小心者、コードギアスの世界を生き残る。   作:haru970

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お読みいただきありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです。

やっぱりこの頃のグリンダ騎士団は平和……


第137話 狂信者とストーカー

 スペシャルイベント開催当日のセントラル・ハレー・スタジアムはかつて以上の活気に潤っていた。

 

 ブリタニア帝国の長い歴史でも『ワシントンの反乱』以上の反乱────エリア11の『ブラックリベリオン』と今では世間が呼んでいるモノとその余波で多々起きたテロの所為で、このように大人数の人々が密集するのは久々である。

 

「ムフフフフフフ♪ そうそうそう、集まってペンドラゴンの経済に貢ぎなさいな♪」

 

 大勢の男女に子連れの家族たちを赤髪のツインテール少女、『カリーヌ・ネ・ブリタニア』がウォークウェイ越しに見ながら、目が『$』マークに変わったような錯覚をさせるほどの笑顔を浮かべる。

 

「ウシシシシシシ。 今までの維持費が原因の赤字を、今日で挽回できれば旧式化した設備の最新化を────」

「────相変わらず元気そうでよかったよカリーヌ。 ここ最近はブツブツとした独り言が多くなっていたと聞いていたからね。」

 

 そんな彼女の隣にいたのはニコニコとしてやんわりとした空気を発するオデュッセウス・ウ・ブリタニアが声をかけるとカリーヌはクワっとした表情に変えて彼を見る。

 

「兄様は理解していないかも知れませんけれど、エリア11とユーロ・ブリタニアへの出兵で経済にヒビが入りましたからね?!」

 

「う~ん、そういうものはシュナイゼルとかが何とかしてくれるだろうさ。 アッハッハッハ。」

 

 のほほんと笑うオデュッセウスに対し、カリーヌはハイライトが消えていくジト目をする。

 

 「フ。 そのシュナイゼル兄様が宰相としてエリア統治を任されている総督たちなどに“搾取を強められないかな?(ニコッ)”と言い渡したのですけれどね────」

「────うん? 何か言ったかいカリーヌ────?」

「────なんでもございません! クロヴィスお兄様が来られなかったのが残念なだけです!」

 

「うーん、確かにそれはそれで残念だけれど()()()()の……………………………………名前はぴんと来ないけれど、昨日到着したと聞いているけれど? ああ、そういえばカリーヌはイベントのホストとして出迎えに行っていたね。 どんな子だったんだい?」

 

 オデュッセウスの問いに、カリーヌがさっきよりも更にゲッソリした様子になる。

 

「うん、まぁ、そうなのですけれど……あの子が私の覚えているモノより全然違うと言うか、まったく品のない庶民に染められていたというか────ッ!」

 

 そこでカリーヌは通路先に、皇族でも珍しい羽根のようなものをドレスに付けた女性を見て一気にご機嫌になる。

 

「あ~ら、巷談(こうだん)枚挙(まいきょ)(いとま)がない英雄皇女様じゃないですか~? ああ、『皇帝陛下に見捨てられたかわいそうなお姫様』と呼んだほうがいいかしら?」

 

 カリーヌの声に、通路先にいたマリーベルとオルドリンの二人がカリーヌたちを向く。

 

「あら、オデュッセウスお兄様御機嫌よう────」

「────やぁマリーベル、久し────」

 

 明らかに自分を無視するマリーベルに、カリーヌはこめかみに血管が浮かび上がりそうになる。

 というかぶっちゃけると、マリーベルはちゃんと挨拶をしただけなのだがどうやらそれが気に入らなかったらしい。

 

「よくものうのうと表舞台に戻るなんて……厚顔無恥甚(こうがんむちはなは)だしいわ♪」

 

「そのようなご挨拶を言うために、足をわざわざ運んでくださったのかしら? 第5皇女様ともあろう方が?」

 

 挑発するカリーヌに対して平然としたマリーベルがまるで意趣返しをすると、カリーヌはさらにニヤニヤし始める。

 

「ふふん、“ショービズなどへの篤志も皇族・貴族の務め”の一環ですわ。 最も────」

 

 ここでカリーヌはさっきから気まずく目を泳がせていたオルドリンを横目で見る。

 

「────貴方(マリーベル)は身売りでもしなきゃ、その役目を満足に果たせないのでしょうけど? ジヴォン家やシュナイゼル兄さまのように。 ああ、そう考えると『家なし皇女』がお似合いですわね! 第8()8()皇女様?」

 

 マリーベルが一度、皇位継承権を剥奪されたことを強調したカリーヌの言い方でその場の空気は一気にピリピリとし始める。

 

