小心者、コードギアスの世界を生き残る。   作:haru970

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お読み頂きありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです。 

誤字報告、誠にありがとうございますHIGHレボリューションさん、あーるすさん! m(_ _)m


第13話 そのグラスゴー、赤でもらい受ける

「皆、よく聞いてくれ。」

 

 ナオトさんの表情はいつにも増して険しかった。

 

 今俺がいるのはシンジュクゲットーを拠点にしているレジスタンスの基地。

 

 より正確に言うとナオトさんのレジスタンスが拠点にしている場所でも一際大きな一つだ。

 

 今までこのように大勢が集まることは無かったが、内容が内容だけに戦闘員、非戦闘員に関係なくメンバー()()が招集されていた。

 

「皆を一か所に集めたのは重大なことが分かったからだ。 ブリタニア帝国は新たな毒ガス兵器を開発した。」

 

 ナオトさんの言葉に周りでそこかしこのメンバーたちがつばを飲み込む中、俺はこう思う。

 

『ああ、ついにこの時が来てしまった』と。

 

「その輸送先がエリア11、それもトウキョウ租界エリアだとも判明した。 場所が場所だけに、オレはこれを奪取してブリタニアの非道を世界に証明するつもりだ。」

 

『コードギアス』での世界はサクラダイトという特殊な電気抵抗が無い超伝導物質のおかげで電気系統の技術が飛躍的に進んだ世界だ。

 

 それを応用した発電やバッテリーの技術や研究は進んでいる反面、化石燃料やそれを利用した内燃機関や原子力などのような技術は未発達。

 

 はっきり言うと、俺にとって(多分)馴染みのあるそれ等はかなりマイナーな学問に分類された分、大規模な戦略兵器は珍しく、『毒ガス』のような化学兵器はこっちの世界では『核兵器』と同等の扱いをされている。

 

 そしてナオトさんの提案した『レジスタンスによる毒ガス奪取事件』。

 これは俺にとって実質上『コードギアスの原作開始直前』を意味する。

 

 ナオトさんはレジスタンスメンバーたちに説明をする中、俺は迷っていた。

 

 ()()()()()()()をするかについてだ。

 無論、原作での描写は何もない。 

 殆どアドリブ状態となる。

 

 最初はこの作戦に関して、俺は『事なかれ』と流れを静観する気でいたが、数年間を共にしていると情も湧く。

 いや、()()()()()()()と言ったほうが的確か。

 

 そしてなぜ悩んでいるかというと、原作開始の時点でナオトさんは既に『行方&生死不明』として扱われていた。

 そうなっていたからこそ扇が率いるレジスタンスは当初、グダグダな動きをしていたところをルルーシュにつけこまれて物語(原作)が始まる。

 

 リーダー役を引き継いだ扇は決して無能ではないが、組織のリーダーとしては感情でモノを判断しすぎる傾向がある。

 

 特にお調子者の玉城はいろんな意味でダメだ。

 

 カッコつける為に単身で前に出ようとするわ、貴重な重火器を遠慮なく使うわ、ちょっとでも見た目が良い女性なら言い寄るわ、エトセトラエトセトラ。

 

 コホン、すまん。 脱線した。

 

 さて、ここで問題。

 ナオトさんを失ったレジスタンスは上記で挙げた通りグダグダで、その状態で毒ガス奪取を実行した結果、多くの一般人が巻き込まれて死んだ。

 

 ならばそこで『俺がリーダー役を引き継げばいい』、と言うものでもない。

 グダグダだったからこそルルーシュの指示に渋々ながらも従い、彼は『こいつら(レジスタンス)は利用できる』と思えたし、レジスタンス側も『(ゼロ)の能力は本物』と実感できたのだ。

 

 それに正直、俺はそこまで自信がない。

 

 俺の第一目的は『生き残る』ことだ。

 自ら前に出るのは怖いし避けたいし、万が一にでもルルーシュに目を付けられでもされてみろ。

 それこそ無限に死亡フラグが湧き上がるきっかけになってしまう。

 

