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「敵兵が司令塔に接近────!」
「────司令塔の基部で爆発確認!」
レイラがサブマシンガンの軽い点検をしながら報告をするサラとオリビアの声でハッとし、周りを見る。
「(さっきまでの、あれは夢?)」
彼女はつい先ほど見ていた景色と、『意識の集合体』と自称する摩訶不思議な少女と、『人間のあり方』や『ギアス』などの、哲学や聞いたことのない超現象に関する問答を思い出す。
「(それとも、あるいは現実味の強い逃避────?)」
────ビィー! ビィー! ビィー!
「侵入者が最終警戒ラインを突破しています────!」
レイラの考え事を遮るような、けたたましいアラーム音とサラの慌てる声が彼女の耳に届く。
「────隔壁内に防爆ジェルを噴射!」
「了解!」
レイラの命令にオリビアがコンソールを操作すると、二重構造によって壁の中に出来ていた真空部分を、衝撃などの影響を大幅に緩和しながら空気に触れると固くなるジェル状の液体が満たす。
ボォン!!!
ミカエル騎士団の設置したブリーチングチャージが爆発した壁と扉を確認すると、壁はひび割れていたが崩れる様子はまるでなかった。
「ブロンデッロ卿、ドアが!」
「爆破対策を張られたか……」
ブロンデッロがそう言いながら見るのは、ヒビなどから湧き出て大気に接触したことで硬化した防爆ジェルだった。
『防爆ジェル』とはコードギアスの世界でも知れ渡っている代物で、
ただコードギアスの作中であまり出番がないのには、それなりの理由がある。
「時間さえ、あればな……」
防爆ジェルは時間がたてば効力は薄まっていき、急激に脆くなる上に保存の条件がシビアで、ベストを尽くして全く使用しなくとも、長くて数か月ごとにジェルのコンテナを丸ごと交換しなければいけない。
つまり費用も維持費もバカにならない額であり、その上防爆ジェル自体も購入するにあたって決して安くはない。
要するに金食い虫なので、絶対に必要な設備以外では殆ど使用されていない。
余談だが上記での避難所も、『上流貴族用や大富豪の個人用避難所』などを指している。
ただヴァイスボルフ城の作戦室が特例だけである。
「それにしても、爆発があって隊の緊張がほぐれた様子だな。」
ブロンデッロが視線で見渡すのはさっきまでピリピリと殺気を明らかにしていた歩兵たちが、大半がかつて『魔女の森』に突入する前まで見せていた『余裕の空気』をまとっていた者たちだった。
それはまるで、
彼がなぜ敵の指揮官確保に動いた部隊の先頭にいるかというと、彼らの様子が『騎士』ではなく、下手をすればまるで血を求めるため
今ではその様子は
一部の者たちを除いて。
「くそ!」
「行くぞお前ら!」
「お、おい! お前たち待て! 勝手な────!」
「「────知るか!」」
そんな『一部の者たち』がイラつきや殺気を隠そうともせずに、ブロンデッロの言葉を無視して、独断で作戦室に司令塔の別の場所から侵入を試みようと、角を曲がって走り去っていく。
「(やばいな、あの者たちはシャイング卿が率いた別動隊のような感じがまだする! もしこのまま野放しにしていると、何をしですかわからん!)」
ガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!