「カリーヌ、それは言いすぎだと思うよ? マリーベルが元気で良しとしようじゃないか。」

 

 そんなピリピリした空間を、いまだにのほほんとしたオデュッセウスの声によって毒気が抜かれてしまったのか、マリーベルたちはスタジアムの指定席へと向かう。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 ほぼ同時刻、スタジアムの選手控室があると思われる周辺のまた向こう側では、歩いていたソキア、マリーカ、トトの三人がいた。

 

 余談だがさっきから彼女たちは『ずんかずんか』とゴーイングマイウェイのソキアを先頭にこの場所をすでに5回ほど通っている。

 

「あの、ソキアさん?」

「う~ん……」

 

 トトの問いに先頭を歩いていたソキアが唸り声に似た音を出す。

 

「シェルパ卿、さっきからぐるぐると同じような場所を歩いているような気がしますが……こっちで合っているのですよね?」

 

 マリーカの言葉にようやく、ソキアはぴたりと立ち止まってマリーカとトトの二人に振りかえってはサムズアップする。

 

 「大丈夫! 見事に迷ったみたい、メンゴ!」

 

「“メンゴ”って何ですか、“メンゴ”って?! 試合があと少しで始まっちゃうんですよ?! ゲストである私たちが遅れるなんて……」

 

「うにゃは~、固いなぁソレイシィ卿は────」

『────今年は神聖ブリタニア帝国にとって失うもの大きい年と────』

「────ほら、皇女殿下のスピーチがもう始まったじゃないですか?!」

 

「う~ん……多分大丈夫っしょ────」

 「────そのシェルパ卿の自信はどこから来ているのか私にはわかりません。」

 

『それに付随する問題があまた表面化したことも周知の通り────』

「────もうこのままだと私たち、遅刻ですよ?!」

 

「私も軍学校はよく遅刻していたにゃ~────」

 「────褒めていませんから。」

 

「あら?」

 

 そんな三人に、意外な人物の声がかかる。

 

「うにゃ?! その声はミーヤたん?!」

 

 ソキアたちに声をかけたのは、スーツケースのようなモノを持ったアンジュと()()()を着たマーヤとの()()だった。

 

 実は先日出会った際に、ソキアは二人のことをたいそう気に入っては一気に仲良くなっていた。

 

「はい。 良い日ですねソキアさん、ミーヤたんです。」

 

「それにアンたんも────!」

「(────相変わらずなんだか無性に『ダイフク』とやらを食べたくなるようなあだ名ね。)」

 

 特にアンジュが『元暴力違反ギリギリ猛獣ラクロス選手』と聞いてからと追記する。

 

「うん? 彼は?」

 

「えっと……」

 

「彼ならば先に席で待っています。 えっと、グリンダ騎士団である二人は今日出るはずだったのでは────?」

「────うん、何を隠そう迷子なのだ!」

 

「……………………………………………………………………………………」

 

 高らかに宣言しながらどや顔をするソキアを前に、マーヤはニコニコ顔のまま固まった。

 

「……あー、二人は選手────」

「────あ、三人です。 自己紹介申し遅れました、『トト・トンプソン』と言います────」

「────あら、そう? 選手の控室はこっちだったと思うけど?」

 

「……………………………………………………(ジトー。)」

「うにゃはははは~……」

 

 アンジュが指をさした方向は先ほどソキアが歩いていた通路の隣にある階段であり、マリーカが何度も『こっちに行きましょう』と言ってはソキアが『違うと思う! こっちだよ!』とずんかずんかと歩いていっていた。

 

「ありがとうございます、では行きましょうか?」

 

 トトの声でソキアとマリーカはハッとして階段を駆け上っていくとマリーベルの演説がより一層クリアに聞こえてくる。

 

『私たちが抱える問題は、人間が作り出したものです。 よって人間の手によって解決できます。 人間の運命に関する問題すべては人間の力の範囲外ではないのですから。 本日のような催しもそういった兆しを示す動きの最たるモノと私は信じています────』

「────よっしゃ! やっと会場内にゃ────!」

『────我がグリンダ騎士団は帝国のより大きな剣となりましょう。 オールハイルブリタニア。』

 

「「「「「「オールハイルブリタニア!」」」」」」

 

 席を立った観客たちは敬礼をし、ソキアたちは少々(?)不敬ながらも敬礼しながら歩いていた。

 

「はぁ~、やっぱり第1皇子殿下は和むにゃー。」

「ソキアさんもオデュッセウス殿下の良さが分かってきたようですね────?」

「────お二人とも、気を付けてください! そのように俗なほめそやしは不敬ですよ?!」

 

