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『説教のギネヴィア』に、“流石にお時間が”と断りを入れてカラレス将軍を生贄代理に置いてきたマリーベルたちご一行は車に乗りながら、流れる外の景色を見ていた。
その景色はまるでブラックリベリオンが起きたことが嘘のように、大体の復興工事を終えたが人影も活気も明らかに以前より少なかった。
「それにしても……視察先をアッシュフォード学園にする理由があるのでしょうか、皇女殿下?」
「ええレオン。 ブラックリベリオン時に『非戦闘地帯』と黒の騎士団と当時の政庁が定めたにもかかわらず、激戦区と変わったので未来ある生徒たちに心理的なショックの後遺症がないか調査をしたいのです。」
「なるほど、確かにそれならば視察の理由になりますね。」
「そういえばレオンハルト? なんでソキアたちのようにグランベリーで待機していないの?」
レオンハルトの目は遠くなり、どんよりとした空気が車内に充満していく。
「ああ、それはマリーカさんがシュバルツァー将軍に具申したんですよ。 『ブラッドフォードの調整はまだ終わっていない』って。 ですので、今の状態を基にしたデータで仮想訓練をしても意味はないそうです……アッシュフォード学園から戻れば僕用の『特別訓練』があるそうですが。」
「えっと……ご苦労様です?」
「マリー……」
「ん? 何です、オズ?」
レオンハルトに同情しつつもニコニコするマリーベルに、オルドリンは彼女が政庁で口にした『区別』の意味を問いただそうか一瞬だけ迷った。
「……ううん、何でもない。 ただ“ライラ皇女殿下のことは残念でしたね”、と。」
「ウフフ。 ギネヴィアお姉さまとクロヴィスお兄様も気になっていたようですし、ちょうどよいかと。」
尚ライラの姿は車内にはなく、現在は政庁で一瞬たりとも離れたくないクロヴィスに常時付きまとわれるだけどころかハレースタジアムのテロ騒動もあり、ギネヴィアに『租界内が平定するまで政庁から出ることを禁じる』と念を押された。
ライラは皇女らしくもなく、盛大に断固反対の意思を示したのだがギネヴィアが全力で出したジト目の前で沈黙し、オズオズとソキアやティンクたちのいるところへ遊びに見学しに行った。
「今頃は、シュバルツァー将軍もライラを巻き込んでいるかもしれないわ♪」
余談だがライラは訓練で疲れたソキアたちや事務作業で疲れたクロヴィスたちにチョコチップマフィンを焼いて難を逃れていたとは知る由もないだろう。
…………
………
……
…
「アッシュフォード学園、一日体験イベント兼日夕お祭り大作戦へようこそ~!」
パパパパーン!
「「「イェ~イ!」」」
そんな彼女たちがアッシュフォード学園の門を潜り抜けた直後、ミレイが歓迎の声をかけて背後にいるシャーリーとリヴァル、そしてクララが元気よくクラッカーの紐を引く。
「……手際よく何から何まで手配していただいてありがとうございます、ミレイ・アッシュフォード。」
オルドリンは一瞬だけキョトンとするが、すぐにいつもの愛想良い微笑みに戻ってから感謝の言葉をミレイに送る。
「いえいえ、皇女殿下も庶民の学び舎に触れれば気分転換になると思いまして。」
「ねぇ? 庶民の学校ってこういうモノなの、レオン?」
「さ、さぁ……自分もオズと同じく士官学校だったし、それ以前は家庭教師でしたので……トトさんは?」
「へ?! えっと……すみません、私もお嬢様と同じでして良くは……」
「ではやっぱり、これが庶民の『学校の基準』と言う事ですか……」
「軍学校と違い、賑やかですよね……」
オルドリンたちはアッシュフォード学園の祭り騒ぎを『普通』と認定したが……
かのキートン氏風に表現すると“そんなワケは全くない。ただ生徒会長であるミレイ・アッシュフォードが自身の悩みごとから逃避する為せっせと周りを巻き込んで行っている活動である”となるだろう。
「ロイド伯爵と婚約しているから、会長だって伯爵夫人で貴族のくせに~。」
「ブーブー。」
「(ああ……)」
「(あの……)」
ぶう垂れるシャーリーの言葉にクララは便乗し、リヴァルは静かに歯を食いしばり、オルドリンたちは以前に新型の受け渡し時のポヤポヤした『アッハー♪』のロイドを思い浮かべる。
そのロイドは現時点で、シュナイゼルに期限付きの
「……あら? 貴方は?」
マリーベルはクララを見て、ようやくハレースタジアムの皇族用フロアでぶつかった少女と気付く。
「クララです♪ 先日、
「……え? (そうだったかしら?)」
オルドリンは自分を見るクララにハテナマークを頭上に浮かべて困惑し、クララは僅かに口角を上げる。
「ええ、覚えているわ。 よそ見して走っては駄目よ?」
「は~い♪」
「(マリーまで? だとしたら、
「あら。 オルドリン、
「う、う~ん……そう……言われてみれば……ぼんやりと、見たような……見たことがないような?」
ゾクッ!