ブロンデッロが危惧していた彼らが何らかのアクションを取る前に、次の瞬間耳をつんざくかつ低い、何かをゴリゴリと削るような音とともに司令塔が揺れる。
「うわぁぁぁ?!」
「な、なんだ?!」
「じ、『
「落ち着け! この振動は塔の横、外から来ている!」
狼狽える歩兵たちをブロンデッロが自信満々の言葉で制する。
作戦室の中にいるレイラたちも揺れる塔の中を、近くの固定具などに掴まって凌ぐ。
「今のは────?」
「────敵部隊は通路にいます!」
「(では彼らとは違う────?)」
「────今の揺れは、塔の外壁が攻撃を受けた様子────え?! シュ、
レイラが攻撃された塔の箇所に設置されていた監視カメラの録画された映像を巻き戻すと、敵兵と思われる者たちが塔の外に出ようとしたところを、ナイトメアサイズのノコギリ状の刃が連動する長刀が外壁を突き抜けて、外に出ようとした敵兵たちを薙ぎ払ってから別の場所へと飛ぶ瞬間を見る。
まるで、
「(これは……)」
「司令、ガスを通路内に出して敵を攻撃しますか?」
「いえ……外の指揮官に警告をします。」
「あ~、司令────?」
「────ウォリック中佐、この城と……『アポロンの馬車』を放棄する準備を。」
「え。」
クラウスはレイラの命令にどこぞの漫画キャラのように目を点にさせながら、気の抜けた中年オヤジっぽい声を出してしまう。
………
……
…
ヴァイスボルフ城の通信機器などが集結している塔の上に、風もないのに雪が光の因子のように吹き荒れると、どこからともなく、まるで最初からいたかのように数機の交戦中のナイトメアが姿を現しながら、金属同士がぶつかり合う音が響く。
シンのヴェルキンゲトリクスはアキトのリベルテ、アシュレイのレッドオーガ、リョウとアヤノのヴァリアントたちをいまだに一機で凌いでいた。
『アキト、よもやお前の周りにこんな者たちが集うとはな!』
シンの挑発的な“売り言葉”に、誰もそれを“買う”余裕などなかった。
同じ人間同士、そして数では4対1という圧倒的有利な状況。
だというのにアキトに釣られて皆がシンを“あと一歩”というところで攻撃を控えていた。
『兄さん!』
アキトは先程のよくわからない白昼夢のような幻影を見た時から、ヴェルキンゲトリクスの周りまとわりつく
『アキト! やはりお前は死ね!』
アキトは機体についていたスラスターと刀を使い、シンのハルバードを受け流す。
シュゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!
『何?!』
『あれは?!』
アキトのスラスターに似た噴射音にシンやアキトたちが思わず見ると、至る所がひび割れている装甲の下から排熱が追い付かなくて焼けたオイルなどが漏れ出し、左足と右腕に頭部の半分がもげたスバル機が、司令塔から一直線にヴェルキンゲトリクスを目掛けて飛んできていた。
ドッ、ガバキィ!
『レ、
『────殺気の源はお前かぁぁぁぁぁぁぁぁ?!』
スバル機がそのまま衝突し、自分ごとヴェルキンゲトリクスを通信機器塔から宙へと押し出す。
『き、さまぁぁぁぁ!』
シンは左手首に内蔵されたスラッシュハーケンを塔の壁に打ち出して落下を阻止しようとするが、スバル機は残った左腕とサブーアームたちでガッチリとヴェルキンゲトリクスに密着したまま噴射を増加させ、スラッシュハーケンのワイヤーを無理やり引き千切らせると二機ともヴァイスボルフ城敷地内のグラウンドに隕石のように強く落ちていく。
搭載された機体にしてはオーバーなほど高出力のスラスターに押されるまま、ヴェルキンゲトリクスはスバル機とともに地面をゴリゴリと削りながら進んでいく。
『鬱陶しい!』
シンはヴェルキンゲトリクスの形態を四脚から二足に戻し、集中させた馬力でスバル機を蹴って無理やり引きはがしてからその場に踏みとどまる。