「まぁまぁ、あれを見たらどうソレイシィ卿?」

 

 やっと会場内に入れたところでオデュッセウスのアップ姿を映すスクリーンに、ソキアが指を指すとグリンダ騎士団の団服を着た少女たちが可愛い装甲に包まれた民間用のナイトメアであるMR-1に乗りながら競技場近くのステージに出てきていた。

 

『MR-1』とは払い下げグラスゴーを競技用にプライウェン以上に装甲を取り外されたフレームのみで出力は可動に必要最低限なものに固定され、スラッシュハーケンを後付けでつけることも一応可能とされているが使うだけで機体がよろけるなど、完全に民間用としてのナイトメアである。

 

『さぁ、特設ステージでは久々の登場、PDR13(ペンドラサーティン)のエリシアちゃんの今日限定の復帰ライブです!』

 

『みんな~、来てくれてありがとうなの~♡ エリシアちゃん、超嬉しいぃぃぃ~♡』

 

 金髪ツインテのエリシアが手を振ると『エリシアコール』が連呼され、可愛く着飾ったMR-1たちはスピーカーから流される歌に沿いながら、ダンスなどの芸をし始める。

 

「……ナンデスカ、コレ?」

 

 この様を見ていたマリーカは呆けそうになるのを、ソキアに尋ねることで気をそらそうとした。

 

「うにゅ? あれはさっき私が言った『多分大丈夫』の時間稼ぎだにゃ。」

 

「…………………………………………………………」

 

 ついにマリーカは呆けてしまったのか目の焦点が合わないままの表情で固まっていた。

 

「おーい、マリーカた~ん────」

 「────あんなポヨポヨで頭悪そうなアイドルに団服を汚されてシェルパ卿は何とも思わないのですか?!」

 

「ソレイシィ卿、あの子はグランベリーのオペレーターですよ?」

 

「……………………………………………………………………………………はぁ?!」

 

 横から来たトトの言葉にマリーカは先ほどのマーヤのように一瞬固まってから、淑女(笑)にあるまじき素っ頓狂な声を出す。

 

 「冗談ですよね?! グランベリーって皇族御乗艦ですよね────?!」

「────心配しなくても大丈夫ですよソレイシィ卿、レオンハルトさんはそんなにミーハーじゃないですよ────?」

 

 「────トトさん何ですその“レオンのことは全部わかっていますよ♪”的なセリフの自信は?」

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「アッハッハッハ! 賑やかでいいじゃないか、『グリンダ騎士団』!」

 

 上記の様子を別のスクリーンで展示品であるランスロット・トライアルの近くから見ていたノネットは笑いを出す。

 

 今度は作業服などではなくラウンズの正装を着て、以前にロイドの策略趣味で参加した学園祭の催し*1が楽しかったのか、来客の挨拶や『これで君もランスロットに!』と書かれた等身大で顔の部分がくり貫かれたラウンズパネルの隣にいて写真を撮るなどをしていた。

 

 「あれが皇帝陛下直属の騎士団『ナイトオブラウンズ』のナイトオブナイン、ノネットエニアグラム卿か。」

 

「……」

 

 ケラケラと愉快に笑うノネットから少し離れた場所で彼女の『案内役』として待機していたティンクがレオンハルトに小声で話しかけるが、返答がなかった。

 

 「レオン────?」

「────困りました。 資料などで見た画像より美人です。 (ポッ)」

 

「(うーん、ここにきてからこの調子であるレオン……マリーカ君がここにいなくて良かった。)」

 

 「あ! 見てください! さらに美人と可愛い女性たちが来ましたよティンク────!」

「────はぁ……(レオン、君にはマリーカ君がいるだろう?)」

 

「「およ?」」

 

 そこにノネットとアンジュが互いを見て、アンジュの隣にいたマーヤがギョッと目を見開く。

 

「う~ん? 君たち、どこかで見たような気が────」

「────うは、うははは! 場所間違えましたー!」

 

 ガシッ。

 

 アンジュがぎごちない笑いを出しながら回れ右をするが、ノネットに腕を掴まれる。

 

「待ちな。 アンタ、アッシュフォードの学生だったよね?」

 

「ギクッ。 か、勘違いじゃ────?」

「────私の視力を甘く見ちゃダメだね。 それに……」

 

「そ、“それに”?」

 

「……いや、何でもない。 ここに来たのは、バカンスか? (少年が変装をしていたとなると、迂闊に“昨日は少年に出会ったからな!”とも言えないか。 部外者(ティンクやレオンハルト)もいる前だしな。)」

 

「は、はぁ……似たようなモノですけど。」

 

「よく両親や家が許したな?」

 

「ギクギク────!」

「────家が『放任主義』かつ自己責任ですので。」

 

 ノネットのそれとなく出したカマにアンジュの目が泳ぎ出し、マーヤが口をはさむとノネットはわずかに目を面白そうに細める。

 

「ふぅ~ん……ま、皇帝陛下が()()を────おっと、()()()()を通して出したお触れは────」

「「「「(────今宰相閣下(シュナイゼル)を『坊や呼び』したぁぁ────?!)」」」」

「────あくまで“エリア11が平定されるまで外出は控えるように”だからね。 ま、そこまで信頼されているところを見ると()()()()逞しいんだね?」

 

 サッ!

