小心者、コードギアスの世界を生き残る。   作:haru970

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前半に『残酷な描写』、『独自設定』タグが発動します。
ご了承くださいますようお願い申し上げます。


第110話 火の元注意

 ブリタニアの本国、別の世界線では『グレートブリテン』と呼ばれている小さな島国にはいくつかの都市がある。

 

 ペンドラゴンは首都らしく重要人物が数多く滞在しているが、勿論その一つだけではなく、原作では描写少ないが、他にも都市や町なども、それぞれ何かの産業などの役割を中心に存在する。

 

 例えばウルリッチ、アルトン、パッドストゥ、スタンポート、ヘメマー等々。

 

 その中でも、軍事で栄えたシャフベリーの郊外では銃声が鳴り響いていた。

 

 この場所の特徴(というか地域)では別段珍しくもない、それ(銃声)に住民たちは『ああ、また何かのテスト中か』と思ってか外出を控えていた。

 

 そして治安機関にもやはり、『とある技術機関が軍からの要請で急遽武器の試験中』という書類も提出されている。

 

 ()()()

 

 もちろんその書類とやらは存在しないし、“軍からの要請”もその日はなかったが、よくあることだったので(数人を除いて)誰もが納得していた。住人も正当防衛が行使できる程度の武器を所持しているので、リスクは承知の上でそこに住んでいる者たちばかり。

 

 

 さて。

 音とは奇妙なもので、反響具合で聞こえてくる方向が実際の発現場所と違うこともある。

 例えば、山などに囲まれている(物理的な境目の中にある)シャフベリー。

 

「うわ?!」

「うーん、仲間にバレたっぽいね。」

「殺意を持った者が……10名ぐらいか。」

「うーむ……驚いているのか、正面だけから来ているのが幸いですわね?」

「だけどまさか仲間を常に囲っていたのはちょっと意外だったわ。」

 

 シャフベリーに近い山村の一角にある家の中、私服姿の元イレギュラーズのダルク、かなりド派手な娼婦っぽいヒラヒラ服装のマオ(女)、サンチア、ルクレティアたちにマーヤがいた。

 

 さて、簡単に話をすると彼女たちは今の今までブリタニア本国(といっても辺境)に潜入し、スヴェン(スバル)に頼まれた『ウィルバー・ミルビルと彼の家族の保護』を遂行していた。*1

 

 しかし『保護の頼みなのになんで銃撃戦になっているの?』、という疑問を持っているのはごもっともである。

 

 実はスヴェンがその時口にした、“ミルビル卿を引き抜くのは襲撃の後だ”が原因だった。

 

『襲撃の後』、すなわち彼の言っていた『テロに見せかけた活動』は組織的な行動を示していることで、ミルビル博士たちを狙うのは『何らかの組織』となる。

 

 さすがに彼女たち一人一人が優秀でも、『動かせる人手』の違いで戦力差が出てしまう可能性はある。

 そしてディーナ・シーの乗組員のほとんどは日系人で、潜入するには無理があり、黒の騎士団で潜入できそうな者たちは、自分たちに中華連邦、ブラックリベリオン後のエリア11に取り残された団員たちや協力者などのことで精一杯。

 

 他のアマルガムのメンバーたちはスバル(スヴェン)の頼まれ事で出払っているか、あるいは客人(ユーフェミア)のことでゴタゴタが起きないように上手い立ち回りを(させ)ている。

 

 ならば上記での戦力差(の可能性)を縮めるにはどうすれば良いのか?

 

 答えは単純に『徹底した情報収集』。

 

 敵がどれだけ数をそろえようが、手の内がバレていればうまく立ち回る事が可能となり、相手の動きや行動も予想できる。

 

 つまりある程度の()()()()を可能とさせ、それは敵との遭遇時に戦闘を有利に進められる。

 

 ただ一つの誤算だったのは、スバルの言った『テロを装う貴族派の者たち』が、用心のためにグループの全体を把握していなかったこと。

『皇帝派の重鎮たちを狙う』ということから、それだけに用心するのも無理はないが。

 

 これにより彼女たちは、別々の役割を担ったグループの一部を確実に特定してから接触せざるを得ず、調査の進み具合が予定より大幅に長引いていた。

 

 これもあり、元イレギュラーズはギアスの使用を控えていた。

 

 何せこの段階での彼女たちの作戦はまだ『遂行前』であり、『本番』ではないからだ。

 

