小心者、コードギアスの世界を生き残る。   作:haru970

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前半は第三者視点です。

7/3/2022 22:22
丁重な誤字報告、誠にありがとうございますモルゲンスタインさん! <(_"_)>ペコッ


第16話 頭と胃を悩ませる事態

 「この愚か者どもがッ!!!」

 

 訪れた平穏な朝に似つかわしくない、荒い声がブリタニア帝国の紋章がでかでかと描かれたとあるビル内で鼓動する。

 

 マント付きの軍服とモノクルをしたスキンヘッドの男性がびくびくとしているブリタニア士官の二人に一喝し、報告書を投げつける。

 

「ヒッ?!」

 

「も、申し訳ありませんバトレー将軍────!」

「────『展示品用のナイトメアを盗まれた』だと?! しかもよりにもよってテロリストどもなぞに! なぜ事前に感知し、防げなかった?! これが殿下の耳に入ってでも見ろ────!」

 

「────“殿下()の耳に入れば”……なんだ、バトレー?」

 

「「「ッ!」」」

 

 モノクルをした男────バトレー将軍はギョっと目を見開いて背後から聞こえてくる穏やかそうな声に振り向くと彼が怒鳴っていた士官たちは膝を床につける。

 

 その場にいたのは肩の近くまで伸ばした金髪の美男子、クロヴィス・ラ・ブリタニア。

 

 エリア11の現総督、つまりは皇帝代理。 

 実質上、帝国宰相であるシュナイゼルを除いてトップに近い権力の地位を持った一人となる。

 

「こ、これは殿下。 このようなお早い時間に騒いでいたこ奴らを私は────」

「────よい、バトレー。 小耳にはさんだが、餌に小汚いネズミどもが食らいついたのだろう?」

 

「殿下、“餌”とはいったい────?」

「────前もって情報を出すように指示していたのだよ。 “展示品のナイトメアが運搬される”と。」

 

「殿下! 軍事のことならば、私に一声かけていれば────!」

「────お前は()()()忙しかったのでな?」

 

「ん、むぅ……」

 

 バトレーは何とも言えない、苦虫を噛み潰したような顔をする。

 

「それに私とて備えはしていた。 万が一の場合でも(グラスゴー)は動かせないよう、本物の作動キーはすでに私自らの手で破壊している。」

 

「「(実際ハンマーを振るっていたのはニコニコしていた妹君なのに────?)」」

 

 キッ!

 

 「────貴様ら、この私に何か言いたげな顔だな?」

 

 「「滅相もございません、殿下ッッ!」」

 

「……まぁいい。 そんな顔をするな、バトレー。 念には念を入れて(グラスゴー)のオペレーティングシステムも使えない物に改ざんされている。 この二段構え、運よく作動キーの代わりになるモノをどこからか調達したとしてもナイトメアフレーム用のソフトウェアも入手しなければいけない。 到底、私のエリア11でそんなことがイレヴン共に出来るとは思えん。 

 して、食らいついたネズミどもは一掃したのだろうな?」

 

 クロヴィスは笑みを浮かべていたが、口以外は全く笑っていないことにバトレーたちは気圧されていた。

 優男風でも、クロヴィスは皇族。

 その威圧感は半端がなかった。

 

「は、はい! 無論こちらも多少の損害が出ましたが突入部隊の中継映像を確認し、テロリストどものリーダーと思われる男が自爆を選択したことと、拠点にしていたビルが()()()()()崩壊したこともこちらで確認できております! 目下、新たな情報が入り次第対応するよう伝えております!」

 

「ならよろしい。 私はアトリエへと戻り、絵の仕上げを続けてくる。」

 

 そう言い、踵を返したクロヴィスの背中を見たバトレーはホッと胸を下ろす。

 

 さっきの報告は概ね事実に基づいていたが……

 

 まさかクロヴィスに『餌本体(グラスゴー)は盗まれたままです』と報告するわけにはいかない。

 

 芸術などを愛するクロヴィスは『ナイトメアが盗まれた』という事より、『展示品を盗まれた』ことに怒り狂うだろう。

 どうなるかわからない。

 罵倒はもとより、降格を言い渡されるかもしれない。

 

