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「────と、いうワケでスヴェンはまたしばらく休むらしいわよ。」
「またぁ~?」
陽光の当たるアッシュフォード学園のクラブハウスでは、少々ギクシャクしていたアンジュがミレイを含めた生徒会にスヴェンの容体が無理をし続けた所為で悪化したことを説明し終えていた。
「スヴェン、こうやって立て続けに……マジで厄介ごとを引き寄せる体質持ちなんじゃね?」
もしここにスヴェンがリヴァルの言葉を聞いていたら全力で『お前が言うな!』と(リヴァルたちにとって)意味不明なツッコミを入れていただろう。*1
「う~ん……でもその“厄介ごと”って、大抵は人助けをした結果だからそうやって責めるのもねぇ~……ね、
「そうだな……それが、彼の良いところだ。」
「そう言えばロロはどうしたの?」
「あ、ああ……ちょっと、実家絡みの問題でね。 しばらく、戻ってこられないかもしれないんだ。」
「「……???」」
そこには平然とするシャーリーもおり、ルルーシュの呼び名が変わっていることにミレイやリヴァルは違和感を持ったのかハテナマークを頭上に浮かべながらルルーシュと彼女を互いに見る。
「ふ~ん、そう。 あ、会長────じゃなかったミレイ先生~! ノルマこなしたので部活に行ってきま~す!」
「え? あ、うん。 行ってらっしゃい?」
「♪~」
何時もの様子でどこか少し違うシャーリーの様子にミレイでさえも戸惑いを隠せずに生返事を返し、彼女が視界から出るとミレイとリヴァルが一気にルルーシュへと攻寄る。
「ちょっとなによ、今の?!」
「なんか超『他人行儀』っぽいぞ?!」
「……」
アンジュは腕組をして手を握りしめる。
「あははは……恥ずかしい話、実は喧嘩中なんだ────」
「「────シャーリーとルルーシュが、喧嘩ぁぁぁぁぁ?!」」
「ほら、さっきロロの事を言っただろ? 実はその所為で俺、ちょっと最近イライラしていてさ? 先日、シャーリーに八つ当たりを……その、しちゃったんだ。」
「かぁぁぁぁ~! このリア充どもが! なんて贅沢な喧嘩だよ、おい!」
「喧嘩で他人ごっこって……可愛いわねぇ~♪」
「は、はは……はははは……」
リヴァルは呆れ、ミレイは微笑ましいものを見たかのような表情を浮かべ、アンジュは視線を乾いた笑いをするルルーシュからそらして可動式屋内プールへと走るシャーリーを目で追う。
「(『知らない方がいい時もある』、っていうけれどさ……痛々しいわね、どうも。)」
「あ、ヴィレッタ先生!」
「ぁ……しゃ、シャーリー? 今日は来るのが早いな?」
水泳部の更衣室に来たシャーリーを見たヴィレッタはぎこちなかった様子から回復しては
「あ、はい。 ヴィレッタ先生から渡されたと思うノートを返そうと思って張り切っちゃって────!」
「────ちょ、ちょっと待てシャーリー」
シャーリーはごそごそとカバンを漁っては、題名欄に『簡単献立レシピ表』とヴィレッタの手書きで書かれたノートを渡してくる。
「え?!」
「レシピノートを返すってことは……」
「もしかしてシャーリーの『謎の物体X生産癖』が治ったってこと?!」
「ちょっと! 『謎の物体X』なんてラベルはアンジュさんが初めて作った時に出る
ワイワイと騒いでは自分を弄ってくる水泳部員にシャーリーは抗議を上げ、その場でシャーリーのカチカチで黒焦げ物体Xとアンジュのコールタールのような性質を持ちながら独りでに蠢く物体Xを思い浮かべる。
「「「……ああ、確かに
「それよりもシャーリー、ルルーシュのお弁当作りの見本は良いの?」
「は? ルルーシュのお弁当?」
水泳部員のミーヤにそう尋ねられたシャーリーは眉間にしわを寄せる。
ちなみにあまりの予想外な展開に彼女たちはシャーリーのルル呼びがない事に全く気が付いていないと追記しておく。
次の瞬間、変わることになるのだが。
「それでそれで~? 今朝は何を作ってあげたの?」
