを癒しておくれ~。」」
「ベタベタ触んな!」
「いいじゃないか、別に減るものじゃあるまいし~。 ほれ、こっちの皿にまだまだあるぞい?」
「お、サンキュ!」
「いい食べっぷりだねぇ~。」
「だから触んな婆!」
「「「(完全に餌付けされている。)」」」
口ではいやいや言いながらも、目の前に次々と置かれる料理にがっつくリョウや彼にセクハラの照準を変えた老婆たちを見たスバルたちは、内心そう思いながらも黙々と食べていった。
「どうだいレイラ、自分の作ったシチューは?」
「美味しいです!」
「そうだろう、そうだろう♪」
「うまぁぁぁい! ほら、アキト! レイラの釣った魚のムニエル食ってみなよ!」
「うっ。」
ここでアキトが今まで維持していたポーカーフェイスが初めて崩れ、明らかに嫌なものを見る表情へと変わり、アヤノがキョトンとする。
「え? アキト、もしかして魚嫌い?」
「……」
「でもムニエルだよ?」
「好き好んで生臭い物を食べる奴の気が知れない。」
「レモン、絞る?」
「……………………………………………………」
「……(ニヤ)」
アキトのだんだんと崩れていく仏頂面に、アヤノが小悪魔的な悪戯っ子の顔をして、これを見たリョウとタカシが察してアキトの腕を左右から掴んで拘束する。
「な?! 離せ────!」
「────おらアヤノ、今だ! 積年の恨みを晴らせ────!」
「────タカシ、お前もか────?!」
「────許せアキト────!」
「────おりゃあああああああ! その口に直行便────!」
「────やぁぁぁめぇぇぇろぉぉぉぉぉぉぉ?!」
「(あ、沙慈クロス〇ードだ。)」
思わずピンと来たことにスバルは思わず笑みを浮かべて、それまで皆と一緒に笑っていたレイラは胸がドキンとしたそうな。
またまた余談だが、この頃何かとソワソワしていたカレンが急に動いたり立ち上がったりなどして、撃たれた肩の傷の完治は遅くなっていたそうな。
ワルシャワの老婆たちとワイバーン隊の皆と『オウル』(というおっさんに変装したオルフェウス)の前で
なんでこうなった。
いや、事の始まりは昨日と違ってレイラが足を引っ張らないように立ち回らせて、家事とか料理の仕込みを早く終えたから老婆たちが夜を飲み明かす準備に入りギターを出して、あまりにも調整不良だったから直したら『何か弾いてくれ』って頼まれて、周りのみんなが期待するような目で見たから仕方なくアニソンを歌いだしたら、ますます期待されるまなざしを向けられてというかなんというか。コードギアスでアニソンなんてどういわけやねん誰かタスケテ。
いや落ち着け、今は歌だ。
歌に集中するんだ。
かつての歌手は言った。
“良い音楽というのは老若男女も関係なく、皆がノリノリになれる良い物だ”と! *1
というわけで俺の(知っている)歌を聞きやがれぇぇぇぇ!*2
あ、もちろん場の雰囲気に合ったやつだけだぞ?
俺は空気が読めるからな♪
…………
………
……
…
それからさらに時間は過ぎていき、一番歳を食っている大婆(レイラ命名)が酔ったのかレイラをその場から連れ去り、自然とその夜の飲み会(俺含め未成年組はぶどうジュース)はお開きになっていく。
この流れは多分、原作で見せたあのシーンだろ。
レイラの両親は昔死んだと以前に言ったと思うが、実際は暗殺されている。
レイラはマルカル家の養子になる前の本名は『レイラ・フォン・ブライスガウ』といい、父はEUにしてはかなり珍しく、民衆の自立を訴えていた政治家の『ブラドー・フォン・ブライスガウ』。
それだからかグングンと彼の人気は鰻登りに増していき、演説中に爆破テロに────いや、
確か……彼はレイラの父ブラドーに嫉妬していて、暗殺の目的の次いでにレイラの母も自分の妻として狙っていたと思う。
これだけでもクズ中のクズの部類に入るが、スマイラスのテロがきっかけでほかの暗殺者が勢い余ってレイラの母も殺すんだっけ?
とまぁ、この話の本命はここからだ。
大婆はレイラのことを占って、『森の魔女に会って呪いをかけられた』と当てる。
ここで出る『森の魔女』とはCCのことで、『呪い』はギアスということでぶっちゃけるとレイラにもギアスはある。
一応。
どういうわけかEUの森をギアス嚮団の者たちとともに移動していたCCは、冬の湖を逃げるために誤って渡ろうとした瀕死のレイラを助け、レイラが死にかけだった子供だからか気まぐれだったのか、CCは『契約』ではなく『仮契約』を交わす。
無論、子供のころの出来事である上に瀕死状態だったので、レイラはこのことを『夢』とずっと処理していたから、大婆に言われるまで殆ど忘れていた記憶だった筈。
「シュバールとやら。」
と、そんなことを考えながら食器洗いやワイン(&熟成前のジュース)ボトルを片付けている間に、大婆が俺に声をかける。
「どうした? 添い寝の件なら断るが────」
「────少し話がしたい。 私の馬車にまで送ってくれるかい?」
え? どゆこと?
