あれからどのぐらい時間が経ったのだろう?
時計が見られないことがもどかしく感じる。
『この、化け物がぁぁぁぁぁ!』
それでも
「うらぁ!」
両手に握っている操縦桿に備え付けられたボタンやトラックホイールを、俺自身が力みながらまるでピアニストのように指で操り、
そのまま沈黙したサザーランドの背後に回っては、力ずくでエナジーカバーを開けて残量が少なくなった自機のエナジーフィラーと交換し、先ほど投げた長刀を回収してから動かなくなったサザーランドの手に握られたアサルトライフルを空いた手に取り、追手が発砲する中でその場を離脱していく。
う~ん、我ながら凄いな────
「────うるさい────!」
────いや、ツッコみをいれてどうすんのさ?!
ああ、今の状況をありのままに説明しようか?
というか頼むからさせてくれちょ。
『スロニㇺでの現象がまた起きたけれど、あれからある程度予想していたというか危惧していたから、ソフィたち脳科学部にBRS用のニューロデバイス(装着型)の改良型を作ってもらって装着していたら、案の定こうやってまるでテレビゲームに電源入れっぱなしにしてしまった時にたまに流れるデモシーンを見るような感覚で、体が勝手に行動している。』
そこで君はこう言う!
『今の説明クソ長げぇよ!』、と!
「今の説明クソ長げぇよ!」
ハイ~、そこで俺(この場合は“オレ”と呼称したほうが良いのか?)のツッコみ来ました~。
……………………………………………………………………………………………………………………うん、ちょっと落ち着こうか俺?
とあるバスケのフォワードは言ったではないか、“まだ慌てるような時間じゃない”と。
そこで敵の別部隊に遭遇したオレは降り積もる雪の中をまるでアイススケートのアスリート並みに滑るよう動き、さっきぶん取ったアサルトライフルを乱射しながら距離を詰めては『悪・即・斬!』のリズムで突いては新しい得物を肩から出しては突いては新しい得物を出しては突いてまた出して計3本を使って突く。
きゃあ~、何この動き?!
反則すぎだ~!
“まだ慌てるような時間じゃない”かぁ~。
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………いや普通に無理やんこんなん?
だって考えてもみろよ?!
(俺がいうのもなんだが)意識はこんな風に現実逃避しているのに体が勝手に動くなんてどこのスナッチャー風の映画だよ?!
普通にホラーでしかねぇよ!
そこ、“スナッチャー元ネタ古いw w w”とかいうな!
泣くぞこら!
俺が。
それにもう一つ懸念する理由はある。
いや、すごいゾ?
見事に聖ミカエル騎士団のサザーランドとかをチマチマしたゲリラ攻撃&物資の略奪をしながら、シンのヴェルキンゲトリクスから距離をとっているなんて普通にスゲェで?
でもさっきから体中が
分かるか?
俺の気持ちというか心境が?
『体が勝手に動いているのに、それの痛みとだるさ感じる』というこの恐怖が?
ホラーだよ。
さっき言ったが、大事だから二回言ったぞ。
大事だから二回言ったぞゴラァァァ?!
ついでだから最初はテンパっていてこうやって自己問答気味の愚痴を言っているだけでも『うるさい!』だの『黙れ!』だの『死ぬか!』とか言うものだから今はロンリーボーイ並みに黙っている(努力はしている)のさぁ~♪
うーん、この状況は俺的には良いのか悪いのか……
いや、『生き残る』って意味ではこれ以上ないほどいいぞ?
いくら相手が単に『ナイトメアを乗り回すのが上手くて素直で血生臭い戦闘に向いていない』と言ってもさ?
けど今はいわゆる、『止まらない暴走ダンプカー』の状態に近い……かな?
今は周りが敵だらけだから別にいいが、どうにかして『オレ』のコントロールか誘導か手綱(?)を握っておかないと危なっかしくて────
「────さっきからうるさい!」
ハイハイハイ、さようですか。
じゃあアナウンサーっぽい自己解説に戻るとするよ。
その方が返ってくるツッコミの頻度が少ない趣向だからな。
おおっと! ここで時間稼ぎのパイルバンカーを出したぁぁぁ!
狙いは相手の各駆動部に電気を送る配線が集まった場所へのピンポイントへの攻撃ィィィ!
そしてすかさず身動きが取れないサザーランドを盾にとっては、弾薬の無断拝借から反撃ィィィ!
うーん、ナイトメアを実際の手足のように扱うこの流れるような動作は惚れ惚れするネ♪
あ、今のくだり最後に音符じゃなくてスペードが出ていれば『変態ピエロ』っぽくね?