 余談だがその情報収集活動はマオ(女)の服装に類するものばかりではなく、ただ今回のターゲットが()()()()()()以外では絶対に他人(部外者)を住居に招き入れないだけだった。

 

 まさかその標的の近所が標的の仲間で固められていたとは予想外な上に、今まで得た情報からその者たちの動きなどが『行動間近』をにおわせていたので焦っていたのもあるが。

 

「う~ん……どうするサンチア?」

「どうもこうも、荷物を抱えながら撃退するのは長引く可能性がある。」

「そうなれば、密入国者たちの私たちが不利になりますわね。」

「そっか~。 今のアタシたちも軽武装だもんねぇ~。」

 

「……」

 

「??? マオちゃん?」

 

 ダルクたちの軽~い受け答えを静かに聞いていたマオ(女)が、荷物の中から丈の長い雨合羽を出し、着ていたヒラヒラランジュリー的な服装の上から羽織ってジッパーを閉める行動を見たマーヤが声をかける。

 

「本当は()()()()()()()落ち着いた場所でしたかったけれど、()()()()()()()ね♬」

 

「「「「「え。」」」」」

 

 元イレギュラーズの四人に縛り上げられた標的がそう声を上げ、マオ(女)が彼をズルズルと住居でも奥にあるバスルームの中へと引きずっていく。

 

「へ?! あ、ちょ、ちょっと────?!」

「────だからマーヤ姉ちゃんたち、ボクを守ってて♪ あ! それとこういう状況下だから『心理戦アリ』だよ。 だから覗き見とか絶対しないでね?

 

 

 

 

 でないとお姉ちゃんたちが吐いちゃうかもしれないから♡」

 

 バタン!

 

 そのままマオ(女)はバスルームに入ってから、男をバスタブに放り込むと鏡を壁から取り外し、レバーがあったことににっこりと笑う。

 

「お。 やっぱりあったった♪」

 

「ん?! なぜわかった?!」

 

「んー、君みたいな変態だとパターンは幾つかあるんだよねぇ~。 あ、バスルームも防音仕様なんだ、ラッキー♪」

 

「だ、だが────」

 

「────君、自分の噂をもみ消しているつもりかもしれないけどね? ホームレスに孤児をなめちゃっているよね? 『彼らの情報は噂程度』と思うかもしれないけれど、ギブアンドテイクで嘘を言うメリットはないし、現にボクのことを()()()()()()()攫って着替えまでさせているから。 ま、予定内だったからいいんだけれど♪」

 

 マオ(女)がレバーを引くとバスルームの壁の一角が開き、中はかなり()()()()()な設備や()()などが整っている部屋だった。

 

「あ、酸を使っているんだ♪ ()()()()()()()()()()()()わけだ。」

 

 マオ(女)が鼻歌交じりに淡々と隠し部屋の道具や自前のものを取り出していくと、標的の男性が口を開ける。

 

「へ、へへ。 一目でわかるか。 お前も()()()()なんだろ? 俺は口が堅いぞ────」

「────()()ボクはどっちかというと、()()()()()()()かな?」

 

「へ?」

 

「あ! 『束縛する』のは誰でもいいけれど、『されても構わない』相手もいるって意味だから♪ あ、それと勘違いしている様子だから言っておくね?」

 

 マオ(女)は笑顔のままアイスピックと隠し部屋から拝借したハンマーを手にしながら、標的が放り込まれたバスタブに近寄る。

 

「君は『拷問』を受けたことがないでしょ? 『一流の拷問者』はね? 体験者がすればより効果的なんだよ? それに君のは『快楽のための行動』であって、今からボクがするのは『仕事』さ。 両方なのは認めるけど♡」

 

 

 

「お、おい! そんなに撃つなよ!」

「人に当たるような角度に撃っちゃいねぇよ。」

「しかし寄りにもよって()()()とはな……」

「どうするんだよ? 時間をかけ過ぎると厄介になるぜ?」

 

 マーヤたちが立てこもっている場所に駆けてきた者たちは、どうしようか迷っていた。

 迷っていたのは『どうやって中の者たちを始末するか』ではなく、『どうやって中の仲間を救出するか』だった。

 

 何せ彼らに『貴族派の上層部』から来た指示を出していたのは、不幸にも今マオの手にかかっている男性が出していたからだ。

 それがなければ、住居ごと()()していただろう。

 

 彼らの最終目的は『ブリタニアの重鎮ポストを貴族派の者と入れ替える』ことで、こんなところでそれがバレたら貴族派から『トカゲの尻尾切り』に全員が合うだろう。

 