 バトレーは内心と表面上共々、冷や汗を掻きながら士官たちを睨む。

 

「いいか、お前たち! 大至急、代わりの展示品の手配を早急にしろ! スペアパーツを使った張りぼてでも何でもいい! 今の殿下に、延いては側近である我らに失態は絶対に許されないのだ!」

 

「「イエス、マイロード!」」

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

 クロヴィスは無言のまま、どこかの庭園らしき場所で絵を描き続けていた。

 

「お兄様~! 言われた通り、絵具を持ってきましたのです~!」

 

「ああ、ありがとうライラ。」

 

 その場に駆け付けた金髪ツインテール少女────ライラにクロヴィスはにっこりとした人間味の強い笑顔を向けて絵具チューブを受け取る。

 

「はえ~! これって、マリアンヌ様とルルーシュお兄様とナナリーですね!」

 

 ライラがキラキラとした目で見上げていたのはやさしく微笑む黒髪の成人女性と今より幼いルルーシュ、そして自らの足で立っているナナリーたちが描かれた巨大な絵画。

 

「ああ。 せめて、絵の中でも彼らの優しい笑顔を他の者にちゃんと見せたいと思ってね?」

 

 そう言いながら、クロヴィスは思わず筆を力強く握りしめて硬い表情をする。

 

「ライラ……彼らは仇を取るために、慣れない総督に自ら進んで赴任した私を許してくれると思うか?」

 

「お兄様……」

 

 クロヴィスとライラ。 二人はマリアンヌ、ルルーシュ、ナナリーたちのことが好きだった。

 だが平民上がりのマリアンヌを目の敵にしていた母親であるガブリエッラ・ラ・ブリタニアにより、彼らの好意は立場も体も弱いナナリーを苛めるために利用された。

 

 特にライラに至っては洗脳に近い教育を受けそうになっていた所を、クロヴィスが巧みに妨害をしていた。

 

 が、彼にできることと言えばそれぐらいだけだった。

 

 自分を弱愛していた母が使用人などの人間たちを使ってナナリーを通してマリアンヌを陥れるような行為をしていたのは知っていたが、当時のクロヴィスではライラを護るのが精いっぱいだった。

 

 そのまま時は流れていき、『それ』は起きてしまった。

 

『マリアンヌ暗殺事件』。

 彼女と彼女の子供たちであるルルーシュたちを狙ったテロリストたちが厳重な筈だった警備を潜り抜けて宮殿にいたマリアンヌの殺害に成功し、ナナリーは足と目が不自由になるきっかけだった。

 

 ぎくしゃくした関係のままルルーシュたちと離れ離れになった挙句、ルルーシュたちの死亡報告が帰ってきたときは普段は温厚であるクロヴィスは怒りに身を任せてエリア11(日本)の総督を自ら買って出た。

 

 そしてせめてもの弔いとして、イレヴン(日本人)には必要以上に厳しくかつ暴力を使わないねちねちとした嫌がらせを強いた。

 

『憧れたマリアンヌの形見である愛しい(ルルーシュ)(ナナリー)を死に繋げた元凶』として。

 

「(だから私は認められなければいけない、父上や兄上たちに! 亡くなったマリアンヌ様の為にも! 意味のない死を遂げたルルーシュとナナリーと! そして愛しい(ライラ)の為にも『コードR』で私は力を、さらなる権力を得るのだ!)」

 

「お兄様……お顔がなんか怖いです。」

 

「ッ。 すまない、ライラ。 マリアンヌ様の事件を思い出してしまってね……そうだ! ライラは何かしたいことはあるかい?」

 

「じゃあ私、『学校』というものに通いたいです!」

 

 ライラは一点の曇りもない、ヒマワリのような笑顔でそう告げるとクロヴィスは複雑な心境になる。

 

『ライラ・ラ・ブリタニア』。 彼女は皇族でありながらその存在を『マリアンヌ暗殺事件』後、クロヴィスによって長らく周りから秘匿されていた身である。

 

 あらゆるメディア、書類、戸籍などから抹消するだけでなく、同じ皇族である親族たちにでさえ彼女の認識は良くて『ああ、そう言えば居たような気が』程度のモノ。

 

 この徹底さから、いかにどれだけクロヴィスが彼女を弱愛しているかわかるだろうか?