それは別にしてちゃんと今の動きを目に焼き付けて、万が一またもこんな状況が起きたら
こんな博打のような事ははっきり言ってノーサンキューだ。
そもそもこうなれることに俺は半信半疑だった、が、スロニムのケースと今回も見て、おそらくこの状態の発動条件は『BRS』、『切羽詰まった生死をかけた状況』、そして『
最後の要因が果たしてシンの『愛する人たち死ね死ねギアス』なのか、シンがアキトに再度かける『死ね!』のギアス影響なのか、はたまた両方かわからないが。
何せ前回も今回もこのような状態に陥ったのは、タイミング的に原作でシンとアキトが直接対面した時に限っている。
ともかくだ。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
レイラ早くアキトたちを出撃させてプリーズゥゥゥゥゥ!
っておいおいおいおいおいおいおい?!
今チラッと別スクリーンに出た地図を見たけれど、オレ逃げてるよね?!
このままだと戦域から出ちゃうよおい?!
「黙れ! 俺は死ぬわけにはいかないんだ!」
えええええええええぇぇぇぇ?!
もしかしての確信犯?!
いやいやいやいやいやいや、逃げるのはダメっしょ?!
せめて城に戻って補給するとかあるだろうが?!
「今の状況、飛んだら狙い撃ちにされる!」
ああ、うん。
今エナジーの残量ってば結構少ないよネ?
敵もかなり疲弊しているのか意図的なのか、エナジーフィラーも大体『作戦続行可能がギリギリ』ぐらいしか残っていないものばかりだし。
……いやそれはいま別に良いが、現状の『逃走』は良くない。
ここまで来て『wZERO部隊は全滅した』とか、『〇〇は死んでいた』は嫌だぞ!
だが今の俺は見ていることしかできない、『第二者視点』だ。
何か出来ないだろうか?
あ、せや。
なぁなぁそこのアンちゃん、話しちょいと聞いてくんないかな?
ここは城に戻って────
「────さっきからごちゃごちゃとうるさい!」
人の話を少し聞けよ────?!
「────いやだ!」
いや、ちょっと “いやだ”って────
「────オレは死ぬわけにはいかないんだ!」
そのセリフはもう聞き飽きたよ。
…………………………………………どうするべぇや。
あ。
でもかなりヤバい状況なのに変わりはないか。
「……………………」
このままだとシンに追いつかれて死ぬわけだし?
何せヴェルキンゲトリクスは『元』とはいえラウンズ専用機だったんだ。 その気になれば逃げるだけの奴なんて容易に追いつけるさ。
そこからはもう純粋な機体の性能差とエナジー残量や装備と、それらを使いこなせるパイロットの技量勝負になる。
「……………………」
ま、そんなシンにも対抗する術は考えているんだけどな。
「……………………だ。」
( ̄ー ̄)ニヤリッ
*注*上記はスバルの心境の表れです
何、簡単なことサ♪
今はシンが命令している奴らをいなして逃げているだろ?
それは続けるが、
ピィー!
仮眠のために設定したアラームを合図に、アキトは目を覚ます。
わずか数時間だけだが、彼は清々しいまでの目覚めに驚いていた。
「(久しぶりに、
アキトは初めて兄であるシンに『死ね』と宣言される夢*1を見なかったことに戸惑いながらも、時計のアラームを消して着替えてから部屋を出ると、窓から外の様子を窺う。
そこには夜空からいまだに振り続ける雪に灰色になった雲を透き通って反射した日光が外だけでなく、城内の通路に灰色のグラデーションを付け足す。
「(これは、何かの予兆だろうか? だとしたら────)」
「────ふわぁ、ア
そこに『黒』が混じるが、決して『恐怖』や『恐れ』を誘う類のものではなかった。
『それ』は隣の仮眠室で寝ていたらしいアヤノで、軍服をはだけさせた彼女はアキトからの視線を感じると自分も視線を返す。
「…………ジィー。」
「な、なによ?」
アヤノは彼の視線を感じて反射的にパッと胸を隠してから、ようやく彼の視線が自分の腰に向けられていることに気付く。
「アヤノ────」
「────な、なに────?」
「────『それ』を貸してくれないか?」
アキトがそう言いながら指をさした先には、アヤノがほとんど肌身離さず腰に差している『蜂屋長光』だった。
「??? 別にいいけど、何を────?」
────シャッ!
「アキト?!」
ザクッ!
