小心者、コードギアスの世界を生き残る。   作:haru970

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第269話 分岐点

 「スバル?」

 

 静まり返った俺にカレンが声をかけたことで、さっきまで意識が吹っ飛んで思考停止中にボーっと特に何も意識していない、現実逃避からハッと意識を現在へと戻す。

 

 何だかゴイスーな心象風景を見たような気がするが……思い出そうとすると、頭にズキッとした頭痛が走るので、止めることにした。

 

 流石に10年以上も前になるからうろ覚えだけれど、『皇家とブリタニア皇族の血筋』って、まんま『ロスカラ』のライだったような気がする。

 

 ……………………………………つまり俺がライでした?

 

 でも『ライ』はギアス嚮団の手先で、黒いランスロットに乗っていて、ギアス嚮団を襲った今ではイカルガに……

 

 んー……頭がこんがらってきたぞ?

 

 というかハンセン家、そこまでの貴族だったのか?

 そんなはずは……はて? な~んか既視感というか、デジャヴ感が────?

 

 「────ああ、だから私も急遽呼び出されたのか。」

 

 アンジュの小声がギリギリ俺の耳に届いては既視感が明確なものへと変わる。

 

 思い浮かべたのはいつかのパーティで彼女と初めて会った時の自己紹介曰く『()()()()()』であったことと、アッシュフォード学園に留学生としてくるきっかけとなった『日本人の血が流れている』ことを。

 

「そうだ。 それにスバル、君は黒の騎士団の整備士として籍を置きつつも個人的に桐原殿の孫である毒島冴子を含めた多数の者たちで組織を設立し、黒の騎士団を支えてきた。 その上、サクラダイトに頼る技術が追及されている現在で廃れた火薬を使った兵器に、ブラックリベリオン以前より新たな系統のKMFの独自開発など、『支援組織』の行動範囲から大きくかけ離れた────」

 

 次々と俺がしたことをリストアップするゼロの言葉に、まるで自分たちが褒められているかのように桐原の爺さんと毒島とレイラとマーヤたちは感賞深い笑みを浮かべる。

 

「────ユーロ・ブリタニアの聖ミカエル騎士団のシン・ヒュウガ・シャイングと副官のジャン・ロウにアシュレイ・アシュラ率いるアシュラ隊。 EUのレイラ・マルカルに日向アキトなど特殊部隊『wZERO』の吸収にEUで迫害を受けていた日系人たちをこの島に前もって移住させた────」

 

 ヴァイスボルフ城が懐かしいなぁ~。

 

『亡国のアキト』はコードギアスの世界という点でこそ共通していたけれど、本編とはほぼ関係のなかったサイドストーリーだったから、結構気楽だったし、何よりのほほんとした日々をレイラ含めた美少女たちと送れた。

 

 それにリョウやアシュレイたちも想像通りの人物像だったし。

 

 ワルシャワのオバタリアンズもまぁ……知らない人に対してひねくれていただけで、人が良かったし。

 

 過激なボディタッチのセクハラ以外。

 

 何より『亡国のアキト』の皆は『はみ出し者』のレッテルを貼られた人たちだけれど、それを強い心で乗り越えようとしたそれは当初、何もなかった蓬莱島に来た人たちも同じなはずで、考えるだけで尊くて眩しくて────

 

「────シュタイナー・コンツェルンのウィルバー・ミルビルとサリア・ミルビル、マリエル・ラビエと元特派のレナード・ラビエ────」

 

 ────あ。

 そう言えばウィルバーの件でどっぷりと『オズ』に介入する気満々だったのにいつの間にか『反攻のスザク』にまで手を出しちゃっていたと知ったときは気絶しそうだったのを、無理やり可変型KMFと強化スーツの開発に発想転換してやり過ごしたっけ。

 

 その所為で戦〇機モドキとか、パ〇メイルモドキとか、衛〇強化装備が出来ちゃったけれど。

 

 ……あと光学迷彩とかビーム的な剣とか。

 

「────と、数々の所業に有能な人材を部下として率いている君に今一度問いたい。 君はこれらを持って、何を目指しているのだ?」

 

 キリキリキリキリキリキリキリキリッ。

 

 おぅふ。

 