「卵焼き?」
「サンドイッチ?」
「ケチャップのメッセージとか?!」
「“作ってあげた”って……私が? ナイナイナイナイ! 誰が
「「「「え。」」」」
「あー、シャーリー? そろそろ着替えてくれ。 他の者たちは私と一緒に来い、もう特訓に入るぞ。」
ヴィレッタの言葉で察したのか、シャーリーを除いた部員たちはヴィレッタの後をついてプールサイドまでくるとヴィレッタが部員たちへと振り返る。
「少しいいか?」
「「「「???」」」」
「もう予想している者たちもいるかもしれんが、今シャーリーとルルーシュはその……
「えええええええ?!」
「信じられない!」
「昔から甘~い雰囲気の二人が?!」
「貴重なラブラブから得られる保養成分がぁぁぁぁ……」
「あ~んま~りだぁぁぁぁぁ!」
「まぁ、今だからハッキリ言っておくがルルーシュの実家問題絡みでシャーリーに非は全くない。 ただその……彼女もルルーシュもこんなことは初めて同士だからどう振る舞っていいのか分からなくてな? 時々二人がきごちなくなるかもしれんが、そこはほとぼりが冷めるまで大目に見てやってくれ────」
「────それでヴィレッタ先生の方はどうなの────?」
「────告白できたの────?」
「────毎日朝早く来ているってことはお弁当を作っているんですよね────?!」
「────あ。 でも最近は前の時間に来ているからフラれたとか────?」
「────彼は今、そんな場合じゃ────って何を言わせているんだお前たちはぁぁぁぁぁぁぁ?!」
「「「「きゃあああああ!♡」」」」
ヴィレッタは余程ニヨニヨした部員たちの悪ふざけが気に入らなかったのかその日から少しの間だけ、水泳部のスケジュールは更にスパルタ化したそうな。
「ひぃぃぃん! ヴィレッタ先生がいつもより怖い~!」
「恨むのなら他の者たちを恨め、シャーリー!」
今回ばかりは完全にシャーリーはとばっちりである。
……
…
ガラッ。
ファサ。
「おおお~。 見た目より大きいです~。」
女子寮内にあるシャーリーが使っている部屋の中のタンスを開けたライラは中を漁り、入っていた
「あら、本当。 着やせするタイプ────って、そんな場合じゃないわ。」
『
マーヤはそのままシャーリーの机や化粧箱を開けて探しものを再開し、チラッとライラの方を横目で見る。
「(表向きでは探し物をさせながら私とライラを指名するという事は、恐らく本命は出来るだけライラの傍に誰かが居ることね。 多分。 ルルーシュの……ゼロの見立てだと彼女には『何か』がある。 それに、オオクボステーションモールで
「────あ、あったです!」
ライラがベッドのマットレスの間を探すと案の定、シャーリーの筆跡で『
「あら、でかしたわライブラちゃん。 では、部屋の状態を戻しましょうね?」
「でも日記なんて、ルルーシュ先輩はどうするつもりだと思いますです?」
「う~ん……多分、燃やすんじゃないかしら?」
「え。」
マーヤのあっけらかんとした答えにライラは笑みのまま固まる。
「だって中を見なくとも、情報消去が確実だし────」
「────そんなのダメです!」
「ら、ライブラちゃん────?」
「────ダメダメダメダメダメダメ! そんなの絶対にダメダメのダメですー!」
「でも、それだと────」
「────日記は書いた人の記憶を紙に絶対に忘れたくない思い出を移したものです! それを燃やすなんて、ダメダメのダメ人間がすることです! 絶対にダメです! それなら私が死守するですよ?!」
「『思い出』……そう、よね。」
ライラの地団駄かつノートをぎゅっと両腕でガードし、断固拒否の意思表示にマーヤは何か思うところがあったのか次第にいつもの調子に戻っていく。
「うん……確かに大切よね、『思い出』は。 私が軽率だったわ。 でも、ルルーシュにはどう────?」
「────私たちが燃やしたことにするです。 それとも写本してからの方が? ……ブツブツブツ。」
「(私にも、
────ゾワッ!