「と、とにかく騒がれる前に奪還するんだ! 携帯を持って来い、時間稼ぎと注意を引くんだ! 車を遮蔽物代わりにするんだ!」

 

 

 

 

 ピロピロピロリン♪ ピロピロピロリン♪

 

 マーヤたちがいる部屋の中に、ターゲットの携帯電話が鳴る。

 

「あ、電話────」

 『────痛ててててててでぎゃァアアアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!』

 

 ここで防音にも関わらず、悲鳴がバスルームから聞こえてくる。

 

 ピロピロピロリン♪ ピロピロピロリン♪

 

「誰が出る?」

 『や……ヤメ……やメてててて痛々ギエァあああああアアアアア!!!』

「じゃ、じゃあアタシが出るねぇ!」

 

 隣からくる生々しい悲鳴にダルクが志願し、携帯電話をスピーカーモードにする。

 

「もしもし~?」

 

『こ、子供?! なんで────?!』

 

 ……

 …

 

 電話をかけた男は驚愕した。

 何せてっきり相手はどこかの諜報員、少なくとも大人を想定していたのに電話に出たのは年若い子供の声だった。

 

『────えっと、お兄さんって今撃ってきた人たちの一人?』

 

 しかもその声がどことなく、久しく会っていない姪と似ていた。

 

「は?! え?! えっと、そうダケド……」

 

『いきなり撃ってお友達に当たっても構わないんだ~?』

 

「そ、そんなことはない────」

 「────おい、何を呑気に喋っている。 中の様子はどうなんだ?」

 

「あ、いやその子供が────」

 

 ────パァン!

 

「は?!」

「え?!」

 

 周りのおどおどとしている者たちとは明らかに違う振る舞いをし、同士を撃った奴は周りからギョッとされているにもかかわらず、平然と携帯電話をミュートしてから口を開ける。

 

「おいお前ら、火炎瓶の作り方知っているか? 知っているなら何個か作っておけ。」

 

 ……

 …

 

「えっと……今のは何?」

 

『交渉相手が変わった音だよ、嬢ちゃん。 大方、友達か知り合いの復讐かなんかだろうが、俺には関係ねぇ。』

 

「(この男……()()()()()。)」

 

 乾いた銃声がスピーカーから出るとダルクがそう尋ね、さっきまでとは違う声と態度が返ってくるとサンチアは舌打ちをしそうになる。

 

『いいか? 俺はさっきの奴と違って、相手が子供だろうが何だろうが、こっちの要求をのまねぇと焼き殺すのに躊躇はしない。』

 

 上記を聞いたマーヤは、拳銃のマガジンを変えながら、外がよりよく見える二階の窓から様子を伺うと、ちょうどタプタプと液体が入った瓶が夜空の光でキラリと光るのを目にする。

 

 キャップの代わりに布が無造作に詰め込まれる場と一緒に。

 

「(あれは……)」

 

 

 

『要求とは何?』

 

 急にダルクの喋り方が変わったことで、外で携帯電話でしゃべっている男性は確信を得た。

 

「(やっぱな。 相手も()()()()()()()してやがるな? 面倒くせぇ。) そこにいる仲間を皆殺しにすれば、嬢ちゃんだけは助けてやってもいい。 断るなら皆殺しだ。」

 

 男は仲間が火炎瓶に火をつけようと、ライターを着火させる姿を横目で見る。

 

「どうだ? 悪くない話だろう? (出た瞬間、捕まえて売るが。)」

 

 ……

 …

 

 マーヤはヘアースプレーを窓の枠にかけ、十分に油が溜まってからそっと窓を開けてから上着を脱いでTシャツ姿になる。

 

 肌寒い秋の風を気にすることなく、彼女はそれを窓枠に詰めて急増の『土台』を作ってから両手で握った拳銃で狙いを定め始める。

 

「スゥ~……ハァ~……(あの方(スバル)が言ったように、“深呼吸してから固定できる姿勢をとって────”)」

 

 マーヤがフロントサイト越しに見ている先で、停めていた車に背中を預けて火炎瓶に火をつけようとする男の後頭部があった。

 

「(────“心臓を止めて『当たる』と思ったら迷いなく撃つ!”)」

 

 ドン!