 威圧100%の籠った声のゼロとボディランゲージ、周りからの視線が拙者の体を射抜きつつ胃を荒げる。

 

 く、苦しいでござる。

 

 でも“何をゴールに?”と問われても困る。

 

 そもそも俺の方針はこうだった:

 1、 “どうせカレンと行動するのなら彼女とルルーシュの手伝いを横からしよう”

 2、 遠くから静観

 3、 ギリギリまで悩んでタイミングを見計らって、ここぞというところでルルーシュに俺の知っている全部を明かしてあとは任せる

 

 だがクソショタジジイの横やりとかの所為で予定が全部吹っ飛んでブラックリベリオンが原作通りに起きてしまって『あ、これ俺一人だけだとカバーしきれないわヤベェ』と気が付いたころには全部手遅れで、俺に出来ることと言えば被害を抑える手を後手に打つことでいっぱいで終わった。

 

 そこからはこんな感じに、方針は変わった:

 1、俺一人じゃやれることに限界があると痛感して反省しながらこれからの事を悶々と考える

 2、『せや、優秀な人材をピックアップしよう』という考えに至って時期的に今からでも接触できる人物たちを思い浮かべる

 3、『亡国のアキト』と『オズ』をすぐに思い浮かべてワンダフルな優秀な人材たちのオンパレードがいるwZERO部隊、グリンダ騎士団、ピースマークにさっそくどうやって不自然なく溶け込みかつそれらの作内で起きた悲劇を回避する(または悲劇のフラグが発生する前に元凶をぶち壊す)

 4、アマルガムの地盤が組織として機能し、活動が軌道に乗ったら今度こそ身を引いて遠くからR2のフレイヤなどを変えた影響の調整をする

 5、ゼロレクイエムを待たず、出来ればトウキョウ決戦でエリア11をナナリーごとブリタニアから奪還して『日本』を復興させる

 6、超合集国とブリタニア帝国が和平協定かにらみ合い、あるいは戦争の手助けをする

 

 6番は完全にルルーシュの意向によるものが大きいが要するにトウキョウ決戦とナナリーの確保がメインイベントで、それが終わったら隠居するつもりなのだが……

 

 でも確かにゼロ────引いては黒の騎士団側からすれば恐ろしいだろうな。

 

 アマルガムは数こそ正規軍や黒の騎士団に劣るが、結成員の一人一人が一騎当千並みの戦力や実力を持ち合わせている。

 

 KMF────ビルキースや陽炎や武蔵タイプなど明らかに該当しない機体があるがとりあえず『メカ=KMF』で括ろう────もかなり独自なものを保有している。

 

 しかもリア・ファルとその主砲はある意味フレイヤより使い勝手のいい対軍兵器。

 

 うん。

 

 頭が痛くなる案件がいっぱいだネ。

 

「「「「「…………」」」」」

 

 キリキリキリキリキリキリキリ。

 

 ああ、周りからの視線に胃痛も増してきた。

 

『何が目的』か。

 

 周りには毒島たちやディートハルトたちがいる。

 

 それに藤堂さんや桐原のじいさんにカレンも居るから、適当な事やはぐらかす事もできない。

 

 どないしよ?

 

 

 


 

 

「……」

 

「(やはり、()()には流石の君も堪えるか。)」

 

 ルルーシュは仮面の下から自分の言った言葉に、僅かにだけ目を見開かせて固まっていたスバルを見ながらそう思った。

 

 彼はこのようなことはしたくなかった。

 だが超合集国の宣言とブリタニアとの決戦間近に、出来るだけの不安要素を取り除くために今この場でスバルの本意を問いただしつつも、それを他の重鎮に聞かせて一気に決着をつけたかった。

 

 というのも『ルルーシュ』は『友人のスヴェンを信じたい』。

 だが『ゼロ』としては『アマルガムの頭領(スバル)の本心を自分と他の者に聞かせたい』。

 

 ルルーシュは今まで何度もスバルと接して彼の事を分かっているつもりだったが、()()は出来るが()()()()()()()()()

 

 故に今回の会議はアマルガムの者たちや藤堂に桐原を同じテーブルに座らせて圧力をかけ、スバルの本心で『理解が出来ない自分』を半ば説得させると同時に未だ彼を危惧するディートハルトへの牽制の意味も含まれていた。