スバル機は蹴り飛ばされた先で、ミカエル騎士団に大破させられたドローンの手に握られたリニアライフルを転がりながら自分の手に取って姿勢を正す。
スバルは機体の外の様子を、コックピットのボロボロになったガラスやショートした電子機器を蹴ったり手袋のついたワイバーン隊のスーツで押しのけて周りの様子を肉眼で確保し、射撃統制システムの補助なしでライフルを撃つ。
ヴェルキンゲトリクスは“そのお返しに”と、レバーアクションのショットガンを撃つ。
スバルの弾丸はショットガンを撃ち抜き、シンのスラッグ弾はリニアライフルを持つ左腕を掠る。
普通、どれだけ高性能なカメラでも、映像キャッチからそれを映し出すまで僅かなタイムラグが生じるため、銃火器を扱うナイトメアや機械は射撃統制システムがその差を埋めるのだが、いくらパソコンが良くなっても『人間の脳』という、世界で恐らく一番高性能な精密機械には負けるだろう。
それを扱う身体能力があることが前提で、シンの攻撃をかわしたスバルの場合は特例に入るが。
『チィ! (やはり奴はこちらの動きを読んで────!)』
『────お前さえ、いなければ!』
シュバール機はそのままリニアライフルを
『兄さん────!』
『────アキト────?!』
『────シュバールさん────!』
『────どけぇぇぇぇぇ!』
アキトはスバルの殺気をBRSで感じ取ったのか、スバルとシンの間に入ると何とも奇妙な三つ巴のような現場が出来上がっていた。
シンとスバルは互いを殺す為に動き、アキトはどうにかしてシンの中に眠っている『昔のシン』を呼び起こす為に呼びかけながら来る攻撃を凌ぎ、同時にシンを狙うスバルの攻撃を致命打にならないよう逸らす。
ハルバードに取り付けられたギアたちは回りながら宙を切り、刀や長刀とぶつかりあっては火花を出して弾かれ、リベルテのブレイズルミナスを発生させる盾は切り続けられて無理やり腕から剥がされ、残弾数がなくなったリニアライフルはこん棒のようにヴェルキンゲトリクスの右腕を捉えるが接近したスバル機はヴェルキンゲトリクスの足に蹴飛ばされてしまう。
打撃を受けたヴェルキンゲトリクスの右腕からは不吉なミシミシとした音が出る、とコックピット内にいたシンにアラーム音が鳴り、シンはハルバードを手放してそれを四脚形態だったヴェルキンゲトリクスの前足でリベルテ目掛けて蹴る。
無論、アキトはこれを躱すがハルバードは後を追ってきた本命のリョウ機に直撃してしまい、上半身半分を失った彼の機体はグラウンドの上で転倒して過激なダメージに機能停止してしまう。
『クソがぁ────!』
『────リョウ!』
ヴェルキンゲトリクスは腰から柄と鍔だけの剣を抜くと、ルミナスコーンを応用した緑色の刀身が鍔から出現して、それを新たな武器として使い始める。
その姿と効果音はほかのメカ作品でいうところの『ビー〇サーベル』だが、見た目で言えばどこぞの〇レイヤーズに登場する天然剣士が保有する伝説級の武具とされている『光〇剣』そのものであり、容易にシュロッター鋼で出来たアキト機の左腕をゴリゴリと削ってから切り落とす。
返す刃でアキト機を狙うシンの刃を横から襲ってきたレッドオーガの剣に弾かれるが、流石に根本からの能力差が悪かったのか、レッドオーガの使った剣にヒビが一気に入っていく。
『アシュレイ────!』
『────やっぱ強ぇな、シャイング卿────!』
『────この、駄犬がぁぁぁぁ!』
ヴェルキンゲトリクスはさらに踏み込みに力を入れ、レッドオーガのガードを剣ごと壊すとそのままレッドオーガの頭部を鷲掴みにして、圧倒的な出力でそのままアシュレイ機を持ち上げては
「うおぉぉぉぉぉぉ?!」
アシュレイはひび割れていくモニターとコックピット内を見て操縦レバーを操作するが、機体の電気系統がイカれたのかさらなる追撃は免れたものの、機体の反応がワンテンポ遅くなったことに声を出しながら、シンの攻撃をほぼ本能に頼った動きで避けながら焦り始める。
