小心者、コードギアスの世界を生き残る。   作:haru970

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少々短めで急展開な次話です。

お忙しい中時間を割いてお読みいただきありがとうございます。

楽しんで頂ければ幸いです。


第121話 言いたいけれど怖すぎるセリフを言ってしまった

 唐突だが、舞台を世界規模に少々戻したいと思う。

 

 ブラックリベリオンは黒の騎士団、引いては『合衆国日本』の敗北で終わった。

 ブリタニア帝国はエリア11の鎮圧とともに、権益の維持をして戦争特需によって繁栄の黄金期に入りつつあった。

 

 だが同時に、そのブリタニアに見事なまで『反抗』を見せたブラックリベリオンによって、ブリタニアを仮想敵国としていた大国や被支配下の小国をバックにした『反ブリタニアテロ』の活動は一気に世界中に広がっていた。

 

 ブリタニアは保有する圧倒的軍事力でこれらを今まで通りにねじ伏せているが、かの怪物である『ヒュドラー』のように、次々とテロ組織が生まれては活発化するだけだった。

 

 これに対し、初めて『対テロリスト組織』が第88皇女のマリーベルの発案で結成された『グリンダ騎士団』だ。

 

 一部隊であるが、その組織はテロの中核を担う相手を少数精鋭で遊撃的に排除するため、特別に『軽アヴァロン級』と呼ばれているカールレオン級浮遊航空艦のマリーベル個人での所有をシュナイゼルから許されている。

 

 一度は実の父親である皇帝シャルルに剣を向けたマリーベルが。

 

 これは彼女がテロに対して思う感情(憎悪)と、『彼女の才能(手腕)を活かせるため』とシュナイゼルが無理やり反対派である貴族たちを黙らせた結果だった。

 

 そんなグリンダ騎士団は、シュナイゼルの頼みで暴走気味になっているユーロ・ブリタニアへ『本国に協力的な者たちの保護』という名分で送られていた。

 

 その件とは別に、ブリタニア本国でもテロは小規模ながら()()()()()()()()()

 

 無論、本国であるために頑丈かつ周到なほど国境の警備体制は厳重。

 

『人の流れはある程度どうしようもないが、使う物資(道具)がなければ大規模なテロ活動は不可能。』

 そのような体のまま、ブリタニアの本国は長らく平穏の時を過ごしていた。

 

 実際、本国とEU領地はほぼ隣同士であるというのに、EUが古くからの首都ペンドラゴンに攻め込もうとしたのは、この世界での『第二次世界大戦』ならぬ『EU東西戦争』のどさくさの中で東と西の思惑が動いたときである。

 

 東側は『領地の拡大』と『西側に力の誇示』を目的とした『アシカ作戦』。

 西側は『物資の強奪』と『東側の偽装で悪評を広める』名目で繰り広げられた『海岸戦線』。

 

 二つとも結果的に失敗に終わったが両軍とも撃退されたのは海であり、陸にまで到達していない。

 

 よって()()()()()()をブリタニア本国は味わってもいないし、対処の想定やマニュアルも当時()のままだった。

 

 ドォォォン!!!

 

『て、敵襲!』

『テロか?!』

『ナイトメアだ!』

『どこから出てきた?!』

『目撃者によると空から降ってきたらしい!』

『こちらもナイトポリスを出せ! 早く!』

 

 よって、『本土に敵性ナイトメアの出現』などといった状況は全くの予想外である。

 

 そして寄りにもよって、グラスゴーに少し改良を施された警備用のナイトポリスが相手しようとしていたのは紅蓮弐式……に似た()()()()に統率された無頼や()()()たちだった。

 

 少し前にエリア11で起きた『フクオカの事変』により、中華連邦の手に無頼と無頼改が渡ったことで解析され、金に糸目さえつけなければ手に入るようになっていた。

 

 息を潜めながら計画を発動する機会を待っていた貴族派は大量に中華連邦から購入し、EUでジュリアスが行った『箱舟の船団』宣言に便乗してようやく決起した。

 

