お読みいただきありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです。
『それで? 話って何よ?』
さて、どこまで話せばいいのだろうか。
別にふくれっ面のカレンにニヨニヨする毒島や、回りのアンジュたちだけならば全部そのまま喋っていいかもしれないが、今
ガナバティもいるが、彼は整備魂が燃えて今はヴィンセントに取り掛かっている。
問題は、他の二人だ。
さっき見た『ツバの長いトップハットに長髪の銀髪とうさん臭さ100%の白黒マントと一体化したスーツに怪○ゾロ風の仮面』の『自称
こいつらがいて、これはこれで嬉しいし俺が考えていた説の線も更に強まったのだが、果たして
と言っても、隠し事をすればカレンの怒りのボルテージが上がるのは火を見るより明らかだから……よし。
『EUから』という事は
………
……
…
『フゥ~ン……それでその“タラなんちゃらの翼”が起こした騒動を利用して、新型を強奪したワケねぇ~? フゥ~ン。』
“タレイランの翼”な、カレン。
あとなんか知らんが余計に不機嫌になったぞおい。
そう思いながらスクリーン越しに頬杖をしながらジト目になっていたカレンを見ていると、彼女の後ろにいた毒島が口だけをパクパクと動かしていた。
いや、俺……
ええっと……………………ダメだ、何言っているか分からん。
お? 今度はジェスチャーし始めたぞ。
これは……『包帯を巻く』動作か?
あ、そっか。
「ああ。 その時に、
『────だったら尚更私に声をかけてもいいじゃん────』
「────なんか言ったか?」
『な・ん・で・も・な・い!』
更にボルテージが上がったような……
「……ゴフッ?!」
『え?! ちょ、ちょっとスバル?!』
あー、痛みはなくともちゃんと響いているなこれは。
俺は先ほど吐血しそうになった血を無理やり飲み込んでから、口を再度開ける。
「ん……手短に、頼みごとをしたい────」
『────そんなことより大丈夫なの?!』
「ん? ああ、安静にしていれば大丈夫だそうだ────」
『────ぜんぜん大丈夫そうじゃないよ?! いつも以上に真っ白じゃん!』
「先に言っておくが、化粧はしていないぞ。」
『だったらなおさらだよ!』
「それより、
『へ。』
「だから、
『え。』
「それに……
『……………………』
なんだその顔は?
撃たれた鳩じゃあるまいし。
あと毒島のどや顔と誇らしい『ムッフー!』につられて動く胸、ごっつあんどすえ!
本当にDでござるか?
でもどうにかカレンの注意と興味を引くことが出来た。
感情的になると、猪突するからな。
イノシシのように。
この間に、『オズ』で起きた『アッシュフォード学園騒動』をカレンに伝えてそろそろR2に向けた準備もさせよう。
原作ではエリア11から脱出することが出来ずのまま、カレンとCCは卜部と黒の騎士団員数人にしか頼れなかった状況だったが……今のメンバー構成ならば何とかなるだろ。
だけど毒島にも頼んでユキヤには少し
よし、方針は決まった。
『俺無し
「(この少年は……何者だ?)」
そう、一人の男性はドア越しにスバルたちの様子を立ち聞きしていた。
ピースマークを金銭的にもブリタニアの内部情報などを提供し、サポートする『魔法使い』、通称『ウィザード』という男は別に『ブリタニアの
何せ、彼はヴィンセントの事を
同行する理由を今は伏せておくが、『ウィザード』のネタバレはしておこうと思う。
ウィザードの本名は『オイアグロ・ジヴォン』と言い、オルドリンの実家である
ジヴォン家の現当主。
ジヴォン家は元々一子相伝の女系貴族であったが、先代の当主だったオリヴィア・ジヴォンが双子を産んだ。
双子など珍しくもないのだが、『ジヴォン家次期当主が双子の男女』とくれば事態は別問題となる。
前代未聞の問題の処理は至ってシンプル。
『男の方は平民の家に捨て、女の方を次期当主として英才教育を受けさせる。』
さて。
なぜこの話をしているかというと、この時の男が『オルフェウス』だからである。
現在、ピースマークに所属しているオルフェウスはギアスの素質を見出されて嚮団に売られ、後に被験体となって暗殺術を教え込まれる。
女は勿論オルドリンの事であり、貴族武人としても健やかに育っていく。
だがまるでオルフェウスの不幸につられるかのように、幼馴染であるマリーベルは
オルフェウスは後に恋人と脱走するが恋人と自分を受け入れた村をギアス嚮団の嚮主、V.V.の命を受けて
そしてまたも時間差でジヴォン家当主のオリヴィアは自らの弟のオイアグロに討たれ、オルドリンは母を殺されてしまい、『次は自分』と思ったが叔父はどういう訳か様々な面でオルドリンとマリーベルの援助を現在に至るまで続けている。
少し長くなったが、これでようやく裏の世界で『ウィザード』と名乗る『オイアグロ・ジヴォン』という男へと繋がる。
オイアグロは姪と甥に憎悪の対象になりながらも、彼らを裏から全面的にサポートしている。
それは『善意』などではなく純粋な『後悔』から行っており、彼のような立場にいるものなら常に危険な橋を渡っている状態。
『情報』と『表と裏の仮面』の使い道を一歩間違えれば命を落としてもおかしくない。
そんな
スタジアムでマリーベルの隣で活躍したヴィンセントのパイロットがやはり彼だという事はここに来てから偶然に知ったことであり、まさか彼が独自に黒の騎士団員を動かせるとは思わなかった。
「(それに、
オイアグロはそう思いながら、スヴェンの話を聞いてからドアから離れる。
「(それにしては、オルフェウスは
ん?
