小心者、コードギアスの世界を生き残る。   作:haru970

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第122話 『子供』と『大人』、『騎士道』と『野心』

 現在のヴァイスボルフ城の戦力は『城の防衛システム以外はほぼナイトメア』と言っても過言ではない。

 

 元々スマイラスはいつかレイラごとwZERO部隊を切り捨てるつもりだった。城の設備の大半が最先端技術を使った自動化された兵器類が多いのもその理由が関係していて、城には最小限の人員しか配置していなかった。

 

 だが幸運にもwZERO部隊はEUから孤立していたからこそ、本来ならEUが目くじらを立てるような技術の開発などに励むことが出来たのが唯一の誤算だったかもしれない。

 

 原作でのアンナはこの時点で、すでにブリタニアの最先端技術である筈のブレイズルミナスだけでなくフロートシステムの解析を独自に終えているだけでなく、鹵獲したアシュレイのアフラマズダのデータを元にシュロッター鋼の装甲をアレクサンダたちの改良に使っていた。

 

 その上『亡国のアキト編』でのクライマックス時に使用されているナイトメアでも汎用型である『アレクサンダ・ヴァリアント』は、今まで使っていたアレクサンダタイプ02をさらに強化したモノで、リョウたちのデータを応用してアキト専用機として開発していたアレクサンダタイプ02の亜種とも呼べる『アレクサンダ・レッドオーガ』。

 

 最後に『箱舟作戦』から機体と共に生還したアキトの機体を現段階で出来るだけの強化を施した『アレクサンダ・リベルテ』はコードギアスの作品中でも目を見張るものがあった。

 

 上記のブレイズルミナスを使った盾、コックピットブロックや背中に取り付けられた噴射機での機動力アップ、そしてハリネズミ風にありとあらゆる武装の追加。

 

 余談だがスバルが前世で見た(と思われる)とある某アニメ風に『アレクサンダ・リベルテ』を呼称すると『フルアーマーアレクサンダ』がしっくりくるだろう。

 

 さて。

 

 そんな『亡国のアキト』と違って、現在の聖ミカエル騎士団の大半は血を求める獣のように(いき)り立っていた。

 

『魔女の森』で地獄絵図を身近に経験した彼らは本来、シンの指示に従って陣を組んで号令を待つはず……だったのだが、EU(の銃)が発砲されたことで、『相手が先に手を出した』という思い込みが彼らを独断で行軍させるきっかけとなっていた。

 

 さすがの三剣豪も、心身共々に疲労していることを『怒り』と『憎悪』で動いているような本隊の者たちを止めようとは思わず、逆にそれらの矛先を敵に向くように誘導していた。

 

 これが明確に原作とは違う流れを作り、今すぐにでもヴァイスボルフ城の防衛戦がいつ始まってもおかしくない結果となっていた。

 

 そしてヴァイスボルフ城のマシーンがどれだけ優秀でも、それ等を満足に扱えるワイバーン隊たちは帰還したばかり。

 

 もしレイラが“応戦してください”と言えば恐らく、消耗した体力や精神的疲労を無視してでも渋々彼らはベストを尽くすだろう。

 

 だが怪我、あるいは最悪の場合は命を落としてしまう。

 

 その反面、最近まで体力を温存しながら()()()()()()()()()()()()()()かのように準備を進めていた者が、丁度ヴァイスボルフ城の外で活躍している。

 

 だがかの者は『傭兵』であり、最終的にwZERO部隊(EU)とは違う枠の『部外者』である。

 

 疲労困憊であるワイバーン隊たちに『追撃せよ』と命令するか。

 あるいはまるで遊撃を想定して出撃した一人に『時間を稼げ』と命令するか。

 

 公私混同をせず、非情になり切れる指揮官ならばどちらが合理的で有効な判断かは明らかであるだろう。

 

 だがそんな選択肢を迫られ、歳の若い(スマイラス風に言う)子供なら頭で理解はしても、心は反対している中でどうするか迷うだろう。

 

 それでも、()()を考えるのなら────

 

「────シュバールさん。」

 

 そう思いながらレイラは感情を押し殺そうとしながら、今満足に展開できる戦力に通信を繋げる。

 

 ヴァイスボルフ城周辺の様子を教える探知機が正確であり、作戦室内にいるサラからの通信によれば、敵のブリタニア軍は二方面から進軍している。

 

 普通に攻城戦をかけるのならば戦力を集めて一部だけに攻撃を集中し、守りを突破するというのが最もメジャーなやり方だが、森での仕掛けやユキヤが行ったような攻撃などを想定したからか、相手は戦力を分散させている。

 