クララはその場に似つかわしくない、背筋が冷たくなるほど鋭い殺気を向けられて思わず身震いをして殺気の出元である人物に視線を移しながら、悪戯が成功した子供のようなニヤケ顔を浮かべる。
「ふぅ~ん……そうですか。
「あ、ちなみにこちらはクララ! この間まで車椅子だったのだけれど、本国で手術をしてきたの!」
「私はシャーリー・フェネット! よろしくね~!」
「俺はリヴァル!」
ミレイがクララの紹介をフランク気味にすると、それに釣られて他の者たちも続いて自己紹介をする。
「って、こんなに気安くていいのかな────?」
「────気にしない、気にしなーい! うちの学生服に袖を通したからにはみ~んな、兄弟姉妹!
「家族……という事はルルとも家族になるのかな~……ふへひひひひ♡」
「(ハ……“家族”、ねぇ。)」
「トトさん? 大丈夫ですか?」
「……はい、お気遣いなく。」
「(何時ものトトさんだ……気のせいだったかな?) では、先に行きますね。」
「ええ。」
シャーリーは自分の妄想に赤面し、クララは内心で冷めた感想を内心浮かべ、レオンハルトはトトから感じた異変に声をかけてからミレイたちにドナドナされていくマリーベルたちの後を追う。
「…………………………………………その殺気と怖い目、ちょっとは我慢できないかな~? おかげで周りの人たちは遠ざかったけどさ~? あ! でもでも~? 今のですぐ分かったよ♪ 彼女たちが、今の貴方の『居場所』ってわけね?」
取り残されたクララは帽子が風に吹き飛ばされないよう手で押さえながら、取り残されたトトに振り返る。
「よかったね! 『居場所』を────ううん。 『主人』をゲット出来て?!」
「クララだって、さっきの学生たちともそういう関係を築ける筈よ。」
『トト・トンプソン』。
彼女は代々ジヴォン家に仕える家系のメイドで、幼い頃からオルドリンの侍女として共に育った何の変哲もないメイド────
「例え
────というのは仮の姿。
彼女は『オルドリンの監視役』としてギアス饗団から派遣されているギアス能力者の一人で、彼女と相対しているクララ────フルネームを『クララ・ランフランク』と言い、彼女もトトと同じ出自で、ギアス能力者でもある。
「だって私たちはそういう風に脳を
クララの言葉から察せる様に、何故『ギアス』という超能力を持つ者たちが(割と)大人しくギアス饗団に従っているかは何もV.V.やブリタニア帝国を恐れているわけでなく、
特に、反抗的だったり饗団への危険性を危惧されている者たちであればあるほどに課せられる呪縛は重く、そして内容の異常性や複雑化は増していく。
それ等の条件を満たさなければ、理性を失って発狂してしまうほどに。
例えば、今この場にいるクララとトトを例に挙げると彼女たちは脳を医学的に弄られ、わざと『欲求』の一部分を増加されている。
トトは『主従心』を。
クララは『家族愛』を。
「そう言うクララは、『妹役』を予定されているのでしょう? 良かったじゃn────?」
「────よくない。 全然、全く、良くないよ。」
クララは今まで出したことの無い、ドスの効いた声でズイィィィッとトトに顔を急接近させながら狂気の宿る目をトトと合わせる。
「パパの命令だからそれ以外の人を『お兄ちゃん』と呼ばないといけないけれど、クララのお兄ちゃんはオルフェウスお兄ちゃんだけなんだもん。
昔からも。
今も。
これからも、ずっとずぅぅぅぅぅぅっとね♡」
「………………(『
トトは静かに向けられている視線を返していると、次第にまるで何事もなかったような振舞いにクララは戻っていく。
