*注*後半に残酷&ダークな描写が出ます。 m(;_ _ )m
EU全域に流された放送で、『混乱を収めるために民衆の希望となりえた
「「「「レイラ・ブライスガウ!
レイラ・ブライスガウ!
レイラ・ブライスガウ!」」」」
『一目でもみたい!』というどこぞのブームに乗る野次馬的な衝動から、ブラドー・フォン・ブライスガウ議員が以前に務めていたパリの大統領官邸である『エリゼ宮殿』に市民たちは集まっていた。
「ブライスガウに会わせてくれよ!」
「我々のレイラ・ブライスガウー!」
「兵隊さん! この花を、お渡し下さい!」
その様子は『新たなアイドル』、または自分勝手な『希望』や『期待』を押し付けた存在を応援する群衆だった。
ここにいないのは、余程先の暴動がトラウマになったものや、急に忽然と収容所から姿を消した旧日本人たちの捜索に出ている者たちである。
ピンポンパーン♪
『これより、緊急放送が始まります。 市民の皆様に臨時政府より、重要なお知らせがあります。』
ピンポンポ~ン♪
さっきまで騒がしかった者たちは一気に口をつぐんでは、巨大スクリーンをボーっと見る。
これで動乱などの『普通』からかけ離れた状況下で、『政府』という
いつかのアンジュ風に言うと、それはまさしく自分で考えることを無意識のうちに放棄し、周りや世間の流れのまま身を任す『家畜』であった。
巨大スクリーンに出たのは、数ある軍人の中でも世間では『良い人』と通っているスマイラス将軍だった。
『市民の皆様に、私は悲しいお知らせを伝えなければならない。』
彼の重苦しい言い方と気まずい様子に、どよめきが
『我々に、勇気と希望の炎を灯してくれたレイラ・ブライスガウが……
死んだ。』
………………
……………
…………
………
……
…
ダダン! ダダン! ダダン! ダダン! ダダン!
ほぼ同時刻、ヴァイスボルフ城の森から一直線にレイラたちのいる場所にヴェルキンゲトリクスは全速でかけ走り、ジャンはグラックスのランドスピナーを限界ぎりぎりにまで走らせていた。
『ヒュウガ様! 前に出すぎです! (いつになく焦ってらっしゃる?)』
『ジャン、援護射撃。 座標を送る。』
ジャンはシンの様子に違和感を感じつつも送られてきた座標を指示通りに撃ちこむと、彼はちょうど崖のような場所を跳躍する。
グラックスの援護射撃にヴェルキンゲトリクスが走ると思われる直線状の地雷を誘爆させ、ヴァイスボルフ城にある正門の一つにダメージを与える。
「(腑抜けたEU本体とは違うと評価したが、やはり設備の技術でワンテンポ遅いな────)」
『────ヒュウガ様、右です!』
崖を跳躍したヴェルキンゲトリクスの道が文字通り開け、今からヴァイスボルフ城に突撃するといったところで、ジャンの通信にシンは思わず回避運動をとる。
ッ────ドゥゥゥ! ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリ!
すると、ぎりぎりモニターで捉えられる速度の何かが一瞬の遅れの後に起きるソニックブームのような音と共に地面すれすれに飛来してきて、地形をえぐりながら急ブレーキをかけては装甲中から湯気が一気に放出されて、軽い霧のような現象が起きる。
「ほぉ……これはなかなか……」
見た目的にはアレクサンダより人型に近く、かつガニメデのように所々に装甲が厚く設計され、腰から伸びる筒状に、背中はバックパックのような箱と肩部に武装を乗せたソレは、今までのナイトメアからかけ離れたデザインをしていた。
簡潔に例えるのなら、『様々な兵装を現地で持ち替えて使う事ができる一昔前の歩兵』だった。
「先ほどの言葉、撤回しよう。 やはり今度の相手は狩りがいがある。 ジャン、私にかまわず援護射撃を続けろ────」
『────ヒュウガ様?! それでは────!』
「────でなければ、目の前の『
『
シンは胸の高ぶりを感じながら、操縦かんを握るこぶしに力を入れる。
『いい余興だ』と思いながら。
ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリ!
