小心者、コードギアスの世界を生き残る。   作:haru970

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少々長めの次話です。


第262話 『薬の貯蔵は十分か?』

 エリア24の政庁では、正装姿のマリーベルとノネットが向かい合っていた。

 

「マリーベル皇女殿下、突然の謁見ですまないね。」

 

「構いませんわ、エニアグラム卿。」

 

 その場に居合わせてヒソヒソ話をする貴族たちを横目で見ながらノネットのかなりフランクな物言いに、マリーベルはいつもの穏やかな表情を浮かべながら答えていた。

 

「んじゃ、時間が惜しいから単刀直入に言うよ。 先日、シュナイゼル宰相閣下から呼び出しがあった。 “ラウンズはエリア11にて招集”、とね。」

 

 ノネットの言葉に貴族たちによるヒソヒソ話がピタリと止み、ざわつきへ変わる。

 

『もしやとは思っていたが……』

『やはり噂通り、黒の騎士団の狙いはエリア11か。』

『しかし東ユーラシアと名乗っていた輩共のおかげでユーロ・ブリタニアとブリタニアの軍が西から睨みを利かせている筈では?』

『エリア11の知人たちに連絡を送らねば。』

『投資もしばらくは……』

 

「その為グリンダ騎士団は私の指揮の元に再編して共にエリア11に向かい、黒の騎士団制圧の任に就く。」

 

 ガタッ。

 

 周りの貴族たちを無視したノネットの言葉に、思わず座っていた椅子から立ち上がるマリーベルの表情に不安が混じる。

 

「エニアグラム卿、この様な越権行為が認められるとでも────?」

「────マリーベル皇女殿下なら、黒の騎士団が次に動くのはエリア11だということを理解できるはずだと思ったんだけれどねぇ。」

「グリンダ騎士団が私の直属の騎士団と知ってのことですか?」

「さっきも言ったようにこれはシュナイゼル宰相閣下の指示でもある! 現在のブリタニア帝国の状況下で、この言葉の重みが分からないはずが無い!」

「クッ!」

 

『おお。』

『皇女殿下を前に、ああも堂々と。』

『さすがは名高きエニアグラム卿。』

『“閃光の再来”は伊達ではないということか。』

 

 何時もは相手がだれであろうと気丈かつ強気に振る舞うマリーベルが、ノネットに狼狽える姿は貴族たちにとっては爽快なものであった。

 

「さぁ、行くよお前たち! 出立の準備だよ!」

 

 ノネットの掛け声にソキア、レオンハルト、ティンク、そしてオルドリンが頷く。

 

『エニアグラム卿、やはりただの鎖では終わらなかったか。』

『マリーベル皇女殿下からグリンダ騎士団を外すとは大胆な。』

『こうもあっさりと実効戦力を薄弱化させるとは』

『武力の無い“英雄皇女”など……』

 

 椅子に座りなおし、謁見前の覇気が抜けてしょげかえるマリーベルの雰囲気に貴族たちは更に愉悦を感じた────

 

 

 

 

 

 

 

 

「(────なんーてね♪)」

 

 マリーベルは表面上こそ悔しそうな表情と空気を発していたが、内心では悪戯の成功した子供のような気持ちだった。

 

 実は今までの流れはアドリブ力の高い高度な柔軟性を持ったノネットと、東ユーラシアの所為でブリタニアによる強化された監視をどうにかしてかいくぐるか帝国が納得できる建前で、決戦場となると予想されているエリア11にグリンダ騎士団を送る案をマリーベルが考えた画策等が微妙にいい具合に重なった結果であると、ここで追記しよう。

 

 尚余談だがマリーベルの演技はミス・エックス(ユーリア)直伝である。

 

 決してオルフェウスを探しに来たミス・エックスから彼が行方不明プラス音信不通と聞き、エリア24から飛び出たオルドリンの後を追ったオイアグロに置いてけぼりを食らったことは関係ない。

 

「(まさかこうも上手く行くだなんて、ウフフ♪ オルドリンやオイアグロだけでなく、ユーリアにまで貸しが作れるなんてまさしく一石三鳥だわ♪)」

 

 恐らく。

 

