楽しんで頂ければ幸いです。
セントラル・ハレー・スタジアムの管制室から伸びていた数あるタレイランの翼が確保したと思われた脱出ルートは、ヴィンセントの突然の突破に防衛の陣が乱された隙を狙った一部のブリタニアの歩兵部隊がルートを逆算するように走っていた。
「自分に続けぇぇぇ!」
その先で彼らはアルハヌスを追っていたオルドリンと合流し、逃げるアルハヌスを含めた幹部たちの後方に食らいつく事が出来た。
「筆頭騎士だ!」
「自分たちが殿を務めます!」
「すまない!」
一部が玉砕覚悟で残り、銃を撃つが────
スバッ!
────両手にロングソードを一本ずつ持ったオルドリンは銃撃に怯むどころか更に移動を加速させてタレイランの翼の殿たちを切り伏せた。
「つ、強い!」
「あれが、ジヴォン家?!」
「臆するな!」
「ここが我らの分水嶺! 討ち取れ!」
スバ、スバッ!
オルドリンは次々とタレイランの翼の者たちを無力化し、ようやくアルハヌスたちを追い詰めた。
実は彼女の実家であるジヴォン家、ナイトメアが戦場の主流になるまでブリタニア全土でも『ラウンズ含めて白兵戦の間合いにて右に出る者無し』と言わしめる程の名門家であり、昔からブリタニア皇族に重宝され貴族内でも一目置かれている。
それは銃器の時代でも、ナイトメアが戦場の基準となっても、ジヴォン家の現当主が『初めて男性』だったとしても、現代にいたるまで変わらなかった。
「状況は解っていよう! 武装を解除し、法の裁きを受けなさい!」
「その法を司る皇族に妄信する卿には分かるまい!」
「そうだ! 皇族は危機が迫って初めて目を向ける!」
「我々は人知れること無く消されるだけだ────!」
「────大人しく武装解除し、降伏すればそのようなことは私がさせぬ!」
ザクッ!
未だに銃を自分に向ける者に対し、オルドリンはそう高らかに宣言しながら持っていた剣を床に突き刺して丸腰になる。
「ジ、ジヴォン卿────!」
「────構わん、武器を降ろせ。 貴方たちの言葉の裏に、信念があるのは理解できる。 私たちグリンダ騎士団も同じだ。 だが、いかなる理由があれ、民を危険に巻き込むやり方は間違っている。」
何時もは年相応の少女の態度をするオルドリンが今浮かべている凛とした立ち振る舞いは風格含めて『騎士』そのものだった。
まだ十代とは思えない彼女の言葉に、ブリタニアの兵士たちは構えていた武器をゆっくりと降ろす。
「……
「「「────だ、団長!」」」
タレイランの翼のアルハヌスが前に出て、そうオルドリンを見ながら呆れたように言を並べる。
彼女と同じく、丸腰のまま。
「
「私は……力無き者の笑顔を守るために力を振るい、マリーベル皇女殿下もそれに賛同している。 その為に、グリンダ騎士団をあの方は立ち上げたのだ。」
「……我々が降伏し、正当な法の下に裁かれる保証はないだろう?」
「グリンダ騎士団の……いえ、ジヴォン家の者として保証は私がします。」
「……………………分かった。 諸君、武器を降ろせ。」
「「「だ、団長────?!」」」
「────ただしジヴォン卿、この行動をとる様に焚き付けたのはあくまで私の所為だ。」
「恩赦を取り計らうよう、マリーベル皇女殿下に……引いては、
「…………………………分かった、卿を信じてみよう────」
「────ジヴォン卿!」
「────お嬢様、ご無事でしたか?!」
そこに競技場にいたマリーカとトト、そしてマリーベルもブリタニアの兵士を連れてたどり着く。
「マr────皇女殿下も、ご無事でしたか。」
「ええ、オルドリンもお疲れ様です。」
オルドリンとマリーベルは互いに微笑み、アルハヌスは沸々と妙な違和感を覚え始めていた。
「(なんだ、これは?)」
それはまるで、ノイズが混じったビデオを見るかのように脳内で再生される。
その
『────“アレクセイ・アーザル・アルハヌス。 グリンダ騎士団に負けを認めれば────
────自害せよ。”』
「(そうだ、丁度あの褐色少女のような────)」
「「「────団長?!」」」
カチャリ。
アルハヌスは近くの部下の声にハッとすると、彼の身体は護身用の拳銃を自らのこめかみに向けて引き金を既に引いていた。
「え?────は?────だめだ、私は────俺はまだ────嫌だ、死────!」
「────ま、待っ────!」
────パァン!