「グッ?!」
シンが乗っていると思われるヴェルキンゲトリクスを狙った突進を止めるため、足と腰に取り付けたスラスターを反対方向に噴射させると自分を襲うGに息を止めて耐え────。
「────ガハァ?! ヒュー!」
一瞬だけ視界が暗くなって意識が飛びそうになるが、シートハーネスが体に食い込む痛みと止めていたはずの息が無理やり吐きだされたことで無理やり引き戻され、空っぽになりそうな肺に空気を補充する。
やはり、
本格的にラクシャータか(もし確保できたのなら)ミルベル博士あたりに、急激なGに耐えられるものと耐衝撃機能などを含んだモノを追求させよう。
今俺が乗っているのはラクシャータから送られてきた『試作型蒼天』の技術と、ガニメデコンセプトのフレームをベースにして、アンナとソフィの共同作業でヴァイスボルフ城にあるエレメントプリンターと反応速度を底上げする為にBRSなどの応用で俺が作り上げた、
『オリジナル』と言っても、所詮はコードギアスには無い機体のデザインだからそう個人的に呼称しているだけだが。
そう思いながらさっきの出来事とは別にドキドキする心臓を落ち着かせようと、次の手を考え────
ガショ、ドン!
────ているうちに、ヴェルキンゲトリクスが人型に変形してはレバーアクション型ショットガンを撃ってきて、俺は機体の脚部などにスラスターの噴射を使って弾丸を斜め前に出ながらかわし、肩に数ある長刀を手に取っては抜刀術のように切り込む。
すると予想通りにシンは持っていた巨大な大斧でそれを受けては無数のギアが回転して長刀を飲み込んでいくが、
俺は機体のサブアームを展開させると同時に長刀からメインアームを手放して次の切り込みを試みる。
だが『さすがはシン』と言ったところで、近距離から俺の機体を目掛けてショットガンを撃つ。
機体のスラスターノズルやブースターをフル活動させてはまたもGに意識が飛び散りそうになりながら、機体のモニター端に出ている防壁作動までのカウントダウンを横目で見る。
普通なら作戦室からの報告や通信を聞いているところだが、生憎初手から続けている機動戦で両耳はほとんど聞こえなくなっている。
あれだ。
『突発性難聴』というやつに似ている。
いや、そもそもそれ自体になっているのかこの場合は?
『意外に冷静だなオイ』だって?
一周回って、感覚がマヒして意外と頭がクリアになっているだけだ。
防壁展開まであと90秒、か。
空からも砲撃が来て、俺は『敏感過ぎる』と以前に評価した機体の性能を使って横に避け続けながらヴェルキンゲトリクスと相対し続ける。
前回のことを覚えているのか、大斧のギアは回りっぱなしで足場としては使えない。
今回は逆に、地面をスライドするかのように動き回る。
こうすれば奴は大斧で薙ぎ払うしかない、でなければ大きな隙を出してしまう。
だが、(多分)ジャンのグラックスの援護射撃は精密で厄介だ。
だがとある青い人は言った。
『精密ゆえに予測しやすい』、と。
そしてその通りだ。
最初の数発後に機体のOSに入力し続けるとようやく着弾地点が機体の動きに対して予測される表示が次々とモニターに出てきて、俺はその爆風などを逆に利用することにする。
すぐに対処されるかもしれないが、さほど問題はない。
あと60秒だからな。
クソ長いなオイ。
それに元ラウンズ仕様が前提だけあってヴェルキンゲトリクス、ランスロット以上に『不可能』より『意味不』な機体性能を持っているな。
あっちはこっちの機動戦に対して、機体の変形機能を使い分けながら薙ぎ払いをし、俺はカウンターを入れるが長刀が折れ、次の長刀を使う用意をする。
50秒。
ショットガンをよけて、カウンターを入れるところでジャンの援護射撃が来る。
かわして巻き起こる土煙を目くらましに利用し、移動。
40秒。
ヴェルキンゲトリクスの突きをよけたと思えば、グラックスの援護射撃がデンジャークロース気味の至近距離に食い込んできて機体のバランスが完全に崩れる前に、俺は機体のノズル方向を変えて噴射させ、緊急回避と足のスパイクなどを使ってバランスを保つ。
シートハーネスが軋む音と、自分の骨がミシミシと音を立てるのを耳朶へ直に響いて聞き取れる。
視界周りが少し暗くなるがあと30秒。
シンのショットガンにデンジャークロースの援護射撃、そして薙ぎ払いを避けると更に視界から色が吸われていく。
『“時間”に意味はない』を使いたくとも、ブラックリベリオン時のことを考えれば反動で行動不能に陥ってもおかしくはないから『ああこりゃ死んだな』とかの状況以外はパス。
というかあの時にコツコツとリチャージしていた分を全部使い切ったと思うから、これから来ると思われる展開などで使う予定だったところを考えると使いたくはないし20秒を切った、よし撤退だ。
機体の腰、肩、そして肘のノズルをすべて噴射させて一気にヴァイスボルフ城の敷地内へと退避すると、ようやく地面が盛り上げられて巨大な壁が出現する。
緊急時の防壁だけあり、壁ですぐさまヴェルキンゲトリクスの姿はもう見えなくなる。
と思えば、壁同士の間でかすかに見えたのはヴェルキンゲトリクスが跳躍して飛び越えようとする姿。
身構えたがヴェルキンゲトリクスが壁の上から現れる様子はなく、壁の隙間もコネクター接続によって塞がれていく。
「ぶh────ハゴェガァ?!」
身体の形と緊張感を保つために肺の中で止めていた空気を新鮮なものに変えようとすると、唾と唇を切ったのか血が混ざった咳きをして飛び散り、突発性難聴の耳鳴りがバクバクと心臓の脈が撃つ音に書き換えられ、灰色の視界には黒い星が散っていく。
あー、だるいし気持ち悪いし胃はむかむかするし、予想以上にシンが俺に対応してくるしどうしてこうなった?
