楽しんでいただければ幸いです。 (シ_ _)シ
7/3/2022 20:38
誤字報告、誠にありがとうございますプッコプコさん、あーるすさん! m(_ _)m
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紅月ナオト 視点
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『ナオト
初めてそう呼ばれたな。
いつもは『ナオトさん』なのに。
「お前になら、カレンの隣を任せられる。」
そうボヤキながら昴の背中姿を見送ると気が遠くなりそうになり、ジワリと湿った感覚が腹辺りから感じる。
上着をそっと除けてみると、赤い染みがすでに広がっていた。
ベルトの圧縮力に、体を貫通した傷が勝り始めたのだろう。
すでに下半身の足先がしびれを通り越して冷たい感覚だけが返ってきていた。
「(強がってみたけど、扇と昴は見抜いていたな……きっと。)」
何せこの仮拠点を作戦に決めた時点で二人に仕掛けを頼んでいたからな。
そこでオレが“時間を稼ぐ”なんて言ったら、意図を見抜かれるのも無理ないか。
オレは座っていた椅子の横に置いてあった握力グリッパーに似たものを手に取って懐に手ごと突っ込んで目を瞑る。
『変なガキ』。
それがオレの昴に対しての評価だ。
初めて会った時から、妙に不愛想で日本人ではないことから一人になりがちな奴だった。
だが別に知らない国に来たからとか、俺たち日本人が嫌いだとかはなく、ただ単に『無表情のままでいたい』という感じがした。
だからせめてオレたち周りの奴らだけでも笑顔になって接することを
昴には見え見えな魂胆だったらしくて彼も次第に自然な笑いを始めた。
いや、
母さんたちは喜んだが、あの笑顔はオレがするようなやつだと分かった。
要するに、『作り笑い』だ。
昴はオレたちから『仮面』を学んで周りを窺うようになった。
十歳の子供がだぞ?
同い年のカレンは年相応の子供みたいにコロコロ表情を変えるのに反して、昴はいつもニコニコしていた。 そのせいで扇には不気味がられていたが。
これだけでも『変な奴』だというのに、スポーツなどでもあいつはどこか手加減している節があった。
別に『相手をした全員に勝つ』とかじゃない。
実力が違うやつらにチグハグな具合で、
試しにオレも手加減した場合でもオレが負けたり、本気を出してもあいつが勝ってしまう。
極めつけは、毒島と無理やり会わせた時だ。
毒島は生意気な奴だが剣道の腕も、見た目も双方かなり良い。
『成人したら絶対大物になる』と断言できるほどに。
大抵の奴ならばあいつに見惚れるか、照れて目を背けるかのどちらかだが昴はただ固まっていた。
今まで付けていた笑みの仮面が崩れそうなほど動揺して。
それに、毒島が繰り出した藤堂さんの三段突きを
今まであの技を初見でそんな芸当をできたのはオレの知る限り、いまだに誰一人としていない。
スザクでさえも二段目を受け流しては三つ目の突きに敗れ、毒島に至っては一つ目を躱しながら懐に入り込んで二つ目がかすってしまい、バランスを崩されて結果的に負けている。
それなのに昴は躱し、最後の突きまでも受け流した。
使い手が毒島だということを配慮しても、異常だ。
何せ剣術
普通ならそれをスザクのように
謙虚と言うか欲が無いというか、そういうところだけが子供らしい振る舞いと言うか……
取り敢えず『変な奴』だが、『悪い奴』ではない。
それに今回の裏方に徹した動きも的確だった。
練度が低く、士気が脆い守備軍、奇襲の時間帯と場所。
そして今では旧式のグラスゴーとはいえ、ナイトメアフレームの急所を突く発想等。
あとは見たことも聞いたこともない新しい銃の開発まで。
そのどれもが無ければ、レジスタンスは今夜の作戦でほぼ壊滅状態に陥っていただろう。