『この隙に────!』
『────シュバールさん、兄さんは何かに憑りつかれているだけなんだ! 殺さないでくれ────!』
『────
『────え────?』
『────借りるぞ!』
リベルテがヨロヨロと立ち上がるスバル機にそう呼びかけると、意外な返答にアキトはびっくりし、スバル機はほとんどなくなった右腕を腕の付け根から
『飼い主の手を噛む駄犬には躾が必要だ────!』
『────やっぱ無理か!』
両腕を切り落とされたレッドオーガの胴体をレイピア状の刃に変形させたヴェルキンゲトリクスの剣が狙うと、横からくるアラームにシンはちらりと見ると、ボロボロのスバル機が突進してくる姿を見て迎撃態勢に入る。
『その殺気の源を────!』
『────死にぞこないが!』
シンのレイピア状の刀身はリーチの関係もあり、人体で『肩甲骨』と呼ばれるスバル機の部分を先に貫く。
スバルはシートハーネスを外しながら素早く操縦桿にコマンド入力し、座席の後ろに置いてあった
「ふざけるな! 貴様ごときが!」
スバル機はシュロッター鋼ではなく、ただ物理的な防御力を追求した複合装甲なので、シンが刀身をそのまま横へと動かすと、缶切(あるいはハチさえも真っ二つに切る誰かさんの手刀)のようにスバル機を切り裂いていく。
「(中に、誰もいないだと?!)」
完全に胸から上が離れたスバル機のコックピット席が空だったことに、シンは戸惑う。
「(いや、今までの動きからして無人機であるはずがない! 遠隔操作ならタイムラグが生じて即座の対応は出来ないはず! となると────)」
────カン! ビィィィィィィィ!!!
シンがモニターのカメラを回すと、何かが機体にあたってワイヤーが引き戻されるような音を聞くと同時に、満身創痍であるスバルが大きな槍がついたライフルからヴェルキンゲトリクスへと伸びたワイヤーに引かれるのを見る。
「ナイトメア相手に、
無論、『魔女の森』の仕掛け人が恐らく『
「でやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
シンはワイヤーを逆に力強く引っ張るとスバルの体が宙を舞う。が、彼はこれを逆手にとって、ワイヤーが巻き戻されるモーターがオーバーヒートするほどさらに速く設定して、一気にヴェルキンゲトリクスの胴体に取り付くと槍────パイルバンカーを作動させる。
ドゴォォォン!
スバルの鼻を焼けた火薬の乾いた匂いが襲い、射出された釘はヴェルキンゲトリクスの装甲を完全に貫通しなかったが、中の砕けた部品やガラス破片などがシンの首や頭へと襲い掛かかる。
グシャ!
「グワァァァァァ?!」
シンは破片などが飛び散って擦り傷や切り傷を負い、左の眼球からくる激痛に顔を両手で抑えながら叫んでいた。
「ゼハァ……ゼェハァァァ……ま、まだだ……弱まったが、殺気の源はまだ────!」
────ドドドドドドドドドォォォォン!!!
「グワァ?!」
息を切らしたスバルが何かを言いかけるが、ヴァイスボルフ城の至る所が爆発を起こし、スバルたちがいたグラウンドも爆発すると、彼は吹き飛ぶヴェルキンゲトリクスから無理やり引きはがされ、その場へ駆けつこうとしたリベルテも運悪く地面からの爆発が直撃してしまう。
「チィ! 動け! 動けこのポンコツ!」
今の衝撃で自分がまだ戦闘中だったことを思い出して、痛みを無視したシンは舌打ちを出してから剣を手に取って、機能停止したヴェルキンゲトリクスから出る。
「動け! 動いてくれ!」
シン同様にアキトは自分の機体を動かそうとするが、うんともすんともしない機体を彼は諦めて、アヤノから預かった
余談ですが嗅覚と頭痛は続いていますが味覚は戻りました。
『味が分かる』って最高。