「(姫様、耐えなされ! 身体が歓喜のあまりにプルプル震えていますぞ?!)」

 

 そんなマリーベルを見てシュバルツァー将軍は内心ハラハラドキドキしたストレスで痛む胃の為に胃薬の量をその日から二倍にしたそうな。

 

 

 

 

 

 更に余談だがこの日、ノネットから連絡を受けたロイドは歓喜のあまりに近くに居たセシルの手を取ってダンスをしだしたそうな。

 

「「ウフフフフ~☆ アハハハハハハハハハハ~♪」」

 

「ロイドさん、凄く興奮しているなぁ~。」

「セシルさんも満更でもないし。」

「……やっぱあの二人、絵になるよなぁ~。」

「元特派の奴らにとっては……」

 

「いやだぁぁぁぁぁぁぁ!」

「クルーミー副主任ンンンンンソンンン!」

「いいぞ、もっとだ。 もっとやれ。 もっとロイド主任に食テロをお見舞いしてくれセシルさん。」

 

 きゃめろっと は きょうもげんきです。

 

 ……

 …

 

 

「……ふわぁ。」

 

 夜が次第に朝日へと変わる早朝、リア・ファルにある一室の中で部屋の主────毒島がベッドの上で抱き枕代わりにしていたおはぎちゃんを手放し、身体を起こしながら欠伸交じりに腕を天井へと伸ばす。

 

 寝癖対策として束ねた、太ももまで伸ばしている長い髪を自らの手で踏まないように注意しながらベッドから出ると、背伸びをしてから朝練の準備を着々としていく。

 

 曲がりなりにも旧日本の重鎮である桐原の孫である彼女はご令嬢なのだが、『家族以外から世話をされる』ことを『甘やかされることを当たり前と取ってしまう』と言った、割と常識から外れた世界観を持っていたことから大体の事は一人で出来るようにしてきたので、これらは全て毒島にとっては日課であった。

 

「おっと、これもしなければな。」

 

 そんな毒島は顔を洗った際に、ヘアバンドで後ろへと流しても濡れた髪の毛をタオルで揉みながら乾かしていくと洗面台に置いてあった白いリボンを手に取り、今でこそ慣れた手つきで後ろ手に髪をまとめてポニーテールを作る。

 

「うむ。 いつ見ても実用的な髪型だな。」

 

 鏡を使い、顔を傾けながら髪のまとめ具合に満足した彼女は寝間着を脱いで、下着姿になってから部屋の中央に移動する。

 

 そのまま彼女はほぼ180度に足を開きながら座り、掛け声を付けた本格的なストレッチをし始めた。

 

「ふ……ぬ……ふ。」

 

 両手で足のつま先を掴み、足の(すね)に出来るだけ頬を近づかせることを右足と左足を交互に繰り返していくうちに、次第に足の(すね)に頬を付けられるようになっていくと、今度は上半身をほぐすストレッチをし始める。

 

 少々長くなってしまうので割愛するが彼女のストレッチは全身を意識したモノであり、終わった頃には毒島の額には汗が出ていた。

 

 汗をタオルでふき取ってから黒いハイネックインナーの上に道着と言った服装に着替えると、部屋の片隅に置いてある赤樫(あかがし)で出来た少々重めの木刀を手に取り、ブーツを着用してから部屋を出て通路を歩く。

 

 ストレッチやら何やらをしても早朝なことに変わりは無く、毒島は通りざまにすれ違う三人の乗組員たちに挨拶や言葉を交わし、ようやく陽光によって明るくなった開けた甲板へと出る。

『甲板』と呼ばれているが、人がそこで気晴らしやジョギングをすることを想定されているので手すりなどの安全装置は設置してあり、ちょっとした公衆エリアにはなっているのだが。

 

「「む。」」

 

 その広場に似た場所の先客であるオイアグロと目が合うと、二人の声が被ってしまう。

 

 どうやら彼は先に素振りをしていた様子で、何時もの胡散臭い仮面男ブリタニアの騎士風より体の動きを意識したラフな薄着の下からでも窺えられる、とても30歳を過ぎた身体とは思えないほどに鍛え抜かれて無駄が一切ない体が発した汗に、服装は所々じっとりと濡れていた。