 

「(まぁ、ディートハルトの気持ちは解からないでもないが。 未だに俺自身、スヴェンの行動原理に半信半疑だしな……彼自身は誰にも頼ろうとしないくせに助けを求めている者には『偶然』を装って躊躇なく助け続けてきた。 それが例え、『罠』や『他人の思惑』や『自己へ利に繋がらない出来事』の類だったとしても。 ここにきて血筋を突き立てればリアクションがあるはず……さぁ、君はどう周りの者たちに答える?)」

 

「(……よし。 どうせ考えても無駄なのだ! こうなればできることは一つ、()()()()()()()()!) 俺が成したいことは……」

 

 数秒間だけの沈黙を、ようやく破ったスバルの言葉に室内の誰もが硬唾を飲み込んだ。

 

「……()()()()()()()()()()()()。」

 

「「「「ッ。」」」」

 

 スバルの言葉に、部屋の中にいた約半数の者たちはまるで狐につままれたような顔をする。

 

「「「……」」」

「「「フッ。」」」

 

 そして四分の一ほどは少しバツが悪そうな顔を浮かべ、残りは皆、意味深な笑みをする。

 

「(……………………あれ? 何このリアクション? ちょっと予想外なのだが?)」

 

 スバルはポーカーフェイスを維持しつつ、内心では無数のハテナマークを浮かばせていた。

 

「「「「「「「「「……」」」」」」」」」」

 

「(まるで話の続きを待っているように、誰もが息をひそめて俺を見ているゾ? いや、期待をされても俺は思ったことをそのまま口にしただけ────あ、そうか! ()()()()()だった!) ……そうだな……田舎がよさそうだ────」

 

 “余生を過ごす”という言葉が漠然し過ぎたと思ったスバルはそのままスラスラと、R2やクロスアンジュのエンディングを思い浮かべながら言を並べていった。

 

「────都会から少し離れた家での農園で、周りに()()()()()()と一緒にひっそりと過ごせれば尚更いい。」

 

 ガタッ!

 

 ディートハルトが何か信じられないものを見ているかのような目をしては思わず立ち上がって口を開く。

 

「つ、つまり君は……富や名声……()()など要らないと?」

 

()()()()()()()()()()()。 (これ以上有名になったら、スローライフを送るどころか注目を浴びすぎてしつこく付きまとうパパラッチみたいなのが出来ちゃうよ!)」

 

「…… (そんなバカな。 そんな……そんなことがあり得るのか???)」

 

 ディートハルトはどっと疲れた様子のまま口を閉ざすとそのまま椅子に座るとまるで順番を待っていたかのように桐原が上記をスバルに問いかける。

 

「では国や領土などはどうかね?」

 

「必要とあらば、しっかりとした地盤が出来る()()()はしたいと思っている。 (ああ~なるほど~。 この時のために、桐原のじいさんは俺に蓬莱島の政策などを俺に手伝わせていたのか。 なるほどなぁ~。)」

 

 スバルは感心しつつも、どっと襲ってくる疲れに抗いながらポーカーフェイスを維持した。

 

「フム。 謙虚……いや、お主は()()よの?」

 

「そんなことはない。 俺にだってやりたいこと……()ぐらいはある。 (本編のドタバタから遠く離れたスローライフというやつがな!)」

 

「それが先ほどの、“穏やかな余生” とやらか?」

 

「そうだが?」

 

「(つまりは“平時になるまで協力は惜しまない”と言ったところか? ……確かに今の段階で血筋を公言するのは悪手、むしろブリタニアとの戦に区切りがつくところまではゼロの補佐に回っていた方が得策かつ結束力を維持したまま行動が出来る……やはり末恐ろしいが、()()がないことがちと問題だな。) では()()ブリタニアの在り方に関してはどう思う?」

 