ライラがブツブツと考え込んでいる間、マーヤは窓の外に広がる租界の景色を見ながら今までずっと
「(ううん。 それよりも今は、『今後』の『どうなるか』と『どうするか』ね。 一応、彼のメモに書かれた『怒りと悲しみ任せのギアス嚮団完全殲滅*要注意*』と書かれていた。 そして今までの情報やデータから嚮団は東ユーラシア領土内にいるとレイラが予測を出している。
緘口令であの周辺に関するニュース報道こそされていないけれど、アングラジャーナリズムによると国境を何度か超えようとしたブリタニアやユーロ・ブリタニアの部隊は自衛に長けた領土軍とあの巨大兵器────仮称『
………
……
…
「シャーリーのノートを、お前たちが燃やした?」
同日の昼、更にアリエス宮に似せられたクラブハウスの屋上庭園でシャーリーのノートを受け取る筈だったルルーシュがライターを手にしながらライラとマーヤを見る。
「ええ。 その方が良いかなと思って。」
「……提案者は
「エッヘンです!」
「(キャラを作っていたとずっと懸念していたが……もしやこれがライラの素なのだろうか?) そうか、手間をかけたな二人とも。」
ルルーシュは
「(先日のオオクボステーションモールの事件で、『ライブラが実はライラ皇女だ』とマーヤが知った経歴でアマルガム側が偶然に知ったような体をしているが見たところ別の状況で知った印象が強い────それは今、重要ではないな。 取り敢えず『これから』だ。
ピースマークのオズから最後に来たデータとジェレミアの協力に以前ロロから得た情報でギアス嚮団の大まかな位置はほぼ特定できた。 東ユーラシアの『スルト』とやらはギアス嚮団の捕獲をすればよりギアスの事を理解することが出来、自軍の強化に、オフに出来なくなった俺のギアスの改善に繋がる可能性が……『ギアス嚮団の捕獲』、か。 当然、ギアス嚮団には
ここでルルーシュが『アイツ』と称しているのは、先日のオオクボステーションモール騒動から居なくなったロロである。
先日は文字通り、ボロボロになったスヴェンがキューエルと共に上の階から落ちていく場所へと急行していたルルーシュとマーヤが見たのは『困惑しながらシャーリーを引くようなライラを、胸を掴みながら追うロロの様』だった。
どこからどう見ても、ロロが二人を追い詰めているような絵図だった。
それにロロが気が付いたのか、彼はルルーシュたちと目が合うなりに表情がハッとしてはすぐに焦りへと変わり、彼が口を開けたところで受け身を取っていたキューエルと明らかに重症なスヴェンが落ちてきたことでロロの言葉は遮られた。
更には異様な姿へと変わり果てながらも顔に火傷を負ったカラレスが『四脚の足』で着地してきたところでその場は混乱し、気が付けば砂塵の中へとキューエルやカラレスにロロは姿を消していた。
何時もならばアクシデントがあっても頭を切り替えて動ける者たちもその場にいたのだが、居なくなったロロたちよりスヴェンの様子にひどく怯えて動揺するシャーリーと、そんな彼女を狼狽えながら慰めていたルルーシュの姿と動揺するシャーリーにルルーシュがギアスを使ったことに気を取られてしまっていた。
「(まさかあの男と同じように、ギアスを使う羽目になるとはな……今にでも頭がどうにかなりそうだ。 今すぐにでも零番隊でギアス嚮団の壊滅を決行したい。 だが────)」
ルルーシュはこれからの事から思考がシャーリー関連に脱線していくその都度に考えを別の重要案件になり得る情報に向けていく。
「(────『ロロが
そしてようやく彼の思考が辿り着いたのはエルが伝え忘れてはアンジュに託し、オオクボステーションモール事件直後にようやくタイミングを見つけたと思ったアンジュから先日伝えられた情報だった。
そのおかげか、ルルーシュが命じそうだった『ギアス嚮団の完全殲滅』は感情が新たな
………
……
…
「ふ~ん……これは面白い発見だねぇ~?」
別の場所ではキューエルたちから得たデータや画像を見てニヤニヤしていたV.V.がいた。