 もちろん上記でブリタニア本土内に暴れている無頼以外の『無頼改』や『紅蓮壱式』は張りぼてであるが、『空から降って本土、しかも貴族街を攻撃している』というインパクトの前には些細な問題だった。

 

 元がグラスゴーといえど軍用だった機体の事実は変わらず、保安用に改良されたナイトポリスでは歯が立たなかった。

 

 そんな街中でとある男性が車を走らせ、ビルの角から無頼改が出てくる。

 

「ウィルバー!」

 

 助手席に座っていた女性がそう叫ぶと運転手の褐色男────ウィルバーがハンドルを切って車の車輪をスライドさせて、無理やり目の前に出てきた無頼を回って走行し、無頼改はアサルトライフルを撃ちながらランドスピナーを使って車を無視しながら進んでいく。

 

「サリア、周りを見るな!」

 

「え────ウッ?!?」

 

 ウィルバーが叫んだ時には時遅く、サリアと呼ばれた褐色美人が車の窓から見た景色は逃げ遅れた者たちや警察官の無残な亡骸たちだった。

 

 それはあまりにも現実から離れた姿形で、いっそ『災害をテーマにした映画のシーン』と言っても納得してしまうほどの惨状だった。

 

 察しているかもしれないが、この二人はミルベル夫婦であり、皇族派でも正式に博士号を所有するほどのナイトメア技術者たちでもあり、貴族でもある。

 

 よって、このようにウィルバーが自動車を自ら運転するなど異例の光景なのだが、先ほど勤め先であるシュタイナー・コンツェルンの夜会パーティから帰宅する途中で、護衛たちは突然のテロによって壊滅し、ウィルバーたちの乗っていた車も走行不可能な状態になった。

 

 彼は運転手が近くに見当たらない、乗り捨てられた車を拝借して兎にも角にも安全圏(と思われる)シェルターのある地区に向かおうとしていた。

 

 だが────

 

「────シェルターが、燃えている?!」

 

 さっきのナイトメアが来た方角に向かっていたので『その考え』に至っていないわけではないのだが、二人が見たのは頑丈そうなドアが無理やりこじ開けられて中から燃え盛る炎が見えるほどの景色だった。

 

「そ、そんな……」

 

「……ほかの場所を探すぞ!」

 

 サリアが唖然としているとウィルバーは車を出し、道を走っていると銃撃音がして、彼らが乗っていた車のリアガラスがバリバリと音を立てて割れる。

 

「キャ?!」

 

 ウィルバーがバックミラーを見ると、今度は別の機体の無頼が対人機銃を使って追ってきていた。

 

「ウィルバー────!」

「────何かに掴まっていろサリア!」

 

 サリアの恐怖する声にウィルバーは気丈に振舞いながらも、このままで自分か(サリア)、あるいは二人ともケガをするのは時間の問題と理解していた。

 

 一応技術者でありながら、ウィルバーは生粋の軍人にも引けを取らないほどの指揮能力を持っている。

 

 ゴッ!

 

「「え?」」

 

 故に現状の把握などは彼にとって容易いことだったが、さすがに自分たちを追う無頼が横から飛んできた鉄骨に当たるとは思わなかっただろう。

 

「こっちだ!」

 

 そんなウィルバーは大通りの横道から手を振っていたブリタニアの軍服を身にまとった少女たちの声とジェスチャーの誘導のまま、大通りから少し外れた自然いっぱいで人影のない庭園に車をちょうどすっぽりと覆うような大きい茂みへと入り、ここでようやくウィルバーとサリアの二人に『とある事態』が浮かぶ。

 

「ウィ、ウィルバー……」

 

「だ、大丈夫だサリア。 何があっても君は守る!」

 

「ウィルバー……」

 

「えっと……おアツイ中を失礼ながらもお久しぶりと言ってよろしいでしょうか、ミルベル卿?」

 