ドア越しの誰かが離れていったか。
ウィザードかな?
ともあれ一通りのことはカレンたちに伝えることができたし、良しとするか。
「カレンには、辛い事を頼んでいるのは承知の上だ。」
『……ねぇ、スバル?』
「なんだ?」
『やっぱり、会わないといけないかな?』
「……仮にも親だ、会って損はないだろう。 昔から言っていることだが、お前の事を本当に心配しているのは保証する。 それと次はいつ会えるかどうか分からないのなら、会った方が良いと
『……ううん、ないよ。』
「そうか。 動けるようになったら、俺もそっちに向かう。」
『うん、じゃあ。』
「ああ。」
「『…………………………………………………………」』
俺とカレンの間に、ただ静かな時間が流れていく。
「『…………………………………………………………」』
……えっと?
何この気まずい空気?
通信を切るのは脳で分かっていることなのだが、
カレンも、同じの様子だが。
『ねぇ、スバル?』
「なんだ?」
お?
カレンから喋ってきたぞ?
『私さ、学園にいつか戻れるのかな────?』
「────なぜ戻れないと思う?」
『だって……正体がバレているじゃない、
「────戻れる。」
なんかカレンが弱々しく見えて、無性に彼女の言葉を遮りたくなった。
「いや、すぐにとは言えないが……
『あいつには、普通の人生を歩ませたい。 あいつに戦いとは無縁な人生を送らせてくれ。』*1
自然と湧き上がってくるナオトさんの頼みに従って、それとなく口を開けて伝えるとスクリーン越しのカレンがドギマギする。
『あ。 え……』
「だから、安心しろ。」
『その……ちょっと……』
『フフ、紅月もそんな側面があるのだな?』
『ぴゃ?! ぶ、毒島?! ももももももう切るね
「あ────」
────ピッ♪
相手側が通信を切ったことで暗くなった通信スクリーンを、俺は見続ける。
なんだか最後の方のカレン、赤くなっていたな。
……また微熱でも出したのかな?
アイツ、冬なのに人目を盗んでは制服のままでしかも手袋なしに雪だるまを作ったり、不意打ちスタートから俺との雪合戦を無理やり開始させていたからなぁ────
「────ねぇ、スヴェン?」
「ん? なんだ、アンジュ?」
「アンタ、分かっていてやっているのかしら?」
「何をだ???」
「……何でもないわ。」
変なアンジュだな。
だが、これで一通り頼み事は終わった。
そう思うと、肩の荷が軽くなった……ような気がする。
あとは頼んだみんなの力量を信じて休むだけだ。
さてさて、本来は原作『オズ』内でオルフェウスはこの時期はピースマークからの依頼をされている……いや、『されていた』となっているだろう。
いくつかあったような気がするが……一つだけ確実なのはラクシャータの『エリア11で新型爆弾調査』だった筈だ。
依頼が過去形になっている理由は、その『新型爆弾』が『フレイヤ』の事だからで、ブラックリベリオン時に学園内で突然現れたニーナにロイドが凄く慌てたことからラクシャータは『フレイヤ』に興味を持ち、ピースマークに調査依頼をする……のだが、今の彼女がその依頼をする理由が無いと言ってもいい。
何せ、ニーナと一緒に(というか彼女メインで)開発していた論文やデータをラクシャータに既に渡し、『原動力としての活用』を模索させているからだ。
それにオルフェウスは『オズO2』で会う筈のコーネリアと一緒に行動をして、ギアス嚮団を探しているみたいだから嚮団関連ではない依頼を受ける可能性は低い。
と言う訳で、彼がエリア11でその新型爆弾が初めて目撃された場所────つまりエリア11に行く理由が無く、引いてはアッシュフォード学園にも寄る理由が皆無。
それだと
それ以前に、
何せ彼女はこのままだとエリア11の視察に行って、黒の騎士団の下っ端たちに狙われて攫われて────
「────なにその難しそうな顔? もしかしてトイレ? 肩、貸そうか?」
「違う。 それにトイレだとしても、一人で歩けるぞアンジュ────」
「────は、どうだか。 さっきもカレンとの通信中に、何度か意識を失いそうだったじゃん。」
ジト目アンジュ、あざっす。
それと思った以上に鋭いな、お前。
「ジー。」
「と、とりあえず! スヴェンにはドクターストップがかかっているんだからね?! 必要あらば、縛り付けるわよ?!」
「
「え? “リバースタスク”って、何?」
あ、やべ。
「いや、何でもない。 今のは忘れてくれ、アンジュ。」
やべぇやべぇ、思わず『クロスアンジュ』のネタを口にしてしまったよ。
「言葉に甘えて、俺は休むとする……それはそうと、俺がいつ動けるかミス・エックスに聞いてくれるか?」
「“ドクターストップ”が何か理解できていないわけ?!」
アンジュの肺活量、半端ねぇなオイ?!
