追記:
距離的な問題が今話にあったのでマイナーな修正をしました。 m(_ _)m
話の流れなどに変わりはございません。
『紅巾党の乱』が始まる少し前、丁度マリーベルたちが威海衛を楽しんでいる時に戻る。
その間に大宦官たちは天子
「……」
用事が済んだ(というか
「おい、そこな者よ。 天子様がなされているあれは何なのだ?」
貧乏くじを引いた
「あ、はい。 どうやらスメラギ・コンツェルンの方々から聞いた『
「(『スメラギ・コンツェルン』……ああ、あの
もうすでに察しているかもしれないが、大宦官たちは既にエリア11から亡命してきた黒の騎士団をブリタニアに引き渡して、より良い好条件を自分たちが得られる『手札』として差し出していたので有名な重鎮たちは目が届く人工島に隔離していた。
と言っても、大宦官たちの下にいる軍人たちはそれぞれ自分たちの思惑があるので大宦官たちの出したお触れに障らなければ『知らぬ存ぜぬ』を通せるので神楽耶や桐原、ディートハルトにラクシャータなどの顔つき指名手配されている以外の団員たちは割と動き回れるが。
「(それにしてもあれはなんだ? 鳥か?)」
大宦官が暇つぶしに見るのは数々の折り紙が並べられているテーブルで、それまで折った折り鶴も手元に残すように言ったのか一角はブサイクな、折り慣れていない物が置かれていたが明らかに上手になる過程が見られるようになっていた。
ガチャ。
「(フム、やっとかえ────)」
休憩室のドアがノックもなしに開かれて、大宦官は交代の者が来たと安堵する。
次の瞬間に聞いたことで、真っ白な顔色は更に悪くなるのだが。
……
…
「なんたることよ!」
訳も分からず休憩室から急遽再び玉座に呼び戻された天子は血相を変えながら焦っていた大宦官たちを前に、出来るだけ身を小さくさせる。
「ブリタニアの客人たちに矛を向けるなど!」
「許されざる行為! どこの部隊だ!」
「すぐにこれが中華連邦の意思ではないことを伝えねば!」
「か、か、か、かくなる上は────!」
大宦官たちが一斉に天子の方を向き、注目を浴びた彼女はびくりと身構えてしまう。
「────天子様! 正規軍を派遣し、不忠者たちの鎮圧を!」
「そうです! このままでは
「(……“密談”?)」
自分やお互い声を高くして叫ぶ大宦官たちの一人が口にした単語に天子は興味を持つが、次から次へとくる言葉に圧倒される。
「ブリタニアの宰相殿に何かあっては我々に明日はない!」
「さぁさぁ天子様! 軍へのご下命を!」
「で、ですが……それでは町が戦場に……それだと民衆が……」
ボソボソとだが、天子はありったけの勇気を出して彼女なりの正論を出す。
「もはや手遅れです、町は戦場になっておりまする。」
「それに先に戦端を開いたのは賊共。」
「そして
「え? み、民衆よりも?」
天子が出した疑問に、大宦官たちは皆
「ええ、そうです天子様。」
「『国あっての民』。 ならばこそ、『我らあっての国』なのです。」
「そしてこのままでは我らは賊によってブリタニアの怒りを買い、報復で滅されてしまいます。 さぁ、ご下命を!」
「「「「ご下命を、天子様!」」」」
大宦官たちが出す、威圧感マシマシの注目を浴びる天子は瞼をただ力強く閉じて泣くのを我慢する。
泣けばそれを理由に
…………
………
……
…
マリーベルの前から去ったオルドリンはグランベリーの格納庫に走り、パイロットスーツに着替えながらランスロット・グレイルを見上げる。
「(町の被害が広がる前に、『ブリタニアのKMF』と知られているランスロット
オルドリン機がグランベリーから発艦する準備をしていると、ソキア機のサザーランド・アイも準備していたことにビックリする。