「“関係を築ける筈”、ねぇ~……よく言うよ! トトだってその『絆を築けた人たち』にもギアスをかけているんでしょう?! それを世間では『偽善』って呼ぶんだっけ? アハハハハハハ!」
ビキッ。
『怒り』の一文字では到底足りない形相になったトトは、力強く握りしめた拳を解いては眼鏡を取り外し、彼女の右目が赤く光り出す。
「おおおおっとと!」
クララはかぶっていた帽子を仮面のように、自分の眼前にかざして視線を遮る。
「ごめんごめ~ん♡ 嘘だよ~ん♪ ここで争う気はないよ~♪ トトとはギアスも身体能力も相性が最悪だもん♪」
『ト~ト~!』
トトが居ないことに気付いたオルドリンが彼女を呼びながら走ってくる姿に、トトとクララの周りに漂っていた緊張感はふっと消える。
「ほら、二人とも行きましょう────!」
「────あ、でもお嬢様────」
「────トト、珍しく他人と話していたけれど……どうしたの?」
オルドリンはかなり驚いていたことを隠しながら、平然な振る舞いをできるだけ装う。
なぜなら
「そうなんです! もう仲良くなりました~♡」
「…………………………そうね。 仲良くしましょう♪」
トトがにっこりとしながら握手の為か、手を差し出すとクララも場の雰囲気と流れのまま手を────
ボキッ。
「────ッ?!」
クララの手からくぐもった、重い音が響いて彼女の笑顔が一瞬崩れそうになる。
「ごめ~ん! クララ、ちょっと用事を思い出したから先に行ってて~♪」
クララは右手を左手で隠し、学園の本校内へ走っていく。
「……どうしたんです、お嬢様?」
「ううん。 なんだかトトとクララさんって、昔からの知り合いに見えて……」
「そうでしょうか? 初対面ですよ?」
トトはニコニコと晴れやかな顔をオルドリンに向け、屋台が並ぶアッシュフォード学園を満喫していった。
……
…
「ふ……ぐ……フゥー……」
ガランとした本校の教室内で、クララは知らない誰かの机から出した鉛筆を口に含んでは深呼吸をして、変な角度に曲がっていた薬指と小指をもう一つの手で掴む。
「フゥー……ふん!」
ボキッ!
「グ?! ……ぺ!」
クララは折られた指を戻す際にかみ砕いた鉛筆を吐き捨てて、応急処置を施しながら再びミレイたちのいる所へと走っていく。
「あーあ、早くお兄ちゃんに会いたいな~、イライラするな~……一人ぐらい、殺しちゃダメかな~?」
クララが戻ると当然手のことを聞かれるが“さっきこけてぶつけちゃった♪”とだけ答え、彼女をそれ以上言及する者はいなかった。
……
…
「オルドリ~ン!」
「どうしたのマリー?」
「フェンシング部との勝負で買った回数だけ、無料のカフェ券がもらえるんですって!♪」
「え?! どこどこ?!」
「ほら、こっちこっち! 早くいらっしゃいな! レオンは負けてしまったから弔い合戦ですよ!」
全力で楽しむマリーベルの後を、オルドリンがトコトコと後を追う姿はどう見ても────
「────クスクスクス……な~に、アレ? まるで主人と
クララはステージの周りにできていた人の輪から少し外れたところで、スンとしたトトの隣でわざとらしく言を並べる。
「お嬢様は殿下の騎士であり、剣です。
「へぇ~? それで戦に出て人を殺すんだから、ギアスより呪われた力かもね♪」
「クララ、言葉には気を付けなさい。 殺しますよ?」
「は~い♪」
…………
………
……
…
『ブラックリベリオン後、戦いの場となってしまったアッシュフォード学園は改築工事を終えた』と記述したことを覚えているだろうか?