「情報ありがとう。 これを見つけた功績で君
「「……」」
V.V.はニッコリとした満足そうな顔を複雑な顔をするキューエル、そして未だに怯えるような表情を浮かべるロロへと向けた。
「ああ、別にボクは怒ってもいないし気にしていないから自由にしていて良いよ? キューエルは修理してもらったら? ロロも休んだら? そのまま二人とも来ちゃったんでしょ? というか二人とも下がっていて。」
「で、では……」
キューエルはそそくさとその場から逃げ出すかのように居なくなり、ロロも無数のハテナマークを頭上に浮かべながらV.V.にもう一度だけ振り返ってから退去する。
「君たちも。」
するとV.V.は近くに居た者たちも退去するように手を振って一人になったところで天井を見上げる。
「(さてと、ルルーシュがゼロならば早々にここを引き払う用意をするか。 でも……『自然体でありながら
V.V.が振り返様に先ほどまで何もなかった場所にいつの間にかテーブルでハーブ茶をすすっている男性に声をかける。
「“勝手なこと”? 何の事だい?」
「聞いているよ。 近くの東ユーラシアにある巨大兵器って、ジルクスタンからの提供なんだよね? あの国、君がよく出払っているところじゃないか。」
「確かに足を運ばせているよ? でも兵器の提供なんて、私が推薦出来る立場にいるわけがないじゃないか。 前から言っているじゃないか、あれは訪問診療の為だよ。」
「(いけしゃあしゃあと……)」
「そもそもここは『秘密』が最大の防御となっているからね、あちらと違って。」
「あちらというと……」
「おや、流石は教祖。 しっかりと覚えていたか……といっても、前回の衝突は印象的だったからねぇ。」
「何度か遺跡を巡って
ここでV.V.の笑みは少しだけ深くなった。
「(だからこそ、あの子の捕獲が完了したらここから拠点を移す用意はするのだけれど。)」
…………
………
……
…
「……ん。」
スヴェンが目を覚めると、今となっては見覚えのある天井を見上げていたことに意識の覚醒が早まっていく。
「(『目が覚めたら左腕が肘から下がギプスで体中がジンジンするままベッドから窓の外を見ると蓬莱島でアマルガム側のアパートビル内だった』、か。)」
「あら、目が覚められましたか。」
「(追記、『隣のベッドには重症ながら器用にリンゴの皮むきをしていたマーヤがいた』。)」
この状況下にスヴェンの脳内には様々な疑問や感想が浮かび上がった。
『器用だなおい』。
『どうやってケガを負った?』。
『何故マーヤもケガを?』。
等々。
「オオクボから何日経った?」
彼は口下手な自分に少々呪いながらも、マーヤが自分の知っている姿と違ったことから時間の経過を知りたがっていた。
「あれから三日ほどが経ちました。」
「(三日?! 三日も寝込んでいたのか、俺は……うわぁ。) そうか……その傷は?」
「はい、どうぞ。」
スヴェンは自分に呆れながらもマーヤへ気遣いの言葉をかけると横から皮がところどころ付いたままのリンゴが出てくる。
「(相変わらず不器用な手先。 見た目はいいのに……) 頂こう。 それで、その傷はどうした────?」
「────私が説明しよう────」
「────ムグっ?! ゴホ、ゴホゴホ?!」
スヴェンがリンゴにかじりつくと反対側から来た声に思わずむせてしまい、喉にリンゴの皮を詰まらせてしまい咳き込みながら包帯を首や額に病衣から出ている手足に巻き付けた声の主であるエルを見る。
「エル、今のはワザとね?」
「クク、まさか。 彼が尋ねたのに君が答えないから代わりにしただけだ。」
「(そう言っている割には『ナイトメア・オブ・ナナリー』並みの悪い顔をしているのだが?!) それで、何故二人ともケガをして────?」
────ガチャ。
「あ、スヴェン先輩やっと起きたです!」
「↑ホ?!」
病室のドアが勢い開かれて向こう側からどういうワケか私服でお湯の入った桶とタオルを持ったライラの姿にスヴェンは奇声を上げた。