『防御壁展開完了、確認!』
俺がwZERO部隊と接触したからですか、そうですか。
『お、お疲れ様ですシュバールさん!』
今のは……
えーと。
声、誰のだっけ?
ま、いいや。
「ああ、ありがとう。」
あかん、俺自身の声もぼやけて聞こえるから、上手く言えたかどうか正直不安だ。
それよりも呼吸を整えるんじゃぁぁぁぁ!
体中の汗でひんやりすることは無視!
「スゥー……ハァー……」
それよりも、やっぱりヴァイスボルフ城に残ってよかった。
まさかシンたちの強襲が原作より早くなっているのは予想していなかった。
もし俺がいなかったらと思うと、ゾクリとするぜ。
……よし。
咳き込むのも落ち着いてきたし、やっと世界に色が戻ってきた。
体の震えも収まったし、機体を帰還させよう。
お疲れ様、ありあわせで作ったナイトメアなのか戦術機なのかガンダムなのかわからない『なんちゃって蒼天(仮)』。
……ネーミングセンスが悪いのはわかってらぁ。
けどアンナの『バルカ』も、ソフィの『雷光』はなんだか縁起が悪いし。
というか雷光はもうすでにあるし。
何よりこいつは
『よぉ、傭兵さん。』
そこにクラウスの通信が入ってくる。
『あんたも今のうちに休んどけ。』
ああ、これはあれか?
レイラの“このまま最上級警戒、24時間待機”の宣言後か?
「ああ、わかった。 ウォリック中佐は?」
『俺ぁ、サラちゃんとオリビアちゃんで警戒態勢中さ。 これでも長時間作戦訓練を受けているからな。』
やっぱりな。
よし、
「ああ、わかった。 ワイバーン隊は?」
『あー、それのことだが……箱舟が爆発してから識別信号は消えたままなんだ。 けど、司令の指示によって
「そうか。」
よっしゃ!
防壁とは違って、こっちは『原作通り』っぽいな!
『なぁシュバール? ……
「当たり前だ。 あんなことでくたばるような奴らではない。」
『……だよな。』
これで『ワイバーン隊は本当に死んだ』なんて────ウッ?!
か、考えただけで胃がむかむかしやがる……
さ、さ~て頭を切り替えよう!
ヴァイスボルフ城に移動中の聖ミカエル騎士団相手に、
……個人的な恨みもないし同情もするが、ズタズタになって挫かれていてくれ。
その頃、先走ったシン(と彼を追ったジャン)に追いつこうとしていた聖ミカエル騎士団の先遣隊は、森に突入してから予定より大幅に遅い進軍を強いられていた。
普通なら空軍の輸送機を使うところなのだが、その方面でユーロ・ブリタニアを危惧していた本国からは『敵は隣国なので陸路で済ませられるだろう』という理由から厳しい制限を強いられていたこともあり、急な作戦実行可能な空軍はユーロ・ブリタニアの規模に比べれば必要最低限以下だった。
緊急に空軍を他の騎士団から要求する時間も大義名分も聞かされていない聖ミカエル騎士団は空軍への要請が通るまで、後に空路でついてくる予定の後続隊のために簡易滑走路と陣を張るためにシンと共に来ていた。
そのシンは地形などを無視して直進でヴァイスボルフ城を目指したので、
シュボォォン!