 

「隣、良いだろうかオイアグロ殿?」

 

「ああ、構わないよ。」

 

 毒島の問いにオイアグロが返事を返すと彼女は隣に並んでは素振りをし始める。

 

「「……」」

 

 ただ宙を斬る音が辺りに響くこと数分、二人の間に続いた沈黙がオイアグロによって破られる。

 

「ここは、心地いいな。」

 

「だろう? 当初この艦が設計された時には無かったスペースなのだが、どうも潜水艦(ディーナ・シー)に続いて窮屈な場所はどうかと思い、ウィルバー博士に頼んだのだ────」

「────そうではない。」

 

「ん?」

 

「私はプルートーン団長、ジヴォン重工、ピースマークのウィザード、そしてジヴォン家の者として様々な組織や社会構造を見てきたが、アマルガムのような場所は稀……いや、ほとんどないと言える。」

 

 毒島は横目で素振りを止めてオイアグロを見ると、手拭いで額の汗を拭く彼の表情は穏やかなモノだった。

 

「確かにミス・エックス……ユーリア皇女殿下と共に“ウィザード”として世界を旅していた時に寄った辺境や、田舎の村などにも似た場所はあったが、アレ等は周りに他のコミュニティが無いからこそ生まれた民性だ。 規模もそうだが、メンバーたちの境遇と生い立ちがこうもバラバラな者たちが助け合いながら、お互いと協力しあう構図は見たことが無い。」

 

「何故、その話を私に?」

 

 毒島がそう不思議に思うのは無理もなかった。

 最近こそこの二人は通常、

 

「アマルガムが一つの組織として纏まっていることに、レイラ・マルカルと君が大きく献上しているのは明らかだ。」

 

「そこは私ではなく、経験が豊富なウィルバー・ミルビル────」

「────確かに彼が居るところも大きい。 だが、ミルビル博士たちは新技術の開発などでほとんど運営に関与していない。 それにこの組織はブラックリベリオン前から存在しているだろう?」

 

「……」

 

「謙遜することは無い。 “桐原泰三の孫”と言う肩書を余所にしても、君はかなり優秀だ。」

 

「……何故、それを今言うのですか?」

 

「昔に私の姉……二人のオズたちの母親であるオリヴィアがいつの日か、愚痴のように零した話を思い出してね。 君は今のブリタニア帝国が二代目だということを────?」

「────ああ。 “知っている”と言っても、歴史書などから得た情報だけだが。 それが何か?」

 

「かの英雄たちであるロレンツォ・イル・ソレイシィとアルト・ヴァインベルグを部下に、当時バラバラだった帝国を一つにまとめて強国へと蘇らせたクレア女帝の名言や成したことは多く語り継がれているが……姉のオリヴィア曰く、“今のブリタニア帝国を見たら悲壮に満ちた涙を流しているだろう”と酒の席で嘆いたことがあった。」

 

「“今の帝国を、クレア女帝が見たら泣く” ────?」

「────プルートーンは現代でこそ汚れ役を承っていた組織だが、昔は第一神聖ブリタニア帝国の生き残りである皇族たちを……クレア女帝と彼女の“思想”に協力する親しい者たちを影から守る騎士団だったそうだよ。 “誰もが居場所を得られる優しい国”、と言う思想をね。」

 

 ここで毒島の素振りがピタリと、オイアグロの言葉に固まった彼女と連動して止まる。

 だが止めた身体の動きとは裏腹に、激しく鼓動する彼女の心臓によって上半身は多少揺らいだ。

 

 何せ今オイアグロが口にしたことはブリタニア帝国が掲げている在り方────『法、税、力の支配による秩序』を根底から覆すようなことを“過去の皇帝が思想にしていた”など、彼女含めて誰も思いつけられる物ではない。

 

「クレア女帝の思想は、“ブリタニアを再び強国に戻すこと”では無かったのか? 少なくとも、彼女が帝位に就いた時の側近であったロレンツォ・ソレイシィはよくそれを口にしていたと受け継がれている。」

 