『禁断○レジスタンス』を歌わせるぞコラァァァ?!
……うん。
何だかよくわからないことを考えて出し始めているな、俺。
休もう。
カレンたちとの通信を終えたスバルは『いつ動ける』と尋ね、その答えをミス・エックスから聞いた後にすぐ、眠りについた。
「……本当に寝ているだけよね?」
「胸が微かに上下しているから、息はしていると思うけど……」
「フフフ。」
眠りについたスバルはまるで死人のような気配をしており、思わずアンジュの独り言にマーヤが口を開けるとミス・エックスがクスクスとした笑いを出す。
「余程彼の事が心配なのね? もしかして、彼氏かしら?」
「え?! い、いや~アッハッハッハ。」
「え? そんな、恐れ多いわ。」
ミス・エックスの質問にアンジュは固まってから乾いた笑いを出し、マーヤはキョトンとしてからふんわりと答える。
「そうかしら? 貴方たちの慌てる様がそれらしかったから。」
「う、う~ん……『恩人』?」
「やはりですよね。」
「……ふぅーん。」
ミス・エックスはアンジュの言葉に頷くマーヤを見て、視線をスバルへと移す。
「(後から軽く調べたけれど、何か裏があると思っていたのに……それとも徹底しすぎているだけかしら?)」
…………
………
……
…
ブラックリベリオン時のダメージが嘘だったかのように、ブリタニア本国からの援助などもあってか復興工事を終えたアッシュフォード学園は新築同然のような見た目をしていた。
「リーヴァール! こんなところで何油を売っているの?!」
そんな中で、ミレイは今日も人を引っ掻き回し元気にしていた。
「いや俺、バイクに油差しているんだけど────?」
「────口答えしなーい! “実家に帰りたくない”ってダダをこねていたから
リヴァルはバイクのチューニングをして油が付着した手を布で拭きながら呆れ顔でミレイを見る。
「それは感謝しているんだけれどさぁ会長? 半数以上の生徒が黒の騎士団テロでいないんですよ? 生徒会も開店休業でしょ────?」
「────その生徒たちが気持ちよく帰ってこれるように、学園を維持することも生徒会の役割じゃない!」
「……そういいながら、結局は理事長に押し付けられただけなんでしょ?」
「グッ……し、仕方ないじゃない?! おじいちゃんって色々と忙しいんだから! さぁ、行くわよ!」
ミレイは腕をリヴァルの首に回して彼を引きずっていき、自然と彼女の胸部装甲が彼の頬に押し付けられる。
ムニュ。
「う、嬉ぴぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
「へ?」
「じゃなくて苦しいぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
そのあとミレイはリヴァルを放してしょぼんとする彼と共にクラブハウスの中へ入ると、多くの箱を積み重ねてせっせと運ぶシャーリーの姿があった。
「ほら、シャーリーを見習いなさい! 率先して力仕事をしているのよ?!」
「それ以外したら、“掃除”じゃなくて“工事”になるのを本人も自覚────」
「────うひゃあああああ?!」
ガラガラガラガラガラ!