「ぎゃあああああ?!」
「あつ?! 熱い! 熱い熱い熱い熱い熱熱熱熱熱ぃあああ゛ああ゛あ゛あ゛あ゛ああああ?!」
「水だ! 水をかけるからジッと────ぎゃあああああああああ?!」
「な、なんだ?!」
「水をかぶせた瞬間、火が強まって広がったぞ────ってそっちは予備のエナジーフィラーだぞ?! やめ────!」
────ドォォォォォォン!!!
「「「あ゛がぁぁア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛?!」」」」
「なんでこんなにトラップがあるんだ?!」
「先行したナイトメア部隊が見つけられなかったとはどういうことだよ?!」
忘れがちだが、ブリタニアのナイトメアに搭載されているファクトスフィアは恐ろしく精密で、その正確さが特徴的である。
よって、このような大部隊が移動する際にはエナジー消費が激しくともファクトスフィアを常時展開させたままのナイトメアが先行し、危険物などの脅威を察知してから侵攻を開始するのが鉄則。
そして確かに地雷原は撤去され、シンとジャンによって森の中に設置されたパンツァー・フンメルの砲台は無力化され、天候も肌寒いがそれほど低くはなく、伏兵の危険も見当たらず、絶好の進軍環境────。
「なんなんだ、この森は?!」
────だったはずなのだが、どういうわけかファクトスフィアに察知されない数々の罠に先遣隊は翻弄されていた。
さて、ファクトスフィアは確かに高性能であらゆるセンサーが凝縮された優れた探知機である。
だが逆に言えば、
ゆえに調整しなければ、地面内にあるミネラルや森の中に住む動物たちも拾ってしまい、状況把握どころか膨大すぎるデータで探知機もオーバーヒートしてしまう。
スバルはこれらを逆手にとって、前世で思い出せるありとあらゆる罠をコツコツと、ヴァイスボルフ城に来てから『散歩』や『野営訓練』と称して設置していった。
無論、サクラダイトは一切使っていない。
それどころか鉄製も極力使っていない。
せいぜいが、ワイヤーや火薬に含まれている微々たる程度。
他はすべて、
例えば、ボール紙を筒状にして詰め込む火薬の量を調整した後に、手榴弾やロケットの弾頭を詰め込めば(飛ばす距離によっては一発限りもあるが)立派なグレネードorロケットランチャーが出来上がる。
もう一例は、サクラダイトによって電気文明社会となったコードギアスの世界には存在しない(あるいは発想がない)化学兵器の一種である、『油脂焼夷弾』や『
より言いやすくすると、現代では『非人道的兵器』と呼ばれているもののオンパレードである。
さて、進軍する歩兵部隊などにとって一番の脅威は何か?
敵の攻撃は当然であり、死ぬことも然り。
輜重部隊を失うことも長期の作戦に支障が出るだろう。
病人、あるいは怪我人が出ることは部隊の士気に影響を与える。
行軍する間、怪我人たちの護衛や介護に割かなければいけない人員のおかげで進軍の速度にも影響は出る。
つまり軍隊にとって、『けが人』や『病人』は『口のきけない死人』などより格段に厄介な凶器である。
なら。
それらすべてが重なり合うようなトラップだらけの状況は、何になるだろうか?
「アぎぃぃエェェェェェ!!!」
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」
「ア゛ついア゛ズイ゛ア゛ズイ゛ア゛ズイ゛ア゛ズイ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」
「ゲッホゲホゴホオブグェェェェェ?!」
「息を吸い込むな、そこから退避だ!!! 退h────」
────シュボォン────!