「さぁ? その時のオリヴィアは珍しく酒を飲んでいて、泥酔するほど酔っていたからな。 言葉の真偽はともかく、今のアマルガムを見てふと思い出しただけだ。 それに彼女はプルートーンの事も“人と言う鋳型に収められた超越者たちの居場所だ~”とも口にしていたし。」

 

「そうか。」

 

「しかし……もし本当にクレア女帝がそのような思想を持っていたのなら、アマルガムの在り方を肯定してくれるだろうな。 それに、不敬に当たるかもしれないが、“ユーフェミア皇女殿下もやはりクレア女帝の血筋を色濃く引き継いでいる”と考えてしまう。」

 

「……確かに。」

 

 

 偶然にもこの時、ユーフェミアがクシャミを出したせいで、近くに居たコーネリアはマントを脱いで彼女に無理やり羽織らせて、近くに居たアンナに風邪薬が置いてある場所に案内させたそうな。

 

 

「さて、私は先に行くよ。 オルドリンに、オルフェウスたちの事を伝えないといけないしね。」

 

 そう言って艦内へと戻っていくオイアグロを、毒島は見送ってから空を見上げる。

 

「(“人と言う鋳型に収められた超越者たち”、か。 まるで神楽耶様の家にある言い伝えに出てくる、『伴天連(バテレン)の妖術師たち』だな……現在だと、アリスたちのようなギアスユーザーたちがそれに当てはまるのだろうか? 彼女たちが……いや。 彼女達含めてアマルガムの皆は友好的だが、オイアグロの言ったように、これからも皆が必ずしもそうだとは限らない。)」

 

 想いに耽っていた彼女は肌寒い風によって思考が現状へと戻り、素振りによって火照った体が冷える前に艦内へと戻っていく。

 

「(さて、今日()スバルは来なかったか。 となると彼は恐らく────)」

 

 

 

 

「────アレ? 毒島先輩どうしたです~?」

 

「・ ・ ・」

 

 シャワーを浴びて朝の汗を流してから食堂に来た毒島は、ライラ(プラス孤児たち)がキョトンとする姿しかないことに内心項垂れた。

 

「お、遅くなっちゃってごめんなさい! ネリスさんが中々────ってあら? サエコさんどうかしましたか?」

 

「あ、ああ。 いや何、少し体を動かしたので何か食べるものが無いか見に来ただけだ。」

 

 茶髪に変装中のユーフェミアは毒島をジッと見てはポンと手を叩く。

 

「……ああ! スバルさんなら格納庫に居ると思いますよ?」

 

「んな?!」

 

「ほぇ~……なんで分かるです?」

 

「んふふ~、どうしてでしょう~?♪」

 

 何故かニコニコしながら答えるユーフェミアを見て、毒島はじっとりと再び汗がにじみ出た。

 

「ささ、皆さんが起きる前に朝食を作りましょうライラ♪」

 

「え? もうほとんど終わらしているです。」

 

「え。」

 

 ユーフェミアはライラの言ったようにほぼ出来上がっている数々の食事を見ては目を点にさせる。

 

「ら、ライラって割と手際が良いのね?」

 

「先輩に鍛えられたのは伊達ではないです! エッヘン!」

 

「う゛。」

 

 今度は胸を張るライラに項垂れるユーフェミアであった。

 

 

 ……

 …

 

 

「────どうだ、出来そうか?」

 

 リア・ファルの格納庫内のとある休憩室では作業服姿のウィルバーとサリア(ミルビル夫婦)マリエルとレナルド(ラビエ親子)、それと上着を腰に巻いたクロエと上着をはだけさせたヒルダたちと、テーブルをはさんで向かい側に座っていたスバルが上記の質問を放っていた。

 

「出来そうかそうでないかで言えば、前者ではあるが……」

「でも大丈夫かしら? ねぇ、クロエちゃんとヒルダちゃんはどう思う?」

 

「う~ん……シュバールさんだからねぇ~。」

「そうですよねぇ、ヒルダ軍曹~。」

 

「(全然説明になっていないが、ほのぼのとしているから良しとしよう────)」

 「────にひひ────」

「(────そして随分とご機嫌そうですな、カレンさんや。)」

 

