朱禁城の迎賓館は連日で夜会を開いていたが今夜はブリタニアの貴族もその場に混ざっており、彼らに向けられた
先ほど『ささやか』と言ったが、夜会の食材だけで小さな町一つを一週間ほどだが死者が出ないように養える費用が吹き飛んでいると追記しよう。
それに今夜の夜会の名目はいつものと違って『他国との友好祝い』の元で開かれているが、一部の者たちは裏にある『ブリタニアの第一皇子と天子様の婚約祝い』と分かっていた。
「ハァァァァァァァァァァァァァァァァ。」
夜会の関係者控室の中で、夜会が何のために開かれているか分かったソキアは盛大なため息を出しながらグダグダしながら床の上をゴロゴロしていた。
「ハァ~、ショック~ 。オデュッセウス殿下もついに皇后さまを迎えるのかぁ~。」
「だらしないですよ、ソキア! 騎士は主の鏡! 規範に則り────!」
「────レオン、静かにして! 私って事務作業は集中しないと出来ない質なんだから!」
始末書を終えていたソキアを同じく始末書を書き終えていたレオンハルトが叱ると倍以上の始末書を黙々と処理していたオルドリンがイラついた声でレオンハルトを黙らせる。
「(うーん、EUで言うところの“デジャヴ”という奴だね。) あれ? そう言えば何故かオズだけいつも報告書や始末書を最後までやっているよね?」
「ウ゛。 し、仕方ないでしょティンク! グレイルの
「まぁ……“数回使ったら
「配備はいつ?! って、“していた”???」
ティンクの『神のお告げ』の様な効果のある言葉にオルドリンは目を光らせたが、それが過去形だったことにハテナマークを浮かばせながら問う。
「あー、“新型の開発を宰相閣下に優先されたから机上の計画書に戻った”ってこと。」
ガクッ。
ティンクの言葉を聞き、オルドリンは項垂れては恨めしそうにだらだらするソキアを見る。
「そう言えばソキア、毎回機体を破損させている割には事務作業を一番早く終わらせているわね?」
「んー? ソキアは出来る子だからにゃ~。」
「まぁまぁオズ、そう邪険になることも無いでしょう? ソキアは飛び級で帝立大学の
「それで元KMFリーグプレイヤーだったなんて……って、なんでティンクがそれを知っているのよ?」
「はっはっは。」
「(なるほど……貴族でもないのにナイトメアや
レオンハルトはそう思いながら、オルドリンに同情する。
何せ彼もミルベル博士の元でテストパイロットを務めていた時期もあり、『試作機の最大の敵が整備性だ』ということを理解している。
「(それにブラッドフォードのハドロンスピアーも、本来の使用用途から外れた使い方をしてしばらくの再使用は無理ですし……でもマリーカさんのおかげで機体自体は使える。 感謝しないと────)────ん?」
レオンハルトが書類の整理をしていると、ブリタニアに公開されている天子の情報が載った紙(写真付き)を見る。
「へぇ~、この方が天子様か~。 可愛らしい方だな~。 これは数年後、絶世の美女になりますね~。」
ピク。
レオンハルトが出した独り言にソキアは立ち上がり、ズカズカと怒ったような表情でレオンハルトに詰め寄る。
「え? ソキア────?」
「────レオンハルトってばさ~? マリーカたんの事をどう思っているのさ?」
「ん? 許嫁ですけれど……何か────?」
「────それにしてはちょっっっっっっと浮気っぽいですねぇ~? トトにゃんとかノネットにゃんとかとかとかとかとかとかとか~!!!」
ヒョイ。
徐々に怒りのボルテージが声と共に上がっていくソキアをティンクは暴れ出しそうな猫のように背後から持ち上げる。
「どうどうどうどう。 レオンはオレたちと違って純然たる貴族だから……ね、オズ?」
「そこで私に振るの?!」
「他に貴族、ここにいます?」
「う……ま、まぁ確かに?」
「「「ウンウン。」」」
「シュタイナー家は多くの民の生活を担保にしていたり、責任ある立場の貴族は血筋を守ることで権威を裏付けたり?」
「「「ウンウン。」」」
「あともしもの場合の為に……しょ、庶子を持つことは義務化されているし? だからレオンが浮気っぽいのもそこまで変じゃないわ────」
「────ちょっと待ってオズ!いつの間にか僕が浮気者になっていない────?!」
「────納得出来にゃーい! アレコレ
「────おやおや、思っていた以上に賑やかだね? 今のはもしかして、
ピシ。
暴れる猫のようにソキアの背後から、いつの間にか開かれたドアの向こう側にいたシュナイゼルの声に室内の温度は急激に冷えていった。
グリンダ騎士団は全員冷や汗を流し、ニコニコするシュナイゼルへ視線を移す。
「いや、子供のころは毎年どころか数か月ごとに兄弟や姉妹が増えていったのには驚いたよ。 はっはっは。」
「流石は皇帝陛下。 豪快に
「「────ティンク!」」
「お父様はいささか、撒き過ぎだけどね。」
ティンクのぼそりとした独り言にオルドリンとレオンハルトは目を見開いては彼を黙らせようとするが、ばっちりと聞こえていたシュナイゼルの返しに二人の顔色は大宦官と同等の白へと変わっていく。
「いや~、良い
「「────ティ・ン・クッッッ!────」」
ガイィン!