それはもちろん原作コードギアスの二期、いわゆる『R2』で
だがクララが愚痴っていたように、ブラックリベリオンのゴタゴタの所為で人員不足だったことで施設は出来上がっていたがまだ誰も配置されていなかった。
「♪~」
そんな施設内に、一人の学生が鼻歌交じりにコンソールへ繋げられていたパソコンを見ていた。
「えええええええっと……成瀬くん、だっけ────?」
「────ユキヤでいいよ、カレンさん。 仮にも年上でしょ?」
「……何その言い方?」
「それにしても……平和な学園の下に、こ~んな秘密基地みたいなところが作られているなんて意外だな~。」
「ちょっと、話を変えないでよ……私も同感だけどさ。」
学生服を着たユキヤのほかに、黒ずくめの服に帽子、サングラスとマスクをした『不審者です感純度100%』のカレンの二人は作戦室らしき場所にいた。
「学園内のいたるところを監視できるモニターと秘密カメラ、対人防御システムに、いざとなれば学園内の電子ロックとシャッターをここで遠隔操作できるシステムと、色々なモノが揃っているよ。 (これらを予想していた
「その言い方だと、まるで
「良い例え方でしょ? 特にこの、『クラブハウス』ってところは隠れる場所が一つもないよ? 覗き見放題だね♪」
「……………………………………ハッ?!」
「うん? カレンさん、もしかして何か心当たりでもあるの? (う~ん、アヤノと似ていてわかりやすいね♪ だとすると自然と一つの質問が浮かび上がってくるね。 『ここは
ユキヤはニヨニヨしながらカレンの反応を楽しみ、内心ではある程度の予測などをし出す。
「い、いやその……アハ、アハハハハハ…… (もしかして、私たちの為の罠? ううん……“ルルーシュのこともある”ってスバルが言ったからには多分……『
「────あれ? ……ねぇカレンさん? 僕たちって……えっと……あの『グラスゴーの丸パクリKMF』を使う予定なんてあったっけ?」
「は? そんなの……………………………………はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!」
「(うっわ、アヤノ以上の肺活量。 耳がキーンってする。)」
カレンはユキヤが指で示していたモニターを見ると、そこには学園の周りに停泊していたトレーラーの中から無頼や武器を持った者たちが飛び出て、慌てる学生たちをクラブハウスへと囲い込む画像を見て呆気に取られて叫ぶ。
「あれ? 知らないの? あの人たちがかぶっている帽子やジャケットって、黒の騎士団の制服でしょ?」
≪こんなん知らんがな?! なんでじゃい?!≫
「あー、カレンさん? 残念だけれど、僕の生まれも育ちもEUだから何言っているかわからないよ? それよりも、シュバールさんに言われていたでしょ? 着替えなくてもいいの?」
「あ。 そうだった!」
カレンは上着を脱ぐと、それまで窮屈で浮き出るような胸が解放されては揺れる。
「(うっっっっわ。 アヤノより少し大きい感じかな────?」
≪────ってあっち向かんかいこのボケェェェェェ────?!≫
「────どわぁぁぁぁ?!」
視線に気付いたカレンは座っていた椅子を片手でユキヤへと投げつけ、ユキヤは彼女の気迫に奥底から沸き上がってきた恐怖から今まで出したことのない大声で叫んだ。
EXTRAの追記:
玉城:あれ? あのガキどもはどこ行った? と言うか他の皆は?!
EU避難民A:聞いていませんか? 何やらエリア11に行きましたよ?
玉城:俺無しでか?!
EU避難民B:えっと……『玉城のおっさんには畑仕事を任せる』と────
玉城:────ハァァァァァァ?!
EU避難民C:『第二段階に重要な役割を任せるから』って。
玉城:なぁ~んだ、そう言う事かよ!