だがやはりキャパオーバーだったのか、重ねていた箱と共にシャーリーが崩れて倒れる。
「いたたたた……会長~! なんで
「お?」
リヴァルの視線と声に、シャーリーはハッとして赤くなりながらスカートでできるだけ隠す。
「リヴァル、どこ見ているの!?」
「いや、これ。」
リヴァルは視線先にあったアルバムを、シャーリーの横から拾い上げて開くとルルーシュや彼の妹などが写っている写真を見る。
「はぁ~……ルルーシュも早く帰ってこないかな~? あいつってば
「────そうよ! ルルったら先にララちゃんだけ帰ってこさせるなんて、何考えているのよ!」
「ま、まぁ……最近
「あれ? クラブハウスの整理を始める前まではいたけれど???」
「急にいなくなるところは、兄に似るのよねぇ~……」
リヴァルとシャーリーはハテナマークを頭上に浮かべ、ミレイはアンニュイな気持ちのまま天井を見上げる。
「(そういうスヴェンも、シュタットフェルト家から連絡で『行方不明のカレンを探しに行ったきり』のままだし……ニーナはブリタニアの機関に引き取られるし……) ハァ~……」
「あれ、会長どうしたんですか? 珍しくため息を────」
「────と言うわけで! 今日からお祭りを開催するわよ! 名付けて、日夕お祭り大作戦!」
「「なんで?!」」
ミレイは今日も(表側は)絶好調であった。
…………
………
……
…
ブリタニア帝国の長い歴史の中で、エリア11は他に類を見なかった大規模な反旗────徐々に世間では『ブラックリベリオン』と呼ばれている日からいまだにテロ活動は突発的に起きていた。
それらは偶発的(あるいは衝動的)に起きる小規模なモノの、ブリタニア人に警戒やこのまま駐在することを戸惑わせるには十分だった。
何せクロヴィス、ユーフェミア、コーネリアと立て続けに、皇族でさえもひどい目にあっているエリアで一般人が不安にならないわけがない。
実際、エリア11から移住して出ていくブリタニア人や会社の数は決して少なくはなかった。
これにより、エリア11の総督に任命されたのは皇族とは何の由縁もないカラレス将軍だった。
彼は軍人でもありながら公爵と言う地位と、『原住民と衝突することなく自己の領地を穏便に治める』という手腕を買われ、第二皇子のシュナイゼルと第一皇女ギネヴィアによって派遣された。
『皇族に期待を寄せられている』と誇らしく思ったカラレスは見事に今までクロヴィスやコーネリアとは違う『融和政策』を行い、それは(徐々にだが)功を奏していた。
ほぼ万年ギリギリ黒字だった生産量は上昇し、治安も『ダークゾーン』と呼ばれる元ゲットーを隔離した部分以外はブラックリベリオン前のものと数字は変わらなくなり、軍の要請がなくとも保安局だけで片付けられる案件ばかりにも落ち着いては来ていた。
「ふぅー……」
そんなカラレス将軍は日々の苦労に薄くなっていく(と思っている)髪を気にしているのか本国から取り寄せた薬用育毛トニックで頭皮をマッサージしていた。
その手慣れた作業は彼が以前からしていたことを語り、彼は
「(まさか、このような名誉挽回の機会を与えてくださるとは……)」
実はカラレス、ブラックリベリオン後に将軍として現役復帰されてテロリストの拠点と思われる、アフリカの辺境にある町の
だが占拠などの強硬手段に出ては、テロリストだけでなく町に元からいる民からも反感を買ってしまう。
よってカラレスは戦場になる前に町の周りに検問所を作り、住民に避難するようにメッセージを持った使者を送った。
だがまさか、送った使者がばったりとテロリストの首謀者と遭遇してしまい、カラレスの部下たちが独断で動き出したことで泥沼な戦になるとは誰も予想していなかっただろう。
「(町の者たちには悪いことをしてしまった……)」
とはいえ、最高責任者であるカラレスの『監督不足』と言うことで彼は『大量虐殺』や『暴虐』などの汚名を着せられるようになったところを、シュナイゼルとギネヴィアに目を付けられた。
「(言いなりとして使われているのは承知の上。 だが、家に汚名が届くことを止めて下さったのもまた事実。 ならば、報いなければ────!)」
カラレスは苦い思いのまま机の書類に目を付けては固まってしまう。
書類のタイトルには『グリンダ騎士団とマリーベル皇女殿下によるエリア11の視察』と書かれていた。
「……………………………………なにぃぃぃぃぃぃぃ?!」
カラレスは思わず政庁の中で素っ頓狂な叫びをし、髪の毛が頭部からハラハラと床に落ちていったことに気付いては意味不明な叫びを再開した。
『ノォォォォォォォォォォ?!』
「……なんだ、今のは?」
「おそらくはカラレス将軍でしょう。 この頃、色々なことに苛まれていると耳にしていますから。」
「そうか……」
「ええ……」
「「ハァァァァァァァァ~……」」
政庁内でカラレスの叫びが聞こえてきたクロヴィスの問いに、ギルフォードがそう答えると二人はため息を同時に出し、いまだにブラックリベリオン後の爪痕が残る産業などが書かれている書類に目線を戻す。
後に『ライラのいるハレー・スタジアムがテロにあった』と聞いたクロヴィスも素っ頓狂な叫びと顔芸を披露しながら車いす姿のまま空港に向かおうとする彼を止めるために苦労するギルフォードの大きなカブ的なやり取りは、また別の話である。