アルハヌスの行動にビックリしたオルドリンは彼から銃を取り上げる為に走るが、あと一歩の距離でアルハヌスは自らの頭を吹き飛ばし、彼の肉片や血がオルドリンの顔と髪に飛び散る。
オルドリンは純白だった両手のグローブを上げ、血が付着したそれらと
「……な……ん、で?」
明らかにショックを受けたのはオルドリンだけでなく、拘束の途中だったタレイランの翼の残党、彼らを拘束していたブリタニアの兵士、手で口を覆うマリーカと視線を静かに外すトトもそうであったように見えた。
「(結局、テロリストの根は臆病者ばかりなのね。)」
マリーベルはただ一人、冷めた視線をアルハヌスだった亡骸を見下ろしながら平然とそう思いながら表情をスンとさせていたが。
反旗を翻し、テロリストと化した警備騎士団団長のアレクセイ・アーザル・アルハヌスの自決とそのニュースによってその時点まで追い込められながらも抵抗していた者たちは戦う気力を失い、徐々に降伏していくこととなる。
……
…
上記のオルドリンたちのいるスタジアムよりずっと下の階では無事だったライラが発見され、落ちた際に受けた擦り傷などの治療を受けていた。
「ライラァァァァァァァァァァ────!」
「────あ、カリーヌお────」
────ドシ!
「────グェ────」
「────ああああ、よかったぁぁぁぁぁ!!!」
カリーヌの猛烈なハグ(というよりタックル)にライラは明らかに青ざめた。
「貴方が落ちたと聞いて失神しそうだったけれど、無事だった報告を聞いてすぐに来たのよ?!」
「
段々と青ざめるライラの声(そして奇怪なモノを見るような視線に)にカリーヌはハッとしては、ライラをハグから名誉惜しそうに手放す。
「あ、うん。 ハイ……ではなく! あなたに手を挙げた下郎はどこなのです?!」
「カリーヌ皇女殿下、先ほど息絶えました────」
「────チッ。」
近くのSPがカリーヌの耳だけに届くように小声で答えると誰にでも聞こえるあからさまな舌打ちをカリーヌは打つ。
「生かしたままだったら、この気持ちをぶつけて私自身の手で下衆の汚らわしい手足を引き裂いてやったものを────!」
「────ハイです────?」
「────オホホホ。 何でもないのよ、ライラ? そういえばライラを助けたのはどなたかしら? 感謝の気持ちを伝えなくては────」
「────バビューンと空を飛んだです!」
「……………………………………はい?」
爪を噛みながらブツブツと物騒なことを独り言のように言うカリーヌに対し、ライラが首をかしげるとカリーヌが誤魔化すためか短い笑いを出してふと思った疑問を問いかけると突拍子もない答えが返ってきたことに目が点になり、カリーヌは思わず生返事を返した。
「あ。 えっと……“次の戦場に備えて帰還する”です!」
「“次の戦場” ────?」
「────実は、大西洋方面からクーデター派が来ていたのでこちらの対応が────」
「────何ですって?」
カリーヌはSPの話に半分耳を傾けながら、自らの考えに没頭していた。
「(このタイミングで二面からの攻撃に、イベントのゲストにグリンダ騎士団……あまりにも出来過ぎていてまるで映画の様で……まさか、シュナイゼル兄さまが?)」
そう悶々と考えているカリーヌの横で、ライラも考え事をしていた。
時間はちょうど高層ビルのガラスを割ったヴィンセントが彼女とアンジュ、マーヤの三名をキャッチしたところまで少しだけ遡る……
「フンガァァァァァァァァァァ!!!」
もうありのままに叫びながら、ありのままに物事を言うぞ?