「(もしや主君体制のことか? ……原作ルルーシュの言葉を借りて、アレンジをつけるか!) どう思うも何も……政府体制のシステムの一種だけに、理に適っているとは思う。 頂点に一人だけいることで、改革的な変化や即決を行動に移せることが出来る。 だが不動なものはない。 長期的な視点からすれば、前君主が無能であったり悪逆非道な行いをしていれば、次世代の為政者が優秀で温和な者でも、先代の悪政などの所為で、自国への先入観や他国から反感を買い続けたツケが回ってきてしまう場合もある。 要するに政治体制も道具のようでそれ自体に善悪はなく、使い手次第だと思っている。」

 

「…… (なるほどのぉ……)」

 

 黙り込んで枢木政権時を思い浮かべる桐原の代わりに今度は藤堂が少々気まずそうな顔をしつつ歯切れの悪そうな、()()()ような表情をしながら声をかけた。

 

「……君は……君は、ブリタニア人や日本人に対して……()()()()()()()のだ? (スバル君が()()だと思いたくはないが……もし、君の偽名の使い分けが『相手の格差』や『差別』から由来しているものならば────)」

「────()()()()()()()()()が?」

 

「ッ?!」

「(やっぱりアンタはそんなことを気にしないのね……昔の自分を殴りたくなるわ。)」

「ほっほ! (やはり『偏見』など眼中になかったか! なんと器の大きい男よ!)」

「……フッ(杞憂であったか。)」

「……(『人はどこの生まれでも人』、と言いたいのですねシュバールさん?)」

「(さすがです神様! 『人は平等ではない』という、現ブリタニアが掲げている思想をこうもあっさりと真っ向から否定なさるとは!)」

 

 ディートハルトは無言で先ほどから落ち着こうとしていた顔が一瞬だけ驚きに変わり、アンジュは昔の高飛車でブリタニア貴族の思想に染められていた自分の事を思い出し、桐原と藤堂にレイラは満足したかのような表情を浮かべ、マーヤは(雰囲気だけ)キラキラし出した。

 

「……」

 

 そして顔を変えずに神楽耶は黙ったまま、おとなしく座っていた。

 

「(ありゃ? なんだかちょっと面白くなってきたぞ、この拷問みたいなミーティング。 別にレイラたちの微笑にドキドキしたワケじゃないぞ? ……本当だからな?)」

 

 スバルは周りの者たちの反応に注目を向けて無理やり胃が痛くなる案件から意識を背けつつ、特に誰かに向けたわけでもない言い訳を並べていきながら静まり返る室内に焦りだす。

 

「(あ! もしかしてさっきの問いは解釈違い?! 言葉が足りなかった?! やべ────!)────俺は別に人種や故郷の国などで『個人』を判断するつもりはない。 そもそも『人種へのイメージ』なぞ、それぞれの国がやっていることなどから、勝手に他人が貼るレッテルだからな、個人レベルにまでそれを引きずるのは愚かな先入観だ。」

 

「(スヴェン、お前は……君はやはり……。)」

 

 彼の言葉にルルーシュはゼロの仮面の下で思い浮かべていた。

 スヴェンが『病弱』なカレンの代わりに学園に通っていたこと。

 アッシュフォード学園で自分やナナリー、ニーナや留学生のアンジュにライラたちなどをできるだけ目立つことなく支えてきたこと。

 タイムカプセルを埋めた時、口にした言葉。

 ナナリーが総督になって自暴自棄になりそうな時などの記憶や、本人と人伝に聞いた数々の所業。

 ギアス嚮団の最奥で見た、第二ブリタニア帝国の初代女帝クレアの伴侶と思われる『蓮夜』の記憶らしき映像。

 などなど。

 

「(『優しさ』を持てば持つ者ほどに対してこの世界は非情だ……薄々感じていたが君はそこまで精神的に疲弊し、既に『隠居』を考えていたとは……) そうか。 しかし、部下たちのアマルガムはどうする?」

 

「(あー、確かに……あ、そうだ! 『オズO2』の()()があった!) ()()()()()()()()の、武装勢力の鎮圧のために存続させたい。 それと、迷惑でなければ自己監視用と思っていたが……」

 

「(“全てが終わった時”と“自己監視用”、か。 確かにどのシステムにも寿命はあり、黒の騎士団も例外ではない。 俺がいることで多少は長引くだろうが、いつか綻びは必ず出る。 それにこれからの超合集国の事を考えれば……やはりグリンダ騎士団だけでは少々心許ないところを見抜いていたか。) そうか。 では()()()()()よろしく頼みたい。」