しかもあれで『本気を出していない』感じがするから、オレは正直アイツが味方でよかったと思うよ。
「手をゆっくり上げろ!」
「急な動きをすれば即刻射殺するぞ!」
閉じた瞼越しでもわかるほど眩しい光が当たったことでオレは気が付く。
ヤバい、思わず気を失っていたみたいだ。
ゆっくりと瞼を開けると、フラッシュライトを装着した銃を持った警官隊たちがオレのいる部屋のドアから銃を向けていた。
「貴様がリーダー格か。」
警察のリーダーっぽい男に答えようとして、オレは喉をこみ上げる液体をぐっと飲みこんでから口を開ける。
「……だとしたら?」
「貴様の置いていかれた部下たちは全員始末した。 負傷者に武器を持たせるなど……さすがは“神風”などの言葉で死を美化させる、自殺願望者のイレヴンたちだ。 投降すれば、命だけは助けてやろう。」
「……一つだけ、訂正させて良いか?」
「ん?」
オレはゆっくりと懐から手を出すと、警官たちが息を飲み込む。
「『自殺願望者』と、『死によって大きな成果を成し遂げる』ことは違う────」
「────き、貴様! それは?!」
彼ら全員が目を見開いてみていたのは手に握られ、すでに作動ボタンの押された起爆スイッチ。
「そうだ。 アンタたち警官隊がオレたちに『テロ』のラベルを付けるもんだから、そう振る舞いたくなったよ。」
「や、やめろぉぉぉぉぉぉぉ!」
「
「「「「「うわぁぁぁぁぁぁ?!」」」」」
「────
カキィィィン。
オレが握力を緩めると共に、聞こえる筈のない信管の音が聞こえたような気がした。
その直後、あらかじめ加工を施されて設置されていたサクラダイト式爆弾は的確にビルを支えていた基盤を爆破し地下にあった駅から強度が弱まっていき、蟻地獄のように崩壊する地下を追うようにビル本体が地中へと飲み込まれて行く。
「……………………」
薄暗い倉庫のような部屋の中、俺はただ無心で手を動かす。
手からはひんやりとした金属独自の冷たい感覚が伝わってくる。
ここはアッシュフォード学園でも、大きな祭り以外ではほとんど用途がない道具などが置いてある保管庫。
その中にある、現在のナイトメアフレームの先祖と呼んでもおかしくないモノの
「フゥー。」
俺が息を吐き出しながら見上げていたのは第3世代KMF、形式番号YF6-X7K/E通称『ガニメデ』。
アッシュフォード家が爵位をはく奪される前に、アッシュフォード財団と知られていた頃に実戦配備を目指した試作機だ。
そして皮肉にもアッシュフォード家が没落する最大の理由が、こいつの開発に深く関係していたルルーシュの母親であるマリアンヌ・ヴィ・ブリタニアが殺されたことで開発計画から帝国の軍は手を引き、費用の回収出来なかったことから没落の一途を辿ることとなった。
マリアンヌ・ヴィ・ブリタニアはかつて帝国でも超越した戦闘能力を持つ『ラウンズ』の一人で、始めは『ナイトオブシックス』の称号を持っていた。
そしてシャルルがまだ皇帝になったばかりの皇帝即位直後、反対派皇族によるクーデター時に彼側の陣営だったマリアンヌは寝返った『ラウンズ』をほぼ一人で鎮圧して見せた覇者だ。
当時十一人のうち寝返った
これで彼女についた二つ名が『閃光のマリアンヌ』。
そして原作でも確か、帝国最強であるはずのナイトオブワンのビスマルクも彼女には敵わなかったらしい。
正真正銘の『化け物』だ。
おっと、脱線しそうになったが早い話が彼女のおかげでナイトメアフレームは兵器として価値を見出された。
そしてその祖にはガニメデがいた。
が、政治のおかげでお払い箱となった。
「ねぇ先輩?」
「なんだい、アリス?」
というか気配殺して毎回くるなよ。
心臓に悪いだろうが。
油断も隙もありゃしない。
「な~んか落ち込んでいません?」
「そうかい? 私はいつも通りのつもりだけど?」
アリスがわかるぐらい出ていたのか?