『思わずマリーベルが乗っていた(と思われる)ランスロット・トライアルと一緒に原作以上のタレイランの翼機の大半を撃退してスタコラサッサと注意がランスロット・トライアルに向いている間に久方ぶりに“時間に意味はない”を小刻みに使い、競技場を抜けて高層ビルをコソコソと降りていると窓の外に何か“人影を見えた”と思ったらまたまた思わず窓ガラスをヴィンセントで割ってビルの外を落ちていたマーヤとアンジュと何故かここにいるライブラを機体で受け取って腰のスラッシュハーケンがなかったらそのまま落ちていたことを今考えたら誰か説明してヨホホホホホホホホホホ。』
……最後のは、無視してくれて結構カッコウコッコウ。
そう思いながら俺は三人を高層ビル内のフロアに降ろしてからコックピットを出る。
「無事か────?」
「────やっぱり先輩だったです!」
あ。
ライブラがなんか確信を────ってそりゃそうか。
“変装している”とはいえ、整形とかした訳ではないからな。
「あまり時間はないが、そういうライブラもなぜここにいる?」
俺の質問にアンジュとマーヤがそれぞれウンウンと頷くとライブラがピョンと立ち上がると雰囲気が一瞬で変わる。
こう……言葉で伝えづらいのだが風格が────
「────神聖ブリタニア帝国皇女が一人、
彼女は前に出した足を膝で軽く曲げ、後ろに出した足はまっすぐ伸ばしたまま、短パンの端を指で摘まみ、優雅にカーテシーを、を、ヲ、を、を、ヲ、ヲヲヲヲをををおおおおおおおおおおお?!
キリキリキリキリキリキリキリキリ。
「ぅえええええええ?!」
アンジュが変顔になり叫びを出し────
「は?」
────マーヤは鳩が豆鉄砲を食ったような、キョトンとした呆気にとられた顔をする。
“あ、なんだか二人のその顔は新鮮だな”と思いながらも俺自身、彼女たちの心境はよくわかっているつもりだ。
何せ俺もマジ焦っているというか今考えたらいろいろと合点がいく。
『ライラ・ラ・ブリタニア』なんて名に聞き覚えはないが、アニメや外伝でもブリタニアの皇族の家系図は合計の少数しか描写されていない。
マリーベルが『第88皇女』となると、少なくとも皇女だけで88人の娘がシャルルにいるとなる。
皇妃だけでも100人以上いるからな、息子が娘の半数がいると想定するだけでも100人は超えると言う事だ。
それをすべて踏まえたうえで、以前彼女が『ブリエッラ侯爵のご息女』と紹介した時に感じた違和感も、当時イレギュラーズだったアリスが何故彼女のそばに常時いた理由も恐らく護衛兼監視の役割を担っていたのだろう。
それに『お兄様』もおs────ちょっと待て。
キリキリキリキリキリキリキリキリ。
彼女はさっき、なんて自己紹介をした?
『ライラ・
俺の知る限り、ブリタニアの皇族でミドルネームが共通すると言う事は母親が同じ。
そしてエリア11のカミーy────じゃなくて前総督の、コーネリアの更に前のクロヴィスのフルネームは『クロヴィス・ラ・ブリタニア』。
と、言う事は?
「……ライラの兄はクロヴィス殿下だったのか。」
ギリギリギリギリギリギリギリギリ!
俺の言葉と推測よ! 外れていてくれ!