 休憩室の中にあるオーブン近くで立っていたカレンはクロエとヒルダのやり取りにくぐもった奇声を出し、そんな彼女にスバルはポーカーフェイスを維持したまま内心でツッコみを入れた。

 

「(いくら俺をダシにして毒島との朝練をサボれたとしても、変な意味不明の声を出すのはどうかと思うぞ────?)」

 

 ガチャ。

 

「────遅くなってごめんなさい! ネリスさんが風邪薬を探していて────」

「「────あ。 ボス、おはようございます。」」

 

 チーン♪

 

「スバル~、出来たよ~。」

 

「よし。 アンナ、今あそこのオーブンに出来立てのフレンチトーストがある。 それとハーブティーのポットも既に温めてあるからお湯を注げばいいだけだ。」

 

「え、本当?! シュバールさんの手料理って久しぶりね!」

 

「「ジー────」」

「────ああ、もちろんヒルダたちの分もあるぞ。 ちなみにイチゴジャムと蜂蜜は冷蔵庫の中にある────」

「「────やった!」」

 

 少し焦った様子であるアンナは走ってきたことと作業服をフル着用していたこともあり汗を少々掻いていたが淡々とスバルの言葉にヒルダたち同様に表情に元気が出る。

 

「いや、ちょっと待ってくれたまえ。 アレ等は君の朝食ではないのか?」

 

「??? 俺はもう食ってきたぞ?」

 

「……君は朝が早いと聞いていたが、随分と予想以上だね?」

 

「「「スバルだからね!/シュバールさんだから。」」」

「昨夜は泥のように(ちゃんと8時間)寝たからな。」

 

 ほぼ同時にアンナやカレン達の言葉がスバルとかぶり、彼は咳払いをしてから話を続けた。

 

「さて────」

 「────ウィルバーの質問も御尤もだけれど誰も彼がアンナたちのスケジュールを熟知していることを気にしていないのかしら?」

 「あの子たち、前に何カ月間かスバルと同じ所に住んだみたいだよ?」

 「まさか、同衾?!」

 「じゃなくて雇われの傭兵として。」

 「……“傭兵”???」

 「謎だよね~。」

 

 困惑するウィルバーの質問に、あたかも当然のようにスバルは話を進めた姿を見たサリアの疑問にマリエルが答えるが、二人にとっては謎が深むだけであった。

 

「しかし……君も()()に辿り着くとはな。」

 

「うん?」

 

 ウィルバーがチラッと見たのはテーブルの上に置いてある案や設計図が書かれた用紙だった。

 

「サクラダイトによるエネルギーの地場を発生させたシールドを、膜のように展開させる発想を聞くのは()()()だ。」

 

「……そうか。」

 

「アンナたちから聞いているよ? 君は彼女たちの開発したKMFであるアレクサンダをベースに、ほぼオリジナルのKMFのデザインをいくつか編み出しているじゃないか。」

 

「あの時は(孤立していたから)出来ることをやっただけだ。 それに俺一人で全てやったわけではない。」

 

「それだけじゃないぞ? 『火薬』などのような、数世紀前に廃れた技術等を見事なバランスと工夫で安定した瞬発力の高い機動や火力を生み出すことにも成功している。 それにアキト君たちから聞いたが、君は生身でKMFを撃破したそうだね?」

 

「あの時は(文字通りに)必死だった。」

 

「それに整備も出来るとなると、君はパイロットなどの職より技術者が向いていると思えるのだが?」

 

「………………()()だ。」

 

「ん?」

 

()()()()()()()()()()()。」

 

 スバルのこの一言に、その場は静まり返った。

 

 アンナたちはせっせと自分の状態に関係なく、自ら無理な範囲ギリギリや死地へと赴くスロニムやヴァイスボルフ城の防衛線などを思い浮かべ、ウィルバーたちはエデンバイタル教団やセントラルハレースタジアムの潜入などを思い返していた。

 

「(スバル……)」

 

 カレンは背を向けた状態のまま胸の前に上げた拳をギュッと更に力を入れて握りしめた。

 

「(さてと、エナジーウィングへの対策はウィルバーたちに任せて今度は()のところに行ってみるか。 ああ、その前にデータを閲覧していこう。 それと黒いランスロットの事もあるし……あとは『ヴィル〇ス』モドキのビルキースも準備させておくか。)」

 

 尚現在のお通夜状態の当事者であるスバルは、気付いていないどころか既に考えを次の段階に進めていた。

 

 

 ……

 …

 

 

 ゴォォォォ!