「プフ?! “ホ?!”って何よ────」
「────良かったですねアリスちゃん! 今日は温いコーヒー牛乳を飲まなくていいですね────!」
「────ぬあああああああああ?! 違うからぁぁぁぁぁ!」
「(アリスまで? なにがなんでいったいぜんたいこうなった────?)」
「────うん、そこはちょっと私が説明するかな? 話が進まなくなるような感じだし。」
「カレン?」
ドア付近でニコニコするライラに対して威嚇する猫のように騒ぐアリスの横を保温バッグを手にしたカレンは流れるようにベッドサイドまで近づき、スヴェン近くの椅子に腰かける。
「(流れるような動作、やっぱ(前世の)世間でスザクと並ぶチート身体持ちだなぁ~。)」
「な、なに? ジロジロ見て……」
「(しまった。 “あまりにも久し振りでどう声をかけたらいいか分からなかった”なんて言えねぇ……) ああ、すまん。 いつ見ても綺麗(な動き)だなと────」
「────クヒ────」
「────うん? 何だ今の音は?」
「コホン……それでどうしてここにライブラ────ううん、ライラちゃんが居るかだよね?」
「(『ライブラ=ライラ皇女』を誰かから聞いたなこれは────)」
「────ああ、そこはエルとマーヤから聞いたし状況が状況だけにね? だから責めないで。」
「……今の俺、口にしていたか?」
「ううん、私が勝手に悟っただけ。」
「(カレンの勘、やっぱこえぇぇぇぇぇ!)」
「「「……」」」
「何だその目はお前たち。」
「別に。」
「いえ、仲が良いと思っただけです。」
「ククククククク。」
「(アリスの顔プイとマーヤの純粋なコメントはともかく、エルのリュー〇っぽい『ククク笑い』はシャレになっていない……というか何気に激辛マーボー男を連想しそう。)」
アリスのジト目に視線を送るマーヤとニヨニヨとするエルの視線に気が付いたスヴェンの問いに答えるも、スヴェンは不安を拭えなかった。
そこからカレンが語った、簡潔な一連の出来事にスヴェンは痛みを忘れるほど重傷ながらも頭を抱えた。
「(『記憶が弄られた政庁で待ち構えていたクソショタ陰険根暗ジジイの手先に攫われそうだった』だと? 『攫われているところをエルとマーヤが突貫』いったいどういうことだっちゃ。)」
「(あ。 これ相当テンパっているわね。) 」
ポーカーフェイスながらも頭を両手で抱えて汗をジワリと掻きだす静かなスヴェンの内心を悟り、手にしていた保温バッグの中から
「な?! そ、それはまさかビッグモナカ?!」
「そ。 この間、ようやく大量生産の目途がついたの。 試しょ────?」
「────ぜひ。」
「はいはい。 包装は仮の物だけれどちゃんとした奴だから────」
「────くれ。」
「ハイハイ。」
ポーカーフェイスのままキラキラと明るくなったスヴェンの前にカレンが包装を取り除いたビッグモナカを食べられる距離にまで近づかせると、スヴェンは躊躇なく口を開けてはガブリつく。
バリ! ボリ、ボリ、ボリ。
「(ムッハー! このモナカのパリパリにバニラアイスと板型のチョコレートの触感! たまらんわ~♡。)」
「どう?」
ゴックン。
「余は満足である。」
「よし! じゃあスバルの御墨付になったことだし、生産のオーケーを出しておくね? あ、それと桐原さんから蓬莱島に関する資料を置いておくから目を────」
「────ちょっと待てカレン。 お前、ナイトメアは? (この時期だと旧中華連邦の領地確保とかに中華テリオンと藤堂さんが出払っている筈……それにルルーシュもギアス嚮団の捕獲に動いている筈だ。)」
「うん? ナイトメアにも乗っているよ? でも藤堂さんとかベニオが頑張っているから、こうやって桐原さんやレイラの横で手伝いをしている。 あとは正直怖いけれどアヤノと一緒に冴子との手合わせとか。」
「(あのカレンが! 勉強とか面倒くさがって教科書を丸暗記していたカレンがッ!!! 事務作業をッッッッ────!!!!)」