 流石は腹違いとはいえ、ルルーシュの兄である。

 

 よって彼女は皇族でも『特に箱入り』がぴったり合うような人生を今まで歩み、皇女としての『おしとやかで極度の人見知りな性格』を強いられていた。

 クロヴィスがエリア11の総督になってからやっと『外の世界』に出られたことで、本来の純粋無垢な性格へと戻ったことにクロヴィスは嬉しかった半面、このような我儘(願い)が急激に増えたことで頭を痛めていた。

 

「そ、そうだね。 少し、私の方でもライラが(安全に)通える学園をバトレーと相談してみるよ。」

 

「ありがとうお兄様、大好きです!♪」

 

 クロヴィスがライラの素直な笑顔に胸がほっこりしたのも束の間だった。

 

「あ。 ねぇお兄様? お兄様は忙しい身ですので、ガマカエルのおじ(バトレー)様に私が直接話をした方がいいのかしら?」

 

ブフッ?! が、ガマカエル……だ、大丈夫だライラ。 あ、明日さっそく彼と話してみる。」

 

「はいで~す!」

 

 その日、クロヴィスがバトレーを見るとなぜかいつも以上のニヤニヤとした笑みにバトレーは一日中嫌な汗をいつも以上に搔いたそうな。

 

 そしてそれがさらにクロヴィスの顔をにやけさせたとか、なんとか。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

「どう、昴君? 動かせそう?」

 

 俺の後ろに立っていた、青みがかった黒髪セミロングの井上が奪取したグラスゴーの状態を尋ねる。

 

「駆動部に問題はないな。 俺が手に入れ(コピーし)たナイトメアフレーム用ソフトをグラスゴー用に変換すれば何とかいける筈だ。」

 

「流石はカレンちゃん自慢の昴君ね!」

 

 クッ!

 建前上の主従関係だと分かっていても、ちょっとグッとくるぜ!

 

「だが問題は作動キーだ。 こっちはどうしても時間がかかる。」

 

「そうなの?」

 

「ああ。 作動キー本体は何とかなるがIDパスワードの判明の為に一番手頃なブルートフォースアタックだがこれも理論的にあり得るすべてのパターンを入力して突破を試みる行為だから必然と時間をかけることになるし何より使うパソコンをブリタニア側に探知できないようネットワークから切り離した独立状態になるから自然と性能も旧式の────ん?」

 

 不意に後ろを見ると、口を開けたままポカーンとした井上がいた。

 

「どうした、井上さん?」

 

「う、ううん! 昴君が凄く饒舌になったから、つい……」

 

 “つい”ってなんだ、“つい”って。

 

 バシュウゥゥゥゥ!

 

「ブハァァァァァァ! あっつい!

 

 ムワッとした蒸した空気と共に勢いよく呼吸をする汗まみれのカレンが開いたグラスゴーのハッチの中から出てくる。

 

「カレン、お前が乗るって言いだしたんだぞ?」

 

 俺はなるべく今のカレンを見ないように努力しながら作業を続ける。

 

「わかってるわよ! でもこの中、マジ最悪! 狭いし空調もないし、下手なサウナ室より蒸す! これだからブリタニアは!」

 

 兵器とはそう言うものだよ、カレン。

 

「それに毒島との模擬戦に比べれば、こっちは汗をかくだけマシだし。」

 

 あの『ブリタニアをぶっ壊す』宣言からカレンも毒島との組手をしてもらっている。

 ちなみにここで言う“も”とはアンジュリーゼの事だ。

 

 皆に謝った後、アンジュリーゼは俺に“毒島を正式に紹介してくれ” と頼み、今は毒島と時間が合えばちゃんとした訓練を受けている。

 

 名目上は“痴漢(変態)を撃退するだけ”と言っているが……

 どこからどう見ても“相手を殺る”ような手ほどきばかりだ。

 

 それと毒島なりの気遣いか、ちゃんと彼女とカレンがバッタリ会わないように調整してくれている。

 

 こっちとしては非常~~~~~~~~~~にありがたいが、毎回二人が意識を失うまで相手をするのは止めてくれ。

 

 “頑張った女子(おなご)を背負うのも甲斐性の見せ所だ”は確かに二人を背負う俺としてはご褒美ですが、実に良い(スッキリした)笑みをしながらそれを言うアンタのストレス発散の言い訳にしか見えないんだが?