「あ、はいです! 先輩のおかげでお兄様は何か文句を言いながらも元気よくカレーを食べているですよ!」
「そうか。」
あかんかった。
「ケガは、ないか?」
「大丈夫なのです!」
「そうか。」
「と言うかスヴェン先輩、なんか性格が変わっていないです?」
「俺は………………………………………………………………ゴフッ!」
「「スヴェン!/神様!」」
先ほどから酷い胃痛のように脳内をぐるぐると意味のない思考が回りと連動するかのように耳鳴りのような圧迫感が頭に押し寄せ、“何かが喉を上がってくる”と思った頃に深呼吸をしようとした俺の口内が鉄の味でいっぱいになり、視界が暗闇に閉ざされる直前にアンジュたちの声がこの時の記憶の最後だった。
皮肉にも『あ、やべ。 胃薬全然飲んでいなかった』と思っていたのもあるが。
「(あれから慌てたですが……色々と考えると納得するです。)」
そして現在、ライラは簡潔にだがマーヤたちから『自分たちが帝国や、黒の騎士団とは違う』ことも聞きアンジュからは『保険』と称されたものも渡されて二人はヴィンセントに気を失ったスバルを乗せて何処へと
「アンジュ、彼らと連絡を取って! やはり、無理をしていたのよ!」
スバルが突然吐血したことで慌てたアンジュたちは市街戦がいまだに続く中をヴィンセントで駆け出していた。
狭いコックピットにはマーヤたち三人が乗り、アンジュは暗号化器具を取り付けた使い捨ての携帯でとある番号に通信をかけていた。
『はいもしもしこちら修理、解体、なんでも請け負うサービスのピースマークで────』
「────こちら、依頼人Sの一味です。 大至急お願いしたいことが────!」
……
…
「もしもし、パパ? うん、
アルハヌスが自害した事実が徐々に広がっていき、それを知らない残党が未だ抵抗を続ける会場の中で一人の帽子をかぶった少女がスタジアムの予備の管制室内で、愉快そうに物騒な言葉を携帯に喋り込んでいた。
「でもすごいね! まさか私と彼女のギアスをこんな風に使うなんて、パパってば天才! ……え? “僕じゃない”って? ……ふーん。 じゃあその人を知っているパパは凄いね! うん? あの子? うん、あの子もすごいね! 銃を持った相手に突進して、バッタバッタと斬っていくんだもの!」
…………
………
……
…
スタジアムの観客たちの前で今までに無かった大規模なテロをねじ伏せたことにより、グリンダ騎士団とそれを率いるマリーベルの名声は一層高まり、デモンストレーションとしてはこれ以上のないほどまでの結果だった。
「殿下、さすがですね。」
「何のことだい、カノン?」
「いえ、何も。」
浮遊航空艦の中にある執務室でカノンはグリンダ騎士団の報告書に前もって目を通し、それをシュナイゼルに渡すカノンの言葉にシュナイゼルは平然と答える。
「それにしても、ランスロット・トライアルとヴィンセントが思いのほか活躍したのは嬉しい
「そう思いまして、勝手ながらスタジアムの観客が撮ったものを取り寄せています。」
「流石だね。」
「恐縮です。 ですが内容は私もまだ拝見しておりませんので、質のほうは荒々しいかと。」
カノンが部下に合図をすると部屋の明かりが低下し、近くのスクリーンに競技場の様子が映像として出される。
事前にカットなどはされているモノの時間がなかったからかやはり素人が撮った映像とスタジアム内に設置されたカメラの画像は落差が激しく、一緒に見ていたカノンでさえも編集を行った者たちを後でしばく叱ることを決めていた。
その時────
「フ……フフフフ……」
────シュナイゼルが、滅多にしない
「(殿下が……笑っている?!)」
「(よもや……よもやここで君をまた見るとはやはり、どうやら嵐の目の中でその姿を現してはこうも私の興味を引くが……いや、あるいはそれが狙いか? もしくは、『時代の潮流だ』とも言いたいのかな?) フフフ……」
シュナイゼルは以前にユーロ・ブリタニアから報告されたデータで見たアレクサンダと似た機動戦をするヴィンセントを見ては、思わず笑いをこぼしながら長年も何も感じることがなかった心地よい感覚に浸った。
胃潰瘍、またも発生。 (;´д`)ゞ