「────スバル、これ以上失礼なことを考えたらしばくよ。」
「…そんなことは無い、感心していただけだ。」
「でもさぁ、良く分からないんだよねぇ~……人頭税無しに税も低いのに労役の給金出すなんて、どうしてだろう……桐原さんはウンウンとレイラの案に頷くだけだったし……大丈夫かな?」
「カレン、それは違うぞ。 元々蓬莱島は流民で出来たばっかりの場所だ。 言いたくはないが、生活基準こそ高いが世界の貧富基準だと貧しい民ばかり。 そんな人たちから税をとってもたかが知れている。 逆に特産品で暮らしを安定しつつ経済を回せば、流民という『母数』は上がる。 本来、こんなやり方は通用しない。 領主や国の代表を通して民の流通は制限されるからな。 だが中華連邦や東ユーラシアの騒動の影響で流民の正確な把握が出来ない今だから人の流入を利用する手に桐原は納得したのだろう。」
「へぇぇぇぇぇぇ……」
「ほぼ反則な手に近いが、理には適っている。 (でもまさかあの委員長っぽいレイラがねぇ~。)」
追記するが、レイラはスバルが『亡国のアキト編』への介入時に見せた『ジュリアスによる精神攻撃時にEUの強制収容所から日系人を全員人工島へ避難させる』の『国の混乱を利用して人間の流通を密かに行う』という案をオマージュしただけである。*2
「つまり他の貧しいところから民を釣って、人口を増やすってことだよね!」
「カレンの言い方は少しアレだが……まぁ、有り体に言えばそうだな。」
「「「「……」」」」
「「あ。」」
カレンとスヴェンは室内にいる者たちからの様々な視線に気が付いては黙り込む。
「(ん?)」
「???」
ただスヴェンはそんな中で、少々異質な思惑のある視線の違和感のライラの方を見ると彼女がしょぼんとした表情で見返すだけだった。
「(今のは、気の所為だろうか?)」
…………
………
……
…
「うへぇ~。」
「ま、まぁ時間が経ったらライラにもベニオは慣れてマシになるわよ。」
「そうあって欲しいです~……」
同日、太陽が沈んで夜になった蓬莱島のアパートビルに少々疲れ気味のライラがトボトボとアリスによって慰められる。
実は元イレギュラーズのアリスたち、マオ(女)によって(半ば無理やりに)蓬莱島で栽培しているサトウキビなどのおかげで潤沢な甘味料を利用した菓子屋やケーキ屋などに連れまわされている間にばったりベニオとサヴィトリと出会った。
歳も近い所為か、すぐに意気投合した。
ほぼ誕生日が皆より早い事で『お姉さん』を自称するベニオのおかげで。
余談で年齢でこそベニオが一番年上なのだが、どや顔と胸を張るベニオの横で精神面だと大人寄りであるサンチアとサヴィトリが引率する図となっている。
それもあり、ベニオは何かとアリスたちの面倒を見たくなるのか当初はべっとりと引っ付く癖が新参者であるライラに向けられた。
「……ねぇライラ? 本当に一人で大丈夫?」
ちなみにライラからは『呼び捨てにしてほしい』という事からフランクな呼び名となっているので彼女が皇女という事は未だ限られた人数の人にしかバレていない。
「ん~……毒島先輩から借りた特大モチモチおはぎちゃんを借りたから大丈夫です!」
「(ああ、毒島が自ら編んで作った真っ白な枕ね。) そ、そう……何かあったらいつでも電話してね?」
「ハイでーす!」
そう言いながらライラ元気よく手を振って自室に入ると一直線にベッドの上に横たわり、真っ白な鏡餅風の巨大す〇すく白〇モドキの『特大モチモチおはぎちゃん』を抱く。
「……ふー。」
次第に緊張が抜けていくと、着けていた『笑顔』が憂鬱の入った表情へと変わっていき、彼女は顔を特大モチモチおはぎちゃんのお腹に埋めたところで思わず思い出してしまう。
何時も通りの日々が終わる瞬間を。
何時も通りに学園から政庁へと帰るといつもは無いSPの交代が玄関でされ、嫌な予感に助けを求めに建物内を貼り巡る通気口を使ってようやく兄のクロヴィスの事務室に辿りついた時を。
『お兄様、助けて! 何か嫌な予感がするです!』
『
ズキッ!