「「────イッッッッッッッタァァァァ?!」」
オルドリンとレオンハルトがティンクの腹を殴ると金属音が返ってきては、ティンクを殴った二人は痛む拳に悶えた。
「うーん、やはり賑やかなのも良いねマリー。」
「ア、アハ……アハハハハハハ。」
シュナイゼルが話題を振り、マリーベルは乾いた笑いを返す。
「とはいえ、君たちも招かれている。 夜会を共に楽しもうではないか?」
「ハイ、ではホールにてお待ちくださいシュナイゼルお兄様。」
マリーベルはシュナイゼルがその場から遠ざかっていくのを見届けてから、控室のドアをそっと閉めてからグリンダ騎士団たちに礼儀の何たるかを念押しする。
…………
………
……
…
「ふぅー……」
見た目もよく、グリンダ騎士団のランスロットグレイルのパイロットであるオルドリンはシュナイゼルとマリーベルに次いで注目の的となっていて久しぶりに『貴族の社交会スキル』を全力で使ってバルコニーにまで涼みに逃げていた。
尚レオンハルトも貴族だったのでマナーは良かったのだが、見目麗しい中華連邦の
「(……うん、考えないようにしよう。)」
オルドリンがバルコニーによりかかると、すぐそこには中華連邦の軍事力を誇示するためか、
「(あれ?)」
そこに一機だけ、仮面を模した頭部をした人型のナイトメアがあったことにオルドリンはキョトンとする。
「あれは────」
「────型式番号XT-409、名称は『
オルドリンは背後から来た男性の声に聞き覚えがあったことに目を見開かせながら思わずいつもは帯剣している腰に手を伸ばしながら振り返る。
「オ、オイアグロ・
そこに立っていたのは、どことなく顔がオルドリンと似ていなくもないブリタニアの成人男性で彼女の叔父だった。
『オイアグロ・ジヴォン』と彼女が叫んだことから、この男こそジヴォン家前当主でありオルドリンの実母の『オリヴィア・ジヴォン』の実弟であり、その経済的手腕を買われてジヴォン家の資産管理や軍需の投機などで利権の獲得をしてはジヴォン家の経済面を盤石な物へと数年以内に変えていた。
オリヴィアがジヴォン家の『武の象徴』ならば、オイアグロは『経済面の騎士』である。
だがジヴォン家は代々女系の一子相伝の家であるのは変わらず、古い伝統などを未だに継続させる体制をよく思っていなかった彼は実質上の『内部クーデター』を起こし、オリヴィアを含めたジヴォン家の多くがオイアグロの手によって殺された。
オルドリン一人を残して、完膚なきまでの『ジヴォン家の粛清』だった。
尚、オイアグロはオリヴィアに正当な手順を踏んでからの決闘に勝ち、その結果オリヴィアが殺されたことで逆上したジヴォン家の者たちを、オイアグロは正当防衛で返り討ちにしたことが証明されたことで彼は罪には問われなかった。
「オイアグロ……何故、中華連邦に────?」
「────中華連邦がようやくまともに開発したナイトメアを見られる機会に私がいることがそんなに珍しいかね? 」
「ええ、
ただ『当主の座の簒奪者』という汚名は残っている為、彼は夜会などの舞台に出ることは非常に稀である。
「それに私が出資する、『大型KMF』の売り込みもある。
「……当てつけのつもりかしら?」
「君がモルモットとして乗り回しているようなランスロットタイプは直に御役目御免になる日が近いかもしれないよ? ……ああ、
ギリリッ。
オイアグロの挑発するような言葉と表情にオルドリンは奥歯を噛み締め、殺気が彼女から漏れ出す。
オルドリンにとって『オイアグロ』と言う男は幼い頃から唯一、彼女に優しく接した家族だった。
