『ジィーン・スマイラスが討たれた』というニュースは地方を駆け巡り、それまで即時撤退を繰り返して戦力を温存していたユーロ・ブリタニアの部隊は総戦力での反撃を開始した。
スマイラスという先導者と、戦力の要である
表舞台は一見すると『元に戻った』と見えるが、このわずかな時間で裏や内部事情はガラリと変わっていた。
ユーロ・ブリタニアが誇る『四大騎士団』は一つだけ除いて壊滅し、残った一つも以前に『ハンニバルの亡霊』によって壊滅に陥りそうだった状態から回復していただけで、中身は殆どが新兵同然。
EUはスマイラスの本隊がブリタニアの超長距離砲で情け容赦なく一網打尽にされ、独裁政治になりかけだった政府は急遽、元の共和制へと戻った。
とはいえ、原作よりかなり事情は異なっていた。
準ラウンズ並みの実力を持つ四大騎士団の総帥がファルネーゼ以外にゴドフロアが生きていた効果は大きく、彼らはシンが留守にしている間に幽閉されていたヴェランス大公を救出したことでブリタニアに恩を売らずに済み、『宗主不在のユーロ・ブリタニアの傀儡化』を防ぐことが出来た。
EUは国外へ逃げることを拒否した若者たちが舵を取ることとなり、長年抱えていた国内問題である『汚職』に『
そんな中で、明らかに『勝者』と周りから思われている人物がいた。
……
…
時間は少しだけ遡り、ペテンブルグにあるカエサル大宮殿の中にいたヴェランス大公と側近であるミヒャエル・アウグストゥス、四大騎士団の総帥であるファルネーゼとゴドフロアが、とある人物相手に内心で冷や汗を掻いているのを誤魔化す為に、表情や空気を強張らせていた。
そんな強者揃いたちからの『威嚇』と対面していたというのに、顔色一つ変えないままでいたのは神聖ブリタニア帝国宰相のシュナイゼルと彼の右腕であるカノンだった。
『相手がシュナイゼル』だけでも警戒するのは当然だが、ジュリアス・キングスレイによって『ユーロ・ブリタニアは独立を狙っている』という最終的な目的を看破され、幽閉されたヴェランス大公に代わってシンが
それを考えればユーロ・ブリタニアは内外双方ボロボロで、ヴェランス大公たちは『これからどうなるのだろう?』という不安に駆られていた。
「(さて、どうしたものか。)」
そんなユーロ・ブリタニア側の内情を悟ったシュナイゼルは笑いを内心に浮かべる。
「(当初はユーロ・ブリタニアのヴェランス大公を救出し、それを交渉のカードにする予定が外れたのはまだいい。
『シン・ヒュウガ・シャイングを含めたシャイング家とジャン・ロウが行方不明』も、予定外だが許容範囲内。
だがまさかブリタニアが貸し出した超長距離砲を模範するだけでなく、大型フロートシステムや
その技術は是非に欲しい。 『これからの時代は空』だというのはグリンダ騎士団の活躍でも実証された。)」
シュナイゼルはユーロ・ブリタニアへ移動中に、マリーベルのグリンダ騎士団がアルジェリア方面で長らくテロ活動を続けていた『サハラの牙』を、わずか数時間で鎮圧させた事を思い出す。
「(そういえば、帝国のベジャイア基地も『一機のナイトメアに陥落させられた』という報告もあったが……『
「────本国はどうされるおつもりかお聞かせいただけますか、宰相閣下?」
考え込むシュナイゼルの意識はヴェランス大公の問いによって引き戻される。
「ええ、もちろんですヴェランス大公。 本国としては、ユーロ・ブリタニアとの
「……???」
「それと、この『箱舟作戦』とやらに使われたフロートシステムに『シュロッター鋼』、そして『ドローン』というものは
「ッ……」
「これからも、このような開発などを報告してくれればこの上なく頼もしいことはありません。 何せ本国は皇帝陛下の意もあって、常に進化するための新しい技術をお探しになられていますから。」
上記でのシュナイゼルの言い回しに複数の意味が含まれていたが、要するに『ユーロ・ブリタニアとジュリアス・キングスレイに関しては何もなかったことにしてやるから、こういう新技術はすぐに献上しろ』ということだった。
「ああ、それと本国からも戦力の補充に援軍や復興の人員を呼び寄せているので、それも受け入れてほしい。 勿論、使う物資や人事費用はこちらが全額持ちましょう。」
そしてちゃっかりとブリタニアの
ヴェランス大公側は思っていたよりもかなり良い提案を受けていたことにほっとしながらも、実質上本国の監視の増加に今にも頭を抱えたかったが、ここで口を開けてさらに都合の悪い条件を出されては、それに反論する大義も反抗する戦力も足りない。
「寛大な処分、感謝します。」
ヴェランス大公は心にもない感謝の言葉を口にするしかなかった。