 そうでなくとも原作のカレンのように『有能な駒』として酷使されるのは目に見えている。

 

「────そして毒ガスを奪取する下準備として、オレたちは自分たち用のナイトメアを捕獲する。」

 

 ナオトさんの言ったことに明らかな動揺とざわめきが部屋中に渡っていく。

 

「ナイトメアをですって?!」

「そんな無茶な!」

「まさか軍に喧嘩を売るのか?!」

「ナオト……お前、本気か?」

 

「ああ、オレは本気だ。」

 

「「「「「………………」」」」」

 

 ナオトさんの答えに皆が黙る。

 

 完璧にお通夜状態だが無理もないか。

 今までのレジスタンスがしてきた事といえばせいぜい、孤立した巡回パトロールなどにゲリラ戦を仕掛ける程度が関の山。

 

 単なる『嫌がらせ』程度の活動をしてきた。

 とてもじゃないが、『ナイトメアの奪取』などとなると自殺行為としか思えない。

 

 ()()の作戦ならば。

 

「扇。 入手した情報によれば、毒ガスの有効範囲は都市一つをまるまる覆うような代物、 今までにない規模の類だ。

 故に俺たちが奪取などの動きをすれば、取り返すために必ず軍は動くだろう。 必然的にナイトメアも出てくる。 そしてナイトメアにはナイトメアでしか対抗できない……オレは、藤堂じゃないからな。」

 

「……昴、いよいよだね。」

 

「そう、だな。」

 

 俺は隣で意気込むカレンの言葉を聞きながら複雑な気持ちになる。

 

 (スヴェン)が“レジスタンスのメンバーだ”という事はレジスタンスの幹部以外には秘密にしてもらっている。

 

 表向きの俺はあくまで『情報屋』、かつ『整備班』。

 

『整備班』は俺が前線から身を引いた場所で居られる為と……原作では扇レジスタンスの初であるナイトメアと関係している。

 

『情報屋』なのは俺がいち早く、()()()()()()()()()()の情報を入手できると思ったからだ。

 

 何せガセネタでも、パンドラの箱級の政治的猛毒だ。

 もし事前に知ることが出来ていれば、上手く根回しなどしたりして立ち回れると思ったからだ。

 

 例えば現在のエリア11の総督であるクロヴィス・ラ・ブリタニアや、彼の配下であるバトレー・アスプリウスとか、もしくは研究所の施設とか。

 

「そしてオレたちはナイトメアの入手には目星はつけている。」

 

 そこでナオトさんがチラッと俺を見る。

 すると重しが急にお腹に圧し掛かったような幻覚に(さいな)まれる。

 

 ……頼む。

 そんな期待に満ちた目で見ないでくれナオトさん。

 

 俺はそっち(ナイトメア)の情報を入手したことに今、後悔しているんだ。

 

「旧トウキョウタワー近くの博物館に、展示品として配置される予定のグラスゴーを奪う。」

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

「納得いかないよ!」

 

「カレン、落ち着け。 今は作戦中だ。」

 

 俺とぷんすかと怒るカレン(珍しくぷっくり頬っぺ付き)が今いるのは目的であるナイトメアが輸送される旧トウキョウタワーの近くにある博物館……

 

 ではなく、トウキョウ租界から少し離れた国道を俺たちは再開発中のビルから張り込みをしていた。

 

 主に俺が双眼鏡を使い、カレンが周りの警戒をして。

 警戒と言っても深夜を既に回った時間だからか、夜の活動はほとんどない。

 せいぜい陽光が出ていない間に道の整備や、租界の清掃作業が行われているぐらいだ。

 

「落ち着いていられると思う?! 何かあっても、ここからじゃ何もできないじゃない?! 初めて大きな作戦の前線に立てたのにさ!」

 

 それがお前の兄の狙いだと思うよ、カレン。

『初めて』にしてはきつい状況(配置)だが……仕方がない。

 