 

 エリア11のカナザワブロックにあるコマツエアポート(空港)の到着手続きターミナル内では、壁越しに噴流エンジンとかなり似た轟音を出す民間用の電力駆動プラズマ推力モーター音が鳴り響く。

 

 

「はい、次の方。」

 

 入国審査のスタッフが手を振りながら声を出すと、列に並んでいた20代半ばのブリタニア人が若い女性を連れながらパスポートを係員に渡す。

 

「えーと……『ガレス・ベクトル』さんと『ミーニャ・ベクトル』ですね。 親子で観光にでも?」

 

「ううん、デート♡────へぶぅ。」

「視察でした。 それとこの子は養子です。」

 

 若い女性────ミーニャが上記を言いながら男性の腕に(すが)ると、男性────ガレスが彼女の顔を押し返しながら淡々とした様子のまま質問に答える。

 

「は、はぁ……よく中華連邦から出られましたね?」

 

「“間一髪”、と言ったところですがね。」

「ねー!♡」

 

 係員がキャピキャピするミーニャと、そんな彼女から目をそらすガレスのパスポートを機械に入れてスキャンする。

 

「はい、結構です。」

 

 パスポートが返されるとガレスたちは手荷物を受け取り移動すると今度は税関検査の者に止められる。

 

「ではスーツケースを開けてもらえますか?」

 

「今回はチェックが多いですね?」

 

「中華連邦と、ゴトウ租界の事もあったからね────ッ?!」

 

 ガレスが出してきた、機密情報局のIDにスタッフはギョッと目を剥いた。

 

「こ、これは────?!」

「────あまりやりたくは無かったが、時間が惜しいのでね────」

「────こ、皇帝陛下直属機関の方でしたか────?!」

「────そうだよオ・ジ・サ・ン?♪」

 

「た、大変失礼いたしました! ど、どうぞ!」

 

 ガレスたちは畏まるスタッフの横を通り、人でごった返しになっている空港周辺に出るとガレスとミーニャは近くの裏路地に入る。

 

「……潜入成功だな。」

 

「だね、お兄ちゃん♡」

 

 ガレスの容姿が消えるとマトリョーシカ人形のようにオルフェウスが現れ、『ミーニャ』を演じていたクララはウィッグを脱いではすぐにいつもの茶色のキャスケット帽をかぶる。

 

「それと何が“デート”だ。 変な誤解を与えて失敗したらどうするつもりだった?」

 

「う~ん……皆殺し?」

 

 「頼むからやめてくれ。」

 

「ほ~い☆」

 

「じゃあ、行くぞクララ。」

 

「トウキョウ租界だね♪ じゃあ、はい!」

 

 クララは着ていたワイシャツをはだけさせてやや小ぶりな胸を覆うブラジャーの下から出したメモ用紙を開いてからオルフェウスに手渡す。

 

「……なんだこれは?」

 

「リクエストされたお土産リストだよ♪」

 

「……なるほど、道具を売っている闇市のディーラーリストか。 流石だな。」

 

「あ♡ クララ、休憩したくなっちゃったなぁ~?♡」

 

「トウキョウ租界に着いてからな。」

 

「わ! お兄ちゃんってば大胆~! 0.01じゃなくて0.001も使っちゃう────?」

 「────ちょっと待て、お前は何を言っているんだ?」

 

「ナニだよ?」

 

「・ ・ ・」

 

 唇に指を付けながらキョトンとハテナマークを浮かばせて頭を傾げるクララの、あたかも当然のような回答にオルフェウスは気が遠くなりそうだった。

 

 余談だがこの後にエリア24から急いできたミス・エックスが合流したことで、ホテルルームを男女に分ける口実がオルフェウスに出来てしまったことに揉め出したミス・エックスとクララの二人に、オルフェウスは頭痛薬を服用したと、ここで追記する。




SENTRYとMANOR LORDS、面白過ぎ。
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