 波状攻撃を行えば、いくら『強者』が相手だとしても『少数の相手』には最も効果的な戦術ではある。

 

『どうした?』

 

 

 

 このような状況下でも、いつもと変わらないシュバール(スバル)の平然とした物言いに少しだけ安心を覚えそうになる。

 

 だが次に言う言葉を思い浮かべるだけで、レイラは自分の胸が締め付けられるような感覚を感じ、思わず手を添える。

 

「まだ戦えますか?!」

 

『どうした? ワイバーン隊に何があった?』

 

 間髪入れずに返ってくる、いつも通りの口調で適切な言葉でさらに胸を締め付ける。

 “ああ、やはり彼も予想はしていたのですね”とレイラは考えてしまう。

 

 ならば────

 

「ワイバーン隊は無事ですが、敵の別動隊が別方向から城に迫っています!」

 

 ────今自分(レイラ)に出来ることは簡潔に現状を知らせた上で『頼みを入れる』ことだけだ。

 

「今城に着いた皆の機体の整備や補充に修理などをしていますが────」

『────つまり、俺に“時間稼ぎをしてくれ”と?』

 

 日頃の行いから想像しにくいがやはり彼は『傭兵』と称しているだけあって、戦に慣れている。

 こちらの意図を、指示として出す前にすでに読み取っている節があったが今のやり取りで確信へと変わった。

 

「……………………平たく言えば、そうなります。」

 

 出来れば『今』、そうなって欲しくはなかったが。

 

 ()()()()()()()

 

 それは『傭兵』としてはもちろんのこと、『人間』としても。

 

 いや、『優しい』を通り越してある種の『自己犠牲』まで感じてしまうほどに、彼は自分をないがしろにして周りの気遣いをしてしまいがちだ。

 

「……」

 

 さらに胸が締め付けられる中で、レイラは口を開ける。

 

 “今この時だけは普段の傭兵像になって欲しい。”

 “抗議(文句)を上げてくれ。”

 

 そんなささやかな、指揮官にあるまじき願いをひそかに抱きながら。

 

「その……申し訳ないのですが────」

『────了解した。』

 

「え────?」

『────それがお前の望みなら、契約に従うまでだ。 だが時間稼ぎは良いが、別に殲滅してしまっても構わないか?』

 

 自分(レイラ)だけでなく、おそらくは通信を聞いた作戦室の者たちも同じ気持ちになっているだろう。

 

「…………………………」

 

 クルーザーを運転していたクラウスがチラッと横にいるレイラを見る。

 

 謎の少年(アシュレイ)が面白そうに笑みを浮かべる。

 

 圧倒的戦力差を相手に、“殲滅してもいいか?”などという通信に。

 

「……お願い、します。」

 

 思わず涙が出そうな気持ちのまま、上記の言葉を返して今更ながら自分の声が震えているのを自覚してしまい、情けない気持ちが増す。

 

 

 

「司令、アキトの機体を乗せるためにクルーザーを岸近くに寄せます────!」

「────やるじゃねぇかおっさん────!」

「────だからおっさんじゃねぇっつーの!」

 

 そんな漫才のようなやり取りをするクラウスとアシュレイの声はレイラに聞こえていなかった。

 

 

 ……

 …

 

 

「今のはどういう意味だゴラァ?!」

 

「アバババババババババ────?!」

 

 一足先に隠された地下通路でヴァイスボルフ城へと戻ったリョウが整備班(を兼ねている技術部)に鬼のような形相で言い(叫び)寄りながら、両肩を掴まれた人見知り&気弱なクロエが涙目になりながらタジタジとしているとリョウの腕をヒルダがレンチで叩く。

 

 ────ガイィィィィン!

 

「んぎっ?! イッテぇな! 何すんだよ?!」

 

「私たちだって知るわけがないでしょうが! だからあたるのはやめて、クロエが泣きそうになっているじゃない! そんな時間と元気があるのなら、パイロットの勤めを果たして(さっさと休んで)!」

 

「あああああ?!」

 

「何よ?!」

 

「二人ともケンカはやめてよ~────!」

「────通信を聞いて頂けたのなら、ヒルダ軍曹の言う通りに休んでくださいリョウ。」

 

 今にでも取っ組み合いになりそうなリョウとヒルダをクロエが何とかなだめようとすると、レイラがその場にきていた。

 

「あ?! 外にはシュバールを置いて、俺たちだけ“ノコノコ寝てろ”ってか────?!」

「────今の彼は、先ほどまで出撃していた貴方たちがちゃんと戦力として復帰するために戦っています────!」

「────だがそれを命令したのはアンタだろうが?!」

 

 疲労かイラつきか、あるいは寝不足からかリョウはレイラに手を上げた。

 

 ヒュパ、ドッ!