 ぽっかりと開いたリアガラスから、どこかよそよそしいまでにへりくだった声にウィルバーたちはハッとして、声の主である軍服を着て気まずい様子の少女────サンチアを見る。

 

「…………………………ええっと……そういう君は確か、マッド教授の?」

 

「え、ええ。 覚えてくださり光栄です────ん?」

 

 サンチアは耳に付けたインカムに何か別の連絡が入ったのか、手を添える。

 

「……あー、ミルベル卿。 ここにラビエ博士たちも匿ってはいけないだろうか?」

 

 本来、スバルがサンチアたちに頼んだのはウィルバー・ミルベルと彼の妻の保護であり、『テロ』と呼ぶにしても小規模なこの出来事は早くも鎮圧され、貴族派は思惑通りに中枢に自分の息がかかった者たちを置くのだが……

 

 ここにきて、スバルでも予想していないモノも得てしまったことを知るのは、もう少し先の話である。

 

 

 ………

 ……

 …

 

 

 ヴァイスボルフ城の森の中にある半島にアキト機が降り立つと、アシュレイがプンプンと明らかに怒っている様子で飛び降りながら叫ぶ。

 

 「シャイング卿! テメェ、よくもオレがいるのに『方舟』を爆破させやがったな?! どんな言い訳を────?!」

 

 パパパパパァン!

 

「────おわっととととと?! 何しやがる、ジャン?!」

 

 アシュレイがアキト機から飛び降りると、ポカンとしていたジャンが手に持っていたリボルバーを躊躇なくアシュレイに向けて発砲し、アシュレイはそそくさと遺跡の壁に隠れてから抗議の声を上げる。

 

「黙れ、裏切り者!」

 

 「ふざけんなこの野郎! 先に裏切ったのはシャイング卿だ!」

 

「せめて騎士らしく潔く散れアシュレイ・アシュラ!」

 

 パパパパパァン!

 

「チッ! いつになく強気だなジャン?!」

 

 ジャンは素早くリボルバーの弾をスピードローダーで再装填してから攻撃している間、アシュレイはぐるりと遠回りにクラウスが様子を見るために残った場所に辿り着いては、クラウスを無理やり自分へと振り向かせる。

 

「ちょ?! おま?! 誰だよ?! ていうかさっきまであそこにいたんじゃ────?!」

「────おいおっさん────!」

「────()()30代だ! おっさんじゃねぇ────!」

「────十分おっさんだろうが?! それよりアキトの野郎どもに頼まれた! ずらかるぞおっさん────!」

「────だから誰だよお前ぇぇぇぇああああああああああ?!」

 

 アシュレイはクラウスをつかんだまま無理やり引きずっていき、半島に停泊させているクルーザーへと連れていく。

 

 ジャンがいる場所近くでは、ユキヤの弾丸を受けて視界が巻き起こった土煙によってさえぎられていたヴェルキンゲトリクスがハルバードで煙を振り払い、アキト機を見る。

 

『兄さん────』

『────やはり生きていたか、アキト。 さすがだな────』

『────兄さん、目を覚ましてくれ! 何が貴方をそこまで変えたんだ?! 昔は、あんなに────!』

『────それを知らないというのなら、お前は世界のことを知らなさすぎるぞ、アキト。』

 

『少なくとも、兄さんよりは知っているつもりだ!』

 

『……ならアキトならどうする?』

 

 ここで初めてシンがアキトに問いをしたことに、アキトは戸惑いを隠せずにいた。

 

『兄さん────?』

『────世界は決して優しくはない。 そしてこの世界の在り方は支配者どもに思考を放棄した大衆が支持している限り、世間は誰が何をどうしても変わらない。 この世界は歪で不完全で、生きている者たちに苦しみしか与えない。 アキトならば、どうすべきだと思う?』

 

『……………………わからない。』

 

 長い沈黙の末にアキトの出した答えに、シンが笑みを浮かべる。

 