『貴方、火傷は────?!』
『────レオンとティンクも出ているのに自分だけ寝ているなんてできにゃい! 人手不足になりそうだから鎮痛剤と薬塗ってもらった! ミイラ女状態だけれど……』
『助かるわ! まず────』
オルドリンは何か予期せぬことがあった場合の為に、マリーベルと同等レベルの『現場指揮権』を行使する通信を飛ばすが最後まで言い終える前に彼女の通信が無理やり遮られる。
『────命じます。
「(────マリー────!)」
『────敵が密集すると予測されるポジションはグランベリーと、アヴァロンがリアルタイムで送ります。』
グランベリーのブリッジへ歩きながらマリーベルは部下のインカムを借りながら上記の指令を出し、たどり着くとシュバルツァー将軍が場所を彼女と代わる。
「姫様。 宰相閣下は、どうなさるので────?」
「────我々グリンダ騎士団に目がいくようにテロリスト共に『脅威』と認めさせ、早急に被害が広がることを阻止すれば結果的にシュナイゼルお兄様の身柄の安全と中華連邦との交渉材料となります。」
「ブリタニアの軍人として、まずは宰相閣下の身の安全を先に確保するべきでは?」
「確かにそうですが、私も皇族の端くれ。 ならば、大局を常に見て行動しなければいけません。 シュナイゼルお兄様の事ですから、護衛も緊急用の脱出経路も用意されている筈です。」
「ですが、万が一の場合などもあり得ますぞ?」
「そのように命を簡単に落とす方であれば、帝国の宰相など到底務まりませんわ。」
「フム……確かに。」
シュバルツァー将軍の言葉に、ただ平然と顔色を変えずに答えるマリーベルに僅かに笑みを浮かべる。
「(そうです、これはあくまでこれからの中華連邦との交渉材料を得る行為。
マリーベルはズキズキと自分の脳を襲う小さな頭痛を出来るだけ無視しながら、自分に言い聞かせていた。
「シュバルツァー将軍、私がここの指揮を執ります。 機体に騎乗していただけませんか?」
「援護射撃ですな。 承知いたしました。」
マリーベルが出した方針に、オルドリンはホッとしながら深呼吸をして荒ぶっていた心を落ち着かせる。
「(良かった。 マリーも『罪のない人に格差や優劣はない』と分かってくれたのね……) 総員! 全力で街を守り、民衆への脅威を排除!」
「「「イエス、マイロード!」」」
グランベリーからランスロット・グレイルを発艦させたオルドリンの号令にグリンダ騎士団のソキア、ティンク、そしてレオンハルトが応えながら戦火の灯火が上がり始める町の紅巾党機を撃退していく。
ブラッドフォードのハドロンスピアーが
『よぉーし! (サザーランド)アイたんの試作量産型VARISも火を吹くぜベイベー!』
ゼットランドが討ち漏らした、あるいは
『ソキア! 敵の超長距離砲の次弾前に位置を逆算して!』
『オーキードーキー! (サザーランド)アイたんカモーン! ……キタキタキター! 南南西、距離270キロ! 滅茶苦茶遠い! 予測で超大型の列車砲のようだにゃ!』
『ティンクさん、ゼットランドとの連結いけますか?!』
『システムオーライですオズ! いけます!』
ゼットランドの持っていた巨大な砲門から伸びるパーツが背後に繋がれて固定し、コックピットブロックの左右にある取っ手の様なでっぱりをランスロット・グレイルが手に取る。
更にゼットランドの足に付いていた、そりのようなものを足場にしながらランスロット・グレイルがゼットランドの動力源に自身の動力源へと繋げる。
『
『撃ってティンクさん! ランスロット・グレイル・チャリオットのお披露目を派手にするわ!』
『了解ですオズ! 射線上に味方機無し……撃ちます!』
ドゥ!