「……ああ。」
『話って何だろう?』と思いながらも夜がすっかり訪れ、おぼつかない足取りをする彼女の手を取って馬車にまで一歩ずつ気を付けて歩く。
転ばせたり、足もたれなんかさせたら『体勢を整える』と名だけのセクハラ攻撃が来るからな。
馬車の中に入ると案の定、絨毯の上に原作でも見た羊皮紙がおいてあって文字で星の形が描かれていた。
「そこに座りなさい。」
いつもの様子とは明らかに違う大婆に戸惑いながらも、『ナニコレ?』と思いながら座ると、大婆は模様の彫られた石を手にとっては呪文のようなものを唱え始める。
「“クレーントゥ、プレィテリア、フトゥルゥム……クレーントゥ、プレィテリア、フトゥルゥム”……」
サイコロのように彼女の手の中にある石が振られ、カラカラコロコロとして音がいつの間にか静まり返った馬車の中で響く。
う~む、こう見るとやっぱ
そう思いながら、模様の彫られた石が羊皮紙の上で転がせてから、真剣な表情をした大婆は口を開ける。
「シュバール……アンタ、
Oh……やっぱりか。
原作でも描写はあるが、大婆は『特殊能力』とか『サクラダイト』という不思議物質とかがあるコードギアスでもかなり異質な存在として現れている。
今まで見てきたが、大婆は普通の人間だ。
だというのに、占いだけで相手の過去や潜在的な何かを言い当てられる。
レイラの場合はCCとの出会いと、仮契約の
そして原作と流れは違うから起きなかったが、アキトが
「それに出自も異質だね。」
そこまでかよ?!
「そうか?」
ここは取り敢えず当り障りのない返事を────
「ああ。 加えてアンタはこの世界のことを
────ファ?!
「別に言いふらしはしないさね。 “秘密にしたい”という強い
黙り込む俺の心境を悟ってか、大婆が口を開く。
「ただね、“年寄りの好奇心”とでも呼ぼうか? 初めてアンタとぶつかったあの日、アンタのことを初めてちゃんと見た瞬間に、何とも言えないことを見たんだよ。」
はえ?
「今まで何人もの事を占ってみたけれど、誰もが『光と闇』、『白と黒』、『裏と表』のような二面を持っておるがお前さんはそうさね……強いて言うのなら“
大婆の言葉で、ザラザラとした感じが体中を駆け巡る。
「それは……どういう意味だ?」
「そうさね……まるで、元々────っ。」
大婆が急に口を閉じる。
「……何か?」
「これ以上は……私が口にすべきじゃない事さね。」
「…………………………」
「言えることと言えば、アンタは自分で思っているより根は優しい。 他人の運命を、自分より優先しちまっている。 現に、アンタの周りにいるヤツらの運命は変わっているよ。」
「…………………………」
「先短い私からの頼みは、これからどんなことがあっても……アンタがそのままでいてくれることだよ。 そうすれば、己の運命を切り開けるかもしれない。」
「…………………………占い、ありがとう。」
ガンガンと、まるで頭を殴られたかのような居心地のまま、立ち眩みしたような足取りで大婆の馬車を後にし、自分の寝床へ戻ってくると彼女の言葉が再び頭を過る。
『強いて言うのなら“
それはどういう意味だ?
コードギアスでも『色』をモチーフにした作品は、ロストカラーズのようにいくつかあったと思うが……『灰色』なんて聞いたことがないし、なぜそれに俺が当てはまる?
『アンタは自分で思っているより、根は優しいからね。』
「“優しい”、か……」
打算ありまくりで、胃を痛めながら周りの顔色を窺うような俺がか?
『他人の運命を、自分より優先しちまっている。 現に、アンタの周りにいるヤツらの運命は変わっているよ。』
「冗談は、よしてくれ。 必死なだけだ。」
『周りの運命』なんて、“次いでに”の気持ちぐらいで問題は山積みで……俺自身は────ん?
誰かこっちを見ている気がする……
って、全員寝ているであろう時間に盗み聞きをするのは多分オルフェウスぐらいだろう。
いつもなら確認しに行くが……なんだかドッと疲れた気分だから寝る他にやる気が出ねぇ。
もう無視だ
ミーン、ミーン、ミ~ン。
今は秋だが。
……無性にビッグモナカでなくとも、甘いものが食いてぇな。
柿とかリンゴとか……オレンジとか。
え? 『なんで最後は躊躇した』かって?
なんだか口にしたら出てきそうで怖いから。