気を引き締めないとな。
「……ナナリーが心配していましたよ?」
ナナリーが?
というかナナリーが気付いていたのか、さすがだな。
アリスが気付いていたらちょっと傷つく。
「なんか失礼なこと考えていません?」
「滅相もない。 (ニコッ)」
「………………………………まぁいいわ。 あとええっと、カレン先輩でしたっけ? 今までにない程体調を崩しちゃったんでしょ? それと先輩の様子、何か関係しているの?」
「ええ、まぁ……元々体が弱い方ですから、今は寝込んでおられます。」
本当は『喪に服している』というのが正確だが。
あの時、奪取したグラスゴーのトレーラーに追いついて一つ先の旧地下鉄へ向かっている途中に、後ろで仮拠点にしていた場所から巨大な爆発音がして俺と扇は何が起きたのか察した。
だがカレンやほかの知らないメンバーたちが来た道を逆走し、彼らを追った俺たちがたどり着いたのは崩落したビルの瓦礫で道が塞がれたトンネルだった。
予想はしていたとはいえ、目を虚ろにしたまま放心したカレンをなだめるのは結構辛かった。
「(そう言えば、色々あり過ぎてナオトさんのヘッドバンドを扇に渡しそびれたな。 今日、屋敷に帰ったらカレンに渡すよう伝えるか。)」
そう思いながら俺はガニメデのオープンコクピットへと梯子を使って上り、椅子に座って各システムの状態と稼働率をチェックしていく。
「あの、先輩?」
そしていつもなら上がってこないアリスもなぜか今回は珍しく梯子を上がり、俺のいるところまで来ていた。
「ん?」
「……いえ、なんでもありません。」
「なんだ、アリスの割に歯切れが悪いね? 何か悪いものでも食べたのかい?」
「ちょっとそれどういう意味ですか。」
「いやなに、いつもの君ならズバズバとした物言いだから“君が言いよどむのはちょっと気持ち悪いな”と思っ────」
「────なるほど。 つまり心配している私にケンカを売っているんですね?」
「そこは“私”じゃなくて、“ナナリー”の言い間違いなのではないのか?」
ブン!
アリスが器用に梯子を掴んだ両手を軸にし、彼女の繰り出したキレのついた蹴りを俺は首を横に動かして躱す。
プチカポエラっぽいな。
「ちょっとだけでも心配した私がバカだったです!」
「…………………………………………」
「って、何か言ってくださいよ?!」
こいつでもナナリー以外を心配はするんだな。
一応、礼はするか。
「………………ありがとう。」
ブン!
「礼を言ったのに結局蹴るのかい?!」
「なんか恥ず────
「いつにも増してカリカリしているねアリス?!」
「うっさい!」
理不尽。
結局その日も俺を蹴ろうとするアリスの足を俺は避けた。
というかそれでも一応女の子だろうが。
パンツ見えちゃうでしょ?!