ゼットランドのメガ・ハドロンランチャーから戦艦並みの砲撃が繰り出され、一直線に紅巾党の列車砲へ進んでいきながら余波で射線上の
この攻撃はゼットランドのハドロン砲を最大出力でフル活用した『メガハドロンランチャー・フルブラスト』と設計上は呼ばれ、現時点ではランスロットの最大出力VARIS以上の破壊力を持っている。
理論上では。
実は莫大なエネルギーを消費するためゼットランドとランチャーだけだと一発しか行えず、しかも撃った後のエナジー切れが致命的で今までは『空論上の携帯兵器』として最近までお手上げ状態だったものをグランベリーの整備班がとある考えのもとで工夫を施した。
その考えとは『ゼットランドとランチャーだけでエナジー不足ならエナジー補給をすればいいんじゃね?』で、工夫は単純な『外部から供給可能の改造』だった。
これにより、メガハドロンランチャー・フルブラストを数発ほど撃てるようになった。
理論上では。
つまるところ、『ロマン砲』である。
スバル風に敢えて呼ぶならば、『メガ・バ○ーカ・ラ○チャー』とも。
機体の塗料はグリンダ騎士団特有の赤をメインにしてあり、金色の対ビー○コーティングはないが。
…………
………
……
…
メガハドロンランチャー・フルブラストで紅巾党が頼みの綱にしていた列車砲は撃破され、
それとは別の班が威海衛の住民や観光客の救助を行い、アヴァロンが(オデュッセウスの意向で)手伝っていた。
「このバッッッッカ者共がぁぁぁぁ!」
そしてシュバルツァー将軍はグランベリーの格納庫で正座をしているティンクとオルドリンを叱っていた。
余談だが二人の頭上にはたんこぶが出来ていたとここで追記しよう。
「騎士団の────いや、軍のA級機密兵器を承諾もなしに独断で使いおって!」
「う。」
「ですが将軍、あのままオレたちが撃たなければ敵の次弾が────」
「────シュタイナー卿のブラッドフォードが一点突破を図れば済む話だろうが!」
「(う、うーん……これは確かにティンクたちが悪いかな?)」
すぐそばでブラッドフォードをマリーカと共に整備を行っていたレオンハルトは他人事のように考えようとしていた。
“触らぬ将軍神に祟りなし”である。
『シュバルツァー将軍、これは悪くない展開だ。』
その時、インカムを通してシュナイゼルの通信が入る。
『過程はどうあれ、帝国の軍事力の証左となった。 威海衛の建築物への損害や人的被害も少なく済み、相手に恩が売れた。 これで大宦官との交渉はさらに有利になったよ。』
「……イエス、ユアハイネス。 (この柔軟な対応と発想……
「オ~ズ~!」
無茶をして出撃したソキアが医務室方面から走って来てはオルドリンに携帯の画面を見せると、ソキアが肩車中に太股を堪能した現地ガイド少女の写っていた写真を見せる。
「この子、ちょっと怪我をしているけれど両親も無事だってオズ!」
「医務室に戻りなさいソキア・シェルパ卿。それとも今説教を仲良く一緒にされるか?」
「じゃ、あとでね
「(良かった……私たち、守れたんだ。 私たち、グリンダ騎士団が!)」
ソキアはそそくさと嵐のように来ては去る背中をオルドリンは見続け、心の中で温かいものを感じて涙腺が緩み始める。
「(ム。 ち、ちと力加減を間違えたか? 何せティンクはテストパイロット時からのケガなどで身体がほぼサイバネティック化しておるからの……普通に叩いてもこっちが痛むだけで────)」
表情に出さなかったが、シュバルツァー将軍はオルドリンの様子に内心オロオロして説教を中断してしまった。
オルドリンの所為だけではなかったが。
「(
シュバルツァー将軍は、グランベリーとは別の浮遊航空艦であるアヴァロンへ視線を移す。
……
…
「やぁ、マリー。」
アヴァロンへ帰還したシュナイゼルが自らはせ参じたマリーベルへと振り返る。
シュナイゼルがニコニコしているのに対し、マリーベルの表情は硬いものだった。 何せ彼女は『対テロ組織』の存在意義とも言える『テロにより失われるかもしれない人命の救助』を行ったが、ブリタニア帝国ではありえない『皇族よりも優先した』という事実が残っている。