アキトが『蜂屋長光』を抜いてアヤノが声を出すとほぼ同時に、アキトは自分の三つ編みにしていたポニーテールを切り落として、それを借りていた『蜂屋長光』と共にアヤノへ手渡そうとする。
「アヤノ。 これを持っていてくれないか────?」
「────へ? あ、ちょ────」
「────もし、何かあったら俺の代わりにこれを埋めてくれ。」
アキトの『
だが、祖父から昔ながらの日本のことを子供のころから聞かされていたアヤノは、すぐにこの行為の意味を察し、彼の言った言葉でそれが確信へと変わる。
『遺髪』。 それは日本だったころでも一昔前の慣例で、それが行われる意味は様々あるが────
「────じゃあ、アキトが
アヤノは切り落とされた髪だけを受け取り、アキトは珍しく目を点にさせながら手に残った小太刀から視線を上げて彼女を見る。
「……いいのか? 大切な形見なんだろ?」
「い、いいの! 後で絶対にアンタから返してもらう予定だから! ね?! だから! だから………………だから………………」
アヤノの声と雰囲気双方とともに次第に小さくなっていく様子をアキトは見ていると、無性に『彼女を安心させたい』という衝動に駆られて、思わず口を開けてしまう。
「……じゃあ、この戦いが終わったら互いに返そうか?」
「ほへ?」
アヤノの年相応である、純粋でキョトンとする顔を前にアキトは思わず目をそらす。
「「………………………………………………………………………………………………」」
城外で降り積もる雪は続き、耳鳴りがしそうなほどまでの静寂な景色を背景に、二人の間にはただ静かな時間が過ぎ去っていく。
余談だが、この二人のやり取りを盗み聞きしていたとはいえ、前に出てくるタイミングを逃して気まずくなったリョウたちは複雑な気分になったとか。
…………
………
……
…
ジャン、そして三剣豪の命令の下で攻城戦の隊列を組んでいた聖ミカエル騎士団の誰もが降り積もる雪に見惚れることなく、ただただ各自のモニターに表示されるカウントダウンを見る。
ピィー!
『全軍進撃開始!』
カウントダウンがゼロになり、ジャンの通信を合図にミカエル騎士団が統率の取れた動きで動き出し、カンタベリーはヴァイスボルフ城の防壁が射程距離に入ると次々と砲撃を開始していく。
『ダメです! 距離が開きすぎて、貫通できません!』
『ならばカンタベリーをさらに前進させて撃て!』
電磁砲の着弾で傷一もついていない防壁を見た三剣豪のブロンデッロが上記を命じると、周りのサザーランドたちは巨大なタワーシールドを展開させてカンタベリーの急所である脚を守りながら、ゆっくりと前に進んでいく。
一応、シンが別動隊に行く前に『提案』というか『策』は言い残してはいる。
そしてそれは防壁に大打撃を与えられるのは確実なのだが、騎士にとってはあまりにも邪道で使いたくはない『決死の奥の手』だった。
「まだ映像出ないのか────?!」
「────出ました! 8時の方向、距離250────!」
「────自動迎撃を開始します!」
展開された防壁に取り付けられたパッシブレーダーだけでなく、監視カメラに映し出される距離にミカエル騎士団が接近したところで、サラは事前の作戦方針に従って防壁に内蔵された機銃を作動させる。
たちまち防壁の表面上は、ハリネズミのように数多の機銃が出現しては一斉射撃を行う。
ドドドドドドドドドッ!
ヴァイスボルフ城の防衛システムは最新だが、使われている機材などはほとんど軍のおさがりが多かった。
その例として、防壁の機銃はまだ時代的に『戦車が陸戦の最強兵器』とうたわれていた時の『対重戦車機銃』の代物だった。基本的に軽金装甲であるナイトメア相手には、十分すぎる効果を間違いなく発揮するが。
カンタベリーの近くに身一つを隠せる盾を持ったサザーランドたちは、自分たちを襲う一撃一撃を、持っているタワーシールドごと機体を後退りさせるほどの猛攻を前にその場でとどまり、何とか攻撃をやり過ごそうとする。
だが盾のない機体たちは森の木に身を潜めて足止めをされるか、この反撃に脚部などをやれて身動きが一瞬止まった隙に、集中砲火を浴びてどんどんと大破していく。
『チッ、しっかりしろ! 引くぞ!』
『ブ、ブロンデッロ卿────』
「(────やはり正面突破には無茶がある! もしや、ヒュウガ様はそのために『あの策』を────?)」
────ガァン!