来る日々の鍛錬に訓練に折れそうになっても、いつもニコニコと優しく語りかけては甘いものや可愛いものをプレゼントしていた。
何時何時も騎士を象徴するように凛とした
「(そう、オズは私のことを思っているのがわかるな。 やはり彼女に『戦』は不似合いだ……彼女の母親や家族を殺したのは複雑な事情故に、下手なことは言えない。)」
そうオイアグロは内心で憂いながら、ニタニタと二流の小悪党のような笑みを怒りの形相を自分に向けるオルドリンにしていた。
“オルドリンの母親と家族を殺した。”
これは事実であるが『全体の事実』ではなく、ジヴォン家の『
その闇は深く、罪深く、帝国を裏から支えてきた『影』そのものである。
またの名を、『
「(だが伝え……いや、誰にも悟られるわけにはいかない。)」
オイアグロ・ジヴォン────否、『現プルートーン団長』はそう思いながら自分を監視する視線をできるだけ気づいていないフリを続ける。
さて、本来の『オズ』ならばここでオルフェウスがシュナイゼルの暗殺を試みるイベントに突入するのだが────
「おや……では失礼するよ、オルドリン。 私はシュナイゼル殿下に挨拶をしてくるよ。」
────オルフェウスが依頼を却下したことで流れは大きく変わってしまい、オイアグロはシュナイゼルとカノンがいる輪へと歩きだす。
原作ではオルフェウスがシュナイゼルの暗殺に成功しようが失敗しようが、彼の起こす騒動に依頼主である紅巾党は便乗して一斉蜂起を起こしていた。
だが『シュナイゼルの暗殺』が無かったことで、夜会は何事もなく進んだ。
「……ふん。 (何よ。 貴方だって皇族に媚びを売ろうとしているじゃない。)」
オルドリンは夜会に背を向けて、人工の照明が少ないおかげで星が多く見える夜空を見上げてモヤモヤとする気持ちを落ち着かせようとする。
「(やはりオズ同士、仕草も似ているな。)」
そんなオルドリンの後ろ姿をオイアグロはワインを飲む傍らでチラリとみては、オルフェウスを思い出す。
オルフェウス・
『
これが原作の題名、『双貌のオズ』の由来である。
もう既に知っている、あるいは察しているかも知れないが二人の『オズ』は幼い頃に生き別れた双子であり、ブリタニアだけでなく
それが果たして『妊娠中絶』か、片方を『売る』のか『捨てる』のか、方法は多種多様にあるが。
それを
…………
………
……
…
オルフェウスたちはガナバティの知人にぼったくられたから譲り受けたKMF輸送用トレーラーで中華連邦を横断していた。
「しっかし、まさかこんなところで新品同然のナイトメアを入手できるとは思わなかったぞ。」
ズィーは先頭の車両を運転していると横にいたダールトンは感心半分、驚き半分で独り言のような言葉を出す。
「“蛇の道は蛇”ってな。
「なんだそれは? 中華連邦の言葉か?」
「いんや、エリア11。 それに生まれは中華連邦だが、俺は生まれてすぐに国外に出ているから言葉も文字も良く分からねぇよ。」
「そうか。 その……すまん。」
「別に? 俺のような奴なんてゴロゴロいるさ。」
「「………………………………」」
ズィーたちのトレーラーの後を追うかのように、二台目のトレーラーの中では無言のコーネリアが運転をしていた。
「(ガナバティの仲間からKMFとトレーラーを入手してからネリスは静かになったな……無理もないか。)」
オルフェウスは隣のコーネリアからトレーラー内にある紅蓮壱式をオルフェウス専用機に改造された『
当初、オルフェウスたちはギアス嚮団を追う際に身軽のまま中華連邦を探索していたが先日の盗賊が錯乱したまま