最悪、罪を問われてグリンダ騎士団が解散あるいはマリーベルが義務放棄の罪に問われて団長の座をはく奪されてもおかしくはない。
「お兄様、私────」
「────
マリーベルの申し訳なさそうな出だしを、シュナイゼルは予想外の言葉を口にしたことで彼女はポカンとしそうになった。
「無論、帝国のスタンスを考えれば苦渋の決断だっただろうけれど……如何に皇族とはいえ、所詮数ある命の中でも私は一人だけでしかない。 それにあのままグランベリーが退いていたら威海衛の市場は丸ごと焼かれ、グリンダ騎士団の名誉に『敵前逃亡』という泥が付いていたかもしれなかった。 あの時点で
「お兄様……」
シュナイゼルとマリーベルのやり取りを見ていたカノンは、内心ハラハラしていたが今では感服していた。
「(流石は殿下。 そのように説明すれば誰の面目も潰れず、非も互いにあるとも聞こえる……)」
「グランベリーの皆にも伝えてくれないかい? “お疲れ様”、と。」
マリーベルは頭を下げ、アヴァロンを後にするとシュナイゼルは目頭を押さえる。
「フゥー……いけない、少々酔いそうだ。」
「……そこまで強いワインを出した覚えは────?」
「────
「……え?」
「第七世代
「(“その所為でロイドが泣いていた”とは言わない方が良いわよね、これは……)」
ちなみにロイドたちがその頃、ジノの『トリスタンの頭に角を付けてくれ!』とアーニャの『
「さて……私は私で、準備をしておくとしよう。」
「準備……ですか、殿下?」
「勿論だよカノン。 今回を機に、帝国と中華連邦の相互発展の為の外交。 所謂『武力無き戦い』だからね。」
「そうだね、私も争いごとは苦手だからね……何かいいことでもあったのかい、シュナイゼル?」
シュナイゼルはそう言いながら、先ほどのマリーベルが取った言動に若干浮かれながらアヴァロンのスクリーンに広がる中華連邦を見ていると傍にいたオデュッセウスが声をかける。
「いや、“マリーも成長したな”と思っただけです兄上。 (以前は抜き身の刃物のような何時か、何か危ういことをし出しそうな雰囲気だったが……いや、何が『彼女を変えた』かより今は『彼女がより御しやすくなった』ことを素直に喜ぼう。)」
…………
………
……
…
威海衛で『紅巾党の乱』が起きた数日後、グランベリーとアヴァロンの手続きが終わってシュナイゼルと彼の護衛としてマリーベルたちグリンダ騎士団は大宦官たちとの交渉の場に来ていた。
大宦官たちは先の戦いで、グリンダ騎士団が猛者ばかりでたった数機で
「ま、まずはオデュッセウス殿下、シュナイゼル殿下、そしてマリーベル殿下にお越しいただいたことを心から感謝申し上げます。」
「確かに、
シュナイゼルがニコニコしながら上記の言葉を口にすると大宦官たちがギョッとする。
「い、威海衛の事は我々の与り知らぬこと────!」
「────『紅巾党』と名乗る賊の仕業かと────!」
「────とはいえ、ご迷惑をおかけしたのは事実……心より我ら一同、心よりお詫び申し上げまする……」
「シュナイゼル、そこまでにしてあげないか?」
「勿論、威海衛でのことは中華連邦の総意ではないのは承知しているとも。 それ等の駆除を我々が手伝う事もやぶさかではないことを大宦官の皆に伝えたかっただけですよ、兄上。」
「ああ、なるほど……」
「今回の密談はより良く、平和的な外交手段で道を進めるのが最優先……それでは、婚姻の話を始めましょうか?」
「……」
「「「「????????」」」」
シュナイゼルの言葉にマリーベルは何かを察したような表情を静かに浮かべ、オルドリンたちグリンダ騎士団はショボンぬ顔にハテナマークを無数に頭上に浮かばせた。
「勿論ですとも。 中華連邦としても、
「────え゛────ムゴゴゴ?!」
素っ頓狂な声を出しそうになったソキアの口を、横にいたティンクとレオンハルトが無理やり塞いだことで密談は
シュナイゼルぅ…… (;´д`)