 

「って違う違う! そっちじゃないよ! 筋肉だよ! 護身術か何かしらの武術をしているんだろ?」

 

 アンジュがさっと自分の体を隠したことにノネットは苦笑いをし、そんな彼女をマーヤは警戒した。

 

「(この人……伊達にラウンズではないという事ね。 あの時(学園祭)でも遠目で観察していたけれど、隙が無い。 とてもではないけれど、戦うことになれば『暗殺』か『不意打ち』が最良の手段みたいね────)」

「(────後ろの金髪の子(変装中マーヤ)の視線……あの時(学園祭)、時々私を遠くから見ていたモノと似ていると思っていたけれど、近くで感じた感覚では恐らく同じ人物だろうな────)」

「(────この眼差しの変わり方、まさか気付かれたというの?! なんという洞察力……いや、以前に私が見過ぎた疑惑が確信になった────?!)」

「(────おっと、この雰囲気は……この子もやるね。 まったく、少年の周りにはいつも面白い子たちばかりがいるよ。)」

 

「「……………………フフフフフフフフフフフフフ。」」

 

 上記での二人がした一秒未満のやり取り(?)の末、マーヤとノネットは互いに『悟られた?』という気配を濁すかのような笑いを出す。

 

 ブルルッ!

 

「ティンク、なんだか急に寒くなりませんでしたか?」

「ん? そうかな? 空調が効きすぎているのかな?」

 

 突然お互いを見て笑い出したノネットとマーヤを見たレオンハルトは思わず身震いをし、ティンクはボケたのほほんと答えた。

 

「(あれ、トイレかな?)」

 

 ちなみにアンジュも寒気は感じていたが、考えは全く見当違いなモノだった。

 

「(それでも、(スバル)様の情報通りにランスロットに似た新型が展示されていることが確認できたのは大きい。 けれどラウンズがいるとはいえ、神様が『ここに来た』ということなら方法はある筈。

 それとも今日のゲストたちである皇族が目的? このように数人が一か所で集まるのはエリア11以来……

 あるいは『グリンダ騎士団』でしょうか? 『ブリタニアの対テロ特化騎士団』という彼らが本格的に活動を開始すれば、アマルガムと衝突するのは必須。)」

 

 マーヤは視線を動かさず、視界の端で見えるランスロット・トライアルを見ながら内心で不安を感じながらも()()()()()()()()()()()などをなるべく胸奥深くで考え、思考を巡らせた。

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 「(ムホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホ♡)」

 

 スタジアム内のステージ上でPDR13は巧みにMR-1を使って繰り広げるダンスを、観客席でスバルはチャラ男フェースになりながら楽しんでいた。

 

 「(コードギアスの女子アイドル、めっちゃええわぁ~♡ っととと、和んでいる場合じゃなかった。)」

 

 かなり久しぶりに羽目を外せたことで、心地よい感覚に浸っていたスバルは席を立ってスタジアムのホール部分へと戻っていく。

 

「(『オズ』通りなら、確かマリーベルとオルドリンは皇室専用フロアから選手控室に向かっているh────)」

『────わわわわどいてぇぇぇ────!』

「────ん────?」

 

 ────ドスン!

 

「「グェ。」」

 

 ホールを歩いていたスバルの横から少女の声がしたと思えば、盛大な衝撃とともにスバルと彼にぶつかった少女が変な声を出して倒れてしまう。

 

「いたたたた……まるで筋肉の壁────」

「(────ピンク……の髪の毛? だがマリーベルじゃない────)」

「────じゃなかった! 歩いている間にボーっとしないでよ────!」

「────ぶつかってきたのはそっち────」

「────ああ、もうー! 遅れちゃう~!」

 

 少女は勢い良く立ち上がっては風のように走っていき、それをスバルは見送りながらふと考えたそうな。

 

 「(髪と同じピンク。)」

 

 割としょうもなかったことであり、内心にとどめたのがせめてもの救いだった。

*1
63話より




次話で展開を加速させます。 (;´ω`)

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