 

「どわ?!」

 

 否、上げようとしてはレイラにいとも容易くあしられては足がもたつきそうになる。

 

「今のあなたたちは気力だけで動いているようなものです。 いかに『箱舟で休めた』としても、十分な休息なしでは能力は衰えます────」

「────だからって────!」

「────もし“まだ何かをしたい”と思っているのなら、それこそ来るべき激戦に備えて体を休めてください。 敵の本隊が、城に取り付けば否が応でも戦いが始まります────」

 

 レイラはいつもの気合の入った顔でなく、年相応の申し訳なさそうな顔のまま()()()()()

 

「────彼の、シュバールさんの決意を無駄にしないでください。」

 

 周りにいるリョウたちだけでなく、ヒルダたちも動揺を隠せずに目を見開いて驚愕する。

 

『頭を下げる』ということは確かにコードギアスの世界でもあるし、その意味も理解されているが、それは日本が国として亡くなった今では日系人の間だけで伝わっている程度のものであり『猛省』や『真摯な気持ち』、『誠意』を込めた実例を見るのは稀である。

 

 日系人以外で特に『プライドが高い』ということで有名であるEUの者がするのは前代未聞である。

 

 レイラも実際に見たのはスバルの土下座が初めてで、その意味を日本マニアであるソフィたちに聞いてやっと行為の意味が分かったくらいだが。*1

 

「れ、レイラ……」

 

「……チッ! しゃあねぇ、お前ら! 何かとっとと食って寝てから手伝うぞ!」

 

「「「「(リョウってばこんな時でも正直じゃないんだから。)」」」」

 

 頭を下げたレイラの前に、リョウは毒気が一気に抜かれて言うとおりにしながら出すセリフに、ジト目のユキヤたちは内心そう思ったそうな。

 

 ……

 …

 

 

 聖ミカエル騎士団の三剣豪は深夜ジャンが直接命令を出す本体とは別に、それぞれ騎士団の旗色にちなんだ『黒』、『青』、『白』の部隊を率いている。

 

『ケガ人は駐屯地まで搬送しろ! 各隊のナイトメアの状況を確認し、修理不可能と判断されたナイトメアはその場に廃棄だ!』

 

 三剣豪の一人である『ブロンデッロ』は、急遽他の破棄する機体から無傷のパーツ交換を終えたソードマンの中から、ユキヤの爆弾とスバルの被害にあった『黒の団』と『青の団』に指示を出していた。

 

『ブロンデッロ卿、我が隊のナイトメアは半数以上失われた……』

 

 そこに近くの『ドレ』がそう直通通信をブロンデッロに出す。

 

『確かに損害は大きい……私やお前の機体損傷もかなりのモノだった。』

 

『部下が身を挺していなければ、私たちも無事では済まなかっただろう。』

 

『ショルツ殿の部隊の半数以上は無傷なようですね。』

 

 そういいながらドレが見るのは、殿を務め、ほとんど無傷だったことで救護班となりかけた自分の『白の団』だった。

 

『まさか、殿を務めている部隊が最も被害が小さいとは……世の中、何が────』

『────何をしている?! シャイング卿からは撤退の命令は出ていないぞ!』

 

 そこにジャンのグラックスが本軍から離れ、三剣豪たちに近づく。

 

『我々の部隊の合計半数以上がやられている! 態勢を立て直す時間が必要だ!』

 

『三剣豪ともあろう方々が、敵の奇襲に臆されましたか────?』

『────騎士たるもの、誇りなき戦いを部下たちには強制しない!』

 

『貴様や、総帥のような成り上がりたちには分からないだろうがな!』

 

『……………………フン。』

 

 ジャンの挑発(馬鹿に)するような言葉に、三剣豪は彼らなりの騎士道精神をもとにした『正論』を言い返すと、ジャンは明らかに彼らの言い分を鼻で笑う。

 

『何がおかしい!』

 

『貴方たちの目や耳は節穴ですか? それとも、()()たちが血に飢えているのがお分かりになられていないのでしょうか?』

 

 ジャンがそう言いながら通信を部隊のオープンチャンネルに接続すると、とても『騎士』と思えない数々の独り言が聞こえてくる。

 

『EUの腰抜けどもはぶっ殺してやる!』

『仲間の仇の一人は森に出ているそうだ!』

『外にいるそいつをぶっ壊して、城の中の奴らも引きずり出してグチャグチャにしてやる!』

『そうだ! 何が“撤退”だ! ふざけるな!』

『殺す殺す殺す殺す殺す殺す! 俺の左目を奪った奴ともども全員ぶっ殺してやる!』

 