 

 マーヤの撃ちだした弾丸は狙っていた男の後頭部を見事に当たるだけでなく、そのまま男の持っていたライターに着弾し、さらに火炎瓶を撃ち抜く。

 

 着火したままのライターが空中に飛び散る火炎瓶の中身に引火し、瞬く間に周りの者たちに火が燃え移る。

 

「ブハァ!」

 

 遠すぎて叫んでいるであろう者たちがパニックに陥る様子からくる満足感に浸ることなく、パニックする者たちを無視してマーヤは次の標的に狙いを定めようとする。

 

「(二階に火薬式(スヴェン特製)拳銃とはいえ、この距離で当てられるか、普通?)」

 

 外の様子を鏡越しに見ていたサンチアが、感心なのか畏怖なのかわからない心境でそう思う。

 

「(とても()()()学生とは思えん……って、今更か。)」

 

『おい! 何しやがった?!』

 

 いまだにスピーカーにしている携帯電話から、悲鳴とともにさっきから威圧的だった怒鳴り声がくると、サンチアが喋りだす。

 

「こちらも交代しただけだが?」

 

 ガチャ。

 

 バスルームのドアが開くと、鼻にツンと来る汚臭とともに、雨合羽の隙間に飛び散ったと思われる返り血と肉片を顔からふき取りながら、サムズアップとニコニコした笑顔を向けるマオ(女)が出てくる。

 

「どうする? このまま引き下がればこちらも同じにするが? それとも今ここで死ぬか?」

 

 サンチアはハンドサインをアリスたちに送りながら、今度は()()()時間稼ぎをする。

 

「(さて、ここでの長居は無用だな。 あとはここに駆け付けた敵を()()()殲滅すればいいだけだ。)」

 

 この瞬間、サンチアたちは『防衛』から『殲滅』へと()()()()()()作業へと移る。

 

 元々イレギュラーズは『強襲』や『暗殺』などの類を主に行ってきた。

 相手にする者たちにも元軍人などもいるだろうが、所詮は半端者やチンピラ同然。

 

 行動を読むのは簡単である。

 

「うわ、クサ!」

「当たり前じゃんダルク、溶かしちゃったんだから♪」

「最悪……ってちょっと待ってよ! そんなバスタブの中に入るの?!」

「大丈夫だよアリス! ちゃ~んと掃除はしてあるから、最悪髪の毛が痛んじゃうくらいかな?」

「う~ん……困りますわね。」

「あ、ルーちゃん(ルクレティア)はこのシャワーキャップ使いなよ────」

「────あるならとっとと出しなさいよ!」

「うわぁ、“とっとと出せ”なんて……アリスのへんた~い♪」

 「そんなんええからシャワーキャップ貸せやゴラ。」

 

 アリスたちの話し声がバスルームから出て、二階にいると思われるマーヤにサンチアが叫ぶ。

 

「マーヤ! 罠を逆に利用するからバスルームに戻れ!」

 

 ……

 …

 

「状態はどうだ?」

 

 外で自然とリーダー的になった男が、先ほど火炎瓶の暴発(?)に巻き込まれた者たちのことを聞く。

 

「撃たれた奴と、周りにいた二人が……」

 

「(これで俺含めて7人か……) よし。 もうこの際だ、一気に攻め込む。」

 

「け、ケドよぉ────?」

「────これで中の野郎が死んだら、それまでだったってことだ。 逆にこのまま“情報を得たかもしれない中の奴らを見逃した”なんて、上の奴らが聞いたら確実に口封じがくるぜ。」

 

「「「………………」」」

 

「それに、口ぶりからすると中の奴はもう死んでいてもおかしくはない。 だったらここで襲撃者を皆殺しにして、組織から連絡を待つって選択もある。 行くぞ。」

 

 男はそのまま拳銃を握りながら駆け出し、ほかの者たちも戸惑いながら一緒に駆け出す。

 

「(ん? さっきの狙撃が来ない?)」

 

 そう思いながら、男はほかの者たちとともに、ドアを使わずに窓を割って入ると、すぐに敵を探すために────

 

 ドッ!