「(ソードマンタイプのグロースターを入手できたのも驚いたが、あの賊が言ったことを考えると必要になるかもしれない。)」
拷問と空気不足で錯乱していた盗賊が叫んだのは途中で降ろされた場所だけでなく、『黒ずくめの巨人たちに囲まれていた』ことだった。
「(奴が叫んでいた『巨人』を『ナイトメア』と仮定すると、敵は少なくとも四機……敵組織の規模からして、一個小隊だと思っても良いかもしれん。)」
コーネリアが嚮団の持つと思われる戦力を危惧する横で、オルフェウスは盗賊の叫んだ『黒ずくめの巨人』という
「(『黒ずくめの巨人』……巨人がナイトメアと考えると、『黒ずくめ』は塗料。 それだと相手は恐らくプルートーンの筈だが……なんだこの違和感は? まるで全部がいい方向に行き過ぎているような……考えすぎか?)」
…………
………
……
…
「♪~」
どこかの巨大地下空洞にある都市らしき場所でいつもは暇そうにしていたV.V.はウキウキしていた。
「嚮主様────」
「────ん~?」
そんな彼に、フードをした誰かが近寄っては話しかける。
「よろしいので? これでは確実に────」
「────うん。
V.V.の言葉に周りの者たちに動揺が走り、V.V.の笑みは邪悪なモノに変わる。
「最大戦力が出ている今が好機。 あちら側も今までは僕たちにとってプラスに動いてくれていたから黙認していたけれど……最近は勝手が過ぎるし、色々とどうも怪しいんだよね……何より
「は、はぁ……」
「それに……」
V.V.が珍しく歯切れ悪く、何かを言いかけるがそれ以上の言葉を発さなかった。
「(ま、こいつらに言っても仕方がないか────)────ッ。」
V.V.の目の色が変わり、視線を動かしてジッとしているとほかの者たちも釣られて同じ方向を見る。
視線の先には、いつの間にか金色の長髪男が椅子に腰かけてテーブルの上に5段のトランプタワーに最後のカードたちを置くのを見た。
「……出来た。 どう思うかね────?」
「────ど、どこから?!」
「────貴様、何者?!」
ピクッ。
V.V.の近くにいた一人のフード男の言葉に、長髪の男性は反応するとフード男の様子がおかしくなる。
「……んバハッ?! ん?! ~~~~?!」
フード男の唇が文字通りに次第に消えて────否、
「へぇ~? そんなこともできるんだ?」
口が顔から無くなり、焦るフード男やほかの者たちのように動じることなくV.V.は平然と長髪男に話しかける。
「ああ、
「……本当に興味深いね、君?」
「そういう君こそ。
「……“彼”?」
「君に助言した時と同じ『彼』だよ。」
「ああ、あの顔中傷男の。」
「“顔中傷男”? ……なるほど。」
長髪男はウンウンと一人納得するように腕を組みながら頷く。
「それとヴィk────
「ん? もしかして迷惑だった? 知り合いだもんね、一応?」
「『迷惑』? むしろ感謝したいさ。 私が動いたら、色々と君にも不都合だろ?」
V.V.は何も言わずに笑顔を返すが、内心では薄い笑みを浮かべながら懐中時計の確認をする長髪男に対して沸々と湧いてくる静かな怒りを抑えていた。
「(この……今に見ていろ。 さっきの
「(────と、
パチン。
「(本当にどうしようもない。 『不死』の一部を手に入れても所詮、人間は愚かなままか。)」
長髪男はチクタクと動く懐中時計を閉じては、感傷深い笑みで洞窟の天井を見る。
ティンクゥゥゥゥ…… (;´□`)
あと、次話かその次にスバル出す予定です。 少々遅い進み具合が続き、申し訳ございません。 (;´ω`)ゞ