『これを聞いても、あなたたち三人は彼らに“撤退しろ”と言えるのですか────?』

『────ジャン。』

 

 そこにシンの通信がジャンに入る。

 

『ヒュウガ様────』

『────話は聞いた。 三剣豪の部隊に退きたい者たちがいれば一旦退かせてもいい。』

 

『……よろしいのですか?』

 

『彼らには存分に“騎士”としての働きを見せてもらう予定がある。 今は“幽鬼(レヴナント)”を追うため暴走した奴らに指示を出し、“幽鬼(レヴナント)”を疲弊させろ。 恐らくだが、奴が敵の要らしいからな。』

 

 そういいながら、シンは明らかにヴェルキンゲトリクスを意識して距離をとる『幽鬼(レヴナント)』を、どうにかして自分の前に引きずり出そうか考えを巡らせた。

 

 そして『ズタボロにされた“幽鬼(レヴナント)”を敵の指揮官(レイラ)の前に出せばどんな顔をするのか? 』と想像をした彼の笑みは深まった。

 

 

 ……

 …

 

 

 ほぼ同時刻、今まで見たことのないほど統率と熟練度を持ったEUのパンツアー・フンメル、軽戦車、重装甲車、陸戦艇、そしてヘリやVTOL(垂直離着陸機)の連合軍がワルシャワ駐屯地から数百メートルほど離れた東の高原を横断しながら、次々とユーロ・ブリタニア軍を蹴散らしながら防衛ラインを突破していた。

 

「(クックック……脆い。 脆すぎるぞ、ブリタニア。 今までの “EUは腰抜けばかり”という『事実』が、まさか『わざとそう仕向けられた』とは予想もしていなかっただろう?)」

 

 その中でもひときわ大きな陸戦艇の中でふんぞり返っていたスマイラスが内心ほくそ笑む。

 

 彼は今まで『将軍』の座と軍統合本部にいたことを利用し、文字通りに軍のごくつぶしやはみ出し者の割合を()()()()して『EUは弱くて防衛戦しかできない』と印象付けていた。

 

 そして、今の彼は密かに自分へ絶対の忠義を向ける者たちや温存していた部下たちの戦力を、まさに『一発逆転の賭け』のために、全軍を出撃させてユーロ・ブリタニアに攻め込んでいた。

 

 かのナポレオンのような『英雄』となるために。

 

 結果、当初優勢だったユーロ・ブリタニアは予想だにしなかった反撃とその規模を前に敗戦に敗戦を続けていた。

 

「(さて、考えに耽るのはここまでにしておこうか。) 我が軍は、どうしている?」

 

「ハッ! ほとんどの部隊は『損傷軽微、進軍続行中』と返ってきております!」

 

「(計画通りだ。) ふむ……おかしい。 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()としか思えんな。」

 

「さ、さすが将軍です! つい先ほど捕虜から“ユーロ・ブリタニアの全権はシャイング卿が把握した”との報告が多数上がっております!」

 

 艦内の部下たちは『おおお』と、感心と尊敬の眼差しをスマイラスに向ける。

 

「その目はよせ君たち。 今のは単なる偶然だ。 (クックック、これだから若者たちは。)」

 

 そして誰も思っていないだろう、『これがスマイラスとシンによって用意された出来レース』だということを。

 

「(そういえば────)────シャイング卿は確か()()()()だったな?」

 

 ここでスマイラスようやく、わざわざ言い方を変えず()()()()()()()()に戻った。

 

「はい、そのように聞いております!」

 

「やはりか……ならば、パリなどの大都市から姿を消したイレヴンも奴の仕業かもしれんな。」

 

 ここでスマイラスが口にするのは『箱舟の船団』宣言直後に、忽然とEU中の強制隔離所や収容所などから姿を消した日系人たちのことだった。

 

「将軍……もしや彼らはやはり────」

「────今のは憶測でしかないが、事が事だけに国内の保安局どもに再度通達をしておけ。 『旧日本人は発見次第に射殺せよ』、と。」

 

 心がずっと躍っているスマイラスは笑みがこぼれ出すのを我慢できず、手を顔の前で組んで隠す。

 

「何せイレヴンは油断ならない生き物どもだからな。 ()()()()の芽はどれほど小さくとも、摘む必要はある。」

 

 そこにはレイラの知っている『物わかりの良いスマイラス将軍』の姿はなく、代わりに本性を現し始めた『親友を殺してもなんとも思わない野心家のスマイラス』がいた。

*1
107話より


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