「ナイトメアのセンサー、ファクトスフィアを甘く見るなよカレン。 夜だからこそ展開される可能性は高くなる。」

 

 カレンが俺の真剣な声を聞いて声を一段階低くする。

 

 そこまで警戒することは無いのだが……彼女らしいと言えばらしいか。

 

「……そこまでなの?」

 

「そうだな。 展示品とはいえ、ナイトメアの輸送だ。 こういうケースも配慮して護衛にナイトメアが一つか二つは鎮圧目的で同行しているだろう。 そしてファクトスフィアはどのナイトメアにでも装備されている代物。 使えば広域であらゆる索敵に使用できる。 展開中には望遠はもちろんのこと、サーモグラフィ(赤外線)、音響センサー、生物探知機能などのあらゆるシステムが組み込まれている。」

 

「……………………それ全部が一つの機械に取り付けられているなんて、ズルそのものじゃん。」

 

「だから日本は負けた。 ナイトメアフレーム一機一機が戦車と同等の火力を持ち、ヘリのような機動力を誇り、斥候並みの索敵能力を保持している。 ただし、弱点もあるが。」

 

『弱点』と言うキーワードを聞いてカレンの目がキラキラし始める。

 

「じゃ、弱点?! どんな?!」

 

 子供かお前は。

 あと近い。

 

「現在のナイトメアでは少なくとも展開中、身動きが取れない。 センサーが狂うし、大きな行動を取るには出力が足りないからな。」

 

「なるほど……じゃあそこを一気に叩けば────」

「────だから基本、ナイトメアはツーマンセルで作戦行動を────ん?」

 

 双眼鏡で見ていた景色にゆっくりと動いている点灯が目についた。

 目を凝らし、そこに集中すると見えたのは大型トレーラーだった。

 

 ナイトメア輸送用の。

 

「カレン、無線機を貸してくれ。」

 

「もしかして来たの────?!」

「────いいから早く貸せ。

 

 ルンルン気分になりそうなカレンから無線機を受け取っては素早く送信ボタンを続けて三回押す。

 

 プップップッ。

 

 パチパチッ!

 

 すると素早くスピーカーから返事のような音がして相手が了解したことで、俺は近くの地面に広げられたブルーシートにうつぶせになり、置いてあったイアマフラーに似た耳プロテクターをつけ、バイポッドの付いた対戦車ライフルを構えながらスコープに付けない目を眼帯で覆う。

 

「カレン、双眼鏡でナオトさんたちを追ってくれ。」

 

「分かったよ……そう言えばさ? 何で眼帯をするの? 映画とかでは目をつむっているじゃない。」

 

「あれは映画だから見栄えが良いだけで、本来は目を開けたまま片目に思考を集中させるもんだ。 でないと神経が疲れる。」

 

「あと、ごついね? その銃?」

 

「ああ。 ()()()だからな。」

 

 俺が構えているのは元来の対戦車ライフルから、まったく別の何かに魔改造したオリジナルだ。

 

 ()()のコンフィグで全長2,500ミリ、重量は35キロちょい、そして特殊加工された全長170ミリの口径20ミリ徹甲弾を使用している。

 

 これだけの説明でかなりの化け物と思うかもしれないが、上記で示したようにこれは魔改造された武器で、()()()()ではない。

 

 火力を出来るだけ追求して()()を使った代物だ。

 つまりは(恐らく)世界でオンリーワンの『火薬使用型対KMF(ナイトメアフレーム)ライフル』だ。

 

「それで……ナイトメアの装甲を貫通できるの?」

 

()()()はな。」

 

 と言うか俺が昔に前世で見た『設定資料上』な。

 

「なら大丈夫か。」

 

 カレン、お前のその自信はどこから湧いてくる?

 

 パッ!

 ドガァァァァン!