「いえいえ。 これからも神聖ブリタニア帝国は、ユーロ・ブリタニアとの良好な関係を続けたいと思っています。」
シュナイゼルのニッコリとした愛想笑いに対して、ヴェランス大公は内心でさらに溜息を出してしまう。
『完全な傀儡』という最悪の事態は避けられたものの、ユーロ・ブリタニアの貴族たちが欲する『独立国家』はさらに遠ざかった。
この騒動で本国の介入を拡大化させたシンやジャンに責任を取らせてブリタニアに譲歩させようにも、生き残ったミカエル騎士団の三剣豪であるブロンデッロとドレからは『二人を含めて騎士団の大半は殉死した』と報告が返ってきていた。
なので仕方なく、彼が当主となる予定だったシャイング家の領土と資産はブリタニアへ献上しているが、あまり効果は無かったように見えた……
が、それのおかげで予想していたよりもブリタニアから突き立てられた要求は好条件になっていたとは、ヴェランス大公たちは知らないだろう。
……
…
「……………………」
カエサル大宮殿の中を歩くシュナイゼルは、先日調査されたシャイング家のことを考えていた。
「(状況や現場の証言からして、シン・ヒュウガ・シャイングが
それを『シャイング家のマリアは気付いていて、子と共に秘密通路を使って雲隠れした』と思えば腑に落ちるが……なぜ家に仕えている者たちに何も言わないで、かつ侍女を連れて行かなかった? どこかに隠居する宛があったのか? それとも……)」
シュナイゼルの脳裏になぜかチラつくのは、ブラックリベリオン時にニーナの凶行を止めた『フルフェイスヘルメットにライダースーツ』という奇妙な服装をした者の姿だった。
「(いや、なぜ今このタイミングでそいつが浮かび上がる? 『フレイヤの開発が難航している』のと『ニーナが頑なにウランの兵器化に反対している』に、『行方不明のシャイング家』と何の関係が────?)」
「────殿下?」
「ん? ああ、少し考え事をしていた。 なんだいカノン?」
「グリンダ騎士団を、このまま当初の予定通りにペテルブルグに直行させますか?」
カノンはシュナイゼルに報告書を渡し、彼はパラパラとページをめくる。
実はグリンダ騎士団はこの間、予期せぬ初陣を果たしたばかりだった。
グリンダ騎士団は数少ない浮遊航空艦の長時間飛行テストも兼ねて、太平洋を渡ってユーロ・ブリタニアを目指していた。
だが、運航の途中でナイト・オブ・トゥエルブであるモニカ・クルシェフスキーがラウンズの権限を行使し、ブリタニアのベジャイア基地からの援軍要請に応えさせた。
普通ならラウンズにその連絡が付けばラウンズが対応するのだが、モニカのいるサンミゲルからはどう早く出発しても半日以上はかかるので、彼女は合理的な判断をしただけである。
なお余談だが、その時のモニカが決して、『え? やっと休暇取れて新大陸の“知る人のみぞ知る休養地のサンミゲル”に着いたばかりなのに? 近くにいるラウンズは
そのままグリンダ騎士団はテロ組織の『サハラの牙』を空挺強襲し、(新型機のランスロット・グレイルも一機含めているが)たった四機で見事に制圧したみせた。
上記の『ランスロット・グレイル』とは、特派(今では組織が再編成されて『研究開発組織キャメロット』)がシュナイゼルから承った『ランスロット量産化計画』の過程で現在流通しているパーツなどで代用できる『ランスロット・トライアル』を、マリーベル皇女の筆頭騎士用にチューンされたオンリーワンの特注の機体である。
スペックだけで言えば本家ランスロットに劣るものの、現在の情報では黒の騎士団に所属したラクシャータが手ずから開発した『紅蓮』以上……と、ランスロット・グレイルの開発に直接携わっていたロイドが高らかに宣言していた。
その宣言は伊達ではなく、ベジャイア基地の陥落を聞いてすぐにテロリストの新型と思われる機体に応戦したランスロット・グレイルは、敵の携帯した『小型ゲフィオンディスターバー』を受けるまで善戦していた。
この活躍はブリタニアのプロパガンダと情報操作により、ユーロ・ブリタニアのいざこざやEUの出来事、ペンドラゴン周辺などで起きたテロ活動などのニュースを有耶無耶にさせるため『英雄』として仕立て上げられていた。
とはいえ、グリンダ騎士団の予期せぬ初陣に連戦の代償は高かった。
この間まで仮想訓練しかしていなかったグリンダ騎士団に大規模なテロ鎮圧に新型の対応は荷が重く、一人は
「……そう言えば、『競技KMFリーグ』というものがあったね?」
「あ、はい?」
「グリンダ騎士団の活躍を祝したイベントとして開催すれば、良いガス抜きになるんじゃないかな?」