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 夜が明け始め、山村の端にある家が吹き飛んだ後の瓦礫がガサゴソと音を立てては崩れる。

 

 「ふんにゃらせぇぇぇぇぇ!」

 

 ダルクのおっさんくさい力む声と共に。

 

「皆、無事?」

 

 バスタブの上に落ちた瓦礫を『ザ・パワー』で退かせるダルクの横に、アリスたちをかばうように身を張っていたマーヤが身を起き上がらせながらそう声をかける。

 

「ぐえ! ぺっ、ぺっ! 口の中が砂だらけ……」

「早くシャワーが浴びたい気分だな……」

「……爆発物の腕が落ちていなくてよかったですわ。」

「うーん、流石ルーちゃんの『ザ・ランド』! 応用が効いて良いなぁ~。」

 

「でも()()()()()()()の気転もすごいわ。 まさか証拠隠滅のための爆弾設置を、焦らせた敵の一網打尽に使うなんて。」

 

「だよねぇ~。」

「まるでお兄さん(スヴェン)みたい♪」

 

「ウッ……そう、だな。」

 

 マーヤに『ちゃん付け』やダルクにマオ(女)に褒められた(?)サンチアは気まずいままバスタブから出て、山の影から出てくる朝日を見る。

 

「(…………彼もどこかで頑張っている。 それに毒島の推測通りだと、彼の行動すべてが繋がってくるが、あまりにも大きい目的だ……いや、今は頼まれた『ミルビル博士の保護』に集中しよう。)」

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「ン……」

 

 別の場所、現在のドーバー海峡の向こう側では、EUの標準(フランス)語のなまりで『シュバール』と呼ばれるスバル(スヴェン)は、(久しぶりに)胃がキリキリとし始めたことで皿洗いの途中に顔をしかめる。

 

「どうかしましたか、シュバールさん?」

 

 そんな彼の隣で食器を拭いていくレイラの心配するような声がかかる。

 

「ああ、いや……何でもない。 (なんだ? この頃治まっていた胃痛が……)」

 

 そんな場所から少し離れた森の中、アヤノは大きな木に背中を預けながら自慢の小太刀に定期的な簡易メンテナンス作業を行っていた。

 

「♪~」

 

 バサッ!

 

「綺麗だな────」

 「────ぎゃああああああああ?!」

 

 そんなアヤノを頭上(の木の枝と思われる場所)からアキトが『ヌッ!』と顔出すと彼女は叫んだ。

 

「け、け、気配殺さないで普通に声をかけてよ?!」

 

「『気を隠すなら森の中』というやつだ。」

 

 「意味が分からないよ?! それに……────」

「────風邪かアヤノ? 赤くなっているぞ。」

 

「だ、だって……き、き、“綺麗”だなんて────」

「────俺はその小太刀のことを話しているんだが────」

 「────いっぺん死ね。

 

「それはもう間に合っている。」

 

「……はぇ?」

 

 アヤノが“どういう意味?”と聞ける前に、アキトがさらに言葉を発して遮る。

 

「その小太刀に名前はあるのか?」

 

「ぁ……うん、『ビーショップ・ロングレイ』────」

「────全然かっこよくないな。」

 

「……」

 

「なんだその顔は?」

 

「……おじいちゃんは『蜂屋長光(はちやながみつ)』って呼んでいた。」

 

「変な名前。」

 

「んぐ。 (おじいちゃんもこんな気持ちだったのか。)」

 

 アヤノは思わず、アキトが昔の自分が祖父に対してかけた全く同じ言葉にダメージを受けた。

 

「アヤノのご先祖は侍だったのか?」

 

「あ。 うん、そうみたいだよ。 何せ────あ。」

 

「???」

 

 アヤノはハッとするかのように急に口をつぐみ、アキトははてなマークを出しながらサボっていた木の上から降りてくる。

 

「どうした?」

 

「あ、ううん! 何でもないヨー。」

 

 明らかに動揺するアヤノは眼を泳がせ、とある目にモザイクがかかって、アヤノの小太刀の銘が『蜂屋長光』&手入れをしていないと聞いては人が変わったような形相────

 

 ────ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ

 

「アヤノ、体も震えているぞ? やっぱり風邪か?」

 

ななななななななななんでもないヨー。」

 

「そうか。」

 

 明らかに棒読みだったアヤノだが、そこまで無神経ではないアキトは深入りしなかった。

 

「そういえばさ、アキトってよく独りになりがちだよね?」

 

「……そんなことないゾ?」

 

「さっきも、なんだか凄い言葉を真剣に返していたしさ────?」

「────そんなことない────」

「────いいや、あるね────」

「────お前────」

「────あれってどういう意味なのさ?」

 

「……俺は、子供のころに一度死んでいるんだ。」

 

 そして先ほどアキトがアヤノの『いっぺん死ね』に対して言った『もう間に合っている』に、ド直球な性格をしたアヤノが誰にも知られずに踏み入っていったそうな。

*1
88話




久しぶりにマーヤたちを出せました。
そしてマオはやっぱりやべぇ奴。 (汗

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