ブロンデッロが行動不能になった部下のサザーランドを自分が身を潜めている場所に引っ張りながら後退する様子をジャンが見ていると、サザーランドは正面の防壁からではなく
『後退の命令は出されていないぞ?』
『『シャイング卿!/ヒュウガ様?!』』
ブロンデッロとジャンが後ろを見ると、本体から独断行動で『
『き、貴様ぁ────!』
何が起こったのかは一目瞭然であり、さすがのブロンデッロも荒い口調となっていた。
無理もないが。
『────“騎士の誇り”とやらはどうした、ブロンデッロ卿?』
『ヒュウガ様、“
『────常に私から距離を取っていれば、目的が単なる“時間稼ぎ”など火を見るより明らかだ。 興覚めだよ。 それに城を落とせば、奴も駆けつけるしかないだろう。 フフフフフフフフ……』
ジャンが先日アシュレイに言われたことを思い出しては青くなりながらも、次々と入ってくる恐怖と不安が混じった通信に耳を傾けていた。
『距離を詰めろ! 離れるな!』
『カンタベリーを守れ!』
『アルファ小隊、前へ! 退くな、撃たれるぞ!』
ドドドドォォォォ!
バチバチバチバチバチバチ!
犠牲を払いながらも、カンタベリーたちが集中砲火を浴びさせていた防壁に亀裂が入ると同時に電気系統へトラブルが発生したのか、火花が飛び出て一部の機銃の砲撃が止む。
『今だ!』
『取りつくんだ! 早く!』
これを見たサザーランドたちは一気に防壁への距離を詰めて、スラッシュハーケンを使って登り始めて、待機していたリバプールたちも前進してから遠距離砲撃を開始し始める。
「Aの23ブロックに破断が発生────!」
「────クライミングするナイトメアと敵の砲撃、来ます!」
ヴァイスボルフ城の作戦室にいるサラとオリビアが報告すると、分厚い壁越しからでもお腹に来る重い音が響いては、天井から埃や壁の小さな欠片がパラパラと落ちてくる。
「クライミングされている防壁をパージ!」
「パージ開始します!」
ボボボォォン!
『『『うわぁぁぁぁぁ?!』』』
防壁を登り始めていたサザーランドたちは、足元代わりにしていた壁が爆破され、スラッシュハーケンのワイヤーが切れると落下していき、地面にたたき落されて辛うじて大破を免れた機体も落ちてくる瓦礫の下敷きになってしまう。
「城内につく頃には、全滅しているかもな。」
上記の惨状と、先ほどからカンタベリーたちを『最大の脅威』と見做した自動機銃たちの絶えない集中砲火を見たブロンデッロがそうボソリと独り言をこぼす。
『ブロンデッロ! ドレ!』
そんなブロンデッロたちに『卿』をつけずそのまま呼び、通信を入れたのは三剣豪の三人目であるショルツだった。
『ショルツ、その姿は?!』
ブロンデッロが振り返ってみると、ショルツのソードマンは大量のサクラダイト爆弾を背負い、両手にはいつもの剣ではなくタワーシールドを持ち、機体の両側にいた『白の団』のサザーランドも盾を手にしていた。
『俺たちが突破口を開く、あとはお前たちに任せたぞ!』
その姿と装備で、ブロンデッロたちは悟った。
“
『ええ、マンフレディ卿と共に待っていて下さい。』
『向こうで再会できるのを、楽しみにしているぞ!』
『さらば!』
ショルツはブロンデッロとドレにそう言い返すと、彼と彼の側近たちが盾を前に持ったまま止まない銃撃の中を前進する。
ショルツ機たちが接近する都度に、カンタベリー以上の『脅威対象』とみなされて次々と彼らを討とうとする自動機銃の数が飛躍していく。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
側近たちの機体が大破し、ついに雄叫びを上げるショルツだけになったところで、彼の機体は防壁にとりつくと同時に自爆をすると、背負っていた爆弾が誘爆する。
ボォォォォォォン!
何の因果か(あるいは皮肉を含めた意趣返しか)、シンの提案した『策』はナルヴァの森でワイバーン隊が前司令に強いられた自爆作戦に酷似していた。
「じ、自爆────?!」
「────A23ブロックで爆破確認! 防御壁の状況は……防御壁が倒壊しています!」
作戦室にいたwZERO部隊の者たちは監視カメラが最後に送った映像に驚愕していた。
敵が自爆したこともだが、壁が突破されたことにも。
長い一日の始まりを示すかのように、雲は相変わらずの灰色だった。
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