『だろう? だったら答えは簡単だ。 世界を維持している支配者と大衆を根こそぎ消せばいいだけの話だ。』

 

『……俺は兄さんたちのように賢くはない。 だけど、その方法はダメだと思う。 兄さんほどの人なら、他の────』

『────他の道など、腐った世界を維持する家畜どもに何を期待すればいいというのだ? 見ろ。 EUは偽造された映像と停電というチャチな手品だけで崩壊寸前になり、ユーロ・ブリタニアは力を誇示しただけであっという間にいいなりだ────』

 

 そこでアキト機のコックピットが開き、アキト本人が出てきてはシンも機体から出てくる。

 以前のスロニムのような場面が出来上がっていた。

 

「────それでも、俺は()と一緒に別の方法を探す!」

 

「愚かなアキト、お前は幼子のままだ。 あの時()()()()()()()()のか不思議で仕方がないが────」

 

 ドグン!

 

「────ウッ?!」

 

 シンの言葉にアキトは子供の頃を思い出し、その連想に彼の心臓は強く脈を打つ。

 

 視界はぼやけ、『今すぐにでも思い浮かべていることを行動に移したい』と『それはやってはダメだ』という二律背反の考えがアキトの中でぶつかり合う。

 

「……今のお前に構っている暇はない。」

 

 シンはヴェルキンゲトリクスに乗り込みながら、自らのこめかみに拳銃を向けるアキトから興味が失せたような独り言を言い放つ。

 

 

 


 

 

 ガコォン!

 

 これで最後の銃身の替え。

 弾丸も残りわずか。

 電磁砲の為に、機体から直接エナジーをライフルに送っているから残量も心許ない。

 

 あれから30分ほど時間が経った。

 もうそろそろワイバーン隊とレイラたちがヴァイスボルフ城に戻っていてもいい頃だ。

 

 だというのに一向に通信が入ってこないし、送っても応答がない。

 

 どういうことだ?

 

『シュバールさん!』

 

 おおっと、やっとレイラの声か。

 

「どうした?」

 

 そのまま“戻ってきてください”とか言うのかn────

 

『────まだ戦えますか?!』

 

 え。

 

 返ってきたのはレイラの切羽詰まったような声?

 ナンデ?

 

「どうした? ワイバーン隊に何があった?」

 

『ワイバーン隊は無事ですが、敵の別動隊が別方向から城に迫っています!』

 

 どういうことやねん。

 

『今城に着いた皆の機体の整備や補充に修理などをしていますが────』

 

 ────ああなるほどね。

 

「つまり、俺に“時間稼ぎをしてくれ”と?」

 

『……………………平たく言えば、そうなります。』

 

 まぁ、無理もないか。

 今満足に動けるナイトメアは俺と城の警備隊たちにドローンだが……

 

 警備隊は『治安目的』の組織であって『戦争』をするためのモノじゃない。

 

 ドローンはレイラが扱えば何とか戦力になるが、『城の防衛と敵の追撃』の為に取っておきたいんだろう。

 

 キリキリキリキリキリキリキリキリ!

 

 う、腹が……

 

『その……申し訳ないのですが────』

「────了解した。」

 

 ああ、全然似合わないからそんな悲しそうな声を出さないでくれレイラ。

 

 まるで元気のないカレンより胸がチリチリ痛む。

 

『え────?』

「────それがお前の望みなら、契約に従うまでだ。 だが────」

 

 あー、もうどうにでもな~れ!

 “人生で言いたいセリフ”、ゴー!

 

「────時間稼ぎは良いが、別に殲滅してしまっても構わないか?」

 

 ギュウゥゥゥゥゥ!

 

 上記のセリフを口にした瞬間、胃が絞られ過ぎてブチぶちと布が千切れるふきんのようなかつてないほどの痛みが襲った。




仕事の合間での携帯書き上げ&投稿がまだ続くと思います、申し訳ございません。 (´;ω;)

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