 

 まぁ……そのおかげで二人は格闘戦(特に短剣術)が向上しているのは疑いようがないけどな。

 

「だからと言って下着姿なのはどうかと思うが?」

 

「別に良いじゃん! 今は他に誰もいないし!」

 

 扇たちは次の毒ガス作戦の為に出払っているから確かに拠点にいる人数は少ないけど?

 

 俺はノーカンか?

 

「カレンは俺を空気か何かと勘違いしていないか?」

 

「ん? 昴は昴じゃん!」

 

 あの、カレンさんや?

 だから俺、男なんですけど?

 

 もしかして『男』として見られていない?

 …………………………やめよう。

 考えても空しいだけだ。 今は原作に向けて、俺に出来ることをやるだけだ。

 

「毎度言うが、何時間も籠って仮想訓練(シミュレーター)をするのは構わないが脱水症状には気をつけろよ? 当時の引退したパイロットたちの話と、また正規軍が出しているマニュアルにも作戦行動時間《タイムリミット》は一、二時間が上限として記されているからな。」

 

「昴がいるから大丈夫!」

 

 イミがワカラナイヨ。

 

「あああああ、もう!」

 

 って髪の毛をわしゃわしゃするなぁぁぁぁぁ!

 首を振るなぁぁぁぁ!

 犬かお前は?!

 

 ぎゃあああああああ?! 

 汗が飛び散るだろうがぁぁぁぁぁぁ?!

 

「お疲れ様、カレン。 はい、タオルと飲み物。」

 

「サンキュー、井上さん! ゴクゴクゴクゴク……何その笑み? ゴクゴクゴクゴクゴク。」

 

 整備に集中集中。

 喉の渇きを潤すためにかのコーヒー牛乳を飲む45度の所為で黒のタンクトップがその胸に密着してしまってはみ出た横乳なんて俺はちょっとしか見ていないからな。

 

 ……………………見えそう見えそう♡。

 

「ううん。 “幼馴染だけあってカレンは昴君のことを信用しているな~”って────♪」

「────ブフォア?! ゲホゲホ、ゴホ?! ち、違うよ?!

 

 おいカレン、他の場所に向けて吹き出せよ!

 こちとら電気系統作業をしているんだぞ?!

 

 感電したらどうするつもりだ!

 

 首と髪と顔にもかかったし、最悪だよもう……

 

「うんうん♪ そういう事にしておくわ♪」

 

 「だから違うってば! こいつはジロジロ見ていたら私に殴られることを知っているからであって────!」

「────うんうんうん♪」

 

 「だから違ぁぁぁぁぁぁぁぁぁう!!! 昴も何か言ってよ!」

 

「………………………………………………」

 

 そんな必死になることは無いだろう?

 

 何時もの調子で『私とこいつがぁ~? アッハッハッハ! 私が好きになるのはお兄ちゃん(ナオト)以上の男だけだよ!』と笑い飛ばせよ。

 

 無心だ。

 無心になって取り敢えず時間のかかるIDパスワードのクラッキング作業を始めるか。

 

「……ね、ねぇ? ちょ、ちょっと~~~……」

 

「ウフフフフフフ♪」

 

 何か外野(カレンたち)が言ったような気がしたが、多分問題ないだろう。

 

 ん? 左腕部に違和感が?

 

 これって、まさか……原作のあれか。

 

 オレンジに襲われて、上手く動かせなくなってカレンが焦った原因だな。

 

 …………………………………………………………どうしよう?




余談:
“ライラ”を見て、やしきたかじんさんを思い出すのは自分だけでしょうか? (・ω・)

ライリー、ライリー、ライリーリラ~♪ (o´ω`)

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