「ふ……」
まるで奇怪な他人を見るような
気が付けば自分は政庁のヘリポートで待機していたヘリに連れ込まれ、男性たちをもう一度よく見ると全員が初老のクロヴィスの様な見た目をしていた。
ただし目と顔はクロヴィスと違い、まるで生きることを諦めた様な暗いものだったが。
そしてライラが困惑している間にどこからともなく空を飛ぶバイクが現れては中からフルフェイスマスクをした二人組がヘリに取り付いて中にいた者たちと交戦し、落ちていくヘリの横に空飛ぶバイクが来てはカウルらしきものの中から手を伸ばしたアンジュがいた。
ライラはほぼ本能的に手を取り、負傷しながらも落ちていくヘリから脱出したフルフェイスヘルメットの二人組の回収も手伝った。
負傷した二人組とはルルーシュそっくりのエルと、マーヤだったのは言うまでもないだろう。
「ふぐぇぇぇぇぇぇぇぇぇ……」
そしてここまで思い出してはようやくマヒしていたライラの胸に心の痛みが走り、彼女は悲しさと虚しさで涙を流し始めた。
スヴェンがライラから感じた視線には『値踏み』という奇妙なモノが含まれていた。
幼少から箱入りな環境で育った上に兄のおかげで隠匿された存在としても使用人などを通した皇族争いを生き抜くために『使えるものは何でも使う』ということを無意識に身につけていた。
その一つがクロヴィスに可愛がられて保護されてきた経歴もあってか自然と身についた『甘え上手』を使って他人を観察して気に入られることだった。
ライラは元々愛想がよい上に観察眼を磨いては『他人に取り入る』ことでその身を守ってきた。
つまるところ彼女は心を緩ませられる環境はごく僅かで、その数少ない場所は初めての学園と兄のクロヴィスの周りだけだった。
「うわぁぁぁぁぁぁ!」
物言わぬ特大モチモチおはぎちゃんに顔を埋めてもライラの泣き声は僅かに漏れていたことに気付かない彼女は人生で初めて心の赴くままに泣いた。
『うわぁぁぁぁぁぁ!』
「「……………………………………」」
ライラの部屋へと通じるドアの前に、手に差し入れらしき物を持ったアリスと松葉杖を使ってドアにノックしそうだったスヴェンたちは無言で固まっていた。
「ッ?!」
だがそれも数秒の間だけで、アリスは横から来る冷たい感覚にスヴェンの顔を見ては顔色を青くさせながらビクリと体を震わせた。
「………………………………………………」
スヴェンの表情はポーカーフェイスどころか、感情のない人形が浮かべるようなのっぺりとした顔だった。
鉄騎兵がランドスピナーを使って走り、跳び、機銃がうなっては咆哮を上げてミサイルが弾けていく。
戦場が彼を幾度となく無慈悲に呼び戻し、その都度に彼は奇声を上げた。
例外は悲しさや無力感、虚しさなどに流される他人の涙を自ら巻き上げる劫火で乾かす時のみ。
冷えた彼の怒りは、何に向けられる?
次回予告、『幽鬼、魔女たちと舞い降りる』。
余談:
現在作者は『年末の休暇もぎ取り作戦』を遂行中。