何時もの突拍子もないシュナイゼルの話題の振り方にカノンはハテナマークを出しながらも答えると、これまた突拍子もない提案をシュナイゼルがする。
「では、そのようにマリーベル皇女殿下たちに伝えておきます。」
「頼むよ、カノン。 (これで、
…………
………
……
…
「ハァ~。」
帝都ペンドラゴン近くに停泊中の浮遊航空艦『グランベリー』の中で、白い髭を生やしたいかにも威厳がありそうな男がまとめられた報告書などを見ながら溜息を出す。
「あら、すごい溜息ねシュバルツァー将軍。」
「姫様……」
中年の男────シュバルツァー将軍と呼ばれた者の座るテーブルの向かい側に、第88皇女のマリーベル・メル・ブリタニアが座りながらそう声をかける。
シュバルツァー将軍が見ていたのはグリンダ騎士団が参加した、『ベジャイア基地援軍要請』の事後報告だった。
「誰も死ななかったとはいえ、この体たらくを見れば誰でも溜息を出すでしょう。 シュナイゼル殿下には“姫様の騎士となる者には最精鋭を”と申請したのだが……」
「あら、否定的な見解は視野を狭めるだけですわ将軍。」
そう言いながらマリーベルは、それぞれのパイロットたちのプロフィールが書かれた資料を見ていく。
「ソキアは元競技KMFリーグのスタープレイヤーとして活躍した分、チーム全体に目を配ってサポートする能力は操縦技術も含めて随一。
元皇立KMF技研のテストパイロットだったティンクは、機体の限界などを配慮しながら性能を常に100%引き出せています。
レオンハルトは確かに決め手に欠けますが、彼の柔軟性には目を見張るものがあるかと。
そしてオルドリンは、私が最も信頼を置ける騎士でそれに応えてくれています♡」
マリーベルのにっこりとした笑みとふわふわした説明に、シュバルツァー将軍の頭は痛くなった。
「(確かに可能性を秘めておる者たちばかりだが……)」
そう彼が思うのは無理もなかった。
元競技KMFリーグ所属だったソキアは作戦開始とともに意味不明な“ファーストエントリィィィィ!”と吶喊しながら敵陣に突入したあげく、機体を中破させた。
技術系貴族の出身であるレオンハルト・シュタイナーは安定した動きを見せるが、ここ一番の踏ん張りどころでどうして良いのか分からず迷ってしまっては隙を見せてしまい、機体は大破し彼自身も重症の身となった。
ティンク・ロックハートは元皇立KMF技研のテストパイロットだけあって良い動きと立ち回りで敵のナイトメアを撃破していったが『基地の陥落』といった、時間がモノを言う状況下になってもマイペースのまま戦場を駆けた。 結果として、機体とパイロットの損傷は軽微なのが幸いだった。
マリーベルの騎士であるオルドリン・シヴォンは勝負を焦るあまりに連携が全く取れていない、孤立した状態で敵の新型と交戦。
そしてやむなく現役を引退したはずのシュバルツァー将軍自身がサザーランド・スナイパーと試作機である小型ハドロン砲で援護しなくてはいけない状況になったことで、幸運にもグリンダ騎士団側に死者は出なかった。
キリキリキリキリキリキリキリキリキリキリ。
そんなことを考えているシュバルツァー将軍の胃と、古傷を負った膝は痛み出したそうな。
「(やはり、戦略顧問であるオレがしっかりとせねばならん! 最悪、
彼の頭上に浮かび上がるのは、表情筋だけ器用に使って笑っているシュナイゼルの姿だった。
『シュバルツァー将軍、引退した身であるあなたに少々頼みたいことがあってね? 妹であるマリーベルの
キリキリキリキリキリキリキリキリキリキリ!
シュバルツァー将軍を悩ませていた最大の理由は、単純にグリンダ騎士団が『皇女の騎士団』と呼ぶにはあまりにも人員も装備も数が少なかったこともあった。
カールレオン級浮遊航空艦の『グランベリー』、ランスロット・グレイル一機(現在補給&整備中)、グリンダ仕様グロースター一機(大破)、グリンダ仕様サザーランド三機(二機大破)、サザーランド・スナイパーが一機にVTOLが五機。
そして乗組員は(充足時)約315名。
『個人』の運用としてはかなり大きな部隊だが、とても『皇女用』とは思えなかった数にシュバルツァー将軍はずっと悩み続けた。
そこに将軍は、以前から出していた人員と機体の補充要請の報告を見て若干胃痛が和らいだ。
「(この『ブラッドフォード』とやらは性能を見ればグレイルとの相性が良い。 あとは
……
…
悩むシュバルツァー将軍からそう遠くはない距離で、グリンダ騎士団のケガ人たちはアルジェリアから比較的に近い帝都ペンドラゴンにある中央軍病院内で休養中だった。
バァン!