 

 ナイトメアフレーム用の大型トレーラーの前を走っていた装甲車の下が光った瞬間、爆発音とともに装甲車の後方が無理やり持ち上げられて転倒し、後ろを走っていたトレーラーが急ブレーキをかけて横へと曲がりさかさまになった装甲車にぶつかる。

 

「始まった!」

 

 ドミノ現象のように、今まで難無く道を走っていた装甲車などの隊列が乱れる。

 

 任務開始(ミッションスタート)だ。

 

「カレン、俺から離れていろ────」

「────へ────?」

「────サプレッサーをしているが、耳をやられるぞ。」

 

「『さぷれっさー』って、なに?」

 

「皆が間違って『サイレンサー』と呼んでいる物の名称だ。」

 

 俺はカレンの質問を無視してスコープ越しにナオトさんたちが向かうであろう大型トレーラーを二台ともゆっくりと視界を交差させると案の定、一つ目のコンテナが開き始める。

 

 人型機動兵器、第4世代型KMF(ナイトメアフレーム)RPI-11。

 通称『グラスゴー』。

 

 ブリタニア帝国が初めて他国侵略時に力を入れて量産し、実戦投入した機体だ。

 

 レジスタンスとブリタニアの銃撃戦が行われている間に、一機が立ちながら足に装着されているランドスピナーを展開しようとしたところで俺はゆっくりと引き金を引く。

 

 ボシュゥゥン!!!

 

「きゃ?!」

 

 分厚い皮をした風船が破裂するような、重い一発が俺の構えた銃から発し、グラスゴーの回っているランドスピナーのコマ部分が欠けて自己崩壊する。

 

 その勢いでグラスゴーは足先を躓かせた人のように前へと倒れ、俺は照準を露わになった背部に合わせ直してまたも引き金を引く。

 

 ボシュゥゥン!!!

 

 スコープ越しに背部にあったコックピットモジュールに大きな穴が生じ、グラスゴーはそこから動くことは無かった。

 

 操縦系統か、あるいは中のパイロットを()ったか……

 念には念を入れて二発目を撃ち込むが反応はなかった。

 

「(どちらにせよ、これで一機は沈黙化。 もう一機は……)」

 

 俺は身体ごとライフルと一緒に位置をずらし、出撃したもう一機が対人機銃でレジスタンスに対して弾幕を張りながらトレーラーの陰でファクトスフィアを展開している姿を見る。

 

 多分、さっきのグラスゴーを撃破したのは対ナイトメアフレームライフルを装備したナイトメアと思って探しているのだろうが、お門違いだ。

 

 相手はナイトメアに通用するような火薬銃に魔改造した歩兵モドキだ。

 

 ボシュゥゥン!!!

 

 露出したファクトスフィアに穴が開き、敵のナイトメアが明らかに動揺するような動きを見せる。

 

 狙撃をされたのに『索敵カメラをそのまま出す』という事は、明らかに戦いなれていない新兵。

 

「(情報通り、正規軍ではなく(守備)軍だったな。)」

 

 ボシュゥゥン!!!

 

 グラスゴーの横でアスファルトが跳ねると、そちらに上半身ごと向ける。

 

 戦闘中でメインセンサーを失くしたからこそ敏感になった人間味が仇になったな。

 

 ボシュゥゥン!!!

 

 自分に向けられたコクピット部分に、20ミリ徹甲弾を撃ちこむと二機目のグラスゴーも動かなくなり、二発目をお見舞いする。

 

「(二機目、沈黙完了。) カレン、ナイトメアたちに視線を移せ。 動き出したら俺の肩を叩いてでも知らせろ。」

 

 そのまま俺は照準を沈黙化した敵のKMFから未だに応戦するブリタニアの歩兵たちに移し、引き金を引いていく。




余談の補足:

作中で魔改造されたライフルに一番近い武装は現在で言うとダネル社の対物ライフルNTW20になります。

全長1,795ミリ
使用弾薬:一番近いコンフィグで全長110ミリの20ミリ口径
重量:約31キロ(弾倉+オプション付き)

こっちは実在する化け物です。 (汗

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