 

「そうか。 ()()()()()()()? (うおおおおおお! もうこれで終わりにしてくれいぃぃぃぃぃ!)」

 

「ああ。 急に呼び立ててすまないな。」

 

「そう────ウッ。」

 

 スバルはそのまま立ち上がろうとしてフラつくと、カレンと毒島が横から支える。

 

「ちょっと休んだら?」

「カレンの言う通りに休め。」

 

「……そうだな。」

 

「カレン、彼を頼めるか?」

「毒島は?」

「もう少し残るつもりだ。」

「……そっか。」

 

「ゼロ、一つだけ訂正してもいいか?」

 

 部屋から出ていく直前、スバルは足を止めてゼロたちへと振り向く。

 

「なんだね?」

 

「俺はアマルガムの皆を『部下』と思ったことは一度もない。 (と言うかおっかなくて『部下』なんて思えねぇよ!)」

 

 それだけを言うと、スバルは今度こそカレンと共に部屋を出ていく。

 

「「「「「………………」」」」」

 

 静かになった部屋には、少々気まずい雰囲気が出来上がっていた。

 

「どうだ、ディートハルト?」

 

 そんな沈黙をゼロが言葉で引き裂いた。

 

「ッ……そう、ですね。 桐原殿たちから見た彼は────?」

「────昔から変わっていない。」

 

「「「「え?」」」」

 

 ディートハルト含めて室内の何人かが、スバルと昔会ったことを口にした藤堂を見る。

 

「幼少期の彼を道場で見たことがあるが、あの頃から彼の志は変わっていないように思える。」

 

「ああ、あの時冴子が初めて負けたことを悔しがっていたの。」

 

 「おじい様?」

 

 懐かしむ藤堂と桐原、そしてホッコリする桐原に無言の圧力をかける毒島を無視してディートハルトは異様なほどに静かだった神楽耶に話題を振る。

 

「……神楽耶様は、どうお考えに?」

 

「う~ん……彼を見ていると、()()もどかしさを感じますね。」

 

「“もどかしさ”? それは、何らかの理由に基づいたものですか?」

 

「いえ、その……なんと言うべきなのでしょう? 一言で済ますのならば苛立ちと呼ぶべきなのでしょうが、その原因に皆目見当がつかないのです。」

 

「そ、そうですか。 (スヴェンと神楽耶の先祖は犬猿の仲だったのか? まるで母さん(マリアンヌ)ガブリエッラ(クロヴィスママ)だな……)」

 

 神楽耶の意外な言葉に、ゼロが小声でさらに詳しいことを聞こうとしたが、意外な返しに彼は何かと自分に突っかかってきていたクロヴィスを思い浮かべた。

 

「……」

 

 そんな中で、ディートハルトは腕を組みなおし、スンとした表情のまま黙っていた。

 

「……ゼロ、一つ私から聞いていいだろうか?」

 

「なんだね、毒島?」

 

「ゼロはクレア女帝の、『真の思想』についてどう思う?」

 

 毒島はスバルの血筋にショックを受けていたが、それをとある点と繋げた仮設によって冷静を装いつつ、仮説を試すためにゼロに問いかけるように話題を振るった。

 

「“クレア女帝の真の思想”? はて、どうだろうな。」

 

「(なぜサエコはこのような質問を? 珍しい人物と話題……まさか、シュバールさんと繋がりが?!)」

 

「(ルルーシュがとぼけるということは、心当たりはあるようだな。 幾度となく、シャーリー相手に見せた癖だ。 ということはやはり、オイアグロの話は本当だったか。 ならばスバルはやはり、クレア女帝の遺志を引き継いだとみて良いのだろうか? ……これはレイラたちと相談する必要があるな。)」

 

「私が言うまでもないが、彼の血筋に関しては他言無用だ。 良いな?」

 

 ゼロの言葉は誰に向けたわけでもないので、誰もが彼の言葉に同意し頷く。

 

「……」

 

 釘を刺されたと感じたディートハルトだけは別だったが。

 

 彼は一人悶々と考え事をしていた。

 