「やーやー! スーパースターのソキアさんが見舞いに来たよ~!」
グリンダ騎士団のソキア・シェルパが重症のレオンハルトと軽傷のティンクがいる個室のドアを荒々しく開けては高らかな声を二人にかける。
「ちょ、おま、ここは病院だぞ?!」
「ハハハ、ソキアは相変わらず元気いっぱいだね。」
「うにゃはははははは! 気にしない気にしない! ってあれ? オルドリンもにゃんでここに?」
ソキアはレオンハルトの正論に対してただ笑い、部屋の中で『これで君もムキムキマッチョなマッスルに!』のコマーシャルに出てくるような運動用の棒らしきものを両手で掴んでビョンビョンさせているオルドリンを見る。
「う~ん、私って別にどこもケガしていないのに“休め”って言われて暇だったから。」
「それで“他人の病室が広いから”って入ってくるのもどうかと思うけどな。」
「まぁ、レオンの正論は別において────」
「────おい────」
「────オルドリンのグレイル機が受けた攻撃は多分、『ゲフィオンディスターバー』の近縁だと聞いた。 あれはナイトメアを動かすエナジーの元であるサクラダイトに干渉するモノだけれど、最近までは理論上だけのモノだったから人体にどんな影響をするか分からないからね。一応“休め”って言われたんだと思うよ。」
「やっぱり機体が動かなかったのは、その『ゲヒなんとか』のせいなのね!」
「『ゲフィオンディスターバー』だよ────」
「────『ゲヒタバー』さえなければ、私のランスロット・グレイルがあの白い紅蓮っぽい機体に負けるワケがないわ!」
「「「(ゲヒタバーって。)」」」
オルドリンがゲフィオンディスターバーを略化した言葉に、ソキア、レオンハルト、ティンクの三人はただ内心でツッコミを入れた。
「お嬢様、どうどう。 今フルーツを切りますからね?」
「う゛~……ありがとう、トト~。」
そんな興奮するオルドリンを、褐色のシヴォン家のメイド────『トト・トンプソン』がなだめながら部屋の中に置いてあるボウルに入った果物の皮を慣れた動作でむいていく。
「あ! トトトトトトトト、トトさん!」
トトを見た瞬間、さっきまでソキアにイラついていたレオンハルトはご機嫌になりながら声をかける。
「は~い?」
「で、で、で、出来ればフルーツを食べさせてくれませんか?! 俺、両手が使えない状態なんで!」
レオンハルトは上記の主張を裏付けるように、両腕がギプス状態であることを見せつける。
「はい、フォーク。」
「え。」
だがギプスから出ているレオンハルトの手に、トトはフォークを握らせてからフルーツの盛り合わせを出す。
「はい、どうぞ♡」
「やったぁぁぁぁぁ! モグモグモグモグモグモグモグ……って何、ソキア?」
オルドリンは運動棒を手放し、フルーツを食べているとニヤニヤしているソキアに気が付く。
「いや~、実はメインストリートで今月の『月刊少女あすかちゃん』で、面白いコミックを発見してね~?」
そう言いながらソキアがしおりをつけた雑誌のページを開けると、魔法少女漫画風に描かれた『貴族学生オルドリンちゃん♪』を見せる。
「ナニ、コレ?」
「グリンダ騎士団は人気が出ているからね。 帝国民の戦意高揚を狙ったプロパガンダだよ。 こっちの『ヤングトップ』も読んでみるかい?」
ティンクの渡したコミックにはランスロット・グレイル風の仮面をした『オルドリンマスク』が、宿敵の『デスパレッ
余談だがタイトルは『戦え! オルドリンマスク!』で、内容のノリは完全にシリアス風ギャグ漫画だった。
「……………………ナニ……………………コレ?」
オルドリンのハイライトの消えた目と無表情な顔に、レオンハルトはゲラゲラと笑っては傷口が開いてしまい、グリンダ騎士団の面々はドクターやナースたちに叱られたそうな。
叱られたことで『ショボーン』とするグリンダ騎士団のパイロットたちに、『競技KMFリーグに、デモンストレーションとして出てくる気はない?』という悪魔のシュナイゼルの誘い提案が届けられるのは少し後の話である。
('、3_ヽ)_スヤァ ←久しぶりに爆睡するスバル
と言うわけでストックはゼロになりましたが、『OZ』のグリンダ騎士団たちの軽~い紹介でした。 (汗
コロナからの頭痛と関節痛がぶり返したことで、仕事が終わったらすぐ休みます。