でもそう忠告したところで、火に油を注ぐ効果になるのは目に見えているからなぁ~。
どうしたものか……やっぱり蹴りとかを避け続けながら、他愛ないやり取りするか。
…………
………
……
…
シュタットフェルト家の屋敷に今日も警官たちが捜索願の出されたナオトさんの進捗報告をしに来ていた。
「やっぱり無茶があり過ぎるよ、最後に立ち寄ってたはずの家にも行ってないんだろ?」
「音沙汰も何もなく、そのまま消えたしな。」
聞こえてくるやる気のない警察官たちのやりとりを聞くと、ナオトさんが『行方不明』となるのは時間の問題か。
そのせいで屋敷はドタバタしていた。
当主であるジョナサン様はよりカレンのことを気にかけるようになり、くそビッチ夫人はどうにかして実権を手に入れようとしている。
恐らく原作ではナオトさんがいなくなった所為で留美さんへの当たりがさらに強くなっていたかもしれないが、俺の働きで使用人の皆にそんな余裕はなくなった。
気がかりなことと言えばカレンだ。
あの夜、崩壊したトンネルを放心したまま瓦礫を素手で退けようと頑なにやめようとしなかった彼女を半ば無理やりあの場から動かした。
そして今の彼女といえば────
「────大丈夫か、カレン?」
「……………………………………」
彼女の部屋のカーテンは全て閉まっていた為に薄暗く、窓も開けないので空気も湿っていた。
当の本人といえばただボーっと天井をベッドから見上げているか、布団にくるまってカタツムリ状態のまますすり泣きをしているかの二択だった。
ご飯は食べているが、いつも時間があればベッドの下に隠しているダンベルで筋トレをしたり、屋敷を抜け出して扇さんたちの手伝いをしていたのに今ではそれすらやっていない。
はっきり言ってこのままだと、本当に病弱になってもおかしくはない。
あ、そういえば────
「────カレン。 実はというと、ナオトさんから預かりものをしているんだ。」
「……おにいちゃんから? ぁ……」
初めて俺に反応したカレンの前でナオトさんのヘッドバンドを取り出すと明らかに彼女の態度が変わってそっと俺の手から受け取る。
「おにいちゃん……………………」
やつれたカレンはただ目を瞑り、ヘッドバンドを両手でぎゅっと抱きしめる。
「「…………………………………………」」
俺と彼女の間に言葉はなく、静かに時が過ぎる。
それが数秒間だけだったとしても、ただ部屋の中に置いてある時計からチクタクとした音しか聞こえない状態でいる俺には数分にも感じ取れた。
その間、カレンはただ無言で泣き続けた。
見ていて少し辛かったので、彼女の座っていたベッドを見る。
……うん。
随分と迷ったけれど、やっぱりカレンには
「カレン。」
俺が彼女の名を呼んでからゆっくりと続きを口にする。
「俺が……
「────いで。」
「ん?」
俺が見上げると、さっきまでの弱々しい姿から一転していた。
「……けないでよ、昴。」
「カレン? な────ッ。」
目を開けたカレンは、復讐に満ちていた。
「アンタが、パイロットだって? ふざけないでよ。 私がやるに決まっているでしょ?」
「かr────」
「────私がやらないで、どうしてお兄ちゃんの敵が取れるというのよ?!」
「カレン、声が────」
「────壊してやる。 私が! 警察がなんだ?! 軍がなんだ?! 兵器がなんだ?! 貴族階級とかがなんだ?! そんなの……私
泣きながら怒るカレンはただ湧き上がる本音を口にしながら、髪を上げてナオトさんのヘッドバンドをする。
「私が……全部ぶっ壊してやる!」
カレンの容態悪化を防ぐために、人払いを衛兵に徹底させて良かった。
ギリギリで内容は聞こえない筈だ。
そう思いながら俺は不意にもこうも考えてしまう。
『ああ……
これが……
これが
「昴! 私にパイロットの仕方を教えなさい!」
うん。
口調が『お嬢様モード』になっているけど、まぁいいか。
「もちろんです。 見習いとはいえ、私はお嬢様の『従者』。 どんな時でも応えるのが私の役目です。 (ニコッ)」
思わず『従者見習いモード』になったが、しっくりと来た。
「じゃあ、まずは気が引き締まる服装ね! フィット感がある奴!」
なんでじゃい。
そこからカレンはおれの助言を聞き、いくつかの服のバリエーションを試して最後には原作一期で着ていた服装に落ち着いた。
いや、原作視聴者ならばわかるかもしれないが彼女の初期服装は出るところは出て引き締まっているところは引き締まっている。
視聴者ならばご褒美だがいざ現実でしかも幼馴染となると…………………………
一応それとなく、『
なんでじゃい。
こちとら親切心故の────
ドゴォ!
────ゴォヘェガァァァァァァ?!
声にできない痛みが俺を襲う。
「び…………ビンタからの…………回し蹴りは卑怯………………………………ガクッ」
「知らないわよバカ! このバカ!」
何かを聞いたような気がしたまま、意識は薄れていった。
すぐにカレンが無理やり俺を起したが。
いや、『片付けを手伝って』って……
しょうがねぇ~な~。