 思い浮かべていたのはもちろん、まるで『意味不明』が服を着て歩いているスバルという青年の事だった。

 

 普通、生物は同種とは違う突出した力を手に入れればそれを悪用したり、調子に乗るのが常。

 特に『欲』と言った、終わりを知らない気持ちを抱えた人間ならば尚更である。

 

 そして現在の世界では、ブリタニア帝国の影響で社会は『血筋』や『成した所業』を土俵に格差や階級────『ヒエラルキー』が構築されるようになっている。

 

 シン・ヒュウガ・シャイングやレイラ・マルカル、ウィルバー・ミルビルにレナルド・ラビエなどと言った、出自がバラバラどころか出身国もバラバラかつ有能な人材が一つのグループとして活動し、一個人が持つには過激な戦力と技術力に影響力を持った『アマルガム』。

 

 しかしそれらを彼は『部下ではない』と断言し、あまつさえには対テロ組織から始まったグリンダ騎士団との繋がりも調査で見受けられていた。

 

 ブリタニア人ならば、自分が高貴な血筋だと分かれば大抵の者は喜びや驚愕するだろう。

 特に『ブリタニアの皇族』とくれば尚更のはず。

 

 しかしスバルは自身の血筋を知って浮足立つどころか、()()とそれを受け入れていた。

 

 それだけでなく、今までプロデューサーとして様々な『人』を見てきた彼にとって、スバルは情報を得れば得るほどに『矛盾』は増していくばかりで、現状では『理解不能』の域を超え、理不尽なほどに『意味不明』のレベルにまで評価が達していた。

 

「(これを解からないはずがないというのに、ゼロまでもが彼の肩を持つようになった……彼はやはり、()()()()()。)」

 

 そう思いながら、ディートハルトはこう決意したそうな。

 

『スバルに関する全てには()()()()()()()()()()()()』、と。

 

「(本気で言っていたのなら、アレは余程の愚鈍かあるいはお人好しだ。 自己犠牲など綺麗ごと……どちらにせよ、『良識ある者は長生きできない』。)」

 

 ディートハルトはメディアの職に就きたての自分と、初めて辺境の地にジャーナリストとして赴いた時を思い浮かべた。

 

 これから見ぬ世界に広められる見解に心が躍る若き頃の、まだ夢と希望に満ちた────

 

「────フ。」

 

 ディートハルトは考え事を鼻で笑うかのように息を吐きだし、記憶に浸ることに蓋をした。

 

「(『ひと思いで周囲への配慮もできて優しさを持つ人』だと? 笑わせてくれる。 『聖人君子』など物語(ストーリー)の中でしか存在しない、架空の綺麗ごと。 この世は所詮利用され、利用しあうことが『人間(カオス)』なのだ。 今更、『人情』や『ロマンチズム』など情報操作で何とでもなる時代だというのに……)」

 

 ……

 …

 

 カタン。

 

 同時刻、とある移民たちはそれぞれ別々の場所や時間差で、ホクホク顔のまま蓬莱島中に設置してある丸型郵便ポストに郵便を入れていた。

 

 というのも、彼ら彼女らは新大陸やブリタニアの植民地から移住する際に許可を得る代わりにそれぞれ条件をブリタニアの役人たちから付けられていた。

 

 普通なら身構えるところなのだがその『条件』とやらがまるで条件にもなっていないような物ばかりで、日々の経験したことや聞いた噂話などといった他愛のないものばかりを手紙に書いて送り返すことだった。

 

 しかも見返りとして手紙を送る代わりに現金などの褒美が送り返されるのだから誰もが喜んでこの条件を飲み、今日も今日とて手紙を送っていた。

 

 蓬莱島ではもちろん、人々のメールだけでなく手紙のやり取りもチェックされているのだが、これらは何も不備がないどころか逆にプロパガンダや経済の潤いに還元するもの等が勝手に入ってくるので、そのまま手紙の内容のチェックをしつつも、ほぼ素通りさせていた。

 

 後にディートハルトの静観スタンスとこの手紙のやり取りが大惨事に繋がり、気付いた頃には『時すでに遅し』と彼が知ることはもう少し先の話である。




ディートハルトの過去に関しては独自解釈が入っています。 (今更
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