「────ぎゃああああ?! き、きえない火がまたぁぁぁぁぁ?!」
「奴らを備品に近づかせるな! 必要ならば撃ち殺せ!」
静寂なヴァイスボルフ城付近の森は、瞬く間に聖ミカエル騎士団にとって地獄と化した。
ある者の体は地獄の業火のように消えない火に焼かれ、ある者の皮膚は変色しては、ふやけたままずるりと溶けるように肉体からこぼれおちて、筋肉や骨などが露出する。
またある者は目や鼻や吐血などからくる強烈な痛みからの救いを求めて、仲間たちに駆け寄っては被害を拡大化させた。
『チックショウ────!』
『────おいバカやめろ!』
一機のサザーランドが森の中をを翔ろうとしてランドスピナーを展開し、仲間の制止する声を無視して進もうとすると、今度は森の内部に巡らせられていたワイヤーに引っかかって二段、三段構えのロケットや落とし穴を使った罠にはまって、身動きがとれずに機能損失するようなダメージを負ってしまう。
さらには────
「────ウッ?!」
「────ゲェェェェェ?!」
やっとの思いで周辺に遮蔽物がない森の中にある湖に行軍して、一息しようとしたところで野営のための焚火に近くの木を(用心から)ナイトメアで伐採し、それらに火を灯すとモクモクと広がる煙に歩兵の者たちは呼吸困難になり、嘔吐や息切れなどをし始める。
『ば、馬鹿な?!』
『まさか木にまで細工をしたというのか?!』
自然は皆が思っているより生命力が高い。
例えば人間が死ぬような致死量の薬物を木に打ち込んだとしても、せいぜい一時的に枯れる程度で来年にはピンピンしているのもザラである。
しかも、その薬物を保有して免疫を得たままの状態で。
『……クソ! 今夜はここで野営をする!』
ナイトメア部隊にも損害は出ているが、歩兵たちは比べられることができないほどの被害が出ていたことに、部隊長の一人は怒りと焦りを感じながらも野営を命じた。
予定されていたより遅い進行だったために陣地の構築場所まで程遠いが、夜にこの森を進むのは危険すぎるという判断を彼は下していた。
『その……焚火などはどうしますか? それに、食料も────』
『────部隊で持ってきたものだけで極力済ませろ! 一時的に水と食料の配給量を半分にする! 後方部隊への連絡は?!』
『も、森に入ってから通信機器の調子がやはり────』
『────ならば部隊を編成してさらなる要請を出せ! 負傷者も多数いることもな!』
とっくに夜になったことで、近くの木々を使うことは精密な調査ができる明日まで仕方なく断念し、寒さが堪える夜で焚火の代わりには、携帯用コンロや稼働していたナイトメアや輸送機の排熱や温かいモーターなどを利用して寒さを絶えしのぐこととなった。
「う……ウゥゥゥ……」
「目が……俺の目がぁ……」
「あ゛ア゛ァァァァァァ……」
「母さん……かあさ~ん……」
「イダ、イダイダ、イダイダイィィィィアアア゛ア゛ア゛アアアァァァァァァ……」
すでに泣き叫んでいたことで体力も限界だった怪我人たちのうめき声をなるべく無視しようとしたが、数が数だけに、いざというときに駆け付けられる距離の隔離も無駄な行為だった。
そこに『誇り高い騎士団』の姿はなく、ただただ心身ともに疲労し、仲間のうめき声を傍らで『見てはならない』、『聞いてはならない』と思いながら耳を塞ぐ部隊だった。
何であれ、『敵』と戦って戦死するのならまだ心の切り替えが効く。
何故なら騎士や兵士にとって、戦死は死に対する誇りと尊厳があるのだから。
だが、いまだ見えない敵と戦うことなく死んでいく仲間の亡骸や、怪我人の涙に吹き飛んできた手足の血肉や糞尿を横にただただ進軍するのは、騎士道精神を中心にされたブリタニア(そしてユーロ・ブリタニア)の軍にはかなり堪えた。
ヴァイスボルフ城の籠城戦が始まって、まだ日が浅いかつ一連を簡潔に記入した出来事ではあるが……
後にこの名もない森を、彼らは童話などにちなんで『魔女の森』と部隊内で呼称し始めるまでそう時間はかからなかった。
“戦に赴かう『部隊』は言うなれば『運命共同体』。
互いに頼り、庇い合い、助け合うのが条理。
一が全の為に、全が一の目的の為に。
だからこそ、戦場で生きられるのだ。”
所詮は『気休めの言葉』。
所詮は『理想』。
戦争は非情である。
『地獄』を体験していないからこそ、口にできる甘い『嘘』である。
では極限状態の中でなお、他人のために行動し、信じられることを何と呼ぶ?
『盲目』?
『評価』?
『狂信』?
『世間知らず』?
それとも、これが『愛』と呼ばれるものだろうか?
次回予告:
『知らないところで加速する(スバルの)胃痛と(スバルへの)期待』
果たしてスバルはバタフライエフェクトによる後のブーメランに、どう対応するのだろうか?
とりあえずは生き残ろうとするだろうが。
……久しぶりの次回予告&長いネーミング、堪えられませんでした。 (´・ω・;)ドキドキ
そして本拠地攻防戦、スタート。 (((゙◇゙